追記
2018.11.14 修正
僕が
実はつい一年前にヒドゥンと呼ばれる世界崩壊級の次元災害が海鳴市で発生してしまい、翠屋の店長である高町桃子さんの末娘であるなのちゃんことなのはちゃんとミットチルダという別の次元世界の魔導師であるクロノ・ハーヴェイ君と協力して、夜天の書に記載されていた魔法を修得していたはやてと共に世界の崩壊を未然に防いだ事がある。その際、これ程の大規模災害にも関わらず、何故か神話の存在が一切介入してこなかった事が気にかかる。
……それに正直に言って、この時の事はあまり思い出したくない。世界を救った事に対する代償が、余りにも大き過ぎたからだ。なのちゃんははやて以上の魔力を持っていたにも関わらず、その全てを使い果たして二度と魔法を使えなくなり、リヒトは最大奥義であるドンナーシュトラールを限界を超えて放ち続けた事で愛剣のカイゼルシュベルトを失い、そして、僕はこれから共に歩むはずだったデータウェポン達を永遠に失った。
本来ならヒドゥンを次元の狭間にまで押し戻せる筈のエクスカリバーの全力攻撃がまだ星の力を回収できていない為に出力不足となって押し戻す事ができず、僕達に手の打ち様が無くなった所で彼等は記憶を糧として膨大な力を発生させるイデアシードに自身を構成する全データを記憶として譲渡、最後の一押しを敢行して次元の狭間へと退けたのだ。
……わずか半年の間でも一緒に生きてきた僕達の
僕は彼等を失った悲しみを押し隠しながらも、カイゼルシュベルトの代わりとして格闘戦にも対応できる魔導弓ドラッヘボーゲンを開発し、愛剣を失ったリヒトに渡した。なお、その辺りの知識はヒドゥンの影響が収まるまで僕達の世界に滞在せざるを得なかったクロノ君から拝借して作っている。彼は魔導科学の技術者としては天才以外の何物でもなく、リヒト達の魔法体系を即座に解析、理論を理解した上でドラッヘボーゲン開発の一助となってくれた。
その傍ら、僕は蓄積した強化を一気に放出するファイナルアタックをヒントにした新しい技の開発に取り掛かった。……イメージは既に完成している。後は僕が現実に変えるだけだった。そうした悲しい経験もあって、僕は自身の鍛錬に更に力を入れる様になっていった。
Interlude
因みに、クロノ・ハーヴェイから見た一誠は以下の通りである。
「一誠さんが僕を天才と評していた? その言葉、そっくりそのままあの人にお返しするよ。僕からミッドチルダの魔導科学の基礎を学んだだけで最新の物と同等以上の技術を考案するし、自分の持っていた技術と比較した上で即座に融合、全く新しい技術体系を作り上げてしまったんだからね。あの人の頭の中は、一体どうなっているんだろうか? ……まぁ僕も一誠さんの存在は凄く良い刺激になっているし、お陰で新しい魔導理論が実証込みで構築できたからいいんだけどね」
……この二人には、「類は友を呼ぶ」という言葉を進呈しよう。
Interlude end
こうして更なる鍛錬に励んで過ごしていく中で、僕は中学を卒業した。現在、進路としては高校を通じて理学系の国立大学への進学を考えている。僕は前世の記憶が切っ掛けで幼い頃から科学者に憧れる様になっており、成長するにつれて憧れから確固たる目標へと変わっていった。そうした夢を叶える為に、中学は理数系に力を入れた私立の超進学校に通わせてもらっていた。そこは「目指せノーベル賞!」をスローガンに掲げており、理数系に関しては能力に応じて高校はおろか大学で教わるレベルの所まで教えてくれる独自のシステムがあった。その恩恵と大学教授を務めていた赤龍帝のお陰で基礎の固め直しが終わった為、高校は隣町で少々遠い代わりに学費を抑えられる公立の進学校で十分だろうと考えていたのだ。
しかし両親、特に父さんは私立の名門校で学費が高くついても構わないから近くの駒王学園に行けと、それはもう熱心に勧めた。それこそ、僕がドン引きしているのにも気付かない位に。両親曰く、「中学では勉強ばかりしていたから、高校では青春を謳歌して楽しく過ごして欲しい」とのことだった。両親は一体、僕に何を求めているのだろうか?
