赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.5 修正


第二十六話 分岐点

 駒王学園での首脳会談と禍の団(カオス・ブリゲード)によるテロ、そしてその首領である無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスとの激闘から一週間が経った。……ただ、首脳会談が終わってから和平協定が調印されるまでの一週間、本当に色々あった。

 まず、リヒトを大黒柱とするツァイトローゼ一家の戸籍が無事に取得できた。ただ、頼んだのが首脳会談の終了宣言をしてからなので夜明け直前。そして日本神族に話を通して戸籍を得たのがその翌日の夜中。つまり、戸籍取得までに掛かった時間は僅か一日半という事になる。しかも戸籍を取得した事をソーナ会長を通して僕達に伝えればいいものをわざわざ僕達の家に赴いて自らの口で伝える辺り、セラフォルー様の気合の入り方がまるで違っていた。……やはり、「優しい魔法少女」の先輩であるはやてから頼られた事が相当に嬉しかったらしい。

 なお、リヒト達はこれを機に常時実体化すると共にレイヴェルの家に移って彼女の家の家庭教師兼警備員の様な事をやっている。ユーリについては最終的には駒王学園の初等科に編入する事になった。つまり、はやての後輩になるのだ。ただ、最初こそユーリが同級生やクラスメートと上手くやっていけるのかという不安があったが、アウラやクローズと一緒に楽しく遊ぶなどこちらが微笑ましく思える様な光景も多数見られた事で、僕やリヒトはこれなら初等部でもやっていけると安堵した。尤も、リヒト達がある事を実行する事になったので、ユーリの初等部の編入は今から二ヶ月後、つまり二学期に入ってからという事になったのだが。

 ツァイトローゼ一家の戸籍取得から二日後、禍の団(カオス・ブリゲード)で作ったチームの仲間と上手く合流できたヴァーリがクローズを迎えに来た。ただ流石に仲間全員という訳にはいかなかったらしく、SS級の「はぐれ」悪魔として指名手配されている「黒歌」という転生悪魔だけはヴァーリに賛同せずに禍の団に残ったとの事だった。そうしてヴァーリが連れてきた仲間達とは色々と話をしたが、正直な所とても疲れた。……まさか、見た目はとても大人しそうな女の子があれ程パワフルだとは思わなかったのだ。しかし、だからといって、僕は彼等の事について余り不安には思っていない。ヴァーリが連れてきた仲間達は揃ってクローズの事を快く受け入れてくれたからだ。それを見た僕は、彼等の事を「枠」からのはみ出し者ではあるもののけして「道」を踏み外した者ではないと確信できた。

 クローズがヴァーリ達に連れられて旅立った三日後。その前日に守護精霊化が終わったという事でリディアが早速ティアマットの元を訪ねていたのだが、そのリディアからティアマットの元を訪れる様に頼まれた。そこでティアマットの住処に直接転移して話を聞くと、どうやらドライグの妻であるグイベルさんの事をリディアから教えられ、その際にドライグが「ティアマットにも並びかねない」とグイベルさんを評した事を耳にしたらしい。それで「ドライグの女房の力、早速だけど見せてもらうよ」という事になり、グイベルさんの力である波動の力を使用してティアマットと戦う事になった。なお、グイベルさんの力を発動している時は籠手の色が赤から青みがかった黒へと大きく変わる事から、神器(セイクリッド・ギア)の名前を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から黎龍后の籠手、イニシアチブ・ウェーブと変えるようにした。この新名称は、波動の力を以て相手の能力を封じる事で戦いの主導権を掌握するというグイベルさんが最も得意とする戦い方を象徴する意味で名付けた。

 そういう経緯で手合わせした結果、ティアマットは己の持つ能力を完全に封じられた事でドラゴンとしてはスタンダードである強烈なブレスと強靭な肉体を用いた戦闘術で戦わざるを得ず、対する僕もまた中和の波動を使用している時はそれ以外の波動を使用する事ができない上に対オーフィス戦で罅割れた真聖剣もけして万全とは言えないので、クォ・ヴァディスや赤い龍の理力改式(ウェルシュ・フォース・エボルブ)、そして()(どう)(りき)を主体に戦う事となり、半日掛かりの激闘の末にどうにかグイベルさんの力が自分と同格である事をティアマットに認めてもらえた。……そして、能力の無力化以外は神器も真聖剣も使わずに独力で戦っていたという事で僕の器と力も認めてもらえ、ティアマットと召喚契約を交わした。

