赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.30 修正


第十四話 無限の龍神

Side:紫藤イリナ

 

 不動の世界最強にして一大反抗組織禍の団(カオス・ブリゲード)の首領。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス。

 

 アザゼル様がさっきお話しされていたのは聞いていたけど、敵の首領がこの場に現れるとは全く考えていなかった。それは皆も同じみたいで、動きを完全に止めていた。例外は、必死にイッセーくんの元へ行こうとしているアウラちゃん。そして私はと言えば、アウラちゃんを抱き締める事でそれを必死に抑え込んでいる真っ最中。……レイヴェルトを受け取った時に知ったイッセーくんの過去の記憶。その中で最も強大な力と対峙したのは、次元災害ヒドゥンの時。このオーフィスからはそのヒドゥンに匹敵する程の威圧感を感じられる。だから、私は必死にアウラちゃんを抑え込んでいる。

 そうしてしばらく膠着状態が続くと、やがてオーフィスは私達には大して気にも留めず、ヴァーリに向かって話を始めた。

 

「我、グレートレッドをやっつけたい。だから、グレートレッドにも通用するかもしれない「強大な光の力を持つ者」を探していた。ただ、我が探していた力はドライグの力とまるで違っていた。だから、さっきまで解らなかった」

 

 ……何、それ?

 

 正直な話、オーフィスの話はまるで要領を得ないものだった。ただ、グレートレッドの打倒に只ならぬ熱意を持っている事だけは私にも解った。

 

 真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)、グレートレッド。黙示録に記されている赤いドラゴン。真龍、あるいはD(ドラゴン)×(・オブ・)D(ドラゴン)と呼ばれ、その強さはオーフィスをも超えているという。ただ、この世界に降り立つ事が無い上にこちらから仕掛けなければ害が一切ない事から、この世界における強者のランキングからは除外されているらしい。そして、現在は次元の狭間を支配し、そこで永遠に飛び続けている。

 

 最近、イッセーくんやイッセーくんの指導者の一人であるロシウ老師から色々教わっていて、その中にはドラゴンに関する事も当然入っていた。だから、グレートレッドの名前が出てきた時に、すぐにどんなドラゴンなのかが頭の中に思い浮かべる事ができた。

 ……でも、それなら何故イッセーくんなの? 私がそれを疑問に思っていると、ヴァーリもそれは同じだった様でオーフィスに問い掛ける。

 

「それが、一誠なのか? だが、その根拠は一体何だ?」

 

 すると、禍の団の一員であるカテレアさんも合流した当時の事を語ってくれた。

 

『それは、私も不思議に思っていました。私が禍の団に合流した時、オーフィスからは「世界から神器(セイクリット・ギア)を排除する」為の交換条件として「グレートレッド打倒の為の協力」と共に「強大な光の力を持つ者の捜索」も頼まれました。それだけ、オーフィスにとっては重要な事だったと言えます。しかし、光の力というのが余りに曖昧過ぎて殆どの派閥は本腰を入れて探そうとはしていませんでしたし、私の方もオーフィスから直々に頼まれた事もあって捜索自体はこなしていましたが、見つけられたのが青光矢(スターリング・ブルー)緑光矢(スターリング・グリーン)といった光属性神器の所有者が数名といった所です。尤も、神話や歴史に名を残す英雄の子孫やその魂を宿す者、神器保有者(セイクリッド・ギア・ホルダー)といった人間で構成された英雄派という派閥だけは、オーフィスが直々に求める程の存在に興味を持ったらしく、構成員の半数を使って捜索していた様ですが……』

 

 ……禍の団はどうやら多士済々な組織みたいで、既に人間の派閥も出来ていた。これで神滅具(ロンギヌス)の保有者も合流していたら、油断はできない。私が禍の団に対して改めて警戒する様に心がけていると、オーフィスがカテレアさんに問い掛けてきた。

 

