赤き覇を超えて   作:h995

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ある意味で初めての原作介入となります。
ご都合主義とオリジナル要素が満載なので、苦手な方はご注意ください。

追記
2018.11.11 修正


第三話 明日を繋ぐ

Prologue

 

 時は、一誠が中学へと進学してから半年ほど経った後である。

 一誠はミスリル銀の採掘の為、現地時間の夜の時間帯を狙って転移魔法を使用し、密かにイタリア中部を訪れていた。因みに、日本においては夜明け前後の時間帯であり、一誠は随分と早起きしていた。そこまでして今回の行動に出たのは、魔導師(ウィザード)の赤龍帝であるロシウから、己以外には誰も知らないミスリル銀の鉱脈がそこにある事を教えられたからだ。

 ミスリル銀の使用目的は、いざという時の為の防具の素材とする為。ミスリル銀という素材は魔法銀という異名を持つ通り、魔法を始めとする神秘の力との相性が良く、それを用いた防具に様々な術式を施す事で単に神の金属で作られただけの物よりも高い防御特性を得る事ができる。しかも銀を冠する様に加工もかなり容易で、本格的な工房でなくても防具の作成は十分可能。まして、原始的かつ想いに由来する為に理論上は無限に高まり続ける()(どう)(りき)を扱える一誠にとって、正に最良の素材であった。……ただし、ミスリル銀製の防具はあくまで赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)である赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に至る前に宿敵である白龍皇と遭遇してしまった時の保険である。いくら魔動力を用いた最高位の防御術式を幾重にも施された事で下手な防御系神器(セイクリッド・ギア)や神の防具を上回るミスリル銀製の防具とはいえ、流石に二天龍であるドライグの力が直接反映される赤龍帝の鎧には純粋な防御力の面で及ばないからだ。

 

 しかし、一誠はそこで予想外の事態に遭遇する事になる。

 

Prologue end

 

 

 

 ロシウ老師から教えられた鉱脈から必要量のミスリル銀を無事に採掘し終えた僕は、そこで一息ついていた。後はこれを持ち帰って防具に加工し、ロシウ老師とニコラス神父、そして計都(けいと)師父に協力してもらって防御用の術式を施してもらうだけだ。それによって、万が一禁手に至る前に禁手に至った白龍皇と戦う事になっても、防御面で多少はマシになるだろう。

 

『……だがな、相棒。それなら、さっさと禁手に至ってしまえばいい。実際、今までの赤龍帝であれば十分禁手に至れる程の鍛錬と経験を積んでいる事は、この俺が保障する。それなのに、どうしてお前は禁手に至れないのだろうな?』

 

 ドライグは今回の行動を取るに至った経緯について、かなり疑問を抱いていた。ドライグの言う通りなら、僕は既に禁手に至っている筈なのだ。それなのに、僕は未だ禁手を発動させるに至っていない。ただ、僕と今までの赤龍帝との相違点はいくつもあるので、そう安易に当てはめる事はできないだろう。

 

「まぁ僕の場合、蓄積されてきたアリスお姉ちゃんの怨念を祓ってしまった事がかなり大きいんだろうね。それによって、蓄積されてきた戦闘経験も一緒に祓われたから、完全に一から出直しになったんじゃないかな? だから、もう少し時間がかかる事を見越して今回の行動を取ったんだけど」

 

 僕がそう言っても、ドライグはまだ納得がいかないようだった。

 

『……確かにそうだな。それにお前は歴代の赤龍帝から継承した技術はおろか、魔動力というこの世界においてはおそらくお前だけの力も持っているし、何より自ら生み出した新たなエクスカリバーを携え、その守護精霊であるカリスもいる。そんなお前が世界の流れに逆らう程の自己変革を起こすとなれば、相当に大きな出来事が必要だろう。尤も、お前が禁手に至れない最大の理由はそういった事ではないと、俺は睨んでいるんだがな』

 

 そんなドライグの言葉に、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。結局の所、赤龍帝の籠手の禁手に至る所まで己を高めていくしかないという結論に落ち着くのだから。

 

 ……そんな時だった。

 

『どうした、相棒?』

 

 ドライグが僕に問い掛けて来るけど、僕にはその声に応える余裕が無かった。……明らかに聞こえてきたのだ。

 

「助けを、呼んでいる……?」

 

 助けを求める、声なき声が。

 

 

 

Side:???

