赤き覇を超えて   作:h995

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第二章、開始です。

また、通常投稿に移動して初の投稿になります。
結婚繰り上げに関する内容が独自の物になっていますので、苦手な方はご注意ください。

また、話の関係上、一誠のセリフが非常に長いものになっております。

追記
2018.11.18 修正


第二章 繋がる手 広がる絆 
第一話 これは政略結婚ですか? いいえ、謀略結婚です。


 僕が人間を止めて逸脱者(デヴィエーター)となり、表向きは眷属悪魔として活動を開始した四月も終盤となり、大型連休に差し掛かろうとしていた、その日の夜。

 契約活動が終わり予習と復習も済んだので後は寝るだけとなったその時、外の犬小屋で寝ていた銀が突然吠え出した。夜中にその様な事をすれば近所迷惑になる事を理解している賢い銀が、だ。それと同時に、部屋の中に魔方陣が展開されたと思ったらリアス部長が転移して来た。……まさか、銀はこの予兆を感じ取ったのだろうか?

 

「お願い、イッセー。大至急、私の処女を貰ってくれないかしら?」

 

 思いつめた表情で何かとんでもないことを言っているが、僕の返事は唯一つだ。

 

「お断りします」

 

 一秒かからずに返事したので、衣服を脱ごうとしたリアス部長はその動きを止め、きょとんとした表情を浮かべた後で理由を尋ねて来た。

 

「えっ、即答? 一瞬たりも迷わなかったわね、どうしてなの? ……私、そんなに魅力がないのかしら」

 

 ……そんなことは決まっている。僕は拒絶した理由をリアス部長に伝えていく。

 

「作法なき誘惑に揺れる心は一切なし。……けしてリアス部長には魅力がない訳じゃありませんよ。僕だって男ですから、いつか好きになった人とは心身ともに結ばれたいと思っています。ただ、今のリアス部長では体で結ばれたとしても、心はすれ違ったままです。そんなこと、僕は嫌ですよ。一体、何を焦っているんですか?」

 

 リアス部長から感じられたのは、愛情ではなく焦りだけだった。それに、僕は道が別たれてしまったイリナの事を未だに振り切れずにいる。……女々しい事、この上なかった。ただそうした未練を内に秘めた僕に即答で断られた上に焦りを看破されたことで、リアス部長も冷静さを取り戻した様だ。溜息を零しながら、僕に相談を持ち掛けて来た。

 

「やっぱり、イッセーには敵わないわね。少し相談に乗ってもらっても良いかしら?」

 

 しかし、この場での相談は無理だろう。銀が更に激しく吠え出した事も、それを後押しする。

 

「それは構いませんが、どうやらリアス部長のお迎えが来たみたいですよ?」

 

 リアス部長もそれに気づいたので、溜息混じりで相談の予定を組むことにしたようだ。

 

「……多分グレイフィアね。解ったわ、相談は明日の部活の時にお願いするわね」

 

 明日は生徒会の手伝いが入っているのでその後になるが、問題はないだろう。その旨をリアス部長に伝える。

 

「そうですね。その分では、時間を掛けて話を聞いた方が良さそうですから」

 

 そうすると、リアス部長が転移して来た時と同じ魔方陣が展開されて銀髪のメイドが現れた。外見は20代半ば程度だろうか、何処か冷たい雰囲気を纏った人だった。

 

「……リアス様、このような」

 

 銀髪のメイドがリアス部長を窘めようとするが、リアス部長は掌を見せてそれを遮った上で引き上げる事を伝えた。

 

「その先は旧校舎に戻ってから改めて聞くわ、グレイフィア。これ以上、私の我儘でイッセーに迷惑を掛ける訳にはいかないもの。何たって、「作法なき誘惑に揺れる心は一切なし」だそうよ? ……大丈夫よ、今なら多少なりとも冷静に話ができると思うから」

 

 リアス部長がすんなりと引き上げる事に驚いたのか、グレイフィアと呼ばれたメイドは数秒ほど沈黙した後で了承の意を示した。

 

