赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.8 修正


第二十四話 真実

Side:リアス・グレモリー

 

 私が匙君の指示を終えてから祐斗達の様子を窺うと、既に聖剣の統合体は破壊された後だった。祐斗が聖魔剣を天に掲げて最終報告をしているのを見ると、破壊したのは祐斗の様だ。……祐斗は、エクスカリバーとの因縁にようやく決着をつけたのだ。そして、今度は「家族」への誓いを果たす時。祐斗は聖魔剣の切っ先をバルパーに向けて、必殺を宣言する。

 

「バルパー・ガリレイ。僕達の「家族」を始めとする罪無き命を殺めたその報い、今こそ受けろ。……お前の妄想(ゆめ)は、ここで終わりだ」

 

 バルパーは自身が最強と信じたエクスカリバーを木っ端微塵に破壊された事で、恐慌を来たしているらしく、けして有り得ない事を口走ろうとしていた。

 

「馬鹿な……! 「聖」と「魔」が反発すること無く共存しているだと? こんなことはあり得ない! 「聖」と「魔」のバランスが狂っているとしか考えられない! ……そうか! 先の大戦で死んだのは魔王だけではなかった! 神もまた、……ガハッ!」

 

 でも、聞く耳持たぬと繰り出した祐斗の一撃によってバルパーは両断される。祐斗は死に絶えていくバルパーに対し、冥土の土産とばかりに辛辣な言葉を掛けた。

 

「下らない戯言を言う前に、まずは僕達皆が受けてきた苦しみを万分の一でも味わいながら死んでいけ。そして、僕達の「家族」に冥府で永久(とわ)に詫び続けろ」

 

 そして、祐斗は死にかけのバルパーから仇討ちに水を指す様な真似をした者へと視線を移す。

 

「でも、まさか貴方までバルパーを攻撃するとは思いませんでした。何故僕達の仇討ちに水を差す様な事をしたのか、お答え頂けますか?」

 

 ……そう。祐斗がバルパーを一刀両断するのとほぼ同時に、魔力弾がバルパーの心臓を射抜いていたのだ。そして、その魔力弾の色は紅色。私でない以上、その魔力弾を放って祐斗とほぼ同時にバルパーを仕留めたのは。

 

「ルシファー様?」

 

 ……私の兄である魔王サーゼクス・ルシファーだった。

 

「……need to know. 済まないが、これ以外には何も言えない」

 

 お兄様は済まなそうにそれだけを言うと、後は口を閉ざしてイッセーとコカビエルの熾烈な戦いに目を向けていた。祐斗もその態度に何かを感じ取ったのか、自分の一太刀もまた致命傷になった事もあって大人しく引き下がる。それに、お兄様との会話を終えた祐斗の表情からは本懐を遂げたという歓喜などはまるで感じられず、それどころか、ただやるべき事をやったという責任感の様なものしか感じられない。ただ、虚無感とは完全に無縁なのが、せめてもの救いだった。

 

 ……それに、今の私には気になる事がある。

 

 need to know.

 

 その情報を知るべき者のみに知らせ、その必要のない者にはけして知らせないという機密保持の原則だ。ひょっとすると、バルパーの最期の発言はそれに引っかかる物だったのかもしれない。……知りたくないと言うと嘘になってしまうけど、今は余計な事をして騒動を大きくする必要もなかった。だから、この時に感じた疑問は直ぐに私の胸の中に仕舞う事にする。

 

「んっ? これは一体……?」

 

 私がそんな事を考えている中で、祐斗が死に絶えていくバルパーの最期を見届けていると、小さな結晶がバルパーの懐から零れ落ちるのを見つけたので、それを拾い上げる。すると、クー・フーリンの修得したルーン魔術を継承しているだけあって、魔術を始めとする神秘の造詣もかなり深いコノル君がどの様なものかを伝えてきた。

 

「祐斗さん。これ、たぶん魂の一部を何らかの形で削り取った後で凝縮・結晶化したモンだと思います。あえて言うなら、魂の結晶ってところですかね?」

 

