尤も、本格的に戦闘が開始するのは次回なのですが。
2018.11.19 加筆修正
僕がフェニックス卿にオカ研の部室まで送って頂いた時、既に僕以外のグレモリー眷属が勢揃いしていた。
皆、明らかに成長している。十日前とは大違いだ。特にアーシアと小猫ちゃんの成長が著しい。前者は魔力制御の面で、後者は肉体的な面で。どうやら、小猫ちゃんは一つの壁を超えられたらしい。これに関しては時間を掛ける必要があり、今回の合宿中には流石に無理だと考えていたので、正直に言って嬉しい誤算だ。
……これなら、十分勝負になる。そう確信した僕は、リアス部長に帰還の報告をした後で改めて帰って来た事への挨拶をした。
「お帰りなさい、イッセー。そして、ご苦労様。どうやら、フェニックス家で色々やらかしたみたいね?」
リアス部長は少々苦笑いを浮かべていた。僕はとりあえずフェニックス家での十日間について、総評を伝える事にする。
「えぇ。滞在したフェニックス邸では、皆さんに大変良くして頂きました。フェニックス家の方は皆アットホームな方達で、お陰ですっかり仲良くなってしまいましたよ。お陰でリヒトを通じて、はやてもある程度は態度を軟化してくれました。それにライザーについては、今では気の置けない良い友人になりましたよ」
それを言った瞬間、リアス部長と朱乃さんが揃って硬直してしまった。……ライザー自身も口にしていたが、確かに印象は最悪だっただろうから致し方ない面もあるだろう。
「わぁ。凄いですね、イッセーさん」
アーシアは素直に感心してくれている。
「これはまた、僕等の想像の斜め上を行ったね」
「……無節操」
木場と小猫ちゃんはかなり呆れてしまっている様だ。一方、何とか気を取り直せたのか、まずは朱乃さんから話し始めた。
「イッ、イッセー君。よくあのライザーとお友達になれましたわね? あの方は、貴族意識がとてもお強い方なのですけど」
……そんな事を言われても困ってしまうのだが。
「この十日の内、四分の三はライザーと一緒に行動していましたけど、そんな感じは全くしませんでしたよ? ……あぁそう言えば、対等の友人になるように頼まれたのは模擬戦という名の真剣勝負をやって勝った後でした。それまでは名前じゃなく
僕の話をそこまで聞いて驚いたのは、リアス部長だった。
「勝ったの、イッセー! あの「不死」の特性を持つライザーに! 一体どうやって!」
……やはり、説明しないと駄目だろうな。そう判断した僕は、ライザーに有効打を与えられた理由を段階を踏んで説明していく。
「歴代の赤龍帝の中に、神秘に頼らぬ人の力による救済というご自身の信念を貫く為に、
「心霊医術?」
リアス部長は首を傾げている。他の皆も一緒だ。……だが、この技術は今後間違いなく重要になってくるので、より丁寧な説明を心掛けた。
「心霊医術は魔力または神や天使の力によって魂の異常な所に処置を施す事で、肉体を治療する医療技術の事です。つまり、逆に言えばこの技術を使えば肉体を介する事無く、魂に直接干渉できる訳です」
ここまで聞いて、リアス部長が気付いた。少し興奮しながら、自身が気付いた事を口にしていく。
「そう、そういうことなのね! フェニックスの「不死」の特性はあくまで肉体に対してのみ働くから、魂を直接攻撃されれば意味がないわ!」
その通りだった。これによって、僕はライザーに対して効率的に有効打を与える事ができる。そしてだからこそ、それを理解したライザーが「不死」による圧倒的なアドバンテージのない正々堂々の真剣勝負を戦える事にこの上ない歓喜を抱いた事で、修練場が崩壊する程の激闘になってしまった。因みに、はやて達の魔法に備わっている非殺傷設定だが、実は魂の力である魔力ダメージである事から魂への直接干渉に近い。その為、はやて達もまたフェニックスを打倒する事ができる。
「僕は生命の根幹を為す魂への直接攻撃という意味で、ダイレクト・アタックと呼んでいます。これは特殊な能力や特性などによって通常攻撃が効かない相手にも有効ですし、ある程度慣れて来ると結界や呪法なども割と簡単に破壊できますので、習得しておいて損はありませんよ?」
僕はこういう言い方をしたが、実際は最低でも木場と小猫ちゃんにはダイレクト・アタックを早急に覚えさせる必要があると考えている。何せ、僕が赤龍帝である以上は、いつ宿敵である白龍皇を筆頭に途方もないレベルの強敵が現れても全くおかしくはない。その為、白兵戦主体の二人は精神防壁以外の防御や肉体的なタフネスを無視できるこの技術を習得しておかないと、使用する力の量や肉体の頑強さに差があり過ぎる相手が今後出て来た時に何もできなくなってしまう恐れがある。
