赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.28 修正


第六話 The Man of Intelligence

Side:アザゼル

 

「さて、()()の基本すらできない様な素人連中。どんな風に料理してやろうかな?」

 

 おいおい。言葉と眼が全然一致してねぇぞ。割と軽い感じで楽しげに言い放った言葉とは余りにもかけ離れた、まるで獲物を狙う鷹の様に鋭い目つきとなったイッセーに、俺は豹変帝王の新たな一面を見出していた。……即ち、敵に対しては一切容赦しない、冷徹なる軍師。

 

「とりあえず、考えを纏める邪魔にならない様に防壁型の結界を展開しないと」

 

 イッセーはそう言うと、円卓の中央に置かれていた赤いオーブに手を翳して自分の持っている力を送り込んだ。すると、俺から見ても非常に強固と思える防壁が幾層も重なって会議室のある新校舎を覆っていく。しかも、使っている力は天使の光力に悪魔の魔力、赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のオーラにあと一つ、何だかよく解らねぇ力の四種類だ。

 

 ……コイツを抜くのは、俺でもかなり手こずりそうだな。

 

 俺は展開された防壁結界を見てそう思っていると、ミカエルも俺と同じ事を思っていたらしく、感心した様な言葉を口にしていた。

 

「随分と頑丈そうな防壁結界ですね。しかも使用している力は光力と魔力、ドラゴンのオーラに私もよく解らない力の四種類と正に逸脱者(デヴィエーター)の面目躍如といったところでしょう。もしこれを兵藤君以外で再現しようとすれば、光力を扱える天使または堕天使、悪魔、ドラゴンの力を宿す者、そして私もよく解らない力を扱える者の四人が必要でしょうね。後は、八層ある防壁の特性も二種類の物を交互に重ねてある様ですか……」

 

 ミカエルがそこまで発言した所で、転移してきた魔術師達が先手必勝とばかりに攻撃を始めた。使っている魔術の威力から中級悪魔クラスの魔力を持っているんだろうが、相手が余りにも悪かった。

 何せ、一番外側の魔力による防壁が魔術を防ぐどころか魔術を構成している魔力を吸収し、より強固になってしまったのだ。魔術師達はその一部始終を見て唖然としている。ただこの魔力の吸収機能はあくまで魔力を始めとする魂の力を対象としている様なので、物理攻撃を担当する奴でも連れてくれば割と簡単に壊せる筈だ。しかし、今の所そうしようとする動きが見られない。

 

 ……連中。まさかとは思うが、自分達だけで事を成せるなんて身の程知らずな事を本気で考えていたんじゃねぇだろうな?

 

 連中が余りに動きを見せない事で、俺は連中が他の種族や派閥との連携を考えていない可能性がある事に気付いた。どうやら、敵は俺の予想を遥かに超えてド素人だったらしい。

 

「この結界は黒い龍脈(アブソープション・ライン)をヒントにした対神秘用吸収補強型の防壁と追憶の鏡(ミラー・アリス)をヒントにした対物理用衝撃反射型の防壁を交互に重ねてあります。これで暫くは時間を稼げるでしょう。さて、ここからどう動こうかな? 単に殲滅するだけならデアボリック・エミッションだけで事足りるけど、どうせなら協調路線に舵を取った事を印象付けた方がいいな。となると……」

 

 一方のイッセーはアホみたいに高性能な結界を一息で、しかも直ぐに破られるのを前提で展開していた。そして、これで時間の猶予が出来たとして、早速テロリスト殲滅の為の作戦を練り始める。……おい、イッセー。少しは手加減してやれ。連中、何か泣きが入り始めているぞ。それに防壁を攻撃している魔術師も諦めてないというよりは、明らかに自棄になってやがるし。

