赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.1 修正


第十七話 抗う者達

Overview

 

 時はイリナが口移しで一誠に浄化の光を供給し始めた頃に遡る。

 

「ドライグの(つがい)なら、あの天使も一緒に連れていく」

 

 龍天使(カンヘル)としての姿を露わにしたイリナの行動の一部始終を見ていたオーフィスは、イリナに秘められたゼテギネアの神竜の力に興味を抱いた。そして、イッセーの番と見なしてイリナも一緒に連れていくという判断を下し、二人の元へと近寄ろうとする。そこに、(ダウン・フ)(ォール・)(ドラゴン・)(アナザー)(・アーマー)を身に纏ったアザゼルが暴走寸前まで光力を注ぎ込んだ光の槍で斬りかかるが、オーフィスの左腕によってあっさりと止められた。しかし、けしてアザゼルが弱い訳ではない。先程の攻撃には、その余波だけで通常の上級悪魔を滅ぼしてしまう程の威力があった。現に、それを示す様にオーフィスの後ろのグラウンドには100 m以上に渡って綺麗な裂け目が入っている。そして、それ程の威力の攻撃に対して何ら痛痒を感じていないのだから、世界最強の名はけして伊達ではなかった。

 

「オーフィス、お前にしては珍しいな。世界に何ら興味がない筈のお前が、イッセーはおろか紫藤イリナにも興味を持つなんてな」

 

 アザゼルが鍔迫り合いを演じながら問い質すと、オーフィスはイリナに感じた事を何ら隠そうとせずに正直に話す。

 

「あの天使、我の知らないドラゴンの力を持っている。……ちょっと違う。我の知らない、でも我に近いドラゴンの力を持っている。だから、ちょっと気になる」

 

 オーフィスから飛び出した発言に対し、アザゼルは首を傾げた後に一誠とイリナから詳しい事情を聞く事を改めて決めた。

 

「お前の知らない、しかしお前に近いドラゴンだぁ? ……こりゃ、いよいよイッセー達に話を聞かないといけねぇな」

 

「それは無理。ドライグもあの天使も、我が連れていく」

 

 オーフィスはアザゼルの発言に対してそう断言すると、至近距離からオーラを放とうと右手にオーラを溜めていく。これを見たアザゼルは慌てて離れようとするが、このままでは回避は不可能だった。

 

「そらよ!」

 

 そこに、トンヌラが「解」の概念の籠った光の槍を投げつける。その光の槍は寸分違わず右手に溜まっていたオーラに当たり、そのまま分解された。これを好機と見たアザゼルはすぐにオーフィスから離れて態勢を立て直す。

 

「済まねぇ。助かったぜ、トンヌラ」

 

「気にすんなよ、総督さんよ。ただでさえ息切れした奴が出始めている所にアンタまでリタイアしたら、圧倒的に不利な形勢が更に悪くなって取り返しがつかなくなるからな」

 

 ……確かにトンヌラの言う通り、アザゼル達は最初から全力を振り絞って戦っている為に消耗が激しく、既に息を切らしている者もいる。それに比べて、オーフィスは傷一つ負わずに涼しい顔をしている。それらを確認したアザゼルはオーフィスの理不尽なまでの強さに愚痴を零した。

 

「クソッ。解ってはいたが、俺達の攻撃が全く堪えてねぇ。こっちはこれでも全力を振り絞っているんだぞ」

 

 それに、アザゼルの愚痴はこれだけに留まらない。

 

「それに足止めって意味じゃ、ガキ共の方がよっぽど活躍しているじゃねぇか」

 

 まるで苦虫を噛んだ様な表情を浮かべたアザゼルの視線の先には、アザゼルと入れ違いで足止めを敢行している十日余りで完全に別人となったギャスパーの姿があった。

 

霧化(トランス・ミスト)!」

 

 ギャスパーは己の体を霧に変えると、オーフィスが仕掛けたガトリング砲の様なオーラの弾幕の全てをやり過ごす。

 

