「……むう」
不満げなエレーナが不貞腐れながら朝食に手を付ける姿を尻目に、俺も同様に食事を摂っていた。
今日の魔法合戦も無事に俺の勝利。
5年間でエレーナの10年を飛び越えたと言えば聞こえはいいが、成人男性30年近くの色んな経験と知識があってようやくだからね。もう才能に決定的に差があるよ。
幸い闇魔法を学び始めてからはグングン俺が伸び始めたので、実質3年くらいかな。
石英に合格し、紅玉と蒼玉を飛び級で翠玉級になって、そこからもう二年。
『【金剛級】が一人前のライン』だと言われる程度には難関な試験を突破して、元々の俺がいた黒金級に標的を定めて一年で、今。
「負けた……最悪……いけるとおもったのに」
もそもそ飯を食いながらエレーナは俺の文句を堂々と言っている。もう慣れたもんですよこっちも。使用人も「ああそういう感じねはいはい」でスルーするからね。
君ら変わったね。
長い付き合いだから当然と言えば当然である。
「学園にも行かずにずっと魔法触ってるし、エレーナとは差が付いてくれないと俺が困るんだけど」
「……わかってるけど、負けるのは嫌なの!」
「お嬢様、はしたないですよ」
「アデリーナぁ! わたしとアッシュどっちの味方なのさ!」
「もちろんお嬢様ですよ、ええ、はい」
そう言いながらアデリーナさんは俺のテーブルの前にカットフルーツを置いていった。出来る使用人は違うぜ。
「もー! わたしにもちょうだい!」
「はい、あーん」
「んが」
最近勝ち越せるようになっただけで一年前まで俺がボコボコにされてたからね? マジで。
「うまいか?」
「おいしい」
「旬のフルーツですからね。今朝庭から取ったばかりですよ?」
おお、どーりでいつもより嬉しそうに食べてると思ったら。
俺もフォークに突き刺して一欠片食べる。
口の中に仄かな酸味と、それを掻き消す様な甘みが広がる。果汁が口内を満たしていくのがわかって、飲み込むのが勿体ないと思った。
「……しかし、仲良しになりましたねぇ」
フルーツをあーんする俺とエレーナを見て、アデリーナさんが嬉しそうに言う。
まあ五年間一緒に暮らしてるからね。
これで仲良くならなかったらもう不仲だし追い返した方が良いと思う。
互いに意識して魔法を学んでるから、ちょうどいいライバル関係としても成立しているし、年の近い兄妹って感じだ。
「わたしが姉でしょ?」
「いや俺が兄だけど」
「わたしのほうが先に生まれたけど」
「魔法は俺の方が強いからダメ」
「は~~~!?」
飛びかかろうとするエレーナをアデリーナさんがどうどうと諫めている姿を横目にフルーツを頬張る。
ああ、美味しいなぁ。
敗者を見て食べるデザートってのは最高だなぁ! えぇ、エレーナさんよぉ!
「【黒蝕】!」
「お前それはズルイだろ! あっ! 俺の分!」
こいつ大人げねぇぞ!
皿ごと俺からフルーツ奪っていきやがった!
俺の魔法はエレーナと違って汎用性に劣ってるから、戦闘でしかほぼほぼ使用できないと言う悲しい弱点がある。【聖銀級】魔法使い
光から闇に墜ちたというのもちょっとしたアクセントらしい。
異世界に来てもそういう掲示板みたいな連中は変わらんのだな、と少しだけ思った。
「へへーん、美味しい美味しい」
「ぐ、ぐぎぎっ……ヘイアデリーナさん。おかわり」
「その分で最後ですので仲良く分け合って下さいね~」
慣れた様子でアデリーナさんは食堂から退出していった。
まあしょうがない。
フルーツは美味しかったが、エレーナの魔法に汎用性では勝ち目がないし。普段使いできない魔法ばかり習得してく……というより、もうそういうのしか使えないんだよね。
師曰く、『お前の才能は極端だ』と言われた。
闇、それも深淵に触れる様な危険性の高い魔法ばかり覚えるのが早くて、なんでもないような魔法を覚えるのが苦手。
魔法に対する才能というより、マジで二回死んでるってアドバンテージだけで歩いてるよ俺。
「……アッシュ」
「うん?」
「はい、あ、あーん」
ひらひらと触手がフォークを掴んだまま顔の前までやってきた。
お、もしかしてこれ分けてくれてるのか。
嬉しいねぇ。
妹分の優しさが身に染みるよ。
兄より優れた妹など存在しない。
異世界の法則はここでも役に立ってくれている。
「もぐ」
うまい。
妹の仄かな優しさがふんわりと口の中に広がっている。
俺の言ってる事冷静に考えたらかなりキモいな。
でもまだ10歳だし。
大丈夫大丈夫、アッシュイケメンだしな。
「おいしい?」
「うむ、おいしい」
「じゃあ後はわたしのものね」
「おうおう待て待て。じゃんけんで決めようぜ、じゃんけんで」
「じゃーんけーん」
「お前容赦ないな!」
触手を操作しグーチョキパー全てを同時に放つ最低の戦術によりフルーツを全て奪われてしまったので、不貞腐れながら幸せそうに頬張るエレーナの姿を見る。
ま、魔法の撃ち合いなら負けないから。
まだ闇魔法伸びしろだから。
日常で雑魚いだけだから。
父上、俺、あなたに相応しくなれるかなぁ。
なりたいよなぁ。
なれるといいなあ。
「……………………」
「ん? どしたエレーナ」
「なんでもない」
そしてこうやって考え事をしていると、たまにエレーナはじっと見つめてくる。しかも何か言いたいことがあるんだろうけど何も言わない。正直怖いけど、敵意とかじゃなさそうだし気にしないことにしてる。
そっちの方が平和だもん。
「お嬢様。そろそろ準備しないと」
「はーい」
そして朝の稽古を終えて食事も済ませると、エレーナは学園に行くための準備を始める。俺? 俺は飛び級で【金剛級】になってるから免除してもらってる。定期試験を受ければ問題ないらしい。これまた5年後──つまり15歳になって、優秀な魔法使いだけが通える学園に行くことがきまってるので、それまではこの屋敷暮らしだ。
ドタバタと騒がしく準備をするエレーナとアデリーナさんの音を聞きながら、俺はのんびりとティーを飲んだ。