赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.2 修正


第十四話 聖剣使いは遅れてやってくる

Side:紫藤イリナ

 

 私の初恋は結局叶う事無く終わったものの、その想いを盟友となったソーナにレイヴェルトと()(どう)(りき)の形で託した。その一方で一誠君が諦めざるを得なくなった「科学者になる」夢を継ぐ決心をした私は、その後ソーナと一晩中語り合った。気が付いたらすっかり夜が明けてしまっていたので、私は拠点に戻る事にした。その際、ゼノヴィアからは散々身勝手が過ぎると叱責される覚悟をしていた。彼女にしてみれば、調べる事が出来たと言って仲間が単独行動に出た挙句、朝まで戻って来なかったのだから、心配するのも無理は無い。まして、ここまで遅くなった理由が個人的な理由によるものであるのを知れば、怒髪が天を衝くのは間違いないと思っていた。

 実際、ゼノヴィアは私を出迎えてくれた直後は私の予想通りに怒っていた。でも、戻ってきた私の顔を見るや怒っていた表情は消えていき、それどころか何処か痛ましいものを見る様な表情と雰囲気に変わっていった。そんなゼノヴィアの変化に困惑していると、ゼノヴィアは突然私の頭を胸に抱え込んでそのまま抱き締めてしまった。そして、一言だけ声を掛けてくる。

 

「イリナ、よく頑張ったな」

 

 ……友達の優しい心遣いに耐え切れず、私はそのまま泣き出してしまった。

 

 

 

 こうして午前中は徹夜明けとなった私の心身の休養に充てると共に、ゼノヴィアに状況が激変した事を説明する事にした。ゼノヴィアは最初、礼司小父さまが破門寸前である事を聞くと「禁忌を犯した者など、私が切り捨てる!」と言ってそのまま教会へ乗り込もうとしたけど、どうにか私の説得を聞いた上でヴァチカンの上層部に問い合わせる事にした。すると、正教会経由で小父さまの報告が届いていたのか、ヴァチカンの方も事態の急変を知っており、礼司小父さまから既に奪還した二本のエクスカリバーを受け取った後は現場の判断で動いていた礼司小父さまに代わって私達が奪還任務を遂行するように新しい命令が下された。

 ……()()()()()()()()()()、と言わない辺りに上層部の本音が透けて見える。上層部はどうあっても、礼司小父さまに大功を獲らせたくはないみたい。しかも、この分では礼司小父さまが関わった事自体が「なかった」事にされそうだった。

 こんな崇高とはとても言い難い、ドロドロとした上層部の勢力争いを改めて目の当たりにした事で、私は本気で主が何を思し召しになられているのか理解できなくなった。確かにこの件が終わったら悪魔祓い(エクソシスト)を辞める事にしているけど、この分だと信仰を棄てる所までいってしまそうだ。

 

 ……こんな事なら、一誠君とはもっと別の付き合い方があったんじゃないのかな?

 

 そんな考えが、私の頭の中を占めてしまいそうだった。今更そんな事を言っても始まらないという事は、自分自身でも解り切っている筈なのに。

 一方、私がそんな事を考えているとは知らないであろうゼノヴィアは、ヴァチカンからの説明と指令によってようやく納得し、まずはエクスカリバーの引き取りの為に礼司小父さまの教会に出向く事にした。礼司小父さまの教会に辿り着くと、既に上層部から命令が届いていたらしく、礼司小父さまは私達の来訪を歓迎すると予め用意していた二本のエクスカリバーを私達に引き渡してくれた。……ただ、同時に小父さまから忠告を受ける。

 

「敵の動きには、くれぐれも注意して下さい。向こうは立て続けにエクスカリバーを奪い返されているのです。次は主犯格のコカビエルが自ら動く可能性が高いでしょう。なので、その時は無理をせずに一度退き、援軍として切り札(ジョーカー)の派遣を要請して下さい。主は、たとえ貴女達が命を捨てて使命を全うしたとしても、けして喜ばれる事はありません。何より、貴女達が天に召される事でご家族を始めとする親しい方達を悲しませてはいけませんよ?」

