赤き覇を超えて   作:h995

56 / 125
2018.12.2 修正


第十五話 智は剣を生じて、なお剣より強し

 ドライグからゼノヴィア女史とイリナの実力を不安視する意見が出され、それならという事で実力を確認する為の模擬戦を提案した。そして、二人が共にそれを承知した為、旧校舎の裏庭で模擬戦を行う事になった。まだ夕暮れ時ではあったが、旧校舎付近は登録者以外の興味を薄れさせる結界が張ってある事もあって、人影が全くない。これなら問題はないだろう。なお、こちら側の代表の指名権は既にリアス部長から預かっており、イリナとゼノヴィア女史が僕達から距離を置いて纏っていた外套を脱いで対峙した。

 ……余談だが、シスター服をベースにノースリーブとミニスカートに改造し、その下からスパッツを穿く事で動きやすい様に改造したイリナの戦闘服はともかく、体形がはっきり解る様なゼノヴィア女史の戦闘服は貞淑を旨とする筈のカトリック教徒として正直どうなのかと思うのは、果たして僕だけなのだろうか? それはさておき、向こうの準備が整ったと見た僕は早速模擬戦に出る人物を指名する。

 

「対等になる様に、こちらからも二名出す。流石に私は出ないが、グレモリー・シトリー両眷属内でも私に次ぐ実力者だ。瑞貴、祐斗」

 

 僕に指名された二人は快諾してくれた。

 

「了解したよ、一誠」

 

「解ったよ、イッセー君」

 

 そして、僕は念の為に祐斗に声を掛けておく。

 

「それから、祐斗」

 

 しかし、それを遮って祐斗は答えを返して来た。

 

「僕はもう大丈夫だよ、イッセー君。君のお陰で「家族」の遺志を受け取れたし、僕が一人ぼっちなんかじゃない事を実感した今、僕はもう憎しみにも後悔にも溺れたりはしない。それは、君も十分解っているんじゃないかな?」

 

「……そうか、そうだな」

 

 祐斗の穏やかな、そして仮面ではない本物の表情を見て、僕は祐斗はもう大丈夫だと確信した。そして、二人は模擬戦を行う為に僕達から離れていった。

 

 

 

Interlude

 

 模擬戦に向かう瑞貴と祐斗の間では、ちょっとした会話が交わされていた。

 

「祐斗、君はもう大丈夫みたいだね」

 

 先程の一誠とのやり取りを見て、瑞貴は祐斗はもう完全に復讐と後悔の念から解放されている事を理解した。一方、祐斗の方も兄貴分と言っても良い瑞貴に対して、自分の事で心配させていた事を謝罪する。

 

「ご心配をお掛けしてしまったみたいで、すみませんでした」

 

 その祐斗からの謝罪に対して、瑞貴は祐斗に気にしない様に伝えた。

 

「気にしなくてもいいよ。それに、あの計画で苦難を共にした君もまた、僕にとっては弟みたいなものだからね。むしろ、もっと積極的に頼ってくれた方が僕も嬉しいかな?」

 

 生き残った「家族」の中では最年長であり、更に騎士(ナイト)の眷属悪魔としても剣士としても自分の先を行く瑞貴の言葉を祐斗は素直に受け取る。

 

「……えぇ。いざという時には、頼りにさせてもらいます。ですが、今は」

 

 祐斗の促すような言葉に、瑞貴は軽く頷いて同意した。そして、聖剣使いの二人に対してそれぞれ抱いている懸念材料を元にお互いの担当する相手を決めた後、祐斗に模擬戦の勝ち方を指示する。

 

「あぁ、まずは目の前の事から片付けようか。確かゼノヴィアといったかな、髪にメッシュを入れている子は。彼女には少々キツイ灸を据えないといけないね。このままだと、我彼の力量差を理解できずに自滅しかねない。それに、イリナの方もアレはアレでかなり危ういな。……イリナについては、顔見知りである僕が担当する。だから、祐斗は残ったゼノヴィア女史の方を頼む。できれば、エクスカリバーの能力を使わせた上で完封してくれ。そうする事で、向こうの頭も多少は冷えるだろう」

