赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.1 修正


第十六話 我的愛龍

Interlude

 

 一誠とイリナがお互いの持つ情報を交換している頃、一誠の精神世界では激闘が繰り広げられていた。

 

『チィッ! オーフィスめ、何という物を入れてくれた!』

 

 舌打ち交じりに悪態を吐くのは、二天龍の一角である赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグだ。彼は現在、一誠がオーフィスによって入れられた「蛇」と激戦を繰り広げている。天龍である自分なら、「蛇」程度は軽く捻り潰せる。ドライグはそう思っていたのだが、「蛇」の力が予想を遥かに超えて強大だった。

 

(先程倒したものの手傷を負わされた「蛇」は、下手をすると龍王クラスに近いものがあるかもしれん)

 

 ドライグは「蛇」の強さをそう判断した。しかも、話はそれだけに留まらない。

 

「えぇぇい!」

 

 アリスが気迫の籠った声と共に「蛇」の頭を蹴り上げると、強烈な一撃に耐え切れずに「蛇」の頭は破裂した。しかし、その後ろには同じ様な「蛇」が何十匹も残っている。流石にドライグに手傷を負わせた「蛇」程の強さはないが、それでも蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)を始めとする上級ドラゴンよりは確実に強かった。

 

「もう! 一体何匹いるのよ、この「蛇」は! こんなにウジャウジャ来られたら、キリが無いじゃない!」

 

 いくら倒しても数を減らす様子のない「蛇」に対して、アリスはすっかり辟易していた。他の場所では、レオンハルトを始めとする最高位の赤龍帝を中心とする歴代の赤龍帝達が多数の「蛇」を相手に戦いを繰り広げており、まだ戦う為の基礎を習得し切っていない数名の年少組については計都(けいと)が結界を張って守っている。

 ドライグは「蛇」の質と数にオーフィスの本気を感じ取っていた。もし一誠が唯の赤龍帝であれば、一誠は為す術なく「蛇」に取り込まれてオーフィスの眷属となっていた筈だった。それがこうして抵抗できているのは、歴代の赤龍帝達が自我を取り戻していた事が極めて大きい。

 

「不味いな。唯でさえ一誠の精神がかなり深い所に飛ばされているというのに、これ以上コイツ等にここで暴れられたら肉体の方が持たんぞ」

 

 結界を展開する為に戦場から離れた場所にいる計都は、それ故に一誠の状態を正確に把握していた。ドライグもそれは理解しているので、エクスカリバーの守護精霊であるカリスに一誠の居場所を確認する。

 

『それは俺も解っている! カリス、どうだ! 一誠は何処にいるか、お前には解るか!』

 

 すると、カリスから意外な言葉が返ってきた。

 

「イッセーの居場所なら、もう解ってる。でも、何か変なんだ。オイラ、ドライグを宿している縁でイッセーと契約したから、イッセーの精神世界についてはおそらく誰よりも知っている。でも、イッセーが今いる場所ってオイラやアウラ、それに赤龍帝の誰とも繋がりのない場所なんだ。正確に言うと、真聖剣や赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)でなく、()()()()()()()()()()()()()場所って言えるかもしれない。こんな場所がイッセーの精神世界にあるなんて、オイラは知らなかったよ」

 

『……どういう事だ、それは?』

 

 ドライグはカリスの発言に対して訳が解らないとばかりに考え込んでしまう。しかし、それがいけなかった。

 

「ドライグ、後ろ!」

 

 アリスの声にハッとなって後ろを振り向くと、今まで対峙してきた「蛇」とは比べ物にならない程に巨大な体躯とドス黒い色の強大なオーラを併せ持つ「蛇」がドライグに襲い掛かろうとしていた。

 

(おそらくは、コイツが「蛇」の本体。そして、強さは俺とほぼ互角といったところか)

 

 ドライグは一目でそう判断したものの、後ろから不意を突かれた事で防御も回避も間に合わなくなってしまった。

 

『チィッ!』

 

 ドライグはどうせ防御も回避もできないのなら、相打ち覚悟の一撃を加える覚悟を固める。幸い、自分と互角の力を持つアリスやアスカロンを得た事で蛇やドラゴンに対する絶対的なアドバンテージを得たレオンハルトを始めとする歴代最高位の連中が未だ健在だ。ならば、自分がここでリタイアになっても問題はない。ドライグはそう判断して、少しでも有利になる様に行動するつもりだった。……それだけに、この後に起こった事をドライグはすぐには信じられなかった。

