赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.2 修正


第十八話 宣戦布告

Prologue

 

 紆余曲折を経て一誠とイリナが結ばれるのを窺っていたのは、何も瑞貴達だけではなかった。その一人でシトリー眷属の兵士(ポーン)、匙元士郎は己の同行者に声を掛ける。

 

「……いいんですか?」

 

 元士郎に問われた同行者であるソーナ・シトリーは頷く事で返事とした。

 

「えぇ。少々遠回りをしましたが、結局は本来あるべき姿になった。ただ、それだけの話ですよ」

 

 そう言って微笑みながらも瞳から一粒だけ涙を零して一誠とイリナ、そしてアウラの三人を見守るソーナを見た元士郎は、その美しさに思わず見惚れた。しかし同時に、これ程までに悲しい表情を見た事がない、とも思った。

 

(……会長を泣かすんじゃねぇよ、馬鹿野郎。全てが終わったら、一発ブン殴ってやる)

 

 元士郎は、今回の一件が終われば一誠を一発殴る事を心に決めた。……それぐらいやっても、(バチ)は当たらないだろうと。

 

 十字教教会から駒王町に派遣された聖剣使いの一人であるイリナの監視役に一誠が就いたと聞いたソーナは、もう一度向き合う事になった盟友と思い人がどういう結論を出すのかを見届ける為、身の危険を承知の上で護衛役として元士郎を伴い、一誠の気配察知範囲ギリギリの距離を保ちながら密かに一誠達を追ってきていた。なお、今やシトリー眷属において、リアスとの共有眷属である一誠と実際は一誠の眷属と見なせる瑞貴を除けば自分を超えるエースといえる元士郎の協力を得る為、ソーナは元士郎に昨夜の一件の全てを伝えている。……逸脱者(デヴィエーター)という、一誠の抱える最大級の爆弾の事さえも。

 そして、一誠の愛娘であるアウラの言葉が切っ掛けで、天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄を謳う聖魔和合の成立を己の使命と見定めた一誠が己の想いを告白した上で世界を変えるまで待って欲しいと頼み、イリナがそれを了承した事で二人が結ばれたまでの一部始終を見届けたのだった。

 ……そしてこの時、ソーナは一つの大きな決断をしていた。

 

「事ここに至った以上、盟友からの預かり物を返さないといけませんね」

 

 主の言葉を耳にした元士郎はソーナに盟友について尋ねる。

 

「盟友? グレモリー先輩ですか?」

 

 元士郎からの問い掛けに、ソーナは首を横に振って答えた。

 

「違いますよ。確かにリアスは幼馴染の親友ではありますが、この場合の盟友とは少々意味合いが異なります。……そうですね。同じ思いを共有した同志、と言った方が良いでしょうか」

 

 その時のソーナの脳裏には、あの絶対不可侵の契約を交わした時の光景が思い描かれていた。

 

(次に相見えるのがいつになるか解らない以上、やるべき事を今やっておきましょう)

 

 そう決意したソーナは元士郎に声を掛ける。

 

「では、参りましょうか。つい先程、神の子を見張る者(グリゴリ)からの回答が届いたとの連絡も来ましたし、イリナには一言どうしても言ってやりたい事がありますから」

 

 そのソーナの呼び掛けに対し、元士郎は短く「はい」と応えた。そして、二人は転移用の魔方陣を展開してその上に立つと、そのまま一誠達の元へと転移していった。

 

Prologue end

 

 

 

 アウラのお陰で僕とイリナが結ばれると同時に、最後に残されていた夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)を携えていたフリード・セルゼンがセタンタによって捕縛された。これによって、無事に盗み出されたエクスカリバーの奪還作業が終了した事になる。そこで密かに僕達の事をデバガメしていた瑞貴達がしれっと知らぬ顔して僕達の所にやってきた。なお、フリード・セルゼンは氷の蔦で手足を拘束された上に猿轡までされている事から、やったのは瑞貴だろう。やがて、皆を代表して瑞貴が報告を上げてくる。

