赤き覇を超えて   作:h995

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フェニックス邸滞在編の続きです。

色々と独自の解釈をしている点があるので、予めご了承ください。

2018.11.18 加筆修正


第四話 フェニックス家での穏やかな日々

 ライザーから申し込まれた全力での真剣勝負が終わり、僕は水の高等精霊魔法であるトータルヒーリングで満身創痍のライザーを回復させた。

 

「これは凄いな。「不死」の強制発動で魔力を使い切って体が全く動かせなかったのに、今は体の痛みや疲れがまるでないぞ。流石に魔力までは回復していないが、それを除けば全快といってもいいだろうな。……お前という男は、一体どこまで奥深い奴なんだ」

 

 トータルヒーリングの回復力の高さを実感したライザーからは、絶賛とも言うべき言葉を掛けられた。そして、言葉は更に続く。

 

十一駒の兵士(イレヴン)、頼みがある」

 

 ライザーからの頼みという事で、早速話を聞く姿勢を取る。

 

「お伺い致しましょう」

 

 すると、ライザーは対等な立場での親交を僕に申し出てきた。

 

「お前は、今まで望んでも叶わなかった正々堂々の真剣勝負の場に俺を連れ出してくれた。だから、今後は真剣勝負の中で語り合った、対等の友人として付き合って欲しい。つまりな、俺の事は今後、ライザーと呼び捨てにしてくれ。対等の友人に様付けされるなど、俺は絶対にゴメンだからな」

 

 このライザーの申し出を聞いたレイヴェル様を含むライザーの眷属達は、全員絶句していた。しかし、真剣勝負を通してライザーと偽りのない語り合いを行った僕にとって、こちらの方が本当のライザーである事は十分理解していた。

 

 ……ならば、友人からの求めには応えなければならないだろう。

 

「わかった。それなら、僕の事も名前で一誠、もしくはイッセーと呼んでくれ。友人なら十一駒の兵士なんて呼び方はしないだろう、ライザー?」

 

 この僕の受け答え方の変貌を目の当たりにしたライザーの眷属達は、またも絶句した。しかし、ライザーはむしろ嬉しそうに快諾してくれた。

 

「あぁ、そうだな。その通りだ。今後ともよろしくな。一誠」

 

 そして、お互いに固い握手を交わしたのだった。

 

 その後、ライザーはフェニックス卿を始めとするフェニックス家の方々に真剣勝負となった模擬戦の後に僕と対等の友人になった事を報告し、フェニックス卿に大層驚かれたそうだ。そして、今度は賓客ではなくライザーの友人という扱いで宴を開いてしまった。その際、次期当主でご長男であるルヴァル様や末娘のレイヴェル様から、兄弟が対等と認めた友人である以上、様付けは不要と言われてしまい、それ以降はさん付けする事で妥協してもらった。なお、この時はメディア界の重鎮である為に仕事の折り合いが付かずに宴に参加できなかったロッシュ様もまた、弟の友人である以上は自分の事も様付けしない様に言ってきたので、本当に驚いた。

 その後、音楽の教養はあるかと聞かれて嗜み程度ならと答えたので、それなら余興に一曲弾いてくれと言われてしまい、歌でも構わないという事だったので前世の記憶において僕が良く聞き、また口ずさんでもいた「僕が一番欲しかったもの」をピアノの弾き語りで歌った所、中々好評だったのでどうにか面目を立てる事ができた。

 

 

 

Interlude

 

「……お兄様」

 

「気づいたか、レイヴェル。この歌の歌詞に出てきた主人公が、正に一誠そのものだと。アイツはそこまで深く考えずにあの歌を選んだんだろうがな」

 

「自分の行いで幸せそうに笑う人の顔を見た時の気持ちこそが、永い時をかけてずっと探して続けていたものだった、なんて。兵藤様は悪魔としては欲がなさすぎますわ」

 

「そんな事を言っている割には、顔が少し笑っているぞ、レイヴェル?」

 

「……お兄様!」

 

Interlude end

 

 

 

