追記
2018.11.29 修正
祐斗の件が解決してから十日余り経ったある日、礼司さんから駒王町にエクスカリバーの複製品が複数本持ち込まれている可能性がある事を伝えられた。このままでは駒王町でエクスカリバー争奪戦が繰り広げられる事となり、孤児院の子供達の身に危険が生じるのを懸念した礼司さんはソーナ会長に事情を説明した上で、今度は駒王町の管理者であるリアス部長への仲介を依頼し、先ほど承諾された。ソーナ会長がその判断に至ったのは、今回の活動に際して監視役を自分に付ける事を自ら申し出るという礼司さんの覚悟を見たのが大きいだろう。そうして、ソーナ会長から緊急事態である事を伝えられたリアス部長は急遽契約活動を中止、眷属全員がオカ研の部室に集められた。
ソーナ会長がリアス部長に連絡を入れてから一時間後、オカ研の部室にはグレモリー眷属とシトリー眷属の双方が集まっていた。何せ、今回は事態が事態だ。双方の眷属が歩調を合わせて動くべきだろう。なお、半ば僕のマネージャーと見なされているレイヴェルも話は聞いておくべきという事で一緒にいる。やがて頃合いと見たリアス部長は今回の緊急事態に対する会合の始まりを告げる。
「皆、折角契約活動に励んでいたのに、突然呼び戻す事になってゴメンなさい。でも、今この街に厄介な代物が持ち込まれている事が判明したの。それでは、今回の情報提供者に説明して頂きましょうか?」
敵対勢力に所属する神父とはいえ流石に瑞貴の義父ということで、リアス部長も礼司さんにはある程度敬意を払っていた。そして、礼司さんもリアス部長の呼び掛けに応じる形で自己紹介を始める。
「本日はお忙しい所を、誠に申し訳ありません。先程リアス・グレモリー殿からご紹介に預かりました、私はこの街で孤児院を兼ねた教会を運営している正教会所属の神父で、武藤礼司と申します。皆さんには、武藤瑞貴の
瑞貴の義理の父。その言葉を聞いて最も反応したのは、やはり祐斗だった。それを脇目で確認しつつも礼司さんはそのまま話を進めていく。
「シトリー眷属の皆さんには仲介を依頼する際に一度説明していますが、グレモリー眷属の皆さんもいますので、今回の事態について確認の意味を兼ねてもう一度ご説明させて頂きましょう」
礼司さんはそう前置きしてから、生徒会室で行った説明をもう一度し始めた……。
Side:木場祐斗
「……話は以上です。残念ながら、現在私の手元にある情報だけでは今回の事態における敵が誰なのか、明確にはなっていません。一応、何名か候補がいるのですが、情報が少な過ぎて断定できないのです。ただ、各教派の本部にあるエクスカリバーを盗み出すという難事を成し遂げている以上、少なくともかなり上位の実力者が大きく関わっていると見て間違いはないでしょう」
瑞貴さんの義父である武藤礼司神父の説明を聞き終えた時、僕はどう反応すればいいのか困ってしまった。これが十日程前だったら、全てを擲ってでもエクスカリバーの破壊に動いていたのは間違いないだろう。それだけ、当時の僕は復讐心に囚われていた。でも、天に召されている「家族」に対して、復讐だけに囚われない事を誓った今となっては、別にどうという事はなかった。
……それ以上に、この事態を切っ掛けとしてイッセー君の抱えている
「成る程。確かにこれは緊急事態と呼ぶに相応しい事態と言えるわね。それで武藤神父。ご子息の武藤君を通じてソーナに仲介を頼んでまで私との面会を望んだのは、この街における活動の許可と私達悪魔に対してエクスカリバー争奪戦に対する不干渉を望んでのものかしら?」
この部長の問い掛けに対する武藤神父の答えは、僕の想像の斜め上を行った。