 

 かなり困難な指示である筈だが、祐斗は一切の気負いなく承知した。

 

「わかりました。こちらは任せて下さい」

 

 そして、二人はお互いが担当する相手の前に立った。

 

Interlude end

 

 

 

 裏庭に到着した僕達は早速模擬戦を行う事にし、選出された瑞貴と祐斗が前に出た。瑞貴の方については全く問題ないだろう。こう言うと二人には申し訳ないが、たとえ一対二でも瞬殺で終わる。それくらいに隔絶した力量差が現実として存在しているのだ。だから、瑞貴はイリナに怪我一つ負わせずに終わらせるだろう。問題は間違いなく、双方共に殺傷力の高いこちらだ。

 

「一応、名前を聞いておこうか?」

 

 ゼノヴィア女史は自分の前に立った祐斗に対して名を尋ねた。

 

「僕はリアス・グレモリー様の騎士(ナイト)、木場祐斗。……君達の先輩だよ。瑞貴さんと同様、「失敗作」の烙印を押されたけどね」

 

 それに対する祐斗の告白に、ゼノヴィア女史は目を見開く。

 

「まさか、聖剣計画の被験者が二人も悪魔の眷属となっていたとはな。しかも、その内の一人が私達聖剣使いの中でも最強の一人との呼び声も高かった「水氷の聖剣使い」。……やはり君達は復讐を望んでいるのか?」

 

 ゼノヴィア女史からの問いに、祐斗ははっきりと答えた。

 

「当然じゃないか。僕達を弄んだ張本人に対しては、その行いに対する報いを与える。部長のお陰で所在が解ったから、もう遠慮する必要もなくなったしね。でも、僕の復讐はそこで終わりさ。それ以上は踏み込むつもりなんてないよ。瑞貴さんに至っては、一緒に生き残って兄弟となった「家族」を守る方がずっと大事だって言っていたしね」

 

 その祐斗の言葉に、ゼノヴィア女史は完全に呆気に取られている。

 

「てっきり、エクスカリバーを全て破壊するつもりだと思っていたんだがな。赤龍帝を見誤った事といい、君達の事といい、今日の私はトコトン目が曇っている様だ」

 

 ゼノヴィア女史の自嘲に対して、祐斗は苦笑いを浮かべながらここ最近の心情の変化について語り始めた。

 

「つい十日程前なら、僕については確かに君の言う通りだったよ。でも、今は違う。最高の親友がその身を張って、僕達の家族の想いと真実を伝えてくれたんだ。彼等の願いは生き残った僕達が彼等の復讐をする事じゃなく、彼等の分まで幸せになる事だった。それに、世界の全てから見放されたあの時、最後まで手を伸ばし続けてくれた恩人が二人もいた事を教えられた。その人達もまた、かろうじて助ける事のできた僕達の幸せを心から願っている。……だから、僕は踏み止まれたんだ」

 

 祐斗の話を聞聞き終えたゼノヴィア女史は深く溜息を吐く。

 

「確か、兵藤一誠だったか。イリナが何故あれ程幼馴染の事を気に懸けていたのか、よく分かったよ。……惜しい、本当に惜しいな。憎悪に満ちて復讐に逸る心を優しく溶かした、篤き仁愛の心。主の教えを伝え広める神職者として、彼の在り方は誰よりも相応しかっただろうに」

 

 そう言ってからチラリとイリナ達の方を確認したゼノヴィア女史は表情を真剣なものへと変えた。

 

「さて、お話はここまでだ。向こうも始めた様だし、私達も始めよう」

 

 ゼノヴィア女史はそう言って、手持ちのエクスカリバーの中でも特に巨大な大剣-おそらくは破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)だろう-を構えた。その一方、イリナは懸命に聖剣-時折、距離に応じてナイフやレイピア、更には鞭剣と形状を変えている事から擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)-を振るって瑞貴に猛攻を仕掛けている。しかし、瑞貴の表情は涼しげで危なげなく捌いている事から、どちらが優勢なのかは誰が見ても明らかだった。

