どうか最後までお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
追記
2018.11.13 修正
死者の迷宮の攻略を終えて足場をしっかりと固め終えた僕達は、今やすっかりベルサリア王女となったカチュアさんを暗黒騎士団から救出するという大義名分を掲げて、バーニシア城の攻略に着手した。まずは王都ハイム方面に一個大隊を派遣、バクラム軍の注意を引いてからバーニシア城をバクラムの目から背けるようにする。その後、デニムさんが直接精鋭部隊を率いて暗黒騎士団の拠点と化しているバーニシア城を攻略する手筈だ。こうして前準備をしっかりと整えた甲斐あって、バーニシア城への進軍は順調そのものだった。やがてバーニシア城周辺にあるグリューシ油田において、僕は以前コンタクトを取った人物、暗黒騎士アンドラスと再会した。率いていた斥候部隊を後方に待機させた上で一人前に歩み出たアンドラスに対して、僕は改めて確認を取る。
「答えは出た様ですね」
すると、アンドラスは少し躊躇いがちに答え始めた。
「……あぁ。正直言って未だに半信半疑ではあるのだが、まさか実現不可能だと思っていた我が祖国ニルダムの再興が既に為されていたとはな。しかも属国となった他の国と異なり、分割統治と全国民奴隷化を敷いてまで力を削ぎ落さなければならなかったニルダムが再興した事で、ローディス本国は未だ嘗てない程の危機に立たされている。おそらくは今頃、ランスロットの元に現時点における全任務の中断と本国への即時帰還命令が届いている筈だ。あの折に君の言った通り、確かに私は全てから解放された。もはやローディスに従う義務など、私にはない」
その言葉を聞いて、カチュアさんに関する情報の提供者が誰であったのかを確信した。
「王女様に関する情報の提供はその証。……そう受け取っても結構ですね?」
僕の更なる問い掛けに、アンドラスは頷く事で肯定した。
「その通りだ。だが、その前に確認したい事がある」
アンドラスが愛用の爪であるトゥエルノを利き腕に装備して構えた所で、何を求めているのかを理解した僕は一人前に出てゾーラブレードを鞘から抜く。
「……解りました。解放軍が本当に暗黒騎士団を打ち破れる程の力があるのか。その力を確認し、また僕と貴方との間にあった賭けの代価、「もし僕の言った通りになった場合、こちらへの協力は一切惜しまない」という事に納得する為のお相手は、賭けを持ち掛けた張本人である僕が務めます」
僕もまたゾーラブレードを構えて戦闘態勢に入る。
「では、行くぞ!」
そして、アンドラスは僕に向かって駆け始めた。
プレイした事はなかったが、オウガバトルサーガ第六章であるオウガ64のストーリーの概要を覚えていた事がここで大きく生きてきた。特にバーニシア城攻略時点でランスロット・タルタロスに届いていた本国への帰国命令がオウガ64のストーリー終盤におけるニルダム再興が直接的な原因である事を知っていた事で、ニルダム王家の末子であるアンドラスを寝返らせる事が可能ではないかと踏んで撒いた種だった。
そして自ら納得する為に持ち掛けられた暗黒騎士アンドラス、いやアンドラスさんとの一騎討ちに勝利し、こちらへの協力を承諾してくれたアンドラスさんにはそのまま埋伏の毒として暗黒騎士団に帰還してもらった。
その結果、こちらのバーニシア城への進攻を知らされなかった暗黒騎士団の不意を突く事ができ、バルバスはおろか団長であるランスロット・タルタロスをも退け、デニムさんの説得を受け入れたカチュアさんを無事迎え入れる事ができた。
そして、王女の元にヴァレリアを再統一するという大義名分をも手に入れた解放軍はそのまま王都ハイムの攻略を開始した。
同時に、僕が仕込んだ埋伏の毒もまたバルバスとマルティムの謀反に乗る形で行動を開始していた。
Interlude
暗黒騎士団の本国撤退。
しかし、その命を不服として反旗を翻したバルバスとマルティム、そしてアンドラスによって暗黒騎士団団長のランスロット・タルタロス、副長のバールゼフォン、そしてNo.3のヴォラックは囚われの身となっていた。マルティムがバールゼフォンから目的の物を回収するとバルバスとマルティムはその場を去っていった。すると、まだその場に残っていたアンドラスに対して、ヴォラックは反旗を翻した訳を問い質す。
「アンドラス! 何故貴公までが奴等の言いなりに!」
