赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.29 修正


第九話 天龍戦、開幕

 リアス部長がキャスリングによって旧校舎へと向かった事でいよいよ策を実行に移す段になり、僕はアウラに精神世界へ戻る様に呼び掛ける。

 

「それじゃ、そろそろ僕達も動こうか。アウラ、戻っておいで」

 

「ウン!」

 

 アウラは元気よく返事すると、一瞬で姿を消して僕の精神世界へと戻っていった。次に僕はイリナに声を掛ける。

 

「イリナ」

 

「結界の維持を引き継ぐのね?」

 

 イリナから何をするのかを確認されると、僕はそれを肯定した。そして、ソーナ会長にも引き継ぎを頼む。

 

「あぁ。イリナ、後は頼む。ソーナ会長もお願いします」

 

「解りました。では、イリナ。始めましょうか」

 

「えぇ」

 

 イリナとソーナ会長がお互いの意志を確認すると、イリナは白金のドラゴンの翼を広げた。一方、ソーナ会長は光の呪文を唱えて()(どう)(りき)を高める。

 

「ドーマ・キサ・ラムーン」

 

 二人は準備を終えた所でそれぞれが担当する力をレッドオーブへと注ぎ始めた。僕は結界の制御が二人に移ったのを確認すると、今までレッドオーブに翳していた手をそっと降ろす。こうして僕の出陣準備が終わった所で、ヴァーリもまた出陣の為の準備を開始する。

 

「それでは魔術師達に見せてやろうか、一誠。俺達二天龍の極みにある者の力を。……禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』

 

 ヴァーリは神器を禁手化させると、ドラゴンを象る白い鎧姿になった。神滅具(ロンギヌス)の一つで触れた相手の力を十秒ごとに半減して自分の物とする能力を持つ、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)禁手(バランス・ブレイカー)(ディバイ)(ン・ディバ)(イディン)(グ・スケイ)(ルメイル)だ。戦闘準備を終えたヴァーリは窓から飛び出そうとするが、その前に僕に確認して来た。

 

「ところで一誠、お前は禁手を使わないのか?」

 

 ……これを聞いたら、ヴァーリは驚くだろうな。僕はそう思いながらも、赤龍帝としての現状をヴァーリに伝える。

 

「その機会に恵まれなかったから、まだ禁手には至っていないよ。……尤も、手応えから言って、僕の禁手は間違いなく亜種になるだろうけどね」

 

 未だに禁手に至っていないという僕の言葉を聞いて、ヴァーリは驚きを露わにした。その後、禁手は亜種になるだろうという僕の予測を聞いた時にはその表情を笑顔に変える。

 

「一度に最大五十回の倍加が可能という桁外れな能力を獲得しているから、てっきり禁手にも至っていると思ったんだが違うのか。通常の能力でこれなら、禁手に至ればあるいは不動の最強にすら手が届くかもしれないな。……これで、お前と戦う楽しみがまた一つ増えたよ」

 

 ヴァーリは心底面白くてたまらないと言った面持ちで、先陣を切って窓から飛び出していった。

 

「行くぞ!」

 

「「「「応!」」」」

 

 ヴァーリに続き、僕達も会議室の外へと出る。僕は地上を瑞貴達四人に任せると、念の為に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現させながら上空にいるヴァーリと合流した。そして、そこでまず先制攻撃を自分が仕掛ける事をヴァーリに伝える。

 

「ヴァーリ、まずは僕がまとめて潰す。耐え切るか範囲外の者の刈り取りを任せるぞ」

 

「ホウ、どうするんだ?」

 

 ヴァーリが興味深そうに僕に尋ねて来た。……僕には、こういう時に打って付けの魔法がある。

 

「こうするんだ。……深淵よりなお深き闇に沈め。デアボリック・エミッション!」

 

 僕が魔法の詠唱を終えると、僕を中心として強大な魔力波が発生して敵である魔術師達のみを散々に打ちのめした。当然、範囲内にいた皆や駒王学園の建屋は全くの無傷だ。ヴァーリは僕が取り零した分を次々と亜光速に近い速度で接近、格闘で仕留めながら、本当に面白そうに僕に話しかける。

