ゼテギネア編は現在リメイク版もあるシミュレーションRPGの重大なネタバレを大量に含んでいますので、未プレイでこれからプレイしようと思っている方はご注意ください。
追記
2015.11.12 修正
古の昔、
力こそが全てであり、
鋼の教えと
闇を司る魔が支配する
ゼテギネアと呼ばれる時代があった……
これは誰にも話す事のできない、僕の罪の記録。僕だけが知っていた、死にゆく運命にあった命を救おうとした為に歪めてしまった世界の物語。
そして、僕が神の頭脳などと煽てられる下地となり、命を懸けて駆け抜けたヴァレリア諸島における戦乱の軌跡。
……「ハイムの戦役」の物語である。
僕が中学二年生になって間もなくの頃。
気が付いたら、石造りの一室にあるベッドに横たわっていた。そこで部屋に入ってきた年上の少年から話を聞くと、昨夜遅くにこの家の裏庭に突如として光が発生し、姉と二人で駆け付けてみたら、光の繭に包まれた状態で僕が眠っていたらしい。
そこで、その少年に自分の名前を名乗った後で名前を尋ねると、僕は完全に言葉を失ってしまった。
年上の少年の名は、デニム・パウエル。そしてここは、ヴァレリア諸島の南部に位置する港町ゴリアテ。
……僕はゼテギネアという架空の時代のヴァレリア諸島、つまり「タクティクスオウガ」の世界に来てしまっていた。しかも、ドライグやカリス、アリスお姉ちゃんを始めとする歴代赤龍帝と会話ができない事から、「新桃太郎伝説」の世界に行った時と同様に精神が実体を持った状態でこちらに来ている可能性が高かった。幸いにも
僕は、知っている。
近い将来、多数派の民族であるガルガスタン人から弾圧されているウォルスタ人の自由を勝ち取る為、デニムさんは必ず立ち上がる。そして、これを機にヴァレリアの英雄への道を歩み出すだろう。
「タクティクスオウガ」については散々やり込んだので、基本的な歴史の流れや人物像は完全に頭に入っている。それなら、その時に生じるであろう悲劇を少しでも減らせる様に行動する事は十分に可能な筈だ。それでも、このヴァレリア諸島の戦乱を生き抜けるかどうか、正直に言って不安が残っているのだけど。
……しかし、後に僕は己の考えが如何に現実の無情さを理解していない甘ったれたものであったのかを、はっきりと突き付けられる事になる。
デニムさんのハイムの戦役は、海を越えた先にある東の大国新生ゼノビア王国からやってきた聖騎士の一団と邂逅した事で始まった。
聖騎士の一団とデニムさん、デニムさんの姉であるカチュアさん、そして二人の幼馴染であるヴァイスさんがウォルスタ人の指導者であるロンウェー公爵救出に関する話し合いをしている時、僕も同行する事を伝えた。最初はその場にいた全員に反対されたけど、だったら実力を見せればいいとして腕試しの相手に
……ギルダスさんの鋭い振り下ろしを受け流した僕は隙の出来た胴を薙ぎに行くけど、ギルダスさんは一歩後ろに引いて簡単に躱す。
「ホゥ。中々腕が立つじゃないか、坊主! しかも踏み込む際の思いきりの良さ! お前、見かけに寄らずかなり場数を踏んでいるな!」
不敵な笑みを浮かべながら言葉を放つギルダスさんに、僕は袈裟斬りを仕掛けながら言い返す。
「そうでもないと、わざわざ戦場に立ちたいなんて言いません! 自分の命も大事にできない人に、誰かを守れるわけがない!」
そんな僕の言葉を受けて、僕の袈裟斬りを軽々と愛剣であるイセベルクで止めたギルダスさんはますます面白そうな表情を見せる。
「ハハッ! 中々言うじゃないか、坊主! その度胸に覚悟、益々気に入った!」
そう言い放った次の瞬間、表情を険しい物へと一変させる。
「だがな、坊主! お前が殺し合いの戦場に立つには、流石にまだ早過ぎるぜ! 」
そして、今までとは速さが異なる一撃を放ってきた。僕は慌てて受け止めるけど、重さも鋭さも全く違っていた。握り返すのがもう少し遅かったら、剣を跳ね飛ばされて終わっていただろう。
「クッ……! やっぱり強い。これが
ギルダスさんの想像以上の強さを前に、僕はついヴァレリアに住まう者であれば知らない筈の事を口にしてしまった。それを聞いたギルダスさんは、その雰囲気を一変させた。
「おい、坊主。何でそれを知っている? ……いや、今はこの勝負をさっさと終わらせるか。問い詰めるのは、それからだ!」