「カテレア。何故、別のドライグの所にいる?」

 

 先程のカテレアさんの話を合わせると、どうやらオーフィスはカテレアさんと面識があった様だ。そこでカテレアさんは自らの現状についてオーフィス説明し始める。

 

『説明が長くなるので端的に言えば、「私は死んで魂となり、生き返った息子の神器に組み込まれた」といったところでしょうか。ただ勘違いしないで頂きたいのですが、私はこの状態をむしろ喜んで受け入れています。これで、クローズと引き離される事はもう永遠にないのですから』

 

「そう」

 

 オーフィスはこれで納得すると、ヴァーリの質問に答え始めた。

 

「ヴァーリの質問に答える。二年前、グレートレッドの本気の攻撃とそう変わらないくらいの災害がこの世界を呑み込もうとしていた。それをドライグは退けた。だから、その力に興味を持った」

 

 ……この言葉を聞いた瞬間、私は煮え滾る激情のままに、オーフィスに怒りの言葉をぶつける。

 

「貴方、ヒドゥンがこの世界を呑み込もうとしていたのを知っていたのね! 知っていたのなら、どうして……!」

 

「ママ……?」

 

 アウラちゃんが戸惑いの声を上げた所で私は我に返ったけど、皆が私の様子を見て戸惑っている。……ただ、レイヴェルトを私から一時期継承した事でイッセーくんの過去を知っているソーナと、「探知」による連鎖の爆発でゼノヴィアから私を通じてイッセーくんの過去を心ならずも知ってしまったリアスさんだけは、私と同様にオーフィスに対して激しい怒りを見せている。

 

「イリナ、一体どういう事でしょうか?」

 

 そこでミカエル様が私に説明を求められてきたので、私は二年前のヒドゥンの件について説明を始めた。……二年前、世界中の皆が知らない内に陥り、そしてイッセーくん達によって未然に防がれていた世界崩壊の危機について。

 

「二年前、この世界の外側からある災害が迫っていました。その災害は別の次元世界ではヒドゥンという名称で呼ばれていて、時の流れを停め、因果律を狂わせる事から時空の嵐であるとされています。本来なら極小さな規模で、それでも一国を数十年で滅ぼしてしまう程の危険なものでした。そんな危険な災害が、よりにもよってその大きさだけで複数の次元世界を飲み込んでしまう程の規模でこの世界に迫って来ていたんです。正に次元災害と呼ぶべき規模となったヒドゥンに立ち向かったのは、たった六人。夜天の王として覚醒していたはやてちゃん、はやてちゃんに従うリインさんとリヒトさん、ふとしたきっかけで魔法の力に目覚めたはやてちゃんの友達とヒドゥンの存在を認識し、その対策に奔走していた異世界の少年魔導師、そしてイッセーくんです。……魔導生命体であるリインさんとリヒトさんについても、二人を作ったのが異世界の魔導文明とはいえ同じ人間である以上、世界の破滅を防ぐ為にこの次元クラスの大災害に立ち向かったのは人間だけなんです。天使も、堕天使も、悪魔も、それどころか、この世界には神話体系が幾つもあって、それだけ多くの神様だっていた筈なのに、誰も世界崩壊の危機に立ち向かおうとはしなかったんです……!」

 

 ……本当に、どうして誰も助けに行ってくれなかったのか。

 

 レイヴェルトを受け取った時、私は無邪気に喜んでいたけど、日記を書いて眠った後でレイヴェルトに宿っていたイッセーくんの記憶を見て、私は悔しくてたまらなかった。

 イッセーくんは色々な経験を重ねて、とても重い物を背負ってしまっていた。特に、御伽噺の世界とゼテギネアの世界での経験はイッセーくんに大きな影響を与える程に重い物だった。この時の経験があったからこそ、ヒドゥンを目の当たりにしても立ち向かう事ができたんだって、私は思う。でも、それでも思ってしまう。

 

