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一誠に流し込まれたオーフィスの「蛇」を利用して実体を有する
「ロシウ。はやてから念話が来たと言っていたが、向こうで何があったのかを聞いていないのか?」
「いや、はやてから何があったのかは既に聞いておる。それを今ここで話してもよいのだが、明らかに激昂しそうな者が一人おるからの。さて、どうしたものか……」
そう言ってロシウが視線を向けた先には、四大魔王の一人にして自らの理想である「優しい魔法少女」を体現するはやてを魔法少女の先輩と慕うセラフォルー・レヴィアタンがいた。
「あれ? 赤龍帝のお爺さま、どうかしましたか?」
はやての話を一誠にしようとする前に自分に視線を向けたロシウに対してセラフォルーが首を傾げていると、ロシウが何かを決断する様に一つ頷いた後で強く念を押す。
「セラフォルー・レヴィアタン殿。予め言うておくが、今から話す事は既に終わっておる事じゃ。だから、気を落ち着けて話を聞く様に」
「それ、まるで私がその話を聞いたら冷静でいられなくなるって言い方だね。……あっ。そういえば、はーたん先輩から赤龍帝のお爺さまに念話が来たって言っていたけど、いくら何でも起きるの早過ぎるんじゃあ……?」
ロシウの強い念押しに対してセラフォルーが訝しげな表情を浮かべると、やがてはやてがこの時間帯に念話を送ってきた事がそもそもおかしい事に気付いた。すると、ロシウはセラフォルーの発言を肯定した上で、はやてから念話で教えられた事をそのままセラフォルーに伝える。
「そなたは本気ではやてを慕うておるからの。それ故に激昂するという確信があるんじゃよ。今そなたが抱いた疑念についても、今から話す事が答えとなる。端的に言えば、一誠の家にも連中が襲撃をかけたのじゃ。それで、敵を撃退した後は再度の襲撃に備えてずっと起きておったという訳じゃよ」
……その瞬間、セラフォルーの周りの地面が一気に凍り付いた。セラフォルーの顔には笑みが浮かんでいたが、それは普段の無邪気なものとは全く異なり、むしろ酷薄とすら言えるものだった。
「へぇ、そうなんだ。イッセー君やはーたん先輩、それにあの優しい小父さまや小母さまのいるあったかい家に襲いかかったんだ。……こうなったら、
怒りに震えるセラフォルーの体から氷の魔力が漏れ出し、地面は更に凍り付いてその範囲が広がり、空気も冷え切ってもはやダイヤモンドダストすら発生し始めている。不味いと思ったサーゼクスはセラフォルーを抑えようとしたが、その前にロシウが動いた。
「少しは落ち着かんか、この未熟者め」
「キャン!」
……セラフォルーの頭に拳骨を落としたのだ。ただ、余波だけで地面は凍り付き、空気もダイヤモンドダストが発生する程の濃密な氷の魔力がセラフォルーから漏れていたにも関わらず、ロシウはその魔力をものともせずに素手で拳骨を落としてみせたのである。それがどれだけ異常な事なのか、魔力制御に関する教え子の一人である元士郎は理解できた。そして、一番弟子である一誠にどうすればその様な事ができるのかを尋ねる。
「なぁ、一誠。一体何をどうしたら、あれだけ濃密な氷の魔力をすり抜けるなんて真似ができるんだ?」