 

 

 

 こうして迎えた「駒王協定」と名付けられた和平協定の調印式が終わり、聖魔和合親善大使の初仕事として協定の裏書きを書いたその翌日。既に授業は終わり、放課後となったので僕はレイヴェルに今日のスケジュールを確認した後、久々に生徒会の仕事をしていた。肩に通常の大きさで外に出てきたアウラを乗せて、時折隣に座るイリナやソーナ会長と話をしながらコツコツと仕事をこなしていると、僕はようやく日常へと帰ってきた事を実感できて安堵する。すると、生徒会室の扉が突如開いた。

 

「ヨウ。邪魔するぜ」

 

 そう言って生徒会室へと入ってきたのは、着崩したスーツ姿のアザゼルさんだった。すると、アウラが早速元気にアザゼルさんに挨拶をする。

 

「あっ! アザゼル小父ちゃん、こんにちは!」

 

「おう、アウラか。元気な挨拶、よくできたな。よしよし」

 

「エヘヘ……」

 

 ちゃんと挨拶できたアウラにアザゼルさんがご褒美として頭を撫でてあげると、アウラは嬉しそうに笑って受け入れていた。……だが、今のは流石に見過ごせないので、僕はアウラに注意する。

 

「アウラ。今はお仕事中だから、いくら親しくてもちゃんと「アザゼル総督」って呼ばないとダメだよ」

 

 僕の注意を聞いたアウラはハッとなった後、自分の呼び方が失礼になる事に気づいてシュンとなり、すぐにアザゼルさんに謝った。

 

「あっ。……ゴメンなさい、アザゼル総督」

 

 そんな殊勝なアウラの姿を見て、アザゼルさんは少々苦笑している。

 

「いや、まぁ確かにちゃんとした公の場で「アザゼル小父ちゃん」は流石に不味いが、今はそうでもねぇだろう。だから、今は「アザゼル小父ちゃん」で構わねぇよ」

 

「ありがとう、アザゼル小父ちゃん!」

 

 アザゼルさんから許可を貰ったアウラは早速感謝の言葉を伝えた。その言葉を受け取ったアザゼルさんは、意外そうな表情で僕の方を見ている。

 

「しかし意外だな、イッセー。お前は叱る時にはちゃんと叱るんだな。てっきり娘にただ甘な親バカかと思っていたんだが」

 

 このアザゼルさんの「親バカ」発言に、僕は親としての自分の考えを伝える事にした。

 

「確かにアウラが可愛くてしょうがないのは事実です。それこそ、アウラの幸せが僕の願いだと断言できるくらいに。でも、だからと言って何でも許してしまうのはちょっと違うでしょう。可愛いからこそ、アウラには明らかに間違っている事をして欲しくないんです。だから、時にはアウラをきつく叱る事もありますし、それで泣かせちゃった時にはやり過ぎた事こそ謝りますけど叱った事自体は撤回しません」

 

 ただ可愛がるだけなら、それは「親バカ」ではなく「バカ親」だ。僕はそう思っている。すると、アザゼルさんは話をイリナに振ってきた。

 

「成る程ね。アウラの将来にしっかりと責任を持っている訳か。そんな旦那の考えを嫁としてはどう思っているんだ、イリナ?」

 

 話を振られたイリナは、公開授業の後で行われた兵藤家・紫藤家・フェニックス家・シトリー家・グレモリー家の合同顔合わせの時の事を持ち出す。

 

「まだ嫁じゃないんですけど。……もういいです。実を言うと、公開授業の夜にイッセーくんの家に私とソーナ、リアスさんにレイヴェルさんとそのご家族が集まったんですけど、レヴィアタン様にアウラちゃんが呼び捨てにしちゃったんです。その時に私、それはダメだってアウラちゃんに注意しようとしたら、その前に当のご本人から構わないから叱らない様に言われてしまって……」

 

