赤き覇を超えて   作:h995

105 / 125
2018.12.29 修正


第八話 Break up!

Side:ギャスパー・ヴラディ

 

 現在、一誠先輩やリアスお姉様達を始めとする人達も出席している三大勢力の首脳会談。

 一月近く前にこの駒王町で事件を起こしたコカビエルとの最終決戦において直線戦闘に参加していない僕は、同じ様に最終決戦に直接参加できなかった人達と一緒に旧校舎にあるオカ研の部室で待機していた。

 

「もしこの首脳会談を快く思わない者達がその妨害の為に襲撃をかけてくるとすれば、ほぼ間違いなくギャスパー君を、正確にはギャスパー君の神器(セイクリッド・ギア)である停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)を狙って来る。だから、それを逆手にとって、襲撃者を待ち伏せにしてほしい」

 

 そう一誠先輩から指示されたからだ。しかも、念の為に歴代でも最高位の赤龍帝であるエルシャさんとベルザードさんを僕達に付けてくれるという念の入れ様だ。その際、待機している間は自由に行動してもいいと言われていたから、僕は一誠先輩から課題として与えられている「ダンピールの対ヴァンパイア用気配察知能力を他種族にも対応できる様にする」事に取り組んでいた。具体的には、一誠先輩が召喚魔法で呼び出して一定の範囲内にそれぞれ配置させている小さな幻想種達の気配を感じ取るというものだったけど、幽閉時代に何となくヴァンパイアの気配を感知できていた時とは明らかに違って、中々感じ取る事ができないでいた。そうしている内に、部室で待機している先輩達や小猫ちゃん、仁村さんが取り組んでいる課題について話をしているのが聞こえてきた。だから、僕もその話に参加しようと思って声を掛けたけど、その時に駒王学園の敷地の外から何かドス黒いものが近づいてくるのを感じ取った。

 ……僕はこのドス黒いものに覚えがあった。幽閉時代に何度も僕を虐待したヴァンパイア達に対して感じたものと同じだったからだ。たぶん、僕の対ヴァンパイア用の察知能力は僕が敵と見なした存在、あるいは僕に対する敵意や悪意を持つ存在に対して反応するんだろう。念の為、この中では気配察知能力が群を抜いている小猫ちゃんに確認を取ってもらった結果、敵が近付いて来ているのは間違いなかった。狙われているのは、間違いなく僕。だから、僕はベルザードさんに意志を問われた時、立ち向かうと即答した。

 

 ……僕がこうして狙われているのは、今まで自分の生まれ持った力から逃げ続けてきたからだ。そして、ツケがここで巡ってきた。それなら、僕はもう僕から逃げる事をやめる。そして、ただ逃げる事しかしなかった今までの自分と今ここで訣別する。

 

 僕はそう決意した。そして、先輩達や小猫ちゃん、仁村さんも襲撃者と戦う意志を示した事で、エルシャさんとベルザードさんは僕達にやれるところまでやらせると言ってくれた。このお二人の厚意に感謝しながら、僕達は旧校舎から出て襲撃者の迎撃に向かう。

 

 そして、現在。

 

 襲撃者である魔術師達は、僕を確保できなかった時の予備として僕と同じ神器(セイクリッド・ギア)の保有者を確保していて、その保有者である十歳くらいの男の子に神器を強化する術式を施してから神器を使用させてきた。僕が異様な気配を察知してから草下先輩に注意を喚起したお陰もあって、僕達はどうにか止められずに済んだ。

 すると、バロールが僕に精神感応で話しかけてきた。……ただ、内容がかなり物騒なものだったけど。

 

《さて。ギャスパー、ここはどうしようか? 「僕」を宿している以上、そもそも贋作(フェイク)でしかない停止世界の邪眼なんて君に効く訳がないし、停止世界の邪眼もあの人のお陰でだいぶ使いこなせる様になった。それに、ヴァンパイアの能力の中ではおそらく主力となるだろう霧化と生気吸収も修得しているから、こんな連中なんて二分あれば十分殲滅できるよ。だから「僕」としては、二度とこんな虫けら共が襲って来ない様、徹底的に踏み潰す事をお勧めしたいんだけどね》