 

 この礼司小父さまの言葉にゼノヴィアは驚きを隠せないでいたけど、私はむしろ小父さまらしいと思ってしまった。

 

 こうして小父さま達によって奪還された二本のエクスカリバーを受け取った後、今度はその足で駒王学園に向かった。小父さまに代わって私達がエクスカリバーの奪還の任を遂行する事になった事を伝えると共に、私達の活動許可の申し入れをする為だ。ただ、ゼノヴィアはそれに加えて悪魔側の不干渉も申し入れるべきだと言い出したけど、そこで礼司小父さまから聞かされた事を説明していく。

 

 ……コカビエルの最終目的が三大勢力の戦争の再開であり、その為に四大魔王の実妹であるリアス・グレモリーとソーナ・シトリーを手に掛ける事も視野に入れている、という事を。

 

 そして、そういった事情から、悪魔側がこちらの争いの不干渉など到底受け入れないという事を伝える事で説明を終えた。流石のゼノヴィアも、悪魔側にとってもこちらの争いを傍観できる様な状況ではなくなっている事を理解したので、不干渉の申し入れはしない事を約束してくれた。そうして放課後になる頃合いを見越して駒王学園に出向いた私達は、まずはソーナに面会して仲介を依頼する。その際、お互いに初対面である事を装ったのは言うまでもない。

 その後、この土地を管理するリアス・グレモリーと面会したのは夕暮れ時になってからだ。正式の手順を踏んでいる為に少々手間がかかっているけど、これは必要な事だった。何せ、最初に現場の判断で活動していた礼司小父さまはこの地の管理者に対して監視役の同行を自ら申し出るという誠意ある態度を見せる事で、管理者の信用と共に活動許可を得ている。ここで悪魔の天敵であるエクスカリバーを携えた私達が無断で活動すれば、それこそ戦争の火種になりかねなかった。

 ……本当なら、両者の眷属の纏め役で繋ぎ役にもなっている一誠君に直接リアス・グレモリーへの仲介を頼めば良かったのかもしれない。でも、昨日の今日で顔を合わせてもきっとお互い気不味いだけだろうから、結局は正規の手順を踏む事になったのだ。

 そうして面会したリアス・グレモリーだけど、彼女は一誠君以外の眷属を伴っていた。また、私達悪魔祓いが自分の土地に訪れている事に対して余りいい気がしないのだろう、少々表情が固かった。そこで、こちらから自己紹介を始める。まずは私から。

 

「私は今回この地に派遣されました、プロテスタント所属の悪魔祓いで紫藤イリナと申します」

 

 続いて、ゼノヴィア。

 

「私はカトリックの悪魔祓いで、名はゼノヴィアだ」

 

 そして私達の自己紹介を終えてから、今度は向こうが自己紹介を行う。

 

「もうそちらは解っているのでしょうけど、礼儀の上で名乗らせてもらうわ。魔王様からこの地の管理を任されている、リアス・グレモリーよ。早速だけど、本来なら敵対関係にある貴方達がわざわざ私の元を訪れた目的を聞かせてもらおうかしら?」

 

 向こうはさっさと用件を終わらせたいのか、単刀直入に目的を尋ねて来た。それに対して、ゼノヴィアは話が早いとばかりに目的を語っていく。

 コカビエルを主犯格とする堕天使にエクスカリバーの半数を奪われ、それらがここに持ち込まれた事、その奪還の使命を帯びて私達がここを訪れた事を伝えた。この辺りの話は向こうも既に知っている事だと解っているけど、一応の事実確認を兼ねて語っている。

 

「……それで? わざわざ身内の失態を教えに来た訳でもないのでしょう? 大方、私の管理地で活動する事を申し伝えると同時に、私達悪魔に対して貴女達と堕天使とのエクスカリバー争奪戦に一切干渉するなといった所かしら?」

