皆の力を一つに合わせて、かの世界最強たる
その様な事を考えていると、オーフィスが立ち去って一気に気が抜けたのか、僕は全身から力が抜けてそのまま地面に座り込んでしまった。
「イッセーくん!」
側にいたイリナが慌てて声をかけてきたので心配をかけない様に立ち上がろうとしたが、足が全く動かない。自分の余りの消耗具合に、僕はもう苦笑するしかなかった。
「参ったなぁ、体に力が全然入らない。まぁ二百回に相当する
ただ、逆に言えばそれだけだった。体の何処かに不具合を感じられる訳でもなく、当然ながら寿命を削った様な感じもない。よくオーフィスを相手にして、殆ど代償を払わずに切り抜けられたと自分で自分を褒めたくなった。
……そうした僕の心境を察したのだろう。イリナは心配そうな表情を呆れた様なものへと変えると、僕の背中に回り込んでそのまま肩越しに抱き着いてきた。
「もう、本当に無茶ばかりして。……でも、イッセーくんが無事で本当に良かった」
耳元から聞こえてくるイリナの声には、僅かながら震えがあった。だから、僕は激闘の真っ只中にいた事で不安にさせた事をイリナに謝る。
「心配かけてゴメン、イリナ。でも、もう大丈夫だから」
「ウン……」
イリナは一つ頷くと、僕を抱き寄せる力を少し強くしてきた。僕はそれを静かに受け入れる。その様な無言のやり取りをイリナと交わしていると、最終局面で実体化してきたロシウが僕を窘めてきた。
「一誠、それくらいにしておかぬか。それ以上は流石にお嬢さん方が気の毒じゃ。それに、今のお主の状態について注意しておかねばならんしの」
ロシウにそう言われて周りを見渡すと大半が僕達の事を温かく見守っており、その中でもセラフォルー様はまるで少女の様に目を輝かせてこちらを見ていた。一方、アザゼル総督はニヤニヤと少々いやらしい笑みを浮かべている。明らかに違う反応を見せていたのはレイヴェルにソーナ会長、リアス部長、アーシア、ゼノヴィア、そして憐耶さんで、彼女達は明らかに羨ましそうな素振りを見せていた。
……憐耶さんが僕に好意を抱いてくれている事に気付いたのは、つい最近だ。切っ掛けは、
僕が憐耶さんからの好意について改めて考えていると、ロシウが今の僕の状態について説明を始めた。
「では、説明を始めるぞ。今のお主には、極大倍加の限界突破に伴う莫大な負荷を軽減する為に使用した治癒の力が過剰な状態で存在しておる。そうでもせねば負荷に肉体と魂が耐え切れんかった訳じゃが、それだけに今度は過剰供給された治癒の力がお主を蝕んでおるのじゃ。……アーシア、それにソーナ。そういう訳で、ここで
ロシウにそう窘められると、アーシアとソーナ会長は僕に伸ばしていた手を慌てて引っ込める。
「ロシウ先生。それなら、こうすればいいですか?」
ここで、元士郎が僕に
「それで正解じゃよ、元士郎。過剰にあるのなら、適度に抜いてしまえばいい。そして、それに最適なのがお主の
「ここ二ヶ月と少しで、ロシウ先生やベルセルク師匠を始めとする教師陣にそれは厳しく仕込まれましたからね」
ロシウにそう切り返した元士郎の顔には、確かな自信があった。ただ、気になる事が一つあったので、僕はロシウにそれを確認する。
「ところで、ロシウ。アリスやベルセルクを含めて
「それについては後で答えてやろう。今お主がやるべき事は、儂との問答ではないからの」
しかし、僕の問い掛けに対してロシウはそう言って視線を別の方向へと向けたので僕もそちらの方を向いてみると、アウラが涙を浮かべながら僕に向かって飛んで来た。
「パパァァァァッ!」
アウラは僕の目の前で等身大化すると、そのまま僕の胸に飛び込んで泣き始めた。
「パパ。あたし、怖かった。怖かったよぉ……!」
恐怖に震えるアウラの頭を僕はそっと撫でながら宥めようとした。……ただ、僕はこの時、アウラはオーフィスを怖がっていると思った。
「そうだね。オーフィスはとても……」