 ……もし私がイッセーくんのそばにいれば。少しでも私がイッセーくんの力になれていればって。

 

「マジかよ……!」

 

 私の説明を聞いたアザゼル様の口からは、この言葉しか出て来なかった。他の皆に至っては、言葉すら出て来ない様だった。そして、私は自分の言いたい事を含めて説明を続けていく。

 

「どうやってそんな大災害からこの世界を守れたのか、私も()()詳しい話を聞いた訳ではありません。この事について、イッセーくんは余り話したがりませんでしたから。ただ、参戦した人達が次々と力尽きていく中で、最後に残ったイッセーくんが当時の持てる力の全てを注ぎ込み、それでも少なからぬ代償を払う事でどうにか退けた、とだけ。でも、これだけはハッキリと言えます。この世界に住まう全ての存在にとって、イッセーくんは未来(あした)を繋いでくれた救世主だって」

 

 ……どうやって世界を救ったのか、その方法を私はもちろん知っている。でも、そんな事を軽々しく言える筈がない。だから、イッセーくんから直接は聞いていないという事実を出す事で私の口からは教えない様にしたのだ。ただ、「救世主」という言葉が思わず口を衝いて出て来たけど、あのヒドゥンから世界を救ったイッセーくんはもはや英雄どころか世の救い主たる救世主だと言ってもけして言い過ぎじゃないと思う。それだけの事を、イッセーくんはやり遂げたんだから。

 ……だけどそのせいで、イッセーくんは世界最強の目にも留まってしまった。

 

「そう。ドライグは我でもかなり力を出さないといけない程の大きな災害を相手に立ち向かい、そして退けた。光の力が災害を退けたのを感じた時、光の力を使った者は我と同じ位に強いかもしれないと思った。もしそうなら、一緒に戦えばグレートレッドに勝てる可能性が十分にある。だから、我はこの二年間ずっと探し続けていた。そして今、やっと見つけた」

 

「そういう事ですか!」

 

 このオーフィスの言葉で、ソーナが何かに勘付いた。

 

「当時の持てる力の全てを注ぎ込んだのなら、一誠君はこの時には既にある程度形になっていた真聖剣も使用していた筈! つまり、オーフィスは真聖剣の力を求めて、一誠君を探していたんです! そして、一誠君の光力は真聖剣を由来としていますから……」

 

 ソーナが私の話に合わせる形で推測を話してくれたけど、これだけでは私はピンとこなかった。でも、アザゼル様にとってはこれで十分だったみたいだ。

 

「チィッ! 防御結界で気付かれた所に、光の槍が決定打になったって訳か! そして、コカビエルの時に気付かれなかったのは、その時は強力な結界が展開されていた事で近くにいなかったオーフィスに勘付かれなかったからか!」

 

 アザゼル様の言葉で私はようやく理解できた。……そう。テロ襲撃直後にイッセーくんが展開した多重防壁型の防御結界。アレには光力も使われていた。それで、オーフィスはイッセーくんの事に気付いた。そして、アルベオ・レヴィアタンがクローズ君を狙って放った魔力の刃を撃ち落とした、イッセーくんの光の槍。これが決定打になってしまったという事らしかった。

 ……それだけに、如何に近くにいなかったからとはいえ、世界最強のオーフィスにイッセーくんや真聖剣の光力を感知させなかった封時結界を作ったはやてちゃんの凄さが改めて思い知らされる。

 そして、ここでオーフィスは決定的な言葉を言い放った。

 

「だから、我はドライグを我の眷属にする為にここへ来た。そして今、我の「蛇」をドライグに直接流し込んだ。今まで渡した中で最も強力、そして我との契約を交わす為の特別な「蛇」。これで、ドライグは我の眷属になる」

 