 その翌日には、悪魔や冥界に関する詳細な知識を得る為に、フェニックス卿の許可をもらってフェニックス家の書庫に入らせてもらい、閲覧禁止の物を除く全ての書物を速読魔法と検索魔法、そして並列思考(マルチ・タスク)を使用して一日かけて読破した。僕は前世の記憶の影響なのか、前世と同様に一度見た事は中々忘れない性質(タチ)であり、これで悪魔として必要な教養はほぼ修められたと思うので、今後僕がそれらを知らない事でリアス部長やソーナ会長に恥を掻かせずに済むだろう。

 

 

 

Interlude

 

「兵藤君が、我が家の書庫にある書物をほぼ全て読破した?」

 

「えぇ。念の為に同行者である私にどれが閲覧禁止の物なのかを確認を取り、それには触れてもいませんが、それ以外は全てに目を通し、内容をあらかた覚えたそうです。まぁ、一誠を無数の本が取り囲んで衛星の様に飛び回っている光景は、それはそれでかなり面白いものではありましたが」

 

「あそこには、我がフェニックス家が初代から代々集めてきた書物が収められている。ある意味では、冥界が今まで積み重ねてきた歴史や知識を収めていると言えるだろう。……ということは、今の兵藤君は最上級悪魔の筆記試験にすら合格し得る程の知識と教養を持っている事になるな」

 

「全く。一誠と出会ってからここ数日、驚かされることばかりです」

 

「その割には顔が笑っているぞ、ライザー?」

 

「……解りますか?」

 

Interlude end

 

 

 

 更に翌日、ライザーから提案されて、上級悪魔として独立した時の予行練習とばかりに三日間の猶予の後に僕とライザーを(キング)としてレーティングゲームの紅白戦を実施した。なお、勝利条件は「王以外の者が相手の王に有効打を与える」であり、特別ルールとして「王はけしてその場を動かず、また防御はしても攻撃はしない」が設けられた。その際に一緒のチームになったライザーの眷属達に模擬戦の時のアドバイスを基に更に一歩踏み込んで指導したら全員が急成長を遂げ、特にレイヴェルさんに某大魔王の最大攻撃魔法を教えたら、ライザーの女王(クィーン)をも超える攻撃力を獲得してしまった。

 

「魔力を極限まで凝縮、ですか?」

 

「そうです。悪魔にとっての魔力とは、即ち魂の力。この一言に尽きます。その為、極限まで凝縮する事で、魂のあり方が形となって現れます。しかもその時の魔力の属性によって、その形がまた変わってくるのです。私の場合、本当ならドラゴンとなる筈なのですが……」

 

「……不死鳥?」

 

「炎の魔力で凝縮すると、どうも生来の諦めの悪さが現れてしまう様です。それと私が今代を務める赤龍帝に因む形で「帝王」の意を加えて、「カイザーフェニックス」と名付けました」

 

「カイザーフェニックス……」

 

「フェニックス家の血筋であらせられるレイヴェルさんなら、お得意である炎の魔力を凝縮する事で、おそらく不死鳥の形となるでしょう。例えそこまで行き着かずとも、魔力を極限まで凝縮する為の修練は魔力制御の良い訓練となりますので、今後の糧となる筈です」

 

「兵藤様。ご教授、お願い致します。カイザーフェニックス、必ずモノにしてみせますわ」

 

 

 

 しかも紅白戦の結果、僕のチームメンバーでライザー達からは完全にノーマークだった双子の兵士(ポーン)が勝利の決め手となる一撃をライザーに加えて勝ったため、そっちだけズルイという事で結局は眷属達全員に以前のアドバイスに基づいた指導を行うことになってしまった。そして、ついでに俺にも教えろと言われたので、ライザーには最大攻撃魔法の他に某大魔王の防御の奥義も教えたら、どちらも割とあっさり習得してしまった。

 

「フェニックスウイング?」

 

「あぁ。本来は空気の摩擦熱で炎が出る程の超高速の掌底を繰り出す事で、あらゆる攻撃を弾き返すという防御の奥義なんだ。でも、そのままでは余りにも負担が大き過ぎるから、掌に風の魔力を超圧縮して纏わせる事で掌を保護すると共に、掌底を繰り出す際に腕の振りを局所的な追い風で加速させた上に弾いた攻撃をその風の流れに乗せる事で腕にかかる負担を軽減したんだ」

 

