赤き覇を超えて   作:h995

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追記
2018.12.2 修正


第十七話 僕の道

Side:紫藤イリナ

 

 それは、正に爆弾発言だった。

 

「紫藤イリナしゃん! お、お願いしましゅ! あ、あたしの、あたしのママになって下しゃい!」

 

 その瞬間、確かに私達の時間が止まった。でも、そんな私達にはお構いなしにアウラちゃんは更にお願い事を重ねてくる。

 

「そ、それが嫌なら、せめてパパのお嫁さんになって下しゃい! お、お願いしましゅ!」

 

 それって、意味が殆ど変わらないんじゃ……?

 

 聞いた瞬間はそう思ったけど、少ししてからその本意に気づいて愕然とする。この子は、父親である一誠君さえ愛してくれたら、自分の事を無視しても一向に構わないと、そう言っていたのだ。

 そんなアウラちゃんの健気な想いが込められた願いを聞いて、私はどう応えたらいいのか解らなくなった。一方、父親である一誠君は「仕方ないな」といった感じで苦笑いを浮かべている。もし仮にアウラちゃんを無視する形で一誠君と結ばれようとしたら、一誠君は今度こそ私を拒絶するだろう。尤も、アウラちゃんを蔑ろにする気なんてこれっぽっちもないし、一誠君もそれを解った上での苦笑いだけど。

 それに、私達は昨夜はっきりとした形で決別している。そして、私はこの件が終われば悪魔祓い(エクソシスト)をやめ、その後は一誠君の夢を受け継ぐ為に「表」の学校で一から勉強し直す事を決意していた。「表」の世界の科学者を目指す私にとって、戦う為の力はもはや不要となる。だからこそ、私自身の未練を断ち切る為に著しく弱体化するのを覚悟の上で一誠君との絆の証だったレイヴェルトを()(どう)(りき)ごと盟友となったソーナに託したのだ。

 

 ……だから、本当にもう今更だった。

 

 そんな折にアウラちゃんから未練を煽る様な言葉を掛けられた私は、かなり動揺していたのをどうにかして抑え込んでから、笑顔を作ってアウラちゃんに尋ねてみる。

 

「アウラちゃん。どうして、そんな事を言い出したのかな?」

 

 すると、アウラちゃんは自分の想いを語り始めた。

 

「だ、だって。だって、パパはその時はまだ「魔」そのものだったあたしがいたせいで、イリナさんとお別れしなくちゃいけなくなって、それが凄く辛そうだったの。それなのに、パパは「悪いのは、自分の弱さから目を背けた自分だ」って言ってあたしを受け入れてくれて、今のあたしになった時には「僕の娘で大切な家族だ」って言ってくれたの。……本当なら、あたしを恨んだり憎んだりしても全然おかしくないのに。パパは自分の嫌な所も受け入れられるくらいに凄く強くて、優しくて。あたしは、そんなパパが大好きなの」

 

 一誠君は、既に完全な形で立ち直っていた。それどころか、今までよりもずっと大きく成長していた。……私という足枷がなくなったから。

 

 その事実を凄く淋しく思いながらも、私はアウラちゃんに話の続きを促す。

 

「ウン。一誠君が強くて優しい事は、私も知っているよ。それで?」

 

 私に促されたアウラちゃんは、そこで一誠君の弱さについて言及してきた。

 

「でもね、そんなパパでも弱気になったり迷ったりする事ってやっぱりあるの。今だってそう。昨日あれだけきっちりお別れしたのに、瑞貴小父ちゃんからイリナさんの心はまだパパの側にいるって言われてから、パパはまた迷ってるの。イリナさんとお別れしちゃって、ホントにいいのかって」

 

 ……えっ?