「……しつこい」

 

 既に何度も行われてきたやり取りであるだけに、オーフィスは辟易していた。オーフィスにしてみれば、大して強くもないギャスパーを倒すのは簡単な事の筈だった。しかし、実際は他の誰よりも攻撃を受けながら、誰よりもダメージを受けていない。それがオーフィスを余計に苛立たせていた。更に、ギャスパーもその苛立ちを後押しする様な言葉を浴びせ掛ける。

 

「僕の勝利は、貴方を倒す事じゃない! だから、僕は貴方に嫌がらせをするんだ! 徹底的に!」

 

 一誠復活までの時間稼ぎに徹するギャスパーに対し、オーフィスは先程瑞貴が霧散させたものより大幅に威力を増したオーラの砲撃を放つ。

 

「……消えろ」

 

 自分に強烈なオーラが飛んで来ているのを見たギャスパーは、あえてその場に身を屈めた。

 

「闇よ!」

 

 その次の瞬間、ギャスパーのいた場所にオーラの砲撃が突き刺さる。しかし、オーフィスは首を傾げていた。

 

「手応え、なかった。……逃げた?」

 

 そこで、足元に違和感を抱いたオーフィスはそちらに目を向ける。

 

「……下?」

 

 その次の瞬間、オーフィスの足元から手が伸びてその足を掴むと、そのまま地面の下へと引き摺りこんだ。

 

「影の中に沈んでいる?」

 

 オーフィスが自らの現状に首を傾げていると、離れた場所の影からギャスパーが現れた。

 

「影を使った転移魔法の応用だよ。それなりに楽しめると思うから、闇の底無し沼で暫く遊んでいるといい」

 

 影に潜り込む寸前にギャスパーと交代したバロールはオーフィスにそう言い放ったものの、そう長くは持たない事は誰よりも解っていた。

 

「……んっ」

 

 実際、オーフィスは自分が身を沈めている影から手を出すと、そのまま影の上に手を置いて体を抜き出そうとし始めた。この動きを見て、バロールは闇の底無し沼が破られたと悟る。

 

「手にオーラを纏う事で、実体のない闇を掴んだか。……だったら、こうします」

 

 バロールと交代したギャスパーは地面の中にいる水の精霊と精神感応して液状化現象を起こす為、まずは地面に手を置こうとした。

 

「いや、ここは僕が手を打とう」

 

 そこに祐斗が声をかけると同時に、殆ど闇の底無し沼から抜け出ていたオーフィスの周りに複数の魔剣が突き刺さるとオーフィスの体が再び沈み始める。

 

「また沈む?」

 

 オーフィスが首を傾げていると、仕掛けた張本人である祐斗が種明かしを始める。

 

「ドラゴンのオーラを打ち消してしまう能力を持つ魔剣だよ。流石に龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)程じゃないけど、この状況で闇を掴むのは結構難しいんじゃないかな?」

 

「むっ。……なら、こうする」

 

 オーフィスは手を振り回して衝撃波を生み出す事で手に届かない所で刺さっていた魔剣を退かすと、そこから一気に闇の底無し沼から脱出した。そして、先程と同様に目にも留まらぬスピードで駆け出す。……その次の瞬間、オーフィスは物凄い音と共に顔から地面に倒れ込んだ。よく見ると、顔をぶつけた地面に罅が入っている。それだけ倒れた時の勢いが凄まじかったのだろう。そこに元士郎がオーフィスに声をかける。

 

「オーフィス、いくら世界最強でも足元には十分気をつけないとな。じゃないと、足を掬われるぜ?」

 

 実は、元士郎がオーフィスの足元に黒い龍脈(アブソープション・ライン)のラインを仕掛ける事で、足を引っ掛けてオーフィスを転ばせたのだ。

 

「……痛い」

 