 まだ良く解らない事が多いけど、はっきりした事が幾つかある。

 ……それは、そんな事は絶対に認めちゃいけないという事。そしてそれを認めてしまえば、イッセーくんが永遠にいなくなってしまうという事だ。

 ただ、オーフィスに関してある事がどうしても気になる事があったらしく、アザゼル様はオーフィスに質問をぶつけた。

 

「おい、オーフィス。さっきからグレートレッドにやたら拘っているが、お前の目的は何だ? 今まで世界に全く興味を示さなかったお前が、今更世界征服なんて事もないだろう。まさか、暇潰しでグレートレッドと対決する、なんて今時流行らない事は言わないでくれよ」

 

 アザゼル様のこの質問に対するオーフィスの答えは、私の想像の斜め上だった。

 

「静寂な世界」

 

「はっ?」

 

 オーフィスの答えがまるで要領を得ないものだったらしく、アザゼル様はそのまま問い返してしまう。すると、オーフィスはアザゼル様を真っ直ぐ見据えた上でより詳細な答えを返して来た。

 

「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」

 

 ……次元の狭間。ロシウ老師の話では、そこは世界と世界を隔てる境界にして何もない「無」の世界であり、無限の龍神や夢幻の真龍が生まれた場所とされているとの事。

 このオーフィスの答えを聞いて、アザゼル様はようやくオーフィスの望みを理解したみたいだった。

 

「成る程な。まさか世界最強がホームシックに罹っているとは思わなかったぜ。まぁ確かにそれなら、現在次元の狭間に居座っているグレートレッドは邪魔者以外の何物でもないな」

 

 もしオーフィスの望みが本当に次元の狭間への帰還であり、その為にグレートレッドをどうにかする必要があるのなら、強い相手を求めているというヴァーリは禍の団に寝返っていてもおかしくなかった。……でも、ヴァーリからこんな言葉が飛び出してくるのなら、もうその心配はいらないと思う。

 

「オーフィス。だからと言って、俺達の戦いに水を差していい理由にはならないぞ。なぁ、アルビオン?」

 

『そうだな。そして、これではっきりした。一誠と心置きなく戦う為には、まず禍の団を徹底的に潰さねばならんという事がな。オーフィスよ。頼むから、我々の楽しみを邪魔してくれるな。貴様の眷属になれば、一誠は一誠ではなくなる。それでは困るのだ』

 

 しかも、赤龍帝の宿敵である白龍皇に宿る白い龍(バニシング・ドラゴン)からも、こんな言葉が飛び出して来た。

 一方、オーフィスは無表情だけど、明らかに訳が解らないといった感じでアルビオンにどういう事かを尋ねてきた。

 

「解らない。アルビオン、ドライグとは敵同士だった筈」

 

 すると、アルビオンはついさっき友達になったばかりのイッセーくんに対する心情を語り始めた。

 

『仲良くケンカしよう。その様な事を言ってくれたのは、今までの永い生涯の中でも一誠だけだった。ただ憎しみ合って殺し合うのではない。だが、ただ慣れ合うのも違う。お互いに全力で競い合い、その中で理解し合い、そして高め合っていく好敵手(ライバル)。そんな新しい在り方を一誠は示してくれた。そして何より、私とドライグの争いを一誠は否定しなかった。だから、私もドライグも一誠を友として気に入っているのだ』

 

 ……そっか。周りは誰もが二天龍の争いを忌避していた。でも、イッセーくんだけは形を変える様には仕向けたものの、戦いそのものは拒絶も否定もせずに受け入れていた。だから、普通ならドラゴンに魅せられる所を、逆にドラゴンの方が魅せられちゃったんだ。

 

「そして、先程挨拶代りに軽く戦った時に早速新しい可能性を見せてくれた一誠との戦いを再開しようとした所に、お前が余計な水を差したんだよ。オーフィス。……許せないな。絶対に」

 

 そう言って、ヴァーリはオーフィスに戦いを挑もうと身構えた。でも、オーフィスは首を横に振って断言する。

 

「無理。ヴァーリでは、我に勝てない」

 