 

 私は思わず、一誠君の方を見た。一誠君は苦笑いを浮かべたまま、人差し指で頬を掻いている。アレは、一誠君が照れ臭かったり恥ずかしかったり、或いは何かを誤魔化したかったりする時、無意識に出てくる癖だ。

 

 ……という事は。

 

 私がそこまで考えると、アウラちゃんは少しずつ涙を瞳に溜めながら話を続けた。

 

「でも、パパはそれを絶対にしたらいけない、ダメな事だって思ってる。一度自分の意志でそれを選んだらけして迷ったらいけない、後悔したらいけないって。パパ、自分の行いに対する後悔や罪悪感に苦しみながら、それでも理想を現実にしようと自分の手を(けが)し続けた人達と一緒に行動してたし、その人達の事を凄く尊敬してたから。それに、その迷いが戦場では死に直結するって事を実体験で知ってたから。だから、ヴァレリア諸島で最後まで戦い抜いて、生き残る事ができた。もう嫌だって叫んでる自分の気持ちを切り棄てて、ヴァレリアの人達の為にどんなにつらい現実でもきちんと見据えて、それで皆の未来が少しでも良くなるのなら、自分にとってどんなに辛い選択肢でもそっちを選び続けてた。……報われる事なんて、少しも考えずに」

 

 ……それは、私も知っていた。一誠君からレイヴェルトを受け取った時に、私もそれを見たのだから。だからこそ、私はあの瞬間まで一誠君の事を一生愛し、そして支え続ける事を心に決めていた。でもだからこそ、あの決別でもう二度と側にはいられない。そう私は悟っていた。あの戦争を経験し、英雄と呼ぶに相応しい人達と共に戦った一誠君が、一度自分の意志で決めた事を覆す様な事はけしてしないと解っていたから。

 でも、アウラちゃんはそんな事を考えていた私から一誠君へと視線の向きを変えると、そのまま一誠君に訴え始めた。

 

「でもね、パパ。それは戦争してる時のお話しであって、今は天使も悪魔も戦争なんてしてないよ。だから、パパはいっぱい迷っていいの。それで、もし選んだのを間違えたって思ったら、やり直してもいいんだよ?」

 

 そのアウラちゃんの言葉に、一誠君はかなり動揺していた。大切な愛娘からの訴えかけに、少なからず心を動かされているのは間違いなかった。

 

「アウラ。それは……」

 

 やっとの想いで一誠君がアウラちゃんに反論しようとするけど、アウラちゃんは瞳に涙をいっぱいに溜めながら更に言葉を重ねてくる。

 

「それに、パパがあたしを幸せにしたいなら、パパだって幸せにならなきゃダメだよ。だって、あたしはパパの娘だもん。パパが幸せじゃなかったら、あたしだって幸せになれないもん」

 

 ……そうなのかもしれない。

 

 私はアウラちゃんの言葉に一理あると思った。子供が幸せになるには、親が幸せである事が絶対条件であるのは間違いないのだから。

 そして、アウラちゃんは一誠君に自分の気持ちに素直になる様に呼びかける。

 

「だから、パパ。自分の気持ちに正直になって。大好きな人に「大好き」って言ってあげて。イリナさんも、きっとそれを待ってるよ?」

 

 ……アウラちゃんは、やっぱり一誠君の娘だった。私の本心、「一誠君に愛して欲しい」という未練がましい想いを完全に見抜いていた。

 

「アウラ……」

 

 一誠君もまたどう反応していいか解らない様で、アウラちゃんの名前を呼び掛けてから何も言えなくなってしまっている。一誠君もまた、私と同じで本心を言い当てられてしまったのかもしれない。もしそうだったのなら、凄く嬉しい。

 

 ……でも、だからこそ。

 

 私は本心を押し殺しつつ、アウラちゃんを宥める様に話しかける。

 

「アウラちゃん。大好きなお父さんを困らせちゃダメよ。それにね、私にはもうお父さんと一緒にいる為に必要な力がないから、お父さんを助けてあげる事ができないの。だから、そのお願いは力のない私じゃなくて、お父さんを助けられる力を持った別の人にした方がいいと思うわ。例えばそうね、お父さんの主の一人であるソーナ・シトリーさんなら……」

