闇と光がそなわり最強に見える   作:恒例行事

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第十五話 説得失敗

 

 エレーナの震えが止まって、とりあえず冷えた廊下に身を晒し続けるわけにもいかず、俺は図々しくも部屋に上がり込んだ。

 

「あ…………うっ、ぇあっ……」とか、言葉にならないことしか発さない彼女をそのままにすれば、もう二度と接触できない予感がしたからだ。この後俺がどんな目に遭っても構わんし、まあ最悪死ななければ使用人全員に一発ずつ殴られるくらいなら気にしない。

 今大事なのはエレーナのトラウマをわずかでもいいから払拭すること。

 

 部屋に入ったはいいものの、布団に包まって俺と顔を合わせることはない。

 

 ですよね〜! 

 一年前にボコボコにされた挙句死ぬほど侮辱してきた人間と顔を合わせるとか普通に罰ゲームだし……こうなることは予想してた。

 

 だからこそ今ねじこむしかないと思ったわけだが。

 

 ん゛ん゛っと咳払いを一度して、改めてエレーナ(布団)に向き合う。

 

「…………その、ごめん。いきなりで」

「……………………」

「俺のこと、覚えてるんだろ。あの時は本当に済まなかった」

「……………………」

 

 反応はない。

 聞いてるかもわからない。

 寝てる……は、ないか。隙を見せたら襲ってくる犯罪者みたいなイメージを抱いているかも。今も恐怖に怯えてるんだとしたら、本当に申し訳ない。

 

 申し訳ないが、俺はもうその位で止まらないと決めている。

 

 そうでもしないと未来で死ぬかもしれない。

 いや死ぬのは構わないけど、無惨にくたばるのだけは嫌なんだ。

 あの空虚な薄寒い感覚を受け入れなくちゃいけなくて、抵抗しようにも指先一本すら動かない切なさ。【深淵(アビス)】と銘打って師が放ったあの魔法と類似したアレを、二度と迎えたくない。

 

 だから俺は、君の全てを踏み躙ってでも、前に進んでもらう。

 

 最低なやつだ。

 俺は最初から自分のことしか考えてない。

 それを師は理解していたのだろうか、いや、きっとそこまで深く考えてはいないはず。

 

 対外的に見れば、俺はただ真面目に更生した子供に見える筈だから。

 

 アッシュとしての願いと、日本人男性としての願いがぐちゃぐちゃに混ざり合った俺のことを本当の意味で見極めることができる奴は、この世界に存在しないだろう。

 

「エレーナ。俺が死にかけたってことは知ってるか?」

「……………………」

「自業自得だと思う。多分、ただの事故じゃないんだろうけど、俺は実際に一度死にかけた。いや、ほぼ(・・)死んだと言ってもいい。土と泥が肺と胃を満たして、俺は一度死んだ。そう思うくらい苦しかった」

「……………………」

「好き勝手やって、調子に乗って、俺は終わった。もう俺は光も雷も使えないんだ」

「………………え……」

 

 お、食いついた。

 

 布団をバッと押し上げて、エレーナは姿を表す。

 

 と言っても暗闇の中だからよく見えないけど。

 

「【光の剣聖】。レオパルド・レオフォードの息子は、もう二度と光も雷も扱うことが出来ない。事故で適正無くしちゃったんだぜ」

「…………そう、なんだ……」

「ざまあないって、正直思う。それくらいじゃ取り返しつかないくらい、色んな人に迷惑をかけた」

 

 被害者であるエレーナは、語る俺に視線を向けている。

 

 ……一体どういう感情を抱いてるんだろう。

 俺にはさっぱりわからんが、それでも、トラウマを抱えていた俺に対して何を考えてるのか。少なくとも先ほどまでのようなフラッシュバックは起きてないらしい。

 

「俺、散々闇魔法のこと馬鹿にしてた」

「………………うん」

「今さ。俺、闇魔法の適性しか残ってないんだ」

「────……」

 

 驚愕に目を見開いている。

 

「魔法のひとつも使えない。魔力を動かすのにだって気を張ってる。俺はもう、昔の俺じゃない」

「……それで…………どうして、ここにいるの」

「きみに──エレーナに、謝りにきた。受け取って欲しいとは言わないし、許してくれなんてことは言わない。ただ……」

 

 反応を伺う。

 悪くはない。

 聞いてくれている、ような気はする。

 

 ……行けるか? 

 どの口で、としか言いようがない。

 でも俺はこれを口にすると、決めている。

 過去の精算をできるのは、未来に生きている俺だけだから。過去のアッシュには何もできないんだ。

 

 だから、俺が言うしかない。

 

「…………きみに、前を向いて欲しい」

「……………………」

「俺が嫌いなのは、わかる。そんな嫌いな相手の話を聞いてくれる、きみに甘えているのも、わかってる。だから、だから、俺が憎いなら、気の済むまで痛ぶっていい」

「…………え」

 

 その場で座って、頭を下げた。

 

 まあつまり土下座だよね。

 

「少しずつでいい。いや、ほんの少しでも構わない。俺はきみに前を向いてほしい」

「…………なん、で?」

 

 疑問。

 当然の質問。

 かつて自分をとことん痛めつけた相手が、なぜか再起してくれと願ってくる。意味不明だ。

 

「……レオフォードくんは、どうしてわたしに、前を向けっていうの?」

「──俺のためだ」

 

 嘘はつかない。

 俺は、俺のためだけにきみに立ち上がってほしい。

 

「俺は、レオパルド・レオフォードの息子だ」

「…………うん」

「光も雷も、もう使えない。それでも、【光の剣聖】の息子だ」

「…………それで?」

「闇魔法。俺は、残された唯一のこれを極めると決めた」

「────……は?」

 

 刹那のことだった。

 エレーナから、ゾワリと背筋を凍らせるような気配が漂い始める。

 

「……………………何、それ……」

 

 震えた声だった。

 だがその声色は先ほどまでと違う。

 怯えるような声じゃなく、そんな感情じゃない。そんな後ろ向きの(・・・・・)感情じゃない。

 

「…………あんなに、好き勝手言ってたくせに……」

 

 …………地雷踏んだなぁ。

 そりゃ、そう思うだろう。俺だってそう思うもん。

 

 どんだけ都合よく世の中解釈してんだって。

 

「あんなに、私の()を踏み躙ったくせに……!」

 

 魔力が蠢いている。

 全てを失った俺とは違い、エレーナは大会に出れる程度には強かった。

 大会の本戦で、俺と正面からぶつかる程度には。

 

 たとえ長い期間鍛錬を怠っていたとしても。

 

 激情に駆られ土壇場で放たれる魔法の威力は、一般人のそれとは比較にならないもので。

 

「──ふざけるなっ!!」

 

 暗闇の中から這い出てきた、漆黒の刃が俺の肩口を貫いた。

 

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