「本当に隙がないね、イッセー君。……この対戦が終わったら、ダイレクト・アタックの技術を教えてもらっても良いかな?」
「……イッセー先輩、私もお願いします。格闘戦主体の私にとって、間違いなく必須技能だと思いますから」
二人はこの技術の重要性を理解したらしく、すぐにダイレクト・アタックの伝授を頼んで来た。
「あの、イッセーさん。心霊医術という形でなら私もお願いします。私の神器は今のままだと肉体は治せても魂までは治せませんから」
アーシアも治癒の力を充実させる意味で、心霊医術の伝授を頼み込んでくる。
「部長、流石に私達は習得しても使い所が余りないようですね」
「そうね。どうやら直接接触しないと使用できないみたいだから、このままだと遠距離主体の私達には活かし様がないわ。むしろ理論を学んでからダイレクト・アタック用の魔力攻撃を編み出す方がより効率が良いみたいね」
「では、アーシアちゃんと一緒に心霊医術を学びましょうか?」
「えぇ。イッセー、私達もお願いするわ」
どうやら遠距離主体のリアス部長と朱乃さんも、二人で話し合った結果、ダイレクト・アタックを魔力攻撃で再現するつもりらしい。ただ、リアス部長と朱乃さんについてはむしろ非殺傷設定を修得した方が遥かに速い。
……これで、今後の指導方針が決まった。
「解りました。この対戦が終わったら、ニコラス神父にはアーシアを指導して頂く様に手配します。ですが、リアス部長と朱乃さんについては、はやてやリヒトが修得している非殺傷設定を学んだ方が早いです。後ではやてに話を通しておきましょう。そして、木場と小猫ちゃんについては僕が教えるよ」
ここで、リアス部長がとうとう突っ込んで来た。
「ねぇ、イッセー。眷属化の時からずっと気になっていたけど、妹のはやてちゃんは一体何者なの?」
その問いに対して、僕は時間がないので簡単に説明した。
「詳しい話は後日行いますが、はやては「夜天の王」と呼ばれる存在です。各地の魔法を収集する使命を帯びた、いわば「旅する魔導書」である夜天の書に選ばれた当代随一の魔導師であり、事、魔導に関しては僕より上でロシウ老師もはやてには一目置いています。そしてリヒトですが、夜天の王であるはやてに従う魔法生命体の騎士であり、同時にレオンハルト卿が剣友と認める程の剣の使い手でもあります。……なので、もしあの時リヒトと戦闘になっていたら、ライザーの言った通りの結果になっていたでしょう」
その僕の言葉に、リアス部長はおろか他の皆も揃って絶句していた。……それ程の強者に喧嘩を売ってしまったのだ。それは間違いなく自殺行為だった。
それから暫くして気を取り直すと、時折歓談をしながらゲームの開始を待っていた。そして、およそ一時間後。
「ゲーム開始五分前となりました。出場する選手の方々は魔方陣へ移動して下さい」
グレイフィアさんのアナウンスが流れると同時に、眼の前に魔方陣が出現した。僕達が目の前に現れた魔方陣の上に乗ると、転移魔法が発動する。
……そして、僕達が立っていたのはオカ研の部室だった。一見、転移に失敗した様にも見えたが、辺りに漂う自然の気の質が全く違っていた。すると、グレイフィアさんからアナウンスが流れる。
「リアス・グレモリー眷属及びライザー・フェニックス眷属の皆様。私は今回のゲームの
つまり、地の利はこの駒王高校に通う僕達グレモリー眷属にある。そもそも本戦出場者が生まれて初めて対戦する初心者を相手取るのだ、確かにこれぐらいのハンデは必要だろう。
「両眷属、転移先がそのまま「本陣」となります。リアス・グレモリー様は旧校舎のオカルト研究部部室、ライザー・フェニックス様は新校舎の生徒会室です。なお、
本陣の位置はほぼ反対側に位置するので、侵攻ルートは主に三つ。体育館を拠点とするルート、グラウンドを経由するルート、そして旧校舎の裏林を経由するルートだ。因みに、空からの侵攻は狙い打たれるだけなので自殺行為以外の何物でもない。その意味では、侵攻ルートの拠点となる体育館・グラウンド・裏林をどれだけ押さえられるかがカギだろう。
「それでは、開始時刻である午前0時となりましたので、ゲームスタートです。なお、制限時間は人間界の夜明けまでです。それまでに決着がつかない場合、リアス・グレモリー様の勝利となります」