 

 彼等は、逃げ果せただろうか?

 

 己の体から力が抜けて急速に死に向かっていく中で、そんな事を思っていた。……僕達を「処分」する為、毒ガスを撒かれたのだ。

 天使と悪魔、そして堕天使の三竦みの戦争の中で破壊された聖剣の代表格であるエクスカリバー。しかし、十字教教会は残された欠片を核として、錬金術の粋を凝らして七本の聖剣として再生させた。聖剣は特に悪魔に対して絶大な威力を発揮する、正に天敵とも言える武器だ。だからこそ、この七本のエクスカリバーを始めとする聖剣を十全に使い熟せる者を発掘・育成し、優れた悪魔祓い(エクソシスト)とする一大計画が実行された。

 

 ……それが、聖剣計画。

 

 僕達は聖剣の適性を見込まれて世界各地からこの地に集められ、そこで様々な事をさせられた。聖書の教えを徹底的に叩きこまれ、ただひたすらに剣を振るわされて、時には様々な薬品を飲まされたり注射されたりした事もあった。楽しみなど何一つない、過酷な訓練と人体実験、そしてただ主へ祈りを捧げるだけの日々。それでも僕達は、明日を信じて一生懸命助け合って生きてきた。

 

 全ては、聖剣の担い手として主の敵を討ち果たす為に。

 

 しかし、そもそも聖剣に認められる者など数十年に一人現れるかどうかであり、僕達の中から聖剣に認められた者は一人も現れなかった。その結果、被験者全員が「失敗作」の烙印を押されてしまい、今正に毒ガスで殺処分されようとしている。聖剣に適合しなかった。ただ、それだけの理由で。

 毒ガスを吸って次々と死んでいく仲間達を見て、僕達は絶望の淵にあった。しかし、僕達の中に助かる見込みがある者達がまだ何人か残されていた。そこで、既にかなりの量の毒ガスを吸ってしまった為に動けなくなっていた僕には無理だったが、まだ体を動かせた者は死んだふりをして監視者を欺き、僕達の死を確認しようと部屋に入ってきた所で急襲した。そして、その助かる見込みがある同士達を逃がしたのだ。それを見届けた僕は、意識が失われていく中で確かに満足していた。

 

 もし逃げ延びて生き残る事ができたなら、どうか僕達の復讐などといった事は考えないで欲しい。そんな事よりも、僕達の分まで幸せに生きて欲しい。

 

 ただそれだけを願って、意識を失っていった。……それだけに、僕は驚きを隠せなかった。

 

「……生きている?」

 

 毒ガスを大量に吸ってしまった以上、僕は二度と意識を取り戻す事は無かった筈だ。しかし、僕は意識を取り戻す事ができた。

 

「……何とか間に合った。これでやっと二人目か。一人目はまだ意識が残っていたから、解毒魔法のクリアブラッドで済んだ。君は昏睡状態だったけどまだ生きてはいたから、体力回復も可能なトータルヒーリングで間に合った。大変になるのは、これからだな」

 

 そう言って来たのは、僕と同年代か僅かに年下であろう日本人の少年だった。

 

「君は?」

 

 僕がそう問いかけると彼は応えようとしてくれたけど、彼に助けられたと思われる年少の男の子の同士からの切羽詰まった声によって、それは断ち切られてしまった。

 

「お兄ちゃん! もう誰も息をしていないよ! 早く、早くこっちに来て!」

 

「ゴメン。今が正念場だから、話は後で」

 

 彼はそう言うと、倒れ伏した同士達の元へと駆け寄っていく。男の子の同士が彼に他の同士達の様子がどうなのかを尋ねる。

 

「どうなの?」

 

「……駄目だ。全員、既に死んでいる。治療用の魔法は、もう届かない」

 