「それで、全てを跳ね返す不死鳥の羽ばたき、ということか。これは面白いな。正に俺達フェニックス家の為にある様な技じゃないか。今や眷属最強となったレイヴェルのカイザーフェニックスといい、そのレイヴェルをも超える攻撃力で俺の防御を抜いて有効打を与えたイルとネルの双龍砲といい、お前は本当に底が知れないな。……しかし、親身になって俺達を鍛えてくれた事には深く感謝したいところなんだが、ここまで俺達が強くなってしまったら、本番でリアス達は勝てるのか?」

 

「……あっ」

 

 ……そして、ライザーの言葉で我に返った。

 

「あぁぁ……。僕はなんて事をしてしまったんだ……!」

 

 自分からリアス部長のハードルを恐ろしく引き上げた事を悟ってしまい、僕は愕然としてしまった。

 

「ス、スマン、一誠。お前が余りにも教え上手だったから、つい……」

 

 僕の落ち込む姿を見て流石に悪いと思ったのか、ライザーからは謝られてしまった。

 

「しっかりして下さいませ、兵藤様」

 

 レイヴェルさんに至ってはむしろ激励される始末で、僕は恥ずかしくなってしまった。

 前世の記憶において、僕は酷い口下手だった為に中々相手に自分の意志を伝えられなかった経験から、どの様な相手に対しても言葉を尽くして応対してしまう癖が付いていた。その上、前世の記憶と違って相手に僕の言っている事を解ってもらえる事が嬉しくて、いつの間にかどんな相談ごとにも必ず応えてしまう悪癖までもが付いてしまった。

 駒王学園で相談によく応じるのもその為で、今回のライザー達の指導についてはこの僕の性質(タチ)が完全に裏目に出る格好となってしまった。……しかし、賽は既に投げられてしまった。後はもう、ロシウ老師達の指導の成果とそれによるリアス部長達の成長が僕の当初の想定を超える事を祈るしかない。

 

 

 

 だが、今回のフェニックス邸の滞在において一番大変だったのは。

 

「はっ? 今、何と?」

 

「だからな、お前が上級悪魔に昇格して独立した時でいいんだ。その時には、レイヴェルをお前の眷属に加えてやってくれないか? どうやらアイツ、お前にすっかりゾッコンみたいでな。お前が俺と真剣勝負をして勝ってみせて以降、折を見てはお前の相手をしようとするし、お前がいない所でも話に出て来るのはお前の事ばかりだ。オマケに父上も母上もお前の事をすっかり気に入ってしまってな。その内、グレモリーとシトリーの両家にお前とレイヴェルの婚約話を持ち掛けかねないぞ」

 

 ……レイヴェルさんに本気で好かれてしまった事だった。

 

「流石に今のお前の立場では色々と問題が多いから、とりあえず俺を含めた男兄弟で父上と母上を抑えている。だけどな、俺も兄上二人も時期が悪いだけでレイヴェルの相手がお前なら全く文句がないのも事実なんだよ」

 

 ライザーよ、それがお前の本音か。僕はそう思いつつも、ライザーに釘を刺しにいった。

 

「しかし、それは流石に」

 

「あぁ。さっきも言ったが、時期が余りにも悪過ぎる。まだ俺とリアスの婚約問題も解決していない内にその話が表沙汰になったら、それこそ大問題だ。だから、今はレイヴェルにも自粛してもらっているが、さてどうしたものか……」

 

 ライザーは現状を視野に入れた上で、真剣に妹の事に頭を悩ませている。リアス部長は、このライザーの視野の広さと家族を真摯に思いやる姿をきっと知らないだろう。もし知っていれば、あそこまで拒絶する事はせずに時間を掛けて見極めていく選択をしていたはずだ。

 ……正直言って後が怖いが、手がない訳ではない。僕はその手をライザーに伝えようとするが、少し言い淀んでしまった。

 

「ライザー、一つ手はある。あるんだが……」

 

 だが、ライザーは僕が言い淀んだ事で逆に僕の考えを察したらしい。

 

「……いや、お前が言い淀んだ時点で俺も大体解った。確かにそれは妙手ではあるんだが、同時にそれを知った時のリアスとソーナの反応が恐ろしいな。だが、レイヴェルが思い余って暴走するよりはましか」

 

