七罪友人帳   作:サイエンティスト

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 一日目、記念すべき一人目は某漫画家さん。果たして七罪は無事に名前を書いて貰う事ができるのか……そしてどんなお願いをされるのか……。


1日目:本条二亜1

 リハビリ開始一日目。今日は日曜日であるため、下手をするとお願いによる拘束時間が果てしなく長くなってしまう日だ。

 故に美九や折紙に名前を書いて貰うためにネギを背負って向かう日ではない。あの二人に名前を貰うのは、できれば平日にするのがベスト。学校が終わった後ならなお良しだ。さすがの二人も、夕方から深夜まで拘束するような非道なお願いをしては来ないと思いたい。

 なので七罪が最初に名前を貰う相手に選んだのは――

 

「やっほー! よく来てくれたね、なっつん? さあ、碌なもん無いけど上がって上がって?」

「……お邪魔します」

 

 朗らかな笑顔で歓迎してくれる二亜に対し、一応礼儀として頭を下げて部屋に上がる。

 そう、七罪が最初に選んだのは二亜だ。何故二亜を最初にしたのかというと、やはりお願いの内容がある程度予想できるというのが大きい。どうせ漫画のアシスタントとかその辺りをお願いされるのは明らかだ。

 そして休日だろうが平日だろうがお願いの内容も恐らく変わらず、なおかつ拘束時間もどうしても長めになる。それなら最初から休日を二亜に当てるのが賢い選択だと判断したのだ。そのため昨日の内に約束を取り付け、こうして二亜が住む高層マンションに足を運んだわけである。とはいえお願いの内容を前日の内に考える時間を与えないよう、訪問の理由は伏せておいたが。

 

「いやー、なっつんの方から訪ねてきてくれるなんてマジ感激だわー。あ、ビール飲む? つまみもあるよ?」

「そこは普通お茶じゃない? ていうか初っ端から未成年にビール勧めるのやめてくれない?」

 

 部屋に通され椅子を勧められたまでは良いが、缶ビールを勧められたので七罪としても呆れてしまう。まだ昼前だというのに当人もグビグビと飲んでいるし、仮にも七罪のような見た目幼い少女にビールを勧めるしで、初っ端からツッコミどころが多すぎた。

 

「えー? 良いじゃん良いじゃん。人間の法律をあたしら精霊に適用するなんざお門違いってもんだよ。そもそもなっつん本当は未成年かどうか分かんないし」

「そりゃあそうかもだけど……」

 

 その癖口にする事は意外と筋が通っていたので、上手い返しが出て来ない。

 とはいえ二亜も本気でビールを勧めていたわけではないようで、しばらく縮こまっていると普通にコップに一杯のお茶を出してくれた。本人は普通にビールを飲んでいたが。

 

「まあ冗談はさておき、どったの? 何かあたしに用事? 有能なアシスタントであるなっつんのためなら、時間も労力も惜しまないぜ?」

「何か勝手にアシスタント扱いされてる……」

 

 変なキメ顔で知らぬ間にアシスタント認定されていた事実を口にされ、やはりちょっと反応に困ってしまう。

 とはいえこの様子ならお願いの内容も安心というものだ。本人はちょっとぶっ飛んでいる所が無くも無いが、漫画の手伝いくらいなら極めて大人しい部類のお願いである。

 

「……実は、その……これに、あんたの名前を書いて欲しくて……」

 

 故に七罪は覚悟を決め、琴里から渡された手帳を見せながらそう切り出した。

 ちなみにこの手帳だが、最初のページに今回のリハビリに関するルールがバッチリと記載されていた。大人の姿に変身して事に望めばいけそう、と高をくくっていた七罪は最初のページを見て横っ面を叩かれたような気分になってしまったほどだ。何故ならお願いを達成するためにあっちの七罪に変身するのは禁止と、見事に先回りされていたのだから。

 

「おっ、あたしのサインが欲しいって!? いやー、困っちゃうなー?」

 

 言い方がちょっと紛らわしかったようで、普通に漫画家としてのサインを求められたと思ったのだろう。二亜は困ったような台詞を口にしながらも、満更でも無さそうにデレデレと頬を緩めていた。もちろん七罪はそっちのサインを貰いに来たわけでは無い。

 

「いや、そういうんじゃなくて。実は――」

 

 というわけで、七罪は照れたように頭の後ろを掻く二亜に全てを話した。自分が今行っているコミュ障のリハビリとその達成条件について、そして名前を書く対価として七罪に何でもお願いを出来るという権利についても。