 

 リアス・グレモリーはこちらの申し出を既に読んでいるみたいだった。ゼノヴィアはリアス・グレモリーの能力の高さに納得した後、こちらの申し出については一つだけである事を伝える。

 

「成る程、どうやら魔王の妹というのは伊達ではないようだ。……ただ、不干渉についてはそちらの都合上、到底受け入れられない事は解っている。だから、とりあえずは私達がこの地で活動する事を認めてくれるだけで良い」

 

 一方、リアス・グレモリーは自身の素性を知っている上に駒王町の現状を理解しているゼノヴィアを見て、評価を上方修正したようだ。

 

「あら。私が魔王の妹であることは余り知られていないはずだけど、どうやらそれなりに上層部に連なる者の様ね。それに駒王町の現状もちゃんと解っているのね。いいでしょう。貴方達のこの地における活動を管理者の権限で容認します。これでいいかしら?」

 

 管理者であるリアス・グレモリーの言質を取った事で、私達のここでの目的は達せられた。ゼノヴィアはそれを承知すると、今まで活動していた礼司小父さまの後任として私達が就いた事、そして監視役の同行についても引き継ぐ事をリアス・グレモリーに伝える。

 

「あぁ。それで十分だよ。正直言って、私達のそちらへの申し入れが完全に時機を逸しているのは私も理解しているんだが、流石にそれなりの手順はきっちり踏まないと後々の禍根となってしまうかもしれないのでね。また、上層部からの命令で武藤礼司神父が現場の判断で奪還した二本のエクスカリバーを引き取った後は、奪還の命を受けた私達が神父の後を引き継ぐ事になっている。その際、神父の申し入れた監視役についても、私達はそのまま引き継ぐつもりだ。……折角、神父がここまで動きやすい様にお膳立てしてくれていたんだ。この際だから、トコトン利用させてもらうよ」

 

 ゼノヴィアはそう言った後、用件は終わったと立ち上がろうとした時だった。

 

「申し訳ありません。遅くなりました」

 

 そう言いながら、一誠君が瑞貴さんと見知らぬ金髪の女の子を伴って部屋に入ってきた。エクスカリバー奪還の任でこの街に来ている以上、何らかの形で必ず顔を合わせる事になると覚悟はしていたものの、流石にまだ割り切れないでいた。

 

 ……割り切れる訳がなかった。

 

Side end

 

 

 

 イリナと決別する一方、自分の本音や弱さと向き合ってそれを受け入れた結果、アウラという愛娘を得るという激動の一日を過ごした、その翌日。

 まずは昼休みの時、グレモリー眷属+レイヴェルというオカ研メンバーを集めて旧校舎の裏庭で昼食を取る様にした上で、アウラの顔合わせを行った。アウラについては、ほぼそのまま「悪魔に転生した事で僕に宿った「魔」から生まれた存在」と説明し、今後は僕の娘として扱って欲しいと頼み込む。皆はそれを快く受け入れてくれたのだが、その後で皆がアウラに自己紹介をする際にアウラが早速やらかしてくれた。他の女性陣は全員「お姉ちゃん」だったにも関わらず、何故かレイヴェルだけを「小母ちゃん」呼ばわりしたのだ。しかも悪意など欠片もない、満面の笑みで。

 このアウラの「小母ちゃん」発言で完全に固まってしまったレイヴェルを他所に、今度は祐斗に対して「(ゆう)小父ちゃん」と呼ぶなど、アウラが一体どういう基準でそんな呼び方をしているのか、僕にはさっぱり解らなかった。……後で、完全に拗ねてしまったレイヴェルの機嫌を直すのに相当の労力を費やしたのは言うまでもない。

 

