赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.31 修正


第十五話 錯綜

 ……始まりは、ウェールズ地方における二頭の縄張り争いからだった。

 

「まさか、俺にここまでの深手を負わせられる程のメスが大して名も知られずにいたとはな。下手すると、龍王最強であるティアマットのババァとすら肩を並べそうだ」

 

「そんな賛辞なんていらないわ。それより、早く私にトドメを刺しなさい。私は貴方に負けた。だから、私の命はもう貴方の物よ」

 

「命乞いをせず、媚びもしないその気高さ。ただ殺すには、余りにも惜しい。それに、お前は自分の命は俺の物だと確かに言ったな。それなら、今日からお前は俺の妻だ! 文句はないな?」

 

「……好きにしなさい。さっきも言ったけど、私の命は貴方の物なのだから」 

 

「そうさせてもらう」

 

 激しい戦いの末、縄張り争いに敗れたグイベルは敗者の掟として自らの命を勝者であるドライグに預けた。一方、勝者であるドライグはグイベルの美しさに加えて、敗者としての運命を受け入れる潔さとけして媚びを売らない気高さに惹かれ、天龍と称される自分に相応しいと己の妻とした。

 そうしてしばらくの間、グイベルの巣の中で二頭だけの時間を過ごした後、グイベルはドライグにウェールズの地を終の住処にする様に持ちかけると、ドライグはこれを了承した。……この頃には、お互いに掛け替えのない存在へと変わっていたのだ。

 

「ねぇ、ドライグ。貴方、このまま私と一緒にここで暮らす気はない?」

 

「そうだな。水と土に恵まれたこの地であれば、将来生まれてくる俺達の子を育てるのに持って来いだろう。だが、その前にやる事がある」

 

「それもそうね。それじゃ、私が引き続きこの巣を守っているから」

 

「俺は他の奴等がここに近寄らない様、睨みを利かせに行ってくる。俺が帰ってくるまでの間、俺達の巣を頼んだぞ」

 

「えぇ、任せて」

 

 ……他のドラゴンに睨みを利かせに出掛けたドライグは、この時思いも寄らなかっただろう。これが、最後に見たグイベルの元気な姿になろうとは。

 

「くぁszぇdfcvtgbぬjkm、おl」

 

「まさか、こんなにも狂った存在が何匹もこの地の底から攻めてくるなんて。……でも、ここは退けないわ。ドライグが帰ってくるまで、この巣は私が守る! ドライグとそう約束したんだもの!」

 

 伝承において、グイベルは大地創造の頃に地震と災厄を齎した事でドライグと戦い、そして敗れた邪龍とされていた。……しかし、真相はほぼ真反対と言っても何ら過言ではなかった。

 彼女は夫と二人で暮らす予定である巣を、そして自分達の子を育てるのに最適だと見込んだウェールズの地を、地の底から忍び寄る異形の存在から守り続けていたのだ。彼女の持つ能力は、波動。あらゆる力の波動を生み出し、また操作する事のできる能力だ。その為、異形の存在から狂気と死を齎す邪なオーラがまき散らされていくと、グイベルはそのオーラと同じ波長を持つ波動をぶつける事で中和した。そして、自らはその狂気と死を齎すオーラによってその身を侵されるのを承知の上で、己の肉体だけを武器に戦った。その結果、激しい戦闘の余波が地震となってしまったのだ。また、そのままでは異形の存在のオーラによって地上に住まう者の全てが狂気に苛まれた後に死に至る所を彼女のお陰で災厄程度に収まっていたのだが、地上に住まう者にはその様な事情など解る筈もない。……その結果、地上に住まう者達は彼女の事を「地震を起こし災厄を齎す邪龍」と誤認してしまった。

 やがて、他のドラゴン達に睨みを利かせ終えて帰ってきたドライグを待っていたのは、異形の存在を全て討ち果たしたものの、死と狂気を齎す邪なオーラによって体はボロボロで息も絶え絶えとなり、今正に死に絶えようとしているグイベルの哀れな姿だった。

 

「俺の知っているお前はとても美しかったのに。こんなにもボロボロになってしまって。……それでも、お前は俺の帰りを待っていてくれたのか? 俺と一緒に暮らす為の巣をずっと守り続けてくれたのか?」