 だが、イッセーに手心を加えてやろうという考えはない様で、着実に作戦を構築しつつある。僅かに聞こえて来る言葉を拾い集めていくと、「確か、アンチ・マギリンク・フィールドだったか。リヒトが持ち帰ってきた、魔力の結合を分解するフィールド型魔法は。それで魔術師達を唯の人にしてしまおうか」だの、「椿姫さんの追憶の鏡に倍加を譲渡して巨大化した後、裏側からゼノヴィアにデュランダルで全力攻撃させて一網打尽というのも悪くないな」だの、段々その対象である連中に同情したくなってくるような内容だった。

 

 ……そんな時だ。

 

「むむ~」

 

「アウラ、何か言いたい事があるのかな?」

 

 何やら真剣な表情をしたアウラがイッセーの顔をじっと見つめてきたのは。そして、アウラは真剣な表情のままイッセーに尋ねてきた。

 

「ねぇ、パパ。……解放軍の冷血軍師にはならないでね?」

 

 解放軍の冷血軍師? 何だ、そりゃ? 俺が首を傾げていると、イッセーは返事をする前にアウラにその意図を確認してきた。

 

「アウラ、どうしてそんな事を言い出したのかな?」

 

「だって、パパは軍師になる時、完全に自分を棄てちゃうんだもん。あたし、それが凄く心配なの。もしここで冷血軍師になっちゃったら、あたしやママ、小父ちゃん達はともかくパパを知らない人は皆怖がっちゃうよ。そんなの、あたしはイヤだもん」

 

 アウラがイッセーに自分の抱えていた心配や不安を伝えると、イッセーは苦笑いを浮かべながらアウラの頭を撫でつつ、安心させる為の言葉を返す。

 

「大丈夫だよ、アウラ。そんな手段を選ばない戦い方をする必要はないんだ。今はとても頼れる人達が一緒だからね」

 

 ……嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか。いくら気の合うからと言って、年の差なんて考えるのも馬鹿らしいほど離れているガキにそう言われて、でも満更でもないと感じている俺はひょっとすると俺自身が考えているよりずっと単純なのかもしれねぇな。

 俺がそんな事を考えていたら、アウラがイッセーの顔の前まで移動してきた。そして両手でイッセーの頬を抱えて真っ直ぐに見つめると、自分と約束を交わす様に言ってくる。

 

「パパ。だったら、あたしと約束して。もう冷血軍師にはならないって。今だけじゃなくて、これからずっと。じゃないと、パパのほっぺたを思いっきり引っ張っちゃうよ?」

 

 ……何だ? この言っている内容と余りにもかけ離れた、父親と娘の微笑ましい光景は?

 

 俺はこの親子が織り成す光景を前に、少なからず敗北感を抱いてしまった。一方、最後の方でアウラに頬を軽く引っ張られながら脅される格好となったイッセーは笑みの質を苦笑いから少しだけ変えて、アウラと約束を交わす。

 

「アウラは本当に強引だな。そういう所は、幼い頃のイリナにそっくりだよ。……解った。冷血軍師にはもうならないよ。そもそも、親善大使になる以上は冷血軍師なんてなりたくてもなれないしね」

 

 冷血軍師はもうならない。そのイッセーの言葉に興味を引かれた俺は、つい冷血軍師としての戦略を尋ねてみた。

 

「因みに、イッセー。その冷血軍師としては、どんな戦略を考えていたんだ?」

 

 しかし、イッセーから返ってきた答えを聞いて、俺は心底後悔した。

 

「戦略と呼べる様な大した物じゃありませんよ。ただ転移用の魔方陣に少し細工して、一部の転移先をマントル層のど真ん中とか水深10000 mの日本海溝の底とか、後は地下1000 mの()()()()とかに設定し直すだけですから。これなら転移自体はしっかりと発動するので使用者は気付きにくいですし、単に戦力を削るだけならこれが一番手っ取り早いかなと。後は、自動迎撃機能を持たせた魔力スフィアを十個ほど設置して、モグラ叩きの要領で出てきた瞬間に狙い撃ちさせても良いですね。そうすれば、敵は勝手に減っていきますから。あぁ、その際には敵を逃がさない様に転移用の魔方陣の制御を強奪して、転移を解除できない様にします」