 

 私がアウラちゃんのお願いに対して、私はレイヴェルトを託した盟友ソーナを推そうとした。

 

「嘘吐き!」

 

 ……けれど、その前にアウラちゃんから一喝された。

 

「あたし、解るもん! イリナさん、ホントは今でもパパの事が大好きだって! パパと一緒にいたいって思ってるって! ……それなのに。それなのに、パパもイリナさんも嘘ばっかり! 二人とも、もっと素直になってよ! お互いに「好き」って、言ってあげてよ! こんなんじゃ、パパも、イリナさんも、そしてあたしも! 幸せになんて絶対なれないよ!」

 

 ……アウラちゃんは、とうとう泣き出してしまった。

 

 私も、そして一誠君も「聖」と「魔」が対立する現実とお互いが作り上げた絆に縛られていた。更に人とそうでない者との間に在る寿命という厚い壁が立ち塞がっていた。そして、このままだとお互いに依存し合った挙句に破滅してしまうという精神状態でもあった。

 そういった事を顧みた結果、お互いの想いを押し殺せる「大人」になり切って決別した。それらの事実が、幼いアウラちゃんには耐えられなかったんだと思う。そして、アウラちゃんは一誠君に逸脱者(デヴィエーター)としての特性から、一つの事を訴えかけてきた。

 

「パパは「聖」と「魔」が共存する聖魔和合を達成したんでしょ? だから、パパの「魔」を司ってるあたしは、ドライグ小父ちゃんが間にいなくても、パパの「聖」を司るカリスお兄ちゃんと一緒にいられるんだよ。……だったら。だったら、天使と悪魔だってきっと仲良くできるよ! 他の誰でもない、パパが自分でそれを証明してるんだから! だから、だから二人とも、諦めないでよ!」

 

 アウラちゃんが私達に「諦めないで」と訴えかけた、その時だった。……一誠君の雰囲気が一変した。

 

 今にして思う。一誠君が本当の意味で「目覚めた」のは、きっとこの瞬間だったんだって。

 

Side end

 

 

 

 アウラの涙ながらの訴えかけを聞いた瞬間、僕は全てを悟った。僕が今まで重ねてきた経験や様々な人達との出逢い。その全ては、この為にあったのだと。

 

 ―― 天使と悪魔だってきっと仲良くできるよ!

 

 アウラはあくまで可能性として挙げたのだろうが、僕にはそれだけとはとても思えなかった。

 

 ……天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄。即ち、聖魔和合の成立。

 

 それこそが、世界から課せられた僕の使命だと悟ったのだ。

 

 だから、神滅具(ロンギヌス)の一つで赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)の魂と歴代赤龍帝の残留思念が宿った赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の所持者である赤龍帝に選ばれ、歴代赤龍帝の残留思念から自我を奪っていた怨念を祓う事で彼等の協力を得られる様になった。

 だから、エクスカリバーの鞘である静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)を発見して、星の意思が生み出したエクスカリバーの真なる担い手にして数多在る騎士達の王、騎士王(ナイト・オーナー)を継承した。

 だから、様々な世界を訪れ、様々な人達と出逢い、様々な経験を積んで、様々な知識や力を得てきた。

 だから、「聖」と「魔」そして「龍」の力を内包する、世界の今までのあらゆる理から外れた逸脱者となった。

 だから、人であった時の絆や繋がりはそのままに、人でなくなってからも絆や繋がりを広げ続ける事ができた。

 その全ては、天界と冥界という最も相容れない両者の手を握らせるという「聖魔和合」を成立させる上で立ち塞がる全ての困難と向き合い、そして乗り越えていく為の力を得る為。

 

 ……たった今、僕の中でやりたい事とやるべき事が完全に一致した。そして、未だかつてない程の情熱が僕の中で湧き上がってきた。

 

