ここからは独自解釈と御都合主義のオンパレードになっていきますのでご注意ください。
なお、今話についてはあるレトロゲームの重大なネタバレを大量に含んでいますので、合わせてご注意ください。
追記
2018.11.11 修正
第一話 はじまりの御伽噺 はじめての勇者
僕の初めての冒険は、僕の
その日、偶々道端でとある御伽噺の絵本を見かけたので拾い上げると、眩い閃光が僕を包み込んだ。
……本当は、絵本を拾い上げる前におかしいと気付くべきだった。今思えば、この絵本からは微かに霊気の様な力を感じ取れたのだから。やがて閃光が止んだので瞳を開けると、そこには桃の絵柄の入った鉢巻と陣羽織を纏った、僕と同年代か僅かに年上の少年が酷い怪我をして横たわっていた。
今にして思う。何故、僕はその時に気が付かなかったんだって。そうすれば、あの時点であればきっと色々な事が変えられたはずだったのに。何故なら、僕がその時見かけた少年こそが日本一で有名な桃太郎であり、その桃太郎がここまで酷い傷を負った場面なんて、たった一つの物語でしかありえないのだから。
拾った絵本によって僕が飛ばされた世界は、前世において様々な意味で凄く印象に残っていたTVゲーム。「死」の概念を否定した御伽噺の世界でありながら、余りに多くの悲劇が生み出されてしまった愛と勇気と友情の御伽噺。
……「新桃太郎伝説」の世界だった。
僕はその後、術と勇気の武具を失ってしまった桃太郎さん(聞けば、身長は僕の方が高かったけど一つ年上だった)と、桃太郎さんを心配して駆け付けて来た元スリで現板前の銀次さんと共に鬼を懲らしめながら人を救う旅を始めた。実は、この段階でドライグやカリス、それに歴代の赤龍帝達と会話ができない事に気づいていた。だから、その原因を探るのと自身の修行を兼ねて旅に同行する事を決断したのだ。
そうして同行した旅の途中で、本当に様々な人や鬼と出会って来た。
桃太郎さんの三匹のお供である犬のポチ、雉のキーコ、猿のモンタ。力自慢で頼りになる金太郎さん。戦う力は弱いけど、皆の傷を癒す心優しい浦島太郎さん。桃太郎さんの慈しみの心に触れて改心し、共に旅をするようになった鬼族の姫、夜叉姫さん。その夜叉姫の下のお兄さんであり、鬼の将来を憂いていたアジャセ王子。希望の都を恐怖に陥れていたけど、改心して旅の仲間となったアシュラさん。冤罪で投獄された主の為にあえて桃太郎さんと戦い、その後に合流した風神さんと雷神さん。一度桃太郎さんによって改心された事で鬼と人間の共存を目指したんだけど、地獄の王である伐折羅王によって奈落の底に投獄されてしまった閻魔大王様。
また旅の中で出会いと戦いを重ねていく中で、僕は確かに成長していった。主に刀を中心とする戦い方や魔法の扱いはもちろん、精神的な物についても。特に刀術については、これまたやり込んでいた音と光のRPGに出てきた任侠の技を再現する形で使用していた。
桃太郎さん達は、けして敵を殺さない。戦いはあくまで悪しき行いを懲らしめる為だからだ。それに、鬼は基本的に戦いとその強さに価値を見出すから、想いを伝えるには相手と同じ土俵に立つ、つまり戦うしかないという事もあった。
こうした桃太郎さんと共に戦う上で、相手を麻痺させる「呪縛剣」や武器破壊の「刀破斬」は非常に都合が良かった。……尤も、強い鬼になると最大の威力を持つ「桜花雷爆斬」ですら悠々と耐え切ってしまうのだけど。
でも、いくら桃太郎さん達が「懲らしめる」戦い方を続けていても、悲しい別れはいくらでもあった。
桃太郎さんに懲らしめられた下級の鬼達は、次々と改心していった。でも、その土地の頭領については、ただ「負けた」というだけで監視役になっていたある鬼によって、その都度無惨に殺されていった。僕は「死」というものをこれでもかと目の当たりにする事になってしまった。特に初めての時、血反吐を吐き、そして絶望の中で息絶えていく鬼を目の当たりにして堪らずに吐いてしまった。そんな弱虫だった僕の背中を、桃太郎さんは優しく擦ってくれた。……その「強さ」を、当時の僕はとても尊く、眩しく、そして羨ましく思えた。その後も数回は目の当たりにする度に吐いていたけど、やがてどうにか堪える事ができるようになった。ただ、割り切れる様になった訳ではなかったけど、ひたすら我慢した。
