赤き覇を超えて   作:h995

28 / 125
第一章、最終話です。

ここで、一誠が今まで繋いできた絆から新たな繋がりが誕生します。

なお、タイトルから予想が付くであろう今回の登場キャラについては、性格がイメージと大きく異なる場合がありますのでご注意ください。

追記
2018.11.17 修正


最終話 最強の龍王と流動の魔人

 ……時間は、僕達が使い魔の森の奥で感じた気配の元へ向かう所まで遡る。

 

「くそ! 数日前の大雨のせいか、最初に考えていたルートがつぶれてやがる! ここまで奥に入り込むつもりはなかったから仕方がないとは言え、かなり厄介なことになったぞ」

 

 ザトゥージさんは進路方向を見やると、苦虫を噛んだ様な表情を浮かべた。

 

「ザトゥージさん、厄介な事とは?」

 

 同行している木場が確認を取ってきた。

 

「最初に考えていたルートだったら問題なかったんだが、ここが使えないとなると、もう一つのルートを使わないと目的地には辿り着けないんだ。ルート自体はそう険しい物じゃないんだが……」

 

「何かあるのですか?」

 

 言葉を濁しているザトゥージさんに対して、椿姫さんが質問をする。

 

「あぁ。ここ最近、ティアマットがもう一つのルートのすぐ側にある洞穴を住処にしているんだ。だから、住処の目の前を通ってティアマットが機嫌を損ねないか、ちょっと不安なんだよ」

 

 ザトゥージさんの口から出て来た大物の名前に、二人は言葉を失ってしまった。

 

 ……ティアマット。天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)と呼ばれ、龍王と謳われた六頭のドラゴンの内の一頭。その六頭の中では唯一の雌であり、また戦闘力は六頭中最強でおそらくは二天龍に次ぐ実力者だ。しかも一頭は悪魔に転生、二頭は半ば引退、残りの二頭は討伐されて封印されたと言われているので、現役である唯一の龍王とも言える。

 

『成る程な。あのババァの気配が感じられるのは、そういう事か。……俺が気配を感じ取っているんだ、あのババァも俺の気配を感じ取っている筈だ。相棒、一戦は覚悟した方がいいぞ』

 

 ドライグは僕に警告してきたが、それに待ったをかけて来た人がいた。

 

『待って。ティアとはまず私が話をするわ。一誠、戦うのはそれからにしてくれないかしら?』

 

 僕の召喚術(サモン)の師である召喚師(サモナー)の赤龍帝、リディアさんだ。僕は早速リディアさんにティアマットとの関係を尋ねる。

 

「リディアさん。ティアマットとは」

 

 すると、リディアさんからは意外な答えが返ってきた。

 

『私が幻界に移住するまで、とても仲が良かった友達よ。大丈夫、話を聞いてくれる筈よ。それと、ロシウ』

 

『何じゃ?』

 

 リディアさんはロシウ老師に呼びかけると、頼み事をし始めた。

 

『ティアが信じてくれなかった時でいいの。例の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を媒体とする事で改善した陽神の術。アレを私に使ってくれないかしら?』

 

 その頼み事を聞いたロシウ老師はしばらく考え込んでいたようだが、最終的には承諾した。

 

『……そうじゃな、余計な争いは避けるべきじゃろう。その時が来たら、使ってやろう。一誠にも一度見せておく必要があるからの』

 

『ありがとう、ロシウ』

 

 ……とりあえず、ティアマットについてはリディアさんに一任するとしよう。

 

 僕はそう判断したが、話について行けなかったであろう椿姫さんが驚きの表情を浮かべてながら僕に尋ねて来た。

 

「あの、一誠君。……今のは?」

 

 僕は椿姫さんの疑問に答える事にした。

 

「最初に出て来たのが、赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグ。女性の方が、召喚師の赤龍帝で僕の召喚術の師匠でもあるリディアさん。老年の男性の方が、魔導師(ウィザード)の赤龍帝で僕の魔導の師匠でもあるロシウ老師です。因みに僕が悪魔に転生できたのは、ロシウ老師のお陰です」