「理屈としては、自分の魔力の波長を相手のものと完全に同調させる事で一応は可能なんだけど、ハッキリ言うと菜箸で最小サイズの糸を摘まみ取って最小サイズの縫い針の穴に通すくらいに精密な魔力制御が必要になる。……なる筈なんだけどなぁ」
一誠は元士郎の質問に一応は答えたものの、自分の出した答えに首を傾げていた。その意味が解る元士郎はもはや溜息しか出てこない。
「それをいとも簡単に、というかまるで息をする様に自然にさりげなくやっていたよな、ロシウ先生。……やっぱり、歴代最高位の人達は皆どっかおかしいぜ」
「レオンハルトやベルセルク、
一誠も溜息交じりで元士郎に応えていたが、この二人のやり取りを聞いていたイリナは「それは二人も一緒でしょ!」というツッコミが出そうになったのをかろうじて抑え込む。一方、ロシウに頭を叩かれたセラフォルーは痛みに頭を押さえつつ、ロシウに向かって猛烈に抗議した。
「イテテッ……。どうして私が赤龍帝のお爺さまに叩かれなければいけないの!」
「それはそなたが儂の教え子であるはやての後輩であり、また一誠の教え子でもあるからじゃよ。儂の教え子を先輩と慕う後輩の魔導師であり、また我が教え子より魔法を教わった教え子でもある以上、儂にとってはそなたもまた教え子じゃ。ならば、過ちを犯そうとする教え子を厳しく教え導くのが師たるものの責務であろう?」
しかし、ロシウの発言を耳にしたセラフォルーはさっきまでの勢いが嘘の様にその動きを止めると、ロシウにある事を確認する。
「えっ? ……それじゃ、赤龍帝のお爺さまがイッセー君とはーたん先輩のお師匠様なの?」
態度が急変したセラフォルーにロシウは内心呆れながらも、質問に対してはしっかりと答えた。
「その通りじゃよ。ただはやての師に関しては、儂だけでなく一誠もじゃな。儂がこの世界におけるほぼ全ての系統の魔法を、一誠は己が独自に編み出した魔法の半数をそれぞれはやてに仕込んでおるからの。鎮静浄化魔法のフルムーンレクトは知っておるな? 一誠はアレもはやてに仕込んだと言えば、そなたも儂の言っておる事が理解できよう。尤も、儂も一誠もはやての持つ夜天の書に収められておった別の次元世界の魔法の数々をはやて達から教授されておるから、純粋な師弟関係とは言えぬかもしれんがの」
ロシウから様々な事実を教えられたセラフォルーは、次第にロシウに対する見方を変えつつあった。
「はーたん先輩がイッセー君を「優しい魔法使い」のお手本にしているのは知ってたけど、まさかフルムーンレクトをイッセー君から直接教わっていたなんて。これで、はーたん先輩は別の意味でも先輩にもなっちゃった。しかもよく見たらこのお爺さま、魔力量こそ私やはーたん先輩より少ないけど、魔力制御の技術は私より数段上みたい。そうじゃなきゃ、さっき氷の魔力がタダ漏れだった私に氷どころか霜一つ着けずに拳骨なんて絶対できないもの。流石はイッセー君とはーたん先輩のお師匠様だね☆」
もはやロシウに対して尊敬の念すら抱き始めたセラフォルーにダメ押ししたのは、リアスだった。
「因みに、魔力の扱い方に関してはこの場にいる駒王学園の生徒全員がロシウから教わっているので、私やソーナもロシウの教え子になります」
(目の前にいる赤龍帝のお爺さまが、ソーナちゃんのお師匠様でもあるなんて!)