 

 ……彼、元が古の魔神というだけあって冷酷非情な性格をしていて、敵に対しては特に容赦がない。しかもかなり好戦的だ。ただ、確かにこのままではいけないというのも事実。それに、エルシャさんとベルザードさんがまだ動いていないという事は、この状況を僕達だけで引っ繰り返す事ができるという事。

 

 これって、気付かれているのかな?

 

 そう判断した僕は今の状況下で戦えるのかを確認し合う時に僕がバロールを宿している事を伝えたんだけど、皆良く解らない様な表情をしていた。

 

 ……「本物の断片」じゃ、ちょっと分かりにくかったのかな?

 

 そうしてお互いの状態を知らせ合った結果、バロールを宿している僕以外はまともに戦えない事がわかってしまった。僕はバロールにある事を相談し始める。

 

〈ねぇ、バロール。これはもう覚悟を決めた方がいいのかな?〉

 

《まぁ、そういう事になるんだろうね。でも、昔みたいに迫害されるなんて事はまずないと思うよ。だって、「僕」達以上に非常識な存在が身近にいて、しかも受け入れられているんだから》

 

 ……そうなんだよね。でも幾ら意識の断片とは言え、古の魔神からも非常識と思われている一誠先輩って一体……?

 

 そんな事を考えている時だった。

 

〈ヴラディさん、私の声が聞こえますか? 聞こえていたら、一度深呼吸をお願い致します〉

 

 僕にしか聞こえない様に、レイヴェル様が風の魔力で声を届けてきた。僕はその声に従ってゆっくりと息を吸って、そして吐く。

 

〈私の声はちゃんと届いていますわね。では、今からヴラディさんにやって頂きたい事をお伝えしますわ。予め一誠様がご指示なされていた迎撃プランですが、ソーナ様が諸事情で動けなくなってしまわれたので、リアス様が指揮を執るBに変更になります。そこで、今お持ちであるソーナ様とリアス様の戦車(ルーク)の駒の内、リアス様の物をお出し下さいませ。駒を出すタイミングはお任せしますわ。では、連絡内容をご理解頂けましたら、先程と同様にお願いします〉

 

 僕はレイヴェル様の連絡を理解した事を伝える為に、もう一度深呼吸をした。周りからは、心を落ち着けようと深呼吸を繰り返している様に見えているだろう。

 

〈了解しました。引き続き、連絡事項があれば同じ様にお伝えしますわ〉

 

 レイヴェル様はそう仰られて、一先ず連絡を遮断した。……向こうに何かを勘付かれた様子はない。この風を利用した通信は本当に便利だ。しかも風で声を届けられるという事は相手の声も拾えるという事でもあるので、敵の会話を盗聴して情報を得る事も可能だ。そして、僕は風の精霊と精神感応ができるくらいに相性が良いので、レイヴェル様と同じ事ができる様になる可能性は十分にある。これについても、後で一誠先輩に相談してみようと思う。

 そうして、僕はリアスお姉様の戦車の駒をズボンのポケットからゆっくりと取り出しつつ、そこから気を逸らす為にあえて停止世界の邪眼の保有者の男の子に関する質問を敵のリーダーと思われる魔術師のお姉さんにぶつけてみた。……その答えを聞いて、僕は心の中で「お姉さん」なんて呼んだ事を心底後悔した。

 

『そんな事をペラペラと話して、随分と余裕ね。でも、これでこの子達に勝てたなんて、本気で思っているのかしら?』

 

