赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.2 修正


第二十話 突破口

Overview

 

「クソったれ!」

 

 どうしようもない現実を前に、アザゼルは歯噛みするしかなかった。

 

「クッ……! 私もイッセー君も、攻撃は確実に通っている。だが、無限であるオーフィスの肉体をいくら削っても意味がないという事か……!」

 

 心身を著しく消耗した事で髪の色こそ未だに黒いままだが手足の一部がオーラに戻り始めているサーゼクスは、息を激しく乱しながらもオーフィスを睨みつける。一誠も既に立ち上がる力すら失っているのか、地面に膝を着けてしまっていた。体の方も深く傷ついており、呼吸も先程オーフィスの攻撃を受けた時より更に激しく乱れている。一方、オーフィスの体には未だに傷一つなかった。しかし、これは一誠とサーゼクスの攻撃が全く当たらなかったのでも、傷一つ付けられなかったのでもない。……どれだけ体を傷付けられても、即座に修復してしまう為だった。

 

「ドライグもサーゼクスもよくやった。我、これだけ力を出したのはこの世界では初めて。だから、誇っていい」

 

 オーフィスは一誠とサーゼクスに対して素直に称賛する。オーフィスにとって、一誠とサーゼクスは生まれ故郷の次元の狭間を追い出されて以来、それなりに力を出さないと勝てない相手だったからだ。

 

 

 ……一誠とサーゼクスの攻撃は苛烈だった。サーゼクスが今の自分の肉体が「滅び」の魔力そのものである事を生かす為に格闘戦を仕掛けようとオーフィスの方へと向かうと、オーフィスは後ろから攻撃を受けた様にサーゼクスの方へと吹き飛ばされてきた。一誠が極大倍加(マキシマム・ブースト)で著しく増大した事で駒王学園の敷地全体に広がったオーラを操作し、オーフィスの背後からサーゼクスに向かって突き出す様に攻撃を仕掛けた為だ。これを好機と見たサーゼクスはタイミングを合わせて、オーフィスの顔に渾身のストレートを叩き込む。今のサーゼクスの拳は終末の手(ハンド・オブ・カタストロフィ)以上に「滅び」の魔力が集束・圧縮されて威力も大幅に上回っており、オーフィスの頭部を跡形もなく消滅させた。しかし、次の瞬間には何事もなかったかの様にオーフィスの頭部が再生され、たとえ攻撃が通っても意味がない事をまざまざと見せつける結果となる。

 その後も、二人はあらん限りの手を尽くした。ある時は一誠がオーラ操作でオーフィスを袋叩きにしている間に三十回分の倍加を発動、己の才能のほぼ全てを魔力制御に注ぎ込んだサーゼクスの集大成である滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステインクト)にそのまま譲渡してオーフィスに叩き込む。またある時は、オーフィスに掛かる重力に十回分の倍加を譲渡する事でマイクロブラックホールを形成、その中にオーフィスを閉じ籠めてみせた。最後には、サーゼクスが数を重視した滅殺の魔弾でオーフィスを抑え込んでいる内にそもそも一度の発動が限界である筈の極大倍加をもう一度使用するという無謀な試みを敢行、その上で蓄積した倍加の力を一瞬で消耗し尽くす龍拳を放った。

 ……しかし、それでもオーフィスには一切通用しなかった。オーフィスは一誠に強化された滅殺の魔弾によって全身が消滅してもすぐさま復活し、マイクロブラックホールに対してはオーラすら使わず肉体の力だけで弾き飛ばした。また、二人が仕掛けた中でも最大の攻撃となった倍加百回の龍拳については、オーフィスは真っ向から受け止めた事で成層圏まで突き上げられたが、そこで動きが止まってしまった一誠を地表まで叩き落としたのである。一誠は地表に激突する直前にカリスによって再生途中だった真聖剣を抜いて強引に征伐(スレイヤー)を発動、自分に掛かっている速度を「滅ぼして」事なきを得た。その結果、折角再生しかけていた真聖剣がまたも罅割れてしまったが、もしこのまま地表に激突していれば隕石落下よろしく一誠を中心とした半径数 kmは跡形もなく消し飛んでいただろう。

 

 

 

(一体、何をどうすればオーフィスに手を退かせる事ができる?)