 

「一誠、まずは報告から。フリード・セルゼンと最後の一本だった夢幻の聖剣は僕達の方で回収しておいたよ。正確には、またもセタンタがやってくれたけどね」

 

 瑞貴は「僕が気づいていた」事に気づいているな。他に気づいているのは、……祐斗だけか。祐斗は口だけ動かして「ゴメン」と謝ってきた。きっとイリナを気遣ってのものだろう。だから、祐斗の気遣いに免じてこの場での追及はしないでおこう。

 

 僕が内心そう決めると、セタンタが僕に尋ねてきた。

 

「これで、向こうに残ってんのは、確かバルパー・ガリレイでしたか? 瑞貴さんや祐斗さん、カノン、ついでに薫の家族を()った下種は。それと、連中の頭であるコカビエルですね。……一誠さん。ふと思ったんですが、エクスカリバーを奪還されたコカビエルが計画を断念して、神の子を見張る者の本拠地に引き揚げる可能性ってのは考えられないんですかね?」

 

 セタンタが提示してきた憂慮についてだが、尤もな意見だ。だが、それに対する答えは問い合わせに対する回答を待たないと判断の仕様がない。さてどうしたものかと考えていると、突如この場に魔方陣が展開された。魔方陣の様式は、シトリー家。そして、魔方陣からは意外な人物が現れ、そのままセタンタに声を掛けてくる。

 

「セタンタ・マク・コノル君。その質問には、私が答えましょう」

 

 ……後ろに元士郎を伴った、ソーナ会長だった。元士郎は片手を上げてから「よう」と軽く声を上げる事で僕に対する挨拶とした。イリナやゼノヴィア女史がいたので、僕は公の呼び方でソーナ会長を呼びつつこの場にいる理由を尋ねる。

 

ご主君(マイ・キング)、何故こちらに? 身の危険があるのはご存知の筈では」

 

 すると、ソーナ会長は少々理解に苦しむ様な返答をしてきた。

 

「想いを同じくする盟友がどんな選択をするのか。それを見届けに来た、と言えば良いでしょうか。それはさておき、まずは質問の答えからですね。つい先程、私の元に冥界の魔王様から神の子を見張る者から今回の件に対する問い合わせの回答が届いたとの連絡が入りました。おそらくはリアスの元にも知らせが届いている事でしょう。それでですが……」

 

 すると、ソーナ会長が回答の内容について説明を始めようとしたタイミングで、僕の携帯端末に着信が来た。早速着信元を確かめると、相手はリアス部長だった。

 

「噂をすれば影、という事ですか。一誠君、携帯端末に出る事を許可します。それと、コノル君の質問には貴方が答えて下さい。元々は貴方に対する質問だったのを、私が割って入ってきたのですから」

 

 ソーナ会長からの許可を得た僕は、早速通話を開始する。

 

「はい、兵藤です。我が君(マイ・ロード)、どうやら神の子を見張る者からの回答が来たようですね。それで、はい……」

 

 通話先のリアス部長から神の子を見張るものからの回答を読み上げてもらい、それを速記でメモに取ると同時に脳内にも記憶していく。……以前、リアス部長が「探知」で調べた通りの内容だった。

 

「はい、承知しました。それと、こちらからもご報告が。最後のエクスカリバー、無事に回収を終了致しました。それと、我々の身を案じての事なのか、ご主君が元士郎を伴われてこちらにお越しになられています。ですので、使者殿にエクスカリバーを引き渡し次第にご主君を伴ってそちらに帰還致し、攻め寄せてくるであろうコカビエルに備えましょう。……承知致しました。では、失礼致します」

 

 僕は最後のエクスカリバーの奪還が終了した事とソーナ会長がこちらに来ている事を報告してから、リアス部長との通話を終えた。そして、ソーナ会長が頷くのを確認した上で早速神の子を見張る者からの回答をその場にいる皆に伝える。