しかし、そもそもアンドラスはバルバス達に同意した訳ではない。そこでアンドラスは自らの真意を三人に語っていく。
「……オレは別に奴等の言いなりになった訳ではない。ただ、もうお前達に従う必要が無くなっただけだ。オレはこのまま解放軍に合流し、暗黒騎士団を壊滅させてから再興を為した祖国に向かう。今度こそ王家の血を引く者としての責務を果たし、我が祖国ニルダムの盾となる為に」
ヴァレリアにおける任務に専念していたヴォラックにとって、余りに急変したヴァレリア諸島の外の情勢は正に寝耳に水であった。
「バカな! その様な話、初めて聞いたぞ!」
しかし、バールゼフォンはアンドラスが語った驚愕すべき内容の一部に含まれていた重大な情報を聞き逃したりはしなかった。
「いや、問題はそこだけではない。今、貴公は解放軍に合流すると言ったな。……一体、いつから寝返っていた?」
そのバールゼフォンの言葉に対し、アンドラスは律義に答えていく。ここで三人に全てを語っても、もはや大勢は覆らないと判断したからだ。
「バーニシア城が陥落する少し前。そう。ニルダム再興の情報を入手し、更にそれが真実である事を自ら確認してからだな。現にニルダムが再興されたという証拠なら、すぐそこにある。……そうだな。ニルダムの再興によって本国が危険に晒された為に、教皇直々の帰国命令を受けていたランスロット・タルタロス殿?」
一応問いかけてはいたが完全に確信しているアンドラスの様子を見たランスロット・タルタロスは、アンドラスの影に隠れている存在に勘づき、問いかけてみた。
「指令を受けた私にしか知らされていなかった本国の危機を見抜いたか。……先程の件と言い、見抜いたのは貴公ではないな。一体、誰だ?」
アンドラスはしばらく悩んだ末、どうせすぐに判明する事と判断して、正直に答える事にした。
「……まだ成人にすらなっていない、異国の少年だ。ただし、神の頭脳と悪魔の智謀を兼ね備えた、正真正銘の化物だがな。持ち掛けられた賭けに乗り、そして負けたオレが言うのも何だが、お前達は戦う相手を間違えた。その致命的な過ちを、我が父、我が母、我が兄弟の恨みと共に今ここで思い知るがいい」
恨み節を三人にぶつけるアンドラスの顔には、家族を奪われ、国民を人質に取られて本意でない従属を強いられていた事に対する深い怨嗟が現れていた。
Interlude end
王都ハイムの攻略は順調に進んでいった。その最大の功労者は間違いなくカチュアさんだ。何せ覇王ドルガルアの遺児であるカチュアさんが直接王都に進攻してきており、更には帰順する様に呼び掛けているのだ。その結果、その場で帰順する者が続出し、そのまま同行を志願する者も多かった。中には王女への忠義を示す為に自分から最前線に立って奮戦する者まで出始めた。当然、続出する寝返りで敵方の士気は当然下がるし、中には部隊長クラスが自分の部隊ごと寝返る事もあって指揮系統もガタガタ。もはや戦いにすらなっていなかった。こうして城下町と王城の重要拠点を次々と制圧していき、ついに王城の主のいる玉座の間へと辿り着いた。そこには、己が縋った強者に見捨てられる哀れな男の姿があった。
「おぉ。アンドラス殿。貴公は残ってくれるのか。流石はローディス最強の騎士団の一人。先程尻尾を巻いて逃げ去っていった二人とは騎士としての格が違う」
摂政として権力をほしいままにしたブランタは、さっさと撤退したバルバスとマルティムを蔑む一方でまだ残っていたアンドラスさんに称賛の言葉を贈っていた。
……しかし、それは間もなく絶望へと変わるだろう。
「摂政殿。感動している所を申し訳ないが、それは大きな間違いだ。私は既に解放軍の一員となっている。最後に残ったのが埋伏の毒とは、摂政殿も運がないな」
アンドラスさんの放った、余りにも予想外な発言にブランタは驚きを隠せない。そして、実は自らには身に覚えのなかったバーニシア城の一件に思い当たった。
「な、何だと! ……で、では、暗黒騎士団が押さえていた王女の所在を解放軍に伝えたのは」
ブランタが思わず尋ねてしまった事に、アンドラスさんは絶望を突き付けるように答えていく。
「そうだ、この私だ。ついでに解放軍のバーニシア城への進攻を暗黒騎士団に伝えなかった事もな。……摂政殿に恨みはないが、解放軍への合流の手土産として、その首を頂くとしよう」
そう言い放ってから武器を取り出して身構えたアンドラスさんを見たブランタは、ただ己の間違いが何処にあったのかを問い続けていた。
