赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.5 修正


第二十五話 そして、新たなる時代へ

 家で待機していた所をこちらに来てもらったはやて達から色々と話を聞き、ヴァーリが禍の団(カオス・ブリゲード)で結成したチームの仲間と一度接触する為に駒王学園を去った後、首脳会談の終了宣言も出ているのでそろそろ解散しようという流れになってきた。僕は元士郎に過剰状態であった治癒の力を少しずつ抜いていた黒い龍脈(アブソープション・ライン)のラインをカットする様に頼む。

 

「元士郎、もういいぞ。ラインをカットしてくれ」

 

 すると、元士郎は僕に本当に大丈夫なのかを確認してきた。

 

「大丈夫なのか?」

 

「あぁ。……そうだな、あと十秒といったところかな?」

 

 僕がそう答えると、元士郎は納得した様な素振りを見せる。

 

「解った。それじゃカットするぜ」

 

 そうして元士郎がラインをカットしてから十秒後、僕の体を温かな光が包み込んだ。僕の突然の変化に周りは驚いていたが、何の事はない。過剰にあった事で滞っていたものが、ようやく機能しただけだ。

 

「フゥ。過剰だった治癒の力が正常になった事で、ようやく体が全回復したよ。イリナ、アウラ。流石に見送りくらいは立って行わないとダメだから、そろそろ離れてくれないかな?」

 

 僕が二人にそう頼むと、イリナは僕の様子を窺って来た。

 

「……本当に大丈夫みたいだから、もう離れるわね」

 

 イリナはそう言って、肩越しに抱き締めていた両腕を緩めるとそのまま離れた。アウラもイリナに続く形で素直に膝の上から離れてくれたが、その表情は何処か寂しげだ。……よくよく考えてみれば、アウラにはオーフィスに「蛇」を流し込まれて気絶させられた時からずっと不安にさせてきた負い目がある。その不安を払拭するのが父親としての務めだが、それは一先ず置いておこう。

 

「さて、後はどうにかして服装を整えたい所だけど……」

 

 そうして座り込んでいた状態から立ち上がった僕は自分の今の状態を確認するが、負傷や体力こそ全快したものの身に纏っている物が物の見事にボロボロだった。ミスリル銀製の甲冑はオーフィスのオーラによる範囲攻撃の時点で破壊されて修復も不可能、ミスリル銀を編み込んだ純白の法衣も極大倍加(マキシマム・ブースト)を使用してからの戦闘で所々が破れてしまっている。これなら一から作り直した方がマシだろう。そしてレイヴェルから贈られた不滅なる緋(エターナル・スカーレット)については、オーラによる範囲攻撃の時点で既に原型を留めない状態にされた上に成層圏から叩き落とされた際の摩擦熱がトドメとなって完全に失われてしまった。ただ、成層圏から叩き落とされたにも関わらず大きなダメージを受けずに済んだのは真聖剣で落下速度を「滅ぼした」のと不滅なる緋が摩擦熱を完全にシャットアウトしてくれたお陰なので、僕は製作者であるレイヴェルに心から感謝した。それと同時に、これほど早く不滅なる緋を失う事になってしまった事をレイヴェルに対して申し訳なく思っていると、瑞貴が僕に声をかけてくる。

 

「一誠、これを」

 

 瑞貴がそう言いながら差し出して来たのは、一枚の緋色の布切れだった。……所有者である僕には解る。アレは切れ端だが、間違いなく不滅なる緋だ。

 

「オーフィスがオーラによる範囲攻撃を仕掛けてきた後、偶々僕の側に飛んで来たんだ。念の為に回収しておいたけど、問題ないかな?」

 

 瑞貴の問い掛けに対する僕の答えは一つだった。

 

「問題ないよ。むしろ助かった」

 

 僕はそう言って瑞貴から不滅なる緋の切れ端を受け取ると、すぐに魔力を通す。すると、切れ端は赤い炎を上げて激しく燃え始めたが、その炎はすぐに消えてしまう。……そして、僕の手には完全に修復された不滅なる緋があった。

