Side:木場祐斗
現在、僕達の目の前には既に捕えられた筈のフリードが、強い「聖」の力を放つ一本の剣を携えて立っていた。しかも、バルパー・ガリレイと思しき肥満体の老人を一人伴って。
……一体、何がどうなって、この様な状況になっているのだろうか?
その前に、ケルベロスやオルトロスの群れとの戦いの顛末について語る必要があるだろう。この戦いにおいては、レイヴェル様の「炎」と「風」の魔力で魔獣達を巧みに抑え込んだ所に、一撃必殺が可能な部長の「滅び」の魔力弾で次々と討ち取っていた。因みに、レーティングゲーム以降も引き続き研鑚を積んでいた事で部長の魔力操作の技能は更に向上しており、弾丸の形状に圧縮した上に螺旋回転を加える事で貫通力を高めた特殊な魔力弾を形成できる様になっていた。……ただし、今回はその目的である貫通力があり過ぎてケルベロスを数頭貫通してなお学園の外に飛び出してしまった為、部長は少々自重する羽目になってしまったけどね。
また、レイヴェル様と部長の連携攻撃を抜けて来た魔獣達については、匙君が
イッセー君が戦闘メンバーに朱乃さんや小猫ちゃんを差し置いて、あえて匙君を加えた意味が良く分かった。匙君は間違いなく、
そのセタンタ君だけど、心臓部分を的確に見抜いてゲイボルグを突き立ててから「分裂」の特性を用いて体内をズタズタにするという一撃必殺を次々と決めていた。しかも身のこなしはこの中でも最速の為、オルトロスはおろかケルベロスですら全く追いつけていない。あちらも全く問題はないだろう。
そして、瑞貴さんに至ってはもう表現の仕様が無かった。地を走る氷が地獄の番犬を容易く貫き、水で形作られた蛇が縦横無尽に駆け抜けて魔獣達を引き裂いていく。更に地面に聖水の剣を突き立てたと思ったら、次の瞬間には瑞貴さんの周りにいた魔獣達が絶対零度の凍気によって氷像と化し、そのまま砕け散る始末だ。それにその様な特殊な技を使わなくても、魔獣達の側を駆け抜けたと思った次の瞬間には既に細切れにされているという剣の速さと冴えも持ち合わせている。
……これが、氷紋剣。そして、「水氷の聖剣使い」の称号と共に教会内でも最強の一角と謳われた、瑞貴さんの本気。
その余りの強さに、もし水や氷系統の剣を作る機会があれば、ぜひ参考にさせてもらおうと本気で思った。
皆がこうして頑張っている以上は僕も負けていられないので、
そうして魔獣の掃討が終わったのでイッセー君の様子を窺おうとした時に現れたのが、バルパー・ガリレイと思しき老人とイリナさん達に連行された筈のフリードだった。
余りに予想外な人物達の登場に、部長は素早く「探知」を発動して情報を獲得する。そこから齎されたのは、最悪なものだった。
「不味いわ! 彼等は駒王町にあったエクスカリバーを全て奪取している! しかも全て統合済みよ! それにしても、まさかあんな化け物を雇ってくるなんて、想定外にも程があるわよ!」
部長の言葉にバルパーと確定した老人は驚きを隠せないでいたが次の瞬間には理解した様で、イリナさん達から聖剣を奪い取った経緯を含めてを語り始める。
「……成る程。情報を制した事で先手を打てる筈のこちらが後手に回り続けたのは、貴様がこちらの情報操作をものともせずに情報を獲得していたのが原因か。しかし、詰めが甘かったな。少しでもエクスカリバー奪還の為の戦力の足しになればと雇ってみれば、これが望外の大当たりでね。私としては非常に幸運だったよ。尤も、依頼したエクスカリバーの奪還が済むと契約終了を告げた後はそのまま去ってしまったが、今となっては問題ないだろう」
バルパーが問題ないとした理由であろう聖剣の統合体だけど、神々しいオーラを放つ割に酷く禍々しい形状となっていて、堕ちた聖剣と言われた方が納得してしまう程だ。しかも、あのフリードに良く似合っているのだから、世も末だと思うよ。一方、フリードの方はセタンタ君によってボロボロにされたばかりにも関わらず、すっかり回復している。しかもズタズタにされた右手も何故か完治した上でだ。もしかすると、アーシアさんの様な治癒能力者が向こうにもいたのかもしれない。そんなフリードだけど聖剣の統合体を手にした事で気が大きくなっているらしく、声も高らかに復活とパワーアップを宣言してきた。