 「蛇」の本体が、翼と青みがかった黒い鱗を持つ蛇の様な存在の体当たりをまともに食らって勢いよく突き飛ばされたのだ。一方、ドライグの危機を救った存在は体当たりの勢いそのままに地面を滑って行き、やがて勢いを失って横たわるとそのまま深い眠りにつく。

 ……横たわる()()の姿を、ドライグが見間違える筈はなかった。

 

「グイベル……! 死んだお前が何故、一誠の精神世界に……?」

 

 ……一体何が起こったのか、ドライグは理解できなかった。何故なら、たった今自分を助けたのはもう二度と逢えない筈の最愛の妻だったのだから。

 

Interlude end

 

 

 

 どうにかグイベルに追いついた僕達は、そこでドライグの後ろから襲いかかろうとした巨大な「蛇」を突き飛ばすグイベルの姿を目の当たりにした。

 

「ねぇ、イッセーくん」

 

 イリナが何を訊きたいのかを察した僕は、何故あそこでグイベルが動けたのかを説明し始める。

 

「フルムーンレクトによって邪なオーラが祓われると共に、魂も万全の状態へと回帰している。だから、物理的に体を動かす事は可能になっているのは確かだよ」

 

 ……ただ、グイベルの現状が解るだけに今目の前で起こった事が余計に信じられなかった。

 

「でも、魂の力がほぼ枯渇しているから本当は動く事なんてできないし、意識だって当然戻ってはいない。……それなのに。それなのに、ドライグの危機を察して助けに向かうなんて……!」

 

 そこまで説明したところで、僕は瞳から溢れる熱い物を抑える事ができなくなった。そして、イリナもまた涙を流しながら一つの答えを導き出す。

 

「……愛よ。愛の為せる業なのよ」

 

 そう。正に、愛の奇跡だった。

 

『何故お前が一誠の精神世界にいるのか、そんな事はどうでもいい。ただな、グイベル。あの時といい、今といい、お前は余りにも頑張り過ぎだ。疲れ切っているのなら、そのままゆっくり休んでいればいいものを。……この、大バカ者め』

 

 ドライグは今まで聞いた事のない優しい声色で、深い眠りについたグイベルの体を愛おしげに撫でている。そこでグイベル、いやグイベルさんに突き飛ばされていた巨大な「蛇」が僕の姿を見つけると、奇声を上げて襲い掛かってきた。僕は真聖剣を、イリナはレイヴェルトをそれぞれ呼び出してすぐさま身構える。

 

『喧しい! グイベルがゆっくりと休めんだろうが!』

 

 しかし、その前にドライグが今まで一度も見せた事もない程の激しい怒気と共に放った強烈なブレスで「蛇」の頭をあっさりと消し飛ばしてしまった。頭を失った「蛇」は大きな音を立てて地面に倒れ込む。……どうやら、ドライグの戦闘能力はグイベルさんが絡むと桁違いに跳ね上がるらしい。だとすれば、もしドライグとアルビオンが戦いを始めた時にグイベルさんが健在だったなら、二天龍と呼ばれる事はなかったのかもしれない。

 だがその一方で、周りで皆と激闘を繰り広げていた「蛇」達は倒れ込んだ巨大な「蛇」に殺到した後に融合、その結果として吹き飛ばされた頭が次第に再生していく。どうやらこの巨大な「蛇」が本体の様だ。そして、この光景を見た事で僕に天啓が舞い降りてきた。

 

 ……この「蛇」はオーフィスの力の塊。だからこそ、分裂も再融合も可能なのだ。だとすれば。

 

 そこで、アリスが僕に声をかけてくる。

 

「イッセー! 無事だったのね! ……って、どうしてイリナもこっちに来てるの?」

 

 アリスが色々と尋ねて来たので、一つ一つ答えていく。

 

「僕は大丈夫だよ。イリナについては、「蛇」を浄化の光で祓おうとした結果らしい」

 

 僕が簡潔に答えると、カリスが納得した事を伝える一方でグイベルさんについて説明を求めてきた。

 

「解った。イリナについては納得したよ。だったら、後はドライグを助けたあの翼を生やした蛇の様なドラゴンについて説明してほしいんだけどさ」

 

 確かに、グイベルさんの事については情報を共有するべきだ。だが、時間がない。そこで僕は、早速グイベルさんに関する端的な説明を始める。

 