 

「そうだね。エクスカリバーを携える事を許された君の力、試させてもらおうか」

 

 それ等を確認した祐斗は、一本の魔剣を創り出すと右手に取って構える。

 

「んっ? その魔剣、取り出したというよりは、創り出した感じだな。……という事は、君の神器(セイクリッド・ギア)はかなりレアな魔剣創造(ソード・バース)か。全く。どうやら聖剣計画の関係者の目は揃って、……と言ってしまうと真面目に指導教官を務めようとした武藤神父に失礼か。とにかく目が節穴な連中が大半だったらしい」

 

 一見して祐斗の神器の特性を見抜いたゼノヴィア女史に、祐斗は感心していた。……流石に魔剣()創れる所までしか解らなかったのは、仕方がないだろう。

 

「へぇ。これは僕も少々見縊っていたかな? じゃあ、行くぞ!」

 

 その声を発してから一秒も経たない内に、祐斗はゼノヴィア女史の懐に入り込む。

 

「なっ!」

 

 ゼノヴィア女史はおそらく想定外であろう祐斗の速さと「起こり」の小ささに驚き、慌てて破壊の聖剣で受け止めた。初撃を止められた祐斗は鍔迫り合いを演じながら、ゼノヴィア女史を評価していく。

 

「成る程、動体視力と反射速度については及第点と言ったところかな? 尤も、これぐらいの攻撃に反応できない様じゃ、聖剣使いの名が泣くけどね。じゃあ、次は連撃への対応から純粋な剣の腕前を確かめるとしようか」

 

 祐斗はそう言うと鍔迫り合いを止めて、以前とは比べ物にならない程の鋭さと重さを兼ね備えた斬撃を連続で繰り出し始めた。丁寧にも時折攻撃のテンポを変えて緩急すらつけている。

 

「グゥッ! 何だ、この細身に反した圧倒的な攻撃の重さは! それこそ、私の様なパワータイプの威力じゃないか! しかも剣の鋭さもスピードも、さっきより更に上がっているだと! ……一体、何がどうなっている!」

 

 ゼノヴィア女史は明らかに後手に回っていた。彼女も何とか打ち返そうとするも、正に動き出そうとした瞬間に合わせて斬撃が飛んで来るので、躱す事も切り返す事もできずに破壊の聖剣の頑丈さに頼って受け止めるのでやっとだった。それでも何とか対応できている以上、少なくとも攻撃の重さも鋭さも足らない上に今のスピードが全力だった以前の祐斗ではまず敵わなかっただろう。祐斗もそれは解っている様で、少し感心した様な面持ちでゼノヴィア女史に語り掛ける。

 

「へぇ。思っていた以上に中々やるね。剣の技量も以前の僕よりは数段上ってところかな? じゃあ、ギアを一つ上げても大丈夫だね。因みに、今ので大体三割くらいだから、次で五割に届くかな?」

 

 ……まぁ彼女の剣士としての実力を見る限り、今の祐斗が全速で行けばおそらく一分未満で片が付く。だから、その辺りが彼女の力試しという意味では妥当なところだろう。しかし、それを聞いて驚愕したのはゼノヴィア女史だ。

 

「な、何だと! このスピードで三割程度だというのか! だが、それ以上に気になるのは君が振るう魔剣の強度だ。普通ならこれだけこのエクスカリバーと打ち合っていれば、魔剣創造で作った脆い魔剣の方が耐えられない筈。……なのに、その魔剣は何故折れるどころかヒビ一つ入ってない!」

 

 ここでタネ明かしをすると、実はあの魔剣、「剣の王」創造の為の試金石として作った記念すべき第一作目で、単に「魔」の力を宿しただけという魔剣創造の基礎中の基礎の魔剣を百本凝縮した「百魔の豪剣(ハンドレッド・イーヴィル)」だ。