 流石にその話は知らなかったので僕が驚いていると、ソーナ会長が補足を入れてきた。

 

「因みにその時、イリナはお姉様から「アウラちゃんのお母さん」と呼ばれて、極自然に受け入れていましたよ」

 

 すると、イリナは顔を少し赤くしながらソーナ会長に対して怒鳴ってしまった。

 

「ソ、ソーナ! 何でそこまで教えちゃうのよ! ……と、とにかく。そういう訳で、この件に関しては私もイッセーくんと同じ考えなんです」

 

 イリナがそう締めくくると、アザゼルさんは何とも言えない様な表情を浮かべながら溜息を一つ吐く。

 

「まぁ、なんだ。色々と飛び越してはいるが、お前達はもう誰がどう見ても立派な親だよ。なぁ、アウラ?」

 

 どうやら僕やイリナの親としての考えに納得してくれたらしいアザゼルさんがアウラに対して同意を求めると、アウラは満面の笑顔で嬉しい事を言ってくれた。

 

「ウン! だって、あたしの自慢のパパとママだもん!」

 

 胸を張ってそう言ってくれるアウラの姿に、アザゼルさんは僕達と視線を交わすと少々苦笑混じりの表情になった。そうしてアウラとの話が一段落した所で、ソーナ会長がアザゼルさんにここを訪れた要件を窺う。

 

「それで、こちらに来たご用件を窺いましょうか?」

 

 すると、アザゼルさんはソーナ会長に駒王学園の滞在許可を求めてきた。

 

「あぁそうだな。単刀直入に言えば、俺にこの学園の滞在許可をくれねぇか?」

 

 余りにも単刀直入なアザゼルさんの物の言い様に、ソーナ会長は少しずり落ちた眼鏡の位置を直すと、何故この地の管理を任されているリアス部長でなく自分に話を持ってきたのかを尋ねてみる。

 

「何故それを管理者であるリアスでなく私に?」

 

「最初はトップであるサーゼクスに頼んだんだがな、それならこの学園の表を担当するお前に言えって事になったんだ」

 

 アザゼルさんはそう答えてきた。確かに駒王学園の人事については「表」に関する話になるので、リアス部長ではなくソーナ会長に権限がある。僕は話の経緯に納得した。ソーナ会長も同様らしく、溜息を一つ吐くとアザゼルさんにある役職を用意した。

 

「……解りました。では、リアスが部長を務めるオカルト研究部の顧問をお願いします」

 

 オカルト研究部顧問。その役職を与えられた意味を、アザゼルさんは即座に理解する。

 

「成る程な。神器の特異性で言えば、ドライグが二ヶ月程の眠りに入った事で代わりにグイベルの力を行使する黎龍后の籠手(イニシアチブ・ウェーブ)以外にも、魔剣創造(ソード・バース)禁手(バランス・ブレイカー)が常態化した和剣鍛造(ソード・フォージ)と特異的な成長の兆候が見られる停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)を有するグレモリー眷属の方が上だから、既に関わっているイッセーと共にソイツらの面倒を重点的に見させるって訳か。あくまで俺自身の鍛錬の片手間になるが、それでよければオカルト研究部の顧問、確かに引き受けたぜ」

 

 アザゼルさんがオカルト研究部の顧問を引き受けると、今度は元士郎の方を向いた。そして、旧校舎の裏庭における面談で話に出てきた「ヴリトラの意識を復活させる」件に触れ始める。

 

「確か、匙だったな。コイツについては、俺だけでなく神の子を見張る者(グリゴリ)の総力を上げて面倒を見させてもらうぞ。最大の難関だった和平が成立した事で、黒い龍脈(アブソープション・ライン)を核としてヴリトラの意識を復活させる計画が実行可能になったからな」

 

「そうですか。解りました。その辺りはサジ本人と一誠君との相談の上で話を進めて下さい」

 

 余りにも早いソーナ会長の決断に、アザゼルさんは唖然とした後で改めて意志確認を行う。

 

「おいおい、いいのか? そんなにすんなり決めちまって」

 

 すると、ソーナ会長は迷いがない事を強調した上でアザゼルさんに誤解しない様に伝えた。

 