だが、アウラはそれを大声で否定する。
「違うもん!」
そして、自分が本当に怖かったのは何だったのかをはっきりと伝えてきた。
「そんなの、全然怖くないもん! それよりも、パパが、ママが、小父ちゃんや小母ちゃん達が、お兄ちゃん達やお姉ちゃん達が、皆がクローズお兄ちゃんのママみたいにいなくなっちゃうのがずっと怖かった! パパ。ママ。あたし、一人ぼっちになるのはもう嫌だよぉっ……!」
……そうか。そうだったのか。
僕はアウラが何より恐れたものが何だったのかをハッキリと理解した。アウラは、僕達が戦死したり意識を消去されたりする事で、自分が再び一人きりになる事を恐れたのだ。それなら、父としてアウラにするべき事はたった一つだ。
「アウラ。僕も、イリナも、それに皆も、ちゃんとここにいるよ」
イリナも僕に続いてくれた。
「それに、指切りして約束したでしょ? アウラちゃんの側からすぐにいなくなるなんて事、絶対にしないって」
「だから、もう大丈夫だ」
僕はしっかりとアウラを抱き締めてそう言うと、そのまま僕の心臓の鼓動を聞かせる。以前、イリナにそうしてもらった事で心が落ち着けた事を踏まえた上での事だった。
「……ウン」
……どうやら効果は覿面だった様で、アウラは泣き止むとそのまま暫く僕の心臓の音を聞いていた。
Interlude
一誠がアウラを落ち着かせている頃。
「皆がいなくなっちゃうのが怖かった、か……」
アウラの言葉を聞いたヴァーリがその意味を噛み締めていると、瑞貴がアウラの人の呼び方の法則を絡めた上で補足してきた。
「アウラちゃんはね、無意識にだけど父親である一誠に近しい存在でも横か前に立っていると認めていないと「小父ちゃん」や「小母ちゃん」とは呼ばないんだ。だから、ヴァーリ。あの子の言った「皆」の中には「小父ちゃん」と呼んだ君もちゃんと入っているよ」
瑞貴の補足を受けて、ヴァーリは今まで感じた事のない想いに戸惑いを見せる。
「何だか妙な気分だな……」
そこで、オーフィスの力を奪ってヴァーリに供給した事で多少の縁が出来た元士郎が今感じている事について問い掛けてきた。
「だけど、そんなに悪いものでもない。 ……そうじゃないか、ヴァーリ?」
ヴァーリは少しの間だけ瞳を閉じて考えると、そこで得た結論を素直に口にする。
「……そうかもしれないな」
この時、ヴァーリが僅かに浮かべていた笑みはとても穏やかなものだった。そして、瑞貴や元士郎とのやり取りがヴァーリからこの表情を引き出したのを見て、アザゼルは心から安堵した。
……コイツはもう大丈夫だ、と。
その姿は、手の掛かる息子の事を心から案じていた父親そのものだった。
Interlude end
僕がアウラを落ち着かせていると、発現したままの
『ねぇ、ドライグ。貴方の相棒さん、いいお父さんをしているわね』
『当然だ、俺が友と認めた男なのだからな。……もしお前との間に子を設けていたら、俺もきっとこんな風にやっていたんだろうな』
『そうね。それにドライグなら、きっとあの子に負けないくらいのいいお父さんになっていたわよ』
……二人の交わす言葉は、完全に夫婦のものだった。ドライグはここで少し照れ臭くなったのか、話題を変えてきた。尤も、内容自体は極めて真面目なものだったが。
『ところで、グイベル。瀕死の状態から目覚めて早々にあれだけ力を使ったのだ。体の何処かに異常はないか?』
自分の状態を夫に尋ねられたグイベルさんは、何ら気負う事なく答えを返す。
『私の方は大丈夫よ、ドライグ。あれだけ「蛇」を食べさせてもらったもの、むしろ目覚ましと腹ごなしの運動にちょうどよかったわ。それよりも、問題は限界を超えて力を酷使した貴方の方よ』
このグイベルさんの問い掛けに便乗する形で、僕もドライグに今の状態を確認する。
「ドライグ、グイベルさんの言う通りだ。極大倍加の限界突破の為に、僕以外に