 そして放課後となって生徒会の仕事を始める前に、今度はシトリー眷属の皆にアウラを紹介した。こちらの方でも受け入れてもらえたものの、今度はソーナ会長が「小母ちゃん」と呼ばれ、男性陣は二人とも「瑞貴小父ちゃん」「(げん)小父ちゃん」と「小父ちゃん」呼ばわりされていた。生徒会室の空気が完全に凍り付く中、一人冷静な瑞貴がアウラに僕の周りにいる人達をどう呼ぶのかを確認し始める。

 ……すると、父さんと母さんは、当然ながら「お爺ちゃん」「お婆ちゃん」。礼司さんとトウジ小父さん、フェニックス卿とその奥方様、更にルヴァルさんとロッシュさんは、これまた当然「小父ちゃん」(ただし、フェニックス卿と奥方様は「フェニックスの小父さん(小母さん)」)。そして、先に挙げた人達以外で「小父ちゃん」呼ばわりされたのは、僕より年上で頼り甲斐のあるバリーさんと友人のライザーのみ。後は、縁戚関係上では正式に叔母となるはやても含めて「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」だった。

 

 これだけ聞いた瑞貴はフムフムと頷いた後に答えを出してきた。

 

「成る程。どうやら、アウラちゃんは父親の一誠を基準として、人の呼び方を変えているみたいだ。つまり、アウラちゃんから見て一誠と同格以上なら「小父ちゃん」「小母ちゃん」、一誠より下だと判断したら「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と言ったところかな?」

 

 確かに、それなら違和感がない……のか? いや、それだと何故主であるリアス部長が「お姉ちゃん」でレイヴェルが「小母ちゃん」なのか、全く理解できない。だが、この瑞貴の推測を聞いた途端、何故か「小母ちゃん」呼ばわりされたソーナ会長と眷属統括役としての僕の仕事の手伝いに来るなど、完全に僕のマネージャーと化したレイヴェルの機嫌が一気に改善、それどころか鼻歌でも歌い始めそうなくらいに上機嫌となった。……後、「お姉ちゃん」と呼んでもらえた憐耶さんがガックリと肩を落としていたのは、一体何故だろうか?

 こうして混沌と化した生徒会室の空気が落ち着きを取り戻すのを待ってから、僕はソーナ会長の許可を得た上で礼司さんと携帯端末で協議する。

 孤児院に大軍で攻め込んだものの返り討ちにされた上に二本目のエクスカリバーも奪われた事で次はコカビエルが直々に来る可能性が高い為に、礼司さんが孤児院から動くに動けなくなったからだ。その際、礼司さんから自分は教会の上層部の命によって今後のエクスカリバーの奪還に関しては手を出せなくなり、後はイリナと同行者一名が引き継ぐ事になった事を伝えられた。そこで、礼司さん同様に礼司さんの養子である事から動けなくなってしまった薫君とカノンちゃんに代わって、これを機に孤児院を出て瑞貴と同居する事にした為に僕達と行動を共にしても何ら問題がないセタンタを礼司さん達の代役とする事が決まり、今後の探索は僕と瑞貴、祐斗、そしてセタンタの四人で動く事になった。

 この協議結果をリアス部長に報告する為、レイヴェルと聖剣探索の担当者である瑞貴を伴ってオカ研の部室に向かうと、イリナが緑のメッシュが入った青い髪の少女と共にリアス部長の元を訪れていた。それと共にイリナの腕に巻かれた紐とイリナの同行者が持っている、布に包まれてはいるが明らかに剣である事が解る物が三本、それらから強力な聖なる波動を感じ取っていた。同行者の持つ物については、おそらくはあの布で気配遮断をしているのだろうが、それでも僕はそのオーラの存在を確かに感じ取っている。しかも、そのオーラの波動からは何処か懐かしさを感じた。すると、ドライグが突如、僕にしか聞こえない様に精神感応で語りかけて来る。

 

《相棒、お前の想像通りだ。あの女達が持っているのは、間違いなくオリジナルの欠片を使って複製されたエクスカリバーだ。しかも極僅かだが、俺のオーラと共鳴している》

 

〈……どういう事だ?〉

 