「そんなに好かれる様な事をした覚えはないんだけどなぁ。それどころか、格好悪い所を見せてしまったはずなのに……」

 

 本当にライザーの言う通りであるだけに、僕はただ溜息を吐くしかなかった。

 

「まぁ、世の中得てしてそういう物だな」

 

 一方、僕の少し情けないを見たライザーは少々苦笑いを浮かべていた。

 

 フェニックス邸滞在九日目、つまりレーティングゲーム前日において僕に対する来客があった。その時には丁度、リヒトが後ろに控えた状態でライザーとレイヴェルさんの二人と話をしていた所だった。

 フェニックス卿の案内で連れて来られた来客は、リアス部長と同じ紅色の髪をした容姿端麗の青年だった。ただし、その内に秘めた魔力は只者ではなかった。おそらくは龍王最強であるティアマットすら上回るだろう。

 ……それ等を踏まえて、僕を訪ねてきた客が誰なのかを悟った僕は直ぐに跪いた。そのタイミングは、その顔を知っていたライザーとレイヴェルさんが跪いたのとほぼ同時だっただろう。そして、僕の動きを先読みしたリヒトがそれに遅れること無く跪いたのは流石だった。

 

「礼を示す事、遅きに失してしまい誠に申し訳ございません。魔王サーゼクス・ルシファー陛下」

 

 僕の言葉を聞いたサーゼクス様からは、明らかに苦笑している気配があった。

 

「兵藤一誠君だね。初見でありながら私の事を瞬時に理解し、更に即座に謁見の礼を取った事は見事と言わせてもらう。だが申し訳ないが、今はプライベートで来ているんだよ。できれば、四人とも礼を崩してもらえないかな?」

 

 随分と気さくな方だと思ったが、リアス部長のお兄さんでもあると思えばむしろ納得できた。

 

「承知致しました。では、失礼します」

 

 これ以上はむしろ礼を取り続ける事が失礼となるので、僕達は礼を解いて立ち上がった。だが、その時に目に入った光景に僕は今度こそ呆気に取られた。

 

「正直に言って、この程度では済まされない事を私達は君に対して行ってしまった。本当はソーナ君の姉であるセラフォルー・レヴィアタンも一緒に来たがっていたんだか、流石に大事になるからリアスの婚約の件で話があった私だけがここに訪れる事ができたんだ。そして、フェニックス邸に来る前に起こった出来事もグレイフィアから聞いている。だから、全ての悪魔を代表して今ここで謝罪させて頂きたい。今代の赤龍帝である兵藤一誠殿、そしてそのご家族の方。先の眷属契約における不祥事の数々、誠に申し訳ありませんでした」

 

 ……何故なら、魔王が頭を下げていたからだ。しかも土下座で。

 

 魔王としてあり得ない、いやあってはならない光景に、同席していたフェニックス家の三人とリヒトも息を呑んでいる。

 そして、このあり得ない光景を前にした僕は天を見上げてから瞳を閉じて呼吸を整えた後、覚悟を決めた。そして跪き、サーゼクス様と同じ高さに合わせた上で声を掛けた。

 

「どうかお顔を上げて、そしてお立ち下さい。魔王ともあろうお方が、いつまでもその様なお姿をお見せしてはいけません」

 

 サーゼクス様はゆっくりと顔を上げて、そして立ち上がっていった。サーゼクス様が立ち上がったのを確認してから、僕も立ち上がる。

 

「あの時、僕が取っていた行動はご存知ですね?」

 

「……あぁ。ソーナの報告書と合わせて、リアス本人からも私信の形で直接報告を受けている。リアスが止めなかったら、たとえ話とは言えソーナが思慮不足で出した自害の命さえも、君は迷いも躊躇いも一切せずに実行しようとしたと聞いた時、私は自分の愚かさを心底呪ったよ。もっと他のやり方があった筈だとね」

 

 僕とサーゼクス様の話を聞いて、レイヴェルさんが硬直したのを感じ取った。それと同時に、リヒトの気配が一瞬で変わった事も感じ取る。煮え滾る程の憤怒の感情を理性で強引に捻じ伏せている様だ。

 