 

「ドライグ。私、まだ死にたくない。だって、貴方の見る私の最期の姿がこんなボロボロで醜い姿だなんて……」

 

「醜くなどない! お前は強く、気高く、そして美しい、俺が心底惚れたお前のままだ! 他の奴等には睨みを利かせた。それでもこの地を奪おうとする者は、俺が全て討ち果たした。だから、ここにはもう誰も寄って来ない。これで、また一緒に暮らせるんだ。……そうだ。これからだ。俺達はまだこれからなんだぞ!」

 

「……ドライグ。貴方に逢えて、本当によかっ……」

 

「グイベル! 目を、目を閉じるんじゃない! 俺を置いて逝くな、グイベル! ……グッ。ウオォォォォォォォッッッ!!!!!!」

 

 ……伝承に記されていた赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)の勝利の雄叫びは、実は最愛の妻を失った漢の慟哭だった。

 

 その後、ドライグはもう一頭の天龍である白い龍(バニシング・ドラゴン)アルビオンと死闘を繰り広げる様になる。しかし幾度も死闘を重ねた最たる理由は、己と同等の相手との戦いに明け暮れる事でその間だけでも最愛の妻を永遠に喪った悲しみを忘れる為だった。

 ……最終的には体を失い、魂だけとなって封印される事になった三大勢力との戦いもまたグイベルが関係している。ウェールズの地を守ったグイベルを邪龍と認定したのは、ケルト人の中でも十字教を信仰する者達だったのだ。

 その身を挺してウェールズの地を守り抜いた最愛の妻を邪龍と貶めた人間達の信仰対象からの横槍は、未だ妻を喪った悲しみの癒えぬドライグにとっては逆鱗を逆撫でする行為でしかなかった。

 

 

 

 ……そして今、何者かの奇襲によって精神世界の奥深くにまで飛ばされてしまった僕の目の前で、ドライグの最愛の妻であるグイベルの魂が激しく傷ついた状態で深い眠りについている。

 

「しかし、真相を知ってしまうと、彼女の事を邪龍なんてとても呼べないな。むしろ、彼女はウェールズの地に加護を齎した黎い麗龍、ウェルシュ・グレイス・ドラゴンと呼ばれるべきだ」

 

 彼女の生涯を垣間見た僕にとって、黎い邪龍(ウェルシュ・ヴィラン・ドラゴン)という名は誤解と偏見による汚名以外の何物でもなかった。だから、僕は彼女への敬意を胸に抱きながら、彼女の容体を確認する。しかし、彼女の容体は僕の想像を遥かに超えて酷かった。

 

「ここまでボロボロなら、普通は魂が崩壊している筈だ。それが未だ崩壊せずに済んでいるのは、異形の存在の死と狂気を齎す邪なオーラが彼女の魂から力を搾取する為に原形を押し留めさせているからか。……なんて皮肉なんだ。彼女を死に至らしめたものが、今度は彼女の魂が無と化すのを妨げていて、そのお陰で僕に彼女の魂が宿る事になった。これでは邪なオーラを祓ってしまうと、魂の崩壊を押し留めていたものが無くなって、彼女は完全に無と化してしまう。幸い、鎮静浄化の効果と共に対象を万全の状態へと回帰させるフルムーンレクトなら、オーラの浄化と魂の復元を同時にこなせる筈だ。ただ、フルムーンレクトは消耗した力を回復できる訳じゃない。このままだと、消耗し切った彼女は永遠に眠り続けたままだ。だから、彼女を目覚めさせるには力を回復させる為の糧が必要になるけど、そんな物を一体何処から調達すれば……?」

 

 僕はグイベルを本当の意味で救うにはどうすればいいのかを考えるものの、名案なんて早々出るものではない。

 

「とりあえず、フルムーンレクトで邪なオーラを浄化してしまおう。全てはそれからだ」

 

 どうしても手立てが思い付かなかった僕は、まずはグイベルの魂を浄化・復元する為にフルムーンレクトの用意を始めた。

 ……僕や僕の周りの現状など、何一つ知る由もなかった。

 