 

 アザゼルはオーフィスとの戦闘が始まってから、ずっとそれだけを考え続けていた。アザゼルはそもそも最初からこの場にいる戦力でオーフィスに勝てるとは思っていない。実際の所、実力行使でオーフィスをどうにかしようとするなら、世界に幾つも存在する神話勢力のほぼ全てを結集しなければならない。オーフィスとオーフィス以外の存在との差は、それ程に大きかった。だからこそ、一誠に手を出す事が面倒である事を悟らせる事でオーフィスに手を退かせようとしていたのだが、結果的に一誠とその周りの若者達が頑張り過ぎてしまった。

 オーフィスの目的は元々一誠、正確には一誠の持つ世界に破滅を齎す次元災害を退けた力である。しかし、自分の知らない、しかし良く似たドラゴンの力を持つイリナに興味を抱いたのを皮切りに一誠が戦線復帰する前からオーフィスの足止めに成功していた瑞貴や祐斗、元士郎、ギャスパー、更には一誠と関わった事で歴代を超える成長を見せ始めたヴァーリや自分に僅かながら痛みを与えたセタンタにも関心を示したのだ。そして何より、一誠本人がここまで食らい付いてしまった為に、今やオーフィスは「ドライグの持つ光の力」でなく「光の力を持つドライグ」を欲する様になってしまっていた。

 こうなれば、もはやオーフィスに何らかの大打撃を与える事で退かせるしかない。しかし、それは強者ランキングでも一桁台に入りそうな二人ですら不可能である事は、目の前の光景が証明してしまった。だからこそ、アザゼルの口から「クソったれ!」という言葉が出てきたのだ。

 ……しかし、一誠の瞳は未だ輝きを失っていなかった。

 

「オーフィス。……まだだ!」

 

 一誠は深く傷ついた体を押して宙に舞うと、前転でオーフィスを飛び越えながら赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を着けた左拳をオーフィスの肩に叩き込んだ。しかし限界を超えてしまったのか、赤龍帝の籠手の色が攻撃の一瞬だけ黒くなっており、苦し紛れの一撃であるのは誰の目にも明らかだった。

 

「……そんな攻撃、我には効かない」

 

「それなら、オーラブレイド!」

 

 オーフィスから攻撃が効かない事を伝えられた一誠は、今度は赤龍帝の籠手の宝玉からオーラを剣状に凝縮したオーラブレイドを引き抜く。……真聖剣でも止められたのに高々オーラを凝縮させた剣が通用するとは、アザゼルにはどうしても思えなかった。オーフィスも流石に少々呆れた様な素振りを見せる。

 

「……そんなので我の体は貫けない。ドライグはもう十分過ぎる程頑張った。だから、もう潔く諦める」

 

「ハァァァァァッ!!!!」

 

 しかし、一誠はオーフィスの再度の降服勧告にも構う事無く、大声を上げてオーラブレイドをオーフィスに突き出す。

 アザゼルは、一誠のこの期に及んでの一連の行動を唯の悪足掻きだと思っていた。アザゼルだけではない。サーゼクスやヴァーリもそう思った。……だからこそ、彼等は気付く事ができなかった。

 身の安全の確保の為に後方で待機している筈のリアス達が、その時が来れば即座に飛び出せる様に身構えていた事。元士郎が密かに黒い龍脈(アブソープション・ライン)を発動させていた事。そして、一誠の傷と体力がいつの間にか全回復している事に。

 

 

 

 時は、一誠が極大倍加を発動させた直後に遡る。

 

 未だ禁手(バランス・ブレイカー)に至っていない一誠が赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)をも超える力である極大倍加を目の当たりにした後方組の反応は様々だった。

 

「これが真聖剣に並ぶ兵藤君の、赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)の切り札の一つなのですか……!」

 

 一誠が膨大なオーラによって一つの世界を作り上げたのを目の当たりにしたミカエルが感嘆の声を上げると、倍加の蓄積能力を最大限に生かせる一誠の最大火力を知っているレイヴェルは確かな希望を抱いた。

 

「この状態でライザーお兄様との模擬戦で使われた龍拳を使用すれば、あるいはオーフィスを……!」

 

 しかし、ここでグレイフィアが冷静な表情と言葉で釘を刺す。

 

「ですが、オーフィスの特性は「無限」。つまり、使える力の強さに上限がありません。いくら兵藤様が力を高める赤龍帝といえども、オーフィスには……」

 

 そこに、セラフォルーが普段の魔法少女の振る舞いからはかけ離れた激しい口調でグレイフィアを窘めた。

 

「グレイフィアちゃん! お願いだから、言葉をもう少し選んで! ここには、アウラちゃんがいるのよ!」

 