 ……そうかもしれない。それどころか、この場にいる私達全員で掛かったとしても、もって数分だと思う。ヴァーリもそれは解っている筈。でも、それでもヴァーリは退かない。

 

「それでもやるさ。一誠もそうする筈だからな」

 

 そして、ここにはイッセーくんの為なら命を張れる人が何人もいた。

 

「手を貸すよ、ヴァーリ。流石に君一人では、彼を一誠から引き離す事すらできないからね」

 

 真っ先にヴァーリに声を掛けたのは、瑞貴さん。その手には、既に聖水で形成された剣が握られていた。

 

「ここで退いたら、俺は一誠さんの一の舎弟を名乗れなくなっちまう。それだけは、たとえ死んでもお断りだ」

 

 それに続くのは、セタンタ君。その手に持ったゲイボルグの穂先をオーフィスへと向けている。

 

「そうだね、セタンタ君。少なくとも、僕はそんな臆病者になり下がった覚えはないよ」

 

 イッセーくんの親友の一人である木場君も参戦を表明した。「聖魔剣使い」のもう一つの意味を示すかの様に、木場君の手には強烈なオーラを放つ聖剣と魔剣が握られている。

 

「あぁ~あ。なんて貧乏くじを引いちまったんだろうな、俺は」

 

 匙君は頭を掻きながら、ウンザリした様な声で愚痴を零した。

 

「では、お逃げになられますか?」

 

 そんな匙君の様子を見たレイヴェルさんが悪戯っ子の笑みを浮かべて尋ねると、匙君は苦笑いを浮かべる。

 

「そいつはちょっと笑えませんって、レイヴェル様。永遠の友情を誓った親友(ダチ)を見捨てたら、俺は一生自分を許せなくなる。たとえ会長のご命令があったとしても、それだけは断固拒否しますよ」

 

 最後は黒い龍脈(アブソープション・ライン)を発現させながら真剣な表情で返事をした匙君に対して、レイヴェルさんは同意を示す様に深く頷いた。

 

「匙殿、それは私も同じですわ。一生ついていくと心に決めた殿方を見捨てるなど、不死と不滅、そしてそれ故に不屈の象徴でもあるフェニックスの名折れ。それこそ、ライザーお兄様を始めとする家族に合わせる顔がなくなってしまいますわ」

 

 レイヴェルさんはそう言い切ると、フェニックスらしく炎の翼を広げながら己の魔力を高める事で戦闘態勢に入る。

 皆、本当は解っている。自分達では、世界最強には太刀打ちできない事を。それは、皆が恐怖に体を震わせているので明らかだ。でも、その恐怖を精神力で強引に捻じ伏せていた。……イッセーくん。本当に、良い人達に巡り逢えたんだね。

 その一方で、リアスさんとソーナの決断は皆とは違うものとなった。

 

「さて、私達はどうしましょうか? リアス」

 

「解り切っている事を尋ねてくるのね、ソーナ。……朱乃、小猫、アーシア、ゼノヴィア。貴女達は待機よ。理由は解るわね?」

 

「こちらも全員待機です。今回ばかりは、役立たずどころか足手纏いにしかなりません」

 

 リアスさんとソーナは自分の眷属達に待機命令を出すと、苦々しい表情を浮かべる。……その指示を出してしまうと、自分達もまたここで待機しなければならない事を悟っていたからだ。

 

「……ただ、そうなると私達も前に出る訳にはいかなくなってしまいますが」

 

「私達まで出てしまったら、折角の待機命令を無視してしまうから、でしょう? 命の危険に晒された(キング)を、助けに行かない眷属などいないのだから。……眷属を有する上級悪魔という立場が、ここまで疎ましいと思えるのはこれが初めてよ」

 

「奇遇ですね。私も全く同じ事を考えていました。……一誠君と立場が逆だったのなら、私は喜んでオーフィスとの戦いに挑むというのに」

 