「時間がないから、簡潔に言うよ。彼女の名はグイベル。ドライグに倒された邪龍として黎い邪龍(ウェルシュ・ヴィラン・ドラゴン)と呼ばれているけど、実際はその身を挺してウェールズを死と狂気を振りまく異形の存在から守り抜いたドラゴンだ。そして今、魂の力が枯渇して意識がなかったにも関わらず、夫の危機を察して助けに来たドライグの最愛の妻でもある」

 

 僕のグイベルさん説明に対して、カリスは明らかに困惑していた。

 

「まさか、イッセーにドライグの敵の一頭である黎い邪龍が宿っていたなんて。しかも、実はドライグの奥さんで真相も伝承とは殆ど真反対って、オイラはもう何が何だか……」

 

 だが、カリスの気持ちも解る。僕自身、グイベルさんの記憶を見ていなければ、きっと訳が解らずに途方に暮れていた筈だ。ここで、僕の元へ駆け付けてきたレオンハルトが今はグイベルさんの事は一先ず置いておき、先に「蛇」に対処する様に進言してきた。

 

「一誠様。ドライグの細君については一先ず脇に置き、今は「蛇」の対処を優先させましょう。なお「蛇」についてですが、本体が解った以上、後は私にお任せ頂ければアスカロンで塵一つ残さず滅ぼしてみせましょう」

 

 レオンハルトの頼もしい言葉を聞いた僕は、あえてレオンハルトを抑えた上でロシウに一つ質問をする。

 

「いや、あの「蛇」は使える。だから、アレを形作る核だけを破壊し、肉体を極力損傷を少なくして確保したい。ロシウ、それを踏まえて一つ確認したい事がある。あの「蛇」の核を破壊したとして、肉体はどうなる?」

 

 ロシウは「蛇」の様子を暫く観察した後に、自らの所見を述べてきた。

 

「そうじゃな……。おそらくは核を失った時点で霧散してしまうのじゃろうが、時間操作系の魔法を使えばそれを遅らせる事は可能じゃ」

 

 自分の考えを言い終えたところで、ロシウは納得する様に何度も頷く。

 

「成る程の。そう言われると、確かにあの「蛇」は使えるわ」

 

 ここで、結界を解いて年少組と共にこちらにやってきた計都が問題点を挙げてきた。

 

「ただ、それには一つ大きな問題がある。あの「蛇」には、オーフィスの意向によって宿主をオーフィスの眷属とする為に宿主の精神を喰い尽してしまう性質があるという事だ。それは核を破壊された後も変わらない以上、「蛇」を利用するにはこの性質を何らかの形で取り除いて無害化しなければならない」

 

 すると、イリナが手を上げて浄化の光が有効である事を告げる。

 

「あの、それについては私の浄化の光が有効だと思います。浄化の光は、あくまで悪意ある力だけを祓いますから」

 

 しかし、カリスはイリナに力不足である事をハッキリと指摘した。

 

「イリナ。オイラが思うに、イリナだけじゃ力が足りない筈だ。だから、オイラがイリナに力を貸すよ。オイラはエクスカリバーの守護精霊。聖なる力を高めるのはお手の物さ」

 

 指摘の後に手を貸す事を宣言したカリスに続いて、アリスもまたある事実を口にする。

 

「それにイリナ、カリス。忘れていないかしら? 私達、力を高めて譲る事のできる赤龍帝よ?」

 

 ……これなら、いける。そう判断した僕は戦闘メンバーを皆に伝える。

 

「これから、オーフィスが僕に流し込んだという「蛇」と戦うメンバーを伝える。レオンハルト、ロシウ、計都、ベルセルク、そして僕の五人だ。「蛇」は僕を狙っている以上、僕の戦闘参加は必須になる。そして、後の四名にはそれぞれやってもらう事がある」

 

 そこまで言ってから、僕は戦闘メンバーに選んだ四名に指示を出していく。それに伴い、指示を受けた者はそれぞれの言葉で承知の旨を伝えてきた。

 

「レオンハルトは「蛇」の胴を半分に切り捨ててくれ。その後、ロシウは切り落とした尾の部分の保存処理を行う様に。レオンハルトにはその際のロシウの護衛も命じる」

 

「Yes, your majesty!」

 

「了解じゃ」

 

「計都は「蛇」の動きを止めて、核の正確な位置を割り出してくれ。しかる後、ベルセルクが核を破壊しろ。ベルセルク、頼むぞ」

 

「承知した」

 