 悲痛な表情と共に告げられる言葉に、同士達の状態を確認していた男の子の同士は「そんな……」と言って愕然としていた。その最中、彼は僕より年少の女の子の様子を窺うと、その表情を一変させた。

 

「……いや。体は確かに死んでいるけど、この子だけはまだ魂が残っている! これなら、まだ間に合う!」

 

 どうやら、彼にとってはまだ手の届く所に彼女はいたらしい。そこで、彼は呪文の詠唱を始める。

 

「我が声に応えて、今ここに出でよ。不死の聖鳥にして炎の(おおとり)、フェニックス!」

 

 その声に応える様に現れたのは、七色の光を纏い、炎を灯す翼を持った一羽の巨大な鳥だった。……十字教の聖鳥、フェニックスだ。

 そして、彼の詠唱はまだ続く。

 

「フェニックスよ! 我、汝の真なる名を以て、その真なる力を解き放たん! 願わくば、その大いなる翼に宿りし命の炎を以て、死の闇に沈みし魂に今一度の灯火を齎せ! 真儀、転生の炎!」

 

 彼の詠唱が終わったその瞬間、彼が助けられると判断した彼女にフェニックスが翼の炎を放ってきた。その炎は彼女を包むと、渦巻きながら天に向かって立ち上る。そして炎が消え去ると、そこにはさっきとは全く変化のない彼女の姿があった。

 ……いや、「変化のない」というのは明らかに語弊だった。何故なら、先程までは動いていなかった彼女の胸が上下に動いていたからだ。

 

「これで、三人目。……後は全員、既に魂が失われてしまっている。時間切れか。せめて、僕がもう少し早く彼等の声なき声に気づいていれば……」

 

 彼は彼女の蘇生を確認すると次の行動に移ろうとして、そのまま項垂れてしまった。見も知らない僕達の為にここまで尽力し、助けられなかった事を悔やんでくれる。……気が付いたら、僕はその口を開けて言葉を掛けていた。

 

「気にしないでほしい。確かに、同士達は殆ど死んでしまった。だけど、君のお陰で僕達はその命を救われたんだ。だから、君には僕達を助けた事に胸を張ってほしい」

 

 僕がそう言うと、彼は困惑した様に僕に問い掛けて来た。

 

「胸を張ってもいいのかな? 結局は、間に合わなかった人の方が遥かに多いのに」

 

 だから、僕ははっきりと断言した。

 

「もちろんだよ。僕達を助けてくれた事はもちろん、世界中でたった一人、僕達の事をけして見捨てなかった事も」

 

 僕の言葉を聞くと、彼は僅かに口元を緩ませながら静かに涙を流していた。

 

「……そんな見方も、あったんだ」

 

 そんな言葉を口にしながら。

 

 暫くして、蘇生に成功した同士の女の子も目覚め、改めて彼に礼を伝えた。彼は僕の言葉もあってか、しっかりと礼の言葉を受け取ってくれていた。

 そうして、僕達はお互いの素性を教え合う為にまずは僕達が彼に説明する事になった。今となっては忌まわしさしか感じられない「聖剣計画」の事を。

 

「僕が君達の声なき声を聞き取ったのは殺処分を行っていた、正にその時だったのか」

 

 僕達が話を終えると、彼はそう言って僕達の置かれていた状況に納得したようだった。尤も、その表情には明らかに怒りの感情が現れていたけど。

 

「そう言えば、名前をまだ聞いていなかったね。よかったら、教えてもらえないかな?」

 

 彼はそう言って僕達の名前を確認しようとした。しかし、その質問には応えられない。何故なら。

 

「識別番号」

 

「ちょっと待って! 僕が知りたいのは名前であって、そんなものじゃ……」

 

 彼は同士の女の子が識別番号を口にし始めた時点で止めたけど、現実は変わらない。

 

「僕達は、集められる以前の記憶を全て消されている。だから、自分の本当の名前が解らないんだ」

 

 僕が事情を説明すると、彼の顔からはかえって表情が失われていった。しかし、数回深呼吸をする事で心を落ち着かせると、僕達のこれからについて話し始めた。

 

