赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.28 修正


第五話

Side:木場祐斗

 

 アザゼル総督が和平の話を切り出した後、イッセー君が聖魔和合の象徴として三大勢力共通の親善大使、いわば聖魔和合親善大使に就任するという話が持ち上がった。

 立案者は、エギトフ・ネビロス総監察官。しかも話を聞いている限りでは、ネビロス総監察官はイッセー君に相当大きな期待を寄せている様だ。それこそ、ネビロス総監察官がイッセー君を養子に迎えたがっているとサーゼクス様が勘違いする程に。……いや、以前イッセー君の所に案内した際にお話をさせて頂いた事があったけど、僕達からイッセー君の事について聞いている時のネビロス総監察官の表情は何と言うか、まるで自分の子供の事について話を聞いて喜ぶ父親の様な印象があった。たぶんそういったものをサーゼクス様も感じ取ったんだと思う。それだけに、イッセー君が総監察官からの期待に対してかなり戸惑っている事に合点がいかない。それに逸脱者(デヴィエーター)への転生に関する話をしたという件も気になる。……が、今は一先ず置いておく事にした。 

 そうしてイッセー君の聖魔和合親善大使の件がほぼ確定事項となった所で、アザゼル総督がこの場にいる神滅具(ロンギヌス)の保有者に意見を訊いてきた。まず白き天龍皇(バニシング・ダイナスト)を称するヴァーリは、イッセー君と真っ向からの真剣勝負ができればいいと自分の望みを正直に告げた。次に以前瑞貴さんの話に出てから気になっていたレオ君が尋ねられた。実はレオ君こそが神滅具でも上級にランクされる魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の保有者だったのだ。確かにそういう事なら、知らない方がお互いの為だと言った瑞貴さんの言葉も納得できる。そうして意見を求められたレオ君は、イッセー君や瑞貴さん、武藤神父がこれ以上戦わずに済むならと和平に賛成した。

 そして、最後に尋ねられたイッセー君はと言うと、聖魔和合の一番の目的は自分自身の保身とイリナさんと添い遂げる事、そして自分とイリナさん、アウラちゃんの三人で一緒にいる事である事を明かした。正直に言えば、ここで幻滅されて聖魔和合の話も立ち消えになる危険があり、イッセー君もそれは承知していた筈だ。それでもあえて本音を明かしたという事は、そうするべきだと判断したからだろう。最近政治関係の勉強を始めたばかりの僕ではその判断に至らせたのは何だったのか、それがさっぱり解らないけど。 でも、イッセー君の本音をアザゼル総督もミカエル様も受け入れてくれた。どうやらイッセー君は首脳陣に相当気に入られている様で、僕は少し安心した。

 

 ……イッセー君の爆弾発言が飛び出したのは、その後だった。

 

「ところでヴァーリ、一つ提案がある。この首脳会談が終わって無事に三大勢力の間で和平が成立したら、僕と一度戦ってみないか?」

 

「……ハッ?」

 

 完全に虚を突かれたからか、イッセー君の提案を受けたヴァーリの表情は少し間の抜けたものだった。……いや、正確には僕を含めこの場にいる者のほぼ全てが呆気に取られていたというべきだろう。

 

「ねぇパパ。どうして皆、こんなに驚いてるの? ヴァーリ小父ちゃんなんて、小父ちゃんが望んでいた事をパパから提案されてるのに」

 

 そうしていると、数少ない例外の一人で皆の呆気に取られた様子を見たアウラちゃんがイッセー君に尋ねてきた。すると、今度はそれを聞いたアザゼル総督が噴き出す。

 

「ヴァ、ヴァーリ小父ちゃん。アウラにしてみれば、ヴァーリですら小父ちゃんか。確かにイッセーを基準にしているなら、年が近いヴァーリがそう呼ばれてもおかしくはねぇ。ねぇんだが、コイツはまた……!」

 

 この様な事を言っているアザゼル総督の顔は、明らかに「面白い事を聞いた」と言わんばかりの邪悪な笑顔だった。でも、僕はアウラちゃんがヴァーリを「小父ちゃん」と呼んだ事に全く違う理由で驚いていた。