 ……魂を削り取る? もはや私達悪魔以上に悪魔染みた所業ね。

 

 私はバルパー達の行ってきた事に対して、改めて憤慨していた。一方、祐斗は怒りの感情を抑えつつ、あくまで冷静に結晶について考えていた。

 

「そんな代物をバルパーが持っている以上、きっと聖剣計画と何らかの関係がある物なんだろうね」

 

 すると、コノル君が数秒程瞑目すると決心した様に一度頷き、聞くに堪えない事を言い始めた。

 

「……祐斗さん、覚悟して聞いて下さいよ? これ、祐斗さんや瑞貴さん、カノン、あと薫の奴と同じ種類の力の波動を放っています。つまり……」

 

 ここまで聞いた祐斗は、この魂の結晶がどういった物なのかを理解した。

 

「これは、僕達の「家族」の魂の一部。……そういう事かい、セタンタ君?」

 

 祐斗が怒りに震えながら出した答えに対して、コノル君は「到底認め難いが認めざるを得ない」といった趣で肯定した。

 

「正直言って、俺も心底認め難いんですけどね。ただそう考えると、コイツが祐斗さん達を皆殺しにした理由ってのも……」

 

 バルパーが祐斗達を皆殺しにした理由。ここまでくれば、私にも理解できた。つまり、祐斗や武藤君達は……! そして、それは祐斗も同じだった。

 

「これを作り出す為、か。でもそうなると、この魂の結晶は一体何の為の物なんだ……?」

 

 魂の結晶が何の為の物なのかを祐斗が考えていると、意外な人物が答えを出してきた。

 

「それは、私の様な天然物でない者が聖剣を扱う為の祝福を受ける際に与えられる物だ。そして、それを体に取り込む事で聖剣が扱えるようになる。……フリード・セルゼンも、おそらくはそれと同様の物を受け入れているのだろう」

 

 ……十字教教会の関係者であるゼノヴィアだった。

 

「ゼノヴィア女史?」

 

 祐斗が声を掛けると、ゼノヴィアは憤懣やるかたないといった表情で祐斗に頭を下げて謝罪した。

 

「済まない。君達聖剣計画の犠牲者に掛ける言葉が、私にはもうこれ以外には見つからない。聖剣を扱う為に教会や天界がここまで人を食い物にしていたとは、正直思いもしなかったんだ」

 

 その表情から、ゼノヴィアが本心を語っているのは間違いなかった。祐斗もまたそれが解っている様で、謝罪は無用だと彼女に伝える。

 

「……この件において、天性の聖剣使いである貴女は完全に蚊帳の外だ。そんな貴女に謝ってもらっても仕方がない。それよりもこの魂の結晶ですが、僕が頂いても?」

 

 この祐斗の確認に対して、ゼノヴィアは二つ返事で了解した。

 

「あぁ、それは構わないよ。私達の任務は、あくまでエクスカリバーの奪還もしくは破壊だ。その様な小さな結晶を回収する様には言われていない」

 

 その言葉を聞いた祐斗は、ゼノヴィアに対して心からの感謝を伝える。

 

「……ありがとう、ゼノヴィア女史」

 

 そして、祐斗は魂の結晶を握り締めると、自分の懐に大切に仕舞い込んだ。それと同時に、私の指示で援軍に向かった匙君が結界の外で待機していた私の眷属達と共にこちらへ駆け寄って来る。おそらくソーナは、役目を終えた匙君に対して戦線復帰と共にこちらに怪我人がいた時の治療の為にアーシアを同行する様に命じ、また治療活動が終了したらアーシアが学園の外へ移動する際の護衛として朱乃と小猫を同行させたのだろう。……という事は、紫藤イリナさんは無事に救出されたという事だった。

 これで、後はイッセーがコカビエルを打ち倒して、神の子を見張る者(グリコリ)に引き渡すだけ。私はこの時、そう思っていた。

 