そうした事を幾度も繰り返していき、やがてお互いに解り合える事を信じ、共に協力し合いながら生活していた人と鬼が作った「新しい村」に辿り着いた。……でも、その結末は最悪のものとなってしまった。
仲間の二人が囚われてしまい、村諸共火あぶりにされたくなければありもしない物を持って来いと強制された上に夜叉姫さんまでも人質に取られ、当然何も持たずに戻ってきた所を約束違反として火をつけられた。村中に付けられた火についてはアジャセ王子のお陰で火を消して夜叉姫さん達を助け出す事ができたけど、代わりに人間の大地に赤い毒の雨を降らされた揚句、見せしめとして「新しい村」は溢れんばかりの毒沼に変えられてしまった。
……そして、毒沼に沈められた住民達は想像を絶する苦痛の中で命を落とした。
あの時、住人達の断絶魔が魂の声となって桃太郎さん達と僕の心に届いてきた。その余りの激痛とそれに伴う絶望、諦観、そして死に至った時の喪失感は、今も僕の心の中に刻み込まれている。
……あの時ほど、それを為した張本人を殺してやりたいと思った事は未だ嘗てなかったし、今もなおない。
そして、その時に初めて理解した。赤龍帝であるという事は、本来はこういう事を背負う事だったのだと。そして、赤龍帝と
更に旅を続けて行く内に、伐折羅王によって投獄された閻魔大王様を助け出す機会に恵まれた。そして、命の力を一定以上吸い取る事で初めて開ける事ができるという呪いの檻を、僕を含めた皆の命の力でこじ開け、閻魔大王様を救い出す事ができた。でも、命の力を限界まで吸われた事で意識が朦朧としていた僕は、この後の事を伝える事ができなかった。
これすらも、閻魔大王様を討伐する大義を得ると同時に海底の底で生き埋めにして僕達諸共討ち取る為の罠である事を。
そして、僕は知っていた。桃太郎さんとの戦いを通じて愛と勇気を信じる様になった「軍神」酒呑童子さんがズタボロの体にも関わらずに硬い岩盤を掘り抜き、命と引き換えに助けてくれる事を。
……意識をはっきりと取り戻した時には、既に全てが終わった後だった。
「我が名は酒呑! 酒呑童子! かつて軍神と呼ばれた鬼! たとえ死すとも、生きている者達の心に残ればそれでよし!」
僕達や閻魔大王様を助けられた事に安堵しながら、辞世の言葉を残して死んでいく酒呑童子さんを看取る事しか僕にはできなかった。僕はただ、涙を流して泣いていた。ただそれだけしかできなかった。
……止めたかった。変えたかった。でも、変えられなかった。他の誰でもない。僕が、赤龍帝でも二代目騎士王でもない、特別な何かを全て取り払った裸の僕が余りにも弱いから。
僕は自分の無力をまざまざと思い知らされ、現実の厳しさにただ叩きのめされただけだった。そして、命の儚さと尊さを知ると共に、意志が命を凌駕する事は必ずしもいい事ばかりでない事もこの上なく思い知らされた。
悲劇は、止まらない。
最初は桃太郎さんの事を一顧だにしなかったけど、次第に強くなる桃太郎さん達を認めるようになっていき、やがて月の宮殿における最終決戦の後に和解して仲間になろうとしていたダイダ王子。
「今度こそは」と勢い込んでいたのに、僕は彼の教育係からの卑劣な横槍を止める事ができなかった。奈落の底でのダメージが余りに深かった僕は、治療に専念する様にと言われて桃太郎さんの城に留め置かれてしまったからだ。結局、僕はこのダイダ王子の余りに無惨な最期を、城に戻ってきた桃太郎さんから聞かされる事になった。
まただ。また変えられなかった。僕が、余りにも弱過ぎたから。