 アウラちゃんはお父さんであるイッセー君を基準として、親しい人の中でイッセー君の目上の人か、あるいはイッセー君と肩を並べている者でないと「小父ちゃん」とはけして呼ばない。せいぜい「お兄ちゃん」止まりだろう。それは僕や元士郎君と同格の実力を持っていても、あくまでイッセー君の舎弟である事を公言しているセタンタ君に対しては「セタンタお兄ちゃん」である事からも明らかだ。その意味では、僕は「祐小父ちゃん」と呼んでもらえているので、アウラちゃんからイッセー君と肩を並べていると認められているのだろう。それ等を踏まえると、ヴァーリは伊達に白き天龍皇と名乗っていないという事だ。

 僕がそんな事を考えていると、イッセー君は明らかに情操教育に悪そうなアザゼル総督の悪人(ヅラ)をアウラちゃんに極力見せないようにしながら質問に答える。……この辺り、イッセー君はしっかりとお父さんをやっていると思う。

 

「流石にいきなり過ぎたから、まだ少し混乱しているだけだと思うよ。まぁこの際だから、アウラに解る様に説明しようか」

 

「ウン!」

 

 アウラちゃんが笑顔で頷いたのを見たイッセー君は、アウラちゃんにも解りやすい様に二天龍の争いについて語り始めた。

 

「まず、二天龍。つまり赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)ことドライグと白い龍(バニシング・ドラゴン)のアルビオンがある日突然ケンカを始めたんだ。理由は良く解っていないし、少なくともドライグはもう忘れているよ。アルビオンもそうじゃないか?」

 

 ここでイッセー君がヴァーリに宿っている白い龍に確認を取ると、彼は特に文句を言う事も無くイッセー君の問い掛けに応じてきた。

 

『そうだな。切っ掛けが何だったのか、私ももう思い出せそうにない。ただ覚えていないという事は、実はそれ程大した事ではなかったのだろうな』

 

 どうやら、二天龍は自分達が争う事になった切っ掛けを忘れてしまった様だ。それを確認したイッセー君は話を再開する。

 

「……と、まぁこんな感じでドライグとアルビオンがケンカをし続けていると、いつの間にか天使と堕天使と悪魔がお互いにケンカしている所へ何の断りも無しに入り込んでしまったんだ。それでドライグとアルビオンがケンカを少しだけやめて別の所に行けば良かったんだけど、自分達のケンカをやめるどころか自分達の邪魔だって言って、天使や堕天使、悪魔ともケンカを始めちゃったんだよ」

 

 イッセー君がここまで説明すると、アウラちゃんは悲しげな表情を浮かべてドライグに問い掛けてきた。

 

「ねぇ、ドライグ小父ちゃん。どうして、そんなにすぐケンカしちゃうの?」

 

 このアウラちゃんの悲しげな眼差しは、如何に天龍とはいえど精神的にかなりキツかったのだろう。ドライグはしどろもどろになって答えを返せないでいる。

 

『い、いや、アウラ。その、なぁ。……おい、一誠。もっと別の言い方はなかったのか? それこそドラゴンの誇り高き決闘とか、それを邪魔した不埒な奴等に天罰を降したとか、そういう言い方もあっただろう』

 

 ドライグはアウラちゃんの視線に耐えかねてその様な事をイッセー君に言って来たけど、言い訳がましいにも程があると思ったのか、イッセー君はドライグの言葉をバッサリと切り捨てた。

 

「ドライグ。お前の記憶を昔見せてもらった事があるけど、アレは誰がどう見ても唯のケンカだ。ケンカをケンカと言って何が悪い。しかも周りに迷惑をかけるなんて、ケンカとしては最低の部類だ。オマケに自分から売ったケンカで負けている以上、僕に言わせればお前達はコカビエルと同類だよ」

 

 ……確かに、コカビエルは先の件で自分から喧嘩を売りながら、最後はイッセー君によって永遠に無力化されてしまい、二度と立ち上がれない負け犬と化してしまった。負けた挙句に無力化されたという意味では、確かに同類だろう。ただ、それを指摘された事でドライグは激しく傷ついたらしい。明らかに吐血したと思われる声を上げた。

