赤き覇を超えて   作:h995

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フェニックス邸滞在編、開始です。

フェニックス卿の性格とライザーの過去を独自の物へと変えていますので、ご注意ください。

また、フェニックス家次男の名前はあくまでこの作品のオリジナルですので、ご了承ください。

追記
2018.11.18 修正


第三話 フェニックス邸へようこそ!

 リアス部長が婚姻の繰り上げの撤回の代わりに婚約の破棄を求めた事で、僕はレーティングゲーム開始直前まで冥界にあるフェニックス邸に滞在する事になった。そこで、十日間の準備期間における皆の指導役として歴代でも最高位の赤龍帝であるレオンハルト卿、ロシウ老師、そしてベルセルク師匠をつけた。指導者の手配も終わり、いざ冥界に向かおうとした時、はやてが密かに僕に付けていたリヒトが僕一人を冥界に行かせる事に断固反対し、グレイフィアさんを含めた全員にその桁外れの武威を見せつけた結果、リヒトもまた僕と同行する事になった。

 そうして乗り込んだ冥界直通の列車の中で冥界への入国手続きを滞りなく終えた僕とリヒトは、終点駅の出入り口の前に立っていた。その後、フェニックス家の者が迎えに来る事になっていたが、来たのは何とフェニックス卿ご本人だった。てっきり使用人が来るとばかり思っていた僕は、本人の名乗りを聞いた所で完全に虚を突かれて暫く呆然となってしまった。

 

「ハッハッハッ。流石に驚いたかね、兵藤君? 仮にもソロモン七十二柱に名を連ねる名家の現当主が、次期当主とはいえ未だ成熟していない悪魔の眷属を直々に迎えに来た事に」

 

 フェニックス卿は快活な笑い声を上げながら、悪戯に成功した子供の様な表情を浮かべて僕をからかっていた。意地を張っても仕方がないので、僕は正直に答えた。

 

「えぇ。余りにも想定外でしたので、私も大変驚いてしまいました。その豪放磊落な所を、ライザー様は受け継がれたのでしょうね」

 

 僕が素直に感じたライザー評を聞いたフェニックス卿は、興味深そうな表情を浮かべた。

 

「ホウ? 珍しいな、ライザーがその様な評価を受けるのは。今まではフェニックス家の才児と評価はされていたが、同時に女癖の悪さで評価を下げているところがあるのだよ」

 

 そこで、駒王学園でのやり取りの内容とそこから感じたライザーの為人について語っていった。

 

「少なくとも私と話をしている時には、その様な事は特に感じられませんでした。それに勿体無くも、私を自らと同じ所にまで駆け上がって来ると評価して頂き、更にレーティングゲームで私が(キング)を務める眷属と鎬を削るのが楽しみだ、とも仰って頂きました。どうやら女好きの仮面の下に、貴族としての誇りと戦士としての猛々しさをお隠しになられていたご様子」

 

 そして、そんな僕のライザー評を聞いたフェニックス卿は暫く目を丸くしていたが、とうとう大声で笑い出してしまった。

 

「フッ、ハッハッハッ! これはいい! ライザーめ、とうとう目が覚めよったわ! 兵藤君、君はあくまでライザーの個人的な招待客ということだったが、先の一件もある以上、我がフェニックス家の賓客として持て成すことにしよう! 」

 

 フェニックス卿は上機嫌で暫く笑った後、やがて感慨深げに話し始める。

 

「しかし、グレモリー家もシトリー家も大変大きな拾い物をしたモノだ。これで両家の将来も明るいというもの。……さて、立ち話もこれくらいにして早速私の邸へ向かおうか。一足先に戻っているライザーも君を待っている事だろう。君の護衛である彼も、もちろん歓迎しよう」

 

「感謝致します」

 

 その温かな声に従い、僕達は馬車へと乗り込んだ。そして、フェニックス家に滞在する上での挨拶を僕が代表して行う。

 

「フェニックス卿、短い間ですがお世話になります」

 

