サーゼクス様からコカビエル事件を解決に導いた報奨として、上層部に連なる者達との面会を許可する旨を伝えられた僕は、その中でも僕の話を聞き、また自らの意思を伝えてくれる方達を選んで面会を重ねていった。そうする事で見えてきた冥界の問題点に対し、僕は悪魔創世の頃からずっと冥界を見続けてきた最長老の一人であるエギトフ・ネビロス総監察官と面会、その考えを聞く事を決意した。そして、僕は総監察官に自己紹介をした後、「私は、貴方を超えていく者です」という挑発にも取れる言葉を投げかけた。それを聞いた総監察官は、余り言われないであろう言葉に興味を引かれた様だった。
……これで、感情の中身はともかく、こちらの話に耳を向けようとはする筈。後は、こちらが話す内容次第でどうなるかが決まる。ここで僕はまず総監察官の足跡に少しだけ触れる事で話を始めようとしたが、逆に総監察官から話を切り出されてしまった。
「貴様の望みは「混沌の坩堝と化した現在の冥界をどう考えておるか」。それを儂から聞きだす事だけではないな? それならもっと別の者、例えば初代バアルでも良い筈だ。あ奴も流石にルシファー様の紹介状を携えておれば、貴様との面会を拒否したり、意見を求められても話をせんかったりといった事はできぬからな」
出会い頭に僕の目的が他にある事を的確に見抜いて来た総監察官に、僕は微笑を保ちつつも内心驚いていた。しかし、僕の内心の驚きを見抜いたのだろう。総監察官は人の悪そうな笑みを口元に浮かべて、タネ明かしを始めた。
「フン。
……億を超えるシミュレートを一時間余りという短時間でこなした。しかも戯れと言っていたから、けして本気ではないだろう。確かに、悪魔学におけるネビロスは幾つも持つ特長の一つに未来の予見に長けているというものがあるが、まさか未来予知の様な特性ではなく膨大にして緻密な考察による賜物とは思いもしなかった。
今まで出会ってきた中でも、特に手強い類の人物。そう判断した僕は、腹を括って本当に求めていた物が何なのかを明かす事にした。
「総監察官は悪魔創世の頃から冥界の総監察官を務められ、現在の悪魔社会の礎を築かれた事を冥界に住まう者で知らぬ者など誰もいない事でしょう。それ故、悪魔がいかにして始まったのかも、当然ながらご存知の筈」
僕がここまで話すと、総監察官は得心の入った様な表情を見せる。
「成る程。己の仕える者の
総監察官は僕の思惑の一部を語ってみせつつも、悪魔創世の裏話を語るつもりなどないと暗に示してきた。僕もそれについては百も承知なので、教えてもらう必要はない事を伝える。
「いえ、私もそこまで自惚れてはおりません。そこで、今から諸々の書物や神話を元にした推測を申し上げますので、総監察官にはそれをお聞き頂きたく存じ上げます」
すると、総監察官は少しだけ感心した様な素振りを見せた。
「ホウ。剛毅な事だ。儂から話を聞けば事は済むにも関わらず、その術をあえて選ばぬとはな」
僕は、総監察官のその言葉に応じる形で、答えは自分の力で掴んでみせるという意志を示す。
「はい。ただ与えられるだけの答えに、意味はありません。この類の答えは、自らの力で掴んでこそでしょう」
そこで僕は言葉を一旦区切り、改めて悪魔創世に関する推測を総監察官に話し始めた。
「そもそも悪魔とは、「悪」にして「魔」であると「定義」付けられた存在。そして、その大部分が十字教の神話体系に属している事から、定義付けを行ったのは自らを唯一絶対と謳っていた聖書の神です。それ故、十字教以外の宗教で信仰された、本来なら「悪」でも「魔」でもない筈の神や別の神話系統に属する精霊や聖獣の一部が聖書の神の独断と偏見から「悪」にして「魔」であると貶められ、やがて冥界へと追い落とされた。それこそが、一部の例外を除いた悪魔の原点」
まずは悪魔の原点に関する話をすると、総監察官はまるで子供が勉強の成果を話しているのを聞いている様な素振りで言葉を掛けてくる。
「どうやら、それなりに勉強はしてきた様だな。それについては、正解だと言っておいてやろう。それで?」