 自分の勢いで転んだ為か、鼻を擦るオーフィスは少し涙目になっている。そこで再び闇の底無し沼がオーフィスを沈め始めた。

 

「祐斗先輩、元士郎先輩、お陰で助かりました」

 

 ギャスパーが祐斗と元士郎に感謝を伝えると、二人は気にしない様に言って聞かせる。

 

「いや、気にするなよ。ギャスパー。それに、お前のお陰で何もオーフィスに対してバカ正直に真っ向から立ち向かう必要はないって気づけたからな」

 

「そうだね。そもそも僕達だけでオーフィスを倒す必要なんて最初からなかったんだ。ここはギャスパー君の言う通り、嫌がらせに徹するのが一番だよ。……それじゃ、続きを始めようか」

 

 ここで、行動方針を共有した三人は闇の底無し沼から出ようとしているオーフィスに対する嫌がらせを再開する。……確実にオーフィスの足を止めているという事実がある以上、この三人はもはや未熟などと言われる事はないだろう。一方、その様子をアザゼルの側で見ているサーゼクスには他の者に比べてまだ余裕があるものの、その表情は厳しかった。

 

「これは後であの三人には何らかの形で褒賞を与えないといけないな。ただ彼等も顔には出していないが、次第に限界が近付いて来ている。このままでは……」

 

 ……全滅する。

 

 その続きが出そうになるが、サーゼクスは寸での所で呑み込む。そこで、偶々二人の側にいたトンヌラが釘を刺す様に口を挟んできた。

 

「だが、こっちには旦那を見捨てるって選択肢はねぇ筈だぜ。それはアンタ達も解ってんだろ。なぁ、総督さんよ?」

 

(何でここまで腕っ節が強くて頭も切れる奴が、今まで名を知られていなかったんだよ?)

 

 トンヌラの発言を聞いたアザゼルはその慧眼に内心驚く。しかも、トンヌラは種族の分類上はネフィリムである為、本来なら堕天使サイドの人間である。こうも立て続けに逃がした魚の大きさが判明してしまった事で、アザゼルは本気で頭が痛くなってきた。

 

(いっそ、トンヌラをこちらへ移籍させる様に現在の雇い主であるイッセーと交渉するか?)

 

 その様な考えが頭を過ぎりながら、アザゼルはここで本来ならあり得た選択肢をあえて口にする。

 

「確かにお前の言う通りだぜ、トンヌラ。イッセー一人の為に三大勢力全体を危険に晒す訳にはいかない。だから、オーフィスの望み通りにイッセーを差し出す。普通なら、俺やサーゼクス、そしてミカエルも三人揃ってそっちを選択していたんだろうがな」

 

 それに対して、サーゼクスはそれが最悪の選択である事を指摘した。

 

「だが、それは最悪の選択だ。オーフィスは次元の狭間で静寂を得たいと言っていた。それはつまり、オーフィスには自分以外の誰も次元の狭間に立ち入らせるつもりはないという事だ。これでもしオーフィスがイッセー君を手に入れて、そのままグレートレッドを倒してしまったら……」

 

 そこでアザゼルはサーゼクスの言葉を先取りする形で、オーフィスが次元の狭間を手中に収めた時にどうなるのかを話す。

 

「間に次元の狭間を挟んでいる人間世界とは行き来ができなくなって、冥界は完全に孤立する。しかも、その時にはオーフィスの眷属と化した事で大幅に強化されるであろうイッセーが次元の狭間の門番になる筈だ。そうなれば、堕天使も悪魔もオーフィスに全面降伏するしかなくなる。さもなければ、破滅だ」

 

 この二人の最悪の予想に対して、トンヌラは己の思う所を語った。

 

「まぁ正直な話、こっちの世界で仕事をしている俺にとっては、冥界がどうなろうと余り関係がねぇ。……ただ雇われ者の仁義としちゃ、俺を信用してくれている旦那を見捨てるって選択肢だけは絶対にあり得ねぇ。ただそれだけの事さ」

