赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.5 修正


第二十話 戦闘開始

 予告通りに駒王学園に攻め入ってきたコカビエルから指名を受けた事で僕がコカビエルと戦う事になった。僕は静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)に収めたエクスカリバーを腰に携えた状態で赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現、更にクォ・ヴァディスを抜き放って上空にいるコカビエルに切り掛かる。

 

「フンッ!」

 

 コカビエルは両手に光の剣を持つと、クォ・ヴァディスを受け止めた。そのまましばらく鍔迫り合いを続けると、僕は一旦距離を置く為に剣を引くと同時に蹴りを繰り出す。しかし、向こうも同様の事を考えていた様で蹴り同士がぶつかり合った結果、衝突の反動で思った以上に距離を取る事ができた。そこで、まずは一年前にはやてが平行世界に飛ばされたリヒトを迎えに行った時、向こうの自分から教わったという向こうのベルカ式魔法で牽制する。因みに、この魔法は本来ロックオン式の自動誘導型高速射撃魔法であるが、発射前限定で遠隔誘導型に切り替える事が可能な様に僕が改良している。

 

「穿て、ブラッディダガー!」

 

 すると、長さ3 m程の先の尖った赤い魔力弾が百本程出てきた。……自分で発動しておいてアレだが、これはもう「短剣(ダガー)」ではなく「突撃槍(ランス)」の様な気がする。どうやら、「魔」を司るアウラの事を認識した事で予想以上に魔力の質が上がってしまい、その結果として魔力の加減を間違えたらしい。

 

「……往け!」

 

 僕はこの失敗を奇貨として、二割を遠隔誘導に切り替えてからコカビエルに向かってブラッディダガー(仮)を放つ。すると、コカビエルもまた数を優先した光の槍を自分の周りに展開して応戦してきた。魔力弾が次々と光の槍で撃ち落とされていくが、遠隔誘導に切り替えた二十本を操作して弾幕の間を縫うと、コカビエルへの直撃コースに乗る。

 

「フン、こざかしい!」

 

 コカビエルは自分の翼を操って、迫って来ていた魔力弾を全て薙ぎ払う。……先手は貰ったぞ、コカビエル。

 

「何っ!」

 

 翼を操作した事で動きが一瞬硬直した隙をついて、僕はコカビエルの懐に入り込んだ。使用したのは、計都(けいと)師父直伝の道術の一つで、敵と自分の間の空間を圧縮する事で間合いを一気に詰めるという空間操作の奥義、縮地法。そして、コカビエルにまずは一撃を加える。

 

「ハァッ!」

 

 選んだのは、相手の防御をある程度無視できる浸透系の打撃技、通背拳。しかも丁寧に魔力で空中に足場を組んでしっかりと踏み込めるようにしている。この技は内臓に直接ダメージを通せるので、長期戦になればなるほど次第に効果が現れてくるのだ。

 ……しかし、当たりが浅い。どうやら接触の瞬間、後ろに飛ぶ事で衝撃を緩和した様だ。現にダメージは殆ど見当たらず、むしろ僕に先制を取られた事に対して面白そうに笑っている。やはり古の堕天使なだけあって、生まれて十数年程度の僕では想像もつかない程に膨大な戦闘経験があり、そこから培われた瞬間的な判断力と危険察知能力は段違いで向こうが上だ。正に古豪というべきだろう。

 

 ……長い戦いになりそうだった。

 

 

 

Side:木場祐斗

 

 イッセー君がコカビエルから対戦相手の指名を受けて上空に向かうと同時に、コカビエルによって呼び出された十頭程のケルベロスと二十頭程のオルトロスが僕達に牙を剥こうとしている。しかし、部長とレイヴェル様は冷静だ。

 

「ケルベロスにオルトロスなんて、結構な大物が出て来たわね。しかもあの魔方陣を破壊しないと、際限なく出て来そうだわ。まぁ、広域殲滅魔法が得意なはやてちゃんなら極大魔法を一発、時間にして十秒かからずに殲滅できるんでしょうけど」

 

「私も一度見せて頂きましたけど、アレはウィザードタイプである私達にとって、一つの最終到達点ですわ。ですけど、今はこの強力な封時結界の展開とその維持に努めているはやてさんを当てにしても仕方がありません。そこでですけど、一撃必殺の攻撃力を持つリアス様と対多数の攻撃手段を持つ私が魔獣達を抑え込んでいる間に、木場殿の魔剣で魔方陣を破壊して頂きましょう。武藤殿と匙殿、そしてコノル殿にはその間、私達の護衛をお願い致しますわ」