 このリアスお姉様の声が辺りに響き渡ったのを受けて、僕はポケットから取り出していた戦車の駒を軽く放り投げた。流石に手に持ったままだと、リアスお姉様がキャスリングでこちらに来る際に邪魔になってしまうからだ。こうして現れたリアスお姉様は、早速僕達に指示を出す。

 

「ソーナがこちらに来れなくなったから、迎撃プランはBに変更よ。それで代わりに私が来たの。それと今の状況だけど、ギャスパーと小猫、そして憐耶。この程度の出力なら、貴方達三人で対処できるそうよ。具体的には、ギャスパーが制止した後に小猫が排除、そして憐耶で確保。ここまで言えば、自分が何をするべきか、貴方達なら解る筈よ」

 

 この状況は僕と小猫ちゃん、そして草下先輩の三人で対処可能。この言葉を聞いた時、僕の心は震えた。

 

 君を信じる僕を信じろ。

 

 あの時に言ったこの言葉の通り、一誠先輩はずっと僕を信じてくれる。そして、そこからリアスお姉様からの僕への指示。

 

 僕が、制止する。

 

 この指示を聞いた時、バロールは納得していた。

 

《成る程。つまり、あの人はこう言っているんだ。……今こそ、贋物(フェイク)本物(オリジナル)に変えろってね》

 

〈バロール、それってどういう……?〉

 

 僕はバロールにそう尋ねようとするけど、その前にバロールからよく考える様に言われてしまった。

 

《ギャスパー、よく考えてごらん? どうして見た者に死を齎すとされる「僕」の目の贋物が、見た者の時間を停止させる能力なのかを》

 

 バロールにそう促されて、僕は少し考えてみた。

 

 死と停止。この二つの間にある因果関係。……死ぬって、一体どうなったらそう呼ぶんだろう?

 

 ふとそう思った時、僕の頭に天啓が閃いた。

 

《そう。それで正解だ。だったら、後は何をすればいいか解るよね?》

 

 バロールも僕の考えを肯定してくれた。

 

〈ウン。だったら、後はやるだけだ。……正直な所、僕はまだ僕を信じる事ができない。でも、一誠先輩やリアスお姉様、グレモリー眷属の皆さん、それに最近出会って僕に良くしてくれるシトリー眷属の皆さんなら信じられる。だから、今は僕を信じる皆を、そして皆が信じてくれる僕を信じる事にするよ〉

 

 ……少々情けない話だとは思う。でも、いきなり僕自身を信じようとしても中身が伴っていないと意味がないって思った。バロールもそれが解ったみたいで、とりあえずは受け入れてくれた。

 

《そうだね。今はまだそれでいいんじゃないかな? 流石に君が長年積み重ねてきた自己不信を本当の意味で乗り越えるには、まだまだ時間と経験が必要だからね。……でも》

 

 このままでいい訳じゃないのは、バロールに言われなくても解っていた。

 

〈解ってるよ。いつか、いつか必ずこう言える様になるよ。誰かが信じる僕じゃない、僕を信じる誰かでもない。僕が信じる僕を信じるって〉

 

 いつか、自分を信じられる強さを得られる様に。

 

 僕は改めてそう誓うと、精神を集中させる為に瞳を閉じた。

 

Side end

 

 

 

Side:リアス・グレモリー

 

 ギャスパーは私の指示を受けて間もなく、精神集中の為に静かに瞳を閉じた。……ギャスパーは自分のやるべき事が理解できたみたいだった。そこで、残りの二人にも確認を取る。

 

「小猫、貴女は」

 

「はい。ギャー君が敵の隙を作った瞬間に踏み込みます」

 

 ……小猫は大丈夫だ。

 

「憐耶も、その分なら大丈夫ね」

 

「はい。塔城さんとタイミングを合わせます。この結界鋲(メガ・シールド)はそういう使い方もできますから」

 

 憐耶も既に結界鋲をいつでも動かせる様に集中力を高めている。……いい傾向だ。これならいける。私がそう判断した所で、ギャスパーがゆっくりと瞳を開く。そして、じっと敵の停止世界の邪眼使いの男の子を見つめ始めた。

 

「あら、一体何のつもりかしら? そんなにこの子をジッと見つめて」

 

 敵の指揮官である(「探知」で確認した)女魔術師はニヤニヤと厭らしい目付きでギャスパーの方を見ている。……その余裕、一体いつまで持つかしら?