「ドライグが封印されて最初に現れた、いわば「はじまり」の赤龍帝から、神器(セイクリッド・ギア)も発現しない内に天使と悪魔に嬲り殺しにされたと聞きました。だから、あの時点で僕の人生は終わったと覚悟しました。後は唯、使い潰されるだけだと。そして、本来ならそれは現実の物となっていたことでしょう」

 

「確保の為に下級悪魔をご家族に差し向けた上層部の老人達なら、間違いなくそうするだろう。それに、あの時の上層部の凶行を黙認してしまった以上、魔王である私達ですら手の打ち様がなかった筈だ」

 

 ここまで聞いた時点で、ライザーが一回だけ強く歯軋りする音が響き渡った。僕はここで、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現する。

 

「そして、この赤龍帝の籠手も再び怨念に塗れた禍を招く神器となっていたことでしょう。そんな絶望と諦観の中で僕を救って頂いたのが、リアス部長とソーナ会長です。お二人は両親を人質に取った上で眷属契約を持ち掛けたことを大変恥としながらも、僕と僕の家族を護る為にあえてその屈辱を呑み込まれました。そのお二人の多大なるご温情の結果が十一駒の兵士であり……」

 

 ここまで話してから、僕は静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)に収めた真聖剣を目の前に掲げ、更に十一駒の兵士としてではない、十一枚の本来の翼を広げてみせた。

 

「星の意思によって生み出されたエクスカリバーの鞘にアーサー王の後継者として選ばれ、自ら再誕させたエクスカリバーと共に歩んだ、二代目の騎士の王としての過去。そして魔の力と共にこれから歩む未来を繋いだ証である、この十一枚の翼です」

 

 ……左側にある四枚の悪魔の羽と中央と一番外側にある三枚の特に大きなドラゴンの赤い羽、そして右側にある四枚の天使の翼を。

 

「逸脱者、デヴィエーター。僕は今の自分の種族をそう名付けました。聖と魔、そして龍の力が一つの存在の中で共存する、正に世界の理から逸脱した異端の極み。赤龍帝、二代目騎士王(セカンド・ナイト・オーナー)。そして、逸脱者(デヴィエーター)。これが、僕の全てです」

 

 初めて見る異端この上ない僕の姿と再誕したエクスカリバーを前に、僕以外の全員が息を呑んでいる様だ。そして、僕は一番言わなければならない事をサーゼクス様に伝えていく。

 ……その様な事を言う以上は、あと一つある「もしも」は絶対に考えるなと、己に強く言い聞かせながら。

 

「確かに運命の巡り合わせの結果、僕は人間をやめたばかりでなく、あらゆる事から外れた存在となりました。ですが、サーゼクス様。この事を僕は悔やんだりはしません。むしろ、今では感謝しています。リアス部長を人間界へとお送り頂いた事、そしてソーナ会長を人間界での領土である駒王学園に受け入れて頂いた事を。お二人のどちらかが欠けていれば、僕は既にこの世の者ではなかったでしょう。ですが、それでもなおお悔やみになられるのでしたら、不敬を承知であえてこう言わせて頂きます」

 

 きっとそれは、悪魔にとっての不敬の極み。……でも、言わなければきっとお互いに前には進めない一言だった。

 

「サーゼクス・ルシファー。僕は、貴方を許します。リアス部長とソーナ会長の眷属としてでも、今代の赤龍帝でもない。まして二代目騎士王でも、逸脱者でもない。……世界にたった一人しかいない、兵藤一誠という存在として」

 

 サーゼクス様は僕の言葉を聞いてから暫く瞑目すると、やがて目を開けて言葉を紡ぎ始めた。

 

「……ありがとう、兵藤君。そして、排斥される事すら覚悟の上で真実を伝えた君の勇気と赤心に敬意を表し、ここに口頭ながら契約という形で約束しよう。私は、少なくとも魔王たる私だけは、君をけして見放したり裏切ったりはしないと」

 

 その言葉には、サーゼクス様の万感の思いが籠っている様な気がした。

 

 

 

Interlude

 

 逸脱者と魔王との間に交わされた契約を見届けた不死鳥の親子は、逸脱者との関係を更に深める事を決意する。

 

「……父上」

 

「あぁ、兵藤君は間違いなく「本物」の「大物」になる。しかも、私達の想像を遥かに超えた高みに至れる程のな。今回の一件が済んだら、先手を打つぞ」

 