 二人は立ち向かう覚悟じゃなく、踏み止まる覚悟を決めていた。臆病だからじゃない。力不足で味方の足を引っ張る事を避ける為に。味方に無駄死にさせない様にする為に、リアスさんとソーナは眷属を率いる王として踏み止まった。

 そんな二人の様子を見ていたアザゼル様もまた覚悟を決めたみたいで、サーゼクスさんに声を掛ける。

 

「サーゼクス」

 

 それに対して、サーゼクスさんは頷く事で参戦の意志を示した。そして、セラフォルーさんとグレイフィアさんに指示を出す。

 

「今後の三大勢力の指標となる聖魔和合。その象徴であるイッセー君をオーフィスに奪われる訳にはいかない。ここが、私達の命の懸け所だ。セラフォルー、グレイフィア。これから激しい戦闘になる。二人は戦闘の余波からここにいる者達を守ってくれ。……それと、グレイフィア。もしもの事があったら、後を頼む」

 

「承りました、サーゼクス様」

 

 グレイフィアさんは夫であるサーゼクスさんの覚悟を真摯に受け止め、あくまでメイドとして送り出そうとしていた。

 ……でも、私には解る。ここで妻としての顔を出してしまうと「行かないで」と言ってしまいそうだから、己を殺してメイドに徹しているのだと。

 

「さて、俺もカテレアの時には出し損ねた切り札を出すとするか。幸い、というのも変な話だが、神の子を見張る者(グリゴリ)の組織運営についてはシェムハザが実務を取り仕切っているから、俺が死んでも大きな混乱は起きねぇだろう。だがミカエル、お前は駄目だ。理由はお前自身が一番よく解っているだろう?」

 

 アザゼル様はミカエル様に対しては参戦しない様に言い付けると、ミカエル様は自らの置かれている立場がどういったものなのかを言葉にしていく。……まるで、自らにそう言い聞かせる様に。

 

熾天使(セラフ)を総動員してようやく「システム」を起動させているという現状で天使長である私がいなくなれば、最悪の場合には「システム」が機能を停止してしまう事すらあり得るでしょう。それに、同格の者がいたり後任を据える事が可能だったりする貴方達と違って、天界には私の代わりを務められる者がいません。だから、私は自分の身を第一に考えなければならない。……情けない話です」

 

 戦うべき時に戦えないジレンマに臍を噛むミカエル様を慮り、礼司小父さまは代わりに自分が参戦する事をミカエル様に伝えた。

 

「それなら、ミカエル様の代わりに私が戦いましょう。……レオ君。貴方はこのままミカエル様の側にいて下さい。そして私達が倒れた時には、貴方が皆を安全な場所まで避難させて下さい。貴方のポケモンなら、それができる筈です」

 

 礼司小父さまからそう言いつけられたレオ君は、イッセーくんの救出を小父さまにお願いする。

 

「神父。……お願いです。イッセー兄ちゃんを助けて下さい」

 

「えぇ、承知しました」

 

 礼司小父さまはレオ君の願いを受け取ると共に、今まで掛けていた眼鏡を外した。

 

「レオ君のその願い、私の持ち得る全てを以て必ず叶えてみせましょう」

 

 ……そこにいたのは、既に「子供達を慈しむ優しい神父」ではなく、水氷の聖剣使いすら凌駕する「教会最強の聖剣使い」だった。

 そして、トンヌラさんもまたイッセーくんに雇われた傭兵として参戦の意志を示してきた。

 

「それじゃあ、俺もいきますかね。俺の契約は一年契約で、契約内容は旦那達の指導と護衛だ。ここで旦那を見捨てたら、傭兵としての俺の信用は地の底まで落っこちる。流石にそれは見過ごせねぇ」

 

 そうして戦う者達が出揃った所で、アザゼル様は最終確認を取る。

 

「覚悟は決まったな? ……それじゃ、行くぜ!」

 