僕の問い掛けに対するドライグの答えは、今回のオーフィスとの戦いがどういうものだったのかを物語っていた。
『グイベルからも訊かれたから答えるが、魂の力をかろうじて使い切らずに済んだと言った所だな。だから、これから消耗した魂の力を回復させる為に少々長い眠りに入らなければならん。しかも、それに伴って赤龍帝の籠手はその能力の殆どを使用できなくなるだろうな』
……結局の所、誰も彼もがギリギリだったという事だ。
ドライグの今の状態を聞いて、僕はそう思わずにはいられなかった。
「ドライグ小父ちゃん……」
ドライグの話を聞いたアウラが心配そうにしていると、ドライグはアウラを安心させようと眠りの期間がどれくらいになるかを伝えてくる。
『何、心配するな、アウラ。グイベルの蘇生やら何やらで殆ど使ってしまったが、それでもまだ余っていた「蛇」をさっき食ったお陰もあって、長い眠りといってもせいぜい二ヶ月程度だ。当初の見込みが年単位、最悪は俺の魂と引き換えという事もあり得たのを考えると、随分と安く収まったと言えるだろう』
「それじゃ、少し待てばまたドライグ小父ちゃんとお話しできるんだね。よかったぁ……」
ドライグからそれ程長くはならないと聞いたアウラは、ホッとした様な素振りを見せた。そして、ドライグはアウラを安心させると、グイベルさんに自分が眠りに入った後の事を託し始める。
『だから、グイベル。俺が魂の力を回復させて眠りから覚めるまでの間、俺の代わりに一誠の力になってやってくれ。一誠なら、神器を通してお前の能力を存分に使いこなすだろう。頼むぞ』
『解ったわ、ドライグ。貴方の友達の事は私に任せておきなさい。だから、今はゆっくり休んで』
ドライグからの頼みをグイベルさんが快諾した事で安心したのだろう。ドライグの言葉が次第に途切れ途切れになってきた。
『そうさせて……もらうぞ……』
「お休みなさい。ドライグ小父ちゃん」
ここでアウラがドライグにお休みの挨拶をすると、ドライグは意識が朦朧としている中、途切れ途切れになりながらもアウラにしっかりと応えてくれた。
『あぁ。お休み、アウラ。長い眠りから……覚めたら、また……俺の……背中に……乗せて、飛んで……やる……から……な……』
そしてドライグの言葉が完全に途絶えると同時に、
「ドライグ。お前が限界を超えて頑張ってくれたから、僕達は誰一人欠ける事なく乗り切る事ができた。だから、今は何もかも忘れてゆっくりと休んでくれ。……そして、直接話をしていないにも関わらず、僕の策に協力して頂いてありがとうございます。グイベルさん」
『気にしないでいいわ。むしろ私の方からお礼を言わせてちょうだい。貴方が私の魂を蝕んでいた邪なオーラを祓って元の状態に戻してくれたから、私はドライグと再会できたの。だから一誠、死に別れた私とドライグを繋いでくれてありがとう』
感謝の言葉を伝えるグイベルさんの声からは、最愛の夫と再会できた事への喜びとその切っ掛けとなった僕への感謝が感じられる。こうした声を聞けた事で、僕はグイベルさんを助ける事ができた事に胸を張れそうだった。
『一誠。さっきから気になってはいたんだが、今確かにグイベルという名を呼んだな?』
そうしていると、アルビオンが僕にグイベルさんの事について尋ねてきた。グイベルさんに関しては特に隠す様な事でもなかったので、触りだけ説明する事にする。
「あぁ、そうだよ。詳細は調べてみないと解らないけど、僕の赤龍帝の籠手には何故かドライグ以外にグイベルさんの魂も宿っているみたいなんだ。僕が
僕のこの説明に、アルビオンは何かを納得した様な反応を見せてきた。
『そうか。そうだったのか。……道理で、いくら探しても見つからなかった訳だ』
「アルビオン?」
このアルビオンの様子を訝しく思ったヴァーリはアルビオンに呼び掛ける。すると、このアルビオンの名前にグイベルさんが反応した。
『アルビオン? ……ひょっとして、アルなの?』
……アル?