 

 僕の説明を聞いて、椿姫さんは納得したようだ。

 

「とりあえず、ティアマットの住処の前まで案内するぜ。そこからは一誠、お前さんの仕事だ」

 

「解りました」

 

 ザトゥージさんに促されて、僕達は新しいルートを進み始めた。やがて、ティアマットの住処という洞穴の前に辿り着くと、ザトゥージさんは溜息を吐いてしまった。

 

「……やっぱり出て来るよな。こんな目と鼻の先に悪魔が団体で近付いたら」

 

 そう言って見上げた先には、青い鱗を持つ20 mクラスのドラゴンがいた。圧倒的な威圧感を持つこのドラゴンこそが最強の龍王、ティアマットだ。

 

「何だい。悪魔に混じって、随分と懐かしいバカの気配を感じると思って出てみたら、やっぱりお前だったかい。久しぶりだねぇ、ドライグ」

 

『フン。まだくたばっていなかったのか、クソババァ。耄碌してない様で何よりだ、ティアマット』

 

「口の悪さと礼儀の無さは相も変わらないねぇ、洟垂れ小僧。年上はちゃんと敬うモノだよ。それで、一体何の用だい?」

 

 ティアマットがドライグと毒舌混じりの挨拶を交わしてから要件を尋ねてくると、僕の左腕からリディアさんがティアマットに語りかけた。

 

『ティア、聞こえる?』

 

 リディアさんの声を聞いて、ティアマットが驚きを露わにする。

 

「……その声、まさかリディアかい?」

 

『良かった。私の事をまだ覚えていてくれたのね?』

 

 ティアマットの反応に安堵したリディアさんだったが、続くティアマットの言葉に僕は絶句した。

 

「忘れるわけがないだろう、リディア。アンタはアタシが召喚契約を交わした唯一の召喚師、幻獣帝(ミスティ・クィーン)だ。そこのバカとは天と地ほど価値が違うよ。しかし、ドライグを宿した悪魔、……にしては気配がゴチャゴチャしてるねぇ。とにかくその坊やから何故アンタの声が?」

 

 リディアさんは赤龍帝でも唯一と言っても良い召喚師だったので幻獣帝としたのだが、まさか本当にそう呼ばれていたとは思わなかった。……いや、驚くべきはそこじゃない。

 

「龍王最強のティアマットが召喚契約を交わしたって、召喚師としてはもはや伝説じゃないか。それだけの存在が、何で今の今まで知られていなかったんだよ……」

 

 リディアさんの偉業がどれだけの物かを、この場で最も理解しているだろうザトゥージさんは半ば放心している。しかし、リディアさんとティアマットの会話は続いていた。

 

『幻界に移住してから発現したのだけど、私も赤龍帝だったの。尤も、自分以外の対象に強化を譲渡する赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)しか、私にとっての使い道がなかったのだけど』

 

「……成る程ね。アンタと別れてから出て来た赤龍帝は脳筋ばかりなのに、何故自分以外を強化する能力を持っているのか疑問だったけど、これで納得したよ。リディア、アンタがその強化の譲渡能力を初めて発現したのさ。そうだろう、ドライグ?」

 

 赤龍帝からの贈り物を最初に発現したのは、リディアさん。今代の赤龍帝である僕にしてみれば衝撃的な事実がティアマットから飛び出し、ドライグに確認を取っている。……その答えは、肯定であった。

 

『その通りだ。リディアはアリスの怨念を越えて、他者に己の力を分け与える「譲渡」の力を引き出した。当時の俺は驚きを隠せなかったぞ』

 

 そして、それを裏付ける様な言葉がティアマットから飛び出して来る。

 

「そうだろうね。今でこそ神滅具(ロンギヌス)として使い勝手がかなり良くなっているけど、赤龍帝からの贈り物が発現する前の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は怨念に塗れていて、とてもじゃないがまともな人間に扱える代物じゃなかったんだよ。それこそ禁手(バランス・ブレイカー)抜きでアタシと三日三晩素手で殴り合った揚句、決着がつかずに引き分けた、あの極上のバカでもない限りはね。それを多少なりとも怨念を祓ったのだから、流石はリディアと言った所だよ」