 ならば、やってみせよう。不可能だ、夢物語だと、笑わば笑え。その様な困難に挑む意気すらない者達の言葉や嘲笑などで、僕はけして止まりはしない。

 或いは僕に課せられた使命を不快に思い、僕の前に立ち塞がる者もいるだろう。それはそれで、大いに結構。或いは言葉を交わし、或いは戦いを通じて、僕の理想と意志を伝えると共に相手の理想と意志を受け取る。そして、それを繰り返す事で偽りなく語らい合っていくだけだ。やがて語らい合う中で分かり合えたその時には、手を取り合って共に歩んでいこう。

 僕の行く「道」は、単に力で以て相手を従わせる「覇道」には当てはまらない。かと言って、ただ和を以て相手と慣れ合うだけになりかねない「王道」とも重ならないだろう。おそらくは、未だ誰も辿った事がなく、それ故に名を付ける事すら敵わない「道」。僕が歩む事になる「道」は、きっとそういうものだ。だが、だからこそ挑む甲斐がある。

 

 ……僕の本質は、やはり「挑戦者」だった。

 

 今、ようやく「僕らしさ」を取り戻した僕は、まず僕に課せられた使命に気づかせてくれた愛娘に感謝を伝える。

 

「アウラ、ありがとう。アウラのお陰で、僕は僕の為すべき事を知る事ができたよ」

 

「……パパ?」

 

 気が付けば泣き止んでいたアウラが首を傾げる仕草がとても可愛らしくて、僕はとても微笑ましく思えた。そこでアウラの頭を撫でてあげると、アウラは凄く気持ち良さそうにしている。そして、イリナに対しては男としてかなり情けない事を頼み込んだ。

 

「イリナ。正直言ってかなり情けない上にみっともない話だけど、昨日言った事を全面撤回してもいいかな?」

 

「……一誠君?」

 

 僕の言っている事が理解し切れなかったのか、イリナもまた首を傾げている。その仕草は、何故かアウラにそっくりだった。

 ……いや、良く見るとアウラの顔立ちには幼い頃のイリナの面影も何処となくあるし、僕の心の中にイリナが強く印象づいている可能性が高いのも合わせて考えると、ひょっとしたらアウラの方がイリナに似たのかもしれない。その事実に気づいた僕は、内心苦笑しつつも今度こそ決断した。

 

 もう、迷ったりしないと。

 

 そして僕はイリナの眼をしっかりと見つめる。……自分の思いをはっきりと伝える為に。

 

「イリナ、僕はもう自分に嘘を吐くのをやめる。だから、今から言う事を聞いて欲しいんだ」

 

 そう前置きして、僕は一度深呼吸すると力強くその言葉を出した。

 

「イリナ、僕は君の事が好きだ。いや、今なら君を愛していると断言できる」

 

 僕が自らの想いを告白してからのイリナの変化は、余りにも劇的だった。その綺麗な瞳からは、見る見る内に涙が零れていく。それに加えて、己の内から溢れ出る感情が余りに強過ぎるのだろう。イリナは出すべき言葉を中々出せずにいる様だ。

 だが、流石にいきなり一緒にいられる訳ではないのも事実だ。だから、僕は今後の展望についてイリナに説明する。

 

「確かに、今はまだ一緒にはいられない。だけど、僕は自分で始めた新しい理を世界に齎す。天界と冥界との間に和平を築き、それに伴って天使と悪魔を共存共栄させる。即ち、聖魔和合。そんな天使と悪魔が手を取り合える新しい世界に、僕が必ず変えてみせる。そうすれば、僕達が添い遂げても誰にも文句を言われない。……だから、ちょっと時間がかかるかもしれないけど、その時まで僕を待っていて欲しいんだ。そして「聖魔和合」が成立した暁には、僕がイリナの元に迎えに行くよ。僕の大切なお嫁さんである君をね」

 