 

 なんてえげつねぇ事を考え付きやがる。しかも、もしイッセーを親善大使にしていなかったら、そのまま何事も無く平然と実行していた筈だ。アウラが軍師としてのイッセーの事を冷血軍師と称した通り、イッセーは戦争の戦略や戦術に関しては何処までもドライに、そして冷徹に効率だけを追求する方針の様だ。しかも、この分だと策略や謀略に関しても血も涙もねぇ非情な策を平然と使う事ができるだろう。とてもじゃないが、皆に愛されるべき親善大使のする事じゃねぇぞ。むしろ、それは嫌われ者の役目だ。……あぁ、だからアウラは「軍師になる時、完全に自分を棄てちゃう」と言って心配した訳か。いや、マジで父親想いのいい娘だわ。

 まぁイッセー自身もそれは解っているから、この場においては方法を選ぶ様にしていた様だが、それを今後もずっと続ける事をイッセーに約束させたのはアウラのこの上ないファインプレーだった。現に、イッセーはこれからは約束通りに手段を選ぶ事を三大勢力のトップである俺達の前で宣言した。可愛い娘に弱いのか、それとも親善大使としての自覚を既に持っているのか。……いや、こういう台詞が出てくる以上は両方だろうな。

 

「まぁアウラと約束しましたし、親善大使を務める以上は効率だけを重視した手段は使わないし、使えないでしょう。ただ、使われた時の対処法を忘れない様に頭の片隅で考える事は続けますが」

 

 確かにそういった手段、特に卑怯な手段の対処法を考えるのに必要なのは、その手段の使い方だ。何をされたら不味いのか、それを防ぐにはどうしたらいいのか。どんな手段もその使い方を考える中で欠点やその対応策が見えて来るから、もし卑怯な手段を敵に使われた時には欠点を自分で突く一方で、その対応策を取られない様にすればいい。それをきっちりとこなす辺り、イッセーは軍師としての客観的なものの見方や俯瞰したものの考え方が染み付いているんだろう。

 

 ……それなら、この冷血の二文字を取っ払った事で手段をある程度制限されたイッセー軍師がその采配を少しでも気持ちよく振るえる様にしねぇとな。

 

 そう思った俺は、まずはヴァーリから情報を仕入れる事にする。

 

「さて、ヴァーリ。テロはイッセーの手配もあって出足から思いっきり()けている訳だが、この後はどんな予定なんだ?」

 

「和平が決まった時点でハーフヴァンパイアの神器(セイクリッド・ギア)を発動した後、頃合いを見計らって俺が寝返り、こちらにやってくる予定のヤツと一緒に暴れるという手筈になっていたよ。三大勢力の首脳陣の内、誰か一人でも仕留められればそれで良し、それが駄目でも会談が壊せればいいってところだな。……そんな事をやる気なんてもうないけどね」

 

 もはや苦笑すら浮かべている様子から、ヴァーリは本当に禍の団(カオス・ブリゲード)への興味を無くした様だ。何せ、イッセーの指導によるハーフヴァンパイアの成長と予め打っていた一手によって、目論見は最初から瓦解していたのだ。こう言っては何だが、作戦行動のイロハがまるでできていない。その辺りを俺からきっちり仕込まれているヴァーリからすれば、期待外れで落胆するのも無理はないだろう。そんな素人臭の漂う敵の作戦を利用しない手はなかった。

 

「……という事は、とりあえずは向こうの思惑に沿って動いてやるか。ただ、何か保険となるものを用意してある可能性も……!」

 

 そう俺が言いかけた所で、何らかの力の波動が迫り来るのを感じる。

 

「そう来たか! だが、その程度で抜ける程、僕の結界は甘くない!」

 

 しかし、流石にイッセーが展開した多層防壁を抜ける程ではなかった。念の為、俺は今こちらに向かって来ていた力の波動について説明する。

 