 ……こうしてフェニックス邸の滞在が始まった訳だが、その間には本当に色々な事があった。

 

 フェニックス邸に到着すると、ライザーが自らの眷属で血縁と思われる少女と一緒に邸の入口で出迎えてくれたのだが、僕達が自分の父親と共に来た事に驚いていた。どうやらライザーもまた使用人が迎えに行ったのだと思っていた様だ。そして、自分の息子も驚かす事ができた事で、フェニックス卿は益々上機嫌になっていた。また、ライザーと一緒にいた妹君のレイヴェル・フェニックス様をライザーから紹介され、挨拶を交わした。この時はまだ、所詮は眷属悪魔といった感じの視線をこちらに向けてきていたので、それも致し方ないなと受け流していた。

 邸に入り、大広間に向かうと、そこでお待ちになられていたフェニックス卿の奥方様と次期当主で御長男のルヴァル様、冥界メディアの幹部である御次男のロッシュ様のお三方ともお互いに名乗り合う機会に恵まれた。その後は会食となったのだが、その場において僕が順当にテーブルマナーをこなした事でフェニックス家の方達全員に驚かれてしまった。リヒトはともかくとして僕はこの様な場に立った事がないと思われていたのだろう。

 ……実際のところは、騎士の鑑であるレオンハルト卿に騎士としての礼儀作法を厳しく仕込まれたのと、三年前のゼテギネアで戦っていた際に解放軍の重鎮としてモルーバ様と共に社交界に出席する機会が多かった事が大きい。デニムさん率いるヴァレリア解放軍が大きくなり、更に日和見をしていた貴族連中に暗黒騎士団から救出したカチュアさんを覇王の遺児にして後継者という正統性を以てヴァレリアの新指導者として認めさせる為、彼等と折衝を重ねる必要が出てきた為だ。その意味では、華やかな雰囲気とは裏腹のドロドロとした陰謀と策略が渦巻く社交界の荒波に揉まれながらも乗り越えていった回数については、ひょっとすると本物の名家のご令嬢であるレイヴェル様よりも多いかもしれない。

 

 ……滞在二日目。

 

 僕はリヒトに早朝の日課にしている剣術の鍛錬の相手をしてもらっていた。

 

「フッ!」

 

 振り下ろされたリヒトのカイゼルシュベルトを受け流し、更に鞘走りに見立てて加速させた袈裟斬りをリヒトの左肩口に仕掛ける。しかし、リヒトは右足を半歩退いて半身になり、少し背を逸らせただけで僕の袈裟斬りを難なく躱してしまった。

 

「ホゥ。私の打ち降ろしの一撃を受け流しつつ、その反動を利用して剣の振りを加速しましたか。また剣の腕をお上げになりましたな」

 

 リヒトは僕の剣の上達を褒めてくれたが、僕にしてみれば何の慰めにもなっていない。

 

「完全に見切られている上に一歩すら動かせていない時点で、まだまだ剣においてはリヒトやレオンハルト卿に遠く及ばないんだけどね」

 

「それはそうでしょうな。私とレオンハルトは剣一筋に生き、主の剣たらんとする者。赤龍帝の全てを修めんと精進を重ねる主兄殿に剣で及ばないとあっては、我等の立つ瀬がございませんからな。尤も、私は夜天の誓約により魔法もある程度は嗜みますので、剣一筋とは言い難い面もございますが」

 

 確かにリヒトの言う通りだ。現にリヒトの指導を受けるようになった、これまた剣一筋に生きる瑞貴は見る見るうちに腕を上げていき、今となっては純粋な剣術勝負では三対七でかなり分が悪い。

 ……僕は僕が担う物全てを受け継ぐと誓った。その為に、今でこそ専門分野では僕の遥か上を往く最上位の実力者達から教えを受けているが、それ以前は全ての赤龍帝と対話をし、教えを受けていた。その中には音楽家や大学教授という異色の赤龍帝もおり、彼等から教えを受けた事で楽器演奏が一通りできるし、学問も前世の記憶によって齎された分を合わせて、どうにか博士号を取れるレベルを維持できている。しかし逆に言えば、何十足もの草鞋を履いて、尚且つその全てを極めようとしている半端者でもあるのだ。その為、一芸特化のスペシャリストにはその方面でどうしても敵わなくなる。以前からの関係者で当てはまるのは、剣においては瑞貴、魔導においてははやてだ。