「ジャーン! 俺様、大・復・活! しかもパワーアップして帰って来ましたぜぇ! それにしても五本のエクスカリバーを一纏めにしちゃうなんて、バルパーの爺さん凄過ぎじゃね? お陰で俺様、合体エクスカリバーを携えた史上初の
そんな中、バルパーは自身の野望が実現していく手応えを感じているのか、高揚した声でフリードに命令する。
「これで更に残り二本を統合すれば、オリジナルに匹敵し得るエクスカリバーが出来上がる筈だ。フリード、まずは統合したエクスカリバーを存分に試すが良い」
その命令に応じたフリードはエクスカリバーの統合体をその手に取ると、非常に恍惚とした表情を浮かべて聞くに堪えない言葉を言い放った。
「あいよ、バルパーの爺さん。さぁさぁ! この復活したフリード・セルゼン様とぉ、五本合体したこのエクスカリバー! この最強無敵の組み合わせで、悪魔をみぃんな首チョンパだぜぇ!」
……流石に、これ以上は出し惜しみになるかな? 僕は部長に切り札の使用許可を求める。
「部長、手札を一枚切ります。よろしいですね?」
部長は僕が何を言いたいのか理解したのか、確認を取ってきた。
「そうね、何処まで出すつもりかしら?」
……状況を考えると、
「聖魔剣で十分です。流石に本体である魔鞘を出す必要はないでしょう」
僕の言葉を聞いた部長は一つ頷くと、許可してくれた。
「解ったわ。祐斗、あの二人に教えてあげなさい。……
ここで「夢」という言葉が出て来るなんて、部長もすっかりイッセー君の影響を受けてしまった様だ。……でも、悪くない。だから、僕もイッセー君に倣うとしよう。
「Yes, your majesty.」
そして、僕は彼等の前に立つ。
「おやぁ? イケメン君、もしかして一人で立ち向かうつもりかい? 俺様と最強エクスカリバーの最強コンビに?」
相変わらずふざけた事を言っているけど、正直言って負ける気がしない。イッセー君なら真聖剣であるエクスカリバーは言うまでもなく、その子であるクォ・ヴァディスでも余裕、そしてオーラブレイドでも間違いなく打ち勝てる。瑞貴さんも閻魔の水剣たる閻水を使えば、破壊は十分可能だろう。師匠やツァイトローゼさんに至っては、普通の剣でも実にあっさりと圧し折ってくれそうだ。
「悪いけど、どちらも最強なんかじゃないよ。それを今、君とバルパー・ガリレイに教えてあげよう」
だけど、今の僕では流石にそんな事はできない。だから、それができる剣を用意しよう。
「和剣鍛造、解禁!
まずはイッセー君が始め、そして世界に齎そうとしている新たなる理、「聖」と「魔」が共存する聖魔和合をご堪能あれ。
「な、何じゃ、そりゃぁぁ!」
驚愕するフリードに創り出した聖魔剣を突き付けて、僕は宣言する。
「フリード・セルゼン、そしてバルパー・ガリレイ。僕の親友である赤龍帝に倣って、貴方達にはこう言わせてもらうよ。……さぁ
そして思い知ると良い。世界は、お前達の
Side end
Side:リアス・グレモリー
バルパー・ガリレイが駒王町にあった五本のエクスカリバーを統合し、それをフリード・セルゼンに持たせた。本当なら、かなり危ない状況なのだろう。それを見越した祐斗が手札を一枚切り、新生した
和剣鍛造は、魔剣はおろか反属性である聖剣も創造可能な
「おいおい、まさかそう来るのかよ……!」
「凄いですわね、「聖」と「魔」が完全に共存していますわ。これが、一誠様のご親友である木場殿の新しい可能性なのですね」
現に祐斗の切り札を見た匙君は驚きを隠せないでいるし、一方でレイヴェルはしきりに感心している。
「祐斗さん、やっと
また、どうも事情を知っているらしいセタンタ・マク・コノル君は仕方ない人だと言わんばかりに肩を竦めていた。また、バルパー・ガリレイに対しては、まるで道端に散らかるゴミでも見ている様な無機質で冷え切った視線をぶつける。
そして、事情を全て知らされていた武藤君は聖剣計画の被験者時代からの弟分である祐斗の成長の証をただ微笑みながら見守っていた。……優しさと厳しさを併せ持つからこそのこの振る舞い、確かにイッセーに通じる所があるわね。
「これが僕の神器、魔剣創造が覚醒した新たなる神器、和剣鍛造の真の能力! 聖剣計画で虐げられた日々の中で、支え合って生きて来た家族との絆! そして悪魔に転生して
