闇と光がそなわり最強に見える   作:恒例行事

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第六話 「ディー」という少女

 

 翌日になって、同じように『漆黒金剛館』を訪れる。

 

 今日の朝も俺の勝ちだった。

 そう簡単に勝てると思わないで欲しい。

 対人しか出来ない俺が負けたらもうなんでもないただの置物になってしまうので。

 

 エレーナは膨れながら学園に行った。

 かわいいところあるね。

 

「おはよう」

「ああ、おはよう。本当に居るんだ」

「また明日って言ったし」

 

 ディーは少しだけ不服そうに言った。

 

 あれ、意外と感情豊かだな。

 不思議ちゃんだけど人並みの感性を持ち合わせてるタイプか。ふふっ、財布ないわ。あの透き通る感じと似てるかもしれん。

 

 最後に触れたキャラクターは闇に飲まれるタイプの子だったから、財布無い子の事何も知らないけどね。

 

 漆黒金剛館はこの街一番ということもあり、わざわざ遠征しに来る人もいる。昨日の白金級の人は正にそのパターンで、水魔法使いの切れ者だった。名前を言ったら「アッシュ・レオフォード……?」って意味深に呟いてたけど。

 先に言っておくと、俺が闇魔法を学んでいることは秘匿していない。

 その所為で闇落ちだとかなんだとか言われているらしいが、まあしょうがないよね。精神性も良くなかったし、そう言われるのは仕方ないと飲み込んだ。

 

 最終的に生き残れば俺の勝ちだから。

 

「すんすん」

「うわっ、なんだよ急に」

 

 そんなことを考えていると、ディーは俺の首筋に鼻を近付けて匂いを嗅いできた。

 

 や、やめろよそういうことするの。

 セクハラだぞ。

 

「うーん……」

「失礼な奴だな……」

「やっぱり、一人じゃない?」

「なんのことを言ってるのかわからんが、俺は一人しかいないぞ」

「そう……」

 

 ディーは相変わらずの不思議ちゃんだった。

 俺の本質に気が付いてる? 

 そうは思いたくない。

 いや別にバレてもいいんだけど、あり得ない話じゃん。前世が混ざりました~とか。

 

 頭おかしい奴認定されて終わるだけだから、匂わせすらしたくない。

 俺はあくまでアッシュ・レオフォードでいいんだよ。

 俺の中で折り合いをつけれればそれでいい。

 誰かに理解して欲しいわけじゃない。

 

「アッシュはお父さんのことが好き?」

「急だなぁ」

「気になった」

 

 マイペースだねぇ。

 まあいいけどさ。

 既に一回模擬戦を黒金級を相手にやった後なのでクールダウンの時間なので、どのみち話して時間を潰す位しか出来ない。あんまり連戦向きじゃないんだよね……

 

 えーと、それで父上だっけか。

 

「好きだよ。尊敬もしてる」

「【光の剣聖】って、重くないの」

「……重いけど。それ以上に、相応しくありたいと思ってる」

 

 やっぱ俺有名人なのかな。

 うっ、オタク日本人の承認欲求が満たされていく……! 

 静まるべ、闇のアッシュ! 

 でも今の俺闇しかないんだった。

 闇のわだす! 

 落ち着くべ! 

 

「俺はもう光になれないから申し訳なく思うけど……せめて足を引っ張らないくらいにはなりたいよ」

「ふーん」

 

 興味なさそ~~! 

 ディーはのんびり遠くを眺めている。

 まあ年齢相応にマイペースだと思えば、そこまで気にする事でもない。

 俺は大人だからな。

 精神年齢三十路超えてんだぞ、舐めんな。

 

「ディーは? 家族とか」

「いないよ」

「……悪い。友達とか」

「いないよ」

 

 会話にならんが? 

 地雷踏んだかと思ったけど、マジで何も気にしてない顔してる。

 

「『おばさん』って、言ってたよな。育ててくれた人?」

「そう。わたし以外の子は皆居なくなっちゃったから」

 

 おお~~~~ん……

 そうですか……

 これ絶対アレだよな……うん。

 

「わたしは強いから残った。アッシュ、きみを殺せって言われて」

 

 そう告げて向けてくる瞳はいつもと何も変わらない。ああうん、なるほど。巧妙なハニトラとかそんなもの用意するまでもなく、シンプルに殺しに来たのか。

 

「俺を殺しに来たのか」

「そう。でも、これは言うなって言われてた」

 

 ……ん? 

 

「……言っちゃってるけど」

「うん。言うつもりじゃなかった」

「えぇ……」

「あくまでお試し。殺す予定はまだ先だから」

「そ、そっか」

 

 どうすりゃいいんだよ。

 

 普通に殺し屋だけど。

 俺を殺しに来てるけど。

 なんで? 

 そんな恨まれるような事……してる! 

 エレーナ、嘘だよな。

 本人に言ったら滅茶苦茶怒られそうなことを頭の中で考えつつ、俺はディーの言葉を待つ。

 

「殺して欲しくない?」

「そりゃまあ。死にたくないから頑張ってるし」

「なんで死にたくないの?」

「……死ぬのが怖いから。死ぬ瞬間の苦しみが嫌いだから」

「死んでないのに、苦しいなんてわかるんだ」

 

 んも~~なんなのこの子! 

 

 でも殺しに来る様子はない。

 素直だから、殺す予定がまだまだ先にあるから手を出すつもりは本当にないんだろう。

 

「……死ぬのって、どういう感じなんだろう」

 

 ディーは一言呟いた。

 

「……苦しいよ。怖いし」

「怖い?」

「そう。死んだら何も残らないから」

 

 紛れもない俺の本音。

 空虚なあの感覚と切なさは二度と味わいたくない。二度も味わってしまったんですが、それでもだよ。

 全てが失われていくあの瞬間、身体から抜け落ちていく感覚。

 即死の方がマシだね。

 それこそ爆発で頭が吹き飛ぶとか。

 それなら死んだことすら認識できないだろうし。

 

 死に方くらい選びたいよなぁ。

 

「何も残らない……」

 

 ディーはじっと俺を見ている。

 

 怖い。

 俺を殺しに来たって堂々と言ってるし。

 普通に考えて師に話して何とかしてもらうべきなんだろうけども……なんていうかな。

 

 ディーは素直だ。

 言わなくていい事まで俺に言った。

 殺す予定はまだ先だから、今は殺すつもりじゃないらしい。

 

 家族はいない。

 友達も皆いなくなった。

 唯一残ってるのは、魔法や勉強を教えてくれる「おばさん」。

 そのおばさんは、俺を殺せと命じたそうだ。

 

「ディーは俺を殺したいか?」

「…………おばさんは、アッシュを殺せって言ってた」

「そっか。じゃあ、俺を殺すのか」

「うん。でもそれは今じゃないから」

 

 そっか~。

 じゃあ俺は、ディーに殺されないようにしないとな。

 具体的にどうするかと言うと、【聖銀級】の師と同レベルで魔力が濃いディーに勝てるようにならないといけない。

 

 無理難題も良い所だ。

 

 でもやるしかないんだろうな。

 15歳になるまでに黒金級になるという身の丈にあった目標は吹き飛んでしまった。

 

 ああ、師にお願いしないといけないな。

 俺を師に勝てるくらい急激に強くしてくださいって。

 

「アッシュ、今日はもう帰るね」

「わかった。また明日(・・・・)

「また明日」

 

 帰る間際のディーの表情には、これまでと何一つ変化はなかった。

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