 

『グハァッ!』

 

 しかも、その煽りを受けて、アルビオンもかなりのダメージを負ってしまったらしい。その声色は相当に気落ちした物だった。

 

『あ、あの負け犬となったコカビエルと、私達が同類だと……! だが、確かに最終的にはコイツ等に負けている以上、反論ができん……』

 

 二天龍が過去の敗北に傷ついているのを無視して、イッセー君はアウラちゃんへの説明を再開した。

 

 ……イッセー君。二天龍に対する扱いが随分と酷いね。

 

 そう言えば、薫君が「イチ(にぃ)って、実はちょっとイジワルで結構キツイ毒を吐く事もあるんだ」と言っていたけど、これはそういう事なのかな?

 

「話を戻すよ、アウラ。そうして、ドライグとアルビオンはその魂を神様の手によって神器(セイクリッド・ギア)に封印されたんだけど、この二頭はそれでもケンカをやめなかった。自分を封印した神器を宿した人に自分達のケンカを代行させたんだ。それが皆がよく口にする赤龍帝と白龍皇の宿命なんだよ。中にはロシウやニコラス、リディアに計都(けいと)の様にその宿命を免れた人もいるけど、大部分は遭遇したらその場で戦い始めた。周りの事なんて全く気にしないで、とにかく暴れ回ったんだ。……アウラは知らないだろうけど、赤龍帝と白龍皇って実は皆の嫌われ者なんだ。それはそうした今までの積み重ねがあっての事なんだよ」

 

 ……そう言えば、そうだった。今でこそ、今代の赤龍帝であるイッセー君と親友になったから忌避感が全くないけど、赤龍帝としてのイッセー君と接するまで、僕は赤龍帝というものにあまりいい印象を持っていなかった。理由は今イッセー君が言った通り。そして、それが世界の共通認識だった。その為、もしイッセー君が聖魔和合親善大使としてこれから他の神話体系の存在とも向き合っていくのなら、まずはこの現実を受け止める事から始めなければならない。イッセー君は親善大使に就任する事がほぼ決まった時点でそれをすぐに悟り、そして覚悟を決めた。この辺りの頭の回転の速さと決断力は、本当に敵わないと思う。

 でも、アウラちゃんはそれがかなりショックだった様で、涙目になりながらもイッセー君に反論してきた。

 

「パパは違うもん。そんな事、絶対しないもん。それに、他の皆もそんな悪い人じゃないもん」

 

 ……アウラちゃんの言う通りだと、僕は思った。歴代の方達と接する機会が増え、色々と教えを受けていく中で、僕は赤龍帝に対して相当に偏見を持っていたと深く反省した。これからは、もう少し個人も見るようにしようと。

 そうしてイッセー君と歴代の方達が誤解されているのが悲しくて、ぐずり始めてしまったアウラちゃんを頭を撫でる事で慰めながら、イッセー君は生前の歴代赤龍皇の振る舞いについて話を始める。

 

「そうだね。僕もそれは知っているよ。でも、生きている時はそうじゃなくて、まるで熱に浮かされた様に暴れ回っていたんだ。それこそ、アウラに優しく話しかけてくれる今の姿からは、とても想像できないくらいにね。たぶん、ドライグの強過ぎる力に魅入られてしまったんだと思う」

 

『あぁ。ドラゴンは強い者を引き寄せる性質がある。まして、俺は最強クラスの天龍だ。だから、俺達を宿す者を魅了しても何らおかしくはない』

 

 いつの間にか立ち直っていたドライグの補足説明の後、イッセー君はヴァーリに戦いを持ち掛けた一つ目の理由をアウラちゃんに語り始めた。

 

「だから、まずは赤龍帝に付けられた「皆の嫌われ者」っていうレッテルを外す所から始めないといけないんだ。三大勢力の和平を記念してのセレモニーの一環として僕とヴァーリが戦ってみせれば、少なくとも戦う時と場所をちゃんと選んで、誰にも迷惑をかけたりしないという事を示す事ができる。そうやって今までとは違う所を少しずつでも皆に見せていかないと、僕が親善大使を務めても誰も信用してくれないんだ」

