赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.6 修正および金髪黒人の年齢を変更


第二十二話 届いた「想い」

Overview

 

 駒王学園の外で発生した異常事態に対して、リアスがその対処法を元士郎に授けて差し向けた頃、参戦の許可を得たゼノヴィアは祐斗の隣に立つと聖剣の統合体を携えたフリードと対峙した。そして、ゼノヴィアはそのまま祐斗に声を掛ける。

 

「グレモリーの騎士(ナイト)、私も参戦させてもらうぞ」

 

「それは結構だけど、武器はどうするんだい?」

 

 ゼノヴィアに声を掛けられた祐斗が先程のリアスと同様の疑問をゼノヴィアにぶつけると、ゼノヴィアはその答えを祐斗に伝える。

 

「何、今から取り出すことにするさ。……驚くぞ?」

 

 そう言ってから、ゼノヴィアは右手を横に広げて言霊を唱え始めた。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス。そして聖母マリアよ、我が声に耳を傾けてくれ」

 

 その言葉と共に空間が歪み、そこから鎖に繋がれた一本の剣が現れる。すると、ゼノヴィアは剣の柄をその手に取った。

 

「この刃に宿りし聖人(セイント)の御名において、我は解放する。……デュランダル!」

 

 ゼノヴィアがその銘を呼ぶと共に繋がれていた鎖が砕け、剣の力が解放される。

 

 ―― デュランダル。

 

 エクスカリバーと同じ位に有名で、なおかつ最高位の聖剣である。その刃から放たれるオーラがとにかく攻撃的で、見る者には如何にも暴れ馬といった印象を与えていた。

 

「バカな、デュランダルだと! 貴様はエクスカリバーの使い手ではないのか! いや、そもそも私ですらその領域にはまだ研究が及んでいないというのに……!」

 

 バルパーは驚愕の表情を浮かべているが、彼が驚いたのはこれからだった。

 

「私は元々、生まれついてのデュランダルの担い手だ。エクスカリバーについては、あくまで兼任していただけだよ。そしてエクスカリバーを破壊しなければならない事態になった時の為に、聖剣使いの中で最高の破壊力を持つ私が派遣されたという訳だ」

 

 ゼノヴィアによって明かされた事実に、バルパーは完全に言葉を失う。

 

「何ですか、そのご都合主義! そんなチートは今、お呼びじゃねぇんだよぉぉぉ!」

 

 一方、フリードは完全に自棄になって、統合した聖剣の全ての能力を一度に発動しようとした。

 

「ガハァッ!」

 

 しかし、とうとう限界が来たのか、体が力に耐えられず大量に吐血する。それでも能力自体はしっかりと発動した様で、幾つもの枝分かれした刃が幻覚を見せながら透明になり、神速の速さで破壊の波動を纏いながら二人に向かって突き進む。

 

「ギャハハハハ! ざまぁみろ! コイツはもう俺様でも止められねぇ! クソ悪魔もクソビッチも、そのまま揃って死んじまえぇ!」

 

 フリードはもはや精神の均衡を失っているのか、狂った様に嘲笑している。だが、祐斗は何処までも冷静だった。

 

「それは御免被るよ」

 

 ―― 一閃。ただそれだけで、フリードによって起こされた聖剣の暴走は全て抑えられる。

 

「複製された七本のエクスカリバーが持つ能力の根源は、何処まで行っても「核」であるオリジナルの欠片から供給されるオーラだ。それさえかき消してしまえば、全てが無意味と化す」

 

 聖剣の統合体を完全に制してみせた祐斗に、ゼノヴィアは感嘆の声を上げた。

 

「見事だ、グレモリーの騎士(ナイト)。いや、木場祐斗。次は私の番だな」

 

 そして、ゼノヴィアのデュランダルの一撃が枝分かれしたエクスカリバーの刃を砕く。それによって、フリードの嘲笑は完全に止んだ。

 

「所詮は一度折れた聖剣。デュランダルの相手にもならなかったか。これなら、エクスカリバーの子である天龍剣の方が明らかに上じゃないのか?」

 