 ……その想いが、あっさりと裏切られるとも知らずに。

 

Side end

 

 

 

 コカビエルとの戦いは熾烈を極めた。

 

 光の槍の弾幕にはブラッディダガー(仮)で対応し、威力重視の槍についてはクォ・ヴァディスで斬り払い、お互いに間合いを詰めると剣と格闘を用いた白兵戦を繰り広げる。それらの戦闘を全て極超音速機動で行っており、それに伴って発生する衝撃波が幾度となく大地に打ち付けられた。おそらくこの時点でまともに見切れていたのは、サーゼクス様と瑞貴、後は格闘に関する技量の高い祐斗とセタンタぐらいだろう。

 確かに、力の強さは最上級悪魔でも最上位と思われるが、はっきり言ってサーゼクス様には届かないだろう。それだけの力量差がコカビエルとサーゼクス様の間に存在する。ただ、流石に最古参の堕天使な上に古の時代から戦い抜いてきただけあって戦闘経験が非常に豊富であり、お互いの射線の延長上に必ず僕の味方を入れる、テンポを色々変える事で動きを読ませない、少しでも僕に優位な流れになるとその度に戦闘を仕切り直す等、相手の力を抑え込みながら自分の力を最大限に、しかも一方的に振るうという老獪な戦い方を仕掛けていた。

 お陰で、僕は高威力の代わりに発射後の遠隔操作ができない強力な遠距離攻撃や力を込めた斬撃の余波で味方を傷つけかねない事から制御や手数重視のやや軽い威力の攻撃しかできず、コカビエルに中々有効打を与えられていない。しかも、先述した事情からコカビエルからの攻撃を必ず受け止めなければならず、それによって体力を少しずつだが明らかに削られているし、空中戦の経験が段違いでコカビエルが上である事から中々コカビエルを捉える事ができないでいる。

 それらの事情から、僕は未だに全力を出し切れずにいた。なお、実感からすると高めに見積もってもせいぜい六割出せているかどうかだろう。それほどまでに、僕はコカビエルに押さえ込まれていた。

 

 ……強いというよりは、巧い。

 

 それがコカビエルと戦って感じた事であり、その為に現在の戦況は向こうが少々優勢だった。だが、自分よりあらゆる意味で上手である存在を相手取った経験など、それこそ腐るほどある。

 桃太郎さん達について行った鬼退治の旅に、ゼロマルと一緒に歩んだデジタルワールドでの冒険。そして、人間同士の争いでありながら、最後は神に匹敵する存在とすら戦ったゼテギネアにおけるヴァレリア諸島での戦役。それに歴代赤龍帝やリヒト達との模擬戦も含めると、自分より上手の存在を一人で複数同時に相手取った事すら数え切れない程あるのだ。だから、これぐらいはまだまだ余裕を持って対処できる。

 それに、歴戦の古豪であるコカビエルと実際に戦ってみて、彼から色々と学ぶ事が多いと実感した。特に翼を使った攻撃や防御については正に目から鱗であり、翼を生まれつき持っている種族でないと発想自体が出てこないだろう。その為、僕はコカビエルの動きを読む目的もあって、コカビエルの戦闘理論を少しずつだが盗み始めていた。

 そうした戦闘の最中、風の精霊から祐斗が本懐を遂げた事を告げられた事で、僕は祐斗が「家族への行いに対する報いを与える」という宣誓を無事成就できた事に安堵した。

 

「祐斗はどうやら、全てを終わらせる事ができたようだ」

 

 一方、ドライグは祐斗がバルパー・ガリレイにトドメを指す際のサーゼクス様の行動には首を傾げている様だ。

 

『しかし、サーゼクスだったか? あの魔王の行動は少々気になる。特に手助けが必要な場面ではなかった筈だ』

 

 すると、僕とドライグの会話が聞こえていたのか、コカビエルはサーゼクス様の行動に対して納得の表情を浮かべている。

 