グイベルさんから飛び出した親しげな呼び方に僕もヴァーリも首を傾げたが、言われた本人であるアルビオンの口から予想外な言葉が飛び出してきた。
『その呼び方……! やはり姉者か!』
……姉者?
その意味を僕が理解し切るその前に、グイベルさんとアルビオンの会話が進んでいく。
『随分と久しぶりね、アル。同じ卵から孵った私達双子の姉弟がこうして言葉を交わすのは、巣立ちの時にお互いの道を選んで別れた時以来かしら?』
『あぁ、そうなるな。姉者の方も壮健で、とは魂のみの存在となっている以上は言えないか。それにしても、この様な形で再会する事になるとは夢にも思わなかった』
『ホントよね。世の中、本当に何が起こるか解らないわ』
……どうやら、グイベルさんとアルビオンは仲の良い姉弟だったらしい。ただ双子の割には姿が全然似てないが、その辺りはきっと気にしたら負けなのだろう。そうして二頭は久しぶりだという会話を弾ませていたが、ここでグイベルさんがある事実に思い至った様だ。
『……あら? という事は、さっき話に聞いたドライグと並んで二天龍と呼ばれる
『姉者からそう言われると、流石に少々照れ臭いな』
グイベルさんから褒められた事に対して擽ったそうな反応していたアルビオンだったが、ここでようやく気がついた様だ。……グイベルさんが、ドライグの妻である事に。
『……ちょっと待ってくれ。さっき、姉者はオーフィスにドライグの妻だと名乗っていなかったか?』
『えぇ、そうよ。ウェールズの地でドライグと縄張り争いして負けたのが切っ掛けで、私はドライグの妻になったの。今思えば、その争いの中でお互いに惹かれ合っていたのね。だから、ドライグから求婚された時に割とすんなり受け入れられたんだわ』
このグイベルさんの肯定からの惚気話に、アルビオンが激情を露わにする。
『ウオォォォォォッ!!!!!!!! あの赤蜥蜴、よくも姉者を手籠めにしてくれたな!!!!!! ……殺す!! 絶対にブッ殺す!!!!』
言葉使いが荒々しいものへと変わる程に激昂しているアルビオンを落ち着かせる為、僕はドライグに関する弁護を始めた。
「アルビオン、少し落ち着いてくれ。ドライグはグイベルさんを心の底から愛しているし、三大勢力と戦った時に天界勢力だけを目の敵にして狙い続けたのはグイベルさんの為なんだ」
僕が二天龍の生前最後の戦いについて触れると、アルビオンの頭に上った血が少し引いた様で僕の話を聞く構えを見せる。
『……どういう事だ?』
ここで、僕はまずグイベルさんに被せられた汚名に関する話から始めた。
「
すると、アルビオンは黎い邪龍について自分の知っている事を話し始めた。
『あぁ。奴がウェールズの守護神となる切っ掛けとなった黒い鱗を持つ邪龍の筈だ。名前こそ伝わっていない様だが、何でも地震と災厄を齎すとされるらしいな。……待て。そう言えば、姉者の口からもその名が出ていたな。まさかとは思うが』
ここでアルビオンが黎い邪龍とはグイベルさんを指している事に勘付いたので、僕はそれを肯定する。
「そのまさかだよ、アルビオン。黎い邪龍とは、グイベルさんの事だ」
『馬鹿な! あの強く、気高く、そして美しい姉者がよりにもよって邪龍呼ばわりだと! 一体、何の冗談だ!』
しかし、アルビオンはその事実を認めようとはしなかった。まぁ双子の弟である為におそらくは夫であるドライグ以上にグイベルさんを知っている筈だから、アルビオンのこの反応はむしろ当然だ。だから、僕はグイベルさんに関する真実を伝える。