 

 一つ目の理由は、二天龍に課せられた「皆の嫌われ者」という汚名を返上する為の切っ掛け作り。イッセー君がそう説明すると、アウラちゃんがアウラちゃんなりに言い換えてイッセー君に確認してきた。

 

「そっかぁ。つまり、パパはドライグ小父ちゃんのダメな所をフォローしなきゃいけないんだね?」

 

 ……純粋な子供とは、時として非情な大人よりも容赦なく残酷になるものらしい。

 

『おい、アウラ。それは流石に酷いぞ』

 

 ドライグはアウラちゃんにそう言って来たけど、イッセー君はアウラちゃんの言葉を肯定した。

 

「そうだよ、アウラ。友達のダメな所をフォローするのも、大切な事なんだ」

 

 ……イッセー君。それ、かなり酷いと思うよ?

 

『一誠。頼むから、そこはむしろ否定してくれ。……この未だ嘗てない程の肩身の狭さは、一体何なんだ?』

 

 ドライグがイッセー君とアウラちゃんの連携攻撃に肩を落としているのを華麗にスルーして、イッセー君は二つ目の理由について触れ始める。

 

「これが一つ目の理由。二つ目は、言ってみれば願掛けかな?」

 

「願掛け?」

 

 アウラちゃんがそう言葉を返すと、イッセー君は願掛けになる根拠を話し始めた。

 

「そう、願掛け。実はね、天使と堕天使と悪魔のケンカって、ドライグとアルビオンのケンカに巻き込まれたから終わった様なところがあるんだ。だったら、同じ様に僕達の戦いに天使と堕天使と悪魔を観客として巻き込んでしまって、それで皆のケンカを終わらせてしまってもいいんじゃないかってね。それに、ミカエルさんが僕に()()()()を贈る事で首脳会談の成功と和平の成立を願掛けした様に、僕もこの戦いに三大勢力が共に手を取り合って聖魔和合を完成できる様に願掛けをしようって、そう思っているんだ」

 

 ……成る程。つまり、三大勢力の戦争が自然消滅へと至ったのは二天龍の戦いが切っ掛けだったとして、それをいい意味でのジンクスと捉えてヴァーリと戦う事で戦争の完全終結を呼び込もうという訳か。僕が納得していると、アウラちゃんも僕と同様に納得した様な表情を浮かべる。

 

「そっかぁ。ただ、パパがヴァーリ小父ちゃんと拳で語り合いたいだけじゃなかったんだぁ」

 

「いや、流石にそれは……」

 

 アウラちゃんの発言にアザゼル総督が何かを言おうとしていたけど、それを遮る形でイッセー君が話し始めた。

 

「アウラ、よく解ったね。そう、それが三つ目の理由だよ」

 

 ……今までの話が、これで全部台無しだよ。僕がガクンと肩を落としていると、アザゼル総督は全力でツッコミを入れる。

 

「当たりかよ、おい! それじゃ、今までの話は一体何だったんだ! ……いや、落ち着け。落ち着くんだ、アザゼル。俺は知っていた筈だ。コイツの素はド天然だという事を」

 

 アザゼル総督は何やらブツブツ言い始めた。声が小さくて良く聞こえないけど、何を言っているかが何となく解る様な気がする。アレは、必死に自分に落ち着く様に言い聞かせているのだと。そんなアザゼル総督を尻目に、イッセー君はアウラちゃんにヴァーリ評を語っていく。……彼はけして血に飢えている訳ではないという事を。

 

「アウラ。一つだけ勘違いしないで欲しいのは、ヴァーリが望んでいるのはあくまで自分と同じくらい、あるいは自分以上に強い相手との戦いなんだ。ただ単に弱い者苛めをしたり、誰かを傷つけたり殺したり、そんな事を楽しむ為じゃない。そんなヴァーリだから、僕は拳で語り合うに足りる漢だって見込んだんだよ。それで実は違っていたら、単に僕の人を見る目がなかっただけさ」