 

「ホウ。自分を中心とした半径200 mの範囲で強力な純粋魔力波を照射する事で、範囲内の敵を一網打尽にするのか。正に広域型攻撃魔法、しかも敵味方の識別すら可能だとは思わなかったよ」

 

 それに対して、僕は攻撃の手を緩める事無く、コカビエルの時の失敗を繰り返さない様に今度こそ短剣(ダガー)程の大きさに抑えたブラッディダガーを発動し、魔術師達に向けて発射する。そうした後に、ヴァーリに向けて補足説明を始めた。

 

「ついでに言うと、さっき使った魔法は純粋魔力波による攻撃魔法だから、建物を壊さずに敵だけ倒す事も可能だ。その意味では、広域型攻撃魔法なのに施設内での戦闘や敵味方が入り乱れた乱戦状態でも使用可能という正に反則的な魔法だよ。まぁ敵味方の識別については元々はなかった機能だから、後で僕が付け加えたけどね」

 

 因みに、この広域型攻撃魔法における敵味方の識別についてはゼテギネアにおける古代文明の遺産である竜言語魔法を元にしているが、流石にそこまで話す気は僕にはなかった。そうして敵の第一陣を掃討し終えてから敵の様子を窺っていたのだが、僕がデアボリック・エミッションを使用した後も何ら行動に変化のない魔術師達を見て、完全に呆れ返ってしまう。

 

「しかし、向こうは学習能力がないな。まだ無防備に転移魔術を使ってくるのか? 余力を残しながらも、これだけ広範囲の攻撃魔法を使える魔導師を前にして。……ここまで来ると、禁じ手にした筈の転移先の細工をやりたくなってくるな」

 

 ともすれば禁断の誘惑に乗ってしまいそうな僕の発言を耳にしたヴァーリは、流石に捨て置けないとして僕を窘めた。

 

「一誠。俺が言うのも少々アレだが、流石にそれはやめておけ。はっきり言って、ただの弱い者苛めだぞ」

 

「少なくとも、己の欲の儘に世界を踏み躙ろうとする連中にかける情けなんて僕にはない。それにそれくらい下種だと、僕も遠慮なく残酷になれる。……なれるんだけど、アウラと「もう二度と冷血軍師にはならない」って約束してるからね」

 

 僕がそう言うと、赤龍帝の籠手の宝玉が光を放ち、アウラが僕を窘めるべく声を掛けてきた。

 

『パパッ! メッ!』

 

「それに、今もアウラがしっかりと目を光らせているからなぁ」

 

 完全に父親の顔になって苦笑しているであろう僕の姿に、ヴァーリも釣られて苦笑いを浮かべる。

 

「流石の赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)も愛娘には弱かった訳か。まぁ子供を虐待する親や祖父に比べれば、遥かにマシだがな。……んっ?」

 

 ヴァーリが家族に対する己の心情を少しだけ零した時だった。辺り一帯に広がっていた力の波動が急激に弱まったのを、ヴァーリは察知した。僕もまたヴァーリと同様に察知しており、旧校舎の方は特に問題なく戦いが終わりそうだと一先ずは安堵する。

 

「ヴァーリも気付いたか。どうやら、停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の保有者を上手く確保できた様だ」

 

 ヴァーリもこれでいよいよ本命の戦いができると心躍るのを抑えつつ、まずは邪魔になる魔術師達の掃討に取り掛かった。

 

「それなら、後はさっさとコイツ等を片付けるだけだな。それが終われば、いよいよお楽しみの時間だ」

 

「あぁ」

 

 そして、ヴァーリの言葉に同意した僕も白兵戦の構えを見せると、逸脱者(デヴィエーター)特有の天使の白い翼と悪魔の黒い羽、そしてドラゴンの赤い羽をはためかせて魔術師達へと襲い掛かっていった。

 

 僕達が駒王学園の上空で魔術師達と戦っている頃、地上では魔術師達が瑞貴達四人によって散々な目に遭わされていた。

 