その事実を知った後のセラフォルーの反応は早かった。
「……先生! 先程の無礼を心からお詫びします! そしてこれからのご指導、はーたん先輩とソーナちゃん共々よろしくお願いします!」
真剣な表情で謝罪すると共に今後の指導を願い出たセラフォルーは、どうやら尊敬する先輩と最愛の妹の師であるロシウを自らの師と完全に認めてしまった様である。こうして様々な事実を知った事で態度を豹変させたセラフォルーに内心苦笑しながらも、ロシウは多少強引であったが話を元に戻した。
「さて。話の腰が折れてしもうたが、元に戻そう。先程も言ったが、今からはやて達をこちらに呼び寄せる。数日前に一誠の家で顔を合わせしておる魔王殿達には二度手間となって申し訳ないが、やはり総督殿と天使長殿もはやて達と顔を合わせておいた方が良いからの。レオンハルト、計都。幸いにして入れ違いで移動するには打って付けの魔法があるから、お主達はそれを通って一誠の両親の護衛に向かってくれ」
レオンハルトと計都に指示を出すと、二人は揃って承知する。
「ロシウ老、承知した」
「私も承知しました。ロシウ殿、後の事はお願い致します」
二人が承知の旨を伝えると、ロシウは早速魔法の準備を始めた。
「ウム、了解した。ではやるかの。……時の隧道」
ロシウがサッと腕を一振りすると、そこにベルカ式の三角形の魔法陣が浮かび上がる。レオンハルトと計都はそれを確認して魔方陣を
「ロシウ先生、ゴメンなさい。ホントなら、わたし達が直接こっちに出向かなアカンかったのに」
「何、構わんよ。はやて。このワームホール型の次元間移動魔法、実は使用している術師自身は通れんという欠点こそあるが、二つの地点を一度繋いでしまえば相互の行き来が可能になる上に色々と応用も利くという利点があるからの。一誠の両親の護衛をレオンハルト達に交代させてお主達をこちらに呼び寄せるという入れ違いの行動を一度でこなすには、儂が時の隧道を使用するのが最善だったというだけの話じゃ」
教え子であるはやてからの謝罪に対してロシウは気にしない様に言い含めると、はやては頭を下げて感謝の言葉を伝えた。
「ロシウ先生、ありがとうございます」
そして、はやてはその場にいる者達に向かってお辞儀をすると早速自己紹介を始める。
「兄が大変お世話になっています。わたしは兵藤一誠の義理の妹で兵藤はやてと言います。この駒王学園の初等部に通う六年生です」
そこで、コカビエルの件で実力の一端を見ているサーゼクスが補足を入れた。
「私から補足させてもらうが、コカビエルが起こした一連の事件において、イッセー君は彼女を紹介する際に事魔導に関しては自分以上だと評している。実際、彼女は最終決戦の戦闘に直接参加していないので首脳会談の出席対象からは外したが、封時結界という特殊な結界を展開する事で戦闘の影響を一切現実に反映させなかったという大きな功績がある」
このサーゼクスの補足に、ヴァーリははやてに対して感心する様な素振りを見せた。流石にはやてと戦ってみたいとは思わないものの、異なる世界の魔法には興味がある様だった。しかし、ここでセラフォルーが満面の笑みで爆弾発言を放つ。
「そして、はーたん先輩は私が今目指している「優しい魔法少女」の先輩なの☆」
「その設定、まだ生きとるんですか!」
セラフォルーの中で未だに「魔法少女の先輩」という設定が生きている事にはやては頭を抱えたくなったが、とりあえずは他の者達を紹介するのが先とばかりにリヒトとリインフォースを紹介し始める。
「こちらにいる長身で鎧を身に纏っている黒髪の男性がわたしの守護騎士であるリヒト・ツァイトローゼ・フォン・ナハトヴァール、銀髪の女性がわたしの所有する魔導書である夜天の書の管制を担当するリインフォース・ツァイトローゼ・フォン・ナハトヴァールです。なお、同じ姓でお気づきかもしれませんが、この二人は夫婦です」
「リヒト・ツァイトローゼと申します。以後、お見知りおきを」
「妻のリインフォースです。夫共々、どうかよろしくお願い致します」
はやての紹介を受けた二人は、短いながらもこの場にいる面々に挨拶をする。そして、はやては同行してきた金髪の幼い少女を前に出した。