 

 

Interlude

 

 一誠がグイベルの魂の浄化と復元を開始した頃。

 一誠を自分の眷属とする事を目論むオーフィスに対し、ヴァーリを始めとする者達は戦う事を選択した。四大魔王の一人に堕天使の総督。これだけでも相当な戦力である。その上、魔王の血を引く二天龍に教会最強の聖剣使い親子、更には「解」の概念を持つ光力を以て無敵鱗(インビジブル・スケイル)を無力化した傭兵もいる事から、通常であれば間違いなく過剰戦力と見なされるだろう。

 ……だが、彼等の相手が世界最強の存在である以上、これでも戦力が全く足りていないのが現状であった。

 

「……邪魔するなら、容赦しない」

 

 オーフィスは無表情にそう言うと、右手をヴァーリ達の方に向けた。その次の瞬間、膨大なオーラの砲撃を無造作に放つ。アザゼルは、砲撃の余波だけで駒王町は瓦礫の山と化すと判断した。それだけの威力が、オーフィスの攻撃にはあったのだ。

 

『Divide!』

 

 オーフィスの攻撃を前に、ヴァーリが白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の能力で半減させたものの、たった一回で翼の部分が眩いばかりに光を放っている。この時点で、既に白龍皇の光翼とヴァーリの肉体はオーバーフロー寸前に至っており、これ以上の半減吸収は死に直結する事から、ヴァーリは半減吸収を即座に打ち切った。それを見た瑞貴は、一人前に出て砲撃の前に身を乗り出すと、聖水の剣をオーラの砲撃に突き出す。すると、次の瞬間にはオーラの砲撃は完全に霧散してしまった。瑞貴はホッと安堵の息を漏らすと、今何をやったのかを仲間達に解説し始めた。

 

「……フゥ。力は強大という言葉すら霞んでしまうけど、その分だけ力の制御が雑で助かったよ。あれだけ力の集束点がはっきりしていれば、そこを突く事で力を散らして無効化するのは簡単だからね。尤も、ヴァーリが半減した状態でも全力を注ぎ込まないと駄目な辺り、流石は世界最強というべきかな?」

 

 その説明を聞いたアザゼルは、呆れと驚愕と納得が入り混じった複雑な表情を浮かべる。

 

(そんなモン、理論が解っていても到底実行できるモンじゃねぇぞ。力の集束点を見極めてそこを正確に突くという技術的な面でも、一歩間違えば跡形もなく消し飛ぶという砲撃にその身を晒して冷静に事を運ぶという精神的な面でもな。流石、あのイッセーが他の奴と比べても一段上の信頼を置いているだけはあるな)

 

 アザゼルは瑞貴の評価を一段階引き上げた。そして、ヴァーリもまた今の絶技を目の当たりにして興味を持ったらしく、瑞貴に自分から声をかける。

 

「面白いな、武藤瑞貴。お前なら、アーサーとも互角の勝負ができそうだ」

 

「アーサー?」

 

 瑞貴がそう尋ねると、ヴァーリはアーサーという人物について説明を始めた。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)で俺とチームと組んでいる奴の一人で、アーサー王の末裔だよ。先祖の名前をそのまま付けられたらしいんだが、その縁もあるのか聖王剣コールブランドの担い手にもなっている」

 

 ヴァーリからアーサーについて話を聞いた瑞貴は溜息を一つ吐くと、自分の感じた事をヴァーリに伝える。

 

「この分だと、そのアーサーという男も一誠に強い関心を示しそうだよ。そもそも選定の剣であるカリバーンに認められた先代の騎士王(ナイト・オーナー)の末裔が、エクスカリバーを再誕させた騎士王の正統なる後継者に興味を持たない筈がないしね。……それにしても、ヴァーリ。君は本当に一誠とよく似ている。この分だと、一誠の義妹(いもうと)であるはやてちゃんに相当する魔法使いの女の子も君のチームにいそうだね」

 

 ここで、瑞貴に「魔法使いの女の子の仲間」について言及されたヴァーリは、新たな人物の名前を挙げる。話の流れから、間違いなく魔法使いの女の子だった。

 

「確かにいるな。アーサーの妹のルフェイだ。……そう言われると、案外お前の言う通りかもしれない」

 

 割と気が合うらしい二人の様子を見たアザゼルは頭が痛くなってきた。

 

(おいおい。スッカリ和んでいるが、今は戦闘中だぞ。警戒を怠っている訳ではない事は解るが、コイツ等のこの余裕は一体どこから生まれてくるんだ?)