「応!」

 

 そして、アザゼル様達は最前列に出てオーフィスと対峙した。

 ……皆が自分のやるべき事を自覚して、それを実行している。それなら、私のやるべき事は既に決まっている。

 

「……ママ」

 

 私はアウラちゃんを連れてクローズ君の方に向かうと、アウラちゃんを預ける旨を伝えた。

 

「クローズ君、アウラちゃんをお願いね。皆がオーフィスをイッセーくんから引き離してくれたら、私の浄化の光でイッセー君に入れられた「蛇」を浄化する。たぶん、それがイッセー君を救う可能性が一番高い方法だから」

 

 ここで、この場にいる中で最もオーフィスの力を知っている筈のカテレアさんが最終確認をしてきた。

 

『如何に彼等が若手としては明らかに逸脱した力を持っていたとしても、更にアザゼルやサーゼクスがついていたとしても、オーフィスをあの場から動かすのは万に一つも良い所。まして、兵藤一誠さんに入れられた「蛇」は、旧魔王の末裔に旧魔王に匹敵する程の力を与えられるという「蛇」をも超える力を持っている筈。それを浄化するとなると、オーフィスをあの場から動かす以上の難事となるでしょう。……それでも、やるのですね?』

 

 この最終確認に対して、私はあえて質問で返す。

 

「カテレアさん。もしあそこで倒れているのがイッセーくんでなく貴女の夫だったら、貴女はどうしますか?」

 

 ……この私の問い掛けに、カテレアさんは苦笑交じりで私の決意を受け止めてくれた。

 

『……尋ねた私が愚かでしたね。貴女の事を一番理解しているのは、間違いなくこの私でしょう』

 

 そして、クローズ君もまたアウラちゃんを預かる代わりにイッセーくんの救出を私に託してくる。

 

「イリナお姉ちゃん。アウラちゃんはボクが見ているから、イッセー兄ちゃんを助けてあげて」

 

「えぇ。任せて」

 

 私はそう返事をした後、いつでもイッセーくんの元へ向かえる様にジッと身構えて機を窺い始めた。

 

 ……待ってて、イッセーくん。私達が、必ず助け出してみせるからね。

 

Side end

 

 

 

「これが、答えだったのか」

 

 何者かによって気絶させられた僕は今、精神世界の奥底で自分の神器の真実に辿り着いていた。

 

「僕の神器は、通常の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)じゃなかった」

 

 ……眼の前の現実が、その全てを物語っていた。

 

「……何故こうなっているのか、理由は解らない。ただ、これだけは言える。僕は、自分の神器を完全な形で発動させる事すらできていなかった。だから、どれだけ多くの鍛錬や経験を積み重ねても、どれだけ困難を乗り越えても、禁手(バランス・ブレイカー)には至れなかったんだ」

 

 何故なら、僕の神器に封印されているドラゴンはドライグの他にもう一頭おり、しかも未だ眠ったままなのだから。

 そのもう一頭のドラゴンの鱗の色は何処か夜空の闇を思わせる青みがかった黒をしており、その姿は手足のない翼の生えた蛇の様だった。……これで体中が傷だらけでなければ、きっと美しい姿だったのだろう。

 

黎き邪龍(ウェルシュ・ヴィラン・ドラゴン)、グイベル。……魂が激しく傷つき、未だ眠り続ける彼女が、僕の赤龍帝の籠手に宿っていたんだ」

 

 ……そう。何らかの原因で歴代の赤龍帝とドライグとは別に彼女も宿してしまった為に、僕の赤龍帝の籠手は亜種となってしまっていたのだ。

 どうやら、僕は赤龍帝としても逸脱者(デヴィエーター)だったらしい。

 




いかがだったでしょうか?

……原作では、結局一度も敵として戦う事がなかったオーフィス。折角なので、拙作では戦わせる事にしました。

では、また次の話でお会いしましょう。
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