 本当は対価の部分は話したくなかったのだが、やはりここもルールで明確に定められているため避ける事は出来なかった。どうやら琴里は徹底的に容赦なく七罪を潰しに来ているらしい。確かにこれは結果的に酷い苛めになっている。

 

「――なるほどねー? コミュ障のリハビリに皆の名前を書いて貰って回るわけか。なかなか面白い事してるじゃん。ちなみにこれとは別にあたしのサインいる?」

「いらない」

「あっ、そう……」

 

 バッサリ断ると、二亜はショックを受けた様にガクっと肩を落とす。

 さすがに人気漫画家としては、自分のサインを真正面から不要と断じられるのは結構な衝撃だったのかもしれない。この姿を見るとやっぱり貰ってあげた方が良いかもしれないと思えてくるのだが、生憎と七罪が必要としているのは漫画家としての二亜の名前では無いのだ。

 

「……それはともかく、引き換えになっつんに何でも言う事を聞いて貰えるってのはデカいねぇ? さーて、何してもらおうかなグヘヘ」

「あの……常識的な範囲でお願いね……?」

 

 一瞬でショックから立ち直ったかと思えば、ゲスな笑みを浮かべてジロジロと舐めるような視線を向けてくる二亜。まるで野盗が捕らえた女の子を品定めしているような目に、七罪は思わず自らの身体を抱きしめながら控えめにお願いした。

 先ほどまでは漫画関係の手伝いをさせられるのだろうと思っていたが、この様子を見るとどうにも不安が鎌首をもたげてきてしまう。

 

「よし、決めた! なっつんには漫画のお手伝いをしてもらおう! いやー、ちょうど締め切りヤバかったからマジ助かるわー」

「こっちもわりと予想通りで助かったわ……」

 

 やがて二亜が口にしたのは、予想通りのアシスタント業務。少しヒヤリとしたが、極めてまともなお願いで心底安堵する七罪であった。まあ二亜の締め切りがヤバいという発言のせいで、別の意味でちょっと不安になってきたが。

 

 

 

 

 

 

 そうして一時間ほど、七罪は二亜の漫画のアシスタント業務を手伝った。

 七罪がやらかすとそれが漫画に乗って全国の読者に見られてしまうので細心の注意を払う必要はあったものの、特に誰かと顔を合わせる事も無く黙々と作業できるのである意味では楽な仕事であった。まあちょくちょく二亜が他愛の無い話を投げかけてきたので、そこはちょっと集中を乱されてしまったが。

 

「……あのさ、二亜。ちょっといい?」

「おん? どったの、なっつん?」

 

 そうして今度は描きたい構図のモデルになって欲しいとお願いされた七罪は、ここでどうしても無視できない疑問を投げかける事にした。

 

「確かに漫画の手伝いくらいなら良いって言ったわよ? ぶっ飛んだ事をお願いされるよりは遥かにマシだし、こういう細々とした事はそんなに苦手でも無いし」

「うんうん。ありがとね、なっつん。感謝してるよー? 後で約束の物とは別のサインをあげよう」

「そっちはいらないわ。で、私が言いたいのは――何で士道を呼んだのかって事なんだけど?」

「いや、俺も唐突に呼び出されたから、何が何だか……」

 

 七罪の問いに真っ先に答えたのは、いつの間にかここに訪ねてきていた士道。どうやら七罪がベタだのトーンだのを頑張っている最中に呼び出されていたようで、気付けばいつのまにか士道の姿が二亜の仕事場に現れていたのだ。

 しかもそれを皮切りに二亜が構図のモデルをお願いしてきたので、最早嫌な予感しかしない七罪であった。

 

「いやー、実は描きたい構図が幾つかあってさー? しかもちょうど少年となっつんくらいの背格好の男女二人分の絡みなんだわ。せっかくだからこれはもうやってもらうしかないなーって思って、少年も呼びました」

 

 そして全く悪びれた様子を見せず、予想通りの答えを返してくる二亜。何ならキメ顔で親指を立ててウインクしてきているほどであり、さすがの七罪もちょっとイラっとした。

 

「要するに、俺たちにポーズとか取らせてモデルにしたいって事か?」

「しかも二人分の絡みって事は、結構あるのよね? その……私と士道が、触れ合ったりする感じのやつ……」

 

 尋ねながらそれっぽい触れ合いを思い浮かべてしまい、思わず尻すぼみになってしまう七罪。

 構図のモデルになる事自体は問題無いのだが、ここがかなり問題だった。二亜ほどの売れっ子漫画家がモデルを必要とする構図なら、ただ単に手を繋いだり背中を預け合ったりなどという範囲には収まらないはずだ。まず間違いなく、抱き合ったりする感じの濃厚な触れ合いが要求される。