 まずは元士郎。元士郎の神器(セイクリッド・ギア)である黒い龍脈(アブソープション・ライン)については今朝の内に色々調べてみたが、やはり今までとは明らかに一線を画していた。まず、ラインが今までより遥かに強靭になっており、僕のクォ・ヴァディスや瑞貴の閻水、それに祐斗の聖魔剣でも力をかなり込めないと切れなくなっていた。その上、ラインを引き戻す力も大幅に増していて、荷物満載の4 tトラックと殆ど変わらないくらいにまで重量を倍加させた漬物石すらも軽々と手元まで引っ張って来ることができた。こうなると余程の怪力自慢でない限りはラインで捕らえた敵を至近距離まで引き込む事が可能であり、最近元士郎が重点を置いて鍛えてきたベルセルク仕込みの格闘術が生きてくる。

 実際、元士郎は一人一人ラインを繋げては自分の手前まで引き込み、その勢いを利用してのクロスカウンターで次々と沈めていった。自分の肉体など殆ど鍛えていないであろう魔術師にとって、どれだけ離れても伸びて来て、更に防御魔法を展開してもまるで紙切れの様に貫いて来るラインと、そのラインを使って淡々と自分達を引き寄せては仕留めていく元士郎は恐怖の対象だろう。

 それに、ラインの形状や能力を駆使した本来の戦い方を封印する事で、元士郎は自分の力を極力隠そうと努めている。その意味では、元士郎は明らかに今後を見据えて行動していた。

 

 次に祐斗。実は、ギャスパー君が封印から解放される少し前に「剣の王」作成の途中経過を尋ねた所、既に複数の魔剣や聖剣を凝縮する事で一本で複数の能力を持つ剣の作成に成功していると言われたので、僕は創り手にして担い手でもある祐斗の血を媒体として天使の光力と悪魔の魔力の結晶体をそれぞれ作成し、それを核に「聖剣の王」と「魔剣の王」の作成に挑戦してみてほしいと頼んでいた。そして今朝、再び進行状況を確認したところ、「聖」や「魔」の力が強過ぎてあと一歩という所で安定しないという事だった。そこで、僕は聖魔剣使いという言葉には二つの意味がある事を祐斗に伝える。

 ……聖魔剣使い。この言葉には「聖魔剣の使い手」という意味の他に「聖剣と魔剣の両方の使い手」という意味もあるという事を。

 その結果が、デュランダルやアスカロンといった伝説級と比較しても何ら遜色のない程の聖なるオーラを放つ聖剣と、それと同等の禍々しいオーラを放つ魔剣の二刀流で闘う祐斗の姿だった。しかも、二つの剣は振るわれる度に全く異なる能力を次々と発動させており、魔術師達は完全に混乱している。

 祐斗の創造できる全ての聖剣を一本に凝縮した「聖剣の王」である天覇の聖極剣(ブレード・オブ・マーター)と全ての魔剣を一本に凝縮した「魔剣の王」である冥覇の魔極剣(ソード・オブ・アドバーサリー)。今後も創造できる聖剣や魔剣の種類が増える度に成長していくこの双子の剣は、聖魔剣を創造できる祐斗の血を核の媒体とした為か、二本一緒でないと安定しない上にお互いに力を高め合っていくという扱いの難しい性質があった。よって、「聖」と「魔」という相反する属性を極めておきながら、存在するには相容れない筈の相手が必要不可欠であり、尚且つ競い合うかの様に力を高めていくという矛盾に満ち溢れた双子の「剣の王」を創造するこの能力は、競覇の双極剣(ツインズ・オブ・コントラディクション)と名付けられた。……ある意味、僕とヴァーリの関係を暗示するかの様だった。

 

 セタンタと瑞貴については、特に語る事はないだろう。セタンタは祖先のクー・フーリンが影の国の魔女スカアハから教わったという原初のルーンを用いたルーン魔術を使って本来なら専門家である筈の魔術師を魔術で圧倒し、瑞貴は自分に放たれた魔法に使われている魔力の集束点を見切り、そこを正確に突く事で容易く無効化していた。そして、氷紋剣の新技で大気に凍気を伝わらせる事で絶対零度程の威力はないものの立体的な有効範囲を持つ紅蓮地獄を使用する事で一気に片をつけていた。