「……解りました」

 

 そして、リアス部長は僕に別れを告げた。

 

「ではイッセー。明日お願いね」

 

「解りました、ではまた明日」

 

 僕の返事を受けて、リアス部長は銀髪のメイドと共に転移していった。

 

 ……リアス部長があそこまで焦っていたのを考えると、どうやら腰を据えて取り組まないといけない様だ。僕は吠える事こそ止めたが、未だに警戒して唸っている銀を宥めに向かいながら、その様な事を考えていた。

 

 

 

Interlude

 

 その頃、この一誠とリアスのやり取りを察していた者が兵藤家の中にいた。

 

「主上」

 

「解っとる。明日、アンちゃんを頼むで」

 

「御意」

 

 言葉でのやり取りはたったこれだけであったが、二人にとってはこれで充分だった。

 

Interlude end

 

 

 

 ……リアス部長が夜中に押し掛けてきた、その翌日の放課後。

 生徒会活動の手伝いに来ていた僕は、仕事の合間を縫ってソーナ会長に昨晩のリアス先輩の事を話すとソーナ会長は溜息を吐いていた。

 

「……リアス、そこまで思い詰めていましたか」

 

 ソーナ会長の様子から心当たりがある様だったので、僕は早速尋ねてみる。

 

「リアス部長は僕に焦りを指摘されて冷静になってくれましたけど、普段のリアス部長ならあの様な強硬手段は取らないと思います。今日この後で詳しい話をお聞きする事になっていますが、ソーナ会長は何かご存知ですか? ……いきなり処女を貰ってくれだなんて言い出して来ましたので、おそらくは婚約関係ではないかとは思いますけど」

 

 僕がそう尋ねると、ソーナ会長は暫く悩んだ末、意を決した様に頷いた。

 

「……本当はリアス本人から聞くべきなのですが、既に私はおろか椿姫も知っている事ですからね。それにそこまで解っているのであれば、私の眷属でもある一誠君に私が教えても問題はないでしょう」

 

 そして、ソーナ会長はリアス部長に来ている婚約話を説明し始めた。

 

 リアス部長のお相手は同じ72柱の一門、フェニックス家の三男であるライザー・フェニックス。本来なら結婚はリアス部長の大学卒業後だったのだが、フェニックス家の意向で繰り上げようとしていた。しかし、リアス部長はそもそもこの婚約自体に乗り気でなかったことから、現在揉めているのだろうという事だった。

 

「リアスにはグレモリー家の次期当主としてではなく、唯のリアスとして愛してくれる方と結ばれたいという夢があります。しかし、リアスから話を聞く限り、ライザー・フェニックスにはその意識が薄い様ですね。悪魔の名門としての責任はリアスも十分承知の上なのですが、それでも頑なに拒絶しているのはその為です」

 

 ソーナ会長はそう言って、リアス部長の婚約に関する説明を締め括った。……少々腑に落ちない点がある。それに、三年前に培われた軍師としての勘が激しく警鐘を打ち鳴らしている以上、無視する事などできない。

 

「ソーナ会長。幾つか確認しておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 僕が確認したい事があると言った事について、ソーナ会長は話を聞く構えを見せた。

 

「何でしょうか?」

 

 そして、今回の件でおそらく重要になるであろう事について確認する事にした。

 

「爵位を持つ家門の継承権に関する事です。ひょっとすると、グレモリー家は嵌められたのかもしれません。僕の考え過ぎであればいいのですが……」

 

 生徒会活動の手伝いというシトリー眷属の仕事を終えた後、僕は旧校舎のオカルト研究部、通称オカ研の部室に向かっていた。本当はリアス部長の相談に応じるつもりだったのだが、部室からグレイフィアと名乗った昨日の銀髪のメイドの他に別の悪魔の気配を感じた。そして、僕が実際に部室に入って来た時には、既にリアス部長と端正な顔立ちをした男が口論していた所だった。