「確かにリアス・グレモリー殿との面会を望んだのは、この駒王町における私の悪魔祓いとしての活動許可を頂く為です。しかし、このままではそちらが私を信用するのは難しいでしょう。そこで、悪魔祓いとしての活動許可の他に、今回の活動がそちらに害を為すものではないという証を立てる意味で、私に監視役を付けて頂きたいのです。そうすれば、お互いに角が立たないでしょう」
武藤神父のこの言葉を聞いた時、神父との親交が深いイッセー君とまだ悪魔歴の短いアーシアさん以外のグレモリー眷属は揃って絶句した。まさか、本来なら不倶戴天の敵である筈の悪魔に対して、十字教の神父がここまで誠実に接してくるとは思わなかったのだ。
……いや、前例がいた。歴代赤龍帝でも「
そのニコラス神父と、武藤神父は非常によく似ていた。……実は生まれ変わりです、と言われても納得してしまうくらいに。ひょっとすると、古式の
そんな事を考えている間に、部長達はようやく驚愕から立ち直った様だ。部長が武藤神父の頼み事に対する返答を出していた。
……ただ、まだ完全に立ち直っていないのか、武藤神父に対する言葉が敬語になっていた。部長もまた、悪魔に対する偏見を持たない人格者で時折相談にすら応じて下さるニコラス神父に対しては敬意を払っていたので、ニコラス神父の時と同じ対応をしてしまっていたのだ。
「……大変お見苦しい所をお見せしてしまいましたわ。まさか、そのような事をそちらから提案されるとは思ってもいなかったのですから。それで先ほどのご提案ですが、むしろそれでよろしいのですか?」
この部長の念押しにも、武藤神父は少しも躊躇う事無く承知していた。
「えぇ、構いませんよ。今後もこの街に住まわせて頂く事になりますし、それでこちらに対する信用が得られるのであれば、私としても都合が良いのです。それと、破門寸前とはいえ敵対者である神父の私に対して、話す言葉に気を使う必要はありませんよ」
……何故だろう。余りにも立派過ぎて、逆にこの方の今後が凄く心配になってきた。
そんな僕の心配を余所に、部長が監視者は誰が良いか、武藤神父の希望を聞く。
「本当にニコラス神父に似ているわね。それだったら、私に対しても「殿」なんて敬称を付ける必要はないわ。それで監視者を付けるとして、どの様な形で一体誰を?」
それに対する武藤神父の答えは、ある意味では予想通りだった。
「グレモリー眷属とシトリー眷属からそれぞれ一名ずつ、できれば瑞貴君とそちらの木場祐斗君をお願いします。既に瑞貴君から話を聞いているとは思いますが、実は私もまた「聖剣計画」の関係者なのです。私は子供達の指導教官を任命されていましたが、その実態を知った事で子供達を急いで救助に向かった所、間に合ったのは瑞貴君と薫君、そして薫君と同い年の女の子であるカノン君の三名だけでした。なのでこの際、「聖剣計画」の被験者となった子達と一緒に行動してエクスカリバーと対峙する事で、この忌まわしい因縁に一応の決着をつけたいと思っています」
……流石にイッセー君の事を持ち出すのは無理だったので、武藤神父は自分が間に合った事にしたらしい。一方、武藤神父の心情を聞いた部長は武藤神父の希望を聞き入れる事にしたらしく、承知の旨を示すと共に会長に確認を取る。
「武藤神父、ご要望通りにこちらからは祐斗を貴方の監視者として付けさせてもらうわ。ソーナ、貴女は?」
この部長からの確認に対して、会長もまた武藤神父の希望を聞き入れる事を伝えてきた。
「そうですね。私も監視役を付ける事を自ら申し出ると武藤神父から話を聞いていた時点で、監視役は武藤君しかいないと思っていました。こちらからの監視役は武藤君にやってもらいましょう」
部長と会長の快諾を得られた事に対して、武藤神父は頭を下げて感謝の言葉を伝えてきた。
「お二人とも、有難うございます。では、そちらにご迷惑がかからない様、できるだけ早急に事態を収拾させましょう。それで、早速ですが……?」