 

 ……何だか、とんでもない事実が続出している気がする。今話に出た、最強の龍王と素手で三日三晩殴り合って引き分けたというのは、間違いなくベルセルク師匠の事だろう。僕の指南役を担当した方達は神器(セイクリッド・ギア)抜きでも揃って当代最高位である事は既に知っていたが、ここまで伝説を作っていたとは流石に思わなかった。

 その一方、ドライグはここで面白い物を見つけた様な感情と共に言葉を紡ぎ出した。

 

『だったら、今の赤龍帝の籠手を見たら、もっと驚くぞ?』

 

「どういう事だい?」

 

『相棒、見せてやれ』

 

 不思議そうな表情のティアマットを見て明らかに機嫌が良くなっているドライグに促されて、僕は神器を発現させる。

 

「解ったよ、ドライグ。赤龍帝の籠手!」

 

 僕が発現した赤龍帝の籠手を見たティアマットは、驚きの余りにリディアさんの声を聞いた時と同じくらい目を見開いた。

 

「……驚いたねぇ。形がすっかり変わっているのもそうだけど、それ以上に怨念がすっかり祓われているじゃないか。それで籠手の色が血の様に暗い赤だった今までと違って、鮮やかな赤になっている訳かい」

 

 ティアマットが不思議な事を言い出したので、つい疑問を口にしてしまった。

 

「あれ? 僕が五年前に初めて発現した時には、既にこの色と形でしたけど? まぁドライグやリディアさん達と出逢ったのは、それよりずっと前の十二年前ですけどね」

 

 それを聞いたティアマットは、今度こそ驚きを露わにした。

 

「本当かい! ……なんて坊やだ。持っているだけで心を蝕む程の怨念をそんな幼い時分で祓ってしまったのかい。リディア、アンタが坊やに期待するのも解る気がするよ」

 

 ティアマットは感心する素振りで僕の事を見た後、ドライグに問い掛ける。

 

「ドライグ。もしかしてリディアが表に出て来られるのも、坊やのお陰かい?」

 

 ティアマットの問いかけに対して、ドライグは何ら隠し事をせずに答えた。

 

『あぁ。相棒が怨念を完全に祓った事で、歴代の赤龍帝は全員自我を取り戻した。そして歴代の赤龍帝の手によって鍛え上げられたのが、今代の相棒だ。当然リディアも召喚術と幻想種の知識を相棒に授けている。……相棒は血に塗れた孤独な覇道を往く赤龍帝を終わらせ、皆と共に歩む王道を敷く新たな赤龍帝を始めた。正に新生赤龍帝の開祖といえるだろう』

 

 そのドライグからの返答を聞いたティアマットは、僕に名前を尋ねて来た。

 

「……坊や、名はなんて言うんだい? アタシはティアマット。龍王の端くれさ」

 

「兵藤一誠。一誠と呼んで下さい」

 

 僕の名前を聞いたティアマットは僕に対して感謝を伝えると共にある提案をしてきた。

 

「……一誠、礼を言わせてもらうよ。アンタのお陰で、アタシはリディアと再会する事ができたのだからね。その礼と言っては何だけど、いつかアタシに召喚師として器と力を認めさせてみな。その時には、リディアと同じ様に召喚契約を交わしてやろうじゃないか。本当なら、リディアと会わせてくれた事を切っ掛けに絆を紡いでいく事で、通常の召喚契約をしてやってもいいんだけどね。一誠、アンタは赤龍帝だ。その思いに関係なく戦いの方からやってくる。だから、それを乗り越えられる力があるか、この目で確かめさせてもらうよ」

 

 ……これは召喚師として、正に最高の名誉じゃないだろうか? 双方の面でティアマットから召喚契約の可能性を提示されたのだから。僕はその機会を与えてくれたティアマットに感謝を伝える。

 

「ありがとうございます、ティアマット」

 

「アタシに挑みに来る時を楽しみに待っているよ、一誠」

 