「お、おのれぇ! 何故だ、何故こうなる! 私は一体、何処で何を間違えたのだ!」
こうして、バルバスとマルティムが撤退した後で埋伏の毒の任務を全うしたとして解放軍に合流したアンドラスさんの協力もあって、摂政としてヴァレリア諸島をその手に収めんとしたブランタ・モウンを討ち果たすことができた。そして、覇王ドルガルアの急逝から始まった戦乱は、ベルサリア王女ことカチュアさんを指導者としたヴァレリアの再統一を以て終焉した。残っているのは、バルバスとマルティムが率いる暗黒騎士団の残党のみ。その所在も間もなく明らかになった。
……空中庭園。
そこが、ハイムの戦役における最終決戦の場だった。
摂政ブランタとの決戦の時に合流したアンドラスさんから告げられた、暗黒騎士団とローディスの真の目的。そして、それを横からかすめ取ろうとするバルバスとマルティムの野望を阻止する為に、解放軍はただひたすらに暗黒騎士団の残党が立て篭もる空中庭園を進んでいく。厳しい戦いを潜り抜けて辿り着いた最上階では、アンドラスさんがこちらに帰順した為に足止めとしてマルティムが残ったものの、唯でさえ同格であるアンドラスさんがいる上に一人一人がコマンドクラスにまで成長していた主力級の面々もいて多勢に無勢、何より格上であるタルタロスと同格の実力者であるランスロットさんがいた事で終始優勢に戦いを進め、最後は一騎討ちの因縁があったギルダスさんがトドメを刺した。
「ち、畜生……! お、俺はこんな所で終わる男じゃない筈なのに……!」
その後、最上階からしか行く事ができない覇王ドルガルアの墓である地下遺跡に突入、待ち受ける残党を蹴散らして辿り着いた封印の間で最後の暗黒騎士であるバルバスを討ち取った。トドメを刺したのは、父親の仇を討つ形になったヴァイスさん。
「親父……! 仇は、仇は取ったぜ……!」
そして、封印の間で封印されていたものの、バルバスによって封印が解かれた魔界への門、カオスゲートから現れたのは。
「……そういう事か。だから、タルタロス達は姉さんを求めていたのか」
デニムさんはカオスゲートから現れた存在を見て、ランスロット・タルタロスの意図を理解した。それを補足する様に、僕は説明を開始する。
「えぇ、その通りです。おそらくはカオスゲートが開かれると同時に、アレが現れるのを予見していたのでしょう。そして、アレを抑え込む為に」
まだ説明の途中だったが、どういう事かを理解したヴァイスさんが口を挟んできた。
「血縁者であるカチュアを利用しようとしたって訳か。……だけど、アレを見る限りではその目論見は外れていそうだな」
一方、カオスゲートから現れた存在を見たカチュアさんはショックを隠し切れない。
「……わ、私、あんな化物の血を引いているというの?」
僕はショックを受けるカチュアさんを宥める様に、眼の前の存在について説明した上で遠慮は無用である事を伝えた。
「カチュアさん、その心配は無用です。アレは、貴女の本当の父親とは全く別の存在です。何せ、アレに肉体など既になく、魂もまた完全に
僕の言葉を聞いたデニムさんは少々苦笑しながらも、これからのヴァレリアに眼の前の存在は不要であるとはっきり宣言する。
「イッセイ。ニバスの時もそうだったけど、実は結構毒舌家だったんだね。でも、確かにイッセイの言う通りだ。貴方の時代は既に終わった。これからは、姉さんを新しい統治者として頂いて、僕達皆で新しいヴァレリアを作り上げていく。だから、後の事は姉さんに任せて、大人しく妻子のいる彼岸へと帰れ! ……覇王ドルガルア!」
……そう。カオスゲートから現れたのは、愛する妻子の死に耐え切れず、神への信仰を捨てて魔へと堕ちた哀れな覇王の残骸だった。
戦闘に参加したメンバーの影分身を創り出し、それぞれに当てるなど狡猾な戦い方を進めるドルガルアをどうにか打ち倒したものの、カオスゲートからのドルガルアへの力の流入が激しくなり、ドルガルアはその姿を異形の物へと変えた。
……もはや、完全に人間ではなくなっていた。
そして、再び覇王の残骸との戦いが始まった。放たれる強大な力によって、かろうじてまだ息はあるものの次々と戦闘不能に陥っていく戦闘メンバー。やがて、立っていられるのが僕一人だけになってしまった。ドライグも、カリスも、アリスお姉ちゃん達もいない。本当の意味で僕一人だけだった。
何度も心が折れそうになった。何度も絶望し、もう駄目だと諦めようとした。