 

 部長とのやり取りの中でレイヴェル様が提示した基本方針に対し、匙君は怖気づく事無く承知した。

 

「解りました。瑞貴先輩とコノル共々、お二人の護衛を勤めさせて頂きます。……木場、しくじるんじゃねぇぞ?」

 

 匙君から掛けられた発破に、僕も軽口で応える。

 

「解っているよ、匙君。君こそ、部長とレイヴェル様に怪我をさせないでほしいね。それと、セタンタ君は先走らない様にしないとね」

 

 僕に釘を刺された格好のセタンタ君は、少々苦笑いを浮かべつつもそれはしないと明言した。

 

「解ってますよ、祐斗さん。そんな護るべき者を放り出すなんて馬鹿な真似をやらかした日には、俺は一誠さんの一の舎弟の名を返上しなきゃいけねぇや。だから、そんな真似は死んでもしませんって」

 

 確かにその通りだ。それにそんな事をしている様なら、彼が「イッセー君の一の舎弟」を名乗る事を瑞貴さんが許す訳がないけどね。

 

「おい、瑞貴先輩には……」

 

 一方、僕の軽口に反論しようとした匙君だったけど、すぐに言葉を止めてしまった。

 

「……って、その心配は当然ないよな。何せ、サーゼクス様と一誠に次いで強いからな」

 

 納得と共にあっさりと引いた匙君を見て、当事者である瑞貴さんは苦笑いを浮かべている。僕もそれには完全に同じ意見だ。

 

「まぁ、そういう事だね。それと部長、解禁してもよろしいですね?」

 

 ただ、流石に魔剣だけでは少しきついと思ったから、僕は部長に許可を求める。部長は暫く考えた後に、結論を出した。

 

「そうね、この際だから許可しましょう。貴方がイッセーとロシウ、そしてニコラス神父の協力によって得られた新たなる力、今こそ世界に示す時よ」

 

 ……部長の許可を頂いた。だから、もう隠す必要はない。

 

「解りました、では早速。魔剣創造(ソード・バース)改め和剣鍛造(ソード・フォージ)、発動!」

 

 僕は皆の見ている前で魔獣殺し(ビースト・スレイヤー)の特性を持つ聖剣を創り出した。

 

「おい木場。それ、聖剣じゃないのか?」

 

 匙君は流石に驚きを隠せないでいる。その驚きのままに問い掛けられた僕は、その場にいる皆に正直に事情を説明した。

 

「うん。さっき部長が挙げた三人の赤龍帝の協力で、僕の神器(セイクリッド・ギア)が強化されてね。今では魔剣の他に聖剣も創れる様になったんだ。しかも付与できる能力や特性も大幅に増えたよ。ただ、甘えになるといけないからとイッセー君に言われて、部長と会長、そして瑞貴さん以外には黙っていたんだ」

 

 僕は匙君に隠していた実情を話すと、彼はそれで納得してくれたようだ。

 

「あぁ、確かにそうだろうな。唯でさえ剣の腕もあって色々な魔剣を創れるお前が聖剣まで作れるとなると、どうしても甘えが出るからな。一誠も俺達の纏め役として、それが心配になったんだろう。そういう事なら仕方ないさ」

 

 一方、レイヴェル様は少々拗ねてしまっている。

 

「一誠様、せめて私には教えて頂いても……」

 

 しかし、部長がそれをピシャリと窘めた。

 

「レイヴェル。それをやると、流石にイッセーの依怙贔屓になるわよ。貴方はあくまで客分。同じ眷属にすら知らされていない事を知らされたとなると、イッセーに皆の不満が集まるわ」

 

 この部長の窘めに対し、レイヴェル様は素直に受け入れた上で自身の浅慮を詫びる。

 

「それは確かに頂けませんわね。申し訳ありません、リアス様。私が少々浅慮でしたわ」

 

 ……フェニックス家の令嬢として育てられているにも関わらずに素直に自分の非を認めて謝罪できる辺り、やはりイッセー君の影響が出ているんだろうね。こうした軽いやり取りも遂に終わり、部長が作戦行動の開始を宣言する。

 

「それじゃ、まずは魔獣達を一掃するわよ! 祐斗、私達が道を切り開いたら、早急に元を断って来なさい!」

 

 この部長の宣言に、僕達は力強く「了解!」と応えた。……僕達の戦いは、こうして始まった。

 