 

「これで、どうにか首脳会談の発起人としての体裁を保つ事ができるな」

 

 僕は修復された不滅なる緋を纏う。不滅なる緋は冥界において礼装と決められているので、出席者の見送りに際しての服装としてはけして無礼とはならない。

 

「一誠、これは一体?」

 

 不滅なる緋が修復される一部始終を見ていた瑞貴から尋ねられた僕は、不滅なる緋に関する説明を始めた。

 

「不滅なる緋にはフェニックスの羽根が織り込まれている。その為、魔力を通せば切れ端からでも修復が可能という特性があるし、僕とロシウ、計都、ニコラスの四人でありとあらゆる加護や耐性、防御術式を付与してもその全てを受け止めきれる程に法衣としての質も高いんだ」

 

 だが、僕の説明を聞いた後でも瑞貴は少し納得がいかない様な表情を浮かべて追及しようとする。

 

「流石はフェニックス家が授けた褒賞というべきかな? でも、それなら貰ってからすぐに教えてくれれば……」

 

 しかし、瑞貴は途中で何かに思い至ったらしく、一瞬だけレイヴェルに視線を向けて納得する様に一つ頷いた後はそこで話を終わらせてしまった。

 

「……いや、これ以上の追及は野暮というものかな。そうだろう、一誠?」

 

 瑞貴はそう言ってきたが、あの分だと不滅なる緋に織り込まれているフェニックスの羽根はレイヴェルの物である事に気付いたのだろう。変にもの解りのいい瑞貴の反応に、僕は溜息を吐くしかなかった。そうする事で気を取り直した僕は、一旦しゃがみ込むと側にいたアウラを抱え込む。

 

「キャッ!」

 

 突然僕に抱え込まれたアウラが驚きの声を上げる中、僕はアウラを抱き抱えたまま立ち上がった。

 

「よっと。何も聞かずにこうしちゃったけどいいかな、アウラ?」

 

「あっ。……ウン!」

 

 アウラは僕の確認に少し驚いた後、笑顔で返事してきた。少々甘やかしが過ぎるとも思うが、そもそもアウラは普段が余りにも我慢強い「いい子」だ。僕としては、アウラにはもう少し我儘を言ってほしいと思っているし、アウラが明らかに甘えたがっているのにそれを我慢している時にはこっちから甘えさせないといけないとも思う。

 

 ……娘が可愛い父親としては娘に優しくあるべきか、それともあえて厳しくあるべきか、その判断がとても難しい所だ。

 

 セラフォルー様がはやてに話しかけてきたのは、アウラを抱き上げてからの事だった。

 

「ところで、はーたん先輩」

 

「だから、それは。……いえ、何でもありません。もう好きに呼んで下さい」

 

 はやてが一度は訂正させようとしたものの、結局はセラフォルー様の呼び方を甘んじて受け入れたのは、アウラが自分を見ているのに気付いたからだろう。……ゴメン、はやて。せめてアウラの前では「優しい魔法少女」でいてくれ。

 

「その服、魔力で編んでいますけど一体どういうものなんですか? それと、私の方が色々な意味で後輩なんですから、敬語は止めて下さいね☆」

 

 セラフォルー様から騎士甲冑について尋ねられたはやては、それに合わせて敬語を止める様に言われた事に困惑しながらもしっかりと説明する。

 