総監察官に話を続ける様に促された僕は、ここで悪魔の歴史には記されていないが総監察官がほぼ間違いなく務めたであろう事柄について触れていく。
「ですが、元々は善良な性根であった者達も多く、それ故に「悪」にして「魔」であると一方的に貶められた事を到底容認できなかった事でしょう。当然、それに伴う混乱も相当に大きかった筈。そこで先程申し上げた一部の例外である冥界の精霊としてこの世界に生を受けられた総監察官は、まず悪魔に貶められた者達を落ち着かせる事から始められた。その際、特に際立った力を持った四名の悪魔を頂点にして象徴である魔王に仕立て上げる事で仲間意識を喚起し、一大勢力としてまとめ上げたのは正に妙手と言えるでしょう。しかし、四大魔王を仕立て上げるという大功を成したにも関わらず、自らはあくまで一監察官として権力の中枢から一歩退いた位置にお立ちになられた。それは、当時はまだ悪魔になり切れずにいた者達が暴走しない様に監視し、場合によっては抑え込む為ではないのですか?」
そうして、僕が総監察官に悪魔のトップに近しい地位を得なかった理由について尋ねると、総監察官は僕の推測に含まれる不足分を補う形で答えてくれた。
「少し足りぬな。もしそのまま儂が中枢の一席を占めれば、間違いなく嫉妬する輩が出ておったであろう。まだ立ち上がったばかりで勢力の地盤が固まり切っておらぬ内から権力抗争など、阿呆の極み。目先の利益に飛びついて、奈落の底へと落ちる愚は犯さぬよ。……尤も、貴様もそれは察しておろうに。あえてそれを口に出さぬ事で、儂にそれを語らせたな。賢しい奴よ」
……やはり、見抜かれたか。あえて推論に不足を残した上で相手に不足に対する一石を投じさせる事で、対話を続ける為の取っ掛かりを作る。その為に先程不足を補われた分についてはあえて触れなかったのだが、僕の目的が別にあった事を即座に見抜いた総監察官にとっては余りに解り易かったらしい。「賢しい奴」という言葉の割に面白そうな表情を総監察官が浮かべていた事から、僕はそれを褒め言葉として受け取った。
「そのお言葉、褒め言葉と致しましょう。それで、私が先程申し上げた言葉ですが」
……私は、貴方を超えていく者です。僕は自己紹介の後で言った言葉だが、ここで取り上げる事にする。
「それよ、それ。貴様は、自分を儂を超えていく者であると大言壮語をぬかしおった。その真意、いかにして悪魔が始まったのかを求めた理由を含めて答えてもらおうか?」
総監察官はようやく本題に入ったとして、僕に真意を話す様に詰め寄ってきた。だが、真意を答える前に確認する事が一つあったので、僕は総監察官に確認を取る。
「その前に、一つだけ確認してもよろしいでしょうか?」
僕がそう問いかけると、総監察官は一つ頷いてから承知の意を示してきた。
「よかろう。それについては、儂に答えられるものであれば、答えてやっても良いぞ?」
僕の質問に答えられる物なら答えてやってもいいという言質を取った僕は、聖書の神の死を知り、また今まで得てきた知識を総動員して確信に至った事柄を総監察官との議論の中に遠慮なく投じる。
「悪魔は、悪魔でなくなり始めているのではありませんか?」
総監察官は今までの僕に対する上位者としての態度や表情を僅かに変えて、僕にその答えに至った理由を問い掛けてきた。
「……何故、そう思った?」
僕は総監察官に対して、確信に至った経緯を説明していく。
「今まで悪魔の眷属として様々な契約活動を行う中で、取り扱った契約のどれもが到底悪魔らしからぬ穏やかな内容と代価でございました。人間の欲望を糧とするのなら、分不相応な内容で契約する様に煽り、代価として欲望に満ちた魂を得る方がより効率が良い筈。まずはそこに矛盾があると愚考致しました。また、主を含めた純血悪魔の方達と実際にお会いし、お話しさせて頂いた事で気付いた事がございます。私の主二人も、フェニックス家の方達も、そして魔王であるルシファー陛下ですら、「悪」にして「魔」たる存在とするには余りにも優し過ぎると。既にご存知かと思いますが、私はこの身に「聖」と「魔」、更には「龍」の力を共存させた、それ故に存在自体が聖書の神の死を証明する