 

 傭兵としての筋をキッチリ通そうとするトンヌラの言葉に、アザゼルは雇い主である一誠への嫉妬を露わにする。

 

「あぁクソ! いくらドライグが強い力を引き寄せるからってな、何だってイッセーの所にこんな連中ばかりが集まってくるんだよ! イッセーの奴、マジで引きが良過ぎだろ!」

 

 そこで、トンヌラはアザゼルにある提案を持ちかける。

 

「まぁ、旦那との契約は一年だ。それが満了になったら、じっくりと仕事の話をしようじゃねぇか。なぁ、総督さんよ?」

 

 オーフィスと戦っている最中に一年後の話をするトンヌラに、アザゼルは最初唖然とした。しかし、すぐにその表情を心底面白そうなものへと変える。

 

「今ここで、一年後の話をするのか? ……ハッ。面白ぇな、おい! だったら、まずは何としてでもここを乗り切らねぇとな!」

 

 アザゼルは少々落ち気味だった戦意を上げ直すと、光の槍を構えた。

 

「そういうこった!」

 

 トンヌラも両手に光力を集束させる。そして二人はそのままオーフィスに躍り掛かっていった。その横で戦意がまだまだ旺盛である二人の様子を見て、サーゼクスは安堵する。

 

「この二人はまだ大丈夫だ。しかし、こちらは……」

 

 そう言いながらサーゼクスが視線の向きを変えると、そこには膝を地面について呼吸を激しく乱しているレイヴェルの姿があった。

 

「ハァ……、ハァ……、ハァ……」

 

「おい、大丈夫か?」

 

 祖先が敵国の軍勢に対して一年以上も一人で、しかも不眠不休で戦い続けたというクー・フーリンである為か、この中でも特に底無しのスタミナを持っているセタンタは既に限界を超えている節が見られるレイヴェルに声をかける。すると、レイヴェルは気丈にもまだ戦えると答えた。

 

「ハァッ……、ハァッ……。私は、まだやれます」

 

 実際、その目にはまだ力強い輝きが残っていたが、言っている事と現状が全く一致していない事は誰が見ても明らかだった。そこで、セタンタの隣にいた瑞貴は精神が肉体を凌駕しつつあるレイヴェルの状態をかえって危険だと判断して、レイヴェルを戦線離脱させる事を決断する。

 

「息を切らせながらそんな事を言われても、説得力が全くないよ。……仕方ないな、ここは強制退場させよう。セタンタ」

 

「了解」

 

 セタンタは瑞貴の呼び掛けに応えると、魔力を利き手でない左手の人刺し指に集めた後で空中にルーンを書き始めた。それを見たレイヴェルは、焦りと共に瑞貴とセタンタに猶予を求める。

 

「む、武藤殿! コノル殿! 待って下さい! 私は……!」

 

 限界の体と戦意の衰えない精神というアンバランスな状態のレイヴェルを見たセタンタは、ルーンを描くのを止めると溜息を一つ吐いた。

 

「ハァ……。なぁ、フェニックス家のご令嬢。アンタは心の底から一誠さんを支えたいって思ってんだろ? だったら、アンタは何としてでも生き延びろ。それこそ一誠さんとイリナさん、そしてアウラお嬢さんの三人以外は全員見殺しにしてでもな」

 

 セタンタから飛び出した余りの暴言に対し、レイヴェルは思わず絶句してしまった。そして反論の言葉を口にしようとするが、その前にセタンタが真意を話し始める。

 

「確かに、俺や瑞貴さん、祐斗さんに元さんはアンタより確実に強ぇぜ。けどな、俺達は荒事が専門で戦場以外じゃ一誠さんの力には殆どなれねぇ。その点、アンタは違う。今後、親善大使としていろんな所に出向く事になる一誠さんに何処までもついていける要素をアンタは全て持っている。悪魔の名族出身という生まれの良さ。一誠さんの会話について行ける頭の良さ。それに、俺達に劣るだけで腕っ節もけして弱い訳じゃねぇ。そうした点においてはイリナさんですらアンタには敵わねぇし、その意味じゃ今この場にいる一誠さんと年の近い連中で最も力になれるのは、実はアンタなんだよ」

 

(この方は、そこまで考えていらしたのですか?)