 

 ……事態は予想以上に速く推移しているらしい。

 

 しかし、口論をしていた男の服装は派手に過ぎるし、雰囲気から何処か軽薄な物を感じ取れる。おそらく彼がリアス部長の婚約者であるライザー・フェニックスなのだろう。そのライザーが険呑な気配を放ち始めたので、水入りを兼ねてグレイフィアさんにこの場で確認する事にする。

 

「確かグレイフィアさんでしたね。幾つか質問がありますが、よろしいでしょうか?」

 

「何でしょうか?」

 

 ……どうやら彼女は、僕が赤龍帝であることが相当に気に入らないようだ。受け答えの声にやや蔑みと苛立ちの色が見え隠れしている。僕はそれには一向に構わず、幾つかある質問を開始した。

 

「先程ライザー・フェニックス様はグレモリー家のお家事情が結構切羽詰まっていると仰せになりましたが、どういうことなのでしょうか? もしや、グレモリー家のご当主様のお体の具合が芳しくないのですか?」

 

 まずはこれを確認しない事には始まらない。グレイフィアさんは困惑した様な表情を浮かべながら、僕の質問に答えていく。

 

「……いえ。ご当主様に関しては健康そのもので、そのような事はありませんが?」

 

 ……という事は、少なくとも早急にリアス部長が当主を継がなければならない状況ではないらしい。そこで、次の質問に移る。

 

「では、我が君(マイ・ロード)の他にはグレモリーの家名を継承し得る血筋の方が誰もいらっしゃらないからですか? もし次期当主である我が君の身に不幸があり、当主を継ぐ事ができなくなったとしても、我が君に夫君がいれば婿養子として継承できますし、グレモリー家の断絶も免れますからね」

 

 そうでなければ、お家事情が結構切羽詰まっている等という言葉はまず出て来ない。しかし、グレイフィアさんの様子が変だ。困惑の度合いが強まって来ている。そうした中で出て来た言葉に対して僕は首を傾げると同時に、密かに抱いていた懸念が現実の物になっていくのを感じていた。

 

「……いいえ。グレモリーの家名を継承し得る方については、リアス様の他にミリキャス・グレモリー様がいらっしゃいます。このお方はリアス様の兄君で魔王の筆頭であるルシファーをご襲名なさった為にグレモリー家から独立なさった、サーゼクス・ルシファー様のご嫡男でございます。ですので、ライザー様が仰せになる程にグレモリー家が切羽詰まっている訳ではございません」

 

 ……随分とライザーの言った事と現実との剥離が酷いな。それなら次に確認するのは、どちらがグレモリー家の嫡流なのか、だ。

 

「では、お二人の継承権の優先順位はどうなっていますか?」

 

 これについては、グレイフィアさんは即答してきた。

 

「冥界の仕来りでは本来、嫡流で男児のサーゼクス様が後を継がれるはずで御座いました。しかし魔王をご襲名なされた事でサーゼクス様が独立なさり、それによって現在は妹君であるリアス様が次期当主に選ばれています。ミリキャス様については魔王が一代限りの襲名制になった事もあり、グレモリー家の一門としてリアス様の次の当主候補となられています」

 

 ……だとすると、僕の懸念通りの事態にグレモリー家が陥っていることになる。僕は最後の質問に移る事にした。

 

「それで我が君が次期当主という訳ですか。……最後の質問です。これが一番肝心な事なので、しっかりと確認した上でお答え下さい」

 

「何でしょうか?」

 

 グレイフィアさんはウンザリした様な表情を浮かべているが、この質問は極めて重要だ。

 

「今回の我が君の婚約について、当然グレモリー家とフェニックス家の両家の間で契約書が交わされていると思います。その契約書の中に「リアス・グレモリー及びその夫君は、グレモリー家当主の座を必ずグレモリー家の嫡流に譲る事とする」という一文が入っていますか?」

 

