エレーナを見送り師が起きてきて、そこから多少の鍛錬を行ない正午。
昼を過ぎると師の仕事が多くなって付きっきりで修行できなくなるので、俺はその間外出することにしているのだ。なぜなら引きこもり扱いされたくないからである。
だって考えてみてくれよ。
いくら10歳で【金剛級】に至ったとはいえ、世間的には学園にも言ってない子供だからね。
5年後に入学は決まってるけど、世間体はよろしくないだろ。
師も使用人の皆さんも別にそんなことないって言うけど俺は気にするから。気にしないんだったらエレーナのことああやってケアしてないから。繊細で臆病なんですよ、日本人男性混じりなので。
よって、俺は日中街をブラ付きつつ、首都ではないとは言えそこそこの規模の街中に出来た魔法道場とかそういう場所を訪れては武者修行をしているのだった。師の了承はもらってます。
流派も何もかも違うそこそこの相手とやりあうのもいい経験になる、と言っていた。
「おや、レオフォードくんではありませんか」
「こんにちは。またお世話になります」
今日訪れたのは街で一番大きな魔法道場、『漆黒金剛館』である。ネーミングセンスやばって思ったそこのお前! 俺も思った。
受付にいるのはメガネをかけてる男性だ。
線の細い肉体に色白な肌はまさにインドア、イメージだけで言えば裏切りそうなメガネの人である。
名前はヴェラットさん。
初めて来た時に入り方がわからなかった俺に対して優しく教えてくれた聖人だ。
「今日もお一人で?」
「はい。師は忙しいですから」
「【聖銀級】魔法使いですからねぇ……はい、どうぞ」
入館カードにスタンプを一つ。
ほほほっ、これで三枚目コンプリートだぜ。
一週間に三回は来てるからかなりのハイペースで埋まっていっている。このままいけばゴールド会員間違いなしだな! なっても別に特典ないけど。そりゃそうだ。
ヴェラットさんに会釈して中に入ると、広い通路があって、横にそれぞれガラスが張ってある。なんて言うんだろうね、地下をくり抜いて戦闘場作ってるイメージでいいのかな。体育館みたいな感じだよ、うん。
上から見下ろせるようになってる体育館。
バドミントンとかやれる体育館の魔法バージョンだね。
「さて、今日はどんな人がいるかな……」
本日の来館メンバーを確認する。
えー、なになに。
金剛級、金剛級にまた一つ金剛級で黒金級、おっ! 白金級いるじゃん! 一つ手解きしてもらおうかな。
圧倒的格上だけど、格上にボコられるのは師で慣れてる。俺はあんまり才能ないから、とにかく何度も何度も繰り返し学習しないと身につかないんだよね。困ったもんだ。
圧倒的才能が欲しいわ〜、いやマジで。
「ねえ、きみ」
「うん?」
そうして一人で計画を立てていると、後ろから話しかけられる。
「アッシュ・レオフォード?」
「ああうん、そうだけど」
そこにいたのは同い年くらいの女の子。
エレーナのような銀髪ではなく、現代日本で見慣れた黒髪を腰辺りまで伸ばしてるのが特徴的だった。
見覚えないなぁ。
ここに通って1年経つけど初めて見るよ。
でも、ああうん。
この時間帯にここにいるだけはあるな、と思ってしまった。なぜなら、その身に秘められた魔力が、ぼんやりと感じ取れるだけでも凄まじい密度を誇っているから。
なんか闇の濃さとかがわかるようになってから自然とそういうの理解できるようになったんだよね。どれくらいこの女の子の魔力が濃いかというと、聖銀級の師に劣らないくらい濃い。
とんでもねーバケモンだ。
俺?
俺は……へへっ。
黙ってろ。
悲しくなるから。
「ふーん、あなたが……」
黒髪の女の子は俺の周りをぐるぐる回りながらジロジロ観察してくる。悪い気分はしないね。この子顔立ちが可愛いし、不躾な行動ではあるけど悪意はあんまり感じないから。
現代日本を生き抜いた社会の歯車なめんなよ。
他人の感情にはかなり聡いぜ。
エレーナ?
あれはノーカウントで。
「おもしろいね」
「えっ……何が?」
「
────…………
言葉を失った俺を尻目に、女の子は薄い笑みを浮かべながら続ける。
「魔力が……そう、魔力が、一人じゃない。二人? いや、違う。なんていうか、歪だ」
「……いきなり失礼じゃないか?」
「ごめん。でもそう見えた」
なになになになに!?
何この子!?
電波系!?
魔力が一人じゃないって何!? 前世とアッシュのこと!?
師にも言われたことないんですけど!
「やっぱり、
「まあ、なんでもいいけど。名前教えてくれよ」
「わたしの?」
「俺だけ知らないのは不公平だし」
あと、このまま放置しておくのは少し怖い気がするので。
関係持った方がいい気がしてる。
いきなり「魔力が二人分ある!」とか言ってくる人普通に怖いだろ。ただの電波系イカれ女ならそれはそれでいいし、そうじゃなくて「そういうの」感じ取れる女だったら仲良くしておきたい。
師にもそれとなく聞いておくか……
「……まあ、いっか」
意味深に一言呟いてから、少女は俺の目を見つめる。
吸い込まれるような漆黒の瞳だ。
「わたしのことは、ディーと呼んで」
少女────ディーは、そう名乗った。