その時、武藤神父の声が止まった。そして、懐からマナーモードにしていた携帯端末を取り出して、何があったのかを説明していく。
「……失礼。正教会本部から連絡が来ました。どうやら速報の形で報告書を出したのが、功を奏したようです。しばらく席を外しますので、少々お待ち下さい」
武藤神父はそう言ってから、オカ研の部室から一端退出した。部室の中が静寂に包まれる中、最初に言葉を発したのは部長だった。
「まさか、あの様な方がニコラス神父以外にもいたとは思わなかったわ。……悪魔としては問題があるのは分かっているし、敬語は必要ないってさっき言われたけど、ニコラス神父と一緒で自然と敬意を払ってしまうわね」
部長は苦笑交じりで武藤神父の事を人格者として評価していた。それを聞いていた他の皆も、お互いに顔を見合わせながら武藤神父についてそれぞれの考えを語っていく。ただ、この場にいた全員が共有していたのは「この人なら信じられる」という武藤神父への信頼感だった。皆の考えが出揃ったところで、会長も武藤神父について思った事を言葉にしていく。
「やはり武藤君の義父であり、人物鑑定にも秀でた一誠君とも親交が深いだけあって、悪魔である私達から見ても十分尊敬に値する方であるという事でしょうね。それに多くの子供を抱えた大人としての責任感も凄く強い方の様ですし、こちらから手出しする様な事さえしなければ、直接敵対する様な事にはならないでしょう。では、今回の一件については武藤神父に一任し、こちらは監視役を付ける程度に留めるという事で……」
武藤神父との今後の付き合い方と今回の一件に対する方針が会長から提示されようとした、正にその時だった。
「ふざけるのも大概にしなさい! そのような極めて重大な情報が、どうして現場に最も近かった私の所に届いていなかったのですか! 確かに、私は悪魔の管理地への赴任を始めとする重罰を受けた身ではありますが、まだ破門を言い渡されたわけではありません! つまり、私は未だに主への信仰を認められているのです! その私に連絡を入れない等、貴方達は一体何を考えているのですか! 情報伝達の不徹底がどれだけ多くの同胞と罪なき方達を死に追いやる事になるのか、貴方達は本当に解っているのですか!」
あの穏和な武藤神父から、魔術障壁付きの壁越しにすら聞こえる程の怒号が飛び出していた。その声の余りの大きさと声に含まれる怒りの大きさに、僕達は揃って口を噤んでしまう。
そして、その怒号が止んでからしばらくすると、武藤神父が部室へと戻ってきた。武藤神父は部屋に入ると、まず大声を出した事への謝罪から入り、続けて今しがた入った情報の提供を申し出てきた。
「どうやら私の声が余りに大き過ぎた様ですね。まずは聞き苦しい声をお聞かせしてしまった事をお詫びいたします。ですが、先ほど正教会本部から入った情報から、事態は私の予想を遥かに超えて極めて重大である事が判明したのです。それについてもお教えしましょう。……状況から判断しまして、おそらくお二人も深く関わる事になるでしょうから」
穏和な表情が一変して真剣なものへと変わった武藤神父に、部長は事はより重大になった事を実感したのか、話を続ける様に促した。
「……解ったわ。武藤神父、話を続けて下さい」
部長に促された武藤神父は、まず何故この街にエクスカリバーがあったのかを説明していった。
「では、つい先ほど入った情報について説明しましょう。まずはエクスカリバーの件からです。これについては、私や薫君の想像通りでした。現在プロテスタントと正教会の本部、そしてカトリック総本山のヴァチカンからエクスカリバーが一本ずつ盗み出されています。盗み出されたのはプロテスタントからは