 ゼノヴィアは統合したエクスカリバーの呆気無さに、少々落胆している。それに対し、祐斗の反応は随分とサバサバとしたものだった。

 

「まぁあれは赤龍帝の聖剣でもあるからね、比べる事自体が間違っているよ。……それじゃ仕上げだ」

 

 そして、祐斗はそのままフリードに向かって攻めかかる。

 

「迷いも疑いも躊躇いも捨て……」

 

 ゼノヴィアによって戦意を完全に喪失したフリードは、慌てて擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の能力で攻撃する。

 

「立ちはだかる困難を全て乗り越え……」

 

 しかし、祐斗はその攻撃の全てを完全に見切り、聖魔剣を振るう事無くミリ単位で躱しながら更にスピードを上げて接近する。それを見たフリードは恐れを抱いて、反射的にエクスカリバーを盾にしようと身構えた。

 

「ただ打倒の念と共に敵に踏み込み……」

 

 祐斗はそれには一切構う事無く、鋭くフリードの懐へと踏み込む。

 

「己の心魂を剣に重ねて振るうのみ!」

 

 そして、一切の迷いのない祐斗の一閃がエクスカリバーごとフリードを斬り裂いた。斬られたフリードは、そのまま力尽きた様に倒れていく。倒れたフリードから戦う力と意志が完全に失われたのを確認した祐斗は、残心を解いてから聖魔剣を天に掲げて「家族」と己の師匠に最終報告をする。

 

「皆、見ていてくれたかい? 僕達の絆は、確かにエクスカリバーを超えていたよ。そして、「騎士」としての我が偉大なる師匠(マスター)、レオンハルト卿。僕の望んだものは、確かに師匠の仰った通りの場所にありました。師匠のお導きに心から感謝します」

 

 ……祐斗は今、聖剣との因縁にあらゆる意味で決着をつけた。

 

 一方、その頃。

 

 駒王学園の外において結界構築を担当していたソーナ・シトリーはその装いを駒王学園の夏服から大きく改め、盟友から譲られた煌龍剣レイヴェルトの他に両端に波飛沫を模った鍔と刃を持つ銛をその手に持って構えていた。

 ……そして、彼女の前に立っているのは、流し込まれた光力によって崩壊しつつあった魂が逆に光力に適応した為に、純粋なる神の(しもべ)にして「個」を持たない群体としての天使と化したイリナだった。

 

 時間は、聖剣の統合体を使用したフリード・セルゼンを聖魔剣で追い詰める祐斗にゼノヴィアが合流する頃にまで遡る。

 

「不浄なる者に天の裁きを」

 

 イリナはこの言葉以外全く何も発しようとはせずに、遠慮も容赦もなく学園の外にいた結界構築班に襲いかかっていた。イリナが使用していたのは天使や堕天使が扱う物としては一般的な光の剣であり、その圧倒的な相性の良さから壁役である小猫と翼紗の防御を抜き、更にスピードとテクニックを重視し、聖剣使いに任じられる程に鍛え上げられた剣技が「個」のない状態でも残っているのか、長刀(なぎなた)を得手とする椿姫と日本刀を扱う巴柄を圧倒する。ただし、まだ光力の扱いに慣れていないのか、それ以外の使い方をしていなかった事から、魔力の扱いに長けたソーナと朱乃を主体とし、桃と憐耶がそれをサポートする形で距離を置く戦い方に切り替えた事で何とか膠着状態に持って行く事ができた。しかし、朱乃は現状を鑑みて、自分達が圧倒的に不利であると悟っている。

 

「不味いですわね。このままでは、こちらが圧倒的に不利ですわ。何せ、向こうが新しく得た光力を持て余しているからこその膠着状態。時間が経って光力に馴染み、本格的に使い始めたら……」

 

 一方、長刀を得手とする為に前衛にいる椿姫もまた、今の戦い方ではそう持たないと確信していた。

 

「会長。いえソーナ様、ご決断を。もはや、無力化などと甘い事を言っていられる状況ではありません。むしろ、死力を尽くして彼女を討ちに行かなければ、殺されるのはこちらです」

 