「それで、次はこの子なんですが。……ユーリ、自己紹介をお願いな」
そう言ってはやてが促すと、金髪の少女は自己紹介を始める。
「はい、ハヤテ。皆さん、初めまして。私の名前はユーリ・ツァイトローゼです」
一誠は少女が名乗った「ユーリ・ツァイトローゼ」という名前に最初こそピンと来なかったが、少ししてから一年前にクロノ・ハーヴェイから教えられた事に思い至った。
「ユーリ? ……あぁ。一年前にクロノ君が言っていた「リヒトとリインが引き取った娘」というのは、君の事だったのか」
「はい、その通りです。クロノからちゃんと話は伝わっていたんですね。さっきもハヤテが「アンちゃん」と言ってましたし、それでは貴方が」
ユーリが一誠の事を確認してきたので、一誠も自分の名前を名乗る。
「うん、そうだよ。はやての
一誠がユーリの出自がどのようなものだったのかを思い出し、それに伴う懸念がある事をはやてに伝えると、はやてはそれを肯定した。
「ウン、そうなんよ。それでアンちゃんに相談せなアカン思ったんや。でも、その前にリヒトとリインの報告も聞いてな。こっちも関係大ありやから」
「解った。それでリヒト、リイン。二人から報告があるとの事だから、早速聞こうか」
はやてに促される形で一誠がリヒトとリインの二人の報告を聞く構えを見せると、リヒトが進み出て報告を始める。
「ハッ、では私から。実はこの度、我が妻リインフォースが私の子を妊娠致しました。ただ私自身もつい先程妻に明かされたばかりでして」
……ただ、リヒトから齎された驚くべき報告内容に一誠は思わず途中で遮ってしまった。
「ちょ、ちょっと待った! ……リイン、本当に?」
一誠が妊娠したというリインフォースに事実を確認すると、リインフォースは少しだけ頬を染めると一度だがしっかりと頷く。
「……はい」
エグザミアの問題が解決したユーリの帰還とリインフォースの妊娠。この二つの事実から、一誠ははやてが直接相談したい事が何なのかに思い至ったのだが、その前に親となった二人を祝福した。
「そうか。まずはおめでとう、リヒト、リイン。それとはやて、相談というのはリヒト達の常時実体化とそれに伴う戸籍の取得についてだな?」
一誠のもはや断定口調の確認に対し、はやては一誠の両親譲りの察しの良さに内心羨ましさを感じながらもそれが正しい事を伝える。
「アンちゃん、いくら何でも察しが良過ぎやで。……ウン。いくら何でもまだ小学生のわたしじゃ全くお話しにならへんし、そうなるとアンちゃんを通すくらいしか当てが思いつかんかったんよ」
「そうか。しかし困ったな。僕自身も公の場ではあくまで一介の眷属でしかないから、戸籍云々をどうこうできる権限はないぞ」
そう言って一誠も頭を悩ませ始めると、セラフォルーが満を持したかのように協力を申し出てきた。
「ウフフ、やっと出番が来た☆ ここは外交担当のレヴィアたんにお任せよ☆ 私が日本神族に話を通して二人の戸籍を用意しますから、安心して下さい☆ はーたん先輩☆」
なお、何故戸籍という人間社会の関わるものの取得に際して日本神族に話を通す必要があるのかと言えば、日本神族の血を引く末裔が日本という国の象徴として国事行為を行っている為である。その結果、日本神族は人間同士の争いにこそ介入しないものの、自然と日本という国と民を保護する形となり、三大勢力を含む他の神話勢力は人間社会の戸籍の取得や住まいを始めとする物件の購入に対しても日本神族を無視する事ができなくなっている。
因みに、悪魔の領地である駒王町については交渉の末に日本神族から譲渡されたものであり、リアスも眷属の朱乃の為に無人の神社を住居として確保した際にはこの慣例に倣って日本神族と交渉を行い、特別な約定を交わしている。
こうした背景を踏まえてセラフォルーが自ら協力を申し出ると、それに合わせてレイヴェルがリヒト達の住む場所の提供を申し出る。
「では、住まいについては人間界での私の家の一室をご提供致しますわ。私の家は兵藤家の隣ですし、お二人なら信用できますから」
この二人からの申し出に対し、一誠は最終判断をはやてに委ねる事にした。リヒトとリインフォースはあくまで主であるはやての判断に従う事になるからだ。