 

 イッセー君がそうアウラちゃんに話した所で、ヴァーリはイッセー君に念押してきた。

 

「いいのか? 本当に俺と戦っても」

 

 そこで、ヴァーリに向かって話し始めたイッセー君の言葉。

 

「本当は、拳でなく言葉を交わし合って解り合うのが一番いいんだけどね。でも、それじゃ僕はともかくヴァーリの治まりがつかないんじゃないか? それに、ヴァーリからは幼い頃に相手取った鬼達と同じものを感じるんだよ。言葉でなく真っ向からの真剣勝負を通して相手の心を見極めようとする、そんな鬼達と。それなら、下手に言葉を重ねて誤解されるよりは真剣勝負で語り合った方が余程僕達は解り合えるんじゃないかって、そう思えるんだ」

 

 それはきっと、白龍皇ではなくヴァーリという一人の少年の事をこの場にいる誰よりも良く理解していて。

 

「それに今まで、赤龍帝と白龍皇は戦い続けることが宿命だった。それを僕達が無理に止める必要はないよ。ただ、宿敵だからといって憎しみ合う必要もないんだ。お互いに解り合い、尊敬できる友達として戦えばいい。つまり……」

 

「つまり?」

 

 殺し合いは大嫌いだけど、競い合いは大好きだというかなり困った所もあって。

 

「僕達はこれからずっと、二人で「仲良く」ケンカすればいい。そして何度もお互いが全力全開で、心ゆくまで楽しく戦える状況を作っていくんだ。そうする事で、僕達が戦っても誰も文句を言わないし、誰も邪魔をしない。そうなれば、僕にとってもお前にとっても、そして二天龍であるドライグやアルビオンにとっても、今までにない最高の戦いができる様になるんじゃないかな?」

 

 ……そして、誰とでも真摯に接して仲良くなろうとする。そんなイッセー君らしいものだった。

 

Side out

 

 

 

 僕がヴァーリに今後の二天龍の在り方を含めた提案をし終わった所で、暫く沈黙が続く。

 

『「……プッ」』

 

 しかし、少し噴き出したかと思ったらそれが口火になったのか、ヴァーリが大笑いを始めた。

 

「アッハッハッハッハッ! 最高だ! まさか「仲良くケンカしよう」なんて言われるとは思わなかった! 本当に、本当にアザゼルよりも俺の話を聞いてくれるし、俺の事を解ってくれる! 駄目だ、笑いが止まらない! アッハッハッハッ!」

 

 しかもアルビオンも一緒になって笑っていた。

 

『ハッハッハッ! 全くだな、ヴァーリ! ドライグ、お前は本当にツイているぞ! これ程に私達の心意気を理解してくれる存在など、今まで一人たりとも現れなかったのだからな!』

 

『だから、言っただろう? お前も一誠と立ち会ってみれば解ると。まぁ実際には、立ち会う必要すら無かったんだがな』

 

 この時、ドライグに肉体があれば、きっとドヤ顔だっただろう。そして、アルビオンもすっかり上機嫌だった。

 

『いや、全く以てお前の言う通りだった! 赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)、私もお前の事が気に入ったぞ! 今日から宿敵云々は別として、私もお前を対等の友として認めてやる! これからは、強きドラゴンの戦いを共に心ゆくまで楽しもうではないか!』

 

 アルビオンが友達になってくれたのは良いのだが、肝心の返事をまだ貰っていなかったのでヴァーリに催促する事にした。

 

「ヴァーリ、笑ってないで答えてくれないか? いい加減、お前の返事が欲しいんだけど」

 

 そして、ヴァーリは大笑いをどうにか抑えて、返事をくれた。

 