僕がそこまで語ると、総監察官はサーゼクス様に対して出来の悪い生徒を叱る様な言葉を漏らしていた。
「……あの小僧、未だに甘さが抜けておらんではないか。魔王がそれではいかんと、一体何度言えば理解するのだ」
零れ出た言葉から察するに、どうやら総監察官は先代も含めた魔王を密かに指導する立場でもあった様だ。そして、僕は推論を改めて口にした上に総監察官と言葉のやり取りをした事でたった今思い至った事を語っていく。
「今、思い至ったのですが、三大勢力の戦争は冥界の支配権を賭けた悪魔と堕天使の戦いに 天界が介入してきた事で三つ巴になったと聞いていましたが、本当は逆ではございませんか? 冥界で領地を二分していた堕天使と争いを起こす事で天界の介入を誘い、自らを貶めた聖書の神を戦場に引きずり出してこれを討ち果たす事で本来あるべき姿を取り戻す。これこそが、先代陛下を始めとする最古参の方々の真の目的だったのではありませんか?」
「……続けよ」
僕が最後に行った問い掛けに対して、総監察官はただ続きを促すだけだった。僕は総監察官のその態度から確かに正鵠を得たと確信して、話を続ける。
「では、続けさせて頂きます。やがて、三つ巴の戦争は私が宿す
僕が最後に僕の考えが正しいかを確認すると、総監察官は初めて表情を大きく変化させた。……それは、疲れ果てた老人が自らの衰えを自覚した瞬間だった。
「全てを見通す神の頭脳、か。小童如きに過ぎた評価と思うておったが、どうやら儂も老いていた様だ。顔を直に合わせ、その言を直に聞いて、そこで初めてその才を理解する等、今までの儂では到底あり得んかったわ」
今までの厳格な監察官から疲れ果てた老人へと雰囲気を一変させた事で、僕は悟ってしまった。
「……では、やはり」
僕のこの言葉に対して、総監察官は頷きながら肯定した。
「そうだ。貴様の言う通りだ。多くの者達に「悪」であり「魔」である事を押し付けた聖書の神が死して以降、少しずつではあるが悪魔の大部分はその本来の姿と精神を取り戻しつつある。特に力無き者達は大戦当時に比べて明らかに穏やかな気性となる等、既に「悪」ではなくなってきておるのだ。……「滅び」の魔力を扱うバアル家は知っているな? あの家に、「滅び」はおろか通常の魔力すらまともに扱えぬ者が御曹司として生まれ落ちた。その話を聞いた時、儂は来るべきものがとうとう来たと悟ったよ。現当主を始めとするバアル家の者達は全く理解できなんだ様だが、全てを見通す神の頭脳を持つ貴様なら解る筈だ」
名門中の名門であるバアル家の御曹司が、家伝の特性である「滅び」はおろか通常の魔力すら扱えない。その事実に、僕は空恐ろしい物を感じてしまう。
「バアル家の御曹司は原点へと回帰した。……そういう事でしょうか?」
それはつまり、悪魔の両親から神に分類されるべき子供が生まれたのだと。内心驚愕しながら行ったこの問いかけにも、総監察官は肯定した。
「その通りよ。バアル家の御曹司は、本来は嵐と慈雨の神であったバアルが本来持ち合わせていた力、即ち神の力を宿して生まれ落ちておる。ただ、その神の力は肉体のみを神に限りなく近づけるだけに留まったのであろうな、鍛えれば鍛える程強くなる代わりに力の波動が外へと出ていかなかったのだ。それに、肉体が神に限りなく近い物であるのを踏まえると、悪魔であって悪魔でないバアル家の御曹司にとって、聖水や十字架といった聖書の神の祝福を受けた物は弱点にはなりえんな。あの分では、たとえデュランダルの様な強力な聖剣で四肢を斬り落とされたとしても、斬り落とされた四肢が消滅する様な事はおそらくなかろうて。だが、伝家の宝刀である「滅び」の特性が御曹司から失われたのは事実であり、それ故に本来なら諸手を挙げて歓迎するべき所を逆に無能と蔑んだ上で母親と共に追放する事になったのだろう」
……何という事だ。バアル家の御曹司である事から、両親は悪魔の中でも特に名門、更には純粋種であるのは間違いない。それだけに、この真実が知れ渡れば、かつてない程の衝撃が冥界を襲うのは避けられない。そして、その先に待っているものは。