 

「たった今、我が君からご連絡があった。神の子を見張る者に問い合わせたコカビエルの件に対する回答が届いたとの事だ。そして、セタンタ。先程の質問の答えだが、今回の一件はコカビエルの独断だ」

 

 セタンタはそこまで聞くと全てを理解したらしく、納得の表情を浮かべた。

 

「あぁ、そういう事ですか。ここでノコノコ本拠地に戻ったら、総督を始めとする首脳陣の手による粛清か厳罰のどっちかってわけですね」

 

 つまり、今回の一件は神の子を見張る者とは完全に無関係であり、独断で行動したコカビエルは軍紀違反という重罪を犯した事になる。また、これによってコカビエルが動いた時点で即座にサーゼクス様を始めとする悪魔陣営の上位陣が出陣できるようになった。

 ……それとこういうのも何なのだが、ルーン魔術を極めたり戦場を俯瞰できたりするなど、セタンタは基本的に頭の回転が速い。だが、積極的に前に踏み込もうとする勇猛果敢な気性な為に、その頭の良さを上手く活かせていない所がある。それをどう改善していくかが、セタンタの今後の課題だ。

 

「そうか! 独断で動いている以上、コカビエルにはもう後がない。それに地下に潜ったとしても、その時は三大勢力全てから追手がかかる。目的を達成しなければ生き残れないから、確実に攻めて来るという訳だね」

 

 祐斗も、実はコカビエルが背水の陣を敷いていた事に気付いた様だ。そして、面倒な事になったと言わんばかりに頭を掻きながら、元士郎もまたその裏側にあるコカビエルの意気込みについて言及してきた。

 

「……だけどなぁ。逆に言うと、今回の件は暴走した部下に担ぎ上げられただけで本意ではないとして、ここらが潮時と手打ちにする気がコカビエルには全くないって事でもあるからな。だから、向こうはお遊びなしの本気で戦争再開の為に動いているって事だし、その意味じゃむしろここからが本番だと思うぜ。なぁ一誠?」

 

 その事実を何ら気負いせずに受け止めた上で僕に確認を取ってくる元士郎に対して、僕は深く頷いて肯定した。

 

「まぁそういう事だ。お前達なら言われずとも解っているとは思うが、念の為だ。エクスカリバーが既に向こうの手元にないからと言って、ここで気を抜いたりはするなよ?」

 

 そして、僕の念押しを聞いた元士郎と祐斗、そしてセタンタの三人は頷く事で承知の旨を表した。……経験豊富な瑞貴は既に解っているし、この三人もこの分なら大丈夫だろう。後は、駒王学園に残っている他の皆の気を引き締めれば盤石となる。

 一方、こうした僕達のやり取りを黙って見守っていた瑞貴は、三人の成長を確認できた事で満足げに頷いた。

 

「ウン、上々だよ。どうやら三人とも、ちゃんと勉強はしている様だね。一誠の言いたかった事がちゃんと解っている」

 

 ただ、ゼノヴィア女史は完全に僕達の話から置いて行かれている様でかなり困惑している。

 

「何なんだ、一体? コカビエルの独断という事だけで、普通は此処まで解るものなのか? ……私にはさっぱり解らないんだが」

 

 そんなゼノヴィア女史を見たイリナは、溜息交じりで彼女に忠告し始めた。

 

「ねぇ、ゼノヴィア。貴女より頭が良いとは言えない私が言うのもちょっとおかしな話だけど、貴女はもう少し勉強しないと駄目よ。特に政治と戦略について。じゃないと、力の強さとはまるで関係のない所で敵にやられかねないわ。貴女、私より基は良いんだから、もっと積極的に頭を使ったらどうなの?」

 

 話の内容自体は理解していたイリナに促された事で、ゼノヴィア女史は勉強に勤める決心を固めた様だ。その意気込みを言葉として表した。

 