 ……そう。ソーナはその場にいる全員にイリナの無力化を指示していた。一応、聖剣使いを悪魔が討ったとなれば三竦みに与える影響が大きいという政治的な理由があるが、それ以上にイリナを殺したくないという個人的な思いがソーナの中にあるのは、誰の目にも明らかだった。

 しかし、このままでは誰かが必ず犠牲になる。特に、現在は極めて強力な封時結界の展開と維持に全力を注いでいるはやてがその犠牲になった時には、コカビエルとの戦いの余波が現実世界に多大な損害を与える事になってしまう。それでは、コカビエルと戦って勝利したとしても、何の意味もない。それが解ってしまう為に、ソーナは酷く苦悩していた。

 

 ……レイヴェルトを強制的にイリナに返還する事で、天使となったイリナの「聖」とレイヴェルトに宿る自分の「魔」を相殺する事でイリナの意識を取り戻せないかと考えたが、ソーナはすぐに却下した。

 

(まず、悪魔である私は自前の()(どう)(りき)を持ち得ない為、返還そのものができない。また仮にできたとしても、今のイリナは聖書の神の(しもべ)として「個」を失った純粋なる天使である為に「魔」を取り込んだ瞬間に自己消滅もしくは堕天に至る可能性の方が遥かに高い。しかも「個」を持たないままの堕天である以上、おそらくは欲望のままに暴れ回る「はぐれ」悪魔とそう変わらない筈)

 

 そこまで考えると、レイヴェルトの返還はむしろ事態を悪化させる。ソーナはそう判断した。そこで、ソーナは今のイリナが一誠を発見した時、どういう行動を取るのかを考えてみた。

 

(……このイリナが一誠君を見れば、間違いなく一誠君を排除しようと襲いかかる筈。一誠君は「聖」と「魔」、「龍」の三種の力を完全に共存させた逸脱者(デヴィエーター)であり、その様な存在を聖書の神が認めるとはどうしても思えない。でも、一誠君と殺し合う事を事をイリナが望むの?)

 

 そこまで考えて、ソーナは首を横に振った。

 

(いえ、そんな事をイリナはけして望んだりはしない。それどころか、一誠君を守る為に「自分を殺して」と懇願してくる筈)

 

 ……ソーナはそこで思考を打ち切った。

 

(まただ。また最終的には「イリナを討つしかない」という結論に至ってしまう。それではいけないのに。何とかして、せめてイリナの心だけでも元に戻す方法を考えなければならないのに……!)

 

 そうやって何度もイリナの心を元に戻す為の方法を模索しても、最終的には「それよりもイリナを討つ事で魂を解放してやるべき」という結論に行き着いてしまうソーナの思考は、次第に手詰まりになりつつあった。

 ……何か、変化が必要だった。この場にいる者からではけして得られない、大きな変化が。そして、その変化はまずソーナの内からやってきた。

 

《主よ。何故、汝は力を使わぬ?》

 

 精神感応で突如呼びかけられた声にソーナは驚いた。そして攻撃を仕掛けるイリナに対処しつつ、精神感応で応える。

 

〈ゾーラドラゴン! ……しかし、レイヴェルトはまだ使いこなす事が〉

 

 ソーナはまだ受け取ってから一日しか経っていない上に剣については全くの素人である事からレイヴェルトを使いこなせない事を伝えるが、ゾーラドラゴンにはかえって呆れられてしまった。

 

《何を言っている? 我が使えと言っているのは……》

 

 そして、余りに意外な言葉がゾーラドラゴンから齎される。

 

《魔動力だ》

 

 このゾーラドラゴンからの言葉に、ソーナはあり得ないと声を荒げて反論した。

 

〈何を言っているのですか! 原始的な力である魔動力は、人を超えた存在である悪魔の私には扱えない。それは貴方も承知の事でしょう!〉

 

 このソーナの反論に対し、ゾーラドラゴンは静かに真実を伝え始めた。

 

《少々誤解している故に教えておこう。魔動力とは、本来は誰もが持ち得る「想い」によって生まれる力。ただ、同時に生命としてより根源的な所から発生する力でもあるが故に、霊的に高次元な存在になればなる程、生命の根源からは遠ざかる。それが、人を超えた存在が魔動力を扱えぬ理由。されど、人を超えた存在もまた「想い」を持つという点で人と等しき生命。故に、人よりも遥かに離れた距離を超えて根源へと近づく事ができた時、魔動力は自ずと目覚める》