「バルパー・ガリレイ、奴は人間としては優秀だ。だからこそ、世界の禁忌に気づいてしまったか。気付いてしまった以上は生かしておくわけにはいかなかったんだが、どうやらサーゼクスも俺と同じ考えだったらしいな。俺に先んじて口封じに動いたか。まぁあの小僧の斬撃とほぼ同時で、余り意味はなかった様だがな」

 

 コカビエルの発言を聞いた僕は、念の為に風の精霊からその時にバルパーが話していた事を聞かせてもらう。その言葉を聞いた瞬間、僕はある事実に思い至った。

 

 ……もしかして、そういう事なのか? しかし、それと思われる出来事が確かにここ最近頻発していた。

 

 神の力の一部と言える神器(セイクリッド・ギア)の力で敵対者である悪魔や堕天使が癒せるという事実。敬虔で信心深いアーシアは精霊に祝福されていたのに神の加護がなかった理由。祐斗の神器に起こった「聖」と「魔」の共存とそれによる聖魔剣という特異的な剣の誕生。……そして、逸脱者(デヴィエーター)となった僕自身。

 

 これらを思えば、聖書の神が本当に健在であるか疑わしい所が多々あった。だが、現実はどうやら僕が想像していた以上に悪かったらしい。そして、それ以上にサーゼクス様は悪魔と呼ぶには余りに優し過ぎる事も解った。本当なら、逸脱者である僕は真っ先に殺さなければならない存在だったのだから。

 ……ひょっとすると、「悪」にして「魔」である筈の悪魔は近い将来、「悪」を捨てて「魔」のみの存在となり、他の種族と共存して生きていく事になるのかもしれない。僕は、これから起こり得る未来予想図をそう見立てた。

 そして、僕の様子が変化した事からコカビエルも僕がその事実に思い至った事を察したのだろう、面白くなったと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 

「その顔、どうやら貴様もこの世界の禁忌に至ったな。まぁ俺の計画を全て暴き立てたんだ、それぐらいは容易に思い至るか」

 

 しかし、この事実はけして広く知らされるべき事ではない。

 

「世の中には、知らされない方がいい事もある。僕は一生、口を閉ざすつもりだ」

 

 コカビエルはそんな僕の態度を見ても、つまらなそうにしているだけだった。

 

「その様な事を俺が信じられるとでも? まぁ俺にとっては、貴様を殺す理由が一つ増えただけだがな。せいぜい足掻けよ、赤龍帝?」

 

 そう言って、コカビエルは手に持った光の剣の出力を更に引き上げた。僕はそれを見て、ドライグに倍加の蓄積具合を確かめる。

 

「ドライグ、どれだけ貯まった?」

 

『十五回だな。お前の地力が最上級悪魔クラスと高いから、攻撃の受け流しや防御を突き抜けた上で奴を殺さずに無力化するにはこれで十分だろう。ライザーの時の様に、神の一撃をも超える威力は流石に要らんからな。……ククッ。奴め。相棒がそもそも倍化を全く発動していない事に、まだ気づいていない様だぞ? そんな無様を晒す様な奴が相棒にケンカを売ってきたかと思うと、可笑しさの余りに片腹が痛くて仕方がないな』

 

 ドライグの返事からどうやら龍拳の準備が完了した様なので、僕はここで決着をつける事を決断した。それと共に結局は出番が無くなりそうなカリスに精神感応で謝る。

 

「それじゃあ、そろそろ決めようか」

 

〈カリス、ゴメンね。エクスカリバーの出番、やっぱりなかったみたいだ〉

 

 僕の意志を受けた二人は、それぞれの返事を返してきた。

 

『あぁ』

 

《いいって、いいって。あんな奴に真聖剣って、何だか凄く勿体ないし》

 

 二人の返事を受けて「いざ決着を」と思い立ったその時、下からゼノヴィアの声が聞こえてきた。

 

「コカビエル! 貴様の手下は全て倒した! 残っているのはお前だけだ! 主の名の元に潔く負けを認めろ!」

 