「……できる事なら、今すぐ教会の総本山と天界に殴り込んで、こんな下種な計画にGoサインを出した上層部の連中を文字通り消し飛ばしてやりたい。だけど、今はそんな個人的な感情よりも君達の事だ。まずは、何処かに身を寄せる事から考えよう。そこで落ち着いてから、新しい名前とこれからの事を考えたらいいよ」

 

 そこで、僕は一つ疑問を持った。どうして彼がここまで僕達の事を親身になって助けようとしてくれるのか。それが、どうしても解らなかった。僕の抱いた疑問を察したのだろう。彼は自分の事について話し始めた。

 

「そう言えば、僕の事をまだ話していなかったね。まずは名前から。僕は一誠。兵藤一誠だ。今代の赤龍帝だよ。そして、エクスカリバーの担い手である騎士の王の正統なる後継者、二代目騎士王(セカンド・ナイト・オーナー)でもある。だから、エクスカリバーを含めた聖剣のせいで運命を狂わされた君達とはけして無関係じゃない」

 

 ……それは、驚愕するべき事実だった。

 

 彼、兵藤一誠の話が終わってから、話し合う時間が欲しいと伝えると、彼は二つ返事で承知してくれた。なお、彼が駆け付けて来た時には既に遺体処理を開始していた為、僅かな可能性に賭けて対象の時間の流れを一時的に遅らせる事ができるスロウエネミーという精霊魔法を密かに全員に施していた。この時間稼ぎが功を奏して、僕達の治療や蘇生が間に合ったのだ。

 また、エクスカリバーの担い手である証拠として、自ら錬成したという新たなエクスカリバーと共に本来のエクスカリバーの鞘である静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)を実際に見せてもらった。これらを見て、そして実際に触らせてもらった時、不覚にも僕はこう思ってしまった。

 

 あぁ。これじゃ、僕達の中で誰も扱えなかったのも無理はない、と。

 

 それだけ、本物のエクスカリバーは全てにおいて格が、というよりも次元が違っていた。しかも、この状態ですら本来出し得る力と比べて殆どゼロに等しいというのだから、もはや僕達の想像を超えてしまっている。

 エクスカリバーについての説明の後、彼は静謐の聖鞘を介して聖剣を始めとする聖なる力を宿す武器に認められ、更にその力を増幅する事すら可能になる程の強い聖霊の加護を与えてくれた。

 

「これから、自己防衛の為の力がどうしても必要になるから。それに君達の事をもっと早く知って聖霊の加護を与えていれば、君達がここまで苦しむ事はなかったんだ」

 

 そう口にした兵藤一誠の明らかに沈んでいる表情が、余りにも印象的だった。

 

 そうして今後どうするのかを話し合っていると、彼が表情を一変して後ろを振り向いた。その視線の先には、聖書を左手に持ち、黒い神父服を纏った三十代後半の日本人が立っていた。その神父は、心底申し訳なさそうな表情で話し始める。

 

「申し訳ありません。本当はすぐにでも声をおかけするつもりだったのですが、貴方達が話している内容が内容でしたので」

 

 少なくとも声色には偽りを感じられない。僕はそう感じたが、油断はできない。

 

「貴方は一体?」

 

 兵藤一誠が鋭い目つきで神父に問い掛ける。すると、神父からは意外な言葉が出てきた。

 

「そうですね。まずは私の事をお話ししましょう。私の名前は、武藤礼司。十字教の教派の一つである正教会に所属しています。そして、聖剣使いの素質を持つ子供達の指導教官を命じられていました」

 

 その内容に、僕達は身を強張らせた。……もしや、既に手を回されていた?