 

 それ故に、僕が戦いの場で活路を見出すのは、あくまで鍛え上げた技能そのものではない。

 

「尤も、実際の戦いにおいては、敵味方の能力や戦力比・戦場の状況や勝利条件といったあらゆる要素に応じて戦術を変え、更にその判断の精度が極めて高い主兄殿の方が剣で勝るだけの我等に勝利するのですが」

 

 リヒトの言う通り、僕の活路は器用貧乏にも取られかねない適応性とそれを最大限に生かす為の状況判断の正確さだ。しかし、それとて一つ一つの熟練度が相応に高くないと、スペシャリストに押し切られてしまう。

 

「だが、そこで満足していては、僕の道はそこで終わりだ。それに、誰が見ても偉大と思える人達が何人も僕の前を歩いているんだ。なら、その背を追いかけて、横に並んで、そして追い越したくなるのが男というものだろう?」

 

 そんな男の意地みたいなものを口に出すと、リヒトは口元を少し緩めながら珍しく軽口を叩いて来た。

 

「左様。それこそが志高き益荒男の心意気というもの。だからこそ、主上と並んで私とリインが主と頂くお方として、主兄殿は相応しいのです。では、調整を再開致しましょう」

 

「あぁ頼む」

 

 そして、僕はリヒトともう一度剣を合わせ始めた。

 

 

 

Side:レイヴェル・フェニックス

 

 剣とは、これ程までに美しく振るわれるものだったのですか? そして騎士とは、これ程までに美しく振る舞える者達の事だったのですか?

 

 私は、眼前で繰り広げられる光景にただ眼を奪われていた。

 

 ……それは、偶々だった。偶々いつもより早起きして、偶々いつもより窓から入ってくる風が気持ち良くて、そして偶々気持ちのいい朝を満喫しようと散策に出かけた。そうした「偶々」がいくつも重なった先に、偶々見かけた二人の客人。

 

 リアス・グレモリー様とソーナ・シトリー様の共有の眷属で兵藤一誠という名の今代の赤龍帝。その彼に追従してきたリヒトという屈強なる騎士。

 

 初めて会った時、何故ライザーお兄様が彼の事を凄く買っていたのが気になった。そして、ライザーお兄様に言われて一緒に出迎えた時、馬車からお父様と一緒に出て来たのを見て、お兄様共々驚いてしまった。しかし、その時はまだ、所詮は転生したばかりの野蛮な輩としか、彼の事を見ていなかった。だからこそ、お母様や上のお兄様お二人とお互いに挨拶を交わした後、会食となった時に酷く驚いてしまった。

 ……テーブルマナーが、余りにも完璧だったからだ。しかも、生まれついての名族であっても早々できない程に洗練された立ち振る舞いに加え、深い教養と高い知性があって初めて為せるお父様やお母様、次期当主であるルヴァルお兄様、冥界メディアの重鎮であるロッシュお兄様との会話のやり取りに、けして相手を不快にさせない穏やかながらも何処か凛としたものを感じさせる表情と雰囲気。もし何も知らなければ、それこそ名を広く知られた名族の方がお訪ねになられたと勘違いしていただろう。それ程までに、赤龍帝は今まで見てきた同年代の男性とは明らかに別格の立ち振る舞いをしていた。

 

 そして、今。

 

 剣に疎い私でさえも、剣の達人同士で行われていると思える立ち合いが繰り広げられていた。

 時に互いの剣がぶつかって火花を散らし。

 時に僅かな体の動きだけで剣を完璧に躱し。

 時にお互いにすれ違いながら剣を振るい、互いを牽制する。

 その一連の動きに一切の澱みがなく、それこそ水が流れる様に滑らかに攻防が進んでいく。あの二人の間にある雰囲気には何処か侵し難い、それこそ神聖なものすら感じられた。

 