「ハッハ。いやゴメン。こんなに可笑しい事は、生まれて初めてかもしれない。それで返事だが、いいぞ。唯でさえ最高の強者であるお前と戦えるんだ。それが宿命の相手なら尚更だ。しかもお前と戦い続けることで俺はもっと強くなることができるし、戦う時はいつでも全力だなんて最高だ。何より一回や二回だけじゃない。実は俺には魔王ルシファーの血が流れているから、お前と同様に永遠と言える程長い寿命があるんだ。だから、それが尽きるまでの永い間、お前と楽しく戦い続ける事もできる。何をどう考えても、俺が断る理由がないよ」

 

 何気にとんでもない事実をカミングアウトしながら、ヴァーリが僕の提案を入れてくれた事で、僕は安堵の息を吐く。

 

「……よかったよ。僕の提案を容れてくれて。もし容れてくれなかったら、ヴァーリに戦いを挑まれる度にその場での強力な結界の展開やら周辺の人影の探索やらを考えないといけなかったから」

 

「聖魔和合親善大使ともなると、そんな事まで考えないといけなくなるんだな。偉くなるのも考えものと言ったところか、兵藤一誠」

 

 僕の懸念を聞いたヴァーリは、かなり微妙な表情を浮かべていた。僕がそれなりに偉くなった事で、いきなり戦いを挑むとまず戦いの舞台の準備をしないといけない為に、かえって満足に戦えなくなっている。戦闘狂のヴァーリにとって、僕が集中して戦えない状況など本末転倒もいい所なのだろう。それにこの際なので、ヴァーリとアルビオンに一つ追加で提案した。

 

「ああ。それからアルビオン。いつまでも赤き天龍帝じゃ味気ないから、名前で呼んでくれないか? これから「仲良くケンカする」わけだしね。それと、ヴァーリもこの際だから、フルネームじゃなくて名前で呼んでくれ」

 

「……お前、本当に変わっているな」

 

 僕の追加の提案を受けて、ヴァーリは呆れた様な表情を浮かべている。しかし、仲良くできる相手には名前で呼んでもらいたいのが僕の信条だ。

 

「そうかな? 僕自身は普通だと思っているけど?」

 

 その様な僕の様子を見たヴァーリは、半ば観念する形で承諾した。

 

「わかったよ。どうせ今後は俺達が行う真剣勝負の舞台を用意してもらう訳だからな。長い付き合いになる以上は、提案通りに名前で呼ばせてもらうぞ。一誠」

 

『私も今後は友として名前で呼ばせてもらおう。……だが、一誠』

 

 アルビオンも承諾してくれたが、一つ念を押したい事がある様だ。その内容は既に解っている。僕も仲良くはなりたいけど、慣れ合いをしたい訳じゃない。

 

「解っている。友誼と真剣勝負は全くの別物だ。その時は手加減なんてしないし、僕もいらないよ」

 

『ククッ。そうだ、それでいい。解っているじゃないか、一誠』

 

 アルビオンは僕の意志を受けて、上機嫌で納得していた。

 

「それじゃ、今後ともよろしく。ヴァーリ、アルビオン」

 

「あぁ」

 

『新しい二天龍の戦いの幕開けだな』

 

 そして僕とヴァーリは静かに握手を交わした。これで古い二天龍の諍いは終わり、新しい二天龍の競い合いが始まる事になった。場所を選ばずに喧嘩するよりはずっとマシになったと、僕は思っていた。

 

 

 

第五話 変革される宿命

 

 

 

 握手を交わした後、ヴァーリが明らかにバツ悪げな表情を浮かべた。

 

「しかし、参ったな。こうなると解っていたら、誘いなんてさっさと蹴っていたのに」

 

『ウム。確かにな。それなら、今の内に伝えておくべきだな。一誠、まずは詫びよう』

 

 突然アルビオンから謝罪された事で少々混乱した僕は、その謝罪が何についてなのかを尋ねる。

 

「何を?」

 

「実は……」

 

 旧校舎の方から爆音が聞こえてきたのは、ヴァーリが説明しようとした正にこの時だった。そして、アルビオンが詫び、ヴァーリが説明しようとした事が何なのかを理解できた僕は、一つだけ確認する。

 

「あぁ。そういう事か。よく解った。ヴァーリ、これだけは訊いておこうか。……組織名は?」

 