 

「どういう事でしょうか?」

 

 彼もその言葉に驚きを隠せずに、どういう事かを確認しようとした。すると、武藤礼司と名乗った神父は表情をやや沈んだものに変えて、事の次第を話し始めた。

 

「誤解なさらないで下さい。確かに、私は上層部から先に申し上げた通りの事を命じられていました。私は上層部から指導方針については私に一任する様に許可を取った上で、子供達を教育する為の場として孤児院を開き、そこで子供達の指導教育を行うつもりだったのです。たとえ子供達の中に聖剣の適合者がいなくても、その時は私が子供達を引き取る事ができますから」

 

 ここで一旦言葉を区切ると、神父の表情が次第に憤怒と悔悟が入り混じった様な複雑なものへと変わっていく。

 

「……しかし、これから教え育てる事になる子供達の事を調べた所、育成とは名ばかりの虐待と人体実験が繰り返されている事を知りました。憤慨した私は虐げられていた子供達を救い出す為、単身こちらに乗り込もうとしたのですが、辿り着いた時には全てが終わっていました。私の行動は、余りにも遅過ぎた……!」

 

 神父は複雑な表情を浮かべたまま、語り終えた。よく見ると、握り締めた右拳からは鮮血が滴り落ちている。それ程に激しい感情を無理矢理鎮めた後、神父は静かに頭を下げて感謝の意を伝えた。

 

「確か、兵藤一誠君でしたね。まずは、私が救わなければならなかった子供達を救って頂き、誠にありがとうございました。貴方がいなければ、私は今後の人生をただ後悔と諦観の中で生きていく事になっていたでしょう」

 

 そして、僕達の身柄を自分が引き受ける旨を兵藤一誠に申し出て来た。

 

「それでこの子達についてですが、どうか私に任せて頂けないでしょうか? これからは私が責任を持ってこの子達の事を守り、また慈しみながら育てていきたいと思っています。それが、手を伸ばそうとして間に合わなかった私の、この子達に対するせめてもの罪滅ぼしですから」

 

 神父がそう言って頭を下げると、兵藤一誠は少しの間考え込んでから神父に問い掛けた。

 

「武藤神父。貴方はただ贖罪の為だけに、彼等は引き取るのですか?」

 

 彼に問い掛けられた神父は下げていた頭を上げると、彼の眼をしっかりと見据えた上で返答した。

 

「今の私にはその証拠となるものが何もない以上、ただ贖罪の為だけに引き取るのではないという事を信じて頂くしかありません。彼等は余りにも異常な環境に置かれていた為、世界とはどのようなものなのか、殆ど知りません。確かに、彼等が今まで受けて来た仕打ちの様に、醜い悪意に満ちた一面も世界にはあります。しかし同時に、貴方が最後まで諦める事無く彼等の為に動き続けた様に、眩いほどに尊い善意に満ちた一面もまた世界には確かに存在しているのです。……私は、世界とはもっと優しいものである事を彼等に知って欲しい。そして、世界の優しさを感じながら彼等と共に歩んでいきたい。そう、思っているのです」

 

 この様な言葉を語る神父の眼は、曇りや陰りなど何処にも見当たらない澄み切ったものだった。ふと年下の同士二人を見ると、その顔からは既に警戒心が消えていた。

 

 ……僕自身、この人なら信じても良いと思っている。

 

 どうやら兵藤一誠もまた決断した様だ、神父に向かって頭を下げた。

 

「武藤神父。貴方の考えを話して頂き、ありがとうございました。……彼等の事、お願いします。世界の悪意を知ってもなお善意の存在を肯定できる貴方なら、僕は信じられる」

 

 そう言ってから、彼は僕達三人の方を向いた。僕達の意思を確認する為だと判断した僕達はお互いの方を向くと揃って頷き合い、そして彼の方を向いて一緒に頷いた。承諾を得た神父は、穏やかな表情を浮かべて感謝の意を伝えてきた。

 

「兵藤君、ありがとうございます。これからは、彼等と共に歩んでいきます。そして貴方の事ですが、教会には何も報告しないつもりです。もしエクスカリバーの真なる継承者である貴方の存在を知れば、我が十字教教会は貴方を確保する為に手段を選ばないでしょうし、駄目なら闇に葬ろうとするでしょう。今回の一件で、残念ながら我が十字教教会はもはや腐り果てている事を痛感しました。……その様な事を考えている私は、そう遠くない未来において教会から破門されているかもしれませんね」

 

 そう締め括った神父の何処か遠くを見つめる様な表情は、まるで己の末路を悟り切っていた様だった。

 ……この時の神父の言葉は後にそれに極めて近い形で現実の物となってしまったけど、ひょっとするとこの時点でそうなる事を解っていたのかもしれない。

 