 その言葉にハッとなったグレイフィアはアウラ達のいる所に視線を向ける。

 

「パパ……。お願いだから、死なないで……!」

 

 ……そこには、死力を尽くして戦わんとする父親の姿を見て、恐怖と不安に震えて泣いているアウラの姿があった。己の非を悟ったグレイフィアはその場で謝罪する。

 

「申し訳ございません。アウラ様への配慮が足りていませんでした」

 

 一方、アウラが恐怖と不安に震える姿を前にしながらも何もできない無力感に苛まれていたリアスは、ポンと誰かに肩を軽く叩かれた様な気がした。リアスはすぐに振り返るが、自分の肩を叩ける距離には誰もいなかった。リアスは最初不思議に思ったが、ふとある事に思い当たるとすぐに瞳を閉じた。そしてしばらくすると、リアスはゆっくりと瞳を開く。……笑みを浮かべた彼女の瞳からは、一筋の涙が流れていた。

 

「イッセー。貴方は、私ならたったあれだけの事で気付いてくれるって信じてくれたの? ……いいわ。そういう事なら、証明してあげる。私が天龍帝の歩みを支える「后」に相応しい女だって事を」

 

「リアス?」

 

 リアスの少々場違いな発言を耳にしたソーナは、思わずリアスに声をかけてしまった。しかし、リアスはソーナの言葉には応えず、流れる涙をサッと拭い去るとそのままその場にいるリアスとソーナの眷属達に話し始める。

 

「皆、よく聞きなさい。イッセーにとって、今の極大倍加ですら対オーフィス用の秘策の準備が完了するまでの時間稼ぎに過ぎないわ。そして、その秘策を誰も犠牲にせずに成功させる鍵を握っているのは、他でもない私達よ。今からそれを説明するけど、その前にレイヴェルは風の操作をお願い。オーフィスにこれを聞かれる訳にはいかないわ」

 

「解りましたわ」

 

 リアスの指示を受けたレイヴェルは残り僅かな魔力を振り絞り、リアスの声が自分達以外には聞こえない様に風を操作する。

 

「イッセーさんの秘策……」

 

 アーシアがポツリと呟く中、リアスは説明が終わった後に意志を確認する旨を伝えた。相手が相手だけに心と体がバラバラに反応する恐れがあった為である。

 

「説明が終わったら、その中で出した指示を実行できるかを確認するわ。直接対峙する訳ではないけど敵があのオーフィスである以上、体が生存本能に負けて動かなくなる可能性があるから、無理だと思ったら遠慮なく言って。その時は、ここにいる幼い子達を守ってもらうわ」

 

 リアスはここまで言うと、自分の言葉が親友のソーナとこの場にいる眷属達に行き渡るのを待った。そして、頃合いと見たところでリアスは説明を始める。

 

「それじゃ、説明を始めるわよ」

 

 十分程の説明の後に意志を確認した結果、アウラ、クローズ、レオナルドの三人の護衛に回ったグレモリー・シトリー眷属は一人もいなかった。彼女達はその後、ただその時を待ち続ける。元士郎もまたレイヴェルの風を通してリアスの説明を受け、密かに黒い龍脈を発動してそのラインをある者達の元へと伸ばしていた。その全ては、オーフィスを打倒する為に。

 

 ……そして、ついにその瞬間が来た。

 

Overview end

 

 

 

《イッセー、こっちの準備はできたわ! 後は、貴方が最後の準備を終わらせるだけよ!》

 

 オーフィスに仕掛けた倍加百回分の龍拳を成層圏で止められた揚句、逆に地表まで叩き落とされた時、待ちに待った連絡が来た。ただし、このまま地表に激突すると僕自身は勿論、激突地点となる駒王学園から半径数 kmが跡形もなくなる事から、再生途中の真聖剣を使用せざるを得なくなり、真聖剣の加護を万全の形で受ける事ができなくなった。今から仕掛ける秘策の成功確率を少しでも上げたかったが、こればかりは仕方がない。

 

「オーフィス。……まだだ!」

 

 僕は深く傷ついた体を押して宙に舞うと、あえて空中で前転しながら赤龍帝の籠手を着けた左拳で攻撃するというアクロバティックな動きをしてみせた。それと同時に、僕は密かに赤龍帝の籠手の新能力を発動させる。

 

『Tune!』

 

 傍から見ていれば、接触の瞬間だけ籠手の色が青みを帯びた黒に変わっていた事だろう。しかし、そうとは知らないオーフィスは僕に対して今の攻撃が効いていない事をわざわざ伝えてきた。