Side end

 

 

 

Side:ソーナ・シトリー

 

「……どうやら始まった様ですね」

 

 駒王学園の外で被害が広がらない様に結界を張っている私達は、結界内の魔力が高まった事で戦闘が始まった事を察知した。

 ……尤も、現在ははやてさんが私達全員で展開するより遥かに強力で、尚且つ結界内で出た被害は現実世界に反映されないという封時結界を一人で展開しており、私達は悪魔の魔力を人間の魔力に変換する特殊な魔方陣を通じて(これもはやてさんが展開した)はやてさんに魔力を供給するだけだったのだけど。

 ただし、ここにいるという事はサポート役に専念する事にしたはやてさんを除いた全員が戦力外宣告をされたという事でもある。現にここにいるグレモリー眷属の内、救護要員のアルジェントさん以外はかなり悔しがっていた。

 

「……悔しいですわ。まさかグレモリー眷属の女王(クィーン)である私まで、戦力外になってしまうなんて」

 

「私も、仙術さえ修得していれば……!」

 

 その気持ちは凄く理解できる。だから自分の心情を交えて二人を窘めていく。

 

「今回は相手が相手ですから、仕方がありません。それに、悔しいのは私とて同じ事です。シトリー眷属の(キング)なのに一誠君と武藤君、そしてサジという新規加入の三人に加え、ある意味では部外者であるセタンタ・マク・コノル君に任せ切りになってしまうなんて。……リアス。私は王として一誠君と共に戦える貴女が、とても羨ましいわ」

 

 つい本音を零してしまった私を見て、椿姫は心配そうな声を私に掛ける。

 

「ソーナ様……」

 

 その時、翼紗が不審そうな表情を浮かべた。何かを見つけた様だ。

 

「……んっ? 誰かこちらに近付いて来るぞ」

 

 それを聞いて実際に確認した桃は、魔力による能力強化で視力を強化して何者かを確認する。

 

「あっ、翼紗の言った通りだわ。まだ距離が有るから視力強化っと。……えっ? 何で?」

 

 その桃の動揺した表情を見て、私は何を見たのか伝える様に促した。

 

「どうかしましたか、桃?」

 

 その桃の報告は、驚愕に値するものだった。

 

「会長、大変です! あそこにいるの、駒王町から退去した筈の悪魔祓い(エクソシスト)の二人です! もう一人はそうでもありませんが、一誠君の幼馴染の子の容体がかなり悪いようです!」

 

「何ですって!」

 

 

 

 体がまともに動かないにも関わらず、体の損傷は殆どないのに既に昏睡状態に陥っているイリナを担いで歩いてきたゼノヴィアさんから事情を聞いた結果、最悪の状況であることが解った。

 

「情けない話だ。折角、エクスカリバーを全て奪還してもらいながら、相手に全て奪い返されるだけでなく、私達の持っていた分まで奪われてしまうとは……」

 

 ……彼女の話では、拘束したフリードを連れて二人が拠点を撤収してからしばらくした後、バルパー・ガリレイ率いる別働隊が襲撃してきたのだ。ただし、戦闘自体は器用なイリナが四本のエクスカリバーを巧みに使用した事もあって、優位に進めていたらしい。しかしその後、一人の黒人男性が加勢した事で形勢が完全に逆転、その強大な光力の前に為す術なく敗れてしまい、所持していたエクスカリバーを全て奪われた上にフリードも救出されてしまったのだという。

 その際、二人とも最後は光力を体に流し込まれた事で無力化されてしまったのだが、しばらくしてどうにか動ける様になったゼノヴィアさんに対し、イリナの方は次第に容体が悪化していき、遂には意識不明の重体にまで陥ってしまったみたいだった。……ここにきて、()(どう)(りき)を失った事で神秘に対する抵抗力が常人以下になっていたのが大きな痛手になった。もしレイヴェルトを所持したままだったなら、ここまで酷い状態にはならなかっただろう。

 ……その事実が、余りにも重かった。なお、イリナは現在、アルジェントさんによって全力を以て治療されている最中だ。

 

「ですが、その男は一体何者ですか?」

 

 たった一人で形勢を完全に逆転させてしまったという正体不明の男について私が尋ねると、想像の斜め上を行く答えが返ってきた。

 