 しかし、それはゼノヴィアにとっては最悪の一手だった。コカビエルはしばらくの間、何を言ったのか理解できない様に呆気に取られていたが、やがて大声でゼノヴィアを笑い始める。

 

「……フッ、ハハハハハ! 笑える、最高に笑えるな! 神に縋り付かねば何もできぬ教会の狗が、既に居もしない神の威光を嵩に着て、俺に降伏勧告か! もはや滑稽としか言い様がないぞ! 身の程を知らぬ無礼すら気にならん程にな!」

 

 ゼノヴィアは「神はいない」という趣旨の言葉を吐いたコカビエルに対して怒りを露わにした。

 

「貴様、主を冒涜するのか!」

 

 ……不味い。そう思った時には遅かった。まるで面白い事を思い付いたと言わんばかりの表情をしたコカビエルは、禁忌の言葉をゼノヴィアに言い放つ。

 

「貴様はミカエルから聞かされていないのか? いや、如何に博愛主義の奴とて下っ端の狗程度にこの事実を伝えるわけがないな。それなら丁度いい。貴様に一つ、とても面白い事を教えてやろう。先の大戦では四大魔王が死んだのは周知の事実だ。だが真実はそれだけではない! ……神もまた死んだのだ!」

 

 その禁忌の言葉が言い放たれた瞬間、サーゼクス様は焦りを含んだ表情でコカビエルを追及する。

 

「コカビエル! お前は何て事を!」

 

 一方、リアス部長とレイヴェルは偉大な魔王の意外な姿に呆然としている。

 

「お兄様……?」

 

「あのサーゼクス様が、あれ程お焦りになるなんて……」

 

 さらに、セタンタと祐斗はサーゼクス様の行動の理由を理解した。セタンタについては十字教信者ではないのでそこまで衝撃を受けてはいないが、ある意味関係者と言える祐斗はショックを隠し切れないでいる。

 

「魔王ルシファーのあの不自然な行動はそういう事か。まぁ俺は特に十字教を信仰している訳じゃないから、別にどうという事はねぇんですが……」

 

「禁忌に触れた者に対する口封じ、といった所だね。でもそれじゃあ、僕達は居もしない神に仕える為にあんな目に遭ったというのか……?」

 

 瑞貴も薄々感づいてはいた様だが、それでもショックはかなりの物らしかった。

 

「解っていた。一誠が抱えてしまったものを考えると、少なくとも神が健在である筈が無い事にはすぐに行き着いていたんだ。でも、それ以上の事態をこうして生き証人に語られてしまうと、想像以上に堪えるね……」

 

 ……そして。

 

「嘘だ。……そんな事は嘘だ!」

 

 この場にいる者の中では最も信仰心に篤いゼノヴィアは、正に信じられないといった表情だ。……無理もない。複製品とは言えエクスカリバーを任される程の悪魔祓い(エクソシスト)だ。きっと信仰の深さも並々ならぬものが有るのだろう。しかし、それに対してコカビエルが残酷なまでに事実だけを述べていく。

 

「ここで俺が嘘を言って何の得がある? それに証拠ならあるぞ。教会の狗なら知っているだろう。天使の数が全くと言って良い程増えず、それどころか減り続けている事実を。天使は神によって創造されないと、数を増やせない。何せ天使が劣情を催せば、たとえ相手が同族であっても即座に堕天するからな。例外として、特殊な術式を施した上で全く何も考える事も感じる事も無しに交われば、同族はおろか人間とも子を為せるらしいが、そんなものが貴様等の説く愛の賜物とやらか? そして、その様な状況に追い込まれてもなお、神が天使を創造しないのは何故だ?」

 

 自らが得ている天界の事情について語り終えたコカビエルは、その原因が何なのかを自信を持って断言した。

 

「答えはもう出ただろう。そもそも天使を創造できる神がいないからだ」

 

 天使が絶滅の危機にあるにも関わらず、全くと言って良い程増えていない。神の死を語る上においては、確かにこれ以上の証拠はないだろう。

 