 これが、剣を振るうという事なのか。

 

 今まで剣を振るう者達を何処か古臭く泥臭い存在として見下していた事を悟った私は、急激に恥ずかしくなってきた。……私は、今まで一体何を見ていたのだろう、と。

 

「こいつは想像以上だったな」

 

 突然、ライザーお兄様のお声が後ろから聞こえてきたので振り返ると、そこには苦笑いを浮かべているお兄様の姿があった。

 

「解るか、レイヴェル? アイツ等はな、お互いの体の動きを確認する為にスピードを極力抑えているんだぞ」

 

 お兄様の言葉に、私は信じられない思いでいっぱいだった。何故なら、二人の身のこなしはお兄様の騎士(ナイト)であるカーラマインと殆ど変わらないスピードだったからだ。しかし、もっと信じられなかったのはこれからだ。

 

「……どうやら、確認作業が終わった様だな。アイツ等の気配が変わった」

 

 一度剣を引いて距離を置いた二人は、次の瞬間。……お互いの位置が、背中を向け合い剣を振り下ろした状態で入れ換わっていた。

 

「えっ?」

 

 そして今度は距離を詰めると、二人の両腕と剣が消えたのだ。いや、それだけではない。身のこなしすら所々で目に映らなくなってしまった。同時に二人の間からは金属同士が撃ち合う甲高い音が数え切れないほど鳴り響き、そして眼が眩むほどの閃光を何度も発していた。剣の打ち合いで発する火花が余りにも多過ぎて、もはや閃光と化している。

 

「……凄まじいな。余りの速さに腕と剣がまるで映ってこないぞ。それどころか、身のこなしすら所々が見えなくなっている。この速さで切り込まれたら、下手しなくても「不死」を発動する前に魂が消し飛びそうだ。あの男に暴れられたら、グレイフィアさん以外は誰も生き残れないという俺の見立て、やはり正しかったな」

 

 早朝の涼しい時間帯にも関わらず、そう語るライザーお兄様の顔には一筋の冷や汗が流れていた。その一方で、口元は好戦的な笑みを浮かべている。

 

「だが、そのような桁違いの剣士とそれなりに打ち合えている十一駒の兵士(イレヴン)。やはり面白いな。これなら一度模擬戦をやってみるか。本当の意味で奴と全力勝負ができるのは、この滞在期間の間だけだからな」

 

 ……正直に言えば、ここまで好戦的なライザーお兄様を見るのはこれが初めてだった。そして、様々な「初めて」を私に見せてくれる赤龍帝、いえ兵藤殿の事が少しずつ気になり始めていた。

 

Side end

 

 

 

 朝食の予定時間に近づいてきたので、最後にリヒトと本気の打ち合いをして、当然の様に押し切られて負けた。そうして朝食を取った後、騎士の赤龍帝に師事した上にこの様な騎士と腕を磨き合えるならと、ライザーの眷属の騎士の一人から勝負を挑まれた。僕はそれを受け入れてから、野外の修練場まで向いて模擬戦を行い、オーラブレイドで難なく勝ってみせた。その際、短剣の利点である小回りの良さを生かし切れていない点と炎と風の相互関係を利用する様にアドバイスすると、ライザーの眷属達から次々と勝負を挑まれてしまった。流石に断ろうと思ったものの、ここでフェニックス家の僕に対する印象を下げるのも不味いので、最終的にはレイヴェル様を除く眷属全員と一騎討ちの模擬戦を行う事になってしまった。そして、全員に勝利した上で僕が気になった点とその改善の為のアドバイスをした所で、状況が急変した。

 

 ……ついに我慢できなくなったのか、ライザー本人が僕に模擬戦を申し込んで来たのだ。全力のお前と戦えるのは、今をおいて他にない、と。

 

 

 