 

 

 こうして、僕達は義父さんこと武藤神父に引き取られる事となった。また、一誠は度々転移魔法を使ってこちらを訪ねて来るので、割とすぐに友人として名前を呼び合う様になった。

 

 そんな僕の新しい名前は、武藤(むとう)瑞貴(みずき)

 

 銀に近いアッシュブロンドの髪を持つ僕が日本人の名前を持つのは少々おかしいけど、一誠と義父さんが共に日本人だったのでそれに肖る形にし、義父さんと相談した結果、瑞兆が訪れる程の貴い人間になれる様にと「瑞貴」という名を頂いた。また、姓については義父さんが僕達を養子として迎えたいと申し出てくれたので、僕達はその好意をありがたく受け取ることにしたのだ。

 残った二人については、男の子の方は「薫」、女の子の方は「カノン」となった。

 

 ……僕達は同士から兄弟に、「家族」になったのだ。

 

 義父さんと暮らし始めてからしばらくすると、義父さんの友人である紫藤牧師とその娘であるイリナと顔を合わせた。まだ幼いと言ってもけして過言じゃない薫とカノンは、紫藤牧師とイリナにすぐに懐いた様だった。

 なお、義父さんは紫藤牧師にのみ僕達の素性を話し、イリナには話していない様だ。

 

 彼女にそれを話すという事は、即ち一誠の事を話す必要がある。

 

 それについて今は時期尚早だというのが義父さんと、実は幼少の頃の一誠と付き合いがあった紫藤牧師の判断だった。

 

 今や武藤家の長男となった僕には、薫とカノンを守る兄としての責任と義務がある。引き取られてから暫くして発現した神器は、水を創り出すだけで操作する事はできないという水の施し(アクア・クリエイト)の亜種であり、創り出すのが水の代わりに最高純度の聖水となっただけの浄水成聖(アクア・コンセクレート)(義父さんが命名した)。だけど、一誠が手を加えて改良した光の剣とそれに合わせて教えてくれた剣術の概念のお陰で、使い方が限定される筈の僕の神器がこの上ない強みへと変わった。

 ……だったら、僕は義父さんの隣に立って、兄弟である薫とカノンを守ってみせよう。それが、僕達の明日を繋いでくれた一誠に対する恩返しになるのだから。

 

Side end

 

 

 

Epilogue

 

 聖剣計画の惨劇から二年後、悪魔祓いの間である凄腕の少年剣士の噂が広まっていた。

 

 少年の名は、武藤瑞貴。

 

 正教会の聖剣使いでありながら古き技法をも伝える正統派の悪魔祓い、武藤礼司の養子にして後継者。

 携えるは、聖水を以て刃と為す裁きの水剣「閻水」。そして振るうは、水と氷を操る新たなる剣の術理「氷紋剣」。

 その太刀筋は水の如く変幻自在にして、打ち合う事のできる者は十字教の誇る聖剣使いの中でも養父を含めわずか三名。

 その精神は氷の如く冷静冷徹にして、道を踏み外した「はぐれ」の尽くに裁きの鉄槌を下す。

 

 故に、人呼んで「水氷の聖剣使い」。

 

 武藤兄弟が自分達とは別の形で明日を繋いだ同士と再会するのは、惨劇から四年もの月日が経った後の事である。

 

Epilogue end

 




いかがだったでしょうか?

なお、今話によって一誠は教会に大きな不信感を抱きました。
……エクスカリバーに選ばれた彼がエクスカリバーのせいで虐待された人達がいると知れば、教会に所属しようとはまず思わないでしょう。
それに、本編中で述懐させた通りの事情もありますので、少なくとも一定の距離は置く事になります。
ただ、教会には神父の鏡かつ教会のアンチテーゼである武藤礼司とイリナもいるので、かろうじて完全な敵対状態には至っていませんが。

なお、新キャラ「武藤瑞貴」については、「二藤瑞貴」として権利を譲渡しました地蔵菩薩 NEW様から使用許可を頂いています。
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