闇と光がそなわり最強に見える   作:恒例行事

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ちょっと別の作業に時間取られてました、申し訳ない


第十一話 異世界特有のガバガバ倫理観による強化人間説が浮上

 

 メンヘラ一丁! 

 言葉で簡単に言っているが、それなりに緊張している。

 5年一緒に暮らしているとは言っても、俺まだ子供だからね。子供が女の子連れてきたらびっくりするじゃん? あらあらおませさんね、みたいな。

 

 俺とディーの関係は殺し屋とその対象なんだけど。

 

「というわけで師。今日はディーが一緒にご飯を食べます」

「……………………????」

「師? 大丈夫ですか」

「あ、ああ。少し待て、落ち着く時間を要求する」

「構いません。はいディー、俺が焼いたお菓子」

「お菓子……これが?」

 

 ふー、と息を吐いて外を眺めてしまった師は置いといて、俺はディーに焼き菓子を振る舞った。クッキーのような何かとビスケットのような何かである。流石に甘味料は貴重品だけどないわけじゃないからね。

 師は【聖銀級】なので、このくらいの手配は余裕でしてくれる。

 なんならメイドがお菓子作りを趣味にしてるくらいだ。

 贅沢だねぇ。

 

「焼き菓子っていうんだが、食ったことある?」

「焼き菓子……はじめて」

 

 ほろり。

 異世界特有の嫌な予感がビンビンしている。

 普通そんだけ魔力が強くて魔法も使えればね、ディーさん。有力な魔法使いに弟子入りして多少の贅沢は出来るんですよ。

 

 俺は貴族だからそんなことしなくても出来たけど、父上が甘やかすのヘッタクソだった説が浮上してるからな。過去の記憶を探っても暴飲暴食をした記憶はない。

 

 おっかなびっくり手にとって、そのままじいっと眺めている。

 わかる。

 クッキー形きれいだもんな。

 型さえ綺麗に作れば焼くだけなので、異世界でもこんなに上手に作れるのかと感動したよ。

 俺? 

 俺はドラゴンの形作ろうとしたら失敗してスライム作ったけど。

 裁縫セットの如き赤と黒の龍神クッキーを作ろうとしたらエレーナに「センスなしのバカ丸出し」と罵られたので、模擬戦でボコボコにしてやった。エレーナは泣いた。

 

 なかなか口に運ばないので、どうしたんだろうと思ったけど、なんとなく察した。

 

 多分そういうの口に含むなって言われてるんだと思う。

 暗殺を命令されて来るくらいだし、あり得なくはない。クソ野郎が……俺が引導渡してやるよ。だめだったら師と父上がなんとかする。

 

 ディーが取ったのと同じのをひょいと摘んでから、口に運ぶ。

 子供の口だと一口では無理なので、溢れるのもしょうがないけど、三回に分けて食べるのがベター。

 

 甘い香りと味わいが口の中に広がり、若干水分を吸われていくのが多少ダメージに残るが、それを差し置けるほどの美味さだ。

 

「…………じゃあ、食べるね」

 

 ディーは恐る恐る口に含んだ。

 小さく噛んで、パキッと小気味いい音がなる。

 そして口の中に一欠片含んだ後、舌で転がしたのか、目を大きく見開いてからモゴモゴと口を動かす。

 

「…………おいしい」

「マジ? まだあるからどうぞ」

 

 そのまま続けて一口二口と食べて、一枚をあっさり平らげたディーはもう一枚に手を伸ばした。

 

「はじめて食べた。こんなにおいしいもの」

 

 あー…………

 はい。

 なんとなくわかったよ、うん。

 だってクッキーはこの世界じゃ当たり前なのに、はじめて食べたなんておかしな話だ。

 

 あ〜あ、父上のせいねこれ。

 子は親に似るんだなぁ……

 

 えーどうしよ、流石に放っておきたくないな。

 これあれでしょ? 

 要するに人権無視の子供虐待案件だろ。

 逆恨みに似た何かで俺と父上を目標にしてるタイプのやつ。

 

 でも今の俺じゃディーにも勝てない。

 いや、勝てるかもしれないけど、その道を選ぶとディーに被害が及ぶ。

 どうする? 

 彼女を無力化して、その後だよ。

 守り切れる気がしない。

 もしも時限爆弾に似た魔法を仕込まれてたら、彼女が意図しない形で爆発させることができたら? 

 俺だけの力では難しい。

 師の力を借りて、やっとか。

 チラリと姿を覗き見たが、師はいまだに外を眺めている。

 

 力は貸してくれないか……? 

 

 いや、でも。

 師は人の親だ。

 その観点から考えて、ディーを保護する手段もなくはない。

 

 これはディーのいない場所で交渉だな。

 ひとまずディーとの交友を深めることを優先して、世界の明るさというものを見せてあげようじゃないか。

 

「普段何してるんだ?」

「いつも? いつもは、おばさんに魔法を教えてもらって、薬飲んで、勉強して、ご飯食べて、寝るかな」

 

 ……………………。

 

 うーん……

 え? 

 薬飲んで? 

 

「病気とかあるのか?」

「いや、ないよ。でもあの薬を飲むと、少しだけ気分が浮かび上がるような感じになって、魔力も増えるんだ。そうするとおばさんが喜ぶから」

 

 あ〜〜〜〜アウトです! 

 

 師! 

 聞いてましたか! 

 流石に今の発言はアウトです! 

 

 バッと顔をそちらに向けると、頭を抱えて下を眺める師の姿が。

 

 あ、ああ……

 大人の苦悩がそこにはあった。

 多分あれ、なんかこう、板挟みになってるっていうか、なんだろうね。中間管理職みたいな切なさが漂ってる。

 

「そ、そうなのか……」

「うん。アッシュも飲む?」

「いや、やめと……」

 

 やめとくと言おうとして、止めた。

 

 もしも、欲しいと言ったのなら、彼女はくれるのか? 

 魔力が増えて気分が浮かび上がるようになる、まるで麻薬のような薬を。

 

 使う気はないよ? 

 でもさ、その〜、ね。

 いざって時の切り札になりそうじゃん。

 

「…………試しに一個、欲しいなぁ」

「アッシュ」

 

 流石に師が口を挟んできた。

 まあそうだよね。

 多分俺の思惑に気がついてる上で止めてきた。

 ってことは師、その薬の異常性とかなんとなく察してるんだな? 

 ただ飲むだけで魔力が増える薬なんて、誰がどう考えても怪しいからな。それ以外に、もしももっと深く理解しているのだとすれば。

 

「……ん、いいよ。明日持ってきてあげる」

「ありがとう。ディーは優しいなぁ」

「優しい……の? わたし」

「うん、優しい。友達だもんな」

 

 そういうと、少しだけ逡巡した様子を見せつつも、俺の目を見て頷いてくれた。

 

 ああ、純朴な子供を騙している悪い大人みたいだ、俺。

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