僕がそれに思い至ると同時に、総監察官は自らが思い至っていた未来予想図を僕に語り始める。
「これで解ったであろう? 悪魔とは、聖書の神が自らの正当性を謳い上げる為に仕立てた自作自演の狂言劇における敵役として、「悪」でも「魔」でもない者をそうあれかしと強引に定義付けた虚構なのだ。それ故に、虚構を仕立て上げた張本人がいなくなれば、「悪」にして「魔」という存在意義を失って原点へと回帰する。今後はバアル家の御曹司と同様、名家を始めとする純血悪魔の中から原点に回帰した事で「魔」の力すらも持たない者達が続々と生まれ落ちる事だろう。やがて「悪」にして「魔」と呼ばれるべき者が生まれなくなった悪魔という虚構は、ただ
悪魔という種族は、ただの虚構である。総監察官はそう言って話を締め括ったが、僕はここに至って改めて確信する。
「成る程。そういう事でしたか。では、私はやはり貴方を超えていく事になりそうです」
僕がそう断言すると、総監察官は僕が意図した事を正確に理解してくれた様で、納得の表情を浮かべた。
「……ここまで言われなければ、その意を理解できなんだとはな。儂も随分と耄碌しておった様だ。悪魔創世の時と比して、悪魔が悪魔でなくなりつつある現状は己が己でなくなる点において完全に一致する。故に、貴様はこう言うのだな。聖書の神が無責任に押し付け、そして無責任に捨て去った悪魔という虚構を別の形に作り替える事で確固たるものにしてみせる。そして、貴様は今まで儂等が歩んできた道を辿りながら歩みの遅くなった儂等に追い付き、そして追い越してこれからの悪魔と冥界の未来を切り開いていく、と。その言葉、違える事はせぬな?」
この総監察官の念押しに対して、僕は自ら掲げた聖魔和合に絡めながら応える。
「致しませぬ。その上で私が掲げ、天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄を謳った聖魔和合、見事成し遂げて御覧に入れましょう。それに、総監察官は悪魔が虚構であると仰られた。ならば、やがては悪魔であるという心の拠り所を失う事になる者達の為、新たに確固たる拠り所を築き上げねば、聖魔和合を成し遂げたとは到底言えませぬ」
僕が宣誓と共に答えを返すと、総監察官は疲れ切った老人の表情から破顔一笑した後、大笑いを始めてしまった。
「クッ、ハッハッハッハッハッ! 小童! ここまでの大ボラ、この老いぼれに向かってよう吼えた! だが、悪い気はせぬ! むしろ清々しさすら感じられるわ! 儂に向かってこれ程まで声高に吼えた者など、大戦が終わってからはサーゼクスの小僧を含めても誰もおらなんだぞ! 小童! いや、兵藤一誠よ! その雄大なる大志と迸る程の覇気、そして儂のシミュレートを超えてみせた事、褒めてつかわそうぞ!」
総監察官の最大級の賛辞に、僕は少々恐縮しながらも謹んで受け取る。
「お褒めの言葉、恐悦至極にございます」
僕の返礼を受けて満足げに頷いた総監察官は、僕にまだ時間があるかを尋ねてきた。
「ウム。……時に兵藤よ。貴様、時間はまだあるか?」
僕は脳内でスケジュール表を確認した後、特に隠す様な事でもないので正直に答える。
「面会予定時間はもうすぐ終わりますが? ……私個人の都合という意味では、この後にルシファー陛下に復命せねばなりませぬので、後二時間程しか猶予がございませぬ」
僕の返事を聞いた総監察官は、意外な事を僕に持ちかけてきた。
「十分だな。兵藤、貴様が脳裏に描いておる冥界の青写真をこの儂に示してみよ。儂を超えていくと吠えた貴様の器、儂が手ずから吟味してやろうぞ」
……正直な事を言えば、これは本当にありがたかった。冥界と悪魔を知り尽くした総監察官に僕の考えを聞いてもらえるのだ。これが一体どれだけの糧となるのか、僕には想像がつかなかった。だから、心に感じた事をありのままに言い表す。
「望外の幸運、光栄至極にございます」
これは全くの本心だったのだが、総監察官はそれよりも早く話を始める様に僕を急かしてきた。
「謝辞などよいわ。時間が勿体ない、さっさと始めぬか」