Side:ライザー・フェニックス

 

「宜しいのですか、ライザー様?」

 

 十一駒の兵士が俺に確認を取ってくる。俺の答えは当然Yesだ。

 

「あぁ。俺は一度、全力のお前と戦ってみたいんだ。レーティングゲーム本番では、お前は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はおろかカーラマインとの模擬戦で見せた、ドラゴンのオーラを集束させた剣も使えなくなる。それなら、フェニックス邸にお前が滞在している間に一度戦っておいた方が全力のお前と戦えなかったという悔いが残らないからな」

 

 ……そう。俺はコイツに期待していた。コイツなら、あるいはと。

 

「その挑戦、確かに承りました。不肖ながらも全力を出させて頂きましょう。ですが、その前に」

 

 十一駒の兵士は俺との模擬戦を行う事に同意した。しかし、その後で一言前置きをしてきた。

 

「この一撃で「不死」がけして無敵ではない事を証明致しましょう」

 

 そして、俺に向かって無造作にデコピンを一発入れてきた。十一駒の兵士が取った無意味と思える行動に、俺は怒りが湧いてきた。

 

「……ふざけているのか? たかだかデコピン一発で、「不死」が無敵ではないと証明できる筈が……!」

 

 しかし、俺は異変に気付いた。

 

「お気づきになられた様ですね?」

 

 十一駒の兵士は、してやったりといった笑みを浮かべている。

 

「一体、何をやった? 額の痛みが全く引かないぞ。しかも「不死」の力も額の痛みには全く働いていない」

 

 そうだ。デコピンを食らった後の痛みがいくら待っても引かないのだ。しかも、「不死」の力も額に対しては全く働いていなかった。すると、十一駒の兵士はフェニックスの「不死」と俺に対して行った事に関する解説を始めた。

 

「簡単な事です。フェニックスの「不死」とは損傷した肉体を炎に変換した後、魂の状態に応じて無傷の肉体へと再構成する事で無効化するもの。つまり、「不死」は魂そのものの損傷には対応していないのです。そして、私は魂に干渉する事で治療する心霊医療を応用して、魂に直接攻撃を仕掛ける事が可能なのです。私はこれを、生命の根源たる魂への直接攻撃としてダイレクト・アタックと名付けました」

 

 十一駒の兵士の解説を聞いた俺は驚きを隠せない。……確かに、フェニックスの「不死」にはそのような一面がある。しかし、それをフェニックスとは何ら縁の無い筈の男が何故知っているのか。それが非常に気になったが、それ以上に大事な事がある。

 

「以上を踏まえて、申し上げましょう。私に「不死」は通用しないと」

 

 ……そう。この男が言った通り。今、あり得ない筈の事が現実となって起こっているのだ。

 

「……フフ」

 

 フェニックスの「不死」が通用しない相手が、ついに現れたのだ。

 

「ハハッ。ハハハ。ハーッハッハッハッハッ!」

 

 俺は、湧き上がる歓喜を抑える事ができなかった。

 

「やっと! やっとだ! やっと俺は、攻撃を食らえば傷つき倒れるという真っ当な戦いができる! 俺の全てを賭して競い合うという、本当の意味での正々堂々の勝負ができる! 礼を言うぞ、十一駒の兵士!」

 

 それは、俺が長年望んでいたもの。そして、幾ら望んでも叶う筈のなかったもの。それが今、叶ったのだ。

 

「では、始めましょうか。真剣勝負という名の偽りなき語り合いを」

 

 ……こいつは、解ってくれている。俺が本当に望んでいたものを。

 

「応!」

 

 それは、正々堂々の真剣勝負である事を。

 

Side end

 

 

 