 

 その様なアザゼルの心の声が聞こえたのか、アルビオンがこの場を引き締める。

 

『二人とも、話はそれくらいにしておけ。それにしても、たった一回の半減吸収でオーバーフロー寸前とはな。流石はオーフィスと言ったところか』

 

 ただ、半減の際に得た力が余りに膨大な事にアルビオンもやや呆れ気味だ。そこでヴァーリが自分の切り札との兼ね合いについてアルビオンに尋ねる。

 

「逆に言えば、この力を丸々覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の発動と維持に回せば、自分の魔力や生命力を使わずに済みそうだな。アルビオン、その辺りはどうなんだ?」

 

『この分なら、三十分くらいは魔力を使わずに済むだろう。尤も、力を使い切らない内に再び吸収すれば、間違いなくオーバーフローを起こして死ぬだろうがな』

 

 このアルビオンの返事を聞いたヴァーリは覇龍の温存を選択した。

 

「それなら、今は覇龍を使わずに少し様子を見るか。覇龍を発動すると、他の奴との連携を取るのがかなり難しくなるからな」

 

 一方、思わぬ形で自分の攻撃を無効化された筈のオーフィスには、大して気にする素振りが見られない。

 

「それなら、こうする」

 

 それどころか、更なる攻撃を仕掛けようとしてきた。

 

「させるかよ!」

 

 このオーフィスの動きに対して、元士郎が右手を思いっきり下に下げると、それに連動する形でオーフィスの右手が少しだけ上に向いた。それと同時に、先程よりオーラの量が抑えられたオーラの弾丸がまるでガトリングかマシンガンの様な勢いで何百発も放たれ、その全てが駒王学園の上空へと消えていく。

 

「……意外。ヴリトラの力、まぁまぁ強い」

 

 オーフィスは顔こそ無表情のままだが、明らかに感心した様な素振りで元士郎を褒めた。しかし、褒められた当の本人は苦い表情を浮かべる。

 

「こっちは宙吊りにするつもりで上に全力で引っ張っているってのに、手を少し浮かせただけかよ。見かけは痩せ細った爺さんなのに、何てバカ力だ」

 

 元士郎が愚痴を零していると、セタンタがオーフィスへの突撃を敢行する。

 

「オラァッ!」

 

 セタンタは手に持ったゲイボルグを繰り出した。だが、ゲイボルグはオーフィスを捉えていない。

 

「外した?」

 

 オーフィスが首を傾げる通り、ゲイボルグはオーフィスの足元に突き刺さっていた。しかし、セタンタはニヤリと笑うとゲイボルグに力を送る。

 

「外してねぇよ。狙っていたのは、アンタじゃなくてアンタの足元だから、なぁっ!」

 

 その瞬間、オーフィスの地面が爆ぜた。セタンタはゲイボルグの特性である分裂を使う事でオーフィスの足場を崩したのだ。その結果、オーフィスの体勢が完全に崩れる。

 

「元さん!」

 

「任せろ!」

 

 セタンタの呼び掛けに素早く応えた元士郎は、踏ん張りの効かない一瞬の隙を突いてラインを素早く巻き上げ、オーフィスを宙吊りにした。

 

「我、宙吊り?」

 

 右手のラインで吊られたオーフィスは今の自分の状態を確認する様な事を口にする。そこにレイヴェルが追い打ちをかける。

 

「カイザーフェニックス!」

 

 レイヴェルが放った不死鳥を象る強大な炎の魔力は、オーフィスに向かって一直線に飛んでいく。

 

「ハァァァァッ!!」

 