 この質問をぶつけると、グレイフィアさんは契約書の内容を思い出しているのか暫く思案していたが、次第に顔色が悪くなっていった。……どうやら、僕が最悪の事例の一つとして想像していた通りの状況の様だ。

 

「どうやら、お気づきになられた様ですね?」

 

 僕が念を押すと、グレイフィアさんは膝から崩れ落ちて蹲ってしまった。グレモリー家が今どういう状況に陥っているのか、完全に理解した様だった。

 

「あぁ……。私達は何と迂闊な事をしてしまったの……!」

 

「グレイフィア、どうしたの!」

 

 様子が急変したグレイフィアさんに、リアス部長が慌てて駆け寄って来る。リアス部長以外の者も、グレイフィアさんの只ならぬ様相に言葉を失っている様だ。だが、僕は止まらない。止まる気もなかった。

 

 ……これを言っておかないと、最悪の場合にはグレモリー家が破滅するからだ。

 

「その反応からすると、やはりその一文は契約書の中には入っていませんね? そうです。本来ならその一文が婚約の契約書に入っていないので、我が君はご自分の次の当主の座をミリキャス様にお譲りする事ができます。何故ならルシファー陛下がグレモリー家から独立した事で、ミリキャス様は如何に陛下の嫡子であられてもあくまでグレモリーの分家であり、我が君の次の当主の最終決定権はその時点の当主で嫡流となられた我が君とその夫君となられるライザー様のお二人がお持ちであるからです」

 

 まずは本来は嫡流でありながら父親が魔王として独立しまった為に分家となってしまったミリキャス様にリアス部長が自分の次の当主の座を譲る為のメカニズムを周りに解る様に話す。その上で今回の問題点を話す必要があるからだ。

 

「しかしそれは同時に、如何に家族間の取り決めがあったとしても、ライザー様のご同意が無ければミリキャス様が我が君の後を継ぐ事ができないという事でもあります。まして、ミリキャス様がご成人になられるまでに我が君とライザー様との間にお子様が、特に男児がお生まれになれば、後継はミリキャス様ではなくご嫡男にとお二人がお思いになられても仕方の無き事でしょう。よって、ミリキャス様のご継承を強く望まれる場合には、ミリキャス様をご当主様あるいは我が君の養子とする事で嫡流に戻すしかありません。その辺りの継承権に関する規則は念の為にご主君(マイ・キング)に確認致しましたが、俄か仕込みの私よりもそちらの方が良くご存じのはずです。ですが、仮にその状況でミリキャス様が当主として相応しい方へとご成長なさったとして、何ら問題なく速やかにグレモリーの家名をご継承できると思われますか?」

 

 そうしたデメリットを踏まえた僕の問い掛けに対して、グレイフィアさんは答えなかった。……いや、解ってはいるが、言葉として出せなかったというべきだろうか? しかし、この場にいる全員に今の状況を知らしめる必要がある為、僕は話を続ける。

 

「その時点で我が君とライザー様の双方が人望を損なっておられない限り、まず無理でしょう。少なくとも、我が君がそこまで愚かな振る舞いをなさるとはどうしても思えません。そうなれば、実績を重ねた我が君の続投の後に我が君のご嫡男の継承を以て我が君の嫡流を保たんとする派閥が出てきますし、同時に取り決めに従ってご当主の座を本来の嫡流たるミリキャス様にお返しせよと迫る派閥もまた出てくるでしょう。あるいはライザー様のご実家となるフェニックス家に連なる者の中に、これを機にライザー様を通じてグレモリー家への介入を試み、己が栄達を図らんとする者も現れるやもしれません。事がここまで至れば、皆様方のご意志とは無関係にお家騒動へと発展するのはまず間違いないでしょう」

 

 ……だが、お家騒動を回避する手段は一応ある。唯の先送りでしかないが、それも伝えておかないといけないだろう。

 

