赤き覇を超えて   作:h995

19 / 125
本編、開始しました。

なお、人によっては不快を感じる表現が本文中にありますので、ご注意ください。

追記
2018.11.16 修正および生徒会の設定を一部変更


第一章 新たなる理のはじまり 
第一話 Beginning


 僕が赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)と出会ってから、はや十二年。来るべき宿命の戦いに備えて勉強と鍛錬を重ねる合間に、色々な場所や世界に行き、色々な経験を積んで、そして色々な人達に出会った十二年だった。

 そして現在、僕は高校二年生になっていた。現在、僕が通っているのは私立駒王学園。その高等部だ。この学園はここ数年前に共学制に移行したが、それ以前は女子校の名門であったことから全校生徒の八割が未だ女子である。その為、僕の学年にはハーレムを作るために入ったなどと大声で宣言しているツワモノもいる。ただ、僕が入学した時点において三年で一割、二年で二割、僕の学年で三割と男子の数が増加傾向にあるので、僕が卒業した次の年には男女比がほぼ同じになるだろう。

 それはさておき、ハーレムを作るなどと言っている者達に対する女子生徒の視線は総じて冷ややかだ。特に松田と元浜という二人の男子の言動が余りにも酷く、女子生徒が警察に通報すれば猥褻罪が適応されて、セクハラで訴えれば賠償金が発生するレベルだった。流石に見るに見かねて、男連中だけの時に、「お前達は×××が欲しいと言い寄って来る美人にホイホイついて行くのか?」とかなり下品な表現で尋ねたら、「「勿論!」」と即答されてしまい、むしろ僕の方が驚いて頭を抱え込んでしまった。露骨に性的表現される事の不快感を実感してもらいたかったが、どうやら性欲が先に立っていて何も感じていないようだった。スケベは青少年の特権などと言っていたが、アレではむしろ唯の獣欲だ。それに相手の人格を完全に否定しているようにも見える。だから、こちらも聞き手の全人格を否定する様な表現を使った。尤も、言動から考えるとまるっきり外れている訳ではないとも思ったが。

 

「二人とも、解っているのか? お前達の行いを女の子達がどんな風に感じているのか。少なくとも、僕には「欲しいのは体だけで、心なんかどうでもいい」と言っている様にしか感じられないし、たぶん女の子達もそうだろう。つまり、お前達は女の子達の人格を全否定していると言っても、けして過言じゃないんだ。そんなお前達に、人格を全否定された女の子達が振り向く訳がないだろう」

 

 まずは二人の言動を女の子達がどう受け取っているのかを伝えてみたものの、まだ曖昧にしか理解できていない様で二人してポカンとした表情を浮かべた。そこで、今度は男としては到底受け入れられないであろう言葉をぶつけてみる。

 

「それとも、スタイルが良くて顔も可愛い女の子から「腰から下さえしっかりしていれば、後はどうでもいい」と言われて、お前達はそれを本当に受け入れられるのか?」

 

 すると、自分達の言動がどういう風に受け取られていたのかを完全に理解した様で、二人は完全に落ち込んでしまった。こう言うとアレだが、こうやって自らの行いを悔やみ反省できるだけ、二人の性根は決して悪くはないのだ。落ち込んだままでは不味いと思ったので、少しだけ助言することにした。

 

「まずは、今までの言動で不快にさせた女の子達に誠心誠意謝ることだね。そうやって、女の子とちゃんと向き合うことから始めようか」

 

 その後の二人がどうなったかと言えば、反省が本物だった様で僕の助言に従って一月掛けて全校の女子生徒に土下座で謝って回った。その真摯な態度を見て、女子生徒達も二人の見方を変えたのだろう。二人とも次第に女子生徒から信用されるようになり、最近になって二人とも彼女を作って付き合い始めたと僕に知らせにきてくれた。何となく分かっていたが、実はこの二人、ハーレムを作ると口では言っておきながら、本気で好きになったら一途になる純情な所があったのだ。