決着がつかない場合のリアス部長への優遇措置、というよりもライザーへの罰則も当然だろう。本戦を経験したプロが初体験の初心者に耐え凌がれたことになるのだ、プロにとってはもはや完全敗北と言ってもいいだろう。
「……相当に優遇されているわね、私達」
リアス部長は複雑そうだが、僕はむしろ当然だと思っている。まずは、そこをしっかりと解ってもらわないといけなかった。僕はあえて水を差す形で、ライザーの心情を説明し始める。
「いえ、むしろ当然の措置だと思われますが? 地の利を譲られているのも、決着がつかなかった場合の勝利判定も、全ては
ライザーにしてみれば、プロ棋士がまだ将棋を打ち始めたばかりの子供を相手に勝負する様な物だろう。しかも本来なら、それでもライザーが負ける方がおかしい状態だ。リアス部長もこの説明でどうやら納得した様だ。
「そう言われると、確かにそうだわ。でも、イッセー。ライザー様って?」
リアス部長の問いかけを聞いて、この分ではリアス部長を含めた皆に改めて解ってもらう必要があると判断した。だから、少々カチンと来るかもしれないが、あえて強い言葉で言い聞かせる。
「我が君、公私は混同せぬものでございます。ましてここは真剣勝負の場、慣れ合いは互いに不要でしょう」
……これだけは、絶対に譲れない。皆に無様な真似はさせないと、ライザーにそう約束したのだから。
どうやらリアス部長もそれを解ってくれた様で、表情が少し引き締まったものへと変わった。
「……それもそうね。イッセー、早速だけど策を講じるわ。貴方の叡智を貸しなさい」
「Yes, your majesty.」
Interlude
レーティングゲーム主催者席。
ここでリアス・グレモリー陣営の映像を見ていたフェニックス卿は、一誠のリアスに対する諫言に深く頷いていた。
「やはり分かっているな、兵藤君は。これなら互いに無様な事にはならないだろう」
一方、ライザーとレイヴェルの兄である次期当主であるルヴァルもまた、リアスに諫言した一誠の意図を正確に読み取っていた。
「己に対する優遇措置にやや不満を見せていたリアス殿に対し、今の自身の立場を自覚させる事で窘めた上で、公私を混同せぬ事によってこの場が慣れ合い無用の真剣勝負の場であることを、他の眷属達に改めて知らしめた。早速
一誠が見せ始めた大器の片鱗に感嘆するルヴァルに対し、フェニックス卿はこの世の原理を説いていく。
「ルヴァルよ、どれだけ偉大な存在でも始まりというものはあるという事だろう。幾ら力と才、そして器が最上といえども、功績がなければ高い階級や爵位を得られぬからな」
父のその言葉を聞いたルヴァルは、好戦的な笑みを浮かべた。
「しかし、兵藤君が王として眷属を率いるのをライザーが楽しみにする訳です。いや、これは私も楽しみになって来ましたよ」
そこには、一誠を末の妹の相手として見込んでいるフェニックス家の次期当主ではなく、新鋭の俊英が己の所まで駆け上がるのを楽しみに待つレーティングゲームのトップランカーがいた。
一方、グレモリー家の関係者であるものの、あくまで魔王として観戦していたサーゼクスもまた一誠の持つ大器の片鱗を見出していた。
「昨日に会った時点で理解していたが、既に大器の片鱗が現れ始めている。父上、この分では相当に面白い事が起こりそうです」
その魔王であり息子であるサーゼクスの言葉に、グレモリー卿は相槌を打ちつつも愛娘の眷属である一誠を見定めようとしていた。
「そうだな、サーゼクス。……見せてもらうぞ、十一駒の兵士。魔王たるサーゼクスさえも認めた、その才気と器量を」
Interlude end
耳に取り付けるタイプの通信機を取り付けながら、リアス部長は作戦の概要を説明していった。
「……以上よ。イッセー、何か問題は?」
ここまで聞いた限り、リアス部長の作戦については遂行する事自体は特に不足はない。しかし、その上で考慮に抜けている点が三つ、特に二つが余りにも致命的だ。僕は作戦の準備を始めさせる様に伝えるのと同時に、問題点がある事を指摘する。
「時間がありませんので、準備はそのまま始めて頂いて結構です。ですが、問題が三つございます」
「朱乃、祐斗、小猫。準備を始めなさい。それでイッセー、この作戦における問題点は何?」
リアス部長は三人に作戦の準備を始めさせると同時に、話を聞く構えを見せた。そこで僕は問題点の詳細を説明していく。