少し落ち込み気味にエクスカリバーの件を語り終えた武藤神父は、気を取り直す様に頭を左右に振ると説明を再開した。しかし、その時に挙がった主犯格の名前に僕達は驚愕する事になった。
「少々お見苦しい所をお見せしてしまいましたね。では、説明を続けます。今回のエクスカリバー盗難の主犯格として、とんでもない大物の名前が浮上しています。その名はコカビエル。堕天使勢力の中枢組織である
主犯格の名前を伝えた武藤神父もまた少々顔色が悪い。でも、無理もなかった。想定外にも程がある大物が直々にエクスカリバーの盗難に動いていて、それに薫君が思いっきり首を突っ込んでいたのだから。
……だけど、最悪なのはむしろここからだった。
「ですが、それ以上に最悪なのは、現在コカビエルがこの街に潜伏しているという事です。そして、上層部はその情報を確かなものとして扱っています。この街がエクスカリバー争奪戦の戦場となるのは、もはや時間の問題でしょう」
……古の堕天使が、この街にいる。悪魔の頂点に立つ魔王の実妹が管理する、この駒王町に。
余りに想像を絶する極めて重大な事態に、僕達は完全に固まってしまった。
Side end
堕天使勢力の幹部であるコカビエルがこの一件の黒幕であり、現在はこの駒王町に潜伏している事を礼司さんから伝えられた時、僕はコカビエルの意図が何処にあるのかをひたすら考えていた。
エクスカリバーの盗難時の状況に始まり、魔王の妹が管理するこの街への潜伏とそれが敵に確信される事が早過ぎる事、そして余り身を隠す事に執着していない、むしろ堂々とした趣すらある斥候の排除。
……これらの情報から得られた答えは、一つだった。
僕が答えに至った頃合いを見計らった様に、礼司さんはリアス部長とソーナ会長に対する申し出の内容を変更する事を伝えてきた。
「リアス・グレモリーさん、そしてソーナ・シトリーさん。もはや、手段を選んでいられる状況ではなくなりました。先程の監視役の件ですが、内容を変更して私との共闘をお願いしたいと思います。このままでは、三大勢力の戦争が再開されるという最悪の事態に陥る恐れすら出てきました。今、戦争が再開されれば、世界は間違いなく終末の時を迎える事になるでしょう。それを、私達は未然に防がなくてはなりません。できれば、私の申し出をお聞き入れ頂きたいのですが」
……流石というべきだろうか。礼司さんは最悪の事態が何なのか、それが見えている様だった。だから、ここは
「
僕のその言葉に、二人は顔を見合わせると頷き合ってから許可を出してくれた。
「そうね。ここはまずイッセーの考えを聞いてみましょう。判断はそれからにするわ」
「私としても少し考えを纏める為に一誠君の意見が聞きたいと思っていましたので、この場での発言を許可します」
二人の主の許可を得た僕は、早速自身の考えを説明し始めた。
「今回のエクスカリバー盗難事件において、不審な点が三つございます。一つ、なぜ六本のエクスカリバーの内、奪われたのが半分なのか。二つ、何故主犯格と潜伏場所が直ぐに判明したのか。三つ、何故わざわざ悪魔の、しかもトップの血縁者の領地を潜伏場所に選んだのか」
ここでまず僕が不審に思った点を挙げてから、右手の人差し指だけを立てて一つ目の不審点について説明する。