「あの男が何者なのか、それは解らない。ただはっきりしているのは、あの男が天使様や堕天使と同じ光力を扱える事。そして、人間である可能性が極めて高い事だけだ。何せ、振るわれた破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)を無造作に掴んだかと思ったら、私の手からあっさりと奪い取った上に、自分の光力を上乗せする形で私以上の破壊力を叩き出してきたのだからな。聖剣を扱えるのは、天使様か人間、そしてそのハーフの何れかだ。しかし、あの男は宙に浮いていたにも関わらず、翼を生やしてはいなかった。だとすれば、信じ難いがあの男は人間であると考えた方がいいだろう。……まさか、あんな化け物が向こうについていたとは思いも寄らなかった」

 

 そう語るゼノヴィアさんは、ガックリと肩を落としている。

 

「天使や堕天使と同じ光力を扱える人間、ですか。もし一誠君がその話を聞けば、何らかの答えを出してくれそうなのですが。それにしても、コカビエルはそれだけ強力な戦力を持ちながら、何故この最終決戦に投入しなかったのでしょうか?」

 

 私がコカビエルの不可解な行動について考察していると、ゼノヴィアさんがそれを否定してきた。

 

「いや、あの男はどうも急遽傭兵としてバルパーに雇われただけの様だ。現にあの男は私達を無力化してエクスカリバーを奪った際に小声で、「スマねぇが仕事だからな、コイツは貰っていくぜ。それと安心しな。聖剣を任されてるアンタ等なら、小一時間で何とか歩ける程度には回復する筈さ」と言った後、光力を流し込む事で無力化した私達にトドメを刺すような事をしなかった。しかも、バルパーにトドメを刺す様に促されても、「依頼はこれで達成だろ? だから、俺にコイツ等を殺して欲しければ、殺しの仕事を追加で依頼しな。「仕事はしても、殺しはしない」ってのが、俺のモットーでな。それに、嬲り殺しなんて俺の評判を下げる様な仕事を依頼するんだ、それ相当の報酬は当然要求させてもらうぜ。……他に仕事の依頼がないなら、俺はこれで帰らせてもらう」と言って、そのまま去ってしまった。おそらく依頼されたのは「駒王町にある全てのエクスカリバーの奪取」だけだったのだろう。そして、バルパー達も私達より聖剣の確保を優先して、さっさと引き揚げていったよ。そのお陰で、少なくとも私は九死に一生を得た訳だ」

 

 明らかに自嘲混じりの声と表情で語るゼノヴィアさんの姿に少なからず痛ましさを感じてしまう。そんな私の内心を知らずか、ゼノヴィアさんはここで未だ意識を取り戻していないイリナの方へ視線を向けた。

 

「ただ、彼の言った通り、私は一時間程で何とか動けるようになったんだが、それなら何故イリナが生死の境を彷徨う事になっているのか……」

 

 ゼノヴィアさんはイリナの事を心配する素振りを見せたものの、すぐに雑念を振り落とす様に頭を軽く横に振るとこちらの方に視線を戻してきた。

 

「……いや、今はイリナの事よりバルパー達の事だ。話を戻すが、去っていく前のバルパー達の会話を盗み聞いた所、どうやらバルパーは手に入れた五本のエクスカリバーを統合して、それを回復させたフリードに使わせようとしている様だ。そうなると、そちらにとってもかなり厄介な事になる。幸い、私には統合されたエクスカリバーにも対抗し得る切り札がまだ残されている。だから頼む、私をこの中に入れてくれ! このままでは聖剣奪還の道筋を立ててくれていた武藤神父と、何よりイリナと将来を誓い合ったばかりの赤龍帝に申し訳が立たない!」

 

 ゼノヴィアさんはかなり真剣に頼み込んでいた。……ただ、イリナと比べると遥かに軽傷とはいえ、体がまだ上手く動かせないなど体調が万全とはとても言い難い。私はこのままでは無理矢理にでも参加する危険を回避する為に、条件を出した。

 

「条件が有ります。ここで体を万全にする事です。アルジェントさん。命に別状のない所まで紫藤さんを治療したら、彼女を万全な状態にまで回復して下さい」

 

 私がアルジェントさんにそう呼びかけると、アルジェントさんはすぐに応えてくれた。

 

「……解りました、会長さん。すぐに始めます」

 

 アルジェントさんはそう言うと、すぐにゼノヴィアさんの治療を始めた。アルジェントさんの様子が変だったのが少し気になったけれど、今は治療に専念させるべきだった。ただそこで、ゼノヴィアさんはアルジェントさんの事に初めて気づいた様だ。彼女がアルジェントさんに声を掛ける。

 