……尤も、僕が中学二年の頃に引き取られた義理の妹のはやてが女子校の名門だった駒王学園の初等部に編入していたから、はやての安全の為にも僕にはやてと一緒に登校して欲しいというのもあるのだろうが。
そうした両親の思惑と中学では我儘を許してもらった事もあって、僕はとりあえず滑り止めを兼ねて駒王学園高等部の入試試験を受けた。その結果、どうも僕がやり過ぎてしまったらしい。合格発表の三日前に学園長と教頭、そして新一年生の学年主任の自宅訪問を受けて、全科目で満点を修めての主席合格を言い渡されてしまった。そして、ぜひ我が校への入学をと熱心に勧められ、優秀な成績を修め続ける限りは学費を全額免除とする学業特待生の待遇を提示された。これなら当初考えていた高校よりも学費を抑える事ができ、多少なりとも親孝行ができるのではないかと思った僕は、それを受け入れて駒王学園への入学を決めた。
時は流れ、駒王学園の正式な合格発表の後に中学の卒業式が終わり、いつもより少しだけ早い春休みに入った僕は入学の為の準備に奔走していた。といっても、小学生のはやてが徒歩で通えるだけあって家から相当に近いので、それこそ学校指定の品を買い揃えるくらいだろう。そして、それも終わって時間が空いた僕は家の近くにある公園へと向かった。
……そう。かつて、僕がジャングルジムからの転落事故を起こした、あの公園に。
平日、しかも昼下がりという事もあったのか、公園は誰もいなかった。その様な静かな公園の中を一人歩きながら、僕はふとした疑問を抱いていた。
もし、僕がジャングルジムからの転落事故を起こしていなければ、僕は一体どのような人間になっていたのだろうか? ……きっと赤龍帝の宿命を知る事も騎士王を継承する事も無く、極々普通の生活を送っていた筈だ。そして運命の時が訪れた時、何もできずにあっさりと殺されていただろう。
そこまで考えてから、僕は首を横に振った。既に過ぎ去ってしまった事を、「もしも」を考えても仕方がないからだ。それに、転落事故を切っ掛けに前世の記憶を取り戻したことは、必ずしも悪い事ばかりじゃない。ドライグやカリス、それにアリスを始めとする歴代の赤龍帝の方達や時折駒王町に現れ、中には仲良くなって召喚契約を交わした幻想種達、そして今はもう会えないけど別の世界にいる桃太郎さん達やゼロマル、大地君達、デニムさん達、最近ではクロノ君といった大切な仲間達と出会う事ができたのだ。……だから、僕はこれからもこの道を歩んでいく。今代の赤龍帝として、そして騎士達の新たなる王として。
僕が決意を新たにしていると、女の子の呼び掛ける声が聞こえてきた。
「一誠君……?」
その声には、確かに聞き覚えがあった。
Side:紫藤イリナ
私は今、幼い頃に住んでいた駒王町に立っている。
……帰って来たのだ、この街に。
私は歓喜の感情が胸の奥から湧き上がってくるのを、改めて感じ取っていた。ただ、帰ってきたと言っても私はあくまでの街に移住する事になった礼司小父さまの引越しの手伝いについて来ただけだけど。それに、この街に帰ってくるに至った経緯に大きな問題があった。何せ、正教会の神父でパパの友人だった礼司小父さまが破門一歩手前とも言うべき処罰によって、悪魔が管理するこの街に赴任する事になったのだから。
……礼司小父さまがそんな事になってしまったのには、もちろん訳がある。特殊な悪霊に取り憑かれてしまった信者の方を救う為に、それ以外に手段が無かったとはいえ十字教では禁止されていた異教の儀式を執り行ってしまったからだ。もし礼司小父さまの教派が戒律の遵守という面において特に厳格なカトリックだったら、間違いなく異端認定の上で破門されていたと思う。ただ、礼司小父さまの教派が「信仰はあくまで個人の意思による」として十字教の中では比較的寛大である正教会だったのと、古式の
そんな礼司小父さまが表向きは宣教師として赴任する事になったのが、この駒王町だった。因みに私達が以前住んでいた教会は既に廃棄されていたものの、礼司小父さまは今まで貯めていた貯金を使って修繕する事にした。
「これでまた、一からお金を貯めないといけなくなってしまいましたね」