 ティアマットはその言葉から、期待の感情を滲ませていた。

 

 

 

Interlude

 

 一誠達がこうしたやり取りを交わしている側で、サトゥージはただ感動していた。

 

「……俺。今、凄い場面に立ち合っているんだろうなぁ。五大龍王最強と召喚契約を交わし得る召喚師の誕生を目の当たりにしているんだからな」

 

 椿姫は一誠が格を上げていくのを見て、ソーナが喜ぶと言いつつ自らもまた喜んでいた。

 

「一誠君、何だかどんどん凄くなっているわね。会長が聞いたら、さぞお喜びになるでしょう」

 

 一方、祐斗は現状を冷静に判断していた。

 

「でも、当初の目的からは外れて来ている様な……」

 

 この言葉が一誠の耳に入り、一誠は当初の目的を思い出した。

 

Interlude end

 

 

 

 望外の出来事にかなり脱線してしまったが、木場の言葉で我に返った僕は改めてティアマットにこの奥にある気配の調査の為に住処の前を通らせて欲しいと頼んだ。

 

「構わないよ、通っていきな。少なくとも一誠、アンタとリディアに対しては通さない理由はないからね」

 

 ティアマットはこう言って、快く許可してくれた。……そこで、当初の目的とは少し異なるがアレを試してみる事にした。

 

「リディアさん。折角ですから僕達が戻って来るまで、ティアマットと旧交を温めませんか?」

 

「どういうことだい、一誠?」

 

『一誠、まさか』

 

 ティアマットとリディアさんが少し戸惑い気味の中で、ロシウ老師に例の件の実行をお願いした。

 

「ロシウ老師、お願いします」

 

『了解じゃ。一誠、良く見ておくのじゃ。本来なら、駒の持ち主であるお主が使用した方が安定するからの』

 

「解りました」

 

 僕がロシウ老師の一挙手一投足に集中する姿勢を取った時点で、ロシウ老師は行動を開始した。

 

『では、始めるぞ。――――』

 

 ロシウ老師は魔力で魔方陣を展開すると同時に、高速神言を使用して呪文を詠唱する。一方、僕は並列思考(マルチ・タスク)をフル活用して、この儀式魔法の全てを記憶していく。ロシウ老師の詠唱は同じ様に高速神言を扱える僕なら聞き取れるが、そうでなければまず聞き取れない。まともに詠唱すれば十分以上かかる呪文をコンマ一秒に圧縮できる高速神言を用いてなお一分程度詠唱した後、最後の仕上げに入る。

 

『――――。赤龍帝再臨(ウェルシュ・アドベント)!』

 

 その儀式魔法の詠唱が終わると同時に、僕の体から駒が一つ飛び出し、ドライグの紋章が描かれた魔方陣の中に吸い込まれていくと、そこには緑色の髪を持つ容姿端麗な女性の姿があった。……神器の中で何度も見た、リディアさんの容姿そのままだ。

 

「……嘘。陽神の術以上に体が安定しているの?」

 

 リディアさんは非常に安定した肉体を持って神器の外に出られた事に、半ば呆然としている。そうした中で、正に感極まった様な様子でティアマットがリディアさんに声を掛ける。

 

「リディア……! まさか、本当にまたアンタと顔を合わせる事ができるとは思わなかったよ」

 

「えぇ、私もよ。ティア」

 

 リディアさんは旧友との思わぬ再会が叶って、涙ぐんでいる。良く見ると、ティアマットも目が潤んでいるようだ。するとここでロシウ老師がリディアさんに謝って来た。

 

『済まぬな、リディア。以前十日程度は実体化していられると言ったが、アレは駒の持ち主である一誠が使用するのが前提じゃ。そうではない儂の場合は、もって一晩じゃよ』

 

 しかし、リディアさんはそれで十分だった。

 

「いいえ、語り合うには十分な時間よ」

 

 その返事を聞いたロシウ老師はホッとしたようだ。その上で僕に確認して来る。

 

『そう言って貰えると助かるの。それで一誠、どうじゃ?』

 