《確かに私が生きていた事に比べて、精霊達が私達人間に対してあまり協力的ではないとは思っていました。しかし、それは人々から主への信仰心が失われつつあるからだと思っていましたが、まさか信仰の対象である主がお亡くなりになっていたからとは……!》

 

 ロシウ老師の次でアリスから数えて四代目の赤龍帝である為、おそらくはまだ神の影響が強く残っていたニコラス神父もまた主と崇める聖書の神の死を知って衝撃を受けている。しかし、次の瞬間には己の信仰に対する信念から見事に立ち直ってみせた。

 

《しかし、だからと言って、それで主の愛が失われた訳ではありません。命ある者の意志は、その子孫へと受け継がれていきます。ならば、主の愛は主の子たる私達の中にも確かに受け継がれているのです。それを忘れない限り、主の愛は主の子たる全ての生命の中に朽ちる事無くあり続ける。たとえ主がおらずとも、主が遺された大いなる愛と教えを胸に正しく生き続けることこそが本当の信仰というものです》

 

 この辺りが、神に縋るのではなく確固たる信念と自立心を持って神の教えを説いていたニコラス神父の偉大な所だろう。その意味では、おそらく礼司さんもまた同じ結論を出してすぐに立ち直りそうだ。しかし、残念ながらこの場において真の信仰を貫けるのはニコラス神父だけだ。

 

「アーシアさん、しっかりしろ! 気を確かに持て!」

 

 現に、怪我人がいないか確認する為に学園の中に入っていたと思われるアーシアは、元士郎の声に何ら反応する事無く半ば放心した状態で涙を流しながら呟いていた。

 

「そんな、主が居ない? ……主はお亡くなりになった? それでは、私達に与えられる筈の愛は……」

 

 そんなアーシアの呟きにも、コカビエルは律儀に、そして無慈悲に答えていく。

 

「そんなものは既にない。そもそも与える神がいないのだからな。ただ神の代わりをミカエル達が頑張って務めている為にどうにか信者や悪魔祓いに対する加護は働いている様だが所詮は天使、神の様には上手くいっていない様だな。だからこそ、信徒でも手が届かなければ見捨てられ、或いは神の死の証拠となる事象を起こせば切り捨てられる。本来なら神の創造物にして下僕である存在しか癒せない筈の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)が敵対者である我等堕天使や悪魔共を癒せるのも、そこの小僧がけして相入れる事が無い筈の「聖」と「魔」が共存する聖魔剣を作れたのも、全ては神と魔王という「聖」と「魔」を支えるべき象徴を失った事で世界のバランスが崩れたからだ。そして、その事実を示す証拠を隠蔽するために、天使共は貴様を切り捨てたんだよ。「魔女」アーシア・アルジェント」

 

 ……どうやら、アーシアの事は堕天使陣営でもそれなりに知られていた様だ。だからこそ、アーシアの神器を求めてレイナーレ達が暗躍できたのだろう。だが、その様な事実など今のアーシアにとっては全く関係ない。

 

「……嫌、イヤァァァァァ!」

 

 信じていたものが既に失われていたというアーシアの絶望を伴う慟哭が、駒王学園の空を切り裂いた。

 

 

 

Side:ゼノヴィア

 

「……嫌、イヤァァァァァ!」

 

 アーシア・アルジェントの慟哭が校庭に響き渡る。その感情が余りに強過ぎたのだろう、使い魔と思われる蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)らしき青いドラゴンの子供が自発的に現れて、彼女の身を擦りつける事で慰めようとしている。……使い魔がこうして主の心を守ろうとして自発的に現れてしまう程に、アーシア・アルジェントは今絶望の淵に立たされているのだろう。

 だが、彼女の気持ちが私には痛い程に理解できる。むしろ彼女が泣き喚いていなかったら、私が同じ様に泣き喚いていただろう。

 

 ―― 主が、お亡くなりになっていた。

 