礼司小父さまはそう言って苦笑していたけど、私は苦難にあってなお前向きである礼司小父さまを尊敬の眼で見つめていた。
そうして一時的に駒王町に帰って来た私は荷物の運び込みが済んだ後、街を一人で散策していた。因みに、二年前に礼司小父さまに引き取られ、今や礼司小父さまの聖剣使いとしての後継者として見なされている瑞貴さんは私より一つ年上だから近くの高校に編入する必要があるから、今は義父である礼司小父さまと一緒に編入先の高校へ書類を取りに行っているところ。その後、私とは別行動で散策に向かった薫君、カノンちゃんと合流して生活用品の買い出しに行く予定になっている。
……実は最初、なぜ瑞貴さん達を礼司小父さまが引き取ったのかがよく解らなかった為に、正直言って三人にどう接したらいいのかが解らなかった。でも、少し話をしてみると三人とも血が繋がっていないにも関わらず、兄弟としての絆を築いている人達だって事が解った。だから、私は薫君やカノンちゃんとはすんなりと打ち解ける事ができたし、今や凄腕の礼司小父さまの後継者と見なされる程に腕を上げた瑞貴さんに至っては尊敬の念すら抱いている。何故なら、礼司小父さまに割り当てられていた任務は最低でもA級以上で礼司小父さまの後継者として見込まれている以上、瑞貴さんにもA級以上の仕事が舞い込んで来ているからだ。なお、瑞貴さんは正確には悪魔祓いではなく、あくまで教会専属の傭兵という扱いになっている。因みに、今の私だとA級となると任務を受ける事はおろか助手としてついて行く事すら無理だという時点で、瑞貴さんがどれだけ腕の立つ人なのかが解るだろう。
それに、ここ最近やっと一人前の悪魔祓いになれた事でパパから一誠君の事を教えてもらったけど、その時に瑞貴さん達が礼司小父さまに引き取られるに至った事情も合わせて伝えられた。聖剣計画という非人道な行いとその結末を知らされた時、私は信仰というものについて疑問を抱かざるを得なかった。
信仰の為なら、本当にあらゆる事が許されるのかなって。
そしてそれは、悪魔を癒した為に「魔女」として異端認定を受けたアーシア・アルジェントさんに対する考え方も変えることになった。
彼女に対しては、当初は悪魔を癒した魔女という先入観があって余りいい印象を抱いていなかった。でも、彼女に関する話を詳しく聞く限り、彼女は正に「聖女」と呼ぶに相応しい慈愛と優しさを持った人だった。だとすれば、彼女は信仰を捨てて悪魔に縋り付いたのではなく、むしろ傷つき倒れて自分に助けを求める悪魔を放置できず、救いの手を差し伸べてしまっただけなのかもしれない。
全ての存在に愛を与えるのが聖女なら、その務めをしっかりと果たした彼女はむしろ称賛されるべきじゃないのか。それに、敵だからと全てを排除する事が、人間として本当に正しい生き方なんだろうか。
……私は、信仰に対する大きな矛盾を感じ取ってしまっていた。
同時に、自分の「もし」を考えたら、凄く怖くなった。もし、自分が一誠君への好意を振り切って悪魔祓いの修行に専心する事ができていたら、果たしてこの様な考え方ができたのだろうか、と。
……きっと、主への愛が足りなかったとか、信仰の為なら多少の犠牲は仕方が無いとか、そんなおかしな考え方しかできなくなっていたことだろう。それは、主に全てを捧げた悪魔祓いとしては正しいのかもしれないけど、今の私には絶対に無理だった。
一人の男性を心から愛する事を、私は知ってしまったのだから。
私は「もし」を考えて沈みがちだった気分を一新しようとして頭を振ると、ある場所へと足を向けた。その場所は、かつて私の運命を変える切っ掛けとなったジャングルジムがあり、そして私が危うく人を殺しかけた犯罪現場でもある公園だった。その公園の入り口に辿り着いた私は、そこで一人の少年の姿を確認した。
格好は私の同年代が良く着るカジュアルウェアだったけど、雰囲気が明らかに大人びていて落ち着いたものだった。そして、その横顔を確認した瞬間、私の口から出てきたのが、私があの時からずっと想い続けてきた人の名前だった。
「一誠君……?」
私の声が聞こえたのだろう。こちらの方を向いて私の顔を見ると、すぐに私だと解ってくれた。
「……ひょっとして、イリナ?」