 

 レイヴェルは勇猛果敢で突撃志向であるセタンタの意外な視野の広さを知って、驚きを隠せないでいた。そして、セタンタが真意を話し終えるのを見計らって、瑞貴がレイヴェルに戦線離脱を頼み込む。

 

「言いたい事はセタンタが全部言ってしまったから、僕からは他に付け加える事は何もないよ。だからお願いだ、レイヴェル嬢。ここは僕達を信じて退いてほしい。僕達の替えは利くだろうけど、貴女の替えはきっと利かない筈だから」

 

(一誠様や家族以外で私の事を一番評価してくれているのは、実はこの方達なのかもしれませんわね)

 

 そう思ったレイヴェルは、二人の頼みを受け入れる事にした。ただし、二人に命を投げ出さない様に釘を刺すのを忘れない。

 

「……解りましたわ。ここはお二人の言を受け入れて、大人しく退かせて頂きます。ですが、約束して下さい。必ず生きてこの困難を乗り越えると。一誠様は「命と引き換えに」という事を何よりも厭われますから」

 

 レイヴェルから刺された釘に対し、その様な考えなど毛頭ないセタンタは一笑に付した。

 

「ハッ! そんなモン、約束されなくてもやってやるぜ! 何せ俺は瑞貴さんと同様、一誠さんが独立したら眷属にしてもらう事になっているからな! それまでは、いやそれからも一誠さんの一の舎弟としてどこまでも生き抜いてやるさ!」

 

 一誠に何処までもついて行き、その上で「死なない」というセタンタの覚悟を耳にし、それに同意する様に頷いた瑞貴の姿を確認したレイヴェルは、二人を自分の同士と見なして名前で呼ぶ様に頼む。

 

「そう言えば、そうでしたわね。では武藤殿にコノル殿、今後は私の事をレイヴェルとお呼び下さいな。私も一誠様が上級悪魔になられた暁には、ライザーお兄様との交換(トレード)で一誠様の元へと馳せ参じる予定です。それなら、私達は同じ(キング)を頂く仲間ですわ」

 

 それを聞いたセタンタは、レイヴェルの事を「一誠のお付きのご令嬢」から「同じ主に就き従う仲間」へと認識を改めた。

 

「そうかい。だったらレイヴェル。俺の事はコノル殿なんて他人行儀はなしにして、セタンタと呼んでくれ。仲間に遠慮なんてモンは無用だろ?」

 

 そう言ってニヤリと笑うセタンタを見て、瑞貴も続いてレイヴェルに名で呼ぶ様に呼び掛ける。

 

「僕も瑞貴で構わないよ。レイヴェル」

 

 その様な二人を見て、レイヴェルは笑みを浮かべながら承諾した。

 

「では、そうさせて頂きます。瑞貴さん、セタンタ。後はお願い致します」

 

「あぁ、確かに任された」

 

「だから、心配しねぇで待っていな!」

 

 二人の返事を受けた所で、レイヴェルは残っていた魔力を使ってセラフォルー達が結界を張っている場所へと転移する。レイヴェルの転移が完了した後、二人はレイヴェルの評価を口にした。

 

「……いい子だね」

 

「俺もそう思いますよ、瑞貴さん。全く、一誠さんもいい女に惚れられたモンだ。もしイリナさんがいなかったら、一誠さんの隣に立っていたのはたぶんアイツだったんだろうな。……さて、そんないい女と約束した以上は気合入れて生き残らねぇとな!」

 