そして、間違いなく本気で繰り出した攻撃を前に、僕はあえなく剣を飛ばされてしまった。……そう、誰もが思った事だろう。
「チィッ!」
ギルダスさんは手応えの軽さに気付いたのだろうけど、もう遅い。剣をあえて跳ね飛ばされる事で無手となった僕は僅かに体勢を崩したギルダスさんの両手を取り、そのまま合気の要領でギルダスさんを投げ飛ばすと同時にイセベルクを奪い取る。数多ある剣術の中でも二つしかない無手の技の一つ、無刀取りだ。そして、奪ったイセベルクをそのままギルダスさんの眼前に突き付ける。ただギルダスさんが地面に置いた右手を動かそうとしていたので、剣先を更に近付ける事で油断が無い事を改めて示す。……十秒ほど膠着状態が続いた後、ギルダスさんは両手を挙げて降参の意を示した。
「あぁ解った。降参だ、降参。しかし、参ったぜ。目先の勝利に目が眩んだ所に眼潰しの砂でも投げ付けてやって、戦場の恐ろしさって奴を教えてやろうと思ったんだがな。この坊主、油断ってものを全くしないと来た。これじゃ、俺にもう勝ち目はないな」
ギルダスさんはそんな事を言っているけど、僕にしてみればそれはできて当然のことだった。
「剣術において、相手を制しながらもなお心を残して備える事を残心と言います。それができない者に、剣を取る資格はありません。そして、戦場に立つ資格も」
僕が当たり前の事を言ったつもりだったけど、ギルダスさんは違う様に受け取ったようだった。自分達のリーダーである
「……団長。オレはむしろこの坊主を一緒に連れて行くべきだと思うぜ。剣を交えて初めて解ったんだが、この坊主は単純に腕っ節が強いだけじゃない。歴戦の猛者の強かさも持ち合わせている。それなら、こっちの小僧共のフォローを坊主に任せてしまった方がいい」
それは、僕の同行を推薦する内容だった。すると、ランスロットさんは少し悩んだ後、苦虫を噛んだ様な表情で承諾してくれた。
「……ここまで色々な意味での強さを見せつけられた以上、止むを得ないか。確か、イッセイ君だったな。君にも一緒に来てもらう。ただし、戦いそのものは我々が担当するから、後方で待機しておいてくれ」
……ここが落とし所か。
そう判断した僕はランスロットさんの提案を受け入れた。
「解りました。デニムさん、ヴァイスさん、カチュアさん。宜しくお願いします」
こうして、僕はデニムさん達と行動を共にする事になり、人の理想と野望が交錯する戦乱の真っ只中へと飛び込む事になった。
ランスロットさん達の協力で救出に成功したウォルスタ人の指導者であるロンウェー公爵によってランスロットさん達は雇われの身となり、デニムさん達はアルモニカの騎士に任命された。
ただ、僕はウォルスタ人どころかヴァレリア諸島の人間でないことを理由にそれを辞退した。デニムさんのサポートを継続して行う為には、同格になりかねない騎士の称号はむしろ邪魔になりかねなかったからだ。それにこの先の事を考えると、騎士であることに余り意味はないだろう。
また「ゴリアテの若き英雄」として持ち上げられたデニムさん達に対し、忠告する一方で期待していると激励の声をかけてくれたラヴィニスという女性騎士と逢った時、僕はこの世界が僕の知っている世界と完全に同一という訳ではない事を思い知らされた。
その為、デニムさんに預けられた人員の内から数名を諜報員として鍛え上げた後、各地に派遣して自分の持つ知識との齟齬がないか確認する為の情報収集を開始した。今後加速するであろう戦乱の世を、僕たち全員で生きたまま駆け抜ける為に。
デニムさん達はロンウェー公爵から与えられた任務を着々とこなしていった。
ロンウェー公爵の片腕であるレオナールさんを救出した後には死体を弄ぶ邪悪な
その途中、古都ライムで駐在軍に襲われていたヴァレリア解放戦線という反体制派組織の一員であるシスティーナさんを救い出して話を聞いた際、デニムさんは真の平和を望んでいる事を明言した。ヴァイスさんはあくまでそれはウォルスタ人の為の平和としたけど、デニムさんは間違いなくウォルスタを含めたヴァレリア全土の人達を対象として言っていると僕は感じ取った。きっと、この段階からヴァレリアの英雄となる下地はあったのだろう。
そして、ついにこの時が来た。