嬉しくなった私は、気が付いたら一誠君に抱き着いていた。……後で思い出したら、なんてはしたなくて恥ずかしい事をしたんだろうって後悔したけど、この時の私は全く気にならなかった。ただ、ずっと逢いたかった人と再会して、しかも一目で私だと解ってくれた。その事実だけで、心が喜びで満たされていたのだから。
Side end
僕の運命を変えた公園で幼馴染のイリナと再会し、いきなり彼女に抱き着かれた僕はかなり混乱していた。
……無理もない。
イギリスに引っ越していった時は、知らない人が見れば男の子にしか見えない格好や行動をしていたやんちゃな女の子がこっちがビックリするくらいの美少女に成長していて、しかも明らかに好意を持って抱き着いてきたのだから。正直に言えば頭が沸騰しそうになったが、何とか持ち直してイリナの両肩に手を置いて少しだけ後ろに押した。
「あっ……」
そんな名残惜しげな声を出すイリナにかなりドキドキしながらも、何とか顔を笑顔にして声をかける。
「久しぶりだね、イリナ」
……この時、僕はよく舌を噛まなかったものだと思う。何故ならこの時、僕はイリナを異性としてかなり意識してしまって、緊張していたのだから。すると、イリナも凄く可愛い笑顔で返事を返してくれた。
「うん。また逢えたね、一誠君」
……白状しよう。
この時のイリナの笑顔に、僕の心は完全に撃ち抜かれてしまった。そんな心の動揺を抑えつつ、イリナにここにいる理由を尋ねた。
「それで、どうしてここに?」
すると、イリナが笑顔で答えてくれた。
「礼司小父さまがね、日本で布教活動する事になって、その拠点に私とパパが昔住んでいた駒王町の教会を選んだの。それで、瑞貴さん達も礼司小父さまと一緒にこっちで生活する事になっているのよ。ただ、私は引越しのお手伝いで一時帰国しただけだから、すぐにまたイギリスに帰らないといけないけど、一誠君と一時でも再会できて本当によかったわ」
そんなイリナに対して、僕も笑顔で答えた。
「そうだね。僕も嬉しいよ、イリナ」
「ウン!」
こうして再会の挨拶を済ませた僕とイリナ。……しかし、僕はこの時、今の状態がどういったものなのかを完全に忘れていた。
「あー! お母さん! あそこのお兄ちゃんとお姉ちゃん、あんなにくっついてる! とっても仲良しさんなんだね! まるでお父さんとお母さんみたい!」
その舌っ足らずな子供の声に、僕とイリナはハッとなった。
……そう。僕はイリナの肩に手を置いて、少し後ろに押しただけだ。そして、イリナはまだ僕の背中に両腕を回したまま。つまり傍から見れば、僕達は限りなくゼロに近い距離で会話をしていたのだ。自分達が何をやらかしていたのかを完全に理解した僕達は、慌ててお互いの身を離した。ふとイリナの方を見ると、俯き加減のその顔は完全に真っ赤だった。そして僕自身、顔が酷く熱く感じられるので、紅顔になっているのは間違いないだろう。お互いに気恥ずかしい思いをしつつ、やっとの事で口を開いた僕はイリナを自宅へと誘った。
「僕の家にいこうか? 母さんも喜ぶと思うし、落ち着いて話をしたいから」
「……ウン」
未だに恥ずかしさが抜け切れていないのか、イリナはコクリと小さく頷いただけだった。そして、二人並んで僕の自宅へと向かう事になった。
僕の家に着くと、銀が一声吠えてから僕の所へ駆け寄ってきた。僕が「ただいま、銀」と言いながら銀の頭を撫でてやると、銀は嬉しそうに身を震わせる。
因みに、銀とははやてが家に引き取られる半年前から僕が飼っている愛犬の事で、銀色の毛並みをした虎毛の秋田犬だ。だからと言って、あのハイブリット種の化物熊である赤カブトとの因縁はない。仔犬だった銀が力尽きて道端で倒れている所を僕が拾って看病した事で懐いてしまい、最終的には僕が世話をする事を条件として家で飼う事になった経緯がある。
……先程赤カブトとの因縁はないと言ったが、銀の身体能力が尋常じゃない上にどれだけ隠行術を凝らしても僕やここ一年の間で参加するようになったはやての秘密の鍛錬に必ずついて来るものだから、いつの間にかちょっとした悪魔や魔獣の類なら勝てるようになってしまったのを考えると、あの伝説となった虎毛の熊犬である銀の同一存在なのかもしれない。