祐斗は高らかに宣言する。
これは今まで生きて来た中で積み上げてきた、自分達の絆の証であると。
「祐斗! コカビエルはイッセーが必ず倒すわ! だから貴方は、愚かな欲望で歪み切ったエクスカリバーを破壊しなさい! そして、全ての忌まわしき過去と決別するのよ!」
私は祐斗に、全ての決着をつける様に指示した。
「そんな駄剣で、この最強の聖剣が壊せるかよぉぉぉぉ!」
フリードが聖剣の統合体を振りかざして祐斗に切り掛かってくる。
「駄剣……か。まぁ犬に噛み砕かれるという意味では、確かに否定できない所もあるよ。でも、だからこそおかしいね?」
……今、祐斗からとても聞き捨てならない台詞が飛び出したのが聞こえた中で、二本の剣が交差した。
「な、何ぃぃぃぃ! オーラがかき消されているだとぉぉぉ!」
「だって、本当に最強なら幾ら聖魔剣でも止められないよ? 現にオリジナルが相手なら、流石に耐えられないと思うし。でも、現実は厳しい物なんだよ。それにしても、犬に噛み砕かれる様な駄剣にすら劣る聖剣の統合体、か。……本当に唯の笑い話だよ。しかも失笑物のね」
……祐斗。貴方が何を言っているのか、私にはさっぱり分からないわ。
混乱気味な私を余所に、祐斗とフリードは幾度となく剣を交えていくが、明らかに祐斗が優勢だった。接近戦では歴代最強をも上回るという赤龍帝の武の双璧の一角、
「チックショォォォォ! 何で
「君自身が、余りにも遅過ぎるからじゃないかな? ついでに体幹がブレブレで動きに無駄が多過ぎるから、初動が遅れても十分間に合うよ」
聖剣の力で加速した名うての「はぐれ」悪魔祓いを軽々と凌駕する祐斗のスピードと身のこなしは、既に上級悪魔の領域を超えているかもしれない。一方、押される一方のフリードはスピード勝負では不利と悟って、戦い方を変えてきた。
「だったら、
その瞬間にフリードの剣が見えなくなった。不味い、これでは間合いが解らなくなる上にあの破壊力も持っている筈。
「心配はご無用ですよ、部長」
けれど、祐斗はあっさりと見えない刃を捌いていく。
「なっ! 何で破壊の聖剣の破壊力が通用しねぇ! しかも見えない刃を捌けるんだよ!」
フリードは透明で間合いが解らない上に破壊力もある攻撃をいとも容易く捌いていく祐斗に驚きを隠せない。一方、祐斗は完全に呆れ返った様な表情でフリードに問い掛けていた。
「剣が風を切る音に大気の流れの変化、更に殺気の指向性にエクスカリバーのオーラの流れ。これだけ剣の動きを捉える条件が揃っていれば、剣が見えない程度じゃどうって事ないよ。それに、聖剣の持つ能力の根源である聖なるオーラをかき消せば、破壊力の源である破壊の波動はけして発生しない。聖剣を扱うのに、そんな基本的な事も知らなかったのかい?」
そう言えば、祐斗は破壊の聖剣を既に攻略していた。攻略法を知っている聖剣など、恐れるに足りなかったのだろう。しかも、挑発を加える事で相手の視野を狭めるという心理戦をも仕掛けている。……私の知っている今までの祐斗からはとても想像がつかないけど、単に強いだけでなく知略戦をもこなせるイッセーに影響されての事なのだろう。
「それなら、次は」
挑発されて憤ったフリードはそれなら聖剣に触れさせなければいいと戦法を変えようとしたけど、その前に祐斗が言葉で機先を制する。
「先に言っておくけど、
……バルパーとフリードの
「チッ、チクショウ! 最強の聖剣が、最強の俺様がぁぁぁぁ!」
フリードは自らの打つ手が少しずつ、しかし確実に封じられていく事で、次第にヒステリーを起こし始めていた。
「……統合された聖剣に苦戦していると思って急ぎ駆け付けて来たのだが、私はいらなかったか?」
そこに急いで駆け付けて来たのか、少し息が弾んでいるゼノヴィアが立っていた。私は彼女に確認を取る。
「あら、ゼノヴィアだったかしら。もう大丈夫なの?」
「あぁ、アーシア・アルジェントのお陰でね。悪いが、私も参加させてもらうぞ」
既に破壊の聖剣は失われている筈だけど。ゼノヴィアの答えを聞いて不安になった私は早速「探知」を使う。……お陰で、実は個人的に色々と先を越された事やそれとは別に学園の外で相当に不味い事態になっている事も判明したけど、学園の外で起こっている事態については彼女に隠しておかないと不味いだろう。それを誤魔化す為に、あえて彼女自身の切り札と二人の本来の役割について言及した。