「一つ目が不審である理由は、奪われた時の状況でございます。仮に堕天使達が保管場所、もしくは所持者を強襲して奪っていったのなら、抵抗激しく半分しか奪えなかったと判断できましょう。しかしこの場合、重要拠点または重要人物を強襲されるという大事件でございます。如何に教会が隠蔽に走ろうとも、我々悪魔にもその情報がある程度は伝わり、更にこちらにも警戒する様に連絡があってしかるべき事でしょう。ですが、それらが一切なかったという事は、盗難された事を外部組織に隠蔽できる状況だったという事になります。では、それはどのような状況か? ……答えは、気付いた時には全てが終わっていた。つまり、誰にも気付かれる事無く奪っていった、という事でございます。では、それを為すにはどうすれば? この答えもすぐに出て来るでしょう。予め、あらゆる情報が実行犯の手の内にあったという事でございます。おそらくは、教会内に内通者がいたのでしょうな。この場合、半分奪うのも全て奪うのも手間はそう変わりませぬ。ならば、あえて半分しか奪わなかったと考えるべきかと」
ここまでの説明を受けて、礼司さんは納得した様な表情を浮かべた。
「確かに、その可能性が高そうですね。いくら私が破門一歩手前とはいえ、流石に聖剣使いが襲われて聖剣を奪われたとなれば、その賊に対処するように命令が来ると思いますし、仮に本部を強襲されていれば、それこそ本部を防衛する戦力の強化の為に呼ばれているでしょう。一応、それくらいの力量は私も持っていると思っていますので」
……確かに強奪した形であれば、教会に所属する腕利き達との付き合いがある程度あった瑞貴をして「正教会はおろか十字教教会全体を見渡しても、間違いなく最強の一人」と言わしめる礼司さんを遊ばせる選択肢はないだろう。
「成る程。そういう事でしたら、私ごときの推察でもそう的を外してはいなかったという事でしょう」
そして、次に右手の中指を立てて、二つ目の不審点について説明する。
「説明を続けさせて頂きます。二つ目が不審な理由は、判明した情報の重要度でございます。主犯格も潜伏場所も、本来なら何を差し置いても隠し通さなければならない最も重要な情報であり、しかも相手は気付いた時には全てを終わらせていた程の手練手管、情報管理も本来なら万全を期している筈。ですが、こうも直ぐに判明したという事は、これらの情報をむしろ積極的に発信したと考えるべきでしょう。通常なら欺瞞情報か囮による罠の可能性を真っ先に考えるのですが、既に斥候を送り出した上にここ数日以内に本命が到着する見込みであるなら、教会や天界の上層部は既に確信に至っているのでしょう。即ち、少なくとも聖剣を奪っていった主犯格のコカビエルにとって、奪った聖剣の重要度は低い、あるいは殆どないと言ってもよろしいかと」
二つ目の不審な点の説明を聞いた時点で、ソファに座っていたリアス部長は教会の覚悟を嘲笑うかのような現実に苦笑いを浮かべている。
「……武藤神父には悪いのだけど、もはや滑稽としか言い様がないわね。教会はそれこそ威信を掛けて事に当たっているでしょうに、肝心のコカビエルからは全く相手にされていないのだから。それでイッセー、貴方が三つ目に不審に思った点の理由とは何なのかしら?」
そこで、リアス部長に三つ目の不審点の理由について説明する様に促されたので、僕は薬指を立てて説明を再開した。
「我が君、私が三つ目を不審に思った理由は、犯行の動機でございます。もし本当に聖剣を求めて今回の行動を起こしたとすれば、ここを潜伏場所に選ぶ事はまず致しませぬ。仮にそうするのであれば、私ならあえて潜伏ではなく滞在という形を取ります。現在、天界と堕天使勢力、そして我々悪魔勢力は冷戦状態でございます。我々にとっては幹部クラスとの揉め事を早々起こせませぬので、コカビエルにしてみれば、聖剣を奪った事さえ黙っていれば特に問題はございません。そして部下を悪魔に変身させるか下級悪魔を洗脳するかしてこの地に派遣されるであろう本命の悪魔祓いに攻撃を仕掛ける一方、配下の「はぐれ」悪魔祓いには正規の悪魔祓いと偽って我々の元へと攻め込ませます。こうしてお互いを対立させて戦闘状態へと陥らせてから戦闘への不干渉とそれに伴う駒王町からの退去を宣言、悠々と本拠地へと帰還致します。これで聖剣を我が物とする事ができましょう。その上、相手は今回の一件に関する情報を天界勢力に発信する一方で、我々悪魔勢力には駒王町の潜伏に至るまで一切与えなかったコカビエルでございます。それぐらいの策略は、赤子の手を捻る様に容易い事でしょう」