 

 この真実にソーナは驚愕し、そしてある事実に行き着く。

 

〈待って下さい! ……という事は、私がイリナからレイヴェルトを継承できたのは、何もイリナの魔動力を譲られたからだけではなく〉

 

 ソーナが行き着いた事実をゾーラドラゴンは肯定し、そして魔動力への覚醒を促した。

 

《然り。汝もまた先代の主から譲られた魔動力を切っ掛けとして、魔動力に至る道筋を得られたが故。さぁ今こそ、己の心にある光と向き合え。そして感じるのだ。大地の鼓動を、風の調べを、そして水の流れを。さすれば、汝の魔動力が真なる目覚めを迎えるであろう》

 

 しかし、ソーナは己の生まれ故にそんな物があるのか困惑する。

 

〈私の心の中にある光。しかし、悪魔である私にその様な物が……〉

 

 このソーナの迷いを読み取ったゾーラドラゴンはソーナを一喝した。

 

《迷いある内は魔動力を引き出せぬ! 魔動力は、純粋な想いにこそ反応するのだ!》

 

〈純粋な想い……!〉

 

 己の中にある純粋な想い。それを見つめ直す為、ソーナはその場で瞳を閉じた。その瞬間、イリナは隙ありと見て、今までにないスピードでソーナに迫る。完全に不意を突かれた格好となった為に、この奇襲には誰も反応できなかった。

 ……イリナがソーナとの間合いを詰め、光の剣を振り上げるまでの僅かな時間の中で、ソーナは自分の中にある純粋な想いを確認していた。

 

 それは、「身分に分け隔てないレーティングゲームの学校を作る」という大きな夢。

 

(……大地の鼓動は聞こえてこない)

 

 自分の家族や眷属達、幼馴染のリアス、盟友イリナに対して抱く親愛の情。

 

(……風の調べも見えてこない)

 

 そして、もはや永遠のものと化した兵藤一誠への愛。

 

(……でも、水の流れが私の心に語りかけてくる)

 

 自分の中にある純粋な思いを今一度見つめ直したソーナは、やがて自分の中で芽生えていた新しい力を感じ取る。

 

〈確かに感じる。私の中に芽生えた、自然と深い所で繋がっている新しい力を。生まれ持った魔力とはまた違う、少々原始的で野蛮といった印象がなくもないですが、それ故にとても力強くて温かな力を!〉

 

 ソーナが魔動力に目覚めたと確信したゾーラドラゴンは、最後のアドバイスをソーナに送る。

 

《さぁ! 主よ! 心の中に浮かんだ呪文を、ありのままに唱えるのだ!》

 

 ソーナはゾーラドラゴンの言葉に応じると、閉じていた瞳を開けて心に浮かんだ呪文をありのままに唱えた。

 

「ドーマ・キサ・ラムーン……! 魔動力、チェーンブレイカー!」

 

 その瞬間、二本の渦巻く奔流がソーナの目の前の地面から吹き出した。光の剣を振り下ろそうとしたイリナは攻撃を中断して距離を置く。それを見たソーナは二本の渦巻く奔流を両手に掴むと、まるで鞭の様に振りかざしてイリナにぶつけた。まさかその様な攻撃を仕掛けるとは思っていなかったのだろう。イリナは光の剣でどうにか防御するも、チェーンブレイカーの勢いに負けて後ろに大きく吹き飛ばされる。

 今まで見た事も聞いた事もない力を使ったソーナの姿に、朱乃達グレモリー眷属の居残り組はおろかシトリー眷属でさえも驚きの余り声が出ない。一方、魔導力の発動に成功したソーナはある種の感動を覚えていた。

 

「使えた……! 悪魔である私にも、「魔」を「動」かす根源的な力が! 一誠君と同じ魔動力が!」

 

 しかし、世の中は早々上手い話ばかりではない事をすぐさま思い知らされることになる。

 