「実際、アルビオンの言う通りだ。僕は夢の形でドライグと出逢ってからのグイベルさんの記憶を垣間見たけど、伝承はあくまで第三者視点の話であって、必ずしも事実や真実を反映しているとは限らない事を嫌でも思い知らされたよ。真実はそのほぼ真反対、ドライグと交わした「自分達の巣を守る」という約束を果たす為、その命と引き換えに巣のあったウェールズの地を侵そうとした異形の存在から守り抜いた偉大なドラゴンだよ。それこそウェールズの地に恩寵を齎した麗しきドラゴン、黎い麗龍ウェルシュ・グレイス・ドラゴンと言った所かな。ただ、その時の戦いの余波で地震が発生し、異形の存在から放たれる死と狂気を齎す邪なオーラを完全には中和し切れなかった事で地上では様々な災厄が齎されてしまった。そして、グイベルさんの戦いはその全てが地下で起こった事だったから、地上で地震と災厄によって少なからぬ損害を被った当時のケルト人達はグイベルさんを地震と災厄を齎す邪龍だと誤解してしまったんだ」
『……あぁ、そうだな。姉者であれば、きっとそうするだろう。何とも姉者らしい話だ。それにしても
アルビオンはグイベルさんの真実を聞いて、ようやく納得してくれた様だ。そこで、僕はドライグが生前最後の戦いで取った行動の理由について話す事にした。
「そこでドライグの件なんだけど、グイベルさんを邪龍と誤解した一部のケルト人の信仰対象だったのが……」
『聖書の神と天使共だった訳か。……成る程。そういう事だったのか、ドライグ。あの時は何故あの場にいた悪魔や堕天使を一切無視して神や天使共ばかりを執拗に追い回したのか解らなかったが、今ならお前の気持ちがよく解る。連中を崇める人間達に姉者を貶められた事をあの時に知っていたら、間違いなくお前と同じ行動を取っていたからな』
そうしてドライグの行動について理解した上で共感したアルビオンは、渋々といった感じではあるがグイベルさんにドライグとの関係を認めた。
『姉者。真に遺憾ではあるが、ドライグが姉者の夫である事を認めよう。ドライグはたとえ身を滅ぼしてでも、姉者を貶めた者共に報復しようとしたのだ。いかに宿敵とはいえ、それを認めない訳にはいかない。……だが、奴を「
ただ、流石にドライグを「義兄」と呼ぶのだけはアルビオンも嫌だった様だ。グイベルさんも双子の弟の事も最愛の夫の事も解っている様で、それでいいと言ってきた。
『それでいいと思うわよ、アル。それに、ドライグもドライグで貴方から「義兄」と呼ばれるのを嫌がりそうだから』
……その光景が容易に想像できるだけに、僕は少し可笑しくなった。
Side:アザゼル
イッセーにはドライグだけでなく黎い邪龍、というかドライグの恋女房でアルビオンの双子の姉でもあるというドラゴン、グイベルの魂も宿っているという想像の斜め上な事実が判明した。……もう、イッセーに関しては色々と諦めちまった方がいいのかもしれねぇな。
『しかし、一誠が姉者の魂を宿している事でその力を振るえるとなると、ヴァーリが相当に不利になるな……』
すると、アルビオンが意外な事を言い出した。当然、当事者であるヴァーリはアルビオンにどういう事かを確認する。
「どういう事だ、アルビオン?」
そこで、アルビオンがグイベルの能力について語り始めた。
『姉者はあらゆる種類の波動を扱える事から、実に様々な事ができる。命の力を波動に変えて放てば傷ついた生命を癒し、破壊の意志と共に波動を放てば辺り一帯を荒野へと変える。また、波動を直接地に当てる事で地震を齎す事も姉者なら可能だ。姉者を邪龍呼ばわりするなど到底受け入れられん伝承ではあるが、その一点だけは真実を語っていると言えるだろう』
……オイオイ。何だって、そんな強大なドラゴンがその強さを殆ど知られていなかったんだ?