 ……ライザーと本格的に戦い始めてから、既に三十分。

 激しい攻撃の応酬によって、既に修練場は跡形もなく崩壊し切っていた。ここまでの激しい戦いの中、ライザーの戦い方を観察している内に気づいた事がある。意外にも、ライザーは「不死」に頼らない通常の戦い方に慣れていたのだ。こちらの攻撃はしっかりと躱し、躱せないと判断すれば炎の魔力で防壁を張り、その上から外側への風の流れを生み出す事で攻撃を受け流せるようにするなど、防御手段もかなり考えられたものだった。そして、「不死」による攻撃の無力化を利用したカウンターなどは一切仕掛けてはこず、むしろ大技と小技を入り交えた詰将棋の様な戦い方をしてきた。

 確かに、僕に「不死」が通じない以上、ライザーの戦い方は非常に理に適ったものだ。しかし、それ故におかしい。この様な戦略的に考え込まれた戦い方は、その場でいきなりやることなどまず無理だ。それこそ、かなりの経験を積み重ねた上でないと必ず破綻する。

 そこまで考えた時点で、僕は気づいた。このライザーという男、本来はこういう戦い方こそを望んでいたのではないのか、と。そして、その為に血の滲むような激しい訓練を重ねてきたはずだ。

 しかし、ある日。おそらくは今まで積み重ねてきた訓練の成果を全てぶつけても勝てなかった相手に、「不死」の特性だけで勝ってしまったのだろう。そこで、気づいてしまったのだ。フェニックスである以上、そもそも正々堂々というのは不可能なのだと。そして、もはや正々堂々と戦うのが無理なら、「不死」を見せつけて戦う事でフェニックス家の力を示す様にしようと考えてしまったのだろう。

 しかし、それでは正々堂々の勝負を望む心の飢えは、けして癒されることがない。だからこそ、多くの女を侍らせる事でその飢えを誤魔化そうとしたのかもしれない。

 だが、今は違う。僕がダイレクト・アタックによって「不死」を無効化した為に、ライザーは今、生まれて初めて本当の意味での真剣勝負に挑んでいる。それがどれだけ大きな歓喜を生み出しているのか、彼の晴れ晴れとした表情を見れば明らかだ。

 ……ならば、こちらも全力での最大火力を以て応えよう。僕は頃合いと見て、ドライグに倍加の蓄積具合を確かめる。

 

「ドライグ、どれだけ貯まった?」

 

『二十回だ。お前の地力が最上級悪魔クラスと高いから、ダイレクト・アタック抜きでフェニックスを無力化するには十分だろう。……しかし、相棒。お前はよくもまぁ、こんなアイデアがポンポンと出て来るな。倍加の蓄積によって増幅した赤い龍の理力(ウェルシュ・フォース)を刹那の瞬間に全身から全て放出する事で、体への負担を最小限にする。お陰でアレに限定すれば、未知の領域だった五十回以上の倍加も可能となったからな』

 

 ドライグは僕の発想力を褒めてくれるが、実は少しだけインチキだったりする。それをドライグに伝える

 

「一応、元ネタはあるんだけどね。僕の世界でドラゴ・ソボールに当たる漫画がアニメ化されて、その劇場版で主人公が使った必殺技だよ。どうもこれに当たる技はないみたいだから、有り難く使わせてもらっているだけなんだ」

 

『俺が言いたいのは、そういう事じゃないんだがな。もしアイツ等がいたのなら、お前は間違いなくそっちを選んでいた筈だ。……スマン、今のは忘れてくれ』

 

 ドライグの言いたかった事、そしてそれに対する謝罪を聞いて、僕は少しだけ胸が痛んだ。そして、意識を切り替える。

 

「ドライグ、気にしなくても良いよ。この技は、命と引き換えに明日を繋いでくれたデータウェポン達の事をこの身に刻む為のものだから。……それじゃあ、そろそろ決めようか」

 

『あぁ』

 

 僕がそろそろ勝負を終わらせようと思った時、ライザーが僕に呼びかける。

 

「どうした、十一駒の兵士! 赤龍帝の籠手はまだ使わないのか!」

 

 その表情には、少し苛立ちの色が見えていた。どうやら手加減していると勘違いされてしまったらしい。

 

「いえ、使うのはこれからです。そして、この一撃で終わらせます」

 

