闇と光がそなわり最強に見える   作:恒例行事

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第十話 アッシュ・レオフォードは【光の剣聖】の息子なのだ。

 

 色々調べ物をしているとはいえ、生活が激変する訳ではない。

 

 特に変更点はない。

 なぜなら、そんな急に変われるほど、俺は恵まれた人間じゃないからだ。

 朝昼晩と変わらないルーティンを経由して、その中で新たな事に挑戦していく。

 凡人だからね。

 魂は。

 毎日コツコツ地道に積み上げていくしかないんだ。

 

「はい、わたしの勝ち」

「ぐ、ぐぬぬぬぬっ……!」

 

 ディーと模擬戦をやった。

 当然のように敗北した。

 めちゃんこ悔しい。

 負けて当然だけど、それはそれとして、負けたらめっちゃ悔しい。

 

「弱いね、アッシュ」

「い、今に見てろよ! 絶対そのうち勝つから! ……そのうち」

「ふふ、頑張れ」

 

 く、くっそ~~! 

 このガキ……! 

 俺を舐め腐ってやがる! 

 いつでも殺せると思ってるだろ! 

 実際それはそう。

 殺しに来ないから俺は生きてるだけです。へへ、ディーさん! 靴でもなんでも舐めますよ! だからどうか殺さないでくれ。

 

「……実際不思議。アッシュは強いって話を聞いてた」

「うっ……それは前の話だ」

「事故以前?」

「そう」

「それは、残念」

 

 何が残念なんだ? 

 殺す相手が弱いならそれでいいじゃん。

 そういう話でもない……のか? 

 ディーのことはよくわからんね。

 俺を殺したい訳ではないが殺さなくてはいけなくて、でも俺が弱いのが残念。

 

 ふーむ……

 ますますわからん。

 

「ディーは俺を殺すのが目的なんじゃないのか?」

「そうだよ」

「それなら俺は弱い方がいいんじゃないのか。楽だし」

 

 直球で聞いてみた。

 するとディーは僅かに逡巡する仕草を見せながら、それでも表情をあまり変えずに言った。

 

「たしかに、それはそう」

「えぇ……」

「でも別に気にしてない。そう言う風に生まれたから」

 

 あ? 

 

 そう呟く彼女の表情に変化はない。

 何の感情も込められてない。

 喜怒哀楽は存在しない。

 

「アッシュを……いいえ、本当は、あなたのお父さんを殺す為に私は生まれたの」

 

 衝撃の事実────いや、知ってたけど。

 

 本命が父上なのはわかりきってるんだよね。

 それはそれとして俺を殺しに来てるから問題なのであって、どうせ父上なんて殺しても死なねーよ。光の剣聖だぞ。俺が束になってもかなわん相手を心配してもしょうがない。

 

「それ、俺に言っていいのか?」

「…………いや、多分、良くない」

「じゃ、黙っとく」

「……え?」

「言っちゃいけない事を言ったなら、俺はそれを黙っておく。それならまだ俺達友達のままでいられるだろ?」

 

 ここでディーを失うのは痛手なんだよね。

 よくない組織に繋がる貴重な手がかりだ。

 師は正直に答えてくれないだろうし、俺の力でそれなりに付き合いを伸ばしていくしかない。殺しに来るその日までは友人という訳だ。模擬戦では負けたけど、最初から殺す事前提で行くならまた戦い方も変わるしね。

 

「……自分で言うのもなんだけど。大丈夫?」

「俺にも俺の目的がある。そのために、ディーとは友達のままで居たいんだ」

 

 打算がありますよ、と堂々と宣言してるみたいなもんだけど、ディーは不思議そうに俺の手を眺めている。ちょっと、早く握ってくださいよ! 俺がバカみたいじゃないですか! 

 

 パチパチと目を何度か瞬きさせた後に、ディーは恐る恐る俺の手を握った。

 なんでこんな警戒されてんだ。

 俺はただ、君と仲良くなりたいだけなのに……(あわよくば死にたくない)。

 

 作戦A! 

 情で絆す! 

 作戦B! 

 師に頼る! 

 作戦C! 

 もうなんか頑張る! 

 

 以上の三つで提供するぜ! 

 

「アッシュは…………わたしが友達でいいの?」

「もちろん」

「わたし、殺しに来てるんだよ?」

「知ってる。でもその時が来るまでは友達じゃんか」

「……わたし、本当にアッシュを殺せるんだよ。それでいいの?」

 

 おっ、昏い瞳だ。

 だが残念だったな、俺はこの長年の生活でメンヘラの耐性は出来上がっている。

 なぜなら! 

 エレーナがメンヘラだからだ! 

 滅茶苦茶簡単に機嫌を損ねるし思い込みも激しい! 

 それでいて感情の起伏が重い! 

 俺のことを好きなのか嫌いなのか、いまいち判断しにくいところがある! 

 

 それに比べればディーなんて簡単なもんよ。別に俺が負い目あるわけでもないしね。

 

「じゃあ、殺さなくちゃいけないってなったら教えてくれよ。なんとかするから」

「……なんとかする?」

「おう。なんとかするよ、ディーのことも」

 

 まともな出自かどうかすらわかってない現状、安請負いするべきじゃないのはわかってる。それでも俺は、ディーを放っておくという選択肢は選ばない。

 

 なぜなら、【光の剣聖】の息子だからだ。

 アッシュ・レオフォードは光の男だぜ。

 オタク日本人男性が混ざっても、闇に染まっても、その精神性だけは損ないたくない。これは、俺に残された最後の小さなプライドだった。

 

 エレーナの時と同じだ。

 なんとかしなくちゃいけない問題が目の前にあって、それをどうにかする手段もなくは無い。

 使えるものはなんでも使う。

 俺だけの力で救えないなら、他人の手を借りてでも差し伸べる。

 

 光ってそう言うもんだろ? 

 

「だから、えーと、そうだなぁ……とりあえず、俺ん所に飯でも食いにこないか?」

 

 作戦A。

 まずは情で絆すから実行する! 

 クッキーの作り方だって覚えたもんね、オタク日本人の知識と異世界現地人の行動力を合わせればこんくらい余裕ってもんよ。

 

「ご、飯……?」

 

 困惑するディーの手を握って、それはもうとびきりの笑顔で頷いてやった。

 

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