「仮にその時点で我が君とライザー様に女児のみがお生まれになられていれば、ミリキャス様と婚姻関係を結んで嫡流を一本化する事で問題を回避する事が可能でしょう。ただ、その場合はミリキャス様にご当主の座をお譲りになった後で我が君に男児がお生まれになってしまえば、後継者問題が再燃する可能性が高く、嫡流を一本化した意味がございません。また、ライザー様のお言葉から判断致しますに、今の冥界に年の離れた女児と婚約してその成長を待つ余裕などございませんので、名門の責務と純血の保持を理由として、ミリキャス様はおそらく別の方とご結婚なさることになるかと思われます」

 

 ここまで話した所で、僕が何を問題視しているのかをハッキリと伝える。今のままでは婚約そのものを反対していると受け取られかねないからだ。

 

「私は別にこの度の我が君とライザー・フェニックス様のご婚約そのものに問題があると申し上げている訳ではありません。ただ、我が君が置かれている現在のお立場と婚約における契約内容に問題がある。そう申し上げているのです。そもそも我が君の大学卒業後という当初の条件をフェニックス家及びグレモリー家の皆様が遵守なさっていれば、この様な問題は起こらなかったのですよ。そうすれば、その頃にはしっかりとご成長なされたミリキャス様を本来の嫡流にお戻しする意味でご当主様のご養子とし、正式な次期当主にご指名できる状況になっていたかと思われます。また、これによって我が君が本来の次期当主であるミリキャス様の代行を務め上げたということにすれば、我が君の名誉も保たれますし、継承権の順位を入れ替えても問題はございません」

 

 また、僕が問題視している点がそもそも存在しない「もしも」も付け加えておく。

 

「もしくは先に挙げた一文が入っていれば、我が君に男児がお生まれになった時点で嫡流が我が君の血統に固定致しますので、我が君の血脈が断絶の憂き目に遭わぬ限りはミリキャス様による継承が不可能となりますが、後継者問題は起こりにくくなるでしょう。たとえお生まれにならなかったとしても、その頃には成熟なされたミリキャス様を我が君の養子に迎え入れる事で、我が君の後継者であるという事を鮮明に打ち出せば問題ございません。それでも起こってしまった場合には問答無用でお家断絶の憂き目に遭われるので、もはや私にはどうしようもございませんが」

 

 そして、最後にグレモリー家の不手際について言及する。

 

「グレイフィアさん。グレモリー家を破滅させかねない現在の状況は、失礼ながらご当主様を始めとする皆様の自業自得でございます。尤も、フェニックス家の皆様はそれを目的として、我が君との結婚を繰り上げたのかもしれませぬが」

 

 そこまで言ってからライザーに視線を向けた時、ライザーは慌てて反論し始めた。

 

「ま、待て! 俺にはそんなつもりは全くないぞ! ただ、リアスと一刻も早く結婚したかっただけだ! それ以外の意図はない!」

 

 一方、グレイフィアさんも反論して来たが、その声は余りにも力の無いものであった。

 

「……ライザー様の仰る通り、フェニックス家の方達はそのようなお考えをお持ちではありません」

 

 ……だが、二人の言っている事には全く以て意味がない。僕はその事を二人に伝える。

 

「ライザー様を始めとするフェニックス家の皆様のご意志はともかく、状況証拠では完全に黒でございます。そもそも第三者の策略の可能性も十分あり得るのに、何故ご結婚を繰り上げる運びとなったのか、それに関する裏をどうしてお取りになられなかったのですか? ……信用と妄信は全く異なるものでございます。努々、お忘れなきように」

 

 僕のこの言葉を聞いて、今度はライザー・フェニックスが怒りの余りに応対用のテーブルに拳を叩きつけた。

 

「……クソ、そういうことだったのか! 何が「結婚の繰り上げは今後のご両家の繁栄に繋がる」だ! 散々耳元で甘言を囁いていたが、結局アイツらはフェニックス家とグレモリー家の共倒れを狙っていたんだな!」

 