ロンウェー公爵から、バルマムッサという自治区とは名ばかりのウォルスタ人強制収容所で強制労働させられている五千人のウォルスタ人を武装蜂起させる為の説得任務を任されたのだ。しかも同行者として重臣の一人であるラヴィニスさんも一緒だ。しかし、この任務があくまで表向きのものである事を、僕は知っていた。
……バルマムッサの虐殺。
実際に目論んでいたのは、ガルガスタンの内部分裂とウォルスタの一致団結を促す為のスケープゴートとして、ガルガスタンと偽って住民を虐殺するという狂言策だ。そこで前世からの原作知識だけでなく実際に自分でも情報を集めて精査した結果、ウォルスタは言われている程には優勢でなく、その内に数で勝るガルガスタンに押し返されて敗亡の憂き目に遭うという未来図が見えてきた。そうなると、折角ロスローリアンと結んだ密約の意味がなくなる上、むしろ証拠隠滅を兼ねて向こうから攻め込んで来てもおかしくはない。
だからこそ、それ等が全て見えていたレオナールさんは罪悪感に苛まれつつも狂言策に賛同したのだろう。
……そして、ここでデニムさんとヴァイスさんの道は分かたれてしまった。
選択肢によっては和解する事も可能だけど、二人の様子を見る限りではおそらくデニムさんは拒絶する選択をするだろう。
だったら、ここで仕掛ける。
虐殺に加担するのでなく、拒絶するのでもない。相手から仕掛けられたバルマムッサ住民の虐殺を、住民の救出を任務としてバルマムッサに駆け付けた僕達で未然に防げばいいのだ。
その為に、あえてこちらの動きをそれとなく解る程度に向こうへ流すと共に、バルマムッサの住民はその動きに呼応したという流言を仕向ける。これで、将来の禍根を断つ為にガルガスタンの上層部は暴徒の鎮圧ではなく住民の虐殺へと判断が傾く筈だ。後はその直前にこちらが割って入り、ガルガスタン軍を撃退すれば日和見をしている住民の退路は断たれ、彼等は立ち上がらざるを得なくなる。
……この時の僕は、愚かにもそんな事を考えていた。そして、僕が仕掛けた策は最悪の形で結実する。
ゾード湿原を抜けてバルマムッサの町を目前にした時、僕達は信じられない光景を目の当たりにしていた。
「バルマムッサが、燃えている……?」
呆然とした表情で、カチュアさんが現状を簡潔に言い表す。
……ガルガスタン軍の動きが、余りに早過ぎたのだ。後に、反体制派の討伐の為に準備を進めていた軍勢の全てをバルマムッサに差し向けた事が判明した。そして、この迅速な軍事行動を指揮したのは、民族浄化を是とした強硬派の将軍の一人で「黄土」の二つ名を持つグァチャロである事も判明した。民族浄化を是とする強硬派にとって、僕の流言策は正に渡りに船だったのだ。
目指すべき場所を燃やされるという非常事態を目の当たりにしつつ、カチュアさんの声で正気に返ったヴァイスさんはデニムさんに現状を問い質す。
「オイ、デニム! 一体どうなっているんだ、これは!」
しかし、状況が理解し切れていないのはデニムさんも一緒だった。そして、ようやく思い至った事を口にし始める。
「……まさか、ガルガスタンに先手を打たれた? バルマムッサの住民に蜂起を促すこちらの動きを察知されたというのか!」
デニムさんの言葉に、ヴァイスさんは苛立ちを隠せない。そして、デニムさんにバルマムッサの住民の救助を進言した。
「くそっ! ガルガスタンめ! こうなったら、奴等を撃退して一人でも多くの住民を救助するしかないぞ! デニム!」
このヴァイスさんの進言を退ける理由など、デニムさんには無かった。
「あぁ! もはやレオナールさんが率いる後続を待っている余裕はない! 全軍、進め! 同胞を虐殺するガルガスタンを倒しに行くぞ!」
そして、僕達はバルマムッサへの進軍を再開した。
……こうして、ガルガスタンが自発的にバルマムッサの住民を虐殺した事でデニムさんとヴァイスさん、そしてレオナールさんの訣別こそ防げたけど、バルマムッサの虐殺を防ぐ事ができなかった。
目の前に広がっている、沢山の死。
背中に幾つもの刺し傷のある老人。妻と思われる年かさの女性を抱き抱える様にして倒れている男性。明らかに暴行された跡が見受けられる半裸の少女。家の壁に串刺しにされている小さな男の子。