《そして今、汝が魔動力に目覚めた事で汝の魔力と魔動力が一つとなり、その力はより高みへと上る事となった。また、我は汝を主として正式に契約を交わし、主の魔動力に我が力である闇を祓い退ける浄化の光を付与する事となる》

 

 ゾーラドラゴンとの契約とそれに伴って得られる力。ソーナは事態が良く解らず、ゾーラドラゴンにどういう事なのかを確認した。

 

〈どういう事ですか?〉

 

 このソーナの問いにゾーラドラゴンはレイヴェルトに関する真実を語り始める。

 

《そもそも、煌龍剣レイヴェルトとは唯の武器に非ず。主の魔動力を目覚めさせる為のいわば補助器でもある。そして、我は主が魔動力に目覚めた後は主と契約を交わし、その支えとなる事が求められた。しかし、先代の主は存在こそは兵藤一誠から聞かされていたものの、己の魔動力と直接向き合う機会に恵まれなかった為に、魔動力の真なる目覚めには至らなかった》

 

 ゾーラドラゴンからレイヴェルトの本来の役目を聞いたソーナは、その数奇な巡り合わせの結果、一誠が本来望んでいた事が叶わなかった事に思い至った。

 

〈そして、イリナからレイヴェルトを譲られた私が魔動力を目覚めさせる事になった、という事ですか。……一誠君は、本当ならイリナに魔動力に目覚めてもらい、その上で貴方の浄化の光の力を手にして欲しかった筈です。それが回り回って、一度はイリナから想いと力を託された私が、悪魔としては余りに特異な力を得る事になるなんて》

 

 そして、今や完全に自らの相棒となったゾーラドラゴンに幾つかの疑問点について確認する。

 

《ゾーラドラゴン、確認します。水の魔力を得手とする私の魔力と一つとなっている事から、私が扱えるのは「力の回復」を司る水の魔動力のみ。また私と正式に契約した事によって、貴方は宿代をスーパーエルディカイザーから私へと変えた為、煌龍剣レイヴェルトは本来の役目を終えて喪失している。……そうですね?〉

 

《然り》

 

 ゾーラドラゴンの肯定を聞いた瞬間、正に天啓というべき発想がソーナの中に浮かんだ。そして、ゾーラドラゴンにもう一つだけ確認を取る。

 

〈では、もう一つだけ。貴方は、私の命令を何処まで許容できますか?〉

 

《我が為し得る事であれば、その全てを許容しよう》

 

(……だったら、いける)

 

 そう判断したソーナは、ある命令をゾーラドラゴンに下した。

 

《それが主の意志なら、我に異存はない。だが、良いのか?》

 

 ゾーラドラゴンは主の意志を確認するが、ソーナの決意は変わらなかった。

 

〈えぇ。構いません。やはり他の方に贈られた物を横取りするというのは、余り良い気がしません。まして、それが一誠君が心を込めてイリナに贈った物なら尚更です〉

 

《承知した。我は主の命に従おう》

 

 ゾーラドラゴンが自分の命令を遂行する意志を示した所で、ソーナは遂に決断する。

 

「イリナ。これでやっと本来あるべき形に戻せそうだわ。一誠君を巡って、私達が勝負するのはそれからよ」

 

 そして、ソーナは心に浮かんだ新たな呪文を唱える事で更なる魔動力を発動させた。

 

「ジーク・サラ・フリーズ……! 出でよ、ウェーブカイザー!」

 

 呪文の詠唱が終わると、ソーナの目の前に巨大な水のドームが噴き上がった後、中央から二つに割れていく。その水のドームが割れた場所には、両端に刃を備えて水飛沫を模った鍔を持った一本の銛が浮いていた。

 

 ……魔動力の奥義である物質の形成に伴う、神の武器の召喚。ソーナが呼び出したのはその一つである水の神の銛、ウェーブカイザーだ。

 

 ソーナが目の前で浮かんでいるウェーブカイザーを右手で掴んだ瞬間、ソーナの装いが駒王学園の夏服から水の魔動戦士の法衣へと一瞬で変わり、同時にソーナの体から光の球が飛び出して一本の剣となる。白金の浄化の光を放つその剣は、本来の役目を終えてスーパーエルディカイザーへと戻った筈のレイヴェルトだった。ソーナはそれを左手で掴む。