 セタンタはそう言いながらゲイボルグを頭上で回す事で気合を入れ直すと、脇に抱えて突撃体勢を取る。それを見た瑞貴はセタンタに声をかける。

 

「行くよ、セタンタ」

 

「オウ!」

 

 力及ばず自分達に後を託した仲間の想いに応える為、二人はオーフィスに立ち向かっていった。その一部始終を目にしたサーゼクスはフッと笑みを浮かべる。

 

「やれやれ。イッセー君には既に眷属候補が三人もいるのか。しかもいずれも一廉の人材と来ている。……ライザーがイッセー君率いる天龍帝眷属のレーティングゲーム参戦を心待ちにするのも頷けるな」

 

 サーゼクスがそう独り言を零した時だった。

 

「……パパ?」

 

 クローズに預けられたアウラが父である一誠の変化に気付いた。

 

「どうしたの、アウラちゃん?」

 

 クローズがアウラに尋ねてみると、アウラからこの上ない朗報が齎される。

 

「ウン。パパ、もう大丈夫みたい。だって、さっきまで感じていた嫌な気配が消えちゃったから」

 

 クローズはアウラからの朗報を聞いて、ホッと安堵の息を漏らした。

 

「ホント! ……良かったぁ」

 

 そして、クローズの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に宿っているカテレアもまた状況が好転したと判断した。

 

『これは朗報ですね。兵藤一誠さんの容体を気にする必要がなくなりましたから』

 

 しかし、一誠の変化に気付いたのは何もアウラだけではなかった。

 

「……まさか、我の「蛇」を退けた?」

 

 オーフィスもまた、一誠に流し込んだ「蛇」との繋がりが絶たれた事から「蛇」が退けられた事を悟ったのだ。すると、オーフィスは今までとは桁違いの力を開放して周りにいた瑞貴達を吹き飛ばすと共にアザゼル達に最終通牒を突き付ける。

 

「アザゼル、サーゼクス。そこを退く。ドライグ、我の「蛇」を退けた。だったら、今度は我の眷属になるまで我が直接力を流し込む。……これ以上の邪魔は、もう許さない」

 

 表情自体はまるで変化していないが、纏う雰囲気と強烈なオーラはオーフィスが本気である事を知らしめるには十分だった。オーフィスの豹変を目の当たりにして一旦距離を取ったアザゼルは、全身から噴き出す冷や汗を抑え切れずにいる。

 

「ヤベェな。イッセーがオーフィスの「蛇」にやられる心配がなくなったのは大変結構なんだが、とうとうオーフィスが本気になっちまった。……だが解っているよな、サーゼクス」

 

 アザゼルは合流したサーゼクスに覚悟を問うと、サーゼクスは頷く事でその覚悟がある事を示した。

 

「あぁ。最悪の場合、私達が捨て石となってイッセー君達を逃がす。どの道、私達以外ではオーフィスの足を止める事すらできないんだ。それなら、死者の数は少しでも減らした方が良い」

 

 ここで、悪魔と堕天使のトップ二人の決死の覚悟に待ったをかける者がいた。ミカエルの代理としてオーフィスとの戦いに参戦している礼司だ。

 

「アザゼル総督、ルシファー様。聖魔和合の旗頭となるべき一誠君の後ろ盾として、お二人は必要不可欠です。ですから、ここは私がその役目を負いましょう」

 

 その礼司に対して待ったをかけたのが、アザゼルと同様に一度オーフィスから距離を取ったトンヌラだった。彼は自分が雇われの身である事を理由に、自ら殿(しんがり)となる事を志願する。……尤も、ここで無駄に命を棄てるつもりなど彼には全くなかったが。

 

「いや神父。それなら俺がやるべきだ。こう言っちゃ何だが、こういう場面で最初に切り捨てるべきは雇われ者であるこの俺だからな。まぁ、心配しなさんな。やる事やったら、さっさとトンズラするからな」

 

 しかし、礼司は逆にトンヌラに対して、ある意味で裏側となる仕事を依頼してきた。

 