「リアスさんやソーナさんより年上の人に「敬語使うな」言われてもなぁ。まぁ、リヒトやリインみたいな感じでえぇやろ。……それで、今わたし達が纏ってる騎士甲冑の事やったな。これはわたしやリイン、リヒトが主に使うベルカ式魔法で騎士甲冑言うてな、早い話が魔力で編んだ防護服なんや。別の魔法体系であるミッドチルダ式やとバリアジャケット言うとったな。これは単に通常の服より遥かに頑丈なだけやのうて、服の覆ってない場所にも防御フィールドを展開したり、劣悪な環境や魔法、物理的な衝撃から身を守ってくれたりする、とっても便利な代物なんよ。ただ、纏っているだけで魔力を消費するのと性能は消費魔力に比例するっちゅう欠点もあるんやけど、魔力を使った時に逆流したり暴発したりしても守ってくれるから単に戦闘だけやなくて儀式魔法を始めとする大規模な魔法を使う時にも有効なんよ。そやから、魔法使いにとってはほぼ必需品と言ってもえぇかもしれへんな。それと、騎士甲冑を纏った時にその直前まで着てた服は粒子化されて別空間に仕舞われるから騎士甲冑を解除したら素っ裸なんて心配をせんでもえぇのと、デザインは本人のイメージでいくらでも変更できるのも特徴や」

 

 はやての説明が終わると、セラフォルー様は騎士甲冑の作り方を教えてほしいと頼み込んできた。

 

「はーたん先輩! その騎士甲冑の作り方、教えて下さい! 魔法少女と言えば、やっぱり変身ですから!」

 

 ……どうやら、セラフォルー様の頭の中に「魔法少女=変身」という図式があるらしい。その意味では、確かに騎士甲冑は理想そのものだろう。はやてもそれに気付いた様で、溜息交じりではあったが今は無理なので後日改めてという条件付きで騎士甲冑の作り方を教える事を承諾した。

 

「……まぁ、ミッドチルダやベルカの魔導師にとっては一般的なモンやから、別に教えても問題ないやろ。ただちょっとコツがいるから、この場で教えるのは流石に無理や。そやから、また後日という事でえぇか?」

 

「はい! その時は、時間を作って必ず!」

 

 こうして二人の魔法少女が親交を深めている一方、アザゼルさんはリヒトをジッと見ていた。そして、感心した様な言葉をかける。

 

「しかし、本当に良く出来ているな。何でも魔導生命体らしいが、自我も知性もしっかりしている。俺の知っている限りでは、独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)の中で人間の言語を理解するのはともかく話す事ができるモノはない筈だぞ」

 

「神器にも我等の様な物があると?」

 

 リヒトは神器にも自分達と同じ様な存在がある事について尋ねると、アザゼルさんは先程口にした独立具現型の神器の形状について説明し始めた。

 

「あぁ。ただ動物や幻想種の形をしたのが大部分でお前達の様にハッキリと人間の形をした奴は今の所確認されていないんだがな。……子供が出来るくらいに一個の生命として完成しているお前達に言うのも少々アレだが、お前達のメンテは一体どうなっている?」

 

「自己再生機能があるので基本的にはメンテナンスフリーとなっていますが、魔導書に記された各種データの整理やバグの削除などは夜天の王である主上自らが行う必要があります。その際、主兄殿はその際にどういった処置をしていくのかを適宜指示なされているので、夜天の書に関して一番理解しているのは主兄殿でしょう」

 

 メンテナンスの必要性について尋ねられたリヒトが実情を説明すると、アザゼルさんは僕の神器の捉え方が自分とは異なる理由について納得した様だった。

 

「成る程な。道理でイッセーが俺とは違う視点で神器を見る事ができる訳だ。この世界のものとは違う文明によって作られたモノと接しているんなら、自然とこっちの常識とは異なる視点を持つ様になるからな。……これは色々と楽しみになってきたぜ」

 

 ……どうやら、アザゼルさんとは今後も色々と語り合う事になりそうだ。尤も、僕もアザゼルさんと語り合うのは楽しいので全く苦にはならないのだが。

 そして、ミカエルさんはリインに他の世界にも天使が存在しているのかを確認していた。

 

「では、そちらの世界にも天使に関する伝承はあると?」

 