……それでも、僕は立ち上がれた。今の僕はあくまで精神だけがゼテギネア時代に呼ばれた、肉体を持たない存在。その為、諦めない限り、僕はけして死ぬ事がない。
だから、立ち上がる。何度でも。
「……終われない。諦め切れない。命の価値が余りに軽くて、どうしようもなく醜い現実を目の当たりにして、何度も逃げたくなった。凄惨でいつまで経っても終わろうとしない戦乱に絶望して諦めたくなった事だってある。でも、こっちに来て、多くの人達と出会って語り合って、優しい世界を夢見て一緒に戦って、そして、また信じたくなった。人という存在が持つ、綺麗で優しい可能性を」
そして、元の世界にいる父さんと母さん。今まで出会って来た多くの人達とゼテギネアで新しく出逢った人達。それら全てを守る為に、その願いを込めて僕は未だ嘗てない強さの
「だから! 僕は、お前に勝つ! 皆を待っている輝ける未来を、優しい明日を繋ぐ為に! ……ガイア、ドラゴン!」
魔を破り、闇を封じる大地の龍に乗って、僕は希望に満ちた明日を守りに行く。
Interlude
それは、神話の再現だった。
人と悪鬼、神と悪魔の戦いの神話である、オウガバトルそのものだった。
マグマのドラゴンがグイグイと締め上げ、異形の者がそれを引き千切らんと四肢に力を込める。その異形の者は魔界への門を通じて力を供給されている為に、神に匹敵する程の強さがあった。そんな存在に、マグマのドラゴンを呼び出し、その頭部に乗った少年が、たった一人で完全に互角に渡り合っていた。
その事実に、ゼノビアの騎士達は息を呑んでいた。
……二年前、自分達を率いて神聖ゼテギネア帝国を、賢者ラシュディを、そして暗黒神ディアブロを打ち破った偉大なる英雄。
彼等の目には、その英雄と少年が完全に重なり合っていた。
しかし、無限と有限という致命的な差から次第に劣勢になっていく少年とドラゴン。そこで、少年は己の中にある全ての魔動力を融合させる為、光の呪文を半ば叫ぶ様に詠唱する。
「ドーマ・キサ・ラムーン!」
そして、それに呼応する形でディバインドラゴンの魂が封じ込められたファイアクレストが光輝く。一誠が融合させた力とファイアクレストから放たれた聖なる力を受け取ったマグマのドラゴンは、その身を一つ捩ってマグマを振り落とした。そこに現れたのは神々しいまでの光を放つ一頭のドラゴンだった。光のドラゴンは今までの戦況を一変させる様に一気に異形の者を締め上げる。異形の者は今まで以上に力を振り絞るが、全く対抗できていなかった。
……やがて。
「魔よ! 光射す世界に、汝の住まう所無し! 常闇たる魔界に、還れ!」
少年の力強い言葉を受けながら、異形の者は魔界への門諸共完全に消滅した。
Interlude end
僕は最終手段として、地と風と水の魔動力を融合させる事でガイアドラゴンを光のドラゴンに変えた。正直に言ってそれだけで足りるか不安だったが、ファイアクレストの力も追加された事で異形と化したドルガルアの打倒とカオスゲートの封印を同時に行うことに成功した。僕が半ば強引にカオスゲートを封印した事で原作同様にカオスゲートが崩れないか心配だったが、それは杞憂だった様だ。
……そして、ゼテギネアでの僕の使命もまた終わったようだ。僕の体が、次第に光の粒子へと変わり始めていた。
「……どうやら、お別れの時が来たみたいです」
僕の言葉にデニムさん達が驚愕の表情を浮かべる。しかし、落ち着くのを待っていられる時間がない以上、伝えるべき事はさっさと伝えるべきだった。
「……僕は、ヴァレリアどころかこの世界の人間ですらありません。いえ、精神だけがこちらにやってきて実体化していたという意味では、むしろゴーストに近いかもしれません。だからこそ、体の損傷に関係なく最後まで戦い続けられた」
僕からの立て続けの言葉で明らかに困惑しているデニムさん達を殆ど無視して、僕はデニムさんにゾーラブレードとファイアクレストを差し出す。そして、将来起こるであろう事について話し始めた。
「デニムさん。僕が預かったファイアクレストをお返しすると共に、こちらで新たに錬成したゾーラブレードを貴方に託します。これから先、ヴァレリアはおろかゼテギネア大陸全土を巻き込む様なとても大きな戦いが起こるでしょう。それこそ、オウガバトルの再開と呼ばれる程のものが。そして、その大戦にはおそらく貴方も参戦する事になる。このヴァレリアでの戦いを制し、オウガバトルが真実の記録である事を知った以上、それは避けられないでしょう。ファイアクレストとゾーラブレードは、その困難を乗り越える為の力として使って下さい。オウガバトルを戦い抜いて、帰るべき場所に生きて帰る為に」