「成る程ね。教会が何故貴女達を選んだのか、よく解ったわ。主力はあくまで貴女、イッセーの幼馴染は貴女のサポートだったのね」
「何故そこまで解ったのかは解らないが、まぁそういう事だよ。では、行かせてもらうぞ」
……確かに、
「えぇ。ソレを持っているなら、問題はないわね」
そして、ゼノヴィアも参戦する為に祐斗の元へと向かった。……彼女がこちらから離れたのを確認した私は、密かに匙君を近くに呼び出す。
「匙君、こちらに来なさい。貴方にやってもらいたい事があるの」
匙君は私の声に気がついてこちらに近づいて来ると、何の要件を尋ねてきた。
「何ですか、グレモリー先輩?」
……今、ここで声に出して説明して万が一ゼノヴィアの耳に届いたら、おそらく動揺するだろう。だから、彼にしか使えない方法で要件を伝える。
「今から私が「探知」を発動するから、貴方は黒い龍脈で私の魔力を分別して「探知」の魔力だけを吸収しなさい。今の貴方にはそれができる事が解っているわ。それで、私の言いたい事が貴方に伝わる筈よ」
私の指示を聞くと、匙君は表情を険しい物に変えて私の意図を確認してきた。
「木場、じゃないですね。あの聖剣使いか。彼女に気づかれると、そんなに不味い事なんですか?」
……流石ね。イッセーをして「勝つには力や技以上に知略で勝る必要がある」と言わしめるだけはあるわ。魔獣の群れとの戦いの時もそうだった。彼は複数の太いラインを束ねて強力な鞭とする一方、別のラインを極限まで細くする事で動きを拘束したり、切り離して辺り一帯に様々な形のワイヤートラップを仕掛けたりと「糸」としても巧みに使用していた。特に、戦闘用の「探知」を使っても把握が困難なくらいに複雑に張り巡らした糸状のラインを少し操るだけで、三頭のケルベロスの首を全て締め上げながら空中に宙吊りにした後、軽くラインを弾く事でまとめて絞め殺した時には寒気すら感じた。
……彼は自分の仕掛けた大量かつ複雑に入り組んだラインがどんな状態でどう連動するのか、その全てを完璧に把握しているのか、と。
それを思えば、今の匙君はもはや朱乃や小猫はおろか私やレイヴェルすら超えて、今の祐斗やセタンタ君とすら並び得る程の実力を持っているのだろう。だからこそ、彼に託すのだ。
「えぇ。だから事態を把握したら、すぐに行動に移りなさい。いいわね?」
私の念押しに対し、匙君は即答で承知した。
「解りました。それでは、失礼します」
彼は私が「探知」を発動したのを確認すると、ラインを私に伸ばして魔力を吸収する。……確かに、「探知」の範囲が急速に狭まったのを感じる。彼は吸収する魔力をしっかりと分別していた。私の「探知」の魔力を吸収して間もなく、彼の表情が驚愕のものへと一変する。そして、私に事態の内容とその打開策について把握した事を伝えてきた。
「……確かに、この事態を上手く収めるには、俺の黒い龍脈がかなり有効みたいですね。それと、会長には何と伝えましょうか? 多分ですけど、この役はグレモリー先輩が一番適任ですよ?」
匙君からその「鍵」となるソーナに対する一手について尋ねられると、私はその理由を理解してその為の伝言内容を伝える。
「それもそうね。じゃあ、こう伝えてもらえるかしら?」
それを聞いた匙君は無言で頷くと、すぐさま校門の方へと走り出した。
……もし今、紫藤イリナさんにイッセーのハートを鷲掴みにされたまま「死なれて」しまったら、イッセーは命尽きるまで彼女を想い続ける事になる。そうなれば、私もソーナも永遠に彼女には勝てなくなってしまうだろう。そんな形で勝ち逃げされるなんて、少なくとも私は絶対に認めない。それに、まだ勝負すらしていない内に負けを認められる程、私は諦めが良い訳じゃないもの。
だから匙君、後は頼んだわよ。
Side end
いかがだったでしょうか?
……リアスの「探知」は本当にチートです。
因みに、今回の「探知」によって、リアスは一誠とイリナの間にあった出来事の全てを知りました。
……一誠が大変なのはこれからです。
では、また次の話でお会いしましょう。