「YAHAA! ヤツの核だけを壊せばいいんだな? 確かにそういう事なら、俺が適任だ」

 

 戦闘メンバーへの指示を終えた後は、残った皆に対する指示を出す。

 

「残った者達はまだ戦闘が不可能な年少組の護衛に回り、「蛇」を無力化した後は「蛇」の肉体を浄化するイリナの補助を行う。……芙蓉(フーロン)。イリナの補助については、君達にも参加してもらうよ」

 

「承知致しました、一誠兄様」

 

 そうして各々への指示が行き渡った所で、再生が終わった「蛇」が僕に向かって鎌首を擡げてきた。

 ……僕を視界に捉えた以上、目的を果たす為に僕を襲ってくるのは間違いない。そう判断した僕は、作戦開始を告げる檄を飛ばす。

 

「我等が戦友であるドライグの妻を救う為、僕を傀儡にしようとする「蛇」を降す! 赤き龍の帝王達よ! 僕と共に戦い、友に捧げる未来の幸福を勝ち取れ!」

 

 僕の檄に対して直接「蛇」と戦う四人はもちろん、アリス達やカリス、イリナも力強く返事してくれた。

 

「応!」

 

 その返事が聞こえたのか、「蛇」は僕に向かって強烈なブレスを吐いてきた。それを見た僕は、早速()(どう)(りき)を発動する。

 

「ドーマ・キサ・ラムーン……。魔動力、サークルガーター!」

 

 呪文の詠唱と共に地・風・水という三種の魔動力の全てを融合させ、そのまま両手を前に突き出すと、そこに光の魔法陣を象った円形上の防壁が形成された。三種の魔動力を全て扱える上に融合させる事もできる僕だけの特別製であり、当然防御力も通常のサークルガーターを大幅に上回る。僕が現在扱える中でも特に強力な防御手段だ。なお、サークルガーターはイリナとソーナ会長も使えるが、二人の場合は使用する魔動力の関係上、イリナが地、ソーナ会長は水の魔法陣をそれぞれ象る事になる。

 その結果、サークルガーターは「蛇」の放ったブレスを完全に防いでみせた。尤も、ドライグをして「強化抜きでは全力のブレスでも抜くのは難しい」と言わしめたので、防ぎ切る自信は十分にあったのだが。一方、ブレスを吐いた「蛇」であったが、ブレスを吐いている間は身動きが取れなくなる。その様な大きな隙を見逃す様なレオンハルトではない。

 

()ッ!」

 

 レオンハルトは「蛇」に素早く近付くと気合一閃、「蛇」の胴を二つに斬り落としてしまった。それを確認したロシウは無詠唱で瞬時に転移魔法を使用し、切り離された事でのたうち回っている「蛇」の尾の方に近付くと早速呪文の詠唱を使用し始めた。

 

「時空の狭間に住まう闇龍よ……。我にその奇跡を示せ……! ドミニオン!」

 

 ゼテギネアで僕が習得してきた、古代文明の遺産の一つである竜言語魔法。その一つに対象の時間の流れを完全に停めてしまう「ドミニオン」という魔法があるが、ロシウはそれを使用した様だ。のたうち回っていた「蛇」の尾が、まるで凍り付いたかの様に全く動かなくなってしまった。

 ……これで、「蛇」の肉体は確保できた。次は「蛇」の核の破壊だ。

 ロシウが「蛇」の尾の保存処理を行う一方、「蛇」は接近しているベルセルクや計都にブレスを吐いたり、あるいは牙をむき出しにして襲いかかったりと未だに戦意が旺盛だ。どうやら、まずは邪魔者を排除する方向に切り替えたらしい。だが、それこそがこちらの望む所だった。

 

()ッ!」

 

 計都が人差し指を「蛇」に差して仙道独特の掛け声を掛けると、三つの光輪が蛇の首・胴・そして切断面付近の三か所に現れて「蛇」を締め上げる。すると、「蛇」は何故か直立不動の状態で動けなくなった。文殊菩薩が文殊広法天尊という仙道であった頃に所持していたという遁竜椿という名の宝貝(パオペエ)をモチーフとして計都が編み出した仙術で、三つの光輪が体を締め上げて拘束してしまう遁竜法だ。

 更に、計都はその眼を真っ赤な瞳と金色の虹彩を持つ火眼金睛に変えると、動けなくなった「蛇」をジッと見始めた。それから十秒程した後に一つ頷くと、計都はベルセルクに核の位置を伝える。