 

 

 

 そうして、上空は僕達が、地上は瑞貴達がそれぞれ掃討して魔術師達が打ち止めになると、僕達は校庭の上空でお互いに対峙した。やがて、周りの様子を窺い終えた僕が初戦闘の開始を持ち掛ける。

 

「……さて。邪魔者はこれで全て片付いたし、変な横槍が入る様子もない。それじゃ、始めようか」

 

「あぁ」

 

 ヴァーリが即答で応じた次の瞬間、僕達はお互いの拳をぶつけ合っていた。拳の衝突で発生した衝撃波が僕達の周りの空間を激しく揺らす。ヴァーリは一度間合いを離すと、自分の拳と衝突した僕の拳の威力に狂喜の表情を浮かべた。そして、僕達はそのまま音速を大幅に超えたスピードで空中戦を開始する。

 

「ハハッ! これが赤き天龍帝の、一誠の拳か! ここまで重い拳と対峙した事は数える程しかないぞ!」

 

 何度も衝突しては攻撃を仕掛けるというやり取りを数秒程で十数回程行い、やがて鍔迫り合いになった時にヴァーリは歓喜の言葉を口にしてきた。それだけ、この戦いが本当に楽しいのだろう。だが、拳の重さについてはヴァーリにとってはそうかもしれないが、僕にとっては僕以上の拳を何度も目の当たりにし、実際にこの身に受けてもいる。……六年前は、それが特に著しかった。

 

「そうか? 僕はこれ以上の拳と結構遭遇しているんだけどな。戦いをコミュニケーションの手段とする鬼族の強者達、特に三千大千世界という名の鬼の拳は本当に重かったよ。神仙と同格以上というあの方は、今まで僕が会ってきた様々な存在の中でも間違いなく最強の一人だと思う。……六年前に戦った時も、あくまで僕や当時一緒に戦っていた仲間の人達の性根を見極めようとしただけで、あの方は全く本気を出していなかった。たぶん、本気を出せばドライグやアルビオンとすら単騎で渡り合える筈だ」

 

 僕が僕の知る限りにおいて最強の鬼について言及すると、ヴァーリは驚きの表情を見せた。

 

「驚いたな。正に強者の極みとも言える様な鬼が存在しているとはね」

 

「流石に三千大千世界様は例外中の例外だけどね。ただ、もし僕の知っている鬼族とヴァーリが出会う事ができたら、ヴァーリの事はきっと気に入ってもらえる筈だよ」

 

 何せ、その性根が非常に似通っている。だから、ヴァーリと鬼族はきっとお互いに上手くやっていけるだろう。……あくまで、出会う事ができればの話だが。

 僕がその考えを伝えると、ヴァーリも僕の話を聞いて自分でもそう思ったのか、口元が笑みで少し緩んでいた。

 

「話を聞いていると、確かにそんな気がしてきたな。それじゃ、続きと行こうか」

 

 ヴァーリが攻撃を再開しようと身構えたが、念の為に僕はアルビオンに呼び掛ける。

 

「アルビオン」

 

『心配せずとも、最初の激突の時に使った能力は既に私の方でキャンセルしておいた。能力を発動した際に、私も理解できたからな。……薄々そうではないかとは思っていたが、お前は本当に存在自体が反則だぞ。一誠』

 

 流石に、アルビオンは気付いたか。アルビオンが手を打ってくれていた事に、僕は正直安堵した。もしあのままだったら、一瞬で全てが終わりかねなかったからだ。

 

「アルビオン、どういう事だ?」

 

 一方、最初の激突で能力を使っていたヴァーリはやや不機嫌そうな表情を浮かべてアルビオンを問い質す。しかし、その不機嫌な表情もアルビオンが説明を開始するまでだった。

 