「まさか、ハーフヴァンパイアと同じ停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の保有者を予め確保していたとはな。まぁこの分だと、保有者に思いっきり無茶させているんだろうな。どうせ無茶させるなら敵の方を利用してやろうって魂胆だった訳だ。そして、護衛を無力化させてから一気に本丸であるここに攻め込む予定だったんだろうな。……さて。どうする、イッセー?」

 

 俺がイッセーにそう問いかけると、イッセーは策はあると即答してきた。頭の回転が本当に速いな、コイツ。

 

「策はあります。ですが、その前に一つだけ。サーゼクス様、よろしいですか?」

 

 イッセーがそう確認すると、サーゼクスは一つ頷いてイッセーに任せる事を伝える。

 

「構わないよ。思う様にやってくれたまえ」

 

 サーゼクスの承認を受けたイッセーは数秒ほど眼を閉じ、眼を開いた次の瞬間には沈着冷静な軍師の顔になっていた。

 

「では早速。こちらの行動方針は一つ。釣り野伏です」

 

 ……ホウ。中々大胆な手を打って来るな。そして、それを理解したのは何も俺だけじゃなかった。

 

「成る程。思惑通りに行っているといい気分にさせておいて、気の抜けた所を思いっきり殴りつけるって訳か。いいねぇ、そういうの。俺は好みだぜ。それで釣りの対象は、上手く行ったと喜び勇んだ挙句にトップの首を狙ってノコノコやってくる敵総大将ってところか、旦那?」

 

 シモン・トンヌラ。

 

 俺の目から見ても、上物と言える程の傑物だ。下手すると、生まれた時から禁手(バランス・ブレイカー)に至っていた刃狗(スラッシュ・ドッグ)でも全力でいかねぇと危ないかもしれねぇな。というか、コイツと武藤礼司、そしてイッセーの三人がいれば俺達クラスが数人、もしくは神クラスでもやって来ない限りは問題ねぇな、これは。……今更ながら、なんて戦力が集まってやがるんだ。この駒王町って所は。

 

「流石。話が早くて助かります、トンヌラさん」

 

 一方、イッセーも味方の理解が早くて喜んでやがる。それを見たトンヌラがついでと言わんばかりに餌となるのは誰かを確認してきた。

 

「それで旦那、向こうの策に釣られて出てきた猪は誰が演じるんだ? 何なら、俺がやってもいいぜ。この程度の連中なら、俺一人で十分だ」

 

 まぁそうだろうな。俺が同じ立場でも、コイツと同じ事を言っている。そして、イッセーの人選がまた傑作だった。

 

「トンヌラさんの名前が向こうに知れ渡っていればそれで良かったんですが、今回はあまり効果がないでしょう。だから、ここは僕が行きます」

 

 そう来たか。コイツは面白くなってきたぜ。イッセーが何を望んでいるのかを理解した俺は、堕天使側から出すべき奴の名前を挙げる。

 

「……って事は、こっちからは当然ヴァーリだな。何せ、共に史上最強と謳われる赤と白の共演だ。戦力を上手く分断できたと、それはもう大喜びだろう」

 

 そこに、その意図に気付いたヴァーリも俺に続く様に考えを伝えてくる。

 

「ついでに魔術師を殲滅した所で挨拶程度でも俺達が戦い始めれば、もう罠の可能性を疑わないだろうな」

 

 そして、策の締めについてはトンヌラが言及してきた。

 

「そんでもって、旦那達が撒いた餌に釣られた魚をSPで出席者全員の護衛を任された俺が仕留めるって事でいいか、旦那?」

 

 ……こんな面白そうな事、乗らない手はねぇよな?