 そこから更に、祐斗が天覇の聖極剣(ブレード・オブ・マーター)冥覇の魔極剣(ソード・オブ・アドバーサリー)のオーラを全開にして、十文字に振り下ろした。すると、「聖」と「魔」のオーラが込められた斬撃が交差した状態でオーフィスに向かって飛んでいく。斬撃の交差点では「聖」と「魔」の対消滅が発生している為、破壊力がどれ程のものになるのか、アザゼルにすら読み切れなかった。そうした二人の攻撃は、宙吊りになったオーフィスにクリーンヒットする。

 

「……結構やる。でも、我には届かない」

 

 しかし、宙吊りになった事でオーフィスの気が逸れていたにも関わらず、二人の攻撃はオーフィスをその場から動かす事ができなかった。

 

「オーフィス。その台詞は、これを受けてからにしてもらおう。終末の手(ハンド・オブ・カタストロフィ)!」

 

 その様子を見たサーゼクスはアルベオを完全消滅させた終末の手で拳を作ると、そのままオーフィスを思いっきり殴りつけた。流石にこれを食らって踏み止まるのは無理だったのか、オーフィスは大きく吹き飛ばされる。それを確認したアザゼルはすぐさま全員に指示を出した。

 

「オーフィスとイッセーが離れた! 今だ、二人の間に割り込め!」

 

 アザゼルの指示にヴァーリと駒王学園の生徒達は即座に反応し、一誠とオーフィスの間を遮る様に布陣する。

 

(これで、とりあえずはイッセーを確保できたか)

 

 アザゼルはそう判断したが、この考えは余りにも甘かった。

 

「……無駄」

 

 オーフィスの声はアザゼル達の後ろ、つまり一誠が倒れている所から聞こえてきた。オーフィスは、アザゼル達が一誠を確保しようとした途端に本気のスピードで動いたのだ。しかも、アザゼル達が振り向いた時には既に攻撃準備が完了している。オーフィスの一誠を眷属にするという意志は、それだけ固いものであった。そうしてオーフィスの攻撃が放たれようとした時。

 

「ところがどっこい! そうは上手くいかねぇんだよ!」

 

 これを読んでいたトンヌラが狙い澄ました形でオーフィスに突撃し、その顔面に一撃当ててみせた。しかし、オーフィス自身に何らダメージを与えられず、その場から動かす事すらできない。また、トンヌラの場合はそれだけに留まらない。彼はその場からすぐに離脱すると、苦虫を何匹も噛んだ様な表情を浮かべた。

 

「チィッ! コイツの力や体の構造は単純明快だっていうのに、存在そのものが余りに大き過ぎて分解がまるで追い付かねぇ! これが、無限と呼ばれる所以か!」

 

 彼の特性である「解」の概念を以てオーフィスを解析、理解した結果、オーフィスを分解するのはほぼ不可能である事が解ったのだ。

 

「だから、何度やっても……!」

 

 やや呆れた様な雰囲気でオーフィスが無駄である事を言おうとした時だった。

 一誠の体から突然霧が立ち上ったかと思うと、その霧はそのままオーフィスを引き連れて一誠のいる場所から離れていった。霧は一誠から十分に距離を置いたと判断すると、オーフィスから距離を取って人の形へと戻っていく。……霧の正体は、ギャスパーだった。

 

「オーフィス! 一誠先輩は、けして渡さない!」

 

 ギャスパーは力強くそう宣言すると、爪で引き裂く様な形に手を広げて戦う構えを取った。オーフィスも流石にこれには面喰ったらしく、どういう事かと首を傾げていた。

 

「ドライグの側には、確かに誰もいなかった筈。一体いつの間に……?」

 

 すると、ギャスパーは種明かしを始める。

 

「一誠先輩が倒されたその瞬間、僕はヴァンパイアの変身能力でオケラに変身して、地面の下から少しずつ一誠先輩に近付いた。そして、一誠先輩の真下に辿り着いた所で意識が完全に一誠先輩から逸れるこの瞬間まで、皆さんを囮にしてジッと待機していたんだ! ……気にも留めない様な小さな虫けらに出し抜かれた気分はどうかな、ウロボロス?」

 

(イッセーの救出に全力を尽くす為に堕天使の総督と四大魔王を囮に使い、しかも自分に意識を向ける為にあえてオーフィスに挑発を仕掛けるとは、マジで大した度胸をしてやがる)