「今や私の眷属はおろかこの学園においても一誠君と武藤君に次ぐ実力者となったサジが、更に高い領域に至れるのです。私が迷う事などありませんよ。……ただ誤解のない様に言っておきますが、私が信じているのは貴方達ではなく一誠君です。一誠君であれば、貴方達が何か良からぬ事を企てたとしても即座に対応してくれる。それだけの信用と実績を、一誠君は築き上げてきましたから」

 

 ……ソーナ会長。そういう事を優しく微笑みながら言わないで下さい。正直な話、僕はどう反応したらいいのか、判断に困ってしまいますから。

 

「信用と実績、ねぇ……」

 

 アザゼルさんはそう言うと、ニヤニヤという擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべて僕を見てきた。

 

「愛されているなぁ、イッセー」

 

 明らかにからかっているアザゼルさんに、僕は深い溜息を一つ吐いた。

 

 

 

 そして、今。

 

「……てな訳で、今日からこのオカルト研究部の顧問をする事になった。今後、俺の事はアザゼル先生と呼べ。もしくは総督でもいいぜ? あぁ、イッセーはそのままアザゼルさんで頼むぜ」

 

 僕とレイヴェルの案内でオカ研の部室を訪れたアザゼルさんは、早速グレモリー眷属の皆にオカ研の顧問になった事を伝えた。

 

「……ソーナ。特異的な神器が集まっている私達に気を使ってくれたのは嬉しいけど、せめて決まった時点で一言連絡してほしかったわ」

 

 これを受けて、リアス部長はソーナ会長の厚意を有難いと思いつつも「頭が痛い」と言わんばかりに額に手を当てている。ただ、魔力に変化がなかった事から「探知」を使用していないのは間違いないので、自分の知っているソーナ会長の性格から推察したのだろう。どうやら、元士郎と同様にリアス部長もまたロシウにかなり鍛えられている様だった。

 

「まぁお前達も知っての通り、俺がこの駒王町に滞在する理由は俺自身を一から鍛え直す為だ。その知恵をイッセーに借りる為の交換条件の一環で、お前達グレモリー眷属の強化に協力する事になったという訳だな」

 

 アザゼルさんがオカ研の顧問としてやるべき事を伝えると、僕は歓迎の意を示す。

 

「確かに僕とは違う視点での意見がロシウや計都以外からもそろそろ欲しいと思っていたんですが、それが神器研究の第一人者であるアザゼルさんなら鬼に金棒ですよ」

 

「ホウ、お前を鍛えたあの連中も一枚噛んでいたのか。俺の方もお前の意見が欲しかったからな、この際だから連中と一緒に意見を聞かせてもらうぞ」

 

 アザゼルさんからの申し出を断る理由が僕にはなかったが、僕はあくまでリアス部長とソーナ会長の眷属なのでリアス部長に確認を取る。

 

「解りました。リアス部長、よろしいですか?」

 

「えぇ。私としてもイッセーや祐斗、ギャスパーがもっと強くなれるなら、文句なんてないわ」

 

 リアス部長がそう言って即決すると、アザゼルさんは先程のソーナ会長と同じ様に「僕を信じているからか」と尋ねてみた。

 

「お前もソーナ同様、すんなり受け入れられたな。やはり、信用と実績を築き上げてきたイッセーを信じているからか?」

 

 すると、リアス部長は普段の大人びたものとはまるで違う、年相応の可愛らしい笑みを浮かべてアザゼルさんの推測を肯定する。

 

「あら。よく解ったわね、アザゼル。その通りよ」

 

 ……リアス部長、貴女もですか。

 

「本当に愛されているなぁ、イッセー」

 

 そのニヤニヤとしたいやらしい笑みから明らかにからかいに来ているアザゼルさんに僕はまた溜息を吐きたくなったが、それを堪えて禍の団の動向をアザゼルさんに確認する。

 

「ところで、まずは禍の団の動向についてお聞かせ頂きたいのですが」

 

 すると、アザゼルさんは一瞬驚いたもののすぐに納得の表情を浮かべた。

 