 

「イリナ。少々痛い目を見てもらいますが、我慢しなさい。今、そうやって望みもしない事をやらされているよりは遥かにマシだと思いますから」

 

 ソーナは盟友を救う為、今はあえて盟友と真っ向から戦う選択肢を選んだ。……それが、更なる変化を外から呼び込む。

 

「光力を流し込んだ時にあのお嬢さんが過剰に反応したのがどうにも気になって、いざ魂の波動を辿って様子を見に来てみれば、まさかこんな事になっているとはなぁ……」

 

 駒王学園の校門に続く道路に立っていたのは、ジーンズに半袖のVネックシャツと随分とカジュアルな服装をした三十代半ばと見られる黒人男性だった。190 cm程とかなり高めの背丈としなやかで長い四肢に反して肩幅がそれほど広くない為に、何処か細身の様な印象がある。……だが、彼の容姿における最大の特徴は、黒人としては珍しい金髪碧眼である事だった。

 

「お嬢さんに対する俺の見積もりが甘かったのが、そもそもの原因なんだ。だったら、俺がどうにかしねぇと駄目だろうぜ」

 

 ジーンズのポケットに手を突っ込みつつも申し訳なさそう視線でイリナを見ている彼からは、天使や堕天使と同様でありつつも標準からは逸脱した強大な光力が発せられている。

 ……ソーナは、彼の存在を認識した時点で全滅すら覚悟した。この場にいる者で彼とまともに戦えるのは、封時結界の展開維持を投げ捨てたはやてだけだと見越したからだ。しかし、金髪碧眼の黒人はソーナ達を大して気にもかけず、そのままイリナに声を掛ける。

 

「おい、お嬢さん。純粋な天使となった今なら解るだろ? 聖書の神にとって、俺はこの場にいる誰よりも認め難い存在の筈だぜ?」

 

 声を掛けられたイリナが金髪碧眼の黒人の方を向くと、今までとは違った反応を見せた。

 

「主のご意向にそぐわぬ異端は即刻排除する」

 

 このイリナの発言を聞いた金髪碧眼の黒人は思惑通りとニヤリと笑う。

 

「やっぱりそう来たか。そうだ、それでいい。これで落ち着いて、今のお嬢さんの状態を調べられるってモンだ」

 

 すると、イリナは光の剣を振り上げて、金髪碧眼の黒人に襲いかかる。……いや、襲いかかろうとした、というべきだろう。

 

「悪いな。ちょっと胸を触らせてもらうぜ? と言っても、目当ては胸骨にある力の集束点だ。それ以外には触れないし、あくまで医療行為の一環だから、正気に返って「セクハラだ」なんて言わねぇでくれよ?」

 

 何故なら、彼は既にイリナの懐に入って胸骨の中央を指で触れていたからだ。時間にしてほんの数秒程度。しかしこの時、イリナは確かに動きを止めていた。そして、気を取り直したのか、それとも未だに羞恥心が残っていたのか、イリナは自分の胸に触れている金髪碧眼の黒人に遠慮も容赦もなく光の剣を振り下ろす。

 

「よっと」

 

 しかし、その時には彼は既にイリナから離れていた。そして、僅か数秒の接触で得られた情報を整理し始める。

 

「……成る程な。思った以上に状態が良くない。このままじゃもって十分ってところか。どうしてこうなっちまったのか、詳しい話を聞かなきゃいかんな」

 

 情報を整理して得られた結論から、彼はソーナをこの場にいる者達のトップだと判断してそのまま声を掛ける。

 

「おい、そこの悪魔のお嬢さん! このお嬢さんがどうしてこうなっちまったのか、手短にだが詳しく教えてくれ! 今ならまだ間に合うが、このままだとこのお嬢さんの心が完全に消えちまうぞ!」

 

 この金髪碧眼の黒人の言葉に、ソーナは思わずそれが本当か確認を取ろうと声を掛けてしまった。

 

「イリナの心は、まだ残っているのですね!」

 

 このソーナの確認に対して、金髪碧眼の黒人はあくまで冷静に事実だけを伝えた上で重ねて協力を募る。

 