「……実は別の理由で、一誠と相談して決めた一手が既にございます。後でご相談させて頂くつもりでしたが、同時に父上のご意向にも沿うものかと」

 

「ホウ? 後で聞かせてもらうぞ、ライザー」

 

「承知しました」

 

 また、夜天の王と並び二代目騎士王を主と頂く夜天光の騎士は、明主を二人も頂くという未だ嘗てない程の天の采配に心から感謝した。

 

「主上。どうやら主兄殿は「王」さえも上回る大器のご様子。これ程の大器は、ベルカの聖王たるオリヴィア陛下ですらお持ちではなかった。優れた主を二人も頂いた事、私は心から天に感謝いたします」

 

 そして、全てを背負う少年に淡い想いを抱いていた不死鳥の少女は、全てを擲ってでも少年について行く事を決意する。

 

「一誠様。私は、レイヴェル・フェニックスは、貴方様を心からお慕い申し上げています。たとえ世界中のあらゆる存在が、貴方様を敵と見なしたとしても……」

 

 その想いを、淡いものから確固たるものへと変えて。

 

Interlude end

 

 

 

 その後はサーゼクス様やフェニックス卿も交えて、時々紅茶を飲みながらの歓談の運びとなった。なお、エクスカリバーと二代目騎士王の件については、流石にリアス部長達にはまだ早過ぎるとして黙秘を継続する様に言われた。例外としては、聖剣計画の被験者だった祐斗が何らかの形で暴走した時で、その判断は僕に一任された。

 そうして始まった歓談の際には、僕の隣にレイヴェルさんが付いて甲斐甲斐しく世話をしており、それをリヒトやライザー、フェニックス卿が微笑ましく見守っている構図となった。これを見たサーゼクス様は、何気ない感じで爆弾発言を放ってきた。

 

「ふむ、どうやら兵藤君とレイヴェル嬢は中々良い雰囲気の様だ。これならライザーとリアスの婚約が破談になっても、十分穴埋めができるかな?」

 

 

 

Interlude

 

 その頃の駒王学園生徒会室。

 

「ハッ!」

 

 生徒会室において職務をこなしていたソーナは突然、何かを感じ取った。

 

「どうしましたか、会長?」

 

 ソーナの様子に唯ならない物を感じた椿姫は、何があったのかを尋ねてみる。すると、何とも呆れた答えが返ってきた。

 

「今、一誠君が不死鳥によってバラ色の鎖に絡め捕られそうになっているイメージが浮かんできました。ですが、一体何故その様なイメージが浮かんできたのでしょうか?」

 

 ソーナはしばらく悩んだ末、とんでもない答えに思い至った。

 

「……今、解りました。私は一人の女として、一誠君に好意を抱いているのですね。だからこそ、一誠君を狙っている女の気配をこの様なイメージの形で察知したのでしょう。それなら、私はもう迷いません! シトリー家次期当主の名に懸けて、一誠君の心を射止めてみせます!」

 

 ……ソーナは己の気持ちにようやく気付いたのだった。だが、それを見た元士郎はかなりのショックを受けていた。

 

「か、会長ぉぉぉぉぉ! お願いですから、しっかりして下さい! 個人の色事で次期当主の名を懸けちゃ駄目でしょう! ……一誠! お前は一体、冥界で何をやっているんだぁ!」

 

 一方、他の眷属達はと言えば、椿姫と桃はようやく主が己の想いを自覚した事を呆れ半分で見ていた。

 

「会長、とうとうカミングアウトしてしまったわね。傍から見ていてバレバレだったけど」

 

「まぁそうですよね、椿姫さん。一誠君がいない時には、いつもそわそわしていましたし」

 

 憐耶はとうとう競争相手に己の主が加わった事に驚愕するも、それでも一誠への想いを変える事はなかった。

 

「競争相手として会長が新たに参戦って、いくら何でも強敵過ぎよ。でも、それでも絶対に負けたくない。この想いは本物なんだから。……一君。お願いだから、早く帰って来て」

 

 残った巴柄、翼紗、留流子の三人は主と同僚の余りの変わり様を見て、恋という物の大きさを改めて実感していた。

 

「……ねぇ、翼紗。この子、一体誰?」

 