 世界から課せられた僕の使命、なんて格好付けては見たものの、結局はただ愛するイリナと堂々と一緒にいられるようにする為。それが、僕が聖魔和合を志す一番の理由だった。

 

 ……こんな事、これから聖魔和合を説いていく事になる相手には絶対に教えられないな。

 

 内心でそんな事を思っていると、感極まっていたイリナがやっとの思いで言葉を紡ぎ出す。

 

「……一誠君。本当に、私でいいの? 私、もう一誠君がくれたレイヴェルトはないし、戦う力も殆ど残ってないのよ? それに何十年も時間が経ったら、私はもうお婆ちゃんよ?」

 

 それは、確認の言葉だった。それを聞いた僕は、はっきりと自分の意思を伝える。

 

「僕は構わないよ。僕が愛しいのは、あくまで紫藤イリナという一人の女性であって、その子が持っている力とか年齢なんて二の次だから。……ただ、イリナが待ち切れなくなって別の形の幸せを求めたとしても、僕はそれでも構わない。何故なら、君の幸せこそが僕の一番の願いだから」

 

 僕は言いたい事は全て言ったと判断して、イリナからの返事を待った。……そして。

 

「……はい。私を一誠君のお嫁さんにして下さい。だって、一誠君の事が世界の誰よりも大好きだから。今までも、今でも。そして、これからも。だから、私、待ってる。一誠君が迎えに来るのを、ずっと待ってるよ」

 

 イリナは僕に承諾の意志を伝えると、僕の胸の中へと飛び込んでくる。そして、そのままお互いの温もりを確かめ合っていた。

 

 

 

Side:紫藤イリナ

 

 これって、夢なのかな? だって、終わったって思っていた私の初恋が実っちゃったんから。

 

「……私、これで夢が叶っちゃった」

 

 でも、これは決して夢じゃない。……だって。

 

「イリナ。その叶った夢って、一体何?」

 

 一生支えていくと、そして一生愛すると決めていた人の腕の中に、私はいるのだから。

 

「あのね。私の夢は一誠君、ううん「イッセーくんのお嫁さんになる」事。ずっと、それだけを夢見てたの」

 

 私がずっと夢見ていた事を、イッセーくんは笑顔で受け入れてくれたのだから。

 

「……そっか。だったら、後は僕が「聖魔和合」を実現させて、イリナを迎えに来るだけだね」

 

「ウン。だから、頑張ってね。イッセーくん」

 

 ……そして。

 

「「んっ……」」

 

 瞳を閉じて、その唇でお互いの温もりを確かめ合っているのから。

 

Side end

 

 

 

 お互いにキスを交わしてからゆっくりと離れていくと、アウラがニコニコ顔でこちらを見ているのに気づいた。

 

「エヘヘ。パパ、ママ。良かったね」

 

 そう言って、僕とイリナを祝福するアウラ。因みに、イリナに対しては完全に「ママ」と呼んでいる。そう言えば、イリナの方に完全に集中していて、アウラを僕の精神世界に戻すのをすっかり忘れていた。

 

 ……つまり。

 

「あうぅっ……。イッセーくん。流石に私、凄く恥ずかしい……!」

 

 イリナの顔は完全に真っ赤だ。かく言う僕の顔もきっと真っ赤だろう。何せ、愛娘の面前で告白というよりもはやプロポーズを行って、それをイリナに受け入れてもらい、果てはキスまで交わしたのだから。

 

 ……だが、まずは。

 

「アウラ、おいで」

 

「ウン! パパ、ママ! 大好き!」

 

 放っておかれた格好になったアウラを、イリナと一緒に抱き締めてやらないといけなかった。一度はお互いに断とうとした僕達の絆を繋いでくれたお礼も兼ねて。

 

 ……ただ、ここから少し離れた所で少し前からこちらを見ていた者達がいた。

 

「どうやら、上手くいったようだね」

 

 瑞貴が安堵した様に話し始めると、セタンタがそれに応じる。

 