「はい。ただ、ミッドチルダはともかく夜天の書が作られたベルカにおいてはこちらの世界で言う所の北欧神話に近い伝承が多く、はやてが使用するベルカ式魔法にもこの伝承で出てくる様々な物の名が使われています。その為、少なくともベルカにおいては実際に天使がいたかと言えば疑問符が付いてしまいますし、何よりベルカは遥か昔に世界ごと滅んでいますので……」

 

 リインが結論を言い淀んだ事で、ミカエルさんは望んだ答えが得られない事を悟ってしまい、肩を落としてしまった。どうやら、ミカエルさんはこの世界とは完全に別の世界が存在する事を知った事で、同胞たる天使が他の世界にもいる可能性に一縷の望みをかけた様だ。

 

「仮に実在したとしても、既にいなくなっているという事ですか。残念ですね。でき得るなら、一部の方でもいいのでこちらの天界に移住して頂きたかったのですが……」

 

 ……つまり、それだけ天使の数が少なくなってきているという事である。天界についてはけして楽観視できないだろう。

 こうしてはやて達と首脳陣が語らい合っている内にそろそろ夜明けの頃合いとなったので、まずはミカエルさんから別れの言葉を告げられた。

 

「そろそろいい頃合いですから、今度こそ天界へ帰ります。先程も言いましたが、正式な和平協定の締結は後日改めてという事で。……あぁ、それと武藤神父。貴方から進言のあった「悪魔となってもなお心から主に祈りを捧げる者達への救済措置」と「今後の聖剣研究は人的損害を出さぬ様に方向転換する」件ですが、どちらも私の名で承認します。悪でなき「魔」は悪魔に非ず。……言葉の綾ではありますが、この論理がシステムに適応できる事を貴方が証明した以上は前者の件を問題なく実行できますし、後者の件も被験者の一人である木場祐斗君から頂いた聖魔剣に誓って必ず実行しましょう」

 

「ミカエル様。私ごときの進言を取り上げて頂き、誠にありがとうございます」

 

 ……礼司さん、何時の間にその様な事を。

 

 ミカエルさんから明かされた礼司さんの進言とそれが承認された事への感謝を伝える礼司さんの姿に僕は驚きを隠せなかったし、元教会関係者であるイリナやアーシア、ゼノヴィア、そして聖剣計画の被験者である祐斗も同様に驚いていた。ただ、礼司さんの義息子である瑞貴だけは特に驚いていなかったのを考えると、瑞貴だけは予め話を聞かされていたのだろう。

 

「義父さん。昨日も言ったけど、祐斗達の前で改めて言わせてもらうよ。……本当にありがとう」

 

 瑞貴がそう言って頭を下げると、祐斗やアーシア、ゼノヴィアの三人も瑞貴に続いて頭を下げた。

 

「いえいえ。瑞貴君には昨日も言いましたが、気にしないで下さい。これはこれから貴方達が少しでも心健やかに生きていく為になすべき、親として、そしてまた大人としての義務なのですから」

 

 礼司さんはそう言っているものの、それで「はい、そうですか」と納得してしまう程、祐斗達は恩知らずではない。

 

「ですが、武藤神父」

 

 現に祐斗が退かない姿勢を見せた事で、神父は少し困った顔をした。しかし、すぐに交換条件を切り出すあたり、やはり機転の利く人だった。

 

「どうも納得がいかない様ですね。では、こうしましょうか。もし私の行為に少しでも恩を感じてくれたのなら、一人前の大人として長じた時に貴方達の後に続く子供達が少しでも心健やかに生きていける様に尽力して下さい。そうして頂けると、私も頑張った甲斐があったというものです」

 

 礼司さんがウインクをしながら茶目っ気たっぷりにそう言うと、祐斗達は感激した素振りを見せる。

 

「武藤神父、貴方という人は……! はい! 必ず!」

 

「できる事はとても少ないですけど、私も頑張ります!」

 

「今はまだデュランダルを振り回す事しかできませんが、私もやれる事を探して何とかやってみます」

 