 因みに、この二人は今でもたまに下ネタで話をすることがある様だが、あくまで笑いを取りに行く為で女の子達も笑って許せる程度に抑えられていた。

 

 そして、この二人の変態行為を改めさせたのが切っ掛けとなり、僕は実にいろいろな事を相談されるようになった。それらを親身になって解決していく内に、いつの間にか当時の生徒会長に請われる形で特別に生徒会の運営を手伝うようになっていた。

 また、つい二か月程前に両親やはやてに酷く心配を掛ける様な事をしてしまったが、これについて自分がどうなろうと後悔はなかった。その行動を取らなかったら、僕は自分で自分を許せなかったからだ。幸い大したことにはならなかったが、これによって同学年からはいよいよ伝説扱いされるようになり、遂には駒王学園の偉大な皇帝という意味で「駒王帝」などと呼ばれるようになってしまった。

 

 ……ただ、問題が無かった訳ではない。

 

 明らかに悪魔だと思われる存在が十人程度駒王学園にいるのだ。それに魔力が所々で感じられるので駒王町内で契約を取っている様だが、魂を奪うような事まではしていない。どうやら、悪魔だからと言って、そこまで悪辣な行いはしていないようだった。そこで、僕はあえて一部の悪魔とは接触する様にしていた。それが生徒会のお手伝いだ。僕が高等部の生徒会の運営を手伝い始めた当時、二年生で副会長を務める女子生徒が悪魔であり、彼女を中心としたグループが存在している様だった。また、当時の副会長のグループとはまた別のグループもあり、どうも学校内では相互不干渉という決まり事がある様に思われた。余り深入りしない様に気を付けながらあくまで一般生徒として行動した甲斐があって、今の所は特に怪しまれた様子はない。できれば、このまま卒業して駒王町から出るまで何事もないのがベストだろう。

 

 ……この時の僕はそう願っていた。その願いが儚く崩れ去る事も知らずに。

 

 

 

Interlude

 

 ……悪魔が一体、地面に倒されていた。上半身の形状から女と思われる悪魔は、既に両手を斬り落された上に巨獣を象る下半身は完全に消し飛んでいて、もはや消滅は時間の問題だった。

 彼女は冥界に住まう主から逃げ出した後に人間界に訪れ、己の欲望のままに人間を貪り喰おうとしていた。だが、その望みは一人の人間の手によって完全に瓦解される。

 

「が、あぁぁぁぁ……。何故だ、何故たかが人間如きにぃ……!」

 

 ……彼女には、運というものが徹底的に無かった。

 

「悪いが、血に飢えた悪魔を見逃してやる程、僕は温くも甘くもない。……それにしても、この駒王町に来て最初に狙った人間が僕とはトコトン運が無かったな。いや、誰かが犠牲になる前だったから、僕にとってはむしろ運が良かったかな?」

 

 何故なら、彼女がこの街に来て最初に狙った人間こそがこの街で最も強い存在だったのだから。

 

「さぁ欲望(ゆめ)から覚めて、最期(いま)を受け入れろ。血肉に酔って外道へ堕ちた人喰い悪魔よ」

 

 こうして、このままいけば少なくとも十人以上の行方不明者が出ていたであろう事件は未然に防がれた。今の彼には、駒王町の守護者という意味でも駒王帝の称号が相応しいのかもしれない。

 

Interlude end

 

 

 

 こうして平穏な日々を過ごしていた僕が、帰宅途中に僕が当初入ろうと考えていた隣町の公立高校の制服を着た女の子に声を掛けられたのは、二年生に進級してから半月ほど経った後だった。

 

「兵藤一誠君、好きです。付き合って下さい!」

 

 彼女に連れられて公園に移動した所で、彼女は天野夕麻と名乗った早々にいきなり告白してきた。彼女は、以前の松田や元浜だったら即OKを出していた程の美少女であるが、僕は逆に白々しさを感じていた。……人間でないのは、まぁいいだろう。誠意を以て対応するだけだ。だが如何にも恥ずかしげという表情こそできていても、その瞳には侮蔑の色がはっきりと出ていた。それにこの付近に同じ様な気配があと三つ感じられる上に、僕に向かって蔑みの視線を向けているのだ。