 

「いや、最後の締めについては俺に任せてくれねぇか? いい加減、ここにいる若い奴等に俺達トップの強さを見せとかねぇと、威厳ってのがなくなるからな。まして、コイツ等の間近にはイッセーなんてとんでもないのがいるんだ。尚更だろ?」

 

 俺がそう言うと、イッセーは俺の申し入れを受け入れた。まぁ三大勢力のトップの一人である俺の申し入れだ、断るに断れねぇよな。

 

「そういう事でしたら、お願いします」

 

 一方、ヴァーリは俺が直々に出る事に対して、心底面白いと言った表情を見せた。

 

「アザゼル、いつになくやる気マンマンだな。これは面白くなってきた。それで、一誠。挨拶程度とは言え一応初めての対戦なんだ。俺としては、それなりの力は使いたいんだが」

 

 ヴァーリが初対戦という事である程度の力を使いたいという希望を出すと、イッセーはヴァーリの考えに同意した上でそれに沿う形の戦い方を提示する。

 

「それもそうだな。それなら、ここは神器(セイクリッド・ギア)の力の使い方を競ってみようか。今までの二天龍の戦いを再現するなら、それで十分だろう」

 

 イッセーの提案に対し、ヴァーリは提案の裏側にあるイッセーの思惑を正確に見抜いた。コイツは戦闘狂で脳筋の一面があるが、けしてバカではない。むしろ、頭の回転はかなり速い方だ。

 

「成る程ね。そうやって何処まで神器の可能性を引き出せているかをお互いに見せ合う事で、そこから新しい可能性を模索する狙いもある訳か。正に一石二鳥といった所だな。しかし、一誠がここまで戦略も練れるとなると、向こうでとりあえず作った俺のチームと一緒に団体戦をやっても面白そうだ。まぁ、そもそも俺について来てくれるのかという問題があるけどね」

 

 ……コイツ、この一月程の間にそこまでやっていたのか。俺はヴァーリの意外な手際の良さに内心驚きつつも、更なる功績について触れる。

 

「上手く行けば、敵戦力の引き抜きも功績として数えられるな。ヴァーリ」

 

 そんな俺の軽口に、ヴァーリは少し苦笑いを浮かべて自分の為だと断言した。……コイツ。俺に褒められて、少し照れてやがる。

 

「誰にも邪魔されずに一誠と気持ちよく戦おうと思うなら、ここでイメージアップを図るのも悪くないと思っただけさ。……あぁ。そう言えば、寝返る頃合いになるまでは、アザゼルの指示に従って魔術師達を殲滅してもいいって話になっていたな」

 

 このヴァーリが受けていた指示を聞いた俺は、これでやっと理解できた。……今、外にいる魔術師達は唯の捨て駒だという事に。イッセーもそれに気付いたのだろう、苦り切った表情からは明らかに嫌悪感が滲み出ていた。

 

「完全に使い捨ての駒だな。人の使い方としては、最低最悪も良い所だ。大集団での儀式魔術の土台作りや熟練の魔術師に魔力を供給するタンクの役目とか、そういった別の使い道もあっただろうに。……禍の団とやらは、どうやら人材の使い方さえも碌に知らない様な三下の組織らしい」

 

 いや、言っている事は合っているんだが、何でお前がその発想に至れるんだよ? 俺はイッセーの明らかに若手の言う内容でない言葉を聞いて驚きつつも、一つ確信した。イッセーの奴、少なくとも千単位、下手すると万単位の人員を擁する組織の管理運営をやった事があるな。しかも指導者か、それに極めて近い最高幹部として。

 ……どうやら、この騒動が終わったら、イッセーに色々と訊く事が出来た様だ。だが、問題はまだ残っている。

 

「こっちはこれでいいとして、問題は向こうだな。この出力なら、俺達の記録上では最強と言われる赤龍帝二人は問題なくても、他の奴等は少々きついんじゃねぇか?」

 

 俺が向こうに対する問題点について触れると、イッセーは問題ないと断言した。

 

「いえ、大丈夫です。この程度の出力なら、ギャスパー君と小猫ちゃん、憐耶さんの三人で対処できます。ただ、念には念を入れましょう」

 