そして、ダイダ王子の最期を耳にして、その因果関係を考えた事で初めて思い知った。……信用と妄信は違うのだと。
その後、まだ体が全快でなかった為に城でもう少し養生する事になってしまい、世界と深く繋がるかぐや姫様の死を防ぐ事もできなかった。かぐや姫様を攫った鬼の言葉はけして信用しない様に桃太郎さん達には伝えておいたけど、やっぱり駄目だった様だ。人質を取られた時の対応を間違えるとこうなる、という典型的な事例となってしまった。そして世界の崩壊を目の当たりにする事になり、妄信は時に世界すらも滅ぼしてしまう程の重大な失態となり得る事を知ってしまった。
……でも、この期に至ってもなお、僕は赤龍帝の籠手を発現したりエクスカリバーを呼び出したりする事も、まして皆と会話する事もできなかった。僕は、皆がいないと何もできない自分自身が酷く情けなく思えた。
世界が崩壊した後でようやく体が治った僕は、その後の地獄における最終決戦に自ら志願して桃太郎さん達と同行し、その途中で神仏にすら匹敵するという最強の鬼、三千大千世界様と戦ってその心に偽りのない事を示し、最奥部で地獄の王にして鬼の頂点である伐折羅王と命を賭して戦い抜いたその果てに、やっとの事で桃太郎さん達に対する誤解を解く事ができた。
そして、この人と鬼の争いの黒幕であり、今までの悪行の全てを行ってきた異端の鬼、カルラはとうとう主である伐折羅王の前で本性を現して伐折羅王に襲いかかり、その伐折羅王を庇って重傷を負ったアジャセ王子に流れる月の民の血を啜る事で強大な力を得た。まずは月の民を虐殺してその血を飲み干そうと月に向かったカルラを、桃太郎さん達と一緒に長い旅の中で蘇らせた鳳凰に乗って追いかけ、そして追い付いた所で最後の戦いが始まった。
もはや神にすら匹敵する程に強大な力を振るってくるカルラだったけど、こちらの攻撃を食らっていくにつれて、自身の手で殺めてきた者達の怨念によって体が石化し始めた。これを見た僕達は一気に総攻撃を仕掛けて、カルラの力を弱めていった。それによってカルラの体が完全に石化して一体の石像と化した所で、最後の戦いは終わった。
……カルラに殺された皆の仇をこの手で討てた。でも、そんな僕の心にあったのは達成感などではなかった。
最後の戦いが終わった後、百二十年に一度咲くという竹の花の力でかぐや姫様が蘇生した。そして、そのかぐや姫様から授かった月の鈴の力によって、世界はどうにか元の姿を取り戻す事ができた。……でも、失われた命はけして帰って来ることはなかった。
そして、僕もまたその直後に元の世界へ戻ってきた。言葉で言い尽くせないほどにお世話になった桃太郎さん達に、感謝とお別れを告げる事すらできずに。呆然とした中で一年程帰って来る事ができなかった家に帰ると、母さんから驚愕の事実を聞かされた。
「あら。何か忘れ物でもしたの、一誠? まだ出かけてから、十分くらいしか経ってないわよ?」
この母さんの言葉で、何故あの世界で皆と会話できなかったり、体が成長しなかったりしたのかを悟った。
……あの世界に飛ばされたのは、あくまで僕の精神だけだったのだと。
それはある意味、僕が見た白昼夢の様なものなのかもしれない。でも、僕はけして忘れない。桃太郎さん達が見せてくれた、愛と勇気と友情の尊さ。愛を以て敵を懲らしめるという戦い方。カルラという凶悪な存在が示した、妄信というものの恐ろしさ。如何に強大な力を持っていても、自身の手によって扱いきれないのでは意味がない事。……そして、ドライグもカリスもいない僕は余りにも弱い存在である事を。
それ以来、僕は自身の修行に対する楽観的な甘えを完全に捨てた。神器やエクスカリバーの力の使い方だけでなく、それ等を除いた自分自身の力も鍛え上げなければならない、と。神器やエクスカリバーを扱えない場面など、これから幾らでも出て来る筈なのだから。そして、桃太郎さんの戦い方と前世に抱いた憧れを基にした、全く新しい魔法を作り上げる事を決心した。