 僕は深く溜息を吐いた。……その目的が余りに露骨だった。

 

「……あの?」

 

 彼女は上目使いで僕の様子を伺ってくるが、ここまで白々しいといっそ清々しさすら感じられた。

 

「したくもない演技は、そこまでにしたらどうだ? 演技で表情は作れても、その瞳から蔑みの感情を隠し切れていないぞ」

 

 僕がそう言った瞬間、彼女の表情は醜悪なものへと一変した。

 

「……そう。折角死ぬ前に良い思いをさせてあげようと思ったのに」

 

 大方、ハニートラップを仕掛けるつもりだったのだろうが、甘い。三年前にゼテギネアで解放軍の軍師をやっていた時、この手の誘惑は幾らでも受けてきたのだ。中には、その為だけに母親に毒を盛って寝たきりにし、その子供を僕に宛がう事で同情を誘うという下劣この上ない策を使われた事もある。尤も、そういった類の外道連中には、僕も一切容赦しなかったが。

 

「悪いが、お前()には無理だ。大方神器(セイクリッド・ギア)を所有する僕を危険要素になる前に殺そうとしたんだろうが、その行動は余りに杜撰で軽薄だ」

 

 僕はそう言って、彼女の言葉を切り捨てた。

 

「……それじゃあ、死になさい!」

 

 僕に馬鹿にされたと判断して激昂した彼女はその背から黒い翼を生やして、光の槍を形成した。黒い翼を持ち、光の力を使える事から彼女は十中八九堕天使だ。しかし、僕は相当に舐められているようだ。あえてお前「達」と言ったのに、合図も送らずに単独で事を起こしている。

 

 ……そんな敵の失策に乗らない手はなかった。

 

「なっ!」

 

 僕は油断している彼女の懐に一歩で最高速まで加速する武術の歩法としての縮地法で入り込み、左足で思い切り踏み込みながら掌底を叩き込む。長期連載の少林寺拳法漫画で有名な必殺技、通背拳だ。いわば浸透剄の一種であり、まともに入れば内臓破壊が十分可能な威力がある。

 

「……ガハッ!」

 

 彼女の息が完全に詰まった所で追撃を入れようと思ったが、状況の変化を感じ取って一旦距離を置く。それと同時にさっきまでいた場所に光の槍が降って来た。上空には男性の堕天使が此方を見据えている。

 

「カラワーナ! ミッテルト! レイナーレ様を護れ!」

 

 その声とともに隠れていた彼女の仲間と思われるカラワーナとミッテルトと呼ばれた女性の堕天使が二人、彼女の元に降り立ってきた。

 

「大丈夫ですか、レイナーレ様?」

 

 年長の堕天使が天野夕麻に声を掛ける。どうやら彼女の本当の名はレイナーレというようだ。

 

「え、えぇ。少し息が詰まっただけよ、カラワーナ」

 

 レイナーレは年長の堕天使にそう答えた。彼女がカラワーナなら、残るゴスロリ服の堕天使がミッテルトだろう。

 

「しかし今の動きは一体何なんすか? 動きを一瞬見失ったんすけど」

 

 ミッテルトは此方を訝しげに見ている。

 

「そんなことはどうでもいいわ。それよりドーナシーク! 何故そこから攻撃しないの!」

 

 レイナーレは上空にいる堕天使に攻撃しない事を問い詰めた。……成る程、上空の堕天使はドーナシークというのか。こうして僕は着々と情報を集めていく。

 

「……さっきからその機を窺っているのですが、この少年には隙が全くありません。下手に攻撃をしたら、逆に返り討ちにされてしまいそうだったのです」

 

 上空にいるドーナシークという堕天使は、どうやら他の三人よりも戦い慣れている様だ。冷静に戦況を判断している。

 

「だったら、私達全員で掛かるわよ! たかが人間一人に梃子摺る事はないでしょう!」

 