今まで、少なくない回数で命が死に絶える場面に接してきたけど、今回のこれは間違いなく今までの中で最も醜悪なものだった。カチュアさんは現状に耐え切れずに物影へと駆け込んでしまった。今頃は胃の中の物を吐き戻している事だろう。デニムさんとヴァイスさんはおろか、こちらからの伝令を受けて急いで駆け付けてきたレオナールさんですら、とても顔色が悪い。神聖ゼテギネア帝国との戦いでこういった場面を何度も見たであろうカノープスさんはこの惨状に当てられる事こそないものの、やはり苦々しい表情を浮かべている。
……でも、この場において最も責められるべきは、間違いなく僕だった。自軍の狂言策を防ぐ為に敵を暴発させた結果、この様な惨状を招いてしまったのだから。
僕は、体の震えが止まらなかった。五千人もの命を己の過ちで殺めてしまった罪の意識に、肩にのしかかる責任の重さに、僕は押し潰されそうになっていた。
男性の遺体の側で剣を握り締めた一人の女性が座り込んでいたのを発見されたのは、正にそんな時だった。
「……兄さん」
大体二十歳前後のその女性は、側で横たわっている男性に対してそう呼びかけていた。……その男性の側には、一本の杖があった。きっと足が不自由だったのだろう。そして、その為に逃げ遅れてしまった。
そんな女性に対して、レオナールさんは深く頭を下げて謝罪した。
「済まない。我々がもっと早くバルマムッサに到着していれば、この様な事には……」
このレオナールさんの謝罪を受けた女性は、余りに意外な事を言い出してきた。
「いいえ。兄さんを殺した奴等が言っていたわ。お前達は近い将来に殺処分する事になっていた。それが少しだけ早くなっただけだ。恨むなら、反乱分子に同調しようとした愚かな自分達を恨むんだなって。……遅かれ早かれ、私達は奴等に皆殺しにされていたのよ」
この女性から得られた情報から、デニムさんは敵に動きを読まれていたと結論付けた。……本当は、情報を流す事で暴発するように仕向けた僕のせいなのに。
「やはり、僕達の動きがガルガスタンに読まれていたのか……」
デニムさんの結論を聞いたヴァイスさんがガルガスタンへの怒りの余り、拳を地面に叩きつける。……その怒りを真に向けるべき相手は、その拳を叩きつけるべき相手は、この僕なのに。
「くそっ! 確かに、俺達は住民達にも立ち上がってもらう為にバルマムッサを目指していた。だがな、いくら何でもまだ蜂起するかも解らないうちに住民を皆殺しにする必要はないだろう! これが、これが人間のやる事か! ……ガルガスタンめ!」
ヴァイスさんの怒りの叫びが切っ掛けとなったのだろう。女性は解放軍への参加を志願してきた。
「お願い、私も解放軍に参加させて。兄の仇を討ちたいの」
その女性の目を見たレオナールさんは、渋々といった様相で女性の参加を受け入れた。
「……その目は、もはや説得しても止まりそうにないな。解った。君は私直属の配下としよう」
解放軍の参加を認められた女性は感謝を告げた後、名前を名乗ってきた。
「ありがとう。私はアロセール。アロセール・ダーニャよ」
この名前を聞いた瞬間、僕はもう涙を堪える事ができなかった。
……アロセール・ダーニャ。原作において、バルマムッサの虐殺の数少ない生き残りとして登場する人物である。
僕は結局、何も変えられなかったのだ。そして、どうにか保っていた心の均衡がそれを悟った事でとうとう崩れてしまい、僕はただ子供の様に泣き叫んだ。
突然大声で泣き出した僕をデニムさんやヴァイスさん、レオナールさんはおろか、アロセールさんですら心配そうな様子で見ているけど、そんな資格なんて僕にはない。
……僕は、虐殺を止めるどころか逆に促してしまったのだから。
こうして、僕は僕の愚かさで五千人もの何の罪もない人達を死なせてしまった。この罪は、おそらく一生を費やしても償い切れるものではないだろう。
……だが、だからと言って、自ら命を絶つ事もできない。
命という名の責任を果たすまで、自分が撒いた種の成長を見届けるまで、僕は死ぬわけにはいかないのだから。
ランスロットさんが教えてくれた様に。
いかがだったでしょうか?
……こうして失敗を重ねる事で、少年は少しずつ大人へと成長していくのです。
ただ、今回の失敗は一誠の今後の人生において多大な影響を与えていきますが。