「確かに、首領にして最大戦力であるオーフィスにその身柄を狙われているお前は常に最新の情報を持っておかないと不味いな。だが、リアスとソーナの眷属という立場上、それを直接得られる手段が今の所ないか。解った、そういう事なら教えておこう」

 

 アザゼルさんはそう言うと、早速禍の団の動向について説明し始めた。

 

「まず向こうの主流が旧魔王派の連中らしくてな、どうも天界と冥界を当面の相手として見定めた様だ。尤も、冥界の方は俺の命令で全堕天使が悪魔に協力するし、天界の方も熾天使(セラフ)や居候の強い聖獣、魔獣といった今まで温存していた戦力を投入する用意がある以上、どちらもそう簡単に落とす事はできないだろうがな。だが、それは向こうも解っているんだろう。今の所はまだ以前の冷戦の時とそう変わらないレベルの小競り合いで収まっている。まぁお互いに来るべき戦争への準備期間という事だろう。少なくともここ数年、お前達がこの学園の高等部はおろか大学部を卒業するまでは本格的に開戦する事にはならない筈だ。だから、今の内に学生生活を満喫しておけ」

 

 アザゼルさんは皆に向かってそう言ったものの、僕に対しては申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「……そんな事をお前にも言える状況だったら、良かったんだがな。イッセー」

 

 アザゼルさんも解っているのだろう。僕に関しては、既に戦争真っ只中であるという事に。

 

「そうですね。確かに話を聞いている限りでは、僕達が学生生活を終えるまで戦争は起こらないかもしれません。ですが、聖魔和合親善大使となった僕にはコカビエルの件や首脳会談のテロよりも遥かに過酷になるであろう戦いがそう遠くない未来に待っています。……学生生活を満喫する余裕は、おそらくないでしょうね」

 

 ……そう。これからも学生生活を送る事になるのだが、満喫できる程の余裕が今の僕にはなかった。何せ、僕が三大勢力の協調路線の旗頭である以上、禍の団は僕を最優先に狙って来る筈だ。首領であるオーフィスが僕を眷属として望んでいる事の周知徹底を図っていれば、あるいはオーフィスの獲物を横取りする様な真似を慎むかもしれない。ただどちらにしても、確実にオーフィス本人を相手取る事になる。しかも皆の力を借りたとはいえあと一歩まで追い詰めた攻撃を発動したのが僕である以上、オーフィスも次は油断も慢心もせずに全力でかかって来る筈だ。これをどうにかしない限り、僕には未来がない。

 アザゼルさんも現状が解っているから、申し訳なさそうにしつつも僕に関する決定事項を伝えてくる。

 

「すまねぇ。こればっかりは誰もお前と代わる事ができない。それに、お前を狙って来るであろうオーフィスに関してはお前に一任する事が既に決定している。つまりオーフィスと戦う事になったら、遠慮せずに思う存分全力で暴れてもいいって事だ。……だから、お前は親善大使の仕事とオーフィスとの戦いに備える事に専念して、お前自身がその場に居合わせて巻き込まれるか、あるいは敵がオーフィス本人もしくはそれに近い神仏レベルでない限りは極力戦うな。お前は既にオーフィスを撃退するなんて途轍もない偉業を成し遂げたんだ。これ以上戦場で功績を重ねるのは、かえってお前を破滅させる事になる。だから、功績は敵を倒す事じゃなく手を繋いて味方を作っていく事で重ねていけ。お前にとっても、それが一番の望みだろう?」

 

 決定事項を伝えた後のアザゼルさんの忠告については、実は僕も同じ事を考えていた。過ぎた功績はかえって身の破滅を呼ぶ。歴史を紐解けばその様な事例はいくらでもあるし、次期当主とは言えまだ成熟していない悪魔の眷属がオーフィスを撃退したとなれば、旧態依然とした上層部の大部分はもちろん三大勢力を危険視する他の神話勢力が僕をどう見るのか大体の想像はつく。まして結局は純粋な暴力が物を言う戦場での功績をこれ以上重なると、暴力によって蹂躙される恐怖が間違いなく彼等の脳裏に過ぎる。そうなったら、もう駄目だ。彼等はもはや誰の言葉も聞き入れる事無く、僕の排除に乗り出すだろう。