『ヴァーリ、よく聞け。お前も知っての通り、この白龍皇の光翼の能力は十秒毎に敵の力を半減し、更に半減した力を自分に上乗せするというものだ。また、本来なら奪ったのが天使の光力であっても、魔王の血を引くお前に影響を及ぼさない様に力を作り変えて上乗せするから問題はない。だが、もしお前が一誠に対して後者の能力を使えば、その瞬間にお前は良くて瀕死の重傷、下手をすれば肉体はおろか魂すら消し飛ぶだろう。一誠から奪った「聖」と「魔」の力が、白龍皇の光翼に取り込まれた瞬間に引き起こす対消滅の衝撃によってな』

 

 ここまで聞いて、ヴァーリは納得の表情を浮かべた。……やはり、ヴァーリも頭の回転がかなり速い様だ。おそらくは親代わりであったアザゼルさん譲りなのだろう。

 

「成る程。「聖」と「魔」の共存は、あくまで一誠だからこそ可能という訳か。そして、一誠の手を一度でも離れたら……!」

 

『「聖」と「魔」は本来の相反する関係に戻る。そうなれば、待っているのはお互いを拒絶しての対消滅だ。おそらくは力を作り変える(いとま)もないだろう』

 

 アルビオンがそう断言すると、ヴァーリは溜息を一つ吐いた。

 

「一誠相手に半減はともかくその後で奪った力を俺に上乗せできないのは、相当にキツイな。……だったら、出し惜しみは無しだ! アルビオン!」

 

 ヴァーリが戦意を更に高めると、アルビオンもヴァーリに同調するかのように士気を上げる。

 

『そういう事だ!』

 

『Half Dimension!』

 

 宝玉からの音声と共に、ヴァーリから眩いオーラが立ち上る。その次の瞬間、僕の体に強烈な圧力が掛かってきた。

 

『クッ、一誠! コイツが白龍皇の切り札の一つ! 力だけでなく空間や物体をも含めた、あらゆるものを半分にする能力だ! 周りの空間を半分にされたら、いくらお前でも長くは持たんぞ!』

 

 成る程。能力の対象は何も力だけではないという事か。僕は内心、ヴァーリの力に感嘆した。……しかし。

 

「大丈夫だ、ドライグ! あらゆるものに対して神器の能力を行使できるのは……」

 

『Boost!』

 

「何もヴァーリだけじゃない!」

 

『Transfer!!』

 

 僕が倍加と譲渡の力をほぼ同時に発動させると、僕に掛かっていた圧力はあっという間に消え去る。これを見たヴァーリは、驚き半分感心半分といった面持ちでこちらを見ている。

 

「倍加と譲渡の力で半分にされた空間を元に戻したのか。確かに譲渡能力は触れる必要がなくなった上に、対象を直接倍化できるとは聞いていたが……」

 

『だが、この様な譲渡能力の使い方は初めて見たぞ。能力の持ち主であるドライグですら、己の肉体を強化させる事でこの攻撃を耐え凌いでいたからな。この僅かな間に、早速新しい可能性を見せてくるか』

 

 アルビオンもヴァーリと同じ様な印象を僕に抱いた様だが、僕のターンはまだこれからだ。

 

「それだけじゃない。ヴァーリが実際に見せてくれた事で確信したよ。白龍皇にできるのなら、赤龍帝にできない道理はないってね。……これが、倍加と譲渡を融合させた新機軸! 力だけでなく、空間や物体を含めた、あらゆるものを二倍にする能力だ!」

 

『Double Dimension!』

 

 僕はヴァーリが見せた能力を元に作り上げた新機軸の能力を使ってみせた。ただ、一見何の変化もない様に見える。

 

「一誠。今、何をやった?」

 

 ヴァーリも僕が何をやったのか解っていなかった様で、僕に尋ねてきた。そこで、僕は何を二倍にしたのかを教えていく。

 

「今、僕の周りの空間を半分にされたお返しとして、ヴァーリの周りの空間を二倍にした。ヴァーリ、まずは自分の状態を確認する事をお勧めするよ。空間が半分になれば、その分圧縮されて空間内の()()が増す。……では、その反対はどうなると思う?」