 それに対する答えは既に持っていた。

 

「はい。ギリギリでしたが新しい術式構造と呪文、魔方陣に魔力運用、全て覚えられました。何度か練習すれば十分いけそうです。魔術名はそのまま赤龍帝再臨で行きましょう」

 

『……ならば、良しじゃな』

 

 僕の返事を聞いて、ロシウ老師が満足そうに頷く姿が見えた様な気がした。

 

 

 

 こうしてティアマットの住処にリディアさんを残して進む事、およそ十分。

 

「確かにティアマットが近くにいた事もあってここまでは来なかったんだが、こんな奴がいるなら普通は気付くぞ。だが、確かに俺には目の前にいるコイツの気配を全く感じる事ができない。これが亡霊(レイス)系の幻想種か。勉強になるぜ」

 

 ザトゥージさんはおそらく初めて目の当たりにする亡霊系の幻想種について、すっかり感嘆している。……しかし、これが本当にパンデモニウムなのだろうか? 大きな袋を肩に抱えた人の様な姿は、むしろ風の魔人であるジンに近い。

 

「……驚いたな。確かにパンデモニウムの気配なんだが、力の強さが全く違う。どうかすると俺と同等か少し下、お前達に解り易く言えば上級悪魔の上位クラスだぞ。おそらくは最近ここに移り住んだというティアマットから零れたオーラを吸収した事で、特異的な成長を遂げたのだろうな。さしずめ、新たな風の魔人パンデモニウムと言ったところか」

 

 イフリートは予想以上の力に少し驚いているようだ。一方、パンデモニウムは僕の方をじっと見ているだけで何も仕掛けて来ない。その視線に、僕はハッとなって目を閉じて心を開く。リディアさんから教わった、幻想種との対話の基本だ。すると、パンデモニウムの心の声が僕の心に響いて来た。そして、彼が望んでいる事が何なのか、理解する事ができた。

 

「……そうか」

 

 僕は目を開けてパンデモニウムと視線を合わせた。

 

「君は、誰かと召喚契約を交わしたかったのか。確かに真正の召喚師と契約する事は、幻想種にとって何よりの誉れだと聞いた事がある。でもパンデモニウムは本来風に漂うだけの亡霊、そこまでの力は持っていない。だから強くなる事を求めて、幻界より遥かに過酷な生存競争が繰り広げられている人間界へ来た」

 

 その僕の言葉に、パンデモニウムは確かに頷いた。

 

「凄いな、君は」

 

 僕はこの勇敢なパンデモニウムに敬意を抱いた。

 

「イッセー君、僕達には話が見えて来ないんだけど」

 

 木場が僕にどういう事か説明を求めて来たので、僕は例え話を交えてパンデモニウムが辿った道を説明していった。

 

「簡単にまとめると、このパンデモニウムは人間界へ修行に来たんだ。召喚師と召喚契約を交わしてもらえる程の強さを得る為に。そして彼はティアマットのオーラを吸収するという幸運も重なって、それを成し遂げた。でも、単にオーラを吸収しただけなら、おそらく大き過ぎる力で自滅していた筈だ。それを糧にできたのは、彼自身が只ならぬ鍛錬を重ねていたから。……例えるなら、ドラゴ・ソボールで空孫悟が初代の大魔王との決戦前に呑んだ超魔水だよ。アレだって呑めば潜在能力を引き出せるけど、余りの猛毒で力を得る前に殆どが死んでいるから、それと同じ様なものだと考えたらいいよ」

 

 僕はドラゴ・ソボールに出て来る超魔水を例に出したが、そうそう的外れではないだろう。……取り込んだら、力を得るか死ぬかの二択であるという点で同じなのだから。

 

「つまり、このパンデモニウムは尊敬に値する幻想種という事なのね」

 

 こちらの世界ではそれこそ国境を超えて有名な漫画を例えにした為か、椿姫さんもどうやら納得したようだ。

 そして、僕は決心した。それを実行する為に、イフリートに呼びかける。

 

「イフリート」

 