 

「ベルセルク! 首から三尺程下にある逆鱗の真下、奴の核はそこだ!」

 

 この計都の掛け声に対し、ベルセルクは無言だった。

 

「コォォォォッ……!」

 

 ベルセルクはこの時、既に呼吸を整えて気を高めていたからだ。そして、「蛇」が遁竜法を破って自由の身になった次の瞬間、ベルセルクの拳が唸りを上げた。

 

「シッ!」

 

 短い呼気と共に放たれたベルセルクの拳は、計都の指摘した箇所を正確に打ち据えた。その衝撃が「蛇」の後ろにまで突き抜けると、「蛇」はゆっくりと倒れていく。……その肉体には、一切の外傷がなかった。ベルセルクの拳が、正確に核だけを破壊したのだ。

 

「ベルセルクめ、やりおるわ。まさか「蛇」の肉体をほぼ全て確保できるとはな」

 

 ロシウは核の完全破壊を確認したのか、残った胴と頭の方にもドミニオンを使用して保存処理を施した。それが終わると、ロシウはイリナに声をかける。

 

「さて、イリナ。ここからはお主の出番じゃ」

 

「はい!」

 

 イリナはハッキリと返事をすると、先程発現したレイヴェルトを胸の前で掲げた。

 

「天におわします我等が父よ。我に不浄なる力を祓い清める光を与えたまえ……!」

 

 イリナが祈りを捧げると、イリナの天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)と翼、そしてレイヴェルトから白金の光が放たれ始める。

 

「……ハッ!」

 

 そして、イリナは気迫の籠った声と共にレイヴェルトの剣先を「蛇」の尾に向けると、その剣先から白金の光が放出されていく。地・風・水の魔動力を融合させて生み出したゾーラドラゴンの力を根源とし、そこにゼテギネアの神竜ディバインドラゴンの力も加わった、イリナだけの浄化の光だ。

 浄化の光は「蛇」の尾に当たると、その箇所からドス黒いとしか表現しようのない色が消えていく。それは少しずつ広がっているのだが、「蛇」が余りに巨大であるのを踏まえると微々たるものだった。

 

「イリナ、行くよ!」

 

 それを見越していたカリスは、イリナの力を高める為に自らの力を注ぎ始めた。すると、「蛇」の色の変化が少し加速する。ただ、やはり「蛇」が巨大過ぎて、それ程有効という訳ではなかった。カリスもそれは解っていた様で、この結果に対してサバサバしたものだった。

 

「手応えは確かにあるんだけど、流石に大き過ぎて有効って訳じゃないか。オイラの力じゃ、これが限界だよ」

 

 ここで、皆の出番だ。

 

「皆、準備はいいわね?」

 

 アリスがそう確認すると、全員が頷く形で返事をした。

 

「それじゃ、行くわよ! 譲渡対象は、「蛇」に当たっている浄化の光!」

 

 アリスが音頭を取ると、皆は赤龍帝の籠手を着けている左手を「蛇」の尾の方へと向けた。そして、譲渡能力である赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)を発動する。

 

『Transfer!!』

 

 ただ、皆の赤龍帝の籠手はレプリカであり、一度に最大五回までしか倍加されない上に譲渡する際はその半分しか譲渡できない。その為、一人では二回分の倍加しか譲渡できない。だからこそ、残っている赤龍帝を総動員したのだ。戦闘に参加したのは五人。残りは四十五人だがアリスについては倍加の制限回数がないので、足りなかった時の為に倍加の蓄積を続けているし、クローズはカテレアさんによって転生悪魔として蘇生している。つまり、残り四十三人が二回分の倍加を譲渡している事になるので、実質的には八十六回分の倍加が為された事になる。……ここまですれば、変化は劇的だった。

 

「「蛇」の色が、どんどん消えていく……!」

 

 カリスが感嘆の声を上げる様に、「蛇」の尾からは色が失われていき、やがて尾の全てが完全に無色となった。

 

「計都」

 

「これなら、意識のないドライグの妻に与えても何ら問題はないな」

 

 僕は計都に確認を取らせると、計都は「問題なし」と太鼓判を押してくれた。ここで、浄化が完了した「蛇」の尾を見ていたロシウがポツリと考えを零す。

 

「フム。しかし、ここまで何者の色にも染まっていない無垢な力となると、他にも使い道がありそうじゃな。……だが、今はまずドライグの妻を救う事を優先せねばなるまい。イリナ、念の為じゃ。残った「蛇」の胴と頭の方も浄化を頼む」