 

 ここまで聞いて、事態に気付いたのはアルビオンだった。彼は焦燥の色を露わにして、ヴァーリに指示を飛ばす。

 

『ヴァーリ! 急いで二倍にされた周りの空間を半分にしろ! 今のお前は、次元の狭間に無防備で放り出されたに等しい状態だ!』

 

「そういう事か!」

 

 ヴァーリもアルビオンが何を言いたいのか理解した様で、再びあらゆるものを半分にする能力を発動させた。

 

『Half Dimension!』

 

 能力を発動した後、ヴァーリは自分の纏っている鎧の装甲に手を触れて確認する。

 

「……危なかったな。いつの間にか、鎧の装甲がかなり薄くなっている。まさか空間を二倍にする事で、空間内にいる存在を少しずつ希薄にしていくとは思いも寄らなかった」

 

 そう。僕が二倍にしたのはあくまでヴァーリの周りの空間だけだ。空間に内包している存在はそのままなので、空間だけが広がるとその存在は希薄になっていき、やがて無へと還る。そして、その影響は存在が大きければ大きい程、より顕著に現れてくるのだ。……つまり。

 

『しかも、これなら天使や悪魔はもちろん神や魔王、果ては私やドライグの様なドラゴンにも通用するだろう。それこそ、何らかの形で倍加された自分の周りの空間を元に戻すか、もしくは周りの空間の影響を受けない様にするかしない限りはな』

 

 今、アルビオンが言った通りだ。この攻撃方法はある意味において世界そのものを武器とする為、それこそ世界よりも大きな存在でもない限りは通用する。そして、この攻撃方法の最大の特徴は、赤龍帝の籠手が倍加というプラスに作用する能力であるだけに、周りの空間を倍加させる事で存在そのものを希薄にしていき、やがて無へと還すという発想には中々思い至らないという思考の死角を突く点に加えて、自覚症状自体が殆どなく徐々に希薄になっていく事から気が付けば手遅れになっているという遅効性と隠密性だ。すると、アルビオンは少しだけ笑い声を上げた後で極めて好戦的な発言をしてきた。

 

『……ククッ。面白い。実に面白いな。それこそ、肉体さえあれば私自ら戦ってみたいと思える程にな! お前とてそうだろう、ドライグ! 一誠の持つ可能性の数々を、他の誰よりも間近で見てきたお前であればな!』

 

 ドライグに同意を求めてきたアルビオンであるが、現実は非情だった。ドライグはある事実をアルビオンに告げる。

 

『アルビオン。スマンが、俺は精神世界で既に何度も一誠と戦っているぞ。まぁ神器抜きで戦えば流石に俺の方が強いんだが、段々簡単には勝てなくなってきている。だからこそ、俺は一誠を対等の友として認めているんだ。しかし、まさか神器に魂を封印された事を感謝する時が来るとは正直思わなかったな』

 

 ドライグのある種の爆弾発言を耳にしたアルビオンは、大声を上げて驚愕を露わにする。

 

『な、何だとぉぉぉぉっ! ドライグ! 貴様、何と羨ましい事を!』

 

 一方、ヴァーリはまるで「いい事を聞いた」と言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「精神世界であれば、二天龍と戦えるのか。コレはいい事を聞いたな。アルビオン。この戦いが終わったら、俺達もやるぞ」

 

 このヴァーリの呼び掛けに対して、アルビオンは幾分冷静さを取り戻すと即答で受け入れる。

 

『もちろんだ、ヴァーリ。このままでは、一誠とは本当に勝負にならんからな。しかしこうなると、一誠の強さの根源にあるのは、創造と発展の両方をこなせる智慧と膨大にして多岐に渡る戦闘経験という事になるな』

 

 アルビオンが僕の強さの根源について触れると、ドライグはそれに同意した。

 

『その認識で正しいぞ、アルビオン。ただな、一誠の膨大にして多種多様な戦闘経験については、俺の方も呆れているんだ。まぁ、詳しい話は後で一誠本人から聞いてくれ。俺もその場に直接居合わせた訳じゃないからな』