 イッセーがどう対処するのかを話そうとするが、その前にヴァーリからイッセーと将来を誓い合っていると教えられた紫藤イリナというお嬢ちゃんが疑問をぶつけてくる。

 

「ねぇ、イッセーくん。話は少し戻るけど、イッセーくんが囮をするなら、この結界の維持はどうするの?」

 

 あぁ、確かにその問題があったな。すると、イッセーは結界の維持に関する説明を始めた。

 

「この結界にはミカエルさんの言った通り、魔力と光力、ドライグのオーラ、そしてミカエルさんにとっては未知の力である()(どう)(りき)の四つの力を使っている。ドライグのオーラは他のドラゴンの物でも代用が効くから、光力とドラゴンのオーラ、それに魔動力が使えるイリナに悪魔の中から誰か一人、このレッドオーブに力を供給してくれれば結界を維持できるよ」

 

 ……マドーリキ? 何だ、そりゃ?

 

 俺が四つ目の力について首を傾げていると、魔力の供給役として真っ先に名乗りを挙げたのはアウラだった。

 

「ねぇ、パパ。それなら、あたしが魔力を供給してもいい?」

 

 おいおい、流石にそれは不味いだろう。そう思った俺が反対意見を言おうとするが、その前にセラフォルーの妹であるソーナが別の意見を出して来る。

 

「いえ、ここは長期戦も見据えて力を供給する負担を均等にする為、私が供給役を担当した方が良いでしょう。私なら魔動力と魔力の二つを供給できますから、イリナは残った光力とドラゴンのオーラを供給するだけで済みます」

 

 ちょっと待て。それは一体どういう事だ?

 

 俺がソーナもマドーリキを扱えると聞いて混乱していると、イリナのお嬢ちゃんがソーナの提案を受け入れた。

 

「ソーナの言う通りね。結界の維持は私とソーナで担当するわ」

 

「解ったよ、イリナ。ではソーナ会長、よろしくお願いします」

 

 イリナのお嬢ちゃんとソーナの間で話が纏まり、イッセーがそれを了承すると、今度はリアスがソーナに対して提案をしてきた。

 

「ソーナ。それに合わせて、迎撃プランをシトリー眷属が多い向こうの指揮をソーナが執る本来のAから私が執るBに変えるわよ」

 

「そうですね。リアス、お願いします。それと、プランBの場合は貴女の指示に従う様に私の眷属達に言ってありますから、指揮系統が混乱する心配はありませんよ」

 

 ソーナはリアスの提案を了承したが、俺はスムーズに話が進む事に少々驚いていた。確かに、イッセーはこうなる事を想定の上で指示を出したと言っていた。だが、迎撃プランを二つ用意する程に綿密な物だったとは流石に思わなかった。しかも、話はまだ終わっていない。

 

「任されたわ、ソーナ。ギャスパーに予め預けておいた私の戦車(ルーク)の駒を使って、直ちに向かうわね。それと、最新の情報を私の「探知」で集めるから、レイヴェルは風の魔力を使った通信をお願いね」

 

「もうやっていますわ。既にヴラディさんにリアス様の戦車の駒をお出しする様に伝えておきました。それに併せて索敵も開始しましたから、そちらもお知らせしますわ」

 

 ……既に移動手段を確保しているし、通信網も構築済みって訳だ。何より全員がしっかりと自分の役割を理解した上で率先して行動している。これはもうヒヨッコ共のお遊戯なんてレベルじゃねぇな。

 

「じゃあ、イッセー。行って来るわね。……キャスリング!」

 

 リアスはキャスリングを発動すると、リアスと入れ違いで深紅の戦車の駒が空中に現れ、そのまま床に落ちていく。床に落ちた時のカランという硬質な音が、やけに耳に残った。そうしてリアスが旧校舎に向かった後で、聖魔剣使いがイッセーに残ったメンバーに対する指示を仰いだ。

 