 だが、侮るなかれ。この時点で既に伝説級でも最上位の業物とすら、ある程度は撃ち合える程になっている。その証拠に、僕の真聖剣はおろかレオンハルト卿やリヒトの本気の斬撃にすら一度だけだが耐えている。因みに、二人が本気で剣を振るうとそこらの二束三文の鉄剣でも山を斬る事ができるのを踏まえると、どうかすると複製品なら百魔の豪剣でもへし折る事ができるかもしれない。

 しかし、その事実を知らないゼノヴィア女史は完全に混乱状態に陥っている。

 

「……だが、舐めるな!」

 

 ゼノヴィア女史は初動に合わせて繰り出される祐斗の斬撃に四苦八苦しながらも、どうにかパワーで押し切って強引に破壊の聖剣を振り下ろした。祐斗は自身の腕力が弱い事から攻撃を受け止める愚を嫌い、間合いを取りながら余裕を持って避ける。すると、破壊の聖剣を振り下ろした地面に大きなクレーターが出来た。

 

「これは中々大した破壊力だね。これだけの力を持つエクスカリバーを全て破壊するなんて、修羅の道も良い所だったよ」

 

 祐斗は復讐に溺れていた自分の無謀さを顧みて、苦笑いだ。

 

「この破壊の聖剣は、七本のエクスカリバーの中でも破壊力に特化したものだ。幾ら模擬戦とはいえ、まともに食らえば唯では済まんぞ」

 

 ゼノヴィア女史は自身の持つ聖剣について解説する。

 

「まぁ、確かにそうだね」

 

 祐斗もその事実を認めた。……尤も、その破壊力を生み出しているのはあくまで剣から発せられている破壊の波動であり、彼女自身の力という訳ではない。何より、その破壊の波動の源は核として使われているエクスカリバーの欠片から供給されている聖なるオーラである事に気づけば、あの破壊力を無効化するのは案外容易い。

 祐斗もその点については気付いており、対策も既に考え付いていたらしい。暫く考えると、持っていた魔剣を別の物へと切り替えた。外見上はかなりの重量を持つ大剣型の破壊の聖剣をも二回り近く上回る代物で、祐斗が本来得意とする戦い方には向いていない。

 

「如何に魔剣創造とて、この破壊力は止められんぞ!」

 

 祐斗の武器変更を見たゼノヴィア女史は、それに構う事なく果敢に攻めかかる。

 

「それはどうだろうね?」

 

 祐斗は真っ向から迎え撃つつもりの様だ。……そうゼノヴィア女史は考えているのだろう。そして、祐斗の魔剣とゼノヴィア女史の破壊の聖剣が真っ向から激突した。

 

「……何故だ、何故破壊されていない! いや、破壊の波動が生じていないのか!」

 

 ゼノヴィア女史は驚きを隠せないでいる。祐斗が創造した大剣をへし折るつもりだった彼女にとって、完全に想定外の結果に終わったからだ。そして振り下ろす構えから一歩横にずれて大剣の剣先を地面に突き刺し、左手と体全体を使って支える事で防御の構えに切り替えて攻撃を受け止めた所を、再び取り出した百魔の豪剣を右手に持ってゼノヴィア女史の首元に剣先を突き付けた祐斗がタネ明かしを始める。

 

「破壊の聖剣を止めている大剣型の魔剣は、吸力剣(フォース・アブゾーバー)。あらゆる種類の「力」を吸収する能力を持っていて、エクスカリバーの欠片から供給されている聖なるオーラも当然対象に入っているよ。僕が重量級の大剣を創ったのを見て、破壊力に破壊力で対抗するつもりだと君は考えたんだろうけど、実際は盾として使う為と容量的にこれぐらいの大きさでないとオーラを吸収し切れないと踏んだからだよ。実際、もう少しオーラが多かったらオーバーフローで自己崩壊していたのだから、僕としては見立てが正しくてホッとしたけどね」

 