 心の昂りをそのままに祐斗達が将来についての決意を示すと、礼司さんはウンウンと満足げに頷いていた。そして、その様子を笑みを浮かべて見守っていたミカエルさんが天使達を連れて天界に戻ろうとすると、再びアザゼルさんが声をかける。

 

「ミカエル。他の神話勢力、特にヴァルハラや須弥山の連中にはお前が説明しておけよ。下手にオーディンや帝釈天に動かれても困るからな」

 

「えぇ。堕天使の総督や魔王がいくら説明しても説得力がないでしょうから、私が伝えておきます。何せ「神」への報告は慣れていますから」

 

 アザゼルさんから他の神話勢力への説明を託されたミカエルさんがそれを承諾すると、アザゼルさんはその際にある条件をつけた。

 

「その際だが、もし仮にイッセーを亡き者にしようって気配を僅かでも感じたら、下手にイッセーを擁護せずに放っておいた方がいいぞ。……大きく変わりつつある現在(いま)を見ようともしないんじゃ、どうせ後が続かねぇからな」

 

 ある意味僕を見捨てる様な発言をしたアザゼルさんだが、ミカエルさんはその発言の裏側にある意図を正確に見抜いていた。

 

「確かに現状を見ようとしないのであれば、こちらから頭を下げて手を差し伸べて頂く必要はありませんね。あの兵藤君への執着ぶりから見て、もし手を出そうものならオーフィスが自ら出向いて勢力ごと滅ぼしてしまいそうですから。……解りました、その傾向が見られた神話勢力とは付かず離れずの関係を保つ様にしましょう」

 

 ミカエルさんはそう言うと、そのまま天使の軍勢を率いて天界へと帰っていった。それを見届けたアザゼルさんは、その場に集まっていた堕天使の軍勢を前に自分の意志を伝え始める。

 

「俺は和平を選ぶ。いや、和平の先にある共存共栄をも見据えた聖魔和合に、そしてその提唱者にして我が身を以てそれが実現可能だと証明し、ついにはその先駆けとしてこの場にいる者達全員の力を結集してあのオーフィスをも退けた赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)に俺達堕天使の命運を賭ける。だから、堕天使は今後一切天使や悪魔とは争わない。それが不服なら去ってもいいが、俺の邪魔をするなら容赦はしない。遠慮無く殺してやる。……これから始まる、未だ見た事のない新しい世界に夢を見たい奴はついてこい! 俺が、いや俺達が最高の夢を見せてやる!」

 

「我等が命、滅びるその時までアザゼル総督の為に!」

 

 アザゼルさんからの意志確認に対し、堕天使達は忠義の怒号で応えた。アザゼルさんは小さな声で「ありがとよ」と感謝の言葉を伝える。そして、堕天使達はアザゼルさんの指示で魔方陣を展開すると、それを通って次々と去っていった。サーゼクス様達が呼び寄せた悪魔の軍勢も別の魔方陣で駒王学園から転移していき、残ったのはヴァーリを除く首脳会談の出席者とグレモリー・シトリー両眷属、そしてはやて達だけとなった。

 

「さて。後始末も済んだ事だし、俺もこれで帰るぜ」

 

 そう言って立ち去ろうとするアザゼルさんだったが、その前に一度こちらを振り向いた。

 

「あぁ、それとな。俺は当分の間、駒王町に活動拠点を移して行動するぜ。それに合わせて神器(セイクリッド・ギア)の研究施設を一つ、こっちに作るつもりだ。構わないよな、サーゼクス?」

 

 アザゼルさんが意志確認をすると、サーゼクス様はここで条件を出す。

 

「条件付きだな。その研究施設はイッセー君との共用という形にしてくれ。何せ、イッセー君は協力者も専用の研究施設もないにも関わらず、あれだけの成果を上げられたんだ。専用の研究施設があり、更にアザゼルとの共同研究なら一体どれほどの成果が上がるか、私には想像もつかない。何より、悪魔と堕天使の技術交流の先駆けとしては正に打って付けだろう」