「はやて、どうする?」
一誠に決断を委ねられたはやては、少し悩んだ末に結論を出した。
「……そのお話し、お受けします。後ついでで申し訳ないんですけど、二人の娘としてユーリの戸籍も用意して頂きたいんです」
はやてが申し訳なさそうにリヒト達だけでなくユーリの戸籍についても願い出ると、セラフォルーははやてに頼ってもらえた事が嬉しくなってその場で快諾する。
「それくらいなら、お安い御用です☆」
こうしてリヒト達の戸籍問題に目途が立ったはやては、この状況で未だに座り込んでいる一誠の方に向き直ると、しゃがみ込む事で座っている一誠と視線を合わせた。そして、真剣な表情で話し始める。
「アンちゃん、話はロシウ先生から聞いたで。何でも、神様ですら相手にならん様な世界最強のドラゴンと
はやてはそう言うと、打つべき手を誤ったという後悔から俯いてしまった。それを見た一誠は俯いたはやての頭にポンと手を置くそのままあやす様に軽く頭をポンポンと叩く。そして、はやての判断に非がない事を諭し始めた。
「はやて。今回の戦いはリヒトが全力で剣を振るわないと家にいた父さんと母さん、それにはやてを守り切れない程の威力と規模で攻撃されていても何らおかしくはなかった。それに銀がここに駆け付けてきたのには流石に驚いたけど、オーフィスの片腕を抑えてくれたし、僕が弾き飛ばされてイリナ達が一瞬孤立した時には身を張って守ってくれた。だから、父さんと母さんの身の安全を第一として自分達はあえて家に踏み止まり、僕への援軍に銀を送ってくれたはやての判断はけして間違っていないよ」
「……解った。この話はこれでもう終わりにする。それでえぇんやろ?」
一誠の言葉で気が少し楽になったのか、確認を取りながら顔を上げたはやての顔には僅かながらも笑みが零れていた。
「あぁ、それでいい」
一誠も笑みを浮かべて、はやての判断を肯定する。そこでアルビオンから声を掛けられた。
『一誠。さっき、お前の妹から到底信じられん言葉が飛び出してきたんだが。あの男と同格が歴代の赤龍帝以外にもいるだと?』
アルビオンがレオンハルトと同格の存在が歴代最高位の赤龍帝以外にもいるという事実を信じられないのも無理はない。彼は封印後初の二天龍の戦いにおいて当時の赤龍帝であるレオンハルトと対峙しており、その剣技の冴えと凄まじさを目の当たりにしている。彼にしてみれば、間違いなく史上最強の剣士であろうレオンハルトと同格の存在が他にも存在する事自体が信じられない事なのだ。
しかし、その様なアルビオンの心情を余所に、一誠はそれが事実であると肯定した上でリヒトについての説明を始める。
「事実だよ。優れた魔法と叡智を記録する為にこの世界とは異なる次元世界の魔導文明によって作られた魔導書、その名は夜天の書。その夜天の書の所有者である夜天の王に選ばれたはやてを守護する使命を持つ魔導生命体、「夜天光の騎士」リヒト・ツァイトローゼ・フォン・ナハトヴァールは「
何気に酷い事を言っている一誠ではあるが、剣の技量に比べるとその通りになってしまうのでけして間違ってはいない。リヒトもそれが解っているので、苦笑を浮かべるしかなかった。一方、アルビオンはレオンハルトと同格の剣士が存在するという事実に驚くどころか逆に感嘆している。
『片や神をも降すであろう、天を背負う赤龍の剣帝。片やその天を背負う剣帝をも墜としかねぬという夜天光の騎士か。まさか、剣においてあの男と同格がいるとは思わなかったな』
「因みにレオンハルトは僕や祐斗、リヒトは瑞貴の剣の師匠であり、二人の剣の技量は僕より数段上である瑞貴を基準としても桁どころか次元違いだよ」
一誠がそう補足すると、ヴァーリの方もレオンハルトやリヒトの底の知れない剣の技量に感嘆しつつ、己の仲間の一人がどう行動するのかを口にした。
「オーフィスが繰り出したオーラの砲撃を無効化し、更にその攻撃さえも捌いてみせた武藤瑞貴をも遥かに凌駕する剣の使い手が二人もいるのか。アーサーが彼等に会ったら、喜び勇んで戦いを挑みそうだな」
「アーサー?」
一誠がそう尋ねると、ヴァーリはオーフィスとの戦闘中に瑞貴にしたものと同じ説明を一誠に行う。