「アルジェント? 君はあの悪魔を癒した「魔女」、アーシア・アルジェントか? まさか悪魔になっていたとは……」

 

 ゼノヴィアさんから声を掛けられたアルジェントさんは、治療を続けながら話を始めた。

 

「……確かに悪魔になりましたけど、私は私です。それに私は、今でも主を信じていますから、痛っ!」

 

 主の信仰を告げる事で体を走る激痛を堪えながら、治療を継続するアルジェントさん。その姿を見たゼノヴィアさんは困惑を隠せず、その思いのままに尋ねてしまっていた。

 

「何故だ? 主の教えに背いたから「魔女」として異端となり、悪魔に転生したのだろう?」

 

 アルジェントさんは治療を進めながらゼノヴィアさんの問いに答えていく。

 

「主はけして誰もお助けしない。でもそれは、私達が試練を乗り越えられると信じているから。……イッセーさんが教えてくれたことです」

 

 このアルジェントさんの答えに対して、ゼノヴィアさんは半ば放心しながら再び尋ねた。

 

「……彼が、そんな事を?」

 

 すると、アルジェントさんはゼノヴィアさんに対して、問いに対する答えと共に自分の過去に対する己の考えを語り始めた。

 

「昔、色々な事を教わった神父様の受け売りだって言っていましたけど、多分悪魔祓い(エクソシスト)の赤龍帝であるニコラス神父の事です。それで、その言葉を聞いた時に思ったんです。あの時、傷付いた悪魔が私の前に現れたのは、傷付いた命を種族に関係なく癒せるか、主の説かれる愛をあらゆる生命に分け与えられるかを、主が私に対して問われたからじゃないかって。それに、その悪魔を癒した事は他の誰かに言われたわけじゃなく、私が自分の意志で決めた事です。だから、その行いに対する後悔はありません。それが私の選んだ道であり、イッセーさんが教えてくれた、主が私にお与えになった本当の宝物ですから」

 

 こうしてしっかりと前を見据えながら自分の考えを伝えていく今のアルジェントさんからは、初めて紹介された時に感じられた弱々しさが何処にも感じられなかった。その姿を見たゼノヴィアさんは、何かを感じたのかつい言葉を零してしまった。

 

「……馬鹿だな」

 

 それに対して、アルジェントさんは胸を張って反論する。……はっきり言って、見当違いではあるけれど。

 

「馬鹿で結構です。人をお助けする時は馬鹿になってやりなさいって、ニコラス神父も仰っていましたから」

 

 ある意味では頓珍漢でも本人にとってはとても真面目なアルジェントさんの反論を聞いて、ゼノヴィアさんは自嘲の笑みを浮かべながら先の言葉を否定した。

 

「君に向かって言った訳ではないよ、アーシア・アルジェント。……そうさ。馬鹿なのは、魔女の外聞だけで判断して聖女の内面を見ようともしなかった私の方だ。そして、彼は私などと違って、外聞に惑わされずに内面をしっかりと見ていた。だから、主が君にお与えになった本当の宝物を見定められた」

 

 頭を俯かせた上に右手で顔を覆っていたので良く分からなかったが、おそらくゼノヴィアさんは。

 

「赤龍帝。いや、兵藤一誠。君とは、本当にもっと早く逢いたかったよ……」

 

 ……泣いていた、と思う。

 

 あれからしばらくして、アルジェントさんの治療によって全快したゼノヴィアさんは決意の表情と共に駒王学園の中へと走っていった。

 

「アルジェントさん、ご苦労様でした。それで、イ、いえ紫藤さんの容体はどうですか?」

 

 私は早速アルジェントさんにイリナの容体を確認する。すると、アルジェントさんは顔を俯かせながら私の問いに応え始めた。

 

「正直に言います。イッセーさんの幼馴染の方の命は助けられたと思います。ただ……」

 

 そして、彼女の口から余りにも信じ難い言葉が紡ぎ出された。

 

「この方は、もう人間ではなくなってしまっているんです」

 

 ……私は性質の悪い冗談だと思った。敬虔な十字教信者であるアルジェントさんでも、こんな冗談を言うのだと。だから、私はアルジェントさんを窘める。

 

「……アルジェントさん。申し訳ありませんが、この場でその様な冗談は」

 

 でも、アルジェントさんは顔を上げて私に反論してきた。

 

「こんな事、冗談でも絶対に言いません!」

 

 ……その瞳からは、涙が溢れ出していた。そして、アルジェントさんはこの事態に至った経緯を説明し始める。

 