 だから、まずは親善大使の仕事を着実にこなしていく事で、サーゼクス様達が後ろ盾になってくれている間に三大勢力の内部はもちろん外の勢力にも味方を作っていく。そうする事で上層部や他の神話勢力から一方的に排斥されない様な地盤を築き上げていかなければ、待っているのはまだ和平への流れが出来る以前に逸脱者(デヴィエーター)である事が露見した場合と同様、僕の大切な人達を巻き込んでの破滅だ。

 ……ただそれを徹底しようとするのなら、今アザゼルさんが挙げた状況にならない限り、たとえ皆が傷つき倒れようとも僕は皆の元へと助けに行けなくなる。

 

「相当に歯痒い思いをする事になりそうですね……」

 

 だが、僕は苦い思いと共にそれを受け入れる。そうするしかなかった。それだけ、僕の持っている力は余りに強いものだから。

 

「だが、お前には我慢してもらうぞ。お前が下手に動けば、それだけ世界が大きく揺れ動く。死の恐怖を抱かせる程にオーフィスを追い詰めたお前は、既にそんな領域に立っているんだよ。それを含めた上で三大勢力全体を見渡してもお前の代わりが利かない以上、今後のお前は後釜を据えられる俺やサーゼクス達以上の重要人物になる。まずはそれを自覚しろ」

 

 アザゼルさんは僕に自重する様に重ねて言いつけると、今度は他の皆に話を振った。

 

「今言った「極力戦うな」というのはイッセーに限定しての事だが、「オーフィスに狙われている」という点ではイッセーと共にオーフィスと直に戦った奴等もけして楽観はできないぞ。特に今ここにはいないが、イリナやセタンタについてはオーフィスが興味をハッキリと示した上で「連れて行く」と明言している。この二人はもはやイッセーと運命共同体になっていると言っていいだろう。……だから、心当たりのある奴もしくはイッセーの横に並び立ちたい奴は、この準備期間を利用して死に物狂いで強くなれ。そうしないと、今後は助けに行きたくてもそれができなくなるイッセーにとって、お前達はただの重荷になっちまうぞ」

 

 アザゼルさんは半ば脅迫染みた口調で皆に「強くなれ」と言って来た。それに真っ先に応えたのは、祐斗だった。

 

「言われるまでもありません。僕は元からそのつもりです。未だ誰も辿った事のない名もなき道に挑んでいるイッセー君の背中を守る。それが親友である僕の務めであり、元士郎君も同じ事を考えている筈です。二天龍が自分を墜としかねないと評した剣帝(ソード・マスター)を「騎士」としての師と仰いでいるのもその為です。それに瑞貴さんに至っては、「もし世界中がイッセー君の敵に回ったら、たとえ味方する者が自分一人であっても最期までイッセー君と共にある」と誓い、その為だけに悪魔に転生しています。剣士としてはもちろんですが、騎士(ナイト)の眷属悪魔としても瑞貴さんの在り方は先に転生した筈の僕よりかなり先を行っていますよ」

 

「私もここで退く気など全くありませんわ。一誠様に一生ついて行く。私はそう自分自身に誓ったのですから。その誓いを貫く為の強さを得られるのなら、たとえ泥に塗れ血反吐を吐く事になっても後悔は致しません。……ここにはいないセタンタも、間違いなくそう言いますわ」

 

「もし一誠先輩がいなかったら、僕は誰かに苛められる事に怯えて、誰かに迷惑をかける事しかできない自分の力に怯えて、僕を取り巻く世界そのものに怯えて、そんな全てに怯える臆病者のままだった筈です。たぶん、こうして皆の前でちゃんと立っている事すらまともにはできなかったと思います。でも、一誠先輩はそんな臆病者の僕を信じてくれました。「君を信じる僕を信じろ」と言ってくれたんです。そして、僕に秘められた可能性と力の使い方を教えてくれました。だから、僕は。……いえ、()()は一誠先輩を追い駆けていきます。今はまだずっと先の方にいるけど、いつか追い付いてその横に並びたいから」

 

 祐斗に続く形でレイヴェルとギャスパー君がそれぞれの決意をアザゼルさんに語ってみせると、それを聞いたアザゼルさんは満足げな表情で頷く。

 