「そうですね、瑞貴さん。空気読まずに一誠さんを不意討ちしようとしたこのアホを、一誠さん達に気づかれない様に俺が潰した甲斐があったって奴ですよ」

 

 ……実は、僕はフリードの奇襲に気づいていた。ちょうど、アウラが「嘘吐き!」と僕達を一喝した時だ。尤も、物凄いスピードと鬼の形相でセタンタが奇襲をカット、そのままフリードを連れ去ってしまったので、僕からは特に何も言わなかったのだが。

 そんなセタンタの行動を、祐斗は褒め称えていた。

 

「セタンタ君、あの時は本当にナイスフォローだったよ。アレは僕達ではおそらく間に合わなかったから尚更だね。尤も、イッセー君達と別れた直後にすぐに君がこちらと合流して、残り全員でイッセー君達の後を追おうって言い出した時には、僕も流石に驚いたけどね」

 

 ……セタンタ、後で説教だな。

 

 僕は脳内のスケジュール表に「セタンタへの説教」を書き加えた。だが、セタンタはむしろドヤ顔で馬鹿な事を言い始める。

 

「祐斗さん。今まで一誠さんと何度か一緒に行動した時の経験上、こういう時の一誠さんは恐ろしいくらいに引きが強いんですよ。だから、連中は必ず一誠さんに喰いついて来る。そう思っていたら、案の定だったって訳です。いや、一誠さんに張りついていて、マジで良かったですよ」

 

 ……セタンタ。それは情報に基づいた裏付けが必須である作戦行動において、最低最悪の判断基準だぞ。

 だが、それ以上に驚いたのが祐斗に対する言葉使いと態度だ。どうも祐斗を認めている様で、「さん」付けの上に敬語で話し、態度もまた目上の者に対して敬意を払ったものだった。

 一方、祐斗はセタンタの言い分に対してむしろ納得してしまっている。

 

「君が自ら称する「イッセー君の一の舎弟」の名前。この一件で、それがけして伊達じゃないのがよく解ったよ。……それとおめでとう、イッセー君。親友として、心から祝福するよ。ただ大変なのはこれからだろうけど、君ならきっとやり遂げられるさ」

 

 祐斗、イリナと結ばれた事を祝福してくれるのは親友としてありがたいけど、まずはセタンタの馬鹿な言動を叱ってくれ。そんな事を考えていると、瑞貴がゼノヴィア女史に話しかけていた。

 

「さて。最後に残されていた、この夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)。本来なら、早急に引き渡した上でのそちらの即刻退去がお互いにとっての最善なのだけどね」

 

 瑞貴から提示された最善の行動。しかし、ゼノヴィア女史は複雑な表情でそれを一時保留する。

 

「流石にこの状況でエクスカリバーをすぐに渡せと言い出す程、私は野暮じゃないさ。それにイリナとは結構長い付き合いだが、あれ程幸せそうな顔は初めて見たよ。……だから、赤龍帝のさっきの言動は聞かなかった事にするし、エクスカリバーの引き渡しももう少しだけ待ってやろう」

 

 このゼノヴィア女史の発言に対して、瑞貴は感謝の言葉を伝えた。

 

「ご理解頂き、誠に感謝いたします。ゼノヴィア女史」

 

 しかし、その感謝をゼノヴィア女史は素直に受け取らなかった。……実際の所、僕が聞いてもかなり意地の悪い言い方だったから無理もない。

 

「……武藤瑞貴。貴方は案外、意地が悪いのだな」

 

 そのゼノヴィア女史の一言に対して、瑞貴はただ微笑むだけで応じた。

 

 このデバガメ共、この分だと殆ど最初からこちらの事を見ていたな。だが、今はその心遣いに感謝しておこう。

 

 ……本当にありがとう、皆。

 




いかがだったでしょうか?

……今回の結末、どう受け取るかはお任せします。

では、次の話でお会いしましょう。
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