「禍の団。カオス・ブリゲードだ。実はコカビエル達を連行する途中で、「アースガルズと戦ってみないか?」とオファーを受けたんだ。お前と出逢う前なら二つ返事で承諾していたんだが、その時には余り興味が湧かなくてね。それでとりあえず情報を渡すから、どれくらいの事ができるのかを見せてくれという返事を出していたんだ。だから、組織の一員というよりはその候補生と言った方が正しいのかな?」

 

 ヴァーリの発言で会議室の空気が一気に緊張状態になった。しかし、発言内容からヴァーリがその禍の団という反抗勢力に余り肩入れしていないと察した僕は、相手に渡した情報の内容をヴァーリに確認する。

 

「因みに、どんな情報を流したんだ?」

 

「今まで停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)を扱い切れずに封印されていたハーフヴァンパイアが解放されている事くらいかな? それで、その未熟に過ぎるハーフヴァンパイアを利用する作戦を立てたらしい」

 

 ……成る程。そういう事なら。僕はアザゼルさんの方を向いて声をかける。

 

「アザゼルさん」

 

 そこで僕の意図を察したアザゼルさんは一つ頷くと、ヴァーリを責めるどころか褒め称えた。

 

「あぁ。良くやった、ヴァーリ。いい塩梅にお前が餌を撒いてくれたお陰で、やっと奴等が釣られてくれたぜ。これで俺達神の子を見張る者(グリゴリ)の数十年間の行動が戦争の準備の為ではなかった事が証明されたって訳だ」

 

 アザゼルさんからの言葉が余りに意外だったのだろう。ヴァーリは首を傾げてしまった。

 

「あれ? どうして俺は褒められているんだ? 俺は敵に情報を売っているんだけどな」

 

 そこで、まずアザゼルさんがギャスパー君の現状についてヴァーリに説明する。

 

「いいや、そういう事には全くならねぇんだよ。ヴァーリ。現状を知っている俺達にしてみればな、むしろお前が連中に極上の餌を撒いた事にしかならねぇのさ。何せ、連中が標的にしてるのは二十発の魔力弾の中から止めたら不味い術式を組んでいる奴を完璧に見極めて、それ以外をしっかりと止められる様な奴だぞ? もしコイツが未熟だって言うんならな、今までの停止世界の邪眼の保有者は全員未熟者になっちまうな」

 

 それに続く形で、僕もここで会談前に手配した事を明かす。

 

「それに、もし反抗勢力が事を起こすとすればギャスパー君を利用する可能性が極めて高いと踏んで、会談に出席していない他の皆には予めギャスパー君の元に集まって待機する様に指示していたんだ。念の為、歴代でも最強と呼ばれたエルシャとベルザードも付けてね。さっきの爆音は、手ぐすね引いて待っていた皆が盛大に歓迎している証だよ」

 

 アザゼルさんと僕の説明を受けたヴァーリは、そこで不敵な笑みを浮かべた。

 

「成る程ね。そういう事なら、向こうはさぞ愉快な事になっているんだろうな。今頃は俺への恨み事を散々吐いている頃かな?」

 

 おそらくはヴァーリの想像通りだろう。ただ、明らかに向こうの過失の方が大きいので、僕はそれをヴァーリに伝える。

 

「いや、ヴァーリはけして嘘は言っていないのだから、筋違いも良い所だよ。そもそも、得られた情報の裏を取るという作戦行動の常識を忘れていた向こうの方が悪いんだ。……しかも、どうやら戦機を見極める戦略眼すら無いらしい」

 

 僕が会議室の窓を見やると、そこからは上空に大規模な転移魔術の魔方陣を展開し、そこから魔術師達が次々と転移して来るのが見えた。

 

「さて、()()の基本すらできない様な素人連中。どんな風に料理してやろうかな?」

 

 僕は迂闊な行動を繰り返すテロリストに対して、どう殲滅していくかを静かに考え始めた。

 




いかがだったでしょうか?

ヴァレリア解放軍の冷血軍師に容赦の二文字はありません。
……さぁ死ぬがよい。

では、また次の話でお会いしましょう。
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