「それで、イッセー君。残った僕達はどうしようか?」

 

 それを受けたイッセーは、すぐさまそれぞれに指示を出す。

 

「朱乃さんと椿姫さん、ゼノヴィアは結界の維持と通信の接続で動けなくなるイリナとソーナ会長、レイヴェルの直衛をお願いします」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

「承知しました」

 

「……解りましたわ」

 

 最初に指示を受けた三人の内、朱乃だけが少々元気のない声で応答したのが気になる。……こりゃ、後でサーゼクスの奴と相談する必要が出てきたな。

 

「祐斗と元士郎は会議室の前に陣取って、僕達が討ち漏らした敵を掃討、会議室への侵入を阻止してくれ」

 

「承知したよ、イッセー君」

 

「あぁ、任せてくれ。お前の背中は俺達がきっちり守ってやるから、安心して行ってこい。一誠」

 

 次に指示を受けた二人は問題ねぇな。俺の姿を見ても冷静に対処していた以上、外の魔術師連中は歯牙にもかけねぇ位の実力はあるだろう。特に、俺を見て警戒を露わにしていたデュランダル使いを言葉で抑えてみせたあの匙って奴はかなり期待できる。

 

「そして瑞貴、セタンタ。二人は僕達と一緒に外に来てくれ」

 

 そして、残った二人は最前線に連れ出すのか。特にかの「水氷の聖剣使い」と名高き武藤瑞貴については、他の奴等と比べても明らかに一段上の信頼を置いている様だ。まぁ、俺の目から見てもアイツの実力は他の奴等とは明らかに一線を画しているしな。

 

「ハハッ。一誠さん、そうこなくっちゃな。……クランの猛犬の血が、滾ってきたぜ!」

 

 異相空間から真紅の槍を取り出したセタンタって小僧はイッセーと共に戦えるとあって狂喜していた。それに合わせて、中々の覇気を漲らせている。……コイツは、中々鍛え甲斐がありそうだ。

 

「さて、一誠。念の為に訊くけど、降りかかる火の粉を振り払った後はどうしようか?」

 

 武藤瑞貴がそう尋ねると、イッセーはこう答えた。

 

「余計な延焼を起こさない様、全て踏み消す」

 

 ……本当に徹底的にやるつもりなんだな。冷血軍師と言われる程のえげつなさこそ抑えてあるが、敵に対して非情に徹するのは変わらない。こうした覚悟を既に持っている時点で、やはりイッセーもまた何らかの形で戦争を経験しているという事だろう。

 

「了解。そういう事なら、戦場には次などない事を彼等に教える事にしよう。授業料は、彼等の命だ」

 

 そして、その覚悟に躊躇いも無く応えられる武藤瑞貴もまた一廉の人物って事だろうな。

 

 天龍の加護に聖魔和合の象徴たる肉体、王の器、賢者の叡智、そして英雄の力。

 

 魔王ルシファーの血統の上に人間の部分で白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)なんて神滅具(ロンギヌス)を持ち、更に個人の才能にも恵まれているヴァーリも冗談みたいな存在だったが、イッセーはその上をいっているかもしれねぇな。

 

「……イッセー。お前、本当に恐ろしい奴だな」

 

 そんな事を考えていた俺の口から、思わずこの言葉が出てきてしまった。すると、イッセーは謙遜の言葉を返して来る。

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ。来ると予め解っていれば、これぐらいは割と簡単に手配できますから」

 

 ……お前はそう言うけどな。

 

「その「来ると予め解る」ってのが、相当に難しいんだよ」

 

 俺は呆れ半分の溜息と共に愚痴を零した。……きっと、これからもこうした苦労を重ねていくのだろうという確信に基づいた、ある種の諦観と共に。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

親善大使となる以上、嫌われ者である冷血軍師はこれで封印です。尤も、数々の激戦を潜り抜けた歴戦の軍師である事には何ら変わりがありませんが。

では、また次の話でお会いしましょう。
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