「私がこの方の治療を始めた時、流し込まれたという光力によってこの方の魂がかなり崩壊していました。もしニコラス神父から心霊医術を教わっていなかったら、たとえ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)でも手の施し様がなかったと思います。幸い、今の私は魂や精神にも治癒の力を届かせられるので、何とか魂の崩壊を抑えていたんですけど、魂を崩壊させていた筈の光力が突然この方の魂と融合を始めたんです。それに伴って、この方の魂の在り方がどんどん変わっていって、変化が治まった時には魂こそ完全に修復されましたけど、既に魂の形が人間とは異なるものに……」

 

 このアルジェントさんの説明を聞いて、私の脳裏にはレイヴェルトの返還を断った時のイリナの言葉が浮かんでいた。

 

「今のレイヴェルトには、おそらく貴女の魔力が混ざっているわ。だからもし常人以下の抵抗力しか持たない今の私がそのレイヴェルトを受け取ってしまうと、貴女の魔力に耐え切れずに「死ぬ」、というよりも魂が崩壊して「滅んで」しまう筈よ。運良く悪魔の魔力に適応して悪魔化する、なんて事もまず起こらないと思うわ」

 

 ……つまり、イリナ自身が言った事がそのまま起こっていたのだとしたら。聖書の神や天使の力である光力を流し込まれてしまった事でイリナの魂が耐え切れずに崩壊し、本来ならそのまま「滅ぶ」所をアルジェントさんによって食い止められた事で、イリナの魂が光力に適応するまでの時間が稼げたのだとしたら。

 

 その答えに至った、正にその瞬間。突如、イリナの目が大きく見開かれた。そして、横たえたまま空中に浮遊するとそのまま直立体勢になった後。

 

「不浄なる者に天の裁きを」

 

 全く感情の籠っていない声でその言葉を口にした。そして、次の瞬間。

 

「……イリナ?」

 

 一番近くにいた私に光の剣で切り掛かろうという体勢で、白い魔力の楔で動きを止められたイリナの姿があった。

 

 ……その背中には、二枚一対の白い翼が生えていた。

 

「何、ボケっとしとるんや! ソーナさん! さっさとイリナお姉ちゃんから離れて、態勢を立て直して! 素のわたしじゃ、そもそもこの強度の封時結界を展開しながら別の魔法を使う事自体が無茶なんや! それなのに、これ以上鋼の(くびき)を維持したら、肝心の封時結界が解けてしまう! それだけは、絶対に避けなアカン! そやから、早く!」

 

 封時結界と拘束魔法を維持している為に、イリナに剣十字の杖を向けたまま表情を険しく歪めたはやてさんから必死の呼び掛けを受けて、気を取り直した私はすぐさまアルジェントさんを連れてイリナから距離を取り、そのまま戦闘態勢を取った。それに伴い、私の眷属達もすぐに戦闘態勢を取る。更にさっきの発言で戦闘行為が不可能と判明したはやてさんの前には、グレモリー眷属でこの場に残っていた朱乃と塔城さんが立っている。

 私達が態勢を整えたのを確認したはやてさんは、すぐに鋼の軛という拘束魔法を解除した。体の自由を取り戻したイリナは、光の剣を携えてこちらをじっと見据えている。……その視線には、感情という物が全く籠っていなかった。

 

「しかし、イリナお姉ちゃんが死にそうなっとると思うたら、今度は天使になってソーナさんを襲ってくるし、一体何がどうなっとるんや!」

 

 結界の維持に集中しなければならない為に状況を把握し切れていないはやてさんの声は、半分以上悲鳴交じりだった。でも、私には何が起こっているのか、何となく解った。……解ってしまった。

 

「イリナ。貴女、身も心も天使になってしまったのね。聖書の神だけを愛し、「悪」や「魔」の存在を絶対に認めず、そしてそれ故に「個」を持たない純粋な天使に。……そうじゃないなら。そうじゃないなら、私の声に応えなさい! イリナ!」

 

 その証拠に、私が必死に声を掛けてもイリナの反応は唯一つ。

 

「不浄なる者に天の裁きを」

 

 ……余りにも変わり果てたイリナの姿に、私はただ泣きたくなった。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

確かにイリナは一誠と結ばれ、「永遠の決別」フラグは消えました。
……しかし、実はいくつも乱立していたイリナの死亡フラグまで消えたとは、一言も言っていませんので悪しからず。

では、また次の話でお会いしましょう。
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