「あぁ! 確認したから間違いねぇ! ただし、もう時間が殆ど残されてねぇぞ! だから、対処法を選ぶ為の詳しい情報が早く欲しいんだ! このお嬢さんをこんなにしちまった俺の言えた義理じゃねぇのは解ってるが、せめてこの不始末に対するケジメだけでも付けさせてくれ! 頼む!」

 

 彼がソーナに向かって頼み込んでいる間、イリナは標的を突然金髪碧眼の黒人からはやてへと切り替えて切り掛かろうとした。しかし、突如四肢を光のラインで縛られると、動きを完全に止められてしまう。……最後の変化が、この場に訪れた。

 

「グレモリー先輩から受け取った情報とはだいぶ異なってきているけど、命令内容を受け取る際に頂戴した「探知」の魔力がまだ有効だったのが幸いだった。お陰で最新の、しかも決め手となる情報が得られた。これで何とかなりそうだぜ」

 

 リアスの命により、グラウンドの戦場を離れてソーナ達の救援に向かっていた元士郎だ。

 

「サジ! 何故こちらに!」

 

 意外な援軍が来た事でソーナが事情を問い質すと、元士郎は端的に答えた上でリアスからの伝言を聞くか逆に確認を取る。

 

「こっちで起こっている異常事態を「探知」で察した、グレモリー先輩のご命令ですよ。それと、会長への伝言がありますけど聞いてみますか? どうも、その必要は既になくなっているみたいですけど」

 

 元士郎は状況から既にその必要がなくなっていると判断したが、ソーナはリアスの伝言の内容が酷く気になった。

 

「……いいでしょう。言ってみなさい」

 

 ソーナが元士郎に伝言を伝える様に許可を出すと、元士郎は内心戦々恐々としながらもリアスからの伝言を口調から真似てソーナに伝える。

 

「では。あ、それと自分の口調を真似て伝える様に言われたので、男の俺では不快でしょうけど勘弁して下さい。「ソーナ! 貴女、いつまでグダグダしているの! さっさと「魔」を「動」かす力を目覚めさせて、匙君と一緒にイッセーの幼馴染を救いなさい! それが無理だって言うのなら、別に構わないわよ? ただ、その時は恋も盟友も捨てた唯の負け犬となって、私がイッセーと結ばれる様をハンカチ咥えて見ているといいわ!」……以上です」

 

 リアスからの伝言を伝え終えた元士郎は、顔色をすっかり青くしていた。

 

(……こ、怖ぇ。何だよ。会長から感じられる、このとんでもないプレッシャーは! これなら、コカビエルの奴を相手にした方がずっとマシだぞ!)

 

 因みに、このプレッシャーを受けて、周りにいた他の者達も大半は元士郎以上に顔色を青くしており、この中では最も豪胆な朱乃ですら「アラアラ」と言いつつも背中に大量の冷や汗を流している。……それだけ、リアスの伝言はあらゆる意味でソーナの心を激しく焚きつけていたのだった。

 

「フ、フフフ。そこまで言いますか、リアス。……いいでしょう。やってやろうじゃありませんか。幸い、こちらもイリナをまだ救えるという事が第三者のお陰で判明したのです。躊躇する理由が何処にもないでしょう。サジ、やりますよ?」

 

 己の主の念押しに、元士郎は少々怖気づいていた気持ちを立て直して承知すると、リアスから齎された手順を説明し始める。

 

「……承知しました。それでは、紫藤イリナさんを救う為の手順を手短に説明します」

 

 なおこの説明の際、元士郎は残っていた「探知」の魔力から得た新しい情報を元に自分で考案した追加手順も併せて提案し、ソーナはそれを承認した。

 

 ……「個」を持たぬ天使となったイリナの救出作戦が、間もなく始まる。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

魔動力覚醒後のソーナの服装ですが、強化前のいわば第一法衣です。彼女がスレンダーな体形だからなのか、脳内で着せてみると男装の麗人といった感じで結構しっくりきました。
……ただ、頭部のサークレットに当たる部分が悩みどころですが。

では、また次の話でお会いしましょう。
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