 まあ七罪としては士道相手ならそこまで悪い気はしないのだが、士道も同じ気持ちなわけがない。どうせ抱き合うなら士道だって美九のようなナイスバディの子か、四糸乃のように可憐で美しく、魅力的で煌びやかな美少女の方が良いだろう。七罪はそういった理由であまり気乗りしなかった。

 

「そうそう。あと少年にはお昼ご飯作って貰いたいし、できればその後も色々と手伝ってくれると嬉しいぜ。わりとマジで締め切りヤバくてね?」

「まあ、俺は別に構わないけど……七罪はどうなんだ?」

「その……正直恥ずかしいし士道にも申し訳ないけど、ちょっと今の私は断れる立場じゃなくて……」

 

 どうにも士道は七罪と濃厚な触れ合いをする事に気付いていないのか、わりとあっさり頷いていた。教えてやりたいところだが、二亜の名前を貰わなければいけない七罪としては士道も受け入れてくれる方が有難いので、言及する事は出来なかった。

 七罪が教えたせいで士道の協力を得られなくなり、その結果二亜から名前を貰えなくなってしまったら目も当てられない。

 

「二亜に弱みでも握られてるのか、お前……?」

「似たようなもんよ……ていうかどうせ士道にも教えなきゃいけない事だし、ポーズ取ってる時に話してあげるわ」

 

 胡乱気な目を向けてくる士道に対し、そう口にする七罪。

 どうせ士道からも名前を貰わなければいけないし、期限は今日を入れて七日しか無いのだ。それなら今この場で七罪が挑戦中のコミュ障リハビリについて説明し、お願いの内容を予めて考えて貰った方が効率が良い。じっくり考える時間を与えるのは相手によっては少し怖いが、士道ならどこかのストーカーやどこかのアイドルのようなぶっ飛んだお願いをしてくるとも思えないので問題無かった。

 

「よーし! それじゃあまずは少年となっつん、熱いハグを決めようぜ!」

「えぇ……」

 

 無駄に良い笑顔で予想通りの濃厚な触れ合いを求められて、七罪は辟易してしまう。

 しかも二亜は今『まず』と言った。つまりは他にも濃厚な触れ合いを予定しているか、あるいは更に過激な感じになる可能性があるわけだ。これには及び腰になるのも仕方が無かった。

 

「えっと……こ、こうか?」

「わっ!? ちょ、ちょっと!?」

 

 などと恥ずかしさに固まっていると、あろうことか士道が七罪を背後から抱きしめてきた。いきなり逞しい腕の中に捕らえられたため、七罪は激しく驚いた。

 髪や身体の匂いを嗅いでくるアホがいるので、臭いと言われたりしないよう日頃から身体も髪も念入りに洗っているが、さすがに異性である士道にこんな風に密着されてはかなり不安に感じてしまう。何より身体を包み込むような温もりが実に心地良く、そのせいでどうにも落ち着けなかった。

 

「あっと、悪い。嫌だったか?」

「そ、そうじゃないけど……あんたの方こそ、嫌じゃないの? こんな抱き心地悪いヒョロガリ抱きしめるなんて……」

「ヒョロガリって……別に抱き心地悪くなんか無いぞ? まあ、確かにもうちょっと食べた方が良いかもしれないな?」

「うぅ……!」

 

 不安に思って尋ねてみれば、全く以て嫌に思っていない感じの答えが返ってくる。むしろ七罪への優しさと気遣いが多分に含まれている、心が暖かくなる感じの言葉だった。嬉しいやら恥ずかしいやらで、七罪は士道の腕の中で縮こまってしまう。

 

「二亜、こんな感じか?」

「んー……いや、お互いに正面から抱き合ってみようか。つーわけでなっつん、回れ右!」

「わ、分かったわよ……」

 

 二亜のダメ出しを食らって士道が一旦腕を下ろし、七罪はドキドキの余韻を感じながらその場で後ろを振り返る。しかしそうすればすぐ目の前に士道が立っており、今からもう一度あの腕に抱かれるのだという事を否が応でも考えさせられ、再び胸の高鳴りがぶり返しどうしようもなく顔が熱くなってしまう。

 今こそ士道の方から抱きしめて来て欲しいのだが、先ほど七罪の同意を求めずに抱きしめてしまった事を反省しているのだろう。腕を広げて優し気な顔で微笑みかけて来るだけで、頑として待ちの姿勢を崩さなかった。

 

「えっと……その……」

 