「いえ、貴方にはむしろ今後搦め手から一誠君を排除しようとする者達への対処をお願いしたいのです。一誠君の周辺でそれができそうなのは一誠君本人と歴代赤龍帝の長老格であるロシウ老師の他には貴方だけですし、どの勢力にも属さない一誠君個人に雇われた傭兵という貴方の立場がこの場合においてはこの上なく強みになります。私もやってできない事はないのでしょうが、貴方程自由に動ける訳ではありません。ですから、お願いします。どうか、この場は私に譲って下さい」

 

 礼司の言葉に対して反論の余地がない事を認めたトンヌラは、礼司が捨て石となる事を受け入れざるを得なかった。

 

「……解った。だが神父、そいつはもう本当にヤベェって時になってからだ。それまではまだまだ粘り強くやっていこうぜ」

 

 最後まで生きる事を諦めない傭兵としての信念を示すトンヌラに対し、礼司は軽く笑みを浮かべながら同意する。

 

「えぇ、そうですね。まだまだこれからです。そもそも、投げ捨てられる命など私にはありませんでした。今の私には、私の帰りを待っていてくれる子供達がいるのですから」

 

 礼司は一年程前に愛剣となったオラシオンを握り直すと、オーフィスから放たれた今までとは比較にならない威力のオーラの砲撃に対してオーラの流れを剣先で外側からからめ取ってはね返すという絶技を繰り出した。オーフィスは戻ってきたオーラを真っ向から受けたが、全くの無傷だ。しかし、その瞳には若干ながら驚きの色が現れている。その一部始終を見たトンヌラは軽く口笛を吹く。

 

「神父、なかなかやるねぇ。旦那が一目置いているだけはあるぜ」

 

 トンヌラの賛辞を受けた礼司は己の持論を話す事で応えた。

 

「他の種族に比べると、人間はどうあっても肉体の力が弱いですからね。それなら、知恵と技で補うしかないでしょう」

 

 礼司の持論を聞いたトンヌラは、納得したと言わんばかりに大きく頷く。

 

「御尤もだ。それなら、俺も神父に倣うとしようかね!」

 

 トンヌラはそう言うと、「解」の概念の籠った光の槍をオーフィスが再びオーラを右手に溜めて放とうとする所に投げつけた。右手に溜まっていたオーラは、先程アザゼルを援護した時と同様に光の槍によって分解される。そして、今度は二人が前面に立ち、瑞貴達はその援護に回る形で戦い始めた。ただし、年長の二人は己のできる事をしっかりと見極め、その上で無理のない範囲でオーフィスの足止めをキッチリと行っている。百戦錬磨である二人ならではといった所だろう。トンヌラに関しては天使の血を引くので少し違うとはいえ、カテゴリー的にははっきりと人間に分類される二人の働きに、アザゼルとサーゼクスは人間に対する見方を大きく改める必要がある事を認めた。

 

「なぁ、サーゼクス。人間ってのは、俺達が思っているより遥かに強い生き物だな。それこそ、俺達の様な存在に代わって世界を背負える程にな」

 

「その様だ。それに私達が認めたイッセー君の強さの根幹にあるのは、神滅具(ロンギヌス)でも真聖剣でもない。それらを除いた人間としての裸の強さだ。……私達は人間との今後の付き合い方をしっかりと見直すべきなのかもしれないな」

 

 ……そして、遂にその時が来た。

 

 口移しで浄化の光を送っていたイリナが、一誠からゆっくりと離れる。そして、一誠に優しく呼び掛けた。

 

「お帰りなさい、イッセーくん」

 

 すると、一誠の瞳がゆっくりと開かれていく。そして、一誠は最初に目に入ったイリナの呼び掛けに対して返事をした。

 

「ただいま、イリナ」

 

 ……赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)がようやく戦線に復帰したのだ。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

……難産でした。

では、また次の話でお会いしましょう。
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