 僕も精神感応でドライグに確認すると、予想外な答えが返ってきた。

 

《どうやらカリスと共に居続けた事で、俺はエクスカリバーとも繋がりを確立したらしい。この分では、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現した状態であのエクスカリバーを掴めば》

 

〈エクスカリバーの欠片に宿る星の力が、アーサー王の後継者である僕の元に来る。……そういう事なのか?〉

 

《でなければ、エクスカリバーから発せられる神聖なオーラが俺のオーラと共鳴した理由が説明できん。……この分だと、エクスカリバーの完全復活はそう遠くなさそうだぞ?》

 

 ドライグはそう言うが、こちらには教会側にはけして知られてはならないカリスの事がある。……どうやらタイミングが少々悪いらしい。随分と困った事になった様だ。

 

「イッセー、武藤神父との協議が終わったのね」

 

 僕が部室に入ってきたのに気づいたリアス部長が、僕に話しかけて来る。

 

「はい。武藤神父の話では、エクスカリバーの奪還は本来の担当者二名に引き継がせる様に命が下ったとの事でした。また、コカビエルが出陣する恐れもある事から孤児院を離れられなくなった為、今後は孤児院を出る事になったセタンタ・マク・コノルを駒王町防衛の協力者として供出するので、彼と協力して事に当たって頂きたいとの要望がありました。ですが我が君(マイ・ロード)、何故グレモリー家の管理地であるこの駒王学園に今頃になって天界の関係者、しかも聖剣を与えられる程の悪魔祓いが訪れているのですか? ……まさかとは思いますが」

 

 僕は十一駒の兵士(イレヴン)として、部長に二人の要件を尋ねる事にした。流石に決別した昨日の今日でイリナには話しかけづらいし、もう一人も明らかに僕を睨んでいる。イリナから僕との間にあった事を聞いているのだろう。イリナの為に怒れる彼女は、きっと任務の同行者というよりは友達なのだろう。それに気づいた僕は、密かに安堵していた。

 

 ……今のイリナには、涙を拭ってくれる誰かがついていたのだから。

 

 そのような事を考えていた所に、リアス部長が僕の問い掛けに答えてくれた。

 

「安心しなさい、イッセー。彼女達、紫藤イリナとゼノヴィアは両者共に現状を知っているわ。だから、この街における活動許可を求めに来ただけよ。流石にコカビエルから命を狙われている私達に不干渉を申し入れる程、周りが見えていないという事はなかったわ。……それと、武藤神父が申し入れた監視役の件もそのまま引き継ぐそうだから、貴方と祐斗、そして武藤君の三人が引き続き彼女達の監視役に就きなさい。後、セタンタ・マク・コノルといったかしら? 彼については、イッセーに一任するわ」

 

 リアス部長の返答を聞いた僕は、即座に考えをまとめてからその場で進言する。

 

「承知しました。ではお二人には、武藤礼司神父からの指名で監視役に任じられていた木場祐斗と武藤瑞貴の両名を同行させる事に致しましょう。また、セタンタについては私と組んで別行動を取る事に致しますが、それでよろしいでしょうか?」

 

 僕がリアス部長に確認を取ると、リアス部長は一つだけ気になる事があるらしく僕に質問してきた。

 

「一つだけ、いいかしら? そのセタンタという人物の力量はイッセーから見てどうかしら?」

 

 このリアス部長の懸念から来る疑問は尤もだろう。僕は自分の見立てをリアス部長に伝える。

 

「「剣帝(ソード・マスター)」を「騎士」としての師と仰ぐ様になって以降、急速に腕を上げた祐斗、そして同じくここ最近の成長が著しい元士郎とほぼ互角、とだけ申し上げておきましょう」

 

 それを聞いたリアス部長は感嘆の声を上げた。

 