 故に七罪はこちらから抱き着こうとするも、いまいちタイミングが分からず両手を若干上げては下げてを繰り返してしまう。

 そもそも七罪如きが士道に抱き着いて良いものか。士道に抱き着きたいと思っている少女を何人も知っている身としては、自分如きが本当にやってもいいものか激しく疑問であった。そのため七罪はにっちもさっちもいかず固まってしまうのだが――

 

「ひゃっ!? ちょ、ちょっと、何で!?」

「いや、だってお前全然抱き着いて来ないからさ……」

 

 さすがに痺れを切らしたのか、気付けば士道の方から動き七罪を抱きしめてきた。驚きのあまり先ほどとは別の理由で動けなくなり、そのまま包み込まれるように抱きしめられてしまう。

 

「あわわわ……!」

 

 はっきりと感じる士道の温もり、そして身長差のせいでその逞しい胸板に顔を埋める形になり、七罪はどうしようもなく混乱と羞恥と安らぎを行ったり来たりしてしまう。

 この状況を役得と捉えられるような素直な心は持っておらず、かといって二亜から名前を貰うためにも逃げるわけには行かず、うるさく高鳴る心臓の鼓動を感じながらも耐えるしかない七罪であった。

 

「これならどうだ、二亜?」

「んー……いい感じだけど何か足らない気がするなぁ。こう、お色気的な?」

「……っ!」

 

 二亜の面白がるような呟きにより、更に心臓がうるさく跳ねる。

 抱き合っているだけでも喜びやら罪悪感やら何やらでどうにかなりそうだというのに、この上お色気要素まで追加されるとあっては色んな意味で耐えられる気がしなかった。しかしリハビリ合格のためには精霊全員(と士道と『よしのん』)の名前が必要だし、それでも一人足りないのだからやはり逃げるわけには行かない。

 故に七罪はどんなお色気展開を強制されても耐えられるよう、ごくりと息を呑んで覚悟を決めるのであった。

 

「よし、もうちょっと大胆に行ってみようぜ? というわけで、なっつんは少年の首に手を回して? で、少年は右手でなっつんのケツをこう、がしっと」

「っ!?」

「はあっ!?」

 

 そして二亜は七罪の予想を一切裏切らず、そんなとんでもない構図を口にしてきた。これには腹を括ったはずの七罪も驚愕に吹き出しそうになってしまったほどで、士道も相当驚いたのか七罪を抱く腕に一瞬力がこもった。

 お尻を鷲掴みにされるのも、首に腕を回して抱き着くのも、どちらも最早恋人間の触れ合いである。されるのもするのも恥ずかしくて堪らず、七罪は再び士道の腕の中で縮こまってしまう。

 

「いやいや、それはさすがに駄目だろ? 俺の首に抱き着くのはともかく……」

「フッフッフ、残念ながら決定権は少年には無いのだよ。あたしのサインが欲しいなら……分かってるよねぇ、なっつん?」

 

 そんなゲスい声に士道の腕の中からちらりと視線を向ければ、やはりゲスい笑みを浮かべた二亜が脅迫染みた問いを投げかけてくる。従わなければ名前は書かない、と言外に言い放ってるのが容易に見て取れた。

 しかしわざわざこんな分かりやすいゲスな表情をして尋ねてくる辺り、もしかすると本当はふざけているだけで拒否しても名前は書いてくれるのかもしれない。付き合いはまだ短いが、二亜がボケかツッコミかで言えばボケなのは七罪にも分かっている。

 だがそれにしたって七罪の主観であり、また希望的観測に過ぎないのだ。素直に従わなければ名前を書いて貰えない可能性もゼロでは無い。希望的観測に縋って恐ろしい可能性を引いてしまえば、その時七罪は美九の玩具三日間コース行き決定である。

 散々弄ばれて純潔すら散らされそうな方を取るか、仲睦まじい恋人同士のように士道に抱き着きつつ尻を揉まれるか。選択肢は二つに一つであり、どちらが良いかなど考えるまでも無かった。

 

「い、良いわよ、士道……やって」

 

 故に、七罪は士道の腕の中から顔を上げてそう口にする。顔が途轍もなく熱いし恥ずかしさも極まっているが、背に腹は変えられない。

 

「ほ、本気かよ、七罪……ていうかお前、そこまでして二亜のサインが欲しいのか?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

「さあ、ほら! 二人とも早くポーズ取って! じゃなきゃもっと過激なポーズ取らせちゃうぜー!」

「ううっ……わ、分かったわよ……!」

「うおっ……!?」

 

 明らかに面白がっている二亜に促され、七罪は色んな申し訳なさを感じながらも両腕を伸ばして士道の首の後ろに回した。そのままぶら下がる様に抱き着けば、士道の端正な面差しが視界いっぱいに広がる。今にも唇が触れ合いそうなほどにお互いの顔が近く、士道が驚愕に零した声が吐息として七罪の唇を撫でたほどだ。