デニムさんは、僕が差し出したゾーラブレードとファイアクレストを多少躊躇いながらも最後にはしっかりと受け取ってくれた。
「……解った。ファイアクレストとゾーラブレードは、確かに僕が預かろう。だけど、いつか必ず返しに行くよ。ゾーラブレードはもちろんファイアクレストについても、あのブラックモスという死者の迷宮の主と一騎討ちで戦って勝利したイッセイに対する正統な報酬として渡した物だ。だから、ファイアクレストもまた君の物なんだよ。イッセイ」
デニムさんはおそらくは叶わないであろう事をあえて言葉にしてくれた。その心遣いに対して、僕は素直に感謝の意を伝える。
「……ありがとうございます」
そして、遂に別れの時が来た。
「時間が来たみたいですね。それでは皆さん、お元気で。……ヴァレリアとゼノビア、そしてゼテギネアに住まう全ての命に、
そして、完全に光の粒子となった僕の意識は、そこでいったん途切れた。
Epilogue
こうして、ハイムの戦役は本当の意味で終わりを告げた。……密かに一誠への想いを募らせていた元
最後に、一誠と接する事が特に多かった面々のその後を記して、このハイムの戦役の記録を閉じる事としよう。
カチュアはヴァレリア王国の女王ベルサリアとして即位、民族融和の政策を改めて打ち出し、ヴァレリア人として一致団結する様に呼びかけ続けた。そのお陰で、およそ千年に渡りヴァレリアは独立を保つ事ができたという。
ヴァイスはベルサリア女王の幼馴染にして腹心として、その統治を手助けしたという。因みに、一誠から教わった数々の知識が大いに役立った事は言うまでもない。
ランスロットを始めとするゼノビアの騎士達は、誰一人欠ける事無く国宝である聖剣ブリュンヒルド奪還の任を全うしてゼノビアへと帰還した。なお戴冠式の前に帰還したのは、ヴァレリアとローディスの関係から侵攻の口実にされない為である。
その際、
一誠の計略によってローディス教国から離反したアンドラスは、再興を果たしたニルダム王国へと帰還し、王家の末子である事は明かさないままに対ローディスの最前線へと赴き、自らの宣言通りにニルダムの盾として行動し始めた。命の危険は絶えずあったが、暗黒騎士団時代とは大きく異なり、その表情には非常に充実したものがあったという。
解放軍への参加こそ少し遅かったが、剣術の師として目に頼らない戦い方を一誠に授けたハボリムは、婚約者であるオズマと共に故国であるローディス教国へと向かった。
ハボリムは両親の仇討と故国を元の姿に戻す為、オズマは愛するハボリムを支え、取り戻した理想を今度こそ実現する為。
前途は多難であろうが、お互いを支え合う事のできる二人であれば、きっと乗り越えられるであろう。
解放軍の指導者であったデニムは、仲間達がそれぞれの道を歩み出したのを見送った後に全ての地位を返上し、聖騎士達の国であるゼノビアへと渡った。
聖騎士達が全てを擲ってでも守ろうとした国がどの様な物なのかを知る為に。
そして、後に起こる大戦乱において、デニムは自分を兄の様に慕った一誠からの預かり物であるファイアクレストを絶えず懐に携え、また一誠の愛剣であったゾーラブレードを必ず振るっていたという。なお、デニムが一誠と交わした約束を果たす事ができたという記録は、現在残されていない。
……そして。
「イッセイ。私、もう少しだけ頑張ってみるわ。ただニバスが残した
一誠に心身共に救われた事で一誠に対する淡い思いを募らせていたクレシダは、以後の生涯を降霊術士としてヴァレリア諸島の各地を巡り、戦乱で傷ついた人々の心を癒す事に費やした。
……なお、彼女は少女時代に想いを寄せた年下の少年に操を捧げる形で、70年に渡る生涯を独身で貫き通したという。
Epilogue end
いかがだったでしょうか?
これで、原作開始前における兵藤一誠最大の試練であるゼテギネア編は終了です。
これを踏まえて、これ以降の時間軸である話を読んでいくと、おそらく印象が一変すると思います。
最初は別々にするか、それともいっそ書かないかと悩みましたが、今後を考えるとやはり必要だと思い、序章に組み込みました。
では、本日はここまで。
次の話をお待ち下さい。