赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.17 修正


第五話

 僕がソーナ会長の伝令としてシトリー邸を訪ねてセラフォルー様に公開授業の件を伝えた、その翌日の放課後。

 

「もう! 前回といい、今回といい、アザゼルは一体何を考えているの!」

 

 オカ研の部室にある実務用の机に、感情に任せて両手を勢いよく叩きつけるリアス部長の姿があった。

 以前、祐斗が堕天使総督のアザゼルから呼び出された事があったのだが、今度は朱乃さんがアザゼルの元に呼び出されたらしい。ただ、朱乃さんのプライベートに深く関わるとの事でリアス部長は僕達にその詳細を話そうとはしなかったが、朱乃さんの顔には普段の笑顔ではなく強い不快感を示す表情があった。……いや。不快というよりは、むしろ戸惑っている様にも見受けられる。一体、朱乃さんとアザゼルとの間で何があったのだろうか?

 ……それは一先ず置いておこう。今はアザゼルの度重なる営業妨害についてだ。悪魔の領地で堕天使のトップが営業妨害を繰り返しているのであれば、流石に神の子を見張る者(グリゴリ)に抗議しない訳にはいかなくなる。それだけに、近い内にコカビエルの件の謝罪を含めた三大勢力の首脳会談を控えているアザゼルが、一体何を考えてこの様な行動を取ったのか、正直に言って理解に苦しむ。それとも、アザゼルにとって、首脳会談で不利な立場に陥っても構わない程の何かが、朱乃さんにはあるのだろうか?

 

 一連の営業妨害におけるアザゼルの意図が何処にあるのかを必死に考えている時だった。

 

「総員、()(れい)!」

 

 覚えのある波長の魔力が展開されようとしている気配を感じ取ったので、僕は全員に跪く様に指示すると同時に自分も部室の空いたスペースの方を向いて跪く。僕が跪くと共に部室の中で魔方陣が展開されたので、グレモリー眷属の古株である朱乃さん、祐斗、小猫ちゃんはすぐに、まだ悪魔の儀礼に馴染みの浅いアーシアとゼノヴィアはキョトンとしていたが他の皆がすぐに跪いたのを見て慌ててそれを真似る形で跪いた。なお、眷属の主であるリアス部長と客分でフェニックス家令嬢のレイヴェルは立礼が許されている為、僕達の向いている方向に向き合う形で席を立っている。そうして出迎えの準備が整うと、展開された魔方陣から思った通りの人物が現れた。

 

「お、お兄様! それにグレイフィアまで!」

 

 そう、リアス部長の兄で魔王ルシファーでもあるサーゼクス様。そして、その眷属で女王(クィーン)のグレイフィアさんだ。グレイフィアさんは以前見た時と同様にメイド姿であるものの、サーゼクス様は魔王としての礼装ではなくスーツ姿である事からプライベートでこちらに来ている事がすぐに解った。しかし、流石に主を差し置いて魔王に声を掛ける訳にはいかないのでここは沈黙を保つ。

 

「やれやれ。姫島朱乃君が心配なのは解らないでもないんだが、今回は流石に少々度が過ぎているな。アザゼルも困ったものだよ」

 

 やや嘆息交じりの言葉を零すサーゼクス様は、リアス部長とレイヴェル以外が跪いているのを見るとすっと手を上げた。

 

(くつろ)ぎたまえ。今日はプライベートで来ている」

 

 そして(かしこ)まらない様に促してきたので、僕達は跪礼を解いて立ち上がる。サーゼクス様はそこで僕を見つけると、妹であるリアス部長より先に僕の方に声を掛けてきた。

 

「さて、イッセー君。事前通達がなかったにも関わらず、こうして私達をしっかりと出迎えていた訳だが、実行するには転移用の魔方陣が展開される前にその前兆を読み取り、更に僅かに零れる魔力の波長でここに来るのが私達である事を見極める必要がある。それ程に魔力の扱いに熟達した者など、この場においては君以外には考えられないな。しかし、プライベートで訪れた私達に対して、流石にこれは少々やり過ぎだと思うのだが」

 

 感心の中に呆れを含ませた様な声のサーゼクス様に、僕も流石に苦笑いで答えるしかなかった。

 

「幾らなんでも、魔力の波長の僅かな差異で服装や心情を読み取れるほど接した機会が多い訳ではありませんよ、サーゼクス様。……尤も、ロシウや計都なら平然とその辺りも読み取ってしまうかもしれませんけどね」

 

 僕のやや砕けた口調での返答に、その場にいた皆は驚愕の表情を浮かべた。それはサーゼクス様の側に控えていたグレイフィアさんも一緒で、驚きの感情が少々顔に出ていた。確かに、公での立ち振る舞いしか知らなかったら、こうなっても仕方がないと思う。だが、こうする理由はちゃんとあるのだ。現に、サーゼクス様は何処かホッとした表情で僕に声を掛けてくる。

 

「命令はしっかりと守ってくれている様だね。イッセー君」

 

 僕と親しげなサーゼクス様の様子を見た皆は、またも驚きを隠せないでいる。尤も、フェニックス邸での出来事を知っているレイヴェルだけは、それほど驚いていなかったが。そうして驚いている皆への説明を兼ねて、僕は普段の態度から変えなかった理由を口にする。