「一つ、この作戦の要である朱乃さんへの負担が些か重うございます。二つ、相手が回復手段を所持している事が考慮から抜けてございます。三つ、ライザー様ご本人が侵攻して来た時の対策がございません。特に二と三は致命的と言えましょう。二については、本対戦は本戦のルールに準拠した物。ならば当然、フェニックスの涙は規定通りにご用意されていることでしょう。その為、戦闘でお互いに消耗した所で使用された場合には、間違いなく
僕の指摘を受けたリアス部長は、ハッとした表情を浮かべた。
「参ったわね。回復手段があるのは、
自分が相手をかなり過小評価していた事に気付いたリアス部長は、ここでやや自嘲する様な表情を見せる。
「……不味いわね、私。イッセーが模擬戦とはいえライザーに勝ったと聞いて、心の何処かに油断があったのかしら? 彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し。正にその通りになるところだったのね。ありがとう、イッセー。貴方のお陰で自分で掘った落とし穴に嵌まらずに済んだわ」
リアス部長は、やっと浮ついた気持ちを落ち着かせた様だ。浮ついた精神状態で幾ら策を講じたとしても、大抵の物に穴がある。……かつて、味方の狂言策による虐殺で殺される人達を助けたかったのに、それを防ぐ為に仕掛けた流言策のせいでかえって敵の早過ぎる進軍と反乱予防措置としての虐殺を招いてしまった僕の様に。今回の一件で、リアス部長はそれを痛感した事だろう。
「いえ。流石に生まれて初めてのレーティングゲームとあって、些か高揚が過ぎた所があったのでしょう。普段の我が君なら、直ぐにご自身でお気づきになっていた事でございます。……故に、ここはあえて三人には内密にした上で奇策に打って出ましょう。我が君には、先陣を切って頂きます」
そして、リアス部長の考案した作戦に対する補正案を説明していった。
Interlude
レーティングゲーム観覧席。
一誠の補正策を一通り聞き終えたフェニックス卿は感心した様な表情を浮かべた。
「……そう来たか。確かに通常であれば、到底打てぬ無謀な悪手ではある」
フェニックス卿の隣にいたルヴァルもまた、この策の齎すものに対して驚く一方、弟のライザーの反応がどうなるのか、非常に興味津々だった。
「しかし、彼の存在と後に発動する一手が、悪手をこの上ない妙手へと変える。全てを理解した時のライザーの顔が見ものですな。驚愕か、或いは……」
そして、フェニックス卿は今まで見てきたものを踏まえて、一誠の評価を下した。
「王の大器に賢者の叡智、天龍の加護、そして英雄の力か。彼は、世界が生み出した最高傑作なのかもしれんな」
Interlude
説明が終わって、リアス部長は納得の表情を見せた。
「解ったわ、それで行きましょう。説明を聞いたら納得したもの。でもイッセー、貴方も結構大胆ね」
尤も、かなり呆れの感情も含まれている様だったが。そして、アーシアとラッセーも重要な役目を与えられた事でかなり張り切っている。
「私、結構責任重大なんですね。でも、一生懸命頑張ります!」
「クァー!」
二人と一頭が納得した所で、僕達は行動を開始した。
「では、早速準備を始めます」
……僕達の準備が終わった所で、幻術と罠の準備が終わった三人が戻ってきた。そこで、リアス部長が戦闘開始を宣言する。
「では、私の可愛い眷属達。ライザー・フェニックスとその眷属達を消し飛ばして、私達の力を冥界中に知らしめるわよ!」
「「「「「はい!」」」」」
こうして、グレモリー眷属におけるレーティングゲームの初対戦がその幕を上げた。
いかがだったでしょうか?
今回の話で出てきた心霊医術の解釈については、あくまで実際のものを拡大解釈したものだと思って下さい。
この内容を本気にされると、こちらも流石に困ってしまいますので。
それに実際のところ、原作第二巻のリアスはレーティングゲーム初体験というで浮足立っていたか、あるいは自分の将来がかかっているという事でかなり気負っていたのか、どちらにしろ色々と作戦面に不備が見られますので、その点を一誠に突かせてみました。
……普段ならそれこそ腹心の朱乃当たりが指摘していそうなんですが、結局のところは皆初めての体験だったので、少なからず気負っていたり浮足立っていたりしていたんでしょうね。
では、次の話でお会いしましょう。