 

「見えた、そこだ!」

 

 ギャスパーは何かを見極めると、雄叫びに近い声と共に自分の神器を発動させる。

 

「止まれぇぇぇぇっ!」

 

 ギャスパーの力強い声と共に紅い瞳が一際強く輝くと、この辺りに広がっていた力の波動が一瞬で弱まった。

 

「なっ!」

 

 ギャスパーの停止世界の邪眼によって、敵の停止世界の邪眼を強化している術式がその機能を停止されたのだ。

 ……敵の神器に働きかける術式に自分の神器の力をピンポイントでぶつける。精神世界面(アストラル・サイド)に生まれつき干渉する事ができる上に、魔力弾に込められた術式の種類さえも見極められる程に「見る」事を鍛えられてきたギャスパーだからこそ可能な、正に裏技だった。

 でも、そんな事を向こうは全く知る由もない。その結果、こちらにとっての絶好機が生まれた。

 

「今です! 軽身功!」

 

 この絶好期を小猫が見逃す筈がなく、小猫は身に付けた気功術の一つである軽身功を発動させる。これによって、小猫は騎士(ナイト)に匹敵するスピードを出す事ができる。流石に計都(けいと)に師事し始めたばかりなので、複数の気功術を同時に扱う事はまだできないものの、現状ではそれで十分だ。主に攻撃力を支える筋力を強化する剛気功がなくとも、戦車としての圧倒的なパワーは未だ健在なのだから。

 

「ガハッ!」

 

 そして、小猫の体重と突進のスピードがたっぷり乗った掌底によって指揮官が吹き飛ばされた事で、他の魔術師達の動きが完全に止まる。

 

「対象、確保!」

 

 その隙をついて、憐耶が結界鋲を飛ばして停止世界の邪眼の保有者を防御結界で閉じ込めてしまった。しかも外が見えない様に遮光機能もおまけで付けている。これで、向こうもこの子もお互いに助け合う事ができない。それに停止世界の邪眼の脅威が取り除かれた事で、他の子達も自由に動ける様になった。

 

「これで、形勢逆転ね」

 

 私は敵である魔術師達に対して、そう宣言した。この宣言で形勢が逆転した事を悟った魔術師達は完全に尻込みしているし、こちらはこちらで情勢に応じて一気に攻めかかろうと身構えている。でも、皆の表情からは目前の勝利に目が眩んで先走る様な危うい感じは全くしない。むしろ、勝ち切る為に冷静に、そして慎重に事を運ぼうとする印象すらある。

 ……皆、本当に成長した。私の眷属もそうだけど、それ以上にソーナの眷属の子達が大きく成長した。私もソーナもうかうかしていると、あっという間に追い抜かれてしまいそうだ。これも一誠シンドロームのお陰だと思ったら、何故かとても可笑しくなった。

 

 

 

 襲撃してきた魔術師達の残党を一掃し終えたのは、それから十分程経ってからだった。元々、念には念を入れる形で私がこちらに来ただけなので、私がいなくてもおそらくこの結果に落ち着いていたと思う。

 

「部長さん」

 

 ある程度敵の掃討が終わった後、花戒さんが睡眠魔法で眠らせた停止世界の邪眼の保有者の様子を見ていたアーシアが私に話しかけてきた。

 

「アーシア、何か分かったかしら?」

 

 私がそう問いかけると、アーシアはかなり沈んだ表情と共に報告し始めた。

 