 

 ギャスパーの説明を聞いたアザゼルは、明らかに若手の枠から逸脱したギャスパーの冷静な判断力と肝の大きさに感心した。……しかし、オーフィスの反応は至って冷静だった。

 

「……別に。それならもう一度、ドライグを我の元に持ってくるだけ。それに、そろそろ「蛇」がドライグを我の眷属にし終える頃。お前のやった事に意味はない」

 

 このオーフィスの言葉を聞いて、女性陣は息を呑む。しかし、ギャスパーは動じなかった。

 

「さて、それはどうだろうね。……一誠先輩なら、「蛇」に屈するどころか逆に飼い慣らして自分の力に変えてしまう筈。だったらそれまでの間、()()が足止めしてみせる!」

 

 それどころか、ギャスパーは闘志を燃え滾らせてオーフィスに挑もうとしていた。このギャスパーの闘志溢れる姿に、トンヌラは感心しつつも負けていられないと奮起する。

 

「あの坊主。僕達なんて言っておきながら、オーフィス相手に自分一人でも戦う気満々じゃねぇか。何年も仕事しているプロとしちゃ、負ける訳にはいかねぇよな。……おい、総督さんよ! いつまでボサッと突っ立っているつもりだ? このままだと、坊主達にいい所を全部持って行かれちまうぞ!」

 

 トンヌラから発破を掛けられたアザゼルは、自分の切り札をここで切る事を宣言する。

 

「あぁ! そうだな、トンヌラ! ガキ共がここまで頑張ってんのに、大の大人が揃いも揃ってこの(ザマ)じゃカッコつかねぇにも程がある! だから、俺のとっておきを見せてやるよ! 神器研究の成果である、俺の傑作人工神器をな!」

 

 アザゼルはそう言うと、柄尻に宝玉を拵えた一本の短剣を取り出した。アザゼルが手掛けた人工神器の最高傑作である、堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)だ。……だが、これが最高傑作である所以はこれからだった。アザゼルが握る堕天龍の閃光槍が変形を始め、幾つのパーツに分かれて光が噴き出し始めたのだ。

 

禁手化(バランス・ブレイク)……!」

 

 アザゼルがそう唱えると、強烈な閃光が一瞬辺りを包み込んだ。光が収まると、そこには強烈なドラゴンのオーラを放つ黄金の全身鎧(プレートアーマー)を纏ったアザゼルがいた。その右手には相当の光力を込めた光の槍が握られている。堕天龍の閃光槍の疑似的な禁手(バランス・ブレイカー)状態である、(ダウン・フ)(ォール・)(ドラゴン・)(アナザー)(・アーマー)だ。

 アザゼルの神器研究の成果を目の当たりにしたトンヌラは軽く口笛を吹いた。

 

「何だ。総督さんも結構面白いモン持ってんじゃねぇか。さて、これで役者も揃った事だ。それじゃ、本格的におっ始めるとするか!」

 

「あぁ! 頼むぜ、ファーブニル!」

 

 トンヌラの声に応えたアザゼルがオーフィスに向かって光の槍を突き出していったのを皮切りに、戦闘参加メンバーは次々と攻撃を繰り出していった。

 もちろん、オーフィスへの有効打とはなっていないが、足止めする事にはどうにか成功していた。そして、そのお陰でイリナは一誠の元へと辿り着く事ができた。

 

「イッセーくん。今、私が助けるからね」

 

 イリナはそう言うと、うつ伏せに倒れていた一誠の体を仰向けにした。そして一誠の胸に手を添えると、白金の光を放つ天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)と一対二枚のドラゴンの翼を発現して浄化の光を流し込み始める。しかし、浄化の光を一誠に流し込み始めた直後から、イリナの表情が険しくなった。……「蛇」の再生能力が余りにも高レベルな為に、浄化が全く追い付いていないのだ。

 

「このままでは埒が明かないわ。もっと直接的な方法でイッセーくんの体の中に浄化の光を流し込む必要があるわね」

 

 そう判断してからのイリナの行動は早かった。

 