桃太郎さんとの出会いを通じて作り上げた、月の光による鎮静浄化魔法であるフルムーンレクト。
この魔法が僕の人生において非常に役に立つものになったんだけど、その始まりは一年後の小学六年生の時だった。
僕は夏休みのサマーキャンプに参加していたけど、いつの間にか電脳世界デジタルワールドに来ていた。どうも、ドラゴンという存在はこんな事まで呼び込んでしまうらしかった。
こうしてドラゴンの宿業によって訪れたデジタルワールドでは、俗に無印と呼ばれた「デジモンアドベンチャー」において悪役だったデジモン達が配下のデジモン達と心からの笑顔で助け合いながら、何かの作業をしていた。
そこで詳しく話を聞くと、彼等はそれぞれのエリアを統括する特別なデジモンということだった。そして、遥か未来においてやってくるであろう選ばれし子供達の為の道標を、今の内から作っておくのだという。
因みに、その作業に対して特に積極的だったのは究極体のロゼモンを妻とする完全体のヴァンデモンだった。
こんなにものどかで、そして余りにも尊い光景を目の当たりにした僕は、エリアを統括するデジモン達が無印の様な最期を迎えない様にする為、けして暗黒の力に呑み込まれないよう忠告する事にした。
この忠告が生かされる事を、心から願って。
結論から言うと、彼等への忠告は無意味になった。……いや、正確には無意味にすることができた、というべきだろう。何故なら、僕がコロモンに出会って共に旅をしながら育成していく内に、一説では真の黒幕とされていた七大魔王の一角であるデーモンが既に暗躍し始めていた事を示す証拠を掴むことができたからだ。
このデジタルワールドにおける旅の最中にコロモンはアグモンに、そして何故か古代種で幻竜型のブイドラモンに進化した。それを受けて、僕は僕の名にある「一」と合わせて勝率100%という意味を込めて「ゼロマル」と名付けた。俗に言う漫画版の主人公で無印の選ばれし子供達の個性を一人で備えた、いわば完全なる八神太一に肖ったのだ。
そうして旅を続けていく中で、ゼロマルは並の究極体を凌駕する実力を持ち、伝説と謳われる完全体のエアロブイドラモンを経て、感情の高ぶりによるデータの書き換えで戦闘能力を一時的に引き上げるというオーバーライドの究極であるアルフォースを覚醒させた究極体のアルフォースブイドラモンへと至った。
そして、進化に対応できずに死に絶え、次元の狭間で集結しつつあったデジモン達の怨霊達を吸収する事で自らを超究極体としたデーモンと対峙した。超究極体となったデーモンは月の民の血を飲んで神に匹敵する力を得たカルラにすら並び得る強さを持ち、一時は敗北寸前にまで追い込まれたけど、デジメンタルの原石の力を借りて超究極体と同等の力を持つフューチャーモードへとゼロマルを超進化させる事でようやく打ち破る事ができた。
……結果として、僕は完全なる八神太一の代役を務め上げてしまった。
デーモンとの最終決戦の後、敗れたデーモンから開放された怨霊達は一つの形を取ろうと集まってきた。ゼロマルが僕の前に立って、怨念に対して警戒する様に呼び掛けて来る。
「イッセー、離れて。あの怨霊達は危険だよ」
でも、この時には既に
彼等は、日の当たる場所で皆と一緒に生きていきたいと望んでいた。ただ、皆に祝福され、選ばれし子供達と一緒に冒険して、お互いに笑い合いたかっただけだった。それが叶わない事でささやかな願いが嫉妬へと変わり、そして怨念に取りつかれた怨霊へと変わってしまったのだ。
……僕は、デジタルワールドにおける僕の使命を理解した。
「ゼロマル。今、解ったよ。選ばれし子供じゃない僕がデジタルワールドに呼ばれた理由が。そして、僕が果たすべき使命が何なのかも」
僕がそう伝えると、ゼロマルが驚きの声を上げた。
「えっ?」
そんな中でも、僕は言葉を重ねていく。