 レイナーレはそう言って尚も戦おうとしていた。自分達が多勢であることで勝機を見出したのだろう。我彼の戦力差を見極められない彼女に対して、僕は溜息を吐くと赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開しないまま、左手の掌を鞘に収められた剣の鍔と見立て、右手の拳の親指側を掌に合わせてから剣を引き抜くように動かした。

 

「……お前達の野望(ゆめ)は、ここで終わりだ」

 

 僕の右手には、ドライグのオーラを剣状に収束させたオーラブレイドが握られていた。この様な相手に、愛剣であるエクスカリバーを持ち出すまでも無い。

 

「さぁ幻想(ゆめ)から覚めて、破綻(いま)を受け入れろ。身の程知らずの堕天使達よ」

 

 そして、剣先を彼女達に向けて覇気を叩きつけた。

 

 ……勝ち目なしと判断して堕天使達が撤退していったのは、それから十分ほど戦った後だった。

 

「やれやれ、一先ずは追い払う事ができたか」

 

 僕はオーラブレイドを解除して一息吐いていたが、同時に問題も発生していた。

 

『だが相棒、これでもう後には退けなくなったぞ』

 

『そうね。イッセーは何事もなく高校生活を送るつもりだったのに、これでもう台無しだわ』

 

 流石に今回の一件だけでは僕がエクスカリバーの正統なる後継者である事までは判別できないだろうが、確かにドライグとアリス(高校に入ってからは呼び捨てにするよう強制された)が言った通り、これで僕が一般人でない事がバレてしまうのも時間の問題だろう。そして、それに関連して礼司さんや礼司さんの孤児院に住む子供達の事も。

 

 そうなった場合、一つ問題が有る。間違いなく、僕の両親が狙われる事だ。

 

「やはり、何処かの勢力に庇護を求めるべきかな? はやてにはツァイトローゼ夫婦が付いているし、孤児院の子供達についても礼司さんや瑞貴、薫君にカノンちゃん、それにセタンタとバリーさんがいるから心配はないけど、父さんや母さんが僕達と離れている時に同時に襲われると守り様がないからね。かと言って、まさか召喚契約してくれた皆の内の誰かを常に張り付けておくわけにもいかないし。……銀なら僕達が駆け付けるまで持ち堪えそうな気がするけど、それが常時有効なのは母さんだけだ。会社勤めの父さんについてはどうしようもない。せめて魂の完全実体化である陽神の術をもっと長時間使用できていれば、話はまた変わっていたんだけどね」

 

 僕は現状を省みて、何処かの神話勢力の庇護を求める事を考えた。だが、僕の考えに対してドライグとアリスは揃って反対する。

 

『相棒、それは止めておけ。どの勢力に付いても、使い潰されるのがオチだ。どの神話系統にも言える事だが、大半の連中にとって人間とは唯の使い捨ての駒でしかない。まして相棒の力量を考えると、相棒を丁重に扱おうはせずにむしろ使い潰す選択肢しか出て来ない筈だ。いっそ飼い殺ししてくれるならまだマシだが、おそらくはそれもないだろうな』

 

『何より、イッセーがわたしを嬲り殺しにした奴等に顎で使われるのが我慢ならないわ! ……イッセー、お願い! 考え直して!』

 

 確かにアリスの事を考えると、本来ならその選択肢は取れないだろう。

 

「だが、どうやら手遅れの様だ。既に僕の力を知られてしまった以上、他に選択肢はなくなってしまったか」

 

 ……しかし、もはや僕自身の人生は諦めなければならないだろう。

 

「そうでしょう? 支取会長にグレモリー先輩」

 

 何故なら、明確に僕を狙って襲って来た堕天使達を難なく撃退した一部始終を、一番見られたくない人物達に見られてしまったのだから。

 

 駒王学園高等部の新生徒会会長、支取蒼那。そして、駒王学園高等部のオカルト研究部、通称オカ研の部長、リアス・グレモリー。

 