「確かにそうだな。今後は、自分でも広い視野で判断できる様に努力するよ。最終目標は、情報が殆どない状況から各教派の本部の状況をある程度察し、駒王町で私達が活動する上で最善の状況を作り上げた武藤神父か……」

 

 ……礼司さんを最終目標とは、かなり大きく出たな。僕は目標を高く掲げたゼノヴィア女史に少し感心してしまった。

 この様な雰囲気の中、ソーナ会長は一人何かを呟いていた。流石に、風の精霊に声を拾ってもらう様な無粋な真似はしなかったが。

 

「これでは、私達は実質的に一誠君を(キング)とする、いわば赤龍帝眷属ですね。……リアス。このままではそう遠くない将来、私達は揃ってお飾りの王だと言われてしまいそうですよ」

 

 ソーナ会長は少々気落ちしていたが、気を取り直すと険しい表情でイリナの元へと近づいて来た。そして右手を振り上げると、そのままイリナの頬を(はた)く。……その余りに予想外な光景に、その場にいる者が全員固まってしまった。

 

「イリナ。今の私がとった行動の意味、貴女なら解るわね?」

 

 ソーナ会長は普段の丁寧な言葉使いからガラリと変えて、イリナに自らの意図を理解しているかを確認してきた。そして、イリナは(はた)かれた頬を抑えつつ、ソーナ会長に自分の意志を伝える。

 

「……そうね。確かに、さっきの私は余りにも卑怯だったわ。だから、この一発は甘んじて受け入れないといけないわね」

 

 イリナが痛みを甘んじて受け入れる事を伝えると、ソーナ会長は険しい表情を僅かに緩めた。

 

「解っているのなら、それでいいのよ。あの様な事を言っておきながら抜け駆けしたのは、これで許してあげるわ。……それと、今回身の危険を冒してまでここに来た一番の理由は、これです」

 

 ソーナ会長は途中で普段の丁寧な言葉使いに戻した後、右手を握り拳にして親指側を左掌に押し当てるとそのままゆっくりと離していった。……もう、疑い様がなかった。あの様に完全に二人が対等になっている背景こそ未だに良く解らないが、イリナはソーナ会長にレイヴェルトを譲渡していたのだ。 

 

 ……何故なら。

 

「イリナ、貴女から預かった物を返しに来ました。これからの貴女には、これが必要となる筈ですから」

 

 ソーナ会長の手には、そのレイヴェルトが握られていたのだから。しかし、イリナは首を横に振る。

 

「……ソーナ。それはもう受け取れないの」

 

 このイリナの拒絶をソーナ会長は不可解に思い、その理由を尋ねた。因みに、僕にはその理由が解っている。

 

「何故ですか? 確かに一度は貴女から正式に受け継ぎましたが、このレイヴェルトは元々一誠君が貴女の為に作った剣の筈。……あぁ。契約の代価については、気にしなくても結構です。アレは私自身に対する誓いでもあるのですから」

 

 おそらくはレイヴェルトを代価として交わされた、イリナとソーナ会長の契約についてその内容が非常に気になる。しかし、それはひとまず置いておいて、まずはイリナの回答を聞く時だった。

 

「そうじゃないの。今のレイヴェルトには、おそらく貴女の魔力が混ざっているわ。だからもし常人以下の抵抗力しか持たない今の私がそのレイヴェルトを受け取ってしまうと、貴女の魔力に耐え切れずに「死ぬ」、というよりも魂が崩壊して「滅んで」しまう筈よ。運良く悪魔の魔力に適応して悪魔化する、なんて事もまず起こらないと思うわ」

 

 ……イリナの言った通りだ。因みに、イリナの()(どう)(りき)が健在だったならば、「死」や「滅び」には至らずに悪魔化する所で留まっていただろう。このイリナの回答を聞いたソーナ会長は、ただ愕然としていた。

 

「そんな……!」

 