 ……これで確定した。この結婚の繰り上げは、ただの謀略だったという事だ。正に、政略結婚ならぬ謀略結婚。婚姻関係を通して共に歩もうとした両家の意志は穢された。僕は嵌められたと言ってきたライザーに対して、ある事を確認する。

 

「ライザー様、ご確認させて頂きます。今回のご結婚の繰り上げについて、ご主君のお耳にも入っておりました。ならば当然、他の名家の方々のお耳にも入っていらっしゃいますね?」

 

 すると、ライザーは僕の質問に素早く答えてきた。

 

「あぁ。まだ噂話としてだが、ほぼ決定事項として既に冥界中に広まっている筈だ。俺に結婚の繰り上げを勧めて来た連中が、繰り上げの決定後に率先して広めていくと言っていたからな。……ちょっと待て。という事は……!」

 

 僕の質問に答えていく途中で今回の一件の裏に隠れていた謀略のカラクリに気付いたライザーは、苛立ちの余りにテーブルに拳を叩き付ける。

 

「クソッ、やられた! 奴等、ここまで折り込み済みか! 例え途中で気付かれても、俺達が後に退けない様に予め手を打ったということか!」

 

 かなり悔しそうにしているライザーの姿にリアス部長を始めとするグレモリー眷属の皆が驚く中、僕は皆に現状について解説を入れる。

 

「仰せの通りです。もはやご両家の名で冥界中にご結婚の繰り上げをご通達になられた格好になっている以上、今更繰り上げをなかった事にする事はできません。それこそ朝令暮改の誹りと共に、ご両家のご威信が損なわれることになるでしょう」

 

 僕がそう解説すると、ライザーが僕に同意してきた。

 

「その通りだ、リアスの眷属。中々解っているじゃないか。その頭の切れに、僅かに感じられる魔力の量に反比例する質の高さ。……間違いないな、お前が噂の十一駒の兵士(イレヴン)か。グレモリーとシトリーの次期当主の共有によって、十一個の兵士(ポーン)で転生した今代の赤龍帝」

 

 冥界で噂になっているという僕の異名について言い及んだあと、ライザーは感謝の言葉を告げる。

 

「とりあえず礼を言っておくぞ。お陰で道化(ピエロ)にならずに済んだからな。確かに、俺がリアスと早く結婚したいと思ったのは事実だ。それにこの結婚には数を減らしつつある純血悪魔の未来が掛かっている上に、俺はフェニックスの名を背負っている。その為なら力尽くでも、と考えもした。……だがな、幾ら何でも両家を潰しかねない状況に追い込んでまで、結婚を強行する気は俺にはないぞ!」

 

 ライザーは、どうやら純粋にリアス部長との結婚を望んでいた様だ。リアス部長も、ライザーの言葉に目を白黒させている。僕は現状を打破する為には力技でも強引に結婚の繰り上げを撤回可能な状況に変えるしかない事を伝え、その具体的な方法がないかを確認する。

 

「状況がここまで進退極まっている以上、ご結婚の繰り上げを撤回なさっても何ら問題のない状況へと多少強引にでも持って行くしかありません。何か心当たりはございますか?」

 

 それを聞いたグレイフィアさんがハッとなってから、その方法を提案してきた。

 

「方法はございます。私がここに来たのは、本来は話し合いが物別れに終わるのを見越して、その最終案としてそれをお伝えする為でした。まさか、この様な形でお伝えする事になるとは思いませんでしたが……」

 

 そうして始まったグレイフィアさんの話では、そもそもリアス部長とライザーの話し合いは十中八九物別れに終わる事が解っており、それならばレーティングゲームで決着をつけるように提案する事になっていたという。

 このレーティングゲームとは、何でもチェスに見立てて眷属同士で戦い合うという悪魔の間で流行っている競技であり、天使や堕天使と休戦状態である現在においては実戦経験を積めるという意味で高く評価されているらしい。その為、上級悪魔の爵位の授与や昇格、それに眷属悪魔の昇格、封地といった出世の評価にも多大な影響を与えている。それ故にまだ成熟していないリアス部長は本来レーティングゲームの参加資格を有していないが、今回は非公式戦という事で参加できるとの事だ。