 実はこの十日間程、祐斗には剣に付属させる能力について、色々とアドバイスしながら試してもらっていた。その結果、主に白魔術や神聖魔術に近い系統の能力は聖剣、黒魔術や呪術に近い系統の能力は魔剣と、系統によって相性の差が出る事が解った。そして、剣としては格上の聖魔剣では、能力の出力上限が高い代わりに「聖」や「魔」の色合いが殊更に強い特性は持たせられない事も判明した。因みに、今回使用した吸力剣は能力の特性が「魔」に酷く偏っている為、魔剣でのみ使用可能だ。また、通常の大きさでも創る事ができる。

 

「だから接触した瞬間にオーラを根こそぎ吸収された事で、それを源とする破壊の波動が殆ど発生せずに持ち味である破壊力が失われた。そうなれば、後は剣が元々持ち合わせている強度と重量による純粋な耐久力での勝負になる。更にこっちはエクスカリバーのオーラを根こそぎ吸収した事で、強度が著しく上乗せされているんだ。これだけの好条件がこちらに揃っていれば、後はご覧の通りという訳さ」

 

 そう、全ては祐斗の作戦通りだった。ゼノヴィア女史は破壊の聖剣を手放して、両手を挙げて降参する。

 

「……私の負けだな。敗因は、戦い方に合わない筈の大剣を創り出したのを見て、策と誘いの可能性を疑わずに君を見縊った事か」

 

 こちらの戦いが終わったので瑞貴とイリナの方を見てみると、広げた両腕と肩に巻き付いた氷によって動きを完全に拘束されたイリナと、イリナから取り上げた擬態の聖剣を手に携えた瑞貴の姿があった。因みに僕の予想通り、双方共に無傷だ。

 

「一誠、こっちも終わったよ。……まぁ、イリナの上達具合を確認した後は氷成る蛇で両腕を拘束、首に剣を突き付けて即終了だったけどね」

 

 涼しげにそう語る瑞貴とは対照的に、イリナはガックリと肩を落とし頭も項垂れている。……全く勝負になっていなかったのだろうから、無理もない。

 やがて祐斗とゼノヴィア女史の勝負が終わったのを確認した瑞貴は、イリナの拘束を解いて擬態の聖剣を返すとこちらに一足先に戻ってきた。そして少し考え込んでから、僕にイリナに関する報告を始める。

 

「一誠、まずはイリナについて報告がある。対峙して少し剣を合わせたから解ったけど、僕が最後に会った数ヶ月前に比べて、イリナの力が大幅に低下している。特に神秘に対する抵抗力に至っては、おそらくだけど常人以下だ。これでは、通常なら耐え切れる筈の攻撃ですら致命傷になりかねないよ」

 

 それを聞いた僕は、正直言って訳が解らなかった。

 

 ……一体、公園で僕と別れてから何があったのだろうか?

 

 僕の困惑が解ったのだろう、瑞貴は僕にしか聞こえない様に小声で詳細を伝えてきた。

 

「しかもここだけの話、以前君が渡したレイヴェルトの波動をイリナから全く感じられない。それどころか、イリナではなく支取会長からレイヴェルトの波動を感じられるんだ。製作者である君ならその気になればすぐに解ると思うけど、念の為に確認してみてくれ」

 

 この瑞貴の報告を聞いて真っ先に思ったのは、イリナがレイヴェルトをソーナ会長に譲渡した、という事だった。確かに、双方の同意があった上でレイヴェルトに宿っているゾーラドラゴンに認められれば、レイヴェルトの譲渡は可能だ。実際、イリナにレイヴェルトを渡した時も、ゾーラドラゴンとのやり取りがイリナの精神世界で行われていた筈だった。