 

「……そんな攻撃、我には効かない」

 

 それも当然だ。今の攻撃は最後の準備の為で、ダメージを与える為ではない。

 

《確か、一誠だったわね。今の接触で、オーフィスの体を構成する物質の固有振動の解析が終わったわ。これで、例の攻撃が彼に通用する筈よ》

 

 復活したグイベルさんが早速いい仕事をしてくれた。……さぁ、仕上げの時だ。

 

「それなら、オーラブレイド!」

 

 僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()オーラブレイドを引き抜いた。しかも念には念を入れて、普段ならわざわざ「オーラブレイド」と技の名前など呼ばない所をあえて言ってみせたりもした。

 

「……そんなので我の体は貫けない。ドライグ、もう十分すぎるくらいに頑張った。だから、もう潔く諦める」

 

 その様なある種滑稽な僕の姿を見たオーフィスは、半ば呆れた様に再び降服勧告をしてきた。……その油断が、お前の命取りだ。

 

「ハァァァァァッ!!!!」

 

 ただ闇雲に攻撃している様に見せかける為、僕は必要以上に大声を上げて()()()()()()オーラブレイドをオーフィスに向かって突き出す。

 アスカロンの守護精霊となったレオンハルトから龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖なるオーラの供給を受けた所にその特性をオーフィスのみに影響を与える様に計都(けいと)が調整、更にグイベルさんの持つ波動の能力によってオーフィスの肉体やオーラと完全に同調した波動を付与された、正に世界蛇殺し(ウロボロス・スレイヤー)と呼ぶべきオーラブレイドが一切の抵抗を受けずにオーフィスの体に突き刺さる。

 

「……えっ?」

 

 余りに予想外な結果だったからだろう。オーフィスが驚きで一瞬だけだが動きを止めた。……ここで決める!

 

「今だ、皆!」

 

『応!』

 

『Maximum Boost Overdrive!!!!!!!!!!!!』

 

 ロシウがまとめ上げた皆の倍加を一度に発動させる、極大倍加の限界突破(オーバードライブ)。今回の場合は禁手である赤龍帝の鎧を発動できる赤龍帝四十人分であり、一人につき五回なので合計二百回だ。爆発的に膨れ上がる力に体中が軋みを上げているが、カリスが治癒の力を全開にして負担を軽減しているからこの程度で済んでいる。そうでなければ、発動した瞬間に僕の体は破裂している筈だ。

 

「皆、行動開始よ!」

 

 その時、リアス部長が皆に行動開始の指示を出した。……貴女なら、あの切っ掛けだけで必ず「探知」で僕の考えを読み取ってくれると信じていましたよ。

 それぞれがそれぞれの役目を果たすべく行動していく中、最初から全てを知っていたイリナが僕の元に辿り着き、僕の右手に手を添えてきた。そして、自分の光力を世界蛇殺しのオーラブレイドに注ぎ込む。

 

「イッセーくん」

 

「あぁ」

 

 何をするべきかを最初から解っているイリナに、これ以上の言葉は不要だった。そして僕の、いや僕達の攻撃はここからが本番だ。

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!」

 

『Transfer!!』

 

 一時的に僕の体に留めていた二百回の倍加をオーフィスに突き刺した世界蛇殺しのオーラブレイドに全て譲渡する。

 

「グゥッ!」

 

 ……今までどうやってもダメージらしいダメージを与えられなかったオーフィスが、はっきりと苦痛の声を上げた。オーフィスは己の身を蝕む痛みに対して、明らかに困惑している。

 

「……何故? 何故、我がこんなにも痛い? 我、相手がグレートレッド以外でここまで痛い思いをした事がない……!」

 

 だから、僕はある事実をオーフィスに突き付ける。

 

「オーフィス。お前より強いグレートレッドは次元の狭間から出てくる事がない以上、この世界における最強は確かにお前だろう。だがお前は一つ、大きな勘違いをしている。お前は無限の力を持つ最強の存在であるだけで、けして無限ではない。お前自身は、あくまで有限の存在なんだ」

 

「……ドライグ、何を言っている? 我、ドライグの言っている事が良く解らない」

 

 オーフィスは僕が突き付けた事実に対して、余り理解が及ばない様だった。だから、僕が見出したオーフィスの正体を本人に伝え始める。

 