 

「よって、このレーティングゲームの結果として結婚の繰り上げを撤回すれば、両家の面目は保たれますしお互いの角も立たないでしょう。ただし、ここでライザー様がわざと負けるのは、フェニックス家の威信に関わりますので不可能です。よって、リアス様に自力でレーティングゲームに勝利して頂く以外に私達の活路がございません……」

 

 グレイフィアさんは最後にかなり弱々しい声でそう締めくくった。自分達の行動の全てが、完全に裏目に出た。……きっとそういう事だろう。実際、現状ではリアス部長が余りに不利だ。というよりも、リアス部長に勝たせる気など毛頭なかったのだろう。そう思えるほどに状況が最悪だ。何せ、リアス部長は今回が生まれて初めてのレーティングゲームだ。しかもグレモリー眷属は僕を含めて六名、更にアーシアの使い魔であるラッセーを加えても七名だ。実際にはあと一名、旧校舎から気配を感じているのだが、どうも厳重に封印されている様なので、今回の対戦にはまず出られないだろう。それに対して、ライザーは成熟した悪魔であり、レーティングゲームの本戦にも何度か出場して優秀な成績を残しているとの事。そして眷属も十五名とフルメンバーである。

 レーティングゲームの話が終わったと事で、ライザーは自分の眷属を全員呼び出した。そのお陰で力量は大体理解できた。強さで言えば質自体はリアス部長達が上なのだが、人数差を引っ繰り返せる程の差がある訳でもない。しかもライザーに似た魔力の波動を持つ少女もいるので、どうやらライザーの血縁者が眷属の中にいるようだ。

 

 ……現状をチェスで例えるなら、王手詰み(チェックメイト)まであと数手、といったところだろうか。

 

「リアス。まさかお互いの為に、君に勝ってもらわないといけなくなるとはな。しかし大丈夫か? 俺の見立てでは、最低でも上級悪魔クラスと思われる赤龍帝の十一駒の兵士を除けば、俺の眷属を相手にしてまともに戦えそうなのは「雷の巫女」と呼ばれる君の女王(クィーン)くらいだぞ? 尤も、十一駒の兵士を俺に無傷でぶつける事さえできれば君にも勝ち目が十分ある訳だが、それだけでは君の今後に大きく響いてしまうかもしれない」

 

 ライザーは今回のレーティングゲームにおいて、リアス部長はただ勝てばいい訳ではない事をしっかりと理解していた。……あくまで、リアス・グレモリー率いるグレモリー眷属が勝利しなければならないのだ。

 しかし、このまますぐ対戦しても全く以て勝ち目が無い。そこでハンデとして、十日間の準備期間を設けてもらった。ただし、結婚繰り上げの撤回でなく婚約破棄をリアス部長が要求したことで、それに対する交換条件が付く。

 

「何ですって! この十日間、イッセーの身柄をフェニックス家が預かるとはどういう事なの!」

 

 リアス部長は、自分にとっては到底受け入れられない条件に対して、声を荒げてライザーに問い詰めていた。

 




いかがだったでしょうか?

今回の結婚の繰り上げが第三者による陰謀であるというのは非常に珍しいのではないでしょうか?
できるだけ穴は埋めたつもりですが、それでも穴があった場合には「馬鹿だなぁ」と思って笑って見逃して下さい。
本当はここから更に、魔王の義弟としての重圧を掛ける事でライザーを暴走させ、グレモリー家と魔王の人物鑑定眼の無さを露呈させる事でその権威を落とすという策略も併せて考えていたのですが、流石にそれは冥界への影響が大き過ぎて体制派の貴族や名族連中からは仕掛けないだろうと思い、断念しました。

でも、禍の団に参加した旧魔王派なら、案外仕掛けてきてもおかしくないかもしれませんね。

では、また次の話でお会いしましょう。
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