「僕はきっと、彼等を救う為にデジタルワールドにやって来たんだ。だから、見届けて欲しい。僕の本当の力を」
僕は決断した。
彼等を日の当たる場所へと連れていく事を。そして、その為に完成したばかりの魔法を使用する事を。
「ドライグ、いける?」
僕の呼び掛けに、七年来の相棒が応える。
『あぁ。条件は全て揃っているから、今なら発現できる筈だ。……スマンな、相棒。できれば、一年前に精神のみが飛ばされたという世界で俺やカリスの力を使いたかっただろうに』
ドライグの明らかに悔恨が入り混じった謝罪に対して、僕は気にしない様に伝えた。
「あの場にいなかったのなら、仕方がないよ。それより、今はあの怨霊達を救う事を考えよう」
そして、僕は僕の中に眠る本当の力を引き出す。
「僕の心に、願いに応えろ! 赤龍帝の籠手!」
その声と共に、左腕が光を放った。光が治まると、そこには鮮やかな赤に染まり、無骨ながらも流線型でスマートな籠手があった。手の甲の部分には、竜の紋章を浮かべた翠の宝玉を収めている。
この籠手の名は、赤龍帝の籠手。赤龍帝の証となる神器だ。
そして、この瞬間から僕は正式に赤龍帝となったのだった。僕は早速能力を発動して、倍加の蓄積を始める。そして、百秒後。
『Boost!』
倍化発動の機械音声が十回目となった時点で、僕はもう一つの能力を使用する。
「これで十回目。限界ギリギリまで貯めて倍加した力の全てを、この魔法に譲渡する。実際に使うのはこれが初めてだけどいけるよね、ドライグ?」
僕は初めての神器使用である事から、念には念を入れてドライグに確認を取る。
『経験は既に十分過ぎるほど積んでいるんだ。失敗はまずあり得ん』
ドライグの心強い言葉に、僕は完成したばかりの魔法の詠唱を開始した。
「解った。それじゃ行くよ。……月の光よ。ここに集いて心を鎮め、魔を祓う希望となれ」
それは、優しさを相手に伝える為の魔法。
「イッセーの掌に、光が集まっていく?」
暴れ回る怪獣達の心を何度も鎮め、やがて怪獣達を操っていた黒幕の心すらも救った、一人の光の巨人に肖った魔法。
「……フルムーンレクト!」
心を鎮め、邪な力を祓う。正に「悪を懲らしめる」為の魔法だった。
「集まってきた光が、怨霊達を優しく包み込んでいく……!」
ゼロマルが呆然とその光景を見守る中、僕は神器を発動するタイミングを見計らっていた。そして、フルムーンレクトの光が怨霊達全てに行き渡った所で発動する。
「ここだ!
『Transfer!!』
籠手からの音声によって、僕は譲渡能力の発動を確認した。
「籠手から発した音声と一緒に、光の強さと量が一気に増した! これが、イッセーの本当の力……!」
ゼロマルがその一部始終を見守る中、僕はただ祈っていた。
「月の光よ。届け、彼等の心に」
僕の気持ちが、怨霊達の心に届く様にと。
……フルムーンレクトによる怨念の浄化は確かに成功した。でもその結果、その場にはデジモンの卵 -デジタマ- が残されていた。浄化された怨霊達がデジタマへと変化したのだ。これにはゼロマルはもちろん、僕とドライグも仰天した。はっきり言って、想定外にも程がある現象だったからだ。
その疑問に応えたのは、
『……初めて発動した所を見たが、どうやらこの魔法は単に荒らぶる精神を鎮静化し、邪な力を浄化するだけではないようじゃ。おそらくは対象を最適の状態へと回帰させる効果もあるのじゃろう。それ故にデジモンの怨霊達はデジタマに転生することで、最適の状態へと回帰したというわけじゃな』
ロシウ老師の説明を聞いて、ゼロマルはすっかり感心してしまった。
「凄い。凄いよ、イッセー! こんなこと、ホーリーエンジェモンにだってできないよ! ボクの思った通りだ! やっぱりイッセーは、皆を助ける勇者なんだよ!」
そのゼロマルの褒め言葉に、僕はただ苦笑するばかりだ。……何故なら、勇者とは警察と一緒で、現れる時は誰かが傷つき倒れた後。つまり「手遅れ」になってからなのだから。