「僕も龍拳を使ってお前に直接触れて、お前の魂の核となるべき所に何もない事を確認した事で初めて解った事だ。僕は最初、お前の事を次元の狭間で生まれた数多の世界の一つが確固たる自我を持ってドラゴンの形状を取っている存在だと考えていた。だから、無限と思える程の強大な力を持っていると思ったんだ。でも、それは間違いだった。お前は「ドラゴンの概念に収まる事で意思を得た次元の狭間の欠片」なんだ」

 

 僕がオーフィスの正体を解き明かした所で、二回目の極大倍加の限界突破が発動した。

 

『Maximum Boost Overdrive!!!!!!!!』

 

 僕はここでそのまま二回目の譲渡を発動する。

 

『Transfer!!』

 

「グッ、ウゥゥゥゥッ!」

 

 倍加が譲渡された後から出てくるオーフィスの苦痛の声は、一回目の時よりも明らかに大きくなった。同時に、僕の体にもまた激しい痛みが走っているがまだ耐えられる。世界蛇殺しが確実にオーフィスに効いているのを見た僕は、自分の苦痛が表に出ない様に気をつけながら何故オーフィスを「ドラゴンの概念に収まる事で意思を得た次元の狭間の欠片」だと思ったのかを語っていく。

 

「この世界が生まれる前、そこには何もなかった。いや、「無」があったというべきかもしれない。そんな「無」の状態から気が遠くなる程の長い時間の果てに天界や冥界、人間界と世界がいくつも創造されていき、最初にあった「無」は異なる世界の間に存在するもの、つまり次元の狭間となったのだと思う。それを踏まえると、「無」にはあらゆる「有」を生み出す特性があるとも言える。お前は、そんな次元の狭間に漂う「無」の一部が先に生まれたであろうグレートレッドを原型として生まれた存在なんだろう。だから、トンヌラさんがたった一度の接触で解析・理解が完了する程に存在としての構造が単純である一方で、あらゆる「有」を生み出す「無」の一部である事からその力はけして尽きる事はなく、またいくら肉体を破壊されてもその都度再生される。それが、お前が「無限」と言われる所以であり、次元の狭間に帰りたいと願う一番の理由だ」

 

「それなら、我、無限」

 

 オーフィスは自分が無限だと言い張るが、残念ながら外れだ。

 

「無限じゃない。僕はこう言った筈だ。ドラゴンの概念に収まる事で意思を得た、と。存在自体は有限であるドラゴンの概念に収まっている以上、お前もまた有限たるドラゴンだ。ただ、お前が無限の力を発揮できるのは、ドラゴンの概念に収まった事で有限であるこの世界とお前自身の核である「無」が仕切られているからに過ぎない。だから「ドラゴンの概念に収まっている」という前提を崩してしまえば、お前は次元の狭間に漂う「無」の一部に戻り、その意思は消えて無くなる。だから、けして無限の存在なんかじゃない」

 

 僕がここまで言い切った時、オーフィスは言葉を失う程に驚愕を露わにした。そこで僕はダメ押しする形である事実を突き付ける。

 

「やっと気付いた様だな。そうだ。ドラゴンである以上、お前もまた龍殺しという弱点からはけして逃れられない。力の差は圧倒的にも関わらず、龍殺しの特性を持つセタンタの拳に痛みを感じたのもその為だ。そして龍殺しのオーラをお前専用に調整した、いわば世界蛇殺しの刃を突き刺し、その刃に倍化を繰り返し譲渡し続けていけば、やがてお前はドラゴンである事を保てなくなり、その意思は文字通り「無」へと還る。……つまり、やり方さえ間違えなければ、力そのものはお前に比べればちっぽけな僕達でもお前を倒す事は十分可能なんだ」

 

 ここで、三回目の極大倍加の限界突破が発動した。

 

『Maximum Boost Overdrive!!!!!!!!』

 

 僕の体を蝕む激痛は更に酷くなる。このままでは、おそらく次で極限倍加の限界突破の連続使用に伴う膨大な負担がカリスの加護をも超えてしまい、僕の体が崩壊を始めるだろう。しかし、ここで止まる事はできない。ここまで来たら、後はただ駆け抜けるだけだ。その一方、オーフィスはまだ納得がいかない様だった。

 

「……ドライグの言った事、納得はした。だが、グレートレッドを原型にしているなら、ドラゴンとしての我もとても強い。それを壊せる程、ドライグはけして強くない」

 

 ……確かに、オーフィスの言う通りだろう。だが、それだけではない。

 