 

 サーゼクス様はこう言っているが、それだけではないだろう。おそらくは駒王町を聖魔和合という一大事業の中心地に据えようとしている。そしてその第一歩が、悪魔と堕天使による神器の共同研究だ。このサーゼクス様の意図を、アザゼルさんが読み取れない訳がない。

 

「それはむしろ俺の方から頭を下げてお願いしたいところだな。解った、ここに作る研究施設は特別にイッセーも出入りできる様にしておくぜ。……まぁ、聖魔和合親善大使としての活動が軌道に乗れば、イッセーが神の子を見張る者(グリゴリ)の所有する全ての研究施設に出入りできる様になるんだろうがな」

 

 アザゼルさんはそう言って交換条件を承諾すると、少し考え込んでから自分の考えている事を話し始めた。

 

「最初はな、こっちに活動拠点を移すのに合わせて特に伸び代があるガキ共の面倒も見てやろうと思っていたんだ。だが、歴代最高位の赤龍帝や夜天光の騎士なんて化物連中がコイツ等を指導してここまでキッチリ成果が出ているんなら、俺が特に手を出す必要はねぇって解ってしまったんだよ」

 

 ここでアザゼルさんは首を横に振ると、優先して鍛えるべき対象が他にいる事を告げる。

 

「……いや、そうじゃねぇな。むしろ俺の方が本腰入れて鍛え直さねぇと不味いだろう。何せ、オーフィスがイッセーを狙って再びやって来るのは間違いない上に、次は最初から本気で来る筈だ。それなのにその本気のオーフィスと今の所まともに戦えそうなのは、俺の知っている限りじゃ実際に戦ってみせたイッセーとサーゼクス以外にはサーゼクスと同格のアジュカと歴代最高位の赤龍帝、そして夜天光の騎士しか見込めねぇときている。折角三大勢力が聖魔和合っていう協調路線に舵を切ったってのに、対オーフィス戦という最終決戦に等しい重要な場面において俺達堕天使は手も足も出せないなんて流石に情けねぇからな」

 

 堕天使総督が、己を鍛え直す。

 

 もし裏の事情に多少なりとも精通している者が聞けば、間違いなく驚愕を以て受け止められるであろう言葉だった。そしてそれはサーゼクス様も同じだった様で、何かを決心した様な表情を浮かべると僕に話しかけてくる。

 

「イッセー君。次の戦いではオーフィスが最初から全力で来る事がほぼ確実である以上、私も何とか時間を作って一から鍛え直すつもりだ。そこで相談なんだが……」

 

「サーゼクス様」

 

 サーゼクス様が具体的な事を言おうとすると、グレイフィアさんが言葉を遮ってきた。そこで、サーゼクス様が自分の決意を表明する。

 

「グレイフィア。私は魔王としての政務を疎かにするつもりはない。ただ上に立つ者として、そして何より一人の男として、イッセー君達に全てを背負わせる様な真似をしたくないんだ。だから、こればかりはいくら君がダメだと言っても……」

 

 そして、サーゼクス様はグレイフィアさんの抑止を振り切る様な事を言おうとしたが、それを遮る形でグレイフィアさんから出てきた言葉はサーゼクス様を諌める内容ではなかった。

 

「兵藤様と共に本格的に鍛錬を行うおつもりなのでしょう? そうであればお止めする事など致しません。むしろ、私も一緒に参加させて下さい。今まで長い時間を生きてきましたが、これ程悔しく情けない思いをしたのは初めてです。貴方が傷ついていくのをただ見ている事しかできないなんて事は。……サーゼクス。私は貴方の妻であると同時に、女王(クィーン)の眷属でもあるのよ。だから、私をただ貴方の帰りを待つだけの情けない女にしないで」

 