この言葉に総監察官の本気を感じ取った僕は、悪魔になって二ヶ月程度で感じた問題点とその改善点について説明を始める。
「では、説明させて頂きます。まず、市民階級の児童教育についてですが……」
……それから二時間後。
僕は総監察官に散々駄目出しを食らった揚句に「顔を洗って出直してこい」という言葉を最後に受けて、ネビロス邸を後にした。
……やはり、上には上が存在する。僕もこんな所で満足せずに、もっと頑張らないといけないな。
僕は更なる精進を重ねる事を決意すると共に、早速修正案を練り始めていた。総監察官に、今度は「見事だ」と言わせてみせる。……また一つ、僕に新しい目標が生まれた瞬間だった。
Interlude
一誠がネビロス邸を退出してしばらくした後、自らの書斎でエギトフ・ネビロスは独り言ちていた。
「フン、兵藤め。才は認めてやるが、まだまだ甘いわ。アレでは幾らでも揚げ足を取られてしまうではないか」
すると、手ずから入れた紅茶の差し入れを持って書斎に入ってきた妻のクレアが、エギトフの態度に対して軽く追及し始める。
「その割には、随分と楽しそうでしたけど? それに、別れ際の「顔を洗って出直してこい」という言葉。私には「修正したら、また訪ねて来い」と言っている様にしか聞こえませんでしたよ?」
実は、彼女は今の様にエギトフが一誠と意見を戦わせている所に紅茶の差し入れを持って来ていた。その為、エギトフが一誠に対してどの様な感情を抱いていたのか、すぐに解ったのだ。
夫同様に髪は完全に白くなり、顔には年相応の皺もあったが、それでもなお美しいと言えるであろう微笑みを浮かべたクレアに対し、エギトフは何ら悪びれる事無く答えを返す。
「それでは、いかんのか?」
夫が素直に答えた事に驚いたクレアは少々の驚愕の後、夫が来客であった少年を気に入った事を悟った。
「どうやら、相当にお気に召された様ですね」
糟糠の妻として永き人生を共にしてきたクレアの言葉に対し、エギトフは自らの願望を語り始める。……それは、冥界に住まう者が聞けば驚天動地どころでは済まない内容だった。
「そうだな。お前さえよければ、子を成せなかった儂等の養子に迎えたいくらいだわ。さぞ扱き甲斐のある義息子になってくれるだろうて」
夫が今まで現在の魔王はおろか先代魔王から薦められても一切受け入れず、また自らもけして口にしなかった養子縁組の話に対して、夫に論戦を楽しませる程の才を持つ少年を気に入っていたクレアはあえて話に乗った。
「そして、ゆくゆくは二代目の総監察官に、ですか?」
そう問いかけるクレアに対し、エギトフは一誠の資質が監察官向きである事を認める事で返事とした。
「政治経済に軍事、技術開発、そして外交とほぼ全ての分野を俯瞰できる視野の広さと絶妙なバランス感覚を併せ持つあ奴であれば、儂の後を継いで冥界のあらゆる部署を監察する事ができよう。それに職務の妨げとなるであろう転生悪魔に伴う主従関係の契約については、儂の義息子とする事で契約を上書きしてしまえば問題あるまい。……いや、あ奴の掲げた「聖魔和合」成立の暁には、冥界だけでなく
もし、一誠と親しい者達がエギトフの台詞を聞いたのなら、きっとこう言うだろう。
……アレでまだ足りないのか、と。
「まぁ、お厳しい事」
クレアはそう言いつつも、顔は穏やかに微笑んでいた。その脳裏には、最愛の夫であるエギトフと義息子となった一誠が冥界の将来について真剣に、しかし楽しみながら意見を戦わせている光景が浮かんでいた。
―― クレア・ネビロス。
聖書の神からの定義付けで貶められた事で冥界へと追い落とされた存在が祖先の大部分を占める悪魔の中において夫と同様に冥界で誕生したとされる、正に真なる純粋種ともいうべき存在であり、また彼女がエギトフと結ばれる前の名は十字教においては口に出す事すら
Interlude end
いかがだったでしょうか?
今回の話で示した拙作の悪魔に関する設定については、悪魔の成り立ちを考えると聖書の神の死が悪魔に影響を与えない訳がないという解釈から生まれたものですが、当然ながら異論・反論を認めます。
では、また次の話でお会いしましょう。