 その事実をコカビエルから告げられ、更に証拠を幾つも並べられた事でそれが事実だと理解した。……理解してしまったのだ。そして、私の中で今まで重ねてきた信仰も、悪魔祓いや聖剣使いとしての誇りも、私が今まで生きて来た意味さえも、全てが崩れ去ってしまった。私はその時、間違いなく絶望のドン底にいた。

 

 その時だ。

 

「違う!」

 

 私の絶望を切り裂く、その声が響き渡ったのは。

 

「神は! ……神の愛は、けして死なない!」

 

 その言葉は、敵対者である筈の主がお与えになる愛の存在を肯定した。

 

「神がこの世界を作ったというのなら、人間を含めた世界中の生命(いのち)は、その全てが神の子だ! ならば、世界を生きる果てなき生命の中に、いつだって神の愛は生きている!」

 

 その強き意志と共に語られていく言葉は、全てを失った私に新たな光を齎していく。

 

「生命は、いつかは消えゆく物だ! それは、神であろうと魔王であろうと変わる事はない! しかしその意志は、その願いは、後に続く新たな生命へと受け継がれていく! それこそが、未来永劫続いていく生命の正しい在り方だ! だから、この世界に生命ある限り、そして受け継いた意志や願いを忘れない限り、神の愛は永遠に世界と共に在り続けるんだ、アーシア!」

 

 ……たとえ、その言葉は私に向けられた物でないとしても。

 

「……イッセーさん?」

 

 アーシア・アルジェントは自分に言われた事が良く分かっていない様な、そんな呆けた表情を見せている。そこで彼はコカビエルに背を向けて彼女の側に降りて行き、頭を優しく撫で始めた。

 

「アーシア。それでもまだ君が絶望すると言うのなら、僕がそれを希望に変えるよ」

 

 次の瞬間、その背に生やした羽が大きく変化する。中央と外側に三枚の大きなドラゴンの赤い羽、左側には四枚の悪魔の黒い羽。……そして、右側には四枚の白い天使の翼へと。

 

「「聖」と「魔」、そして「龍」の力をその身に共存させる事で、世界の全てから外れた逸脱者(デヴィエーター)。そんな僕の存在が、神と魔王の去ったこの世界の新たな希望となる。だから、僕はアーシアに約束するよ」

 

 そして、その驚愕すべき姿となって放たれた言葉が。

 

「旧き世の失われた理が君に絶望を齎すのなら、僕はそれを新たな世界の希望に変える。神と魔王が去った事で初めて為し得る、「聖」と「魔」の和平。そして、天使と悪魔が手を取り合って共に生きていく新たな道。即ち、聖魔和合を体現する僕は、これからそれを世界に齎していく事で残酷な真実を超える為の最後の希望に必ずなってみせると」

 

 彼女と私にとっての福音となった。

 

「……イッセーさん!」

 

 アーシア・アルジェントは、その瞳に輝きを取り戻した。

 

 ……絶望を、希望に変える。

 

 およそ悪魔らしからぬ言葉であったが、実は単なる悪魔では無かった彼が言えば説得力があった。そして、世界のあらゆる存在から逸脱した究極の異端から放たれた言葉をその様に感じ取り、希望を取り戻してしまった私はどうやら「異端」へと堕ちてしまったらしい。だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。それは、きっと彼だったからだろう。

 

 悪魔の力を持ちながら主の愛を肯定し、絶望した信徒に希望を与える。そんな、今は亡き主の様な慈悲深さを持つ異端である今代の赤龍帝、兵藤一誠。

 

 今思えば、この少し前から私は既に堕ちてしまっていたのだろう。しかし、それをはっきりと自覚したのは、きっとこの瞬間だった。……だから、私の絶望を希望に変えて「異端」へと堕とした責任はしっかり取ってもらうぞ。なぁ、イッセー?

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

天使の堕天に関する件については、あくまで原作を見た限りにおける私個人の解釈であり、実際とは異なる可能性があるという事をご了承ください。

では、次の話でお会いしましょう。
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