「上等だ。対オーフィス戦の参加組については、全く問題ないな。それでお前達はどうする、リアス?」

 

 アザゼルさんがリアス部長達に今後どうするのかを確認すると、リアス部長も自分の決意を語り始めた。

 

「言われるまでもないわ。私はイッセーの主よ。……いえ、聖魔和合親善大使という役職の重要性と和平を決定づけた三大勢力の首脳会談を発起人兼オブザーバーとして成功に導き、それを妨げようとした禍の団のテロを予め読み切った上で迎撃、そして襲撃してきた首領のオーフィスをも撃退したという数々の大功から考えて、イッセーは上級悪魔に昇格の上、眷属契約も解約した上での独立という流れになるかもしれないわね。まぁそれはともかくとして、私はただイッセーの後ろで守られているだけでいるつもりはないわ。せめて、イッセーが安心して見ていられるくらいには強くなるつもりよ。その為にロシウには既に私への指導に手加減は無用と伝えてあるし、それはソーナも同じよ。お陰でここ一週間の早朝鍛錬では、本当に地獄を見たのだけど……」

 

 最後は少々顔を青ざめさせていたリアス部長であるが、確かにここ一週間のロシウの指導は僕から見てもかなり厳しいものだった。ただロシウが鍛錬のレベルを一気に引き上げたのかと思っていたが、まさかリアス部長やソーナ会長の志願によるものだとは思わなかった。……尤も、はやてに課せられた鍛錬の厳しさは更に数段上なのだが。

 そして、リアス部長の決意表明に触発される形でグレモリー眷属の皆が続く。

 

「私もイッセー先輩には計都(けいと)師父を紹介して頂いた恩があります。それに格闘術を一時期教わっていたベルセルク師叔(スース)から諭されたのが切っ掛けで自分の生まれと力を受け入れられましたので、少しでもご恩返しができればと……」

 

「私は、主が亡くなられていたという絶望をそのご遺志が私の中で生き続けているという希望に変えてもらった。だから、私はイッセーが私を救った事を誇りに思える様に生きていきたい。そして、ただイッセーに助けられるだけでなく、私がイッセーを助けていきたい。その為に、私は強くなりたい」

 

「私は傷を癒す力を持っていますけど、失われたものを補う事ができません。それに、私には自分で戦う力がありませんから、ラッセーがいないと自分の身を自分で守る事すらできません。……でも、それでも私はイッセーさんや他の皆さんが傷ついていくのをただ黙って見ている事なんてできません。だから、私は皆さんとは違う戦い方をします。傷が深くて生と死の狭間を彷徨っていたら、私が必ず連れ戻す。そんな消えゆく命を拾い上げていく治療師(ヒーラー)としての戦いを」

 

 小猫ちゃん、ゼノヴィア、アーシアがそれぞれの意志を語った所で、朱乃さんは何故か言葉を詰まらせる。

 

「私は……」

 

 ここで、今までは黙って聞き手に回っていたアザゼルさんが口を挟んできた。

 

「朱乃。話はサーゼクスから聞いた。ライザー・フェニックスとの非公式のレーティングゲームの記録映像も見せてもらった。その上で言わせてもらう。このまま己の血を受け入れられないのであれば、お前を禍の団との戦いには参加させられないぞ」

 

 それは紛れもない戦力外通告だった。しかし、朱乃さんはその事実を反発せずに受け入れた上で、今後どうしていくのかを語り始める。

 

「解っています。だから、私はまず今まで目を背けてきたものと向き合っていこうと思っています。……私の場合は全てがそこからになりそうですし、それに同じ様に背負っていたものとしっかりと向き合い、そして乗り越えてきた後輩達には負けたくありませんもの」

 

 そう言いながら浮かべている朱乃さんの笑みは、最近の何処か引き攣っていたものとは少し違っていた。

 

「そうか、そうだな」

 

アザゼルさんも朱乃さんの笑みに何かを感じたらしく、何処か安堵した様な表情を浮かべていた。

 




いかがだったでしょうか?

……「強い」という事は、時に己を縛る鎖にもなり得るという事です。

では、また次の話でお会いしましょう。
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