「はい。かなり衰弱してますけど、命に別条はありません。このまま一晩寝ていれば、体は元気になると思います。ただ、ご両親を眼の前で殺されてしまったのと魔術で無理矢理洗脳されたせいで、心がもう……」

 

 確かに、この様な報告をしなければならないのなら、アーシアでなくても心が沈んでしまうだろう。正直な所、私もけしていい気分じゃない。それに、アーシアは心霊医術を習得した事で壊れた精神(こころ)も癒す事ができるけど、治した後についてはどうしようもない。両親の命を眼の前で奪われた事は、これから先ずっとこの子の心を苛む事になるのだから。

 ……結局、私が出した結論は武藤神父に後を託すというものだった。

 

「そう。……この子については、精神を治療してから武藤神父に事情を説明して後を任せましょう。あの方は様々な所で助け出した子供達を引き取っているから、こうした子供達の対処を心得ているでしょう。下手に私達が手を出すより、経験豊富な方に後を任せた方が良いわ」

 

 情けないにも程があるとは思う。けれど、忘れてはいけない事がある。

 

 ……私達は、何処まで行っても悪魔だ。

 

 仮に優しく手を差し伸べたとしても、魔術師=悪魔の関係者という図式が一般常識である以上、きっと警戒されてしまうだろう。だから、魔術師の敵という図式が一般常識で成り立っている神父を務める武藤神父に後を託す。それが悪魔である私達があの子に対してできる、せめてもの優しさだった。

 

「……そうですね」

 

 アーシアも何となくだけどそれが解ったみたいで、私の言葉を受け入れてくれた。アーシアもまた一歩ずつ確実に成長しているのが解って、私は内心嬉しく思う。そうしてしばらくすると、上空から激しい衝突音が聞こえてきた。

 

「……始まったわね」

 

 私が空を見上げると、そこには赤と白の閃光が幾度も激しくぶつかり合う光景があった。

 

 赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)白き天龍皇(バニシング・ダイナスト)

 

 今までの諍いから競い合いへと移行した、二天龍の新機軸の戦いがその幕を開けたのだ。

 

「それにしても、あれで挨拶程度なのね。もう私達の理解を越えてしまっているわ」

 

 私が二天龍の戦いを見上げている時だった。

 

「リアスお姉様」

 

 ギャスパーが私に声をかけてきた。

 

「あら、どうしたの?」

 

 私が用件を尋ねると、ギャスパーは真剣な表情で報告してきた。

 

「新校舎の方に凄く強い敵意が現れました。たぶん……」

 

 ……ギャスパーは本当に成長が速い。イッセーから出された課題をもうクリアしていた。この分なら、この子はそう遠くない将来、祐斗や匙君と同様に私やソーナを追い抜いてしまうだろう。イッセーという最高の指導者からその指導を受け続ける限り。

 私は内心に思っている事を表には出さず、引き続き魔術師達の掃討と周辺の警戒を継続する様に指示を出す。

 

「ここまでは順調ね。後は、ノコノコ出向いて来た今回のテロの首謀者さえ叩いてしまえば、今回の騒動は終わりの筈よ。私達はこのまま魔術師達の掃討と同時に周辺の警戒を続けましょう。イッセー曰く「戦場において、残心を忘れた者は必ず死ぬ」らしいから」

 

「はい!」

 

 全員から返事を受けた私は、ここで新校舎に現れたという敵意について「探知」を使用した。

 

 ……何なの、これ? こんな事があっていいの?