「今や、女王(クィーン)である朱乃はおろか私やレイヴェルさえも完全に超えて、駒王学園内でも貴方と武藤君に次ぐ実力を持っている祐斗と互角、か。凄いわね、その子。それに、ソーナの兵士(ポーン)である匙君は神器(セイクリッド・ギア)の能力が特殊である関係上、貴方が直接指導していたと聞いていたけど、そこまで強くなっていたのね。それにしても、貴方と歴代の赤龍帝は別にしても、貴方の義妹(いもうと)のはやてちゃんといい、武藤神父や武藤君を始めとする孤児院の関係者といい、貴方が関わる人は元から凄いか、貴方を切っ掛けとして凄くなっていくかのどちらかね。……これが、強きを引き寄せるドラゴンの性なのかしら?」

 

 リアス部長は、最後の方は明らかに溜息交じりで話していた。……心当たりが余りにもあり過ぎて、反論の余地がまるでない。僕はただ苦笑いするしかなかった。

 僕がリアス部長とそうしたやり取りをしていると、イリナの同行者から質問された。

 

「そちらのイリナの幼馴染に一つ訊きたい事が有る。以前君の家でも思った事なのだが、君は主を信仰しているのか?」

 

 その質問には少々驚いた。僕は彼女にその真意を確認する。

 

「何故その様な事を?」

 

「悪魔である筈の君からは信仰の、いや主や天使様のお力の気配が感じられる。本来ならけして有り得ない事だ。だから気になってね」

 

 彼女の返答に対して、僕はどういう事なのか理解できた。どうやら悪魔祓いという事で、そういった類の気配には敏感らしい。

 

 ……要は、嘘さえ吐かなければいい。

 

 そう判断して、情報を一部公開する。

 

「私自身は十字教の信徒という訳ではございません。ただ、歴代の赤龍帝の中に悪魔祓いの方がおられ、私の精神的な指標となって頂いているのと、神や天使の力を借りて発動する神聖魔術が扱えるので、そう感じられたのでしょう。尤も、悪魔となった今では、神聖魔法を行使するに当たって反動が余りに大き過ぎて命懸けとなってしまうのですが」

 

 僕の答えを聞いたゼノヴィア女史は、僅かに驚いた後で僕を惜しむ様な事を言い出した。

 

「今、歴代の赤龍帝と言ったな。リアス・グレモリーの言葉にもその言葉が出ていたが、まさか君は今代の赤龍帝なのか? ……惜しいな。そもそも神聖魔術を扱える人間など、もはや教会にすら存在していないよ。もし人間だった時にこちらに来ていれば、さぞ歓迎されていただろうに」

 

『そして相棒は親を人質に取られて、天界や教会に使い潰される訳だな。あらゆる存在と真摯に向き合う事のできる相棒を受け入れられるだけの器が、己が身惜しさに信徒を切り捨て続ける今の天界や教会にあると思うか?』

 

 すると、ゼノヴィア女史の言葉を聞いたドライグが突如話しかけて来た。突如掛けられた声に、ゼノヴィア女史が反応する。

 

「誰だ!」

 

『とりあえず名乗っておこうか。赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグだ。しかし相棒、コイツらの力を一度確認した方が良くないか? 尤も、俺にはコイツらが相棒の足を引っ張る姿しか想像できんのだがな』

 

 名乗りを上げた後に為されたドライグからの提案に、僕は必要性を見出していた。……彼女達、特にイリナには申し訳ないが、力量だけで言えば対策メンバーとの差がかなり大きい為、彼女達が足を引っ張る可能性がかなり高い。

 

「それも一理あるか。ゼノヴィア女史。この際ですので、一度模擬戦でもやってみましょう。もしお二人が力不足であれば私達だけでコカビエル達に当たり、回収したエクスカリバーをそちらにお渡ししましょう。それで後はお互いに口を閉ざしてしまえば、角が立つことはないかと」

 

 僕の言葉に対して、ゼノヴィア女史は鋭い殺気を放っていた。

 

「貴様、私を侮辱しているのか? まだ悪魔に成り立てなのだろう?」

 