 二人は僕より一つ上の三年生で、親友兼ライバル関係である事は割と良く知られている。しかし、僕は仙術の基礎である気配察知によって彼女達が人間でなく悪魔である事に気付いている。しかも魔力に混じり気がない以上は純粋種であり、ほぼ間違いなく現在学園に存在する二つの悪魔達のグループのトップだ。この現場を目撃された時点で、彼女達の要求を拒絶する選択肢はない。まして()()()()()()()()()()()()()以上、口封じなど以ての外だろう。ならば、せめて両親とはやて、そして礼司さん達に迷惑がかからない様に動くべきだ。

 

「それで、僕はどうしたらいいのでしょうか?」

 

 その先にあるのが、絶望の果ての我が身の破滅だとしても。……ゴメン、イリナ。僕達の道は、どうやらここで別れる事になりそうだ。

 

 

 

Interlude

 

 ……イギリス。

 

 修道女の服装をした栗色の髪の少女が、ふと何かを感じて東の空を見上げていた。

 

「……えっ?」

 

 その様な彼女の様子を見た、青い髪にメッシュを入れた彼女の相方と思われる少女が尋ねてきた。

 

「どうしたんだ、イリナ?」

 

「あっ、ううん。何でもないの、ゼノヴィア。それよりも、早く仕事を片付けましょ?」

 

 イリナと呼ばれた栗色の髪の少女はそう言って、ゼノヴィアと呼んだ相方に先を急がせたが、彼女の胸中にはかつてない程の不安が渦巻いていた。

 

(さっき、確かに聞こえた。一誠君が私に向かって「ゴメン」って言ったのを。何なの、この胸いっぱいに広がる嫌な感じは。こんなの、今まで感じた中でも間違いなく最大級よ。……一誠君。お願いだから、どうか無事でいて!)

 

 イリナは、幼馴染である一誠の無事を願った。……その願いは、けして叶う事がないとは知らずに。

 

Interlude end

 

 

 

Side:支取蒼那

 

 それを見たのは、全くの偶然だった。

 

 生徒会の活動を終えて一度家に帰ろうと下駄箱で靴を取り出した時に目に入ったのは、校門で一人の男子生徒が別の高校の制服を着た女子生徒に呼び出されている所だった。普通なら特に気に掛ける事もなく通り過ぎていたのだけど、私には見過ごせない要素があった。その女子生徒からは明らかに堕天使の気配を感じられたからだ。それだけなら、使い魔を飛ばして警戒させるだけで済ませていた。でも、その男子生徒が誰かを理解した時、私は自ら動く事を決意した。

 

 ……兵藤一誠。

 

 容姿こそ平均より少し上程度。しかし入学時には全教科満点での主席合格を果たし、その後も成績は常に上位5名に入る俊英だ。何せ出身中学が知る人ぞ知る理数系の超名門校。しかもそこで首席卒業を果たしている。正直に言えば、全国首位でも全くおかしくはなかった。それ故に学業特待生として学費を全額免除されており、噂では既に大学部の理学部にある研究室にも時折顔を出しているという。それだけでも凄まじいのに、彼は頭脳だけでなく運動神経も抜群で、運動部からの勧誘も後を絶えない。

 でも、彼が駒王学園で最も有名なのは、相談に乗った相手が抱える問題の解決率だろう。なんと、脅威の100%。未だ解決できなかった事がないのだ。不良の更生、恋愛成就は当たり前。親の離婚問題や金銭トラブルにも助言して、その全てを解決へと導いている。彼がこうして様々な事で相談される様になった切っ掛けは、二大変態と言われた同学年の男子生徒二名を諭して、彼女が出来るほどに言動を改めさせた事だ。今では二人ともむしろ紳士的な態度で女子生徒に接しているので、改める前の言動を知らない新入生からは人気が出ている程。

 

 ……彼が凄いのは、それだけではない。

 