「武藤瑞貴にはさっき説明したんだが、禍の団で俺とチームと組んでいる奴の一人で、アーサー王の末裔だよ。先祖の名前をそのまま付けられたらしいんだが、その縁もあるのか聖王剣コールブランドの担い手にもなっている」
その説明を聞いた一誠はまだ見ぬ初代
「初代騎士王の末裔か。僕は初代の記憶を継承しているから、できれば会って話をしてみたいな。特に伝説における逸話の裏話なんて持ち掛けたら、結構いい反応してくれるかもね」
一誠の茶目っ気の入った言葉にヴァーリは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「確かに、俺ももし先代ルシファーの裏話というものがあるなら、ぜひ聞いてみたいものだな。……さて、そろそろ行くか。俺の離反が向こうに伝わるまでに、一度仲間に接触して俺について来るかを確認しないとな」
ヴァーリが禍の団でチームを組んだ仲間との接触を図る事を伝えると、一誠はクローズをどうするのかを尋ねた。
「クローズはどうする?」
「このままカテレアの忘れ形見であるクローズを連れていくと、旧魔王派の連中が色々と煩そうだから一先ずここに置いていくよ。クローズと行動を共にするのは、その後からだな」
流石に危険だと解っている場所にクローズを連れていく気などないヴァーリは、身軽に動けるという利点も兼ねて単独で動く事にした。そうして駒王学園を飛び立とうするヴァーリを、クローズが心配そうに見ている。
「ヴァーリ兄ちゃん……」
クローズの不安げな視線に気づいたヴァーリは一旦出発を取り止めると、クローズの側まで移動した後で視線を合わせて話を始めた。
「ちょっと仲間の様子を見に行くだけだから大丈夫だ、クローズ。それに上手くいけば、俺達の旅の仲間が増えてもっと楽しくなるぞ」
仲間が増えると旅が楽しくなるというヴァーリの言葉を聞いたクローズは、大人しくお留守番する事を受け入れる。
「……ウン! ボク、ここでヴァーリ兄ちゃんが迎えに来るのを待ってるよ!」
「いい子だ」
ヴァーリがクローズの頭を撫でると、クローズの赤龍帝の籠手からカテレアが声をかけてきた。
『ヴァーリ。既に離反が相手に伝わっていて仲間との接触が困難と判断したら、無理をせずに潔く退きなさい。もし無理をしてクローズを泣かせる様な事になったら、私は貴方を許しませんよ』
このカテレアからの忠告をヴァーリは素直に受け止めた。死ぬ直前のカテレアと交わした約束を破る訳にはいかないからだ。
「解っているよ、カテレア。その時は仲間との接触を諦めて潔く退くし、その後は自分を鍛えながらクローズと一緒に冥界と人間界を旅して回るさ。貴女と交わした「クローズが一人前になるまで見届ける」という約束は、
「あぁ。真剣勝負に相応しい場所は既に用意してある。だから、そこで思う存分「仲良くケンカ」しよう」
ヴァーリは最後に一誠と真剣勝負の約束を交わすと、音速を軽く超えるスピードで駒王学園から飛び立っていった。そうしてしばらく飛行して駒王学園からある程度離れると、ヴァーリはアルビオンに呼び掛ける。
「なぁ、アルビオン」
『何だ、ヴァーリ?』
アルビオンが話を聞く構えを見せると、ヴァーリは先程のクローズとのやり取りの中で朧げながらも感じた事を伝えた。
「俺が一番望んでいるものは、ひょっとすると世界最強の白龍神皇になる事でも、一誠を始めとする本物の強者との真剣勝負でも、そして俺を散々虐げてきたあの男への復讐でもないのかもしれないな」
実はヴァーリが本当に望んでいるものに気づいていたアルビオンは、多少遠回しながらもそれを大事にする様にアドバイスする。
『それなら、尚更大事にしないとな。ドラゴンという生き物は、己の宝を何よりも大切にするものだ』
「……あぁ。そうだな」
アルビオンからのアドバイスに対して、ヴァーリは短いながらも明確な意志を以て頷く事で返事とした。
……今、ヴァーリの中で新しい何かが生まれようとしていた。
Overview end
いかがだったでしょうか?
首脳会談が行われていた頃にはやてサイドで何があったのかは、現在チラシの裏で公開中の外伝にて取り扱っています。
では、また次の話でお会いしましょう。