 ……ただ、()(どう)(りき)を扱えない者に譲渡する場合、己の魔動力のほぼ全てを媒体とした上にそれを切っ掛けとして譲渡対象が魔動力に覚醒しないと譲渡する事ができない。その意味では、ソーナ会長はまだ気づいていないだけで、本来なら魂の位階が人間より上位である悪魔でしかも純粋種でありながら、魂の力としては原始的である魔動力に目覚めた事になる。一方、イリナは譲渡の代償として魔動力が著しく低下しているので、戦闘能力が著しく弱体化する上に神秘に対する抵抗力に至っては常人以下にまで衰えているのだろう。それでも、イリナがそこまでしてソーナ会長にレイヴェルトを譲渡する理由が、僕にはどうしても解らなかった。そもそも、二人の接点が何処にあったのか、それすらさっぱりだ。

 そんな事を考えていると、瑞貴は僕の考察を遮る様にイリナに関する提案をしてきた。

 

「だから、イリナの監視役には剣と魔法の両方を使える君が就くべきだ。セタンタとは、君の代わりに僕が組む。君の一の舎弟であると豪語するセタンタも、流石に孤児院での顔見知りで付き合いも長く、更に年上である僕なら指示を聞いてくれる筈だからね」

 

 確かに、瑞貴の提案は道理に適っている。イリナの神秘に対する抵抗力がほぼ皆無な上、次に相手取るのが聖剣としては異色で魔術的な要素の強い夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)である以上、イリナの同行者には自分と仲間に対する魔導系統の防御技能がどうしても必要となり、それを持っている対策メンバーは僕を除けばセタンタだけだ。しかも、セタンタはあくまで礼司さんの供出した戦力という扱いになるので監視者とはなり得ず、実質は僕一人だけだった。

 ……しかし、昨夜の決別に至った経緯を思えば、それは極力避けるべき事だった。何より、僕自身にイリナに対して割り切れていない想いがあり、それがどう転ぶのか、またそれを抑えられるのか、不安要素が余りにも多過ぎた。

 そんな僕の困惑と逡巡を読み取ったのだろう、瑞貴は僕に強い調子で言い聞かせ始める。

 

「一誠。イリナとの間で何かあった事は、二人の様子を見てすぐに解った。でもね、それを承知であえて言わせてもらうよ。……イリナの心は、今も変わらずに君の側にいる。それがどういう意味なのか、よく考えるんだ。君のその手がイリナに永遠に届かなくなる、その前に。だから、今回のイリナの監視役はあくまで君一人だけでやるんだ。解ったかい?」

 

 ……ここまで言われて、なお二の足を踏む様であれば、よほど深刻な何かがあったと言っている様なものだ。僕は瑞貴の提案を承諾した。いや、承諾するしかなかった。

 

「……解った。後でリアス部長の許可を頂いてからになるけど、瑞貴はセタンタと組んでくれ。代わりにイリナの監視役には僕が就く。それと、セタンタが張り切り過ぎない様、手綱をしっかりと握っておいてくれ」

 

 僕が提案を承諾したのを受けて、瑞貴は僕だけに聞こえる様に一言掛けてきた。

 

「承知したよ。……それと、どんな結果になったとしても、悔いだけは残さない様にね。二人の事を良く知っている僕としては、最高の結果になって欲しいとは思うけどね」

 

 そして僕の隣に立って、祐斗達がこちらに戻ってくるのを共に待つ事にした様だった。

 

 昨夜、あれ程はっきりと決別したイリナと今更向き合ったとしても、結論はもはや変わらない。……変わらない筈なのに、再び迷い始めている。

 

 そんな意志の弱い自分を、僕はただ嗤いたくなった。

 

《パパ……》

 

 だが、そんな僕を見かねたアウラがある決心を固めていた事に僕はまだ気づいていなかった。

 




いかがだったでしょうか?

祐斗の神器における剣の属性と能力の相性については、独自の解釈をしていますのでご了承ください。

因みに、原作のこの時点でも魔剣の多彩な能力を冷静に使用していれば、祐斗はエクスカリバーの破壊という本懐はともかくとしてゼノヴィアを制することはできたんじゃないのかと思われます。
……それだけ、復讐に取りつかれて冷静さを失っていた、ということかもしれません。

では、次の話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。