 僕はそう宣言すると、ライザーの返事を待たずにドライグに呼びかける。

 

「ドライグ!」

 

 ドライグは僕の意志を受けて、最大火力の発動を準備し始めた。

 

『応! 蓄積倍加(ブースト・チャージ)圧縮(プレス)!』

 

 蓄積してきた倍化の力を圧縮し、この一撃に全て注ぎ込む。

 

着火(イグニション)!」

 

『Welsh Force Overdrive!!!!』

 

 僕の魔力と気、そして赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のオーラを融合した切り札である赤い龍の理力を圧縮した倍化の力で一気に増幅、さらに全身から一瞬で全て放出する事で完成する、赤龍帝としては最大火力となる、正に必殺技。

 

 ……その名は、龍拳。

 

「龍拳、爆発!」

 

 二天龍の片割れたる赤い龍を象る、正にドラゴンの一撃だ。……そして、亡き戦友と共に放ってきたファイナルアタックの再現でもあった。

 

 

 

Side:レイヴェル・フェニックス

 

 ……それはフェニックスを打倒する、正に神をも超える一撃だった。

 

 兵藤殿の全身から赤く輝く強烈なオーラが噴き出たかと思ったら、「龍拳、爆発!」の声と共に右拳を突き上げると赤いドラゴンの姿に変わって、物凄い速さでライザーお兄様の元へと飛んでいく。でも、お兄様はその攻撃に全く反応する事ができずに無防備で赤いドラゴンの突撃を食らってしまった。お兄様はかなり上空まで撥ね上げられた後、自然落下で地面に墜落してくる。その上空では、五対十一枚の赤い羽を広げて右拳を掲げた状態からゆっくりと拳を下ろしていく兵藤殿が静かに佇んでいた。そして、静かにお兄様が墜落した所に降りて行く。

 私は、どうやら兵藤殿を相当に見縊っていたみたいだった。私を除くお兄様の眷属達を圧倒した魔法や魔術、体術、そして剣の腕。それら全てがあくまで赤龍帝だから得られたものだと思い込んでいた。

 ……でも、違っていた。あの様な力は、今まで聞かされていた赤龍帝の戦い方には一度たりとも出てこなかった。という事は、あの力は兵藤殿が初めて編み出したもの。つまり、兵藤殿は赤龍帝だから強いのではなく、あの方だから強いのだ。

 

「ライザー様、まだおやりになられますか?」

 

 お兄様の元へと近づいてきた兵藤殿は、お兄様に戦闘継続の意思を確認してきた。

 

「意識はまだ保ってはいるが、残った魔力を再生に全て注いでいるから、体はもう動かないな。それにしても、龍拳と言ったな。時間をかけて蓄積してきた強化の力を一瞬で全身から放出、赤い龍を模る一撃を繰り出すか。まさかフェニックスを打倒する為の条件、神をも超える一撃をこんな形で繰り出して来るとはな。だが、この真剣勝負を締め括るに相応しい、最高の一撃だったぜ。……十一駒の兵士、俺の完敗だ」

 

 それに対するお兄様の答えは、これ以上ない敗北宣言だった。

 

「十一駒の兵士、お前のお陰だ。勝負こそ負けてしまったが、こんなにも心地良い気分になれたのは。こんなことは、生まれて初めてだ。……本当に、ありがとう」

 

 でも、敗者であるにも関わらず、お兄様の表情は全力を出し切った者だけができるとても清々しい笑顔だった。……今まで、妹である私ですら見た事がないくらいに。そこで、私は理解した。お兄様は今、確かに救われたのだと。

 

 ……リアス様とソーナ様の共有の眷属である今代の赤龍帝、兵藤一誠様。

 

 私の中で兵藤様の存在が急速に大きくなっていくのを、私は確かに感じていた。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

己の才能と特性を過信していたライザーなど、この世界にはいなかった。
……そういうことです。

また、レイヴェルの一誠に対する三段活用についてはお見逃しを。

では、また次の話でお会いしましょう。
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