 彼のいたクラスは、定期テストの度に成績を少しずつ上げていき、最後の学年末テストでは全員が上位百位以内に入り、去年の体育祭でも学年別の総合優勝という文武両道の頂点に立った伝説のクラスであり、常にそのクラスの中心となって引っ張っていたのが、当時クラスの総務委員をしていた彼だった。それを良く知っている二年生と三年生は、今年のクラスもほぼ同じ様なことになるだろうというのが共通の見解だった。

 それに去年の学園祭では、閉幕式でサプライズ企画として当時一年生の男子全員で「世界に一つだけの花」という歌を合唱して大好評だった。実はかなり昔の歌だというこの歌は、彼が口ずさんでいた所を音楽教諭だった彼の担任が偶然耳にした事から彼に一通り歌ってもらった結果、彼の担任が非常に気に入った事で企画が立ち上がり、どうせなら八割に近い女子を驚かしてやろうという事で、当時の一年男子によるサプライズ企画になったというのが真相だ。そして、つい最近でも卒業式において十数人しかいない卒業生男子の為のサプライズをまたも彼の担任の主導で行い、今度は在校生男子全員で「この道 我が旅」という旅立ちの歌を歌い上げた。……それが余りに感動的で、対象外の筈だった卒業生女子の方が泣き出してしまったので、おそらく今後の卒業式における在校生男子の伝統となるだろう。

 この様に数々の伝説を築き上げる一方で、人当たりが良い上に穏やかで優しい性格を持ち、更に今年も総務委員長に選ばれる程に同学年のほぼ全生徒と教師陣の信頼も厚い、正に完璧超人。特に教師陣からは、駒王学園の創立以来最も優れた生徒、最優秀生徒と呼ばれている事を私は知っている。

 

 そして二ヶ月前、彼が伝説となる決定的な事件があった。

 

 駒王学園の女子生徒が暴行されようとしていたのを助ける為に、二百人からなる暴走族を一人で壊滅させてしまったのだ。その際、その女子生徒には無理をして証言しなくても良いと言い渡してその場から逃がした後、自分自身は自ら通報した事で駆け付けた警察に傷害罪の現行犯で逮捕されてしまった。

 ……それだけであったら、おそらく彼の退学処分で事件が終わっていただろう。でも、彼に助けられた女子生徒が勇気を出して警察に出頭し、誘拐と暴行未遂で主犯格を起訴した事で事態が急変した。女子生徒は暴行されかけた恐怖にも負けずに詳細に証言した事でその時の状況が明らかとなり、現場検証から暴走族の方がナイフや鉄パイプといった殺傷力のある凶器を持ち出していた事が判明した。更に彼等が当て身で気絶させられただけで青痣程度にしか傷付けられていなかった事、そして警官が駆け付けるのを待っていては間に合わずに強姦されていたという事実を以て、兵藤君の正当防衛が成立した。そうして、兵藤君は取り調べを受けて一週間後に無罪放免となり、そのまま釈放された。学園側も状況が状況だっただけに、兵藤君の普段の素行を顧みて留置所にいた一週間は出席停止の扱いとした。凶悪犯罪に立ち向かって人助けをした結果、その事情聴取の為に学校に出席できなかったとしたのだ。

 そして、この時を境に同学年から伝説扱いされる様になった兵藤君は駒王学園の偉大なる皇帝、通称駒王帝と呼ばれる様になった。

 

 ……だからこそ、彼は私が現在最も望んでいる人材であった。

 

 そんな彼に堕天使が一体何の用だろうか? 私は酷く気になった。だから彼等の後を密かに尾行する事にした。その様子を見ていたのだろう、校門を出る前に幼馴染の親友であるリアス・グレモリーに声を掛けられた。私は兵藤君の事を誤魔化そうと思い、仕方なく堕天使が男子生徒を呼び出した事だけを伝えた。すると、リアスは自分の管理する土地で堕天使に好き勝手に動かれている事に憤慨し、それなら同行すると言い出した。元々は彼女の管轄である以上、私は断り切れずにリアスと共に尾行を開始する事になってしまった。

 

 そして、連れ出された公園で兵藤君は堕天使から告白を受けていた。

 