 しかし、その割には錬度がまるで足りない。現に僕だけに殺気をぶつければいいものを、周りの皆にまで漏らしてしまっていた。可哀そうに、まだ耐性のないアーシアは殺気を受けて怖がっている。

 

「侮辱はしておりません。むしろ逆でしょう。侮辱しているのは……」

 

 だから、相手の初動を捉える事もできず。

 

「其方の方だ」

 

 ……こうもあっさりと後ろを取られる。

 僕はそのままゼノヴィア女史の頭に軽く手刀を落とした。僕に頭を叩かれた彼女は急いで振り返り、驚愕の表情でこちらを見ている。僕は言葉使いをガラリと変えて、ゼノヴィア女史に警告する。

 

「ゼノヴィア女史、これで貴女は一度死んでいる。確かに、私は人の身を捨ててから二月も経たない未熟者だ。しかし、赤龍帝としては覚醒してから既に十年以上経っている。だから、あえて言っておこう。……神話の存在を、そして赤龍帝を舐めるな」

 

 そして一瞬、ゼノヴィア女史だけに本気の殺気をぶつける。ゼノヴィア女史は腰を抜かす所まではいかなかったが、明らかに体が震えていた。しかし、気丈にも言葉を重ねていく。

 

「参ったね。納得したよ。確かに、君は私達とは明らかに別格だ。ここまで力の差があるのでは、赤い龍から足手纏いと懸念されても仕方がないか。それと赤い龍から提案された模擬戦だが、承知しよう。ここで私達の力を君に見せておかないと、本当に戦力外通告を食らいそうだからね。イリナもそれでいいな?」

 

 ゼノヴィア女史から意志を確認されたイリナは、少々元気なさげな声で返答した。

 

「そうね。如何に赤龍帝であっても、悪魔である一誠君にオンブにダッコなんて、悪魔祓いとして恥ずかしいもの」

 

 イリナの同意も得られた事で、力試しの模擬戦を行う事が決まった。……ただ、イリナはまだ僕の事を完全には割り切れていない様だ。しかし、それも当然だろう。何せ、散々泣いた事で随分マシにはなったが、僕自身もけして割り切れた訳ではないのだから。

 

 ……流石に、たった一日で完全に割り切るのはお互いに無理だった。

 

《パパ、大丈夫? 何だか、少し辛そうだよ?》

 

 僕の精神世界にいるアウラの心配そうな声に対して、僕は下手に隠し事をしない様に気をつけながら応える。

 

〈心配いらないよ、アウラ。少し辛いのも確かだけど、これくらいなら僕はまだ耐えられるから。……ただ、恋を思い出にする為の時間がもう少しだけ欲しいかな?〉

 

 すると、アウラは頷く事で僕の言葉を受け入れてくれた。

 

《ウン、解った。パパ、あまり無理しないでね?》

 

 そう言いながら、アウラが大人しく退いてくれた事に、僕は安堵した。……だからこそ、僕は油断してしまった。

 

 まさか、暫くした後でアウラがあの様な爆弾発言を繰り出して来るとは思いもしなかったのだから。

 




いかがだったでしょうか?

因みにアウラ視点における顔見知りの女性陣の立ち位置は次のようになっています。
なお、一誠の母についてはそのまま「お婆ちゃん」なので、対象から外します。

既にパパの隣で一緒に歩いてる人:はやて(パパの妹なので例外的に「お姉ちゃん」)
パパの隣にいてもいい人:ソーナ(本能的にソーナの現状を理解)、レイヴェル
パパより年上でパパと親しい人:フェニックス夫人(ライザー・レイヴェルの母)
(ここから上が「小母ちゃん」、ここより下が「お姉ちゃん」)
パパの隣にいようとして、いっぱい頑張ってる人:リアス(あと一息で次に昇格)
パパに守ってもらってる人:上記五名以外

番外
良く知らない人:グレイフィア(「さん」付け)

イリナについては後ほど。

では、また次の話でお会いしましょう。
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