「「「「「あぁー!」」」」」

 

 後ろの方で待機している女性陣の内、リアス、ソーナ、アーシア、ゼノヴィア、憐耶が驚きの声を上げる。……イリナは、一誠に口移しで光力を注ぎ込む事にしたのだ。

 そして、その次の瞬間、イリナの意識は別の場所へと飛ばされた。

 

Interlude end

 

 

 

「イッセーくん!」

 

 僕がフルムーンレクトでグイベルの魂を犯している邪なオーラを浄化している最中、イリナの声が聞こえたので魔法を維持したまま声のした方を向くと、そこには龍天使(カンヘル)の姿を露わにしたイリナがいた。

 

「イリナ! ……どうして、イリナが僕の精神世界に来ているんだ?」

 

 僕が疑問を口にすると、イリナは驚いた様な表情を見せた後で逆に僕に質問してきた。

 

「ねぇ、イッセーくん。ひょっとして、現状がどうなっているのか、解っていないの?」

 

 イリナにこの様な事を訊かれた僕は、正直に答える。

 

「現状? ……ゴメン。気がついたらここにいたから、僕が何者かによって気絶させられた事しか解っていないんだ。それに、彼女の事に完全に掛かりきりになっていたしね」

 

 ここで、イリナがグイベルの事を尋ねてきた。

 

「彼女? ……ねぇ、イッセーくん。このドラゴン、一体何者なの?」

 

 ここでイリナの質問にそのまま答えてもいいのだが、それよりもまずはお互いの情報を共有するべきだ。

 

「イリナ。彼女について説明するから、イリナも現状を僕に教えてくれ。話はそれからだ」

 

 そうして僕達はお互いの持っている情報を交換した。

 

「まさか、敵対勢力のトップであるオーフィスが僕を眷属にする為に直々にやってくるとは思わなかったよ。しかも、その為に僕の体に特別製の「蛇」を流し込んだ上、現在皆はオーフィスと戦闘中って、ある意味では最終決戦じゃないか」

 

 僕はイリナから聞かされた現状に、頭を抱えたくなった。ハッキリ言って、精神世界にゆっくりいられる様な状況ではなかった。一方、イリナの方もグイベルに関する話を聞いて、伝承と真相との余りのギャップに戸惑いを隠し切れないでいる。

 

「私の方もびっくりよ。まさか、ドライグの敵役だった黎い邪龍の魂がイッセーくんに宿っていて、しかも実はドライグの奥さんで真相も伝承と全然違うなんて事、話しているのがイッセーくんじゃなかったら全然信じられないもの」

 

 そして、僕はこれらの情報を踏まえてこれからどう行動するべきかをまとめた。

 

「とりあえずはフルムーンレクトで彼女の魂を浄化・復元してから、僕の体に流し込まれた「蛇」を何とかしよう。そうしないと、オーフィスと戦う事すらできなくなりそうだ」

 

「それなら、私は外で引き続き浄化の光を送るから上手く使って」

 

 イリナの提案に対して、内と外で対処した方が結局は早いと判断した僕はそれを受け入れる。

 

「解った。その時は頼むよ、イリナ」

 

 そうして、今後の行動指針を定めた所でフルムーンレクトによる邪なオーラの浄化と万全の状態への回帰が無事に終わった。……その直後だった。

 

「なっ!」

 

 グイベルが閉じていた眼を見開いたかと思えば、一目散に飛び去っていったのだ。

 

「待ってくれ! 貴女はまだ動ける様な状態じゃないんだ!」

 

 僕は慌ててグイベルに動かない様に呼び掛けながら、彼女の後を追う。魂の力が全く回復していない状態で無理に動けば、魂が死に至りかねないからだ。イリナもすぐに僕に追い付き、一緒にグイベルの後を追い駆ける。

 ……そうして、やっとの思いでグイベルに追いついたその先で僕達が目の当たりにしたのは、余りにも尊い一つの愛の形だった。

 




いかがだったでしょうか?

なお、前話でギャスパーについて誰も全く触れていなかったのは、既に行動を開始していた為です。
断じて、忘れられていた為ではありません。

では、また次の話でお会いしましょう。
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