グイベルの能力が余りに応用性の高いものである事を聞いて、俺は寒気を感じると共にその力量が殆ど知られていなかった事に首を傾げたが、死んだ時期がドライグの名が余り知られていなかった頃である事を思い出して納得した。強いドラゴンがその名を知られる切っ掛けとなった踏み台の事なんて、普通は誰も気にしないよな、と。それだけに、次のアルビオンの言葉を聞き流す事ができなかった。
『だが、姉者が恐ろしいのはそういった事ではない。姉者が最も恐ろしいのは、敵に直接触れる事でその力の波動を解析した上でそれと同調する波動を放つ事で敵の力を中和し、更にその能力を弱体化あるいは無効化する事だ』
オイオイ。それってつまりは……。
ここまで話を聞いて、俺はヴァーリと余りに因縁の深いあの男の事が頭を過ぎった。そこに、イッセーがドライグとグイベルが縄張り争いで争った時の事について触れる形で実例として補足説明する。
「実際に縄張り争いでドライグがグイベルさんと戦った時、ドライグは強化や譲渡はおろか透過の力すら封じられて、完全に己の肉体だけを頼りに戦う羽目になったよ。それもあって、グイベルさんはドライグをして「龍王最強のティアマットと肩を並べそうだ」と言わしめているし、もしドラゴンの肉体の強さに性別間で差がなかったら、ドライグはグイベルさんに負けていたかもしれない」
『私も全盛期であれば全ての能力を封じられても姉者に勝てるとは思うが、肉体の強さに差がなかった幼い頃は全く勝てなかったからな。だから、ヴァーリ。もし姉者の力、特に中和の波動を一誠が使ってきたら、
……間違いねぇ。グイベルの最大の能力は「アイツ」の持つ
イッセーに続く形でヴァーリに伝えられたアルビオンの忠告によって、俺は確信した。そして、ここにきてヴァーリも俺と同じ事に思い至ったらしく、むしろ好都合だと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「頼れるのは、俺自身の力だけという訳か。……良いじゃないか。アイツとはいずれ決着をつける事を考えれば、正に最上の練習相手と言っていいだろう」
「アイツ?」
イッセーはヴァーリの口を衝いて出てきた「アイツ」という単語が気になった様だ。しかし、「アイツ」については流石にヴァーリの奴も話す気はないだろう。実際、最初はヴァーリもそのつもりだった。
「個人的な事だ、お前に話す気はないよ。……いや。相反する「聖」と「魔」の力をその身に共存させ、更に天使と悪魔の和平とそれに伴う共栄共存を謳う「聖魔和合」を認めさせ、ついには永劫不変の最強である筈のオーフィスに死の恐怖を感じさせたんだ。そんな世界の道理を次々と覆し続ける一誠に対し、あの男が興味を持って色々仕掛けて来てもけしておかしくはないな」
だが、次第に一人言葉を重ねていくにつれて、「アイツ」がイッセーを放置するとは思えなくなったらしい。いや、「アイツ」の姿をハッキリと脳裏に浮かべた今となっては、俺もヴァーリと全く同じ考えだ。……「アイツ」はいつか必ず動く、と。
やがて、ヴァーリは表情を真剣なものへと変えると、イッセーに対してある忠告を始めた。
「一誠、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーという名前を覚えておけ。あるいは、そう遠くない未来においてお前の前に立ち塞がるかもしれない男だ」
「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー……」
イッセーは自分の胸にその名を刻み込む様にその名を呟いた。すると、ある事に思い至ったのか、イッセーはヴァーリに確認を取る。
「ヴァーリ。まさか、この男は……!」
そこで、ヴァーリはさっきイッセーに教えた男との関係を話し始めた。
「あぁ。コイツは旧魔王ルシファーの実の息子だ。つまり、俺の祖父でもある。そして、俺が世界で唯一心の底から殺したいと思っている男だ」
「本物の強者と戦えればそれでいい筈のお前が、ここまで憎しみを露わにする男か。どうやら、聖魔和合を達成する為に僕が乗り越えるべきものは僕が思っているよりずっと多いみたいだ」
ヴァーリの表情から只ならぬものを感じ取ったであろうイッセーは、自ら歩むと見定めた道程の長さと険しさを改めて実感した様だった。
Side end
いかがだったでしょうか?
なおグイベルとアルビオンの双子設定についてですが、グイベルが元々ウェールズ伝承に出てくる白い龍の呼び名をウェールズ語で読んだものであり、いわば「グイベル」という名と「白い龍」という実を分けた形になります。
では、また次の話でお会いしましょう。