 嫌悪の表情を浮かべてくるのではないかと不安に思っていたものの、士道の顔に浮かんでいたのは純粋な恥じらいと驚きだけだった。もしかするとこんなちんちくりんでも女として見てくれているのかもしれない。ちょっと士道の性癖が心配になるが、それでも何だかんだで微妙に嬉しくなってしまう七罪であった。

 

「ほ、ほら、士道……その……手を、私のお尻に……」

 

 なので先ほどとは逆に、動かない士道をこちらが促す。もちろん七罪としても大いに恥ずかしいため、出来る限り目の前の士道から視線を逸らしながら口にした。

 

「お、おい、七罪。本当に良いのかよ?」

「い、良いわよ、これくらい……どうせそんな、触られて減るような立派なモノを持ってるわけでも無いし。まあ、士道が触りたくないって言うなら無理にとは言わないけどさ……どうせ触りがいの無い汚いお尻よ……」

「フォローしてもしなくても問題ありそうな事言うな、お前……」

 

 さすがにこれには士道も苦々しい呟きを零す。

 まあフォローしてもしなくてもどちらせよヤバいのだから、その反応も致し方なかった。『そんな事無い! 綺麗で触りたくなるお尻だ!』はセクハラの極みだし、七罪の言葉を否定しなければ七罪のお尻が汚くて触りがいも無いという事を肯定するのとほぼ同じだ。

 しかし精霊をデレさせるために涙ぐましい努力を重ね、黒歴史を掘り返されながらも懸命に頑張る士道がどちらを選ぶかなど考えるまでも無い。

 

「……分かったよ。お前が良いって言うなら……触るぞ? 別に俺は、その……嫌じゃ、無いからな?」

「う、うん……」

 

 セクハラ発言にならないようにちょっと発言に気を遣いつつも、士道は七罪のお尻を触る事を選択してきた。七罪としても二亜の名前を貰うためにやってもらわなければ困るので、堪らなく恥ずかしいが受け入れる覚悟は出来ていた。

 士道の右手がそろそろと自分のお尻に伸びていく気配を感じつつ、七罪はごくりと息を呑む。

 

「っ……!」

 

 そして、士道の大きな手の平が七罪の小さなお尻を包み込む。別に痛くは無いしズボンの上から触られているだけなので感覚もそこまででは無いが、それでも七罪は触れられた瞬間びくりとしてしまった。

 

「あっ……わ、悪い、七罪。痛かったか?」

「う、ううん、大丈夫……ちょっと、驚いただけ……」

「そ、そうか……なら良かった……」

 

 ちらりと見上げれば、頬を赤くして視線を彷徨わせる士道の表情が目に入る。七罪の触りがいの無いお尻に触れているだけだというのに、どうにも落ち着きを無くしている様子だ。そのせいで七罪も何だか妙な気持ちになってしまい、胸がうるさく高鳴り喉の奥が乾いてくる。

 あまり長い間こんな風に抱き合っていると、七罪にとっても士道にとっても精神衛生上よろしくなさそうだった。なのでさっさとこの構図が描き終わる事を期待して、七罪は士道共々二亜に視線を向けたのだが――

 

「いやー、眼福眼福。やっぱ少年少女の絡みは堪らん光景だわ。つまみなくてもビール三杯はいけるね、こりゃ」

 

 二亜は筆を持つどころか手にした缶ビールをグイっと呷り、七罪たちの様子を肴に楽しんでいた。

 締め切りも近いと騒いでいたのにこの余裕。しかも七罪が色んな意味でいっぱいいっぱいになっているというのに、そんな姿をビールのつまみにされている現実。これには羞恥に打ち震えていた七罪も思わずキレそうになった。

 

「――飲んでないでさっさと描けぇ!!」

「うひぃ!?」

 

 そうして同じ気持ちだったらしい士道と共に、一言一句同じ怒声を二亜に浴びせかけた。

 まさか七罪にまで怒られるとは思っていなかったのか、はたまた二人揃っての怒気に気圧されたのか、二亜は座っていた椅子ごと後ろに引っくり返った挙句、零したビールを頭から浴びていた。その光景にちょっとだけ溜飲が収まったものの、名前を貰う最初の一人がこの調子なので非常に先行きが不安になってしまう七罪だった。

 

 

 




 まだ軽い方のお願いですね(白目)。ちなみに二亜さんはこの程度で自重するわけも無いので次回もこんなノリです。一人目でこれとか七罪のメンタル壊れちゃう……。
 次回は三月十日に投稿を予定しています。
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