「巴柄、私の記憶が確かなら、コイツの名前は草下憐耶の筈だ。……だが、正直言ってこれでは殆ど別人だよ。恋とは、ここまで人を変えるんだな」

 

「会長もそうですけど、それ以上に憐耶先輩、キャラが余りにも変わり過ぎです。……でも、これで匙先輩の心を射止める最大のチャンス到来よ。頑張れ、私」

 

 ……ただ、留流子だけは己の恋が大幅に進展するチャンスが訪れた事にほくそ笑んでいたが。

 

 一方、グレモリー家私有地。

 

「アーシアのお嬢さん、どうしたんじゃ? 急に黙り込んだりして」

 

 アーシアが突然黙り込んだ事で、彼女の指導を担当していたロシウが声を掛ける。すると、何とも言えない答えがアーシアから返ってきた。

 

「……今、イッセーさんが誰かに狙われている気がしたんです。何故なんでしょう?」

 

 何故その様な事を思ったのか、本気で解らないでいるアーシアに対して、リアスもまた同様の事を感じたと言い出す。

 

「あら、奇遇ね? 私もイッセーに泥棒猫が近付いている様な気がしたのよ。こうしてはいられないわ。アーシア、さっさと今の課題を終わらせるわよ!」

 

「はい、部長さん!」

 

 訳の解らない理由で気合いを入れ直した二人を見て、ロシウは深い溜息を吐いた。

 

「……げに恐ろしきは、恋する乙女の勘かのう?」

 

(一誠よ、お主も相当に苦労するであろうなぁ)

 

 ……そして、愛弟子である一誠の身の上を密かに案じていた。

 

Interlude end

 

 

 

 その瞬間、背筋が一気に冷たくなった様な気がした。……一体、どういう事なのだろうか?

 

「……済まないが、今の話は聞かなかった事にしてくれないかな? どうも嫌な予感がする。戦場で私を幾度も救ってくれた直感だ、信用しないわけにはいかない」

 

 サーゼクス様も何かを感じた様だ、爆弾発言を撤回する。

 

「それもそうですな。如何に赤龍帝とはいえ、未だ一介の眷属かつ下級悪魔である今の兵藤君の立場を考えると、流石に時期尚早でしょう」

 

 フェニックス卿もこれに同意する。

 

「……父上。先程の件ですが、今ここでお話ししてもよろしいでしょうか? 幸い、お話をお通しする事になるサーゼクス様もいらっしゃいますので、非常に好都合なのです」

 

 ちらりとレイヴェルさんを見た後、ライザーは突然話を持ち掛けて来た。僕もちらっと見たが、レイヴェルさんが明らかに涙目になっていた。確かにライザーが危惧した通り、思い余って暴走しそうな気がする。ここまで僕に好意を寄せてくれる事を嬉しく思う反面、唐突過ぎて困惑する想いもある。できれば、少し考える時間が欲しい所だ。

 

 ……イリナへの想いを整理する意味も含めて。

 

「解った。ライザー、ここで話をする事を許可する」

 

 フェニックス卿はライザーに話をする許可を出した。

 

「私にも関わりがあると言うのなら、話を聞かせてもらおうか、ライザー?」

 

 サーゼクス様も雰囲気を変えて、ライザーの話を真剣に聞く構えだ。

 

「では、お話しさせて頂きます」

 

 そして、ライザーは僕がレイヴェルさんの暴走の予防策として考えた事を話し始めた……。

 

 ライザーの提案にフェニックス卿が大いに賛同し、サーゼクス様も快諾して実父のグレモリー卿に話を持ち掛ける事を約束したのは、それから一時間後だった。なお、この話がサーゼクス様に受け入れられた時、レイヴェルさんは最高の笑顔を浮かべていた事は言うまでもない。

 

 こうして滞在九日目は少々騒ぎになったりもしたが、大方は穏やかに過ぎていった。

 




いかがだったでしょうか?

悪魔における魔力の位置づけの解釈については、たぶんそうではないかなという感じで行っていますので、余り本気になさらない様にして下さい。

また、カミングアウトの際に見せたソーナのはっちゃけ具合についてですが、一言だけ。


彼女、あの魔王少女の妹ですよ?


それでは、次の話でお会いしましょう。
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