「確かに、僕一人だけならそこまで行く事はできないだろう。だが、僕には共に戦う仲間がいる。僕を信じてくれる友達がいる。そして、僕が愛し、僕を愛してくれる家族がいる。だから、僕はけして一人じゃない! いくら無限の力を持っていたとしても、次元の狭間で静寂を得る事を、そこで一人ぼっちである事を求めるお前とは違う!」

 

「そうよ! だから、私達は皆で一緒に貴方を超えていく!」

 

 僕の言葉にイリナが続いたが、そのイリナの言葉に続いた人達がいた。

 

「私だって、イッセーさんと一緒に行きたいんです! ……皆が揃った、温かい未来(あした)へ!」

 

「だから、私達も戦うのです。自分のいるべき場所で、自分なりのやり方で、自分にできる精一杯の力で」

 

 リアス部長の行動開始の声と同時にこちらに向かってきていたアーシアとソーナ会長だ。二人は僕の背中に手を当てると、それぞれ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)と治癒の魔動力を使用し始めた。アーシアが魂を、ソーナ会長が肉体と体力をそれぞれ回復する事で、カリスの負担が大きく軽減される筈だ。そこに、巨大な聖剣が世界蛇殺しのオーラブレイドに添えられる。

 

「他の聖剣のオーラを強化するというデュランダルに秘められた特性を「探知」した部長からの指示だ。元が龍殺しの聖剣アスカロンのオーラだから、デュランダルの特性で更に強化できる。だから、その力でイッセーを助けてあげてってね。……正に願ったり叶ったりだよ」

 

 デュランダルの聖剣使いであるゼノヴィアだ。

 

「一誠! 話はレイヴェル様の風を通してグレモリー先輩から聞いた! だったら、こいつも使え!」

 

 更に、元士郎が世界蛇殺しに黒い龍脈のラインを繋いでくる。

 

「このラインはミカエル様とアザゼル総督に繋がっている! お二人からは「自分達の光力を思う存分使ってくれ」と言われているから、遠慮なく使え!」

 

 ……正直に言って、二人の援護はとても有難い。これでオーフィスを倒す為に必要な極大倍加の限界突破の回数を減らせるし、それに伴って僕と歴代赤龍帝全員にオーラを供給するという僕以上の負担を強いられているドライグの魂を引き換えにという事態もどうにか避けられそうだ。

 

「オーフィス、見ての通りだ。だから、僕はここに宣言する。一人ぼっちの無限など、皆と一緒なら超えられる! いや、超えてみせると!」

 

 そして、無限を超える決意と共に三回目の譲渡を発動させた。

 

『Transfer!!』

 

 今度はオーフィスから苦痛の声が上がらなかった。だが、それは苦痛を僕達に悟られない様にする為であるのは、歯を食いしばっている事から明らかだった。

 ……確実にオーフィスを追い詰めている。僕はここで確信を得たが、それはオーフィスも一緒だったのだろう。

 

「……ドライグ、離す。流石にこれ以上は見逃せない」

 

 そう言って、オーフィスは僕に拳を放とうとする。しかし、それは叶わなかった。

 

「……犬?」

 

 いつの間にかこの駒王学園に駆け付けていた僕の愛犬がオーフィスの手首に咬み付き、その手を抑え込んでいたからだ。

 

「銀!」

 

「……犬、その口を離せ。我の邪魔をするな」

 

 オーフィスは銀に目を合わせると、その口を離す様に命令する。通常なら、犬の本能として絶対強者のオーフィスの言葉には逆らえない筈だった。……しかし、銀は違った。

 

「咬み付く力が、更に増した?」

 

 オーフィスの視線と命令に対し、銀は怯むどころか逆に闘志を燃え滾らせて睨み返し、更に深く強く手首に牙を突き刺していく。

 ……聖魔剣を噛み砕いた銀は、主である僕の為に四大魔王の二人にも吼え立て、ついには世界最強のドラゴンにその牙を突き立てた。

 

「0と、1?」

 

 ここでオーフィスは妙な事を言い出して来たが、今はこちらの攻撃に専念するべきだった。

 

 ……勝利への突破口は、既に開かれているのだから。

 




いかがだったでしょうか?

オーフィスについては強さは圧倒的に格下であろう龍喰者サマエルの龍殺しが通用した上に無限の力すら失った事で、「力は無限であってもドラゴンの概念に収まっている」ので実は存在自体は有限であると見なし、本編中の解釈となりました。

では、また次の話でお会いしましょう。
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