 

 敵の詳細な情報を得た私は、きっと顔面蒼白だっただろう。何せ、対抗策自体は幾つかあるものの、現状で実行可能なのは一つしかないのだから。……全てを理解した私の決断は早かった。

 

「皆、言った側から申し訳ないけど、予定変更よ。私はこれから大至急、新校舎の会議室に戻るわ。憐耶、後の指揮はこの中で最も視野が広い貴女が執りなさい。それとギャスパー、貴方は私について来なさい。……最悪の場合、貴方に秘められているモノの力を借りる事になるわ」

 

 そう。策の一環としてイッセーがヴァーリと戦い、紫藤さんとソーナが結界の維持でまともに戦えない現状において、今回のテロの首謀者と思われる敵に有効打を与えられそうなのが、ギャスパーしかいなかった。もしくは、持てる力の全てを解放したお兄様だけど、周りへの影響が余りにも大き過ぎる為に現状ではやはり無理だ。

 

「リアスお姉様……」

 

 ギャスパーの表情がかなり不安げな物になったので、私は特に咎めたりはしない事を伝える。……断片とはいえ、古の魔神の意識を宿しているなんて、早々話せる事ではないのだから。

 

「黙っていた事については、特に何も言わないわ。まずはイッセーに相談して、それから私達にも伝えるつもりだったんでしょう?」

 

 私が確認を取ると、ギャスパーは無言で頷いた。

 

「それならいいのよ。ただ、いざという時の覚悟だけはしておきなさい」

 

 私はギャスパーにそう言うと、ギャスパーは力強く「はい!」と返事してくれた。そして、私とギャスパーは後事を皆に託して、新校舎の会議室へと向かう。

 ……でも、まさかこんな特大の隠し玉を敵が用意していたとは、流石のイッセーも思いもしなかった筈。何故なら、現在会議室に現れた敵はその特性の関係上、天使や堕天使の力ではかすり傷一つ入れられないという絶対的なアドバンテージが存在するのだから。

 

Side end

 

 

 

Overview

 

 ギャスパーが会議室に新たな敵が現れたのを察知する、その直前。

 

「始まったな。イッセーとヴァーリの挨拶代わりの初対戦が」

 

 アザゼルは一誠とヴァーリが校庭の上空で繰り広げる高速戦闘をしっかりと見極めていた。二人が共に笑みを浮かべている事も。一方、アザゼルと同様に一誠とヴァーリの動きを見極められるミカエルは驚嘆と呆れが半々と言ったところである。

 

「これで挨拶代わりですか。……今までの二天龍の戦いとレベルが殆ど変わらない様にしか、私には見えないのですが」

 

 そこで、サーゼクスが一誠とヴァーリについての所感を伝えた。

 

「二人揃って歴代でも最上位だ。今までと比較してそう見えてしまっても、おかしくはないだろう。しかも、どちらもまだ若い。これから更に成長するのは間違いないな」

 

 すると、アザゼルは念を押す様にサーゼクスに確認する。

 

「なぁ、サーゼクス。イッセーはまだ高校生だよな?」

 

 アザゼルの感じた事に内心同意しつつ、サーゼクスはその問いに答えた。

 

「信じがたい事だが、その通りだよ。ただ、その辺りは私よりもむしろ紫藤イリナ君に訊いた方がいいだろう。イッセー君に最も近しい存在は、間違いなく彼女だからね」

 

 一誠の事はイリナに訊け。サーゼクスがそう言うと、アザゼルは納得の表情を浮かべる。

 

「まぁ、イッセーが聖魔和合の一番の目的はこのお嬢ちゃんと添い遂げる為だって、俺達の前ではっきりと宣言しちまう程だからなぁ」

 

 ここで、ミカエルは昨日の面談で話題に上がり、本日の首脳会談に持ち越した事について言及する。

 

「それに、貴女には異世界云々の話について兵藤君と共に話を聞かせて頂く予定でしたからね。その前に襲撃を受けてしまいましたが、事が収まり次第に説明してもらいますよ、イリナ」

 

「解りました、ミカエル様」

 

 ソーナと共にレッドオーブに力を送っているイリナは、ミカエルが先日言っていた事を承諾した。一方、「異世界」という単語が出てきた事で、アザゼルはその話に対して非常に興味をそそられてきた。

 

「……なぁ。こんなバカ騒ぎ、俺達総出でさっさと片付けちまわねぇか? そんな事よりも、イッセー達の話の方が余程面白そうだぜ」

 