 

 ドライグの余りの言い様に、僕は抗議する。

 

「随分と酷い言い草だな、ドライグ」

 

『事実だろうが』

 

 しかし、僕の抗議をドライグが一言で一刀両断してきた。そこで、僕は今までの経験をざっと振り返ってみた。

 

「確かに、人よりは戦闘経験が豊富な方だと思う。でも、異世界に何度も飛ばされたり、その世界の崩壊を目の当たりにしたり、剣と魔法と策謀が交錯する戦乱の真っ只中に放り込まれたりすれば、戦闘経験なんて幾らでも積めると思うんだ。だから、その辺りは余り気にしなくても良いと思うよ。ヴァーリ、アルビオン」

 

 ……うん。おかしな事は何も言っていないな。僕はそう思っていたが、ヴァーリとアルビオンはそうではないらしい。

 

「アルビオン、確認してもいいか? ……今、一誠から爆弾発言が飛び出した上にそれを何でもない事の様に言われたんだが、俺の気のせいだろうか?」

 

『いや。気のせいなどではないぞ、ヴァーリ。私もお前と同じ事を感じたからな。そもそも異世界に何度も飛ばされている時点で、色々とおかしいだろう。確かにアザゼルの言う通り、一誠は少々天然が入っているらしいな。……何か特異な因縁を引き寄せる様な因子でも、一誠は持っているのか?』

 

 ……二人して随分な言い草だった。これ以上話しているともっと酷い事を言われそうな気がした僕は、ヴァーリに戦闘再開を持ち掛ける。

 

「話はそれくらいにして、戦闘を再開しようか?」

 

「それもそうだな」

 

 そして、戦闘を再開しようとしたその時だった。

 

「……どうやら、本命が来たらしいな」

 

 僕は、今まで襲撃を掛けてきた者達の中で最も強い気配を放つ者が会議室に現れた事を察知する。

 

「来たのは、……意外だな。彼女が来たのか。てっきり真なる魔王を自称するあの二人のどちらかだと思ったんだが」

 

「彼女?」

 ヴァーリが会議室の方を見やって確認すると、どうも予想外の人物が現れたらしい。それが気になった僕は、早速会議室の方を見やる事にした。

 

「なっ!」

 

 ……それだけに、その襲撃者の姿を見た瞬間、僕は驚きを隠せなかった。

 

「彼女の名は」

 

 ヴァーリが彼女の名前を告げようとするが、それには及ばなかった。……何故なら、僕は彼女の名前を知っていたからだ。しかし、それ故に疑問が次から次に湧いてくる。

 

「ジーナ・ルディンスだと? だが、それにしては彼女の容姿が四十年程前から殆ど変わっていないのは何故なんだ? ……まさか、彼女は悪魔だったのか?」

 

 僕が考えを纏めていると、それが声に出ていたらしく、ヴァーリが彼女の名前を訂正した上でその素性を伝えてきた。

 

「一誠、お前は一体何を言っている? 彼女の名はカテレア・レヴィアタン。先代魔王の一人であるレヴィアタンの末裔だよ」

 

 ……どうやら、事は思った以上に複雑らしかった。僕はヴァーリに少しだけ時間をくれる様に頼み込む。

 

「ヴァーリ。五分。……いや、三分だけ時間が欲しい。どうしても彼女と話をしたいと言っている()がいるんだが、その為の準備が必要なんだ」

 

 ヴァーリの方も、僕の言動から何かがあったと察してくれた様だ。快く応じてくれた。

 

「……いいだろう。このままでは戦闘に集中できないだろうし、俺もその準備というものに興味がある」

 

「ヴァーリ、感謝する」

 

 僕はヴァーリに感謝を告げると、数ヶ月ぶりにある術を使う準備を始める。……使う術の名は、陽神の術。この奇妙な運命の巡り合わせに、僕は何とも言えない感情を抱いていた。

 




いかがだったでしょうか?

……一誠に後れを取っているヴァーリの挽回はこれからです。

では、また次の話でお会いしましょう。
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