そして、僕は僕の使命が果たされた事を実感していた。そこで、ゼロマルに今後の事を託す。
「これで、今後はこの子が他のデジモン達と一緒に生きていけると良いね。……そうだ、ゼロマル。このデジタマが孵った時、もし今までに確認されていない新種のデジモンだったら、今から教える名前を付けて欲しいんだ。使命を果たした今、僕は間もなく元の世界へ帰らないといけないから」
その僕の言葉と共に、僕の体が少しずつ光に包まれた。……おそらくは元の世界へ帰る前兆なのだろう。ゼロマルはそれを理解したのか、出掛かった反論の言葉を呑み込む様に静かに頷き、そして承知の旨を伝えてきた。
「……そっか。解った。でも、さよならは言わないよ? いつかまた会えるって、信じているから」
再会を信じるゼロマルの言葉に、僕は笑顔で応えた。
「うん。僕もまた会えると信じている。それにね、たとえ住んでいる世界は違っても、選ばれし子供とそのパートナーじゃなくても、僕達の心はしっかりと繋がっている。だから、全然寂しくないよ?」
……口でそう言った割には、明らかに目の前が霞んでいて涙声なのは自覚していた。
「……イッセー。う、嘘言っちゃ駄目だよ? 涙は目に一杯溜っているし、こ、声だって少し震えているよ?」
当然、ゼロマルにもツッコまれてしまったけど、人の事は言えないだろう。
「そ、それはゼロマルも一緒だよ。駄目じゃないか、こんなに立派になったのに」
……結局、二人して抱き合いながら別れを惜しんで大泣きしたのは、そのすぐ後だった。
どうやらデジタルワールドも空気を読んでくれた様で、僕達が泣き止むまで転送はされずに済んだ。でも、既に僕の体が光に包まれているから、時間の猶予は残されていないと思う。だから、僕はデジタマから生まれる新しい命の為の名前をゼロマルに伝えた。ゼロマルはそれを承知して、合わせて自分が面倒を見る事を約束してくれた。
ゼロマルが面倒を見てくれるなら、安心できる。
そう思った僕は、後をゼロマルに託して元の世界へと帰っていった。いつか、必ず再会する事を約束しながら。
Epilogue
それからしばらくして、怨念から転生したデジタマが孵った。生まれてきたデジモンは今まで確認された事のない新種であった事から、ゼロマルは友でありパートナーであった兵藤一誠との約束通り、託されていた名前をそのデジモンに与えた。
その名前は、アルカディモン。
そのデジモンの周囲が笑顔で満ちた理想郷である様に、そして皆で一緒に幸せに暮らしていける様に。その様な兵藤一誠の真摯な願いが込められた名前だった。
そして、アルカディモンは種族こそ悪意の影響を受けやすいウィルス種であったが、デジタルワールドの守護者であるロイヤルナイツに正式に加入したゼロマルを父として育ち、兵藤一誠の願い通りに周囲が笑顔で満ちた心優しいデジモンへと成長していった。
やがて、アルカディモンは成長期の時点で究極体とも渡り合える程の絶大な力と善性に満ちた心根によって、デ・リーパーを始めとする外界の脅威からデジタルワールドを守る、強さと優しさを兼ね備えた勇敢なる妖獣として養父ゼロマルと共にその名を馳せていくことになる。
……ただ、時折遠くの空を静かに見上げていることがあり、まるで遥か遠くにいる誰かに会いたがっている様な素振りを見せていたという。
その後、兵藤一誠の前世の世界で俗に無印と呼ばれる選ばれし子供達の物語がこのデジタルワールドでも始まったのだが、その内容は兵藤一誠の持つ前世の知識とは大きく異なり、子供達のひと夏の冒険といった穏やかな様相を呈していたという。
兵藤一誠は、悲劇へと向かっていた運命の歯車を確かに組み直していたのだった。
Epilogue end
いかがだったでしょうか?
新章については今後も今回の様な話が続いて行きます。
もし読み進められる場合には、それを予め承知の上で宜しくお願い致します。