 明らかに自分の興味を最優先し始めているアザゼルに、サーゼクスは気持ちは解るとした上でキッチリと釘を刺す。

 

「気持ちは解るよ、アザゼル。だが、ここはイッセー君の策に従って動く事で、彼に更なる功績を重ねてもらおう。そうした方がより好都合だ」

 

 そこにミカエルもアザゼルの抑えに加わってきた。

 

「それに、この作戦の締めを率先して受け持ったのは他でもない貴方でしょう。アザゼル」

 

 サーゼクスとミカエルに窘められたアザゼルは、頭を掻きつつもその言葉を受け入れた。

 

「……解ったよ。そういう事なら、もう少し待つさ。しかし、これじゃ蛇の生殺しだな。さっさと来ねぇかな、このバカ騒ぎの首謀者」

 

 今回のテロの首謀者への悪態を吐きながらも作戦を優先させたアザゼルを見たサーゼクスは、ここで話題を変えるべく禍の団(カオス・ブリゲード)について尋ねてみた。

 

「さて、アザゼル。禍の団についてなのだが」

 

 ここで、アザゼルは改めて禍の団について説明を始める。

 

「あぁ。連中の目的はさっきも言った通りだ。だが、問題は火元である頭でな。コイツのせいで俺達は迂闊に手を出せなかった」

 

 ミカエルはアザゼルが手を出せなかったという禍の団のトップに対する推測を述べた。

 

「貴方がそこまで言う相手となると、候補が相当に限られてきますね。それこそゾロアスターの邪神か、あるいはかの破壊神か……」

 

 しかし、アザゼルの口から出てきた答えはミカエルの推測から外れていた。

 

「悪いが、連中の頭はそれより更に強大で凶悪だ。……何せ、二天龍すら霞んじまう様な最強のドラゴン様だからな」

 

 アザゼルがここまで行った時点で、サーゼクスは敵組織のトップが誰なのかを理解する。

 

「そうか、彼が動いたのか。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス。世界創造の時から最強の座に君臨し続ける、あらゆる神話体系の神が恐れたドラゴン」

 

 サーゼクスがその答えに至り、表情を険しいものへと変えた時だった。

 

『そう。オーフィスが禍の団のトップです』

 

 会議室に突如、女性の声が響き渡ると、会議室の中央に悪魔の者と思しき魔方陣が現れる。

 

「レヴィアタンの魔方陣か。成る程。道理で我々悪魔の情報についてはそれなりに正確だった訳だ。尤も、離反が早過ぎた為か、ここ十日間における駒王学園関係者の詳細な情報までは手に入れられなかった様だが」

 

 サーゼクスはそう口にしたものの、この場にいる年若い悪魔達は揃って首を傾げていた。彼女達の記憶にある現レヴィアタンのセラフォルーが用いる魔方陣とは、明らかに形状が異なっていた為だ。そんな彼女達の疑問に答えたのは、ゼノヴィアだった。

 

「ヴァチカンの書物で見た事がある。あれは、旧魔王レヴィアタンの魔方陣だ」

 

 ゼノヴィアがそう言及した時点で、旧レヴィアタンのものとされる魔方陣から、褐色の肌を持ち、胸元が大きく開いて深いスリットも入った煽情的なドレスを身に纏った一人の女性が現れる。

 

「御機嫌よう、現魔王サーゼクス・ルシファー殿」

 

 彼女がサーゼクスにそう挨拶すると、サーゼクスは確認を取る様に言葉をかけた。

 

「君がここに来たという事は、つまりそういう事でいいのかな? 先代レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン」

 

 その言葉を受けて、カテレア・レヴィアタンは不敵な笑みを浮かべた。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

「探知」無双、始まりました。……それ故に、誰よりも早く絶望を知る事にもなりかねませんが。

では、また次の話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。