 最後はメイドとしての顔を捨てて、魔王ルシファーの女王として、そして何より妻としての言葉をグレイフィアさんはサーゼクス様にぶつけてきた。サーゼクス様は瞳を閉じると、グレイフィアさんの言葉とそこに込められた思いを噛み締めながら答え始める。

 

「グレイフィア。……そう、そうだな。現に、イリナ君はイッセー君が奥の手である世界蛇殺し(ウロボロス・スレイヤー)を発動するまでの時間を稼ぐ為に戦い始めた時には、自分にできる事を精一杯やり切る形でイッセー君達の援護を全うした。戦いのレベルが加速度的に上がっていき、とうとうついて行けなくなった時には、不安に押しつぶされそうになりながらも最後までその目を逸らさなかった。世界蛇殺しを発動した時には傷ついた体を押して真っ先に駆け寄り、共に力を合わせて最初の一撃をオーフィスに与えた。そしてオーフィスを仕留め切れずに仕切り直しになってしまった時、一人で立ち向かおうとしたイッセー君を「一人じゃない」と引き止めてみせた。イッセー君とイリナ君は、世界最強のオーフィスを相手に最初から最後まで一緒に戦っていたんだ。まだ大人になり切れない程に若い二人がここまでできたんだ。長い時間を共に歩んできた私達にできない筈がない。だから、グレイフィア」

 

 ……更に、僕達がサーゼクス様達と同じ立場であればイリナはきっとこう答えるであろう言葉が、グレイフィアさんから出てきた。

 

「はい、貴方について行きます。何時までも、何処までも」

 

「……ハァ。ご馳走さんだ。俺はもう腹一杯だぜ」

 

 だから、どうも独り身らしいアザゼルさんから明らかにウンザリしたという表情と溜息交じりの言葉が出てくるのは仕方のない所だろう。

 こうして最後は心に温かな物を残した僕達はそのままそれぞれの家に帰る事になり、今年に入ってから最も長い夜も終わった。

 

 

 

Overview

 

 駒王学園における三大勢力の首脳会談から一週間が過ぎた、20XX年7月。

 

 この日、三大勢力の間で最終的な合意が得られた事で和平協定が調印された。調印したのは以下の三名。

 

 天界代表、天使長ミカエル。

 堕天使中枢組織「神の子を見張る者(グリゴリ)」総督、アザゼル。

 冥界代表、魔王サーゼクス・ルシファー。

 

 以降、三大勢力は和平とそれに伴う共存共栄を謳う「聖魔和合」をスローガンとして掲げ、争いを禁止事項と定めた上で協調体制へと移行する事になった。なお、この和平協定は首脳会談の会場となった場所の名を採って「駒王協定」と称される様になる。

 

 そして、駒王協定の調印に合わせて一つの発表がなされた。

 

 聖魔和合を推進する為の象徴として三大勢力共通の親善大使、聖魔和合親善大使を新たに設立し、聖魔和合の提唱者であり駒王協定締結における最大の立役者である兵藤一誠を初代聖魔和合親善大使に任命する、と。

 

 なお、この駒王協定には協定履行を保証する裏書きが一個人によって為されている。その文面は以下の通り。

 

 この和平協定は調印者並びに魔王レヴィアタン陛下、更に我を始めとする多くの者達も同席しての談論の末に交わされたものであり、今後どれほどの時が経とうとも全ての約定が履行される事をあらゆる世界に住まう全ての方々に対して保証するものである。

 願わくは、この和平協定に関わる全ての者達の弛まぬ努力によって聖魔和合が完成し、天使・堕天使・悪魔の三種族の協調が悠久を超えて永遠とならん事を。

 

 20XX年7月 聖魔和合親善大使 兵藤一誠

 

 これが、兵藤一誠の聖魔和合親善大使としての初仕事となった。そして、世界は新たな時代の幕開けを迎える。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

……やっとここまで来ました。

では、また次の話でお会いしましょう。
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