 一方、当事者であるイリナは案外サバサバとしたものだった。……何故かまでは解らないが、「譲渡」した事に満足していたからだろう。

 

「きっと、アレだけ色々貴女に勝手な事を押しつけておきながら、自分の想いに負けて抜け駆けした事に対する罰が当たったのよ。それにね、レイヴェルトは今や貴女を完全に主と認めて、貴女と共に歩もうとしているわ。だから、私に遠慮しないでそのまま貴女が使ってあげて。それが、レイヴェルトとゾーラドラゴンの意志でもあるの」

 

 このイリナの言葉で、ソーナ会長は決心が着いた様だ。レイヴェルトを自分の物として使っていく事を宣言する。

 

「……解りました。このレイヴェルトは、貴女との友情の証として大切に使わせて頂きます」

 

 その宣言を聞いたイリナは満足げに頷くと、そのままソーナ会長の耳元に口を寄せてきた。

 

「ウン。あっ、それとね」

 

 そして、二人だけの会話を始めた。

 

 

 

Interlude

 

 イリナはソーナの耳元に口を寄せると、自分達以外には聞こえない程の小さな声で自らの考えをソーナに伝えた。

 

「あの契約、私は破棄したつもりはないから。たった数十年の思い出だけでイッセーくんの残りの生涯を縛り付ける程、私は傲慢じゃないつもりよ」

 

 それを聞いたソーナは、イリナが考えている事について確認を取る。

 

「……イリナ、やはり貴女は」

 

 その様なソーナに対して、イリナは改めて一誠と交わした「人としての生を全うする」という約束を果たす事を伝えた。

 

「えぇ。最期まで人であり続けるつもりだし、悪魔祓いを辞めて「表」の世界の科学者を目指すのも変わらないわ。イッセーくんもそれを望んでいると思うし。ただ、私が天寿を全うするまでは、たとえ貴女でも絶対に譲らないけどね」

 

 このイリナの挑発めいた宣言に対し、ソーナは「宣戦布告」で切り返した。

 

「……それなら、私はイリナが生きている間に必ず一誠君の心を奪い取ってみせるわ。一度はレイヴェルトと魔動力という形で想いを譲られたけど、こうして戦線復帰してきた以上はもう遠慮なんてしないわよ?」

 

 このソーナの「宣戦布告」を聞いたイリナは、むしろそれを歓迎する様に言葉を返す。

 

「望む所よ。それくらいの覇気を持つ(ヒト)でないと、私が天寿を全うした後を任せられないもの」

 

 このイリナの絶対的と言える自信に対し、ソーナは更に挑発する。

 

「せいぜい言っていなさい。必ず後悔させてあげるから」

 

 ここまで言った後、しばらく二人は険しい表情で睨み合っていた。しかし、次第にお互い表情が緩んでいき、笑い声が零れ始め、ついには声を出して笑い始めてしまった。この二人。どうやら昨夜お互いに言った通り、お互い良き友人となっている様だった。

 

 ……ソーナに向かって強力な光の槍が放たれたのは、正にその時だった。

 

Interlude end

 

 

 

「クソッ! 見境なしか!」

 

 強烈な殺気と強力な光力がソーナ会長に向けられているのを感じ取った僕は、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現すると同時にクォ・ヴァディスを抜き打ちで一閃する。それによって、ソーナ会長に向かって飛んで来ていた光の槍が完全に消滅した。その光の槍には、この周辺を更地に変えてしまう程の力が込められていた。なお、僕が光の槍を切り払うまでの一瞬で瑞貴はソーナ会長とイリナの前に立って氷の結界を展開し、それをセタンタがルーン魔術で強化、そして祐斗と元士郎はそれぞれ神器(セイクリッド・ギア)を発動して僕の両脇を固めている。

 

「ホウ? 本気ではなかったとはいえ、俺の槍を完璧に防ぎ切るか。エクスカリバーと同じオーラを放つその剣といい、中々に面白いぞ。なぁ赤龍帝?」

 