「解っている、護衛は任せろ。残りの二人もついでに面倒を見てやる。だから一誠、この勇敢な若者に相応しい栄誉をくれてやれ。お前の力を示す事でな」

 

 イフリートの快諾を得た僕は、彼に感謝をしつつ契約の為の魔方陣を展開する。

 

「ありがとう、イフリート。……契約闘技場(コントラクト・コロセウム)!」

 

 ただし、今回は今や通常の手法と化した、力を認めさせる為の戦闘フィールドの形成も兼ねた契約闘技場の方だ。

 

「パンデモニウム、あえて自身に七難八苦を課す程に誇り高い君の事だ。ただ同情や情けで召喚契約を交わしても、君はけして喜んだりはしないだろう。だから、まずはここで僕の力を示す。君もその力を僕に見せて欲しい。契約するのは、お互いの力を認め合ってからだ」

 

 その僕の言葉に、パンデモニウムは雄叫びを上げた。

 

「オォォォォォォ!」

 

 ……それは、認められた事に対する歓喜。

 

 僕は歓喜の雄叫びを一身に受けながら、左手からオーラブレイドを引き抜く。

 

「さぁ始めよう。真剣勝負という名の偽りなき語り合いを」

 

 僕の言葉と同時に、パンデモニウムは圧縮空気の弾丸を打ち出して来た。僕はそれをオーラブレイドで切り払う。

 

 そして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

Interlude

 

 僕は、ただ感動していた。

 この誇り高き真剣勝負の場に立ち会えた事に、心から感謝した。そして、改めて誓う。

 この素晴らしい男と肩を並べるに相応しい騎士(ナイト)となる事を。

 

 私は感謝していた。

 言葉を話せぬ相手の心を汲み取り、そして正しく応える事のできる少年が私達の仲間であることを。

 そして、思う。もしかすると彼は、他の誰よりも会長、いえソーナ様の支えとなり得る存在なのかもしれないと。

 

Interlude end

 

 

 

 戦いは熾烈を極めた。

 

 ……風とは、大気の流動。即ち風を司るということは、大気だけでなく流動をも操作し得るという意味を持つ。パンデモニウムとの戦いは、それをはっきりと証明する物となった。

 初めは烈風や真空波、圧縮空気弾など割とメジャーな力を使用してきた。それについてはオーラブレイドによる切り払いや防御障壁、風の精霊による無効化で対処できた。しかし、次第に風の精霊による無効化が効かなくなってきたのだ。風の精霊に確認すると、操っているのは風ではないから干渉ができないとの事。

 

 その瞬間、僕はパンデモニウムが新しい領域に入った事を理解した。風を超えて流動の概念を司る存在、流動の魔人に至ったのだと。

 

 そこからが大変だった。何せ同じ流動である血流すら操られる可能性が出て来たのだ。常時ドライグのオーラと僕の魔力、そして気を混ぜ込んだ切り札の赤い龍の理力(ウェルシュ・フォース)を展開していないと、接触された瞬間に負けが決まりかねない。しかも隙を見て斬り掛かっても、振り下ろす事で生まれる力の流れを操作されて逸らされてしまうのだ。

 

 ……攻防一体の能力を獲得したパンデモニウムは、本当に強かった。

 

 最後は圧縮した魔力弾を時間差で放って、直前で衝突させて爆発させる事で一瞬気を逸らした後、空間を操作する仙術の縮地法で接近してからの頭部への仙気発剄でどうにか勝った。

 そして、僕達はお互いの健闘を称えた後で召喚契約を交わした。

 

 もはや幻想種でも上位の実力者であるイフリートと同格の強さを得たパンデモニウムを見て、ふと思った事がある。

 幻想種の中では最下位にあたるパンデモニウムが努力を積み重ねた結果、今や上位といっても何らおかしくはない実力を得た。ならば、レイナーレ達も功に焦る事無く努力を積み上げていけば、いつかは上位の者達に認められていたんじゃないかと。

 

 ……僕は今回の一件で、世の中の無常という物を改めて思い知らされた。

 