 最初はリアス共々唖然としてしまったが、兵藤君の冷め切った表情と続く言葉によって我に返った。更には、いつの間にか人払いの結界が展開されている事も解った。つまり堕天使は最初から、神器保有者(セイクリッド・ギア・ホルダー)である兵藤君を殺すつもりで近寄って来たのだ。意外だったのは兵藤君で、自分が神器を宿している事を既に理解していた。その事に対して特に不審感を抱かなかったのか、堕天使は兵藤君の言葉によって本性を現し、更にその証である黒い翼を広げた。そして兵藤君を殺そうと光の槍を形成して、投擲しようとする。

 

 ……彼を殺される訳にはいかない。

 

 そう思った私は飛び出そうとして、そして立ち止まった。気が付いたら、兵藤君が堕天使の懐に入り込んで一撃入れていたからだ。その一連の動きが、私には全く見えなかった。どうやらリアスも同じ様だ。兵藤君は悶絶している堕天使に追撃を加えようとしたが、それを止めて距離を置いた。上空に待機していた別の堕天使からの攻撃を回避する為だった。

 

 状況は一対四。兵藤君が圧倒的に不利だった。

 

 私達は今度こそ飛びだそうとしたが、またも踏み止まる事になった。

 

「……お前達の夢はここで終わりだ」

 

 彼はそう言うと、左の掌に右の拳を合わせてから、剣状に収束された力強いオーラを左手から引き抜いたのだ。

 

「さぁ夢から覚めて、今を受け入れろ。身の程知らずの堕天使達よ」

 

 そして剣先を堕天使達に向けると、未だ嘗て感じた事のない覇気をぶつけていた。

 

 ……ここからが、圧倒的だった。

 

 光の槍は全て剣状のオーラによって斬り落とされ、先程見せた高速機動で堕天使達を完全に翻弄。それならばと上空に飛んで一方的に攻撃しようとしたら、今度は背中に翼状のオーラを展開してそのまま空へ飛び上がったのだ。それだけでも驚きなのに、兵藤君は堕天使達の方に利がある筈の空中戦ですら完全に圧倒していた。地上と変わらない高速機動に、本来なら踏み込みなどできない筈の空中で思い切り踏み込んでの一撃を与えて来たのだ。

 兵藤君を上回るものが何一つない以上、もはや堕天使達に勝ち目はなかった。堕天使達は勝機がない事を悟り、最後は兵藤君を睨みながら転移によって全員退却していった。兵藤君は剣状のオーラを解いて、息を大きく吐き出してから呼吸を落ち着かせていたが、私達はそれどころではなかった。

 

 ……白状しよう。

 

 少なくとも私は、彼の戦いに完全に魅せられていた。強さや戦闘技術もそうだが、それ以上に立ち振る舞いが非常に洗練された物だったからだ。もし彼が悪魔の間に流行っているレーティングゲームに出場したら、その美形とは言えないまでも端正な顔立ちもあって、人気が出るのは間違いないだろう。

 私がそんな事を考えている内に、兵藤君から声を掛けられてしまった。兵藤君に二人揃って見つかってしまったみたいだ。

 

「だが、どうやら手遅れの様だ。既に僕の力を知られてしまった以上、他に選択肢はなくなってしまったか。……そうでしょう?支取会長にグレモリー先輩」

 

 前言撤回。どうやら兵藤君には最初から気付かれていたらしい。

 

「それで、僕はどうしたらいいのでしょうか?」

 

 ただ、何かを諦めてしまった様な彼の寂しげな微笑みが、私の胸を酷く締め付けた。

 

 ……兵藤君。貴方は一体、何を諦めたのですか?

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

遂に原作の時間軸に到着しましたが、一誠の駒王学園での評価が凄い事になっています。

……もしこの話を最初に持って来ていたら、一誠は唯の「ぼくのかんがえたスゴくてカッコいいしゅじんこう」になっていたんでしょうね。

もちろん、それまでに積み上げてきたものがあってこその一誠の現状なんですが。

それでは、また次の話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。