 

 ロシウは考えを切り替えると、残った「蛇」の胴と頭についても浄化する様にイリナに言いつけてきた。イリナは承知の旨をロシウに伝える。

 

「ハイ、解りました」

 

 そうして、今度は「蛇」の胴と頭の浄化を開始した。

 

 

 

 イリナによる「蛇」の胴と頭の浄化は、戦闘に参加していた僕達五人とアリスも加わって譲渡した事で尾の時より早く終わった。そこで今度はグイベルさんにどうやって「蛇」を糧として与えるのかが問題となったが、これについてはドライグが解決案を出して来た。

 

『おい、計都。要するに、グイベルがこの「蛇」を体の中に取り込めばいいんだな?』

 

「あぁ、それで充分だ。しかし、何故それを尋ねる?」

 

 ドライグの確認に対して計都がその通りだと答えた上でその意図を尋ねる。

 

『だったら、簡単だ。こうすればいい』

 

 ドライグはそう言ってから口を大きく開けて「蛇」の尾に噛み付くと、そのまま「蛇」を食い千切って噛み砕き始めた。そうしてある程度細かく噛み砕くと、ドライグはそのままグイベルさんの口へと流し込んでいく。すると、グイベルさんは口に入れられた「蛇」をゆっくりと飲み込んでいった。グイベルさんが反応したのを受けて、ドライグは再び「蛇」の尾に喰らい付く。そうして、意識のないグイベルさんの代わりに「蛇」を咀嚼してから少しずつ与えていくドライグの姿に、僕は夫として妻に捧げる愛情を感じ取っていた。

 

「ドライグ」

 

 僕がドライグに呼びかけると、ドライグはグイベルさんに「蛇」を与えながら僕に詫びてきた。

 

『スマン、一誠。だが、俺は……!』

 

 ……それ以上、ドライグから話を聞く必要はなかった。

 

「解っているよ。オーフィスについては僕が、いや()()が何とかする。だから、ドライグ。今は、グイベルさんを救う事だけを考えるんだ。一度は手の届かない場所に行ってしまったけど、思いがけずに掴み直した手なんだ。どんな事があろうとも、絶対に離すなよ」

 

『……一誠。グイベルの意識が戻り次第、俺もすぐに参戦する。だから、それまでどうにか凌いでくれ』

 

 僕はドライグが一時的に戦線離脱するのを認めると、カリスに真聖剣を主力として戦う事を告げる。ドライグがしばらく表に出られない以上、赤龍帝の籠手はその能力を大きく制限されるからだ。

 

「カリス。今回の戦いでは、真聖剣の全てを出し切るつもりだ。……構わないよね?」

 

 すると、カリスは僕の考えに賛同してきた。

 

「オイラもその方が良いと思う。何たって、相手はあのオーフィスだからさ」

 

 カリスの賛同を得て、僕は真聖剣の切り札を出す決意を固める。しかし、ここでアリスが懸念を呈してきた。

 

「でも、それでも決め手に欠けるんじゃない? どうせなら、さっきイリナにやったみたいに皆で倍加を譲渡できればいいのに」

 

「できるぞ」

 

「……へっ?」

 

 突然のロシウの口出しに一瞬気を取られたアリスを横目に、ロシウは説明を始める。

 

「実は二年前のヒドゥンに対して、儂等はただ見ているだけだったのが悔しくてな。それならせめて力だけでもと思い、歴代の赤龍帝が譲渡した力を一つに集約して一誠に送り届ける術式を研究開発していたのじゃ。その術式は既に完成しておる。極大倍加(マキシマム・ブースト)はおそらくこの術式の影響を受けて発現したものじゃろう」

 

 このロシウの説明を聞いて、僕は譲渡対象について真聖剣よりも有効な物がある事を伝えようとした。

 

「いや、どうせなら真聖剣じゃなく……!」

 

 その瞬間、僕の頭に再び天啓が舞い降りる。その可能性について暫く自分で検討したが、十分いけるという確信を持った。

 

「……ウン、これならいける! 皆、今から対オーフィスの作戦を説明する。それが終わったら、意見をドンドン出してくれ!」

 

 そして、僕は皆に対オーフィスの作戦について説明を始めた……。

 




いかがだったでしょうか?

……アルビオンの絶望の時まで、あと少し。

では、また次の話でお会いしましょう。
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