まず、僕がコカビエルの立場だった場合の最善手を説明した所で会長の顔が青くなった。実際、その手を使われていたら悪魔側としては対処のしようがなかったからだ。その上で、実際にコカビエルが執った行動に対する僕の解釈を皆に伝える。
「ですが、現実にはこうして破門寸前とはいえ正式に正教会に所属しておられる武藤神父とは落ち着いて対談できております。つまり、コカビエルは既に十字教教会を殆ど相手にしていないという事でしょう。そして、もう一つ。この地は魔王サーゼクス・ルシファー陛下の妹君であらせられる我が君が管理を任された地であり、同時に魔王セラフォルー・レヴィアタン陛下の妹君であらせられるご主君がご勉学に励んでおられる場所でもございます。……これで、私の申し上げたい事がお解り頂けましたでしょうか?」
こうして僕が三つの不審点について説明し終えると、ソーナ会長がある事に思い至った様だ。その顔に驚愕の表情を浮かべている。
「まさか、コカビエルが奪ったエクスカリバーを持ってこの駒王町に潜伏しているのは……!」
おそらくは無意識のうちに口をついて出てきたであろうソーナ会長の言葉を繋ぐ形で、僕はコカビエルの目的を告げる。
「その通りでございます。我が君、ご主君。お二人のお命を奪う為に、潜伏場所としてこの地を選んだのでございます」
それを聞いたリアス部長は、まるで信じられないといった表情を浮かべて、思い付いた事をそのまま言葉に出していた。
「でもそんな事をしたら、また戦争が……」
自ら口にした言葉で、リアス部長は気付いた様だ。コカビエルが最初から何を望んでいたのかを。
「……そんな。コカビエルは一体何を考えているの? 天界も冥界も勢力を未だ回復し切れていない今、そんな事をしたら、それこそ武藤神父が言った通りに世界が終末を迎えてしまうわ」
リアス部長は最悪の事態を思い浮かべたのか、顔色がかなり悪い。しかし、覚悟だけは決めてもらわなければならない為、僕はあえて口に出す。
「その通りでございます。聖剣奪取に始まり、我が君とご主君のお命を狙わんとする、コカビエルの最終目的」
何故、それを望むのかまでは解らない。もしかすると、僕には見えない物がその先にあって、コカビエルはそれを望んでいるのかもしれない。しかし、唯一つだけ言える事がある。
「それは、戦争の再開でございます」
それは、そんな事を絶対に認めてはいけないという事だ。そして、礼司さんが言った通り、それを未然に防ぐのが今回の事件における僕達の使命となる。
……責任は、極めて重大だった。
いかがだったでしょうか?
コカビエルを過大評価し過ぎと思われるかもしれませんが、天界や教会がかなり活発に動いていたにも関わらず、悪魔陣営がエクスカリバー盗難について殆ど情報を得ていなかった節があるのを考えると、一連の情報の流れを誰かが制御していたのではないかと考え、拙作では三大勢力の戦争再開を望む当人にやらせました。
何せ、原作ではある重大な情報を主人公達に語った後はケタ違いの強さを持つ新キャラの引き立て役と化してしまうので、もう少しだけ輝かせてもいいだろうと思ったのです。
なお、奪われたエクスカリバーを所持していた教派については、カトリックは所持者の戦闘力を高める強化系、プロテスタントは剣の形状や剣及び所持者の透明化などの変化系、そして正教会は周囲に間接的な影響を及ぼす特殊系といった感じで、能力の種類に応じる形で決めた独自の物です。
では、また次の話でお会いしましょう。