 そして、声を掛けられてから光の槍が飛んで来た方向を見上げると、そこには五対十枚の黒い翼を持った男性の堕天使がいた。その堕天使に相応しく禍々しい気配と力の強さは、レイナーレ達とは比べ物にならない。

 

 ……間違いなかった。

 

「聖書に記されし堕天使、コカビエルか」

 

 その堕天使は、僕の問い掛けに対してその通りだと肯定する。

 

「如何にも。その湧き上がる赤いオーラ、相も変わらず忌々しいな。我等の戦場を散々掻き乱した赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)の成れの果てが」

 

 そこで、僕はコカビエルに対して問い掛けてみた。

 

「何故ここに来た? 宣戦布告の時まで、拠点の奥で踏ん反り返っているとばかり思っていたが」

 

 すると、コカビエルは如何にも面白そうな表情を浮かべてながら、僕の問い掛けに応える。

 

「その言い方では、俺の目的を察しているようだな。益々面白い。……何、唯の暇潰しの余興だ。もう少し言えば、レヴィアタンの妹がここに転移したのを察知したからだな。少々痛めつけてやれば、魔王達も重い腰を上げてここに来る。そう思ったのだがな、早々上手くはいかんという事か」

 

 暇潰しの余興。そんな事の為に、この男は。僕は怒りを抑えながら、コカビエルと話を続ける。

 

「暇潰しの余興や魔王陛下に対する撒餌にしては、ここら一帯が吹き飛びそうな威力があったが? それに、仮にもフリードはお前の部下じゃないのか?」

 

 すると、コカビエルは愉快そうな笑みを浮かべて僕の問いに答えてきた。

 

「余興だよ。俺が本気を出せば、こんな街など簡単に更地に出来る。それに、そんな奴は別にどうでもいい。最初から、俺一人で十分だったからな。さて、本当ならここの管理者であるサーゼクスの妹にやるつもりだったが、セラフォルーの妹がいる上に貴様なら十分宣戦布告に値する」

 

 ここまで言い終えてから、コカビエルは僕達に対して宣戦を布告する。

 

「今から一時間後、貴様等の領土である駒王学園への侵攻を開始する。これは冥界の覇権を賭けた、我等堕天使と悪魔の戦争再開を告げる戦いだ。俺の目的は魔王の妹、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの命。死にたくなかったら、それまでに兄や姉を呼んでおけ。サーゼクスの妹にもそう伝えておくんだな」

 

 そして、コカビエルは視線を僕達からイリナ達に変えて話を続けた。

 

「それから、神に縋る教会の狗。赤龍帝の力を見物できた礼だ、エクスカリバーはそのまま貴様等にくれてやる。エクスカリバーなど、バルパーが欲しがっていたから盗ってきてやっただけだ。俺にとっては、そんな物より赤龍帝の力を見物できた事の方が遥かに価値はある。何なら、くれてやったエクスカリバーを使って、俺達の戦争に介入しても良いぞ? 何せ主犯である俺やエクスカリバーの奪取を企てたバルパーは未だに健在だ。貴様等が介入する理由には困らないだろう? 尤も、俺としては三竦みで止まっていた戦争が再開される事になって、むしろ大歓迎だがな。……では、一時間後を楽しみに待っているぞ」

 

 そこまで言って、コカビエルはフリードを置き去りにして去っていった。……フリードは、切り捨てられたのだ。

 コカビエルが立ち去ってから僕はイリナに対して、ゼノヴィア女史と共に駒王町から退去する様に伝える。

 

「イリナ、ゼノヴィア女史と共に駒王町から離れるんだ。君達の任務は達成された。もはやここにいる意味はない」

 

 イリナは致し方無しといった表情で返事した。

 

「……そうするしかないのね。でも、礼司小父さまから話は聞いていたけど、ここまでイッセーくんの推測通りだったなんて。ここまで来ると、流石にちょっと怖いかも。エクスカリバーがまだ向こうの手にあったなら、任務の一環として私達も参戦できたんだけど」