「見事だったぜ。一誠も、あのパンデモニウムって奴も。契約成立の場に立ち合って、ここまで心が震えたのは生まれて初めてだ。これが、召喚契約なんだな」

 

 全てを見届けたザトゥージさんはそう言って、僕を称えてくれた。なお、イフリートはパンデモニウムを伴って幻界に帰っていった。風の亡霊から大きく成長した流動の魔人を、一刻も早く幻界の王に謁見させてやりたいという事だった。

 

「イッセー君。召喚契約の一部始終、確かに見届けたよ。僕は今回、君と同行できた事を幸運に思うよ」

 

「そうですね。他の皆には、少し申し訳ないと思ってしまいました」

 

 木場と椿姫さんもどうやらザトゥージさんと同じ様だ。

 

「召喚契約は結局のところ、お互いを尊重し合う精神がないと成立しません。お互いを解り合い、そして認め合う過程が対話か真剣勝負かの違いだけですよ。この辺りは使い魔契約にも通じる所があるんじゃないですか、ザトゥージさん?」

 

 ザトゥージさんは大きな溜息を吐くと、愚痴を零し出した。

 

「そうだな。最近使い魔と契約に来る若い奴等は、その辺を理解してないのが本当に多くてなぁ」

 

 そして気を取り直すと、元々の目的を思い出すかの様に声を掛けた。

 

「それじゃ、ティアマットの所に寄ってリディアというお嬢さんと合流したら、最初の場所に戻るぞ。むしろそこからが本番だからな」

 

 こうして、ティアマットの住処まで戻ってからリディアさんを神器の中に戻し、最初の場所まで戻る事になった。

 ……本当は赤龍体再臨の効果が切れると実体化した残留思念(というよりもはや魂と化している気がするが)が媒体となった駒と共に僕の元に戻ってくる様になっていたので、そのままリディアさんをティアマットの元に残していくつもりだった。しかし、リディアさん本人にそのつもりがなかった。

 

「いいのよ。今日はここまでで。今日だけでティアと語り尽くしちゃったら、それはそれでちょっと勿体ないじゃない。それに、これからは一誠の許可と協力さえあれば、いつでもティアや幻界の皆に会いに行けるから」

 

 リディアさんはそう言って、笑顔と共に赤龍帝の籠手の中へと帰って行った。一方、それを見送ったティアマットは、僕に一つの問いかけをしてきた。

 

「一誠、一つだけ答えておくれ。リディアと召喚契約を結んだ時にね、リディアはこう言っていたんだよ。正義よりも、正しい事よりも、大切な事があるとね。……その答え、アンタはもう出しているのかい?」

 

 ……余りに深い問いだと思った。そして、その答えは既に三年前に出していた。あのゼテギネアでの激しい戦乱を駆け抜けた時に。

 

 だから、僕はただ頷く事で返事とした。

 

「そうかい。だったら、答え合わせはアタシに器と力を認めさせる時にしようかね。……アンタの出した答えが間違っていない事を祈っているよ」

 

 ティアマットはそう言って、住処である洞穴へと入って行った。どうやら、最強の龍王からはかなり大きな宿題を課せられてしまったらしい。

 

 

 

 その後、ティアマットの住処を発ってから最初の場所へと戻ってきたのだが、その時には全てが終わってしまっていた。これにはザトゥージさんも苦笑いを浮かべるしかなく、結局僕達三人のガイド料以外は全て返金してしまった。

 

「今回は、俺の方が色々勉強になったからな。これでまた一歩、真の使い魔マスターに近づけたという訳だ」

 

 別れる際、ザトゥージさんは笑いながらそう言っていた。

 

 ……こうして、激動の一ヶ月となった四月はその終わりを迎えようとしていた。

 




いかがだったでしょうか?

ティアマットは世界最古の神話における大地母神という一面があるので、年月を重ねた深みというものを持たせたいと思い、今回の様な性格設定をしました。

そして、今後についてですが、活動報告に記載した通りに進めていこうと思っております。

何分、これが初めての作品なので拙い所も多いとは思いますが、どうか今後ともご贔屓の程、よろしくお願いします。

では、第二章でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。