そうして銀に見送られながら家の中に入ると、母さんが僕に声を掛けようと玄関にやってきた。
「あら。お帰り、一誠。随分と早か……」
そして、僕の後ろにいたイリナを確認すると言葉を失ってしまった。すると、イリナが先手を取って母さんに声を掛ける。
「お久しぶりです、小母さま。紫藤家のイリナです。一誠君とはさっき再会したばかりなんですよ?」
イリナの名乗りを聞いた母さんは、それを切っ掛けに再起動した。
「あら! あらあらあら! 久しぶりねぇ、イリナちゃん! 最後に逢った時にはこんなにちっちゃかったのに、スッカリ可愛くなっちゃって! てっきり、一誠が可愛い彼女を作って連れて来たかと思っちゃったわ!」
その言葉によって、さっき公園でやらかした事を思い出した僕は顔が熱くなるのを確かに感じた。イリナも僕と同じだったようで、途端に顔が赤くなって言葉も途切れ途切れとなってしまう。
「あっ、あのう。そのぅ……」
そして、その様な僕達の反応を見逃す様な母さんではない。
「……フ~ン。ヘェ~。そういう事。一誠って、実は結構隅に置けない子だったのねぇ。いつの間に、そんなにイリナちゃんと仲良くなったのかしら?」
そして、これを切っ掛けとして僕達を居間に連れ込むと、母さんはマシンガンの様に質問をぶつけ始めた。
母さんが質問を開始して二時間ほどすると、駒王学園の初等部に通っているはやてが帰ってきた。これで母さんの追及から解放されると思ったら、甘かった。……はやてもそれに参加してきたのだ。まずはお互いに自己紹介をし、それからはやても質問をぶつけて来た。因みに、最初の質問は「なぁなぁ。アンちゃんとはもうキスしたんか?」だった。
……はやて、お前のその発想は完全にオッサンそのものだぞ。
実際にそれを口に出して、調子に乗ったはやてを早々にヘコませたのは言うまでもない。だが、結局はやてが合流してから更に一時間も追及され続ける事になり、流石にこれ以上は夕飯の準備に差し障るとして二人とも台所へと向かっていった。そこで僕達はホッと安堵の息を漏らす。
「……落ち着いて話をしようと思って家に連れて来たのに、これじゃ逆効果だったか」
僕は溜息を吐きながら、イリナに愚痴を零してしまった。それを見たイリナは本当に可笑しそうに笑いながら、僕に話しかけて来る。
「ウフフ。あの一誠君でも失敗したり疲れたりする事があるのね? でも、小母さまもあの時から殆ど変わってなくて良かったわ。尤も、一誠君にあんな可愛い妹ができていたなんて思いもしなかったけど」
イリナがはやての事に言及すると、僕は話を変える為にイリナの今後の予定を尋ねてみた。
「はやてについては、色々あったからね。それはさておき、イリナはいつまでこっちに?」
すると、意外な答えが返ってきた。
「それなんだけど、教会に荷物を運び入れてから帰るから、こっちを発つのは明後日かな? それと瑞貴さん達なんだけど、教会から近い私立の駒王学園に編入する事になっているの」
それを聞いた僕は、自分も同じ高校に入る事をイリナに伝えた。
「そうか。だったら、瑞貴とは同じ高校になるか。僕も駒王学園の高等部に進学するから」
すると、イリナは声を上げて喜び出した。
「ホント! じゃあ、瑞貴さん達の心配はいらないわね! ……主のお導きに心から感謝致します。アーメン」
そして、指で十字を切ってお祈りを捧げた。この辺りはトウジ小父さんが牧師をやっているだけあって、凄く様になっていた。
イリナはその後、三十分程僕と話をしてから帰っていった。色々な理由から駒王学園への進学を決めたけど、こんな巡り合わせもあるんだなと、この時の僕は思った。
私立駒王学園。
この学園が後に僕の運命を大きく変える場所となるとは、この時の僕は思いもよらなかった。
いかがだったでしょうか?
この物語のイリナは一誠への恋心を強く意識しているので、原作ほど信仰心が強くありません。
また、聖剣計画の事を当事者達から知らされているので、十字教の説く信仰に対して疑問を抱き始めています。
その為、原作では魔女呼ばわりしたアーシアの件についても、真反対とも言える意見を持っています。
本日はあと二話投稿する予定ですので、引き続きお楽しみください。