 

 イリナの発言だが、ここで僕はあえて「それは無理だ」と言い含める。

 

「仕方がないよ。ここでイリナ達が参戦してしまったら、それこそ三竦みに影響が出る。そうなったら、完全に向こうの思うツボだ」

 

 イリナもそれを理解しているので、二つ返事で受け入れた。

 

「ウン、解ってはいるの。ただ言ってみただけ。今から、イッセーくん達に迷惑を掛けない内に急いで駒王町を離れるわ。それとフリード・セルゼンだけど、このまま私達が連行するから安心して。……イッセーくん。エクスカリバーの奪還に協力してくれて、本当にありがとう」

 

 イリナは軽く微笑みながらそう言うと、悪足掻きでジタバタしているフリードに当て身を入れて気絶させた。

 

「私も一応、礼だけは言っておこう。そちらの協力に感謝する」

 

 ゼノヴィア女史もまた僕達に対して感謝の意を伝えると、そのままフリード・セルゼンを肩に担いで駒王学園とは別の方向に走っていった。おそらくは拠点とした場所へと向かったのだろう。

 

「……イッセーくん。いつか、必ず迎えに来てね。私、待ってるから」

 

 イリナは最後に笑顔でそう言うと、そのまま振り返らずにゼノヴィア女史の後を追っていった。

 

 ……負けられないな。

 

 イリナの去り際の言葉と笑顔で、僕の闘志に火が付いた。しかし、その前にまずはソーナ会長に確認を取らないといけない。僕はソーナ会長の前に跪くと、コカビエルとの戦いに対して「踏み止まる」覚悟があるのかを尋ねる。

 

「相手は聖書に記される程の大物、コカビエル。今まで経験してきた戦いとは、比べ物にならない厳しい戦いになるでしょう。ご主君。「踏み止まる」お覚悟はございますか?」

 

 僕のこの問いに対して、ソーナ会長は少々残念そうな表情で応えてきた。

 

「その言い様では、私はこの最終決戦には参戦できないようですね。確かに、非常に強力なレイヴェルトを持つとはいえ、流石に昨日の今日では使いこなせない以上、コカビエルを相手取るには余りに非力。……解りました。私は戦力外となった者達を指揮して、被害を最小限に留める為の結界構築を担当しましょう。何も、直接敵を相手取るだけが戦いではないのですから」

 

 このソーナ会長の賢明な判断を聞いた僕は安心すると共に、感謝の意を示す。

 

「ご主君。ご理解頂きました事、心より感謝致します」

 

 そしてこの場にいる他の面々に視線を向けると、僕は皆にコカビエルとの戦いに対する覚悟を確認した。

 

「予め言っておくが、お前達には最終決戦で僕と共に戦ってもらうぞ。覚悟は良いな?」

 

 すると、各々の言葉で僕の問い掛けに対する答えを返してくる。

 

「一誠、それについては愚問だよ」

 

「そうですね。僕達にとっては聖剣計画の因縁だってありますし」

 

「俺もやるぜ。でないと、お前の親友(ダチ)だって、口が裂けても言えなくなるからな」

 

「俺も一向に構いませんよ。むしろ、腕が鳴るってモンです」

 

 全員の覚悟を確認した所で、僕達はその場で解散した。僕はあのローブを取りに一度家に戻り、瑞貴とセタンタも装備を整えに一端マンションに帰った。そしてソーナ会長は祐斗と元士郎を伴って駒王学園へと戻っていった。

 

 ……古の堕天使コカビエルとの最終決戦まで、あと一時間。

 




いかがだったでしょうか?

……とりあえず、イリナとソーナは本編通りの関係で落ち着きました。
このまま行けば、海皇紀の最終回におけるヒロイン二人と同様の結末に至りそうですが、果たして……?

では、次の話でお会いしましょう。
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