 

「最上位者としての権限で、「公務から離れた時には、普段の言葉使いと態度で接する様に」とのご命令を受けてしまっては、流石に従わない訳にはいきませんからね」

 

 すると、グレイフィアさんの眦が釣り上がり、視線を僕から逸らしてサーゼクス様へと向ける。まるで「その様な事、私は聞いていませんよ?」と追及するかの様だ。だが、その様な視線を一切気にする事無く、サーゼクス様はにこやかに笑いながら話を続ける。

 

「ハッハッハ。だからといって、その様な無茶振りにも程がある命令にも躊躇い無く従ってくれる君も大したものだよ。それに、お互いに大切な妹と可愛い子供、そして何より、誰よりも愛おしいと心から思える女性がいる。共通点が多いから、公務が終わった後で君と垣根を取り払って語らうのが、ここ最近の楽しみの一つになっていてね」

 

 ……確かに、お互いの妹(僕は義妹だが)や子供、そして愛する女性の事に話が及ぶと、意気投合して会話が弾むのは事実だった。その意味では、僕は本来なら主従関係にあるサーゼクス様との間に年齢の離れた気の置けない友人に近い、とても奇妙な関係を築き上げていた。だが、それを面と向かって言われてしまうと、流石に少々気恥ずかしい。

 

「……そう言われると、ちょっと照れてしまいますね。それで、今日はプライベートでこちらに来られたとの事ですが」

 

 僕は話題を変えようと、プライベートで来たというサーゼクス様の要件について尋ねてみた。ここで、リアス部長がようやく正気を取り戻したらしく、僕に続く形で改めて要件を尋ねる。

 

「そ、そうです! お兄様とイッセーが余りに親しげに話をなされていたから、つい呆気に取られてしまいましたけど、どうしてここへ来られたのですか?」

 

 すると、サーゼクス様は今回の訪問について説明を始めた。

 

「目的は二つある。まず一つ目だが……」

 

 そこで一端言葉を切ると、サーゼクス様は僕の方を向いて問い掛けてきた。

 

「昨日、君が何の為に冥界のシトリー邸を訪れたのか。それを考えたら、解るのではないかな?」

 

 ……そういう事か。昨日の件で思い当たる節があるので、僕はそれを返答としてサーゼクス様に伝える。

 

「公開授業ですか。ソーナ会長も実家に知らせるのをかなり躊躇していましたから、ひょっとして……?」

 

 僕が公開授業について触れると、サーゼクス様は物悲しそうな表情を浮かべて溜息を吐いた。

 

「あぁ、その通りだよ。悲しい事に、我が妹リアスは私達には何も知らせてくれなくてね。しかも公開授業の件を教えてくれたのは、何とセラフォルーなのだよ」

 

 サーゼクス様の口から溜息交じりで飛び出してきた意外な人物の名前に、僕は首を傾げてしまう。

 

「あれ? グレモリー眷属のスケジュールを管理しているグレイフィアさんからお聞きしたのだと思いましたけど?」

 

 僕がそう問いかけると、サーゼクス様は公開授業の事を知るに至った経緯を話し始める。

 

「グレイフィアは本日行った会議の後で教えるつもりだったらしいのだが、セラフォルーが会議の前に教えてきたから、一足違いといった所だよ。公開授業の件を教えてきた時のセラフォルーはとても上機嫌でね。眷属であるイッセー君を伝令として自分の元へと送る形で、ソーナが直接教えてくれた事が余程嬉しかったのだろう」

 

 その様な事を言いながらリアス部長をジト目で見ている辺り、サーゼクス様はリアス部長に眷属の誰かを伝令とする事で直接知らせてほしかったのだろう。どうやらセラフォルー様と同様、サーゼクス様も妹のリアス部長が本当に可愛くて仕方がない様だ。可愛がり方が異なるだけで、やはり義妹のはやてが可愛くて仕方がない僕には、サーゼクス様やセラフォルー様の気持ちがよく解る。……解るのだが、可愛がられる側のリアス部長にとっては、どうやらサーゼクス様の愛情が少々重過ぎる様だった。

 

「で、ですが、お兄様は魔王なのです! いくら血を分けているとはいえ、一悪魔の為に魔王の仕事をほっぽり出してくるなんて、絶対にいけませんわ!」

 

 リアス部長はサーゼクス様に対して、公務を優先する様に諫言してきた。……しかし、誰が見ても一人の女子高生が「恥ずかしいから来ないでくれ!」と必死に家族に頼み込んでいる構図にしか見えない。しかも、こういう時には大抵、家族に正論で返された揚句、ぐうの音も出せなくなってしまうものだ。そして、今回もやはりそうなった。

 

「いやいや、リアス。これは仕事でもあるのだよ」

 

 サーゼクス様から飛び出した意外な言葉に、リアス部長は思わず問い返す。

 

「仕事、ですか?」

 

 すると、サーゼクス様は非常に重大な事案を実にアッサリと告げ始めた。

 

「あぁ。先程話題に出た会議において、セラフォルーから「首脳会談を駒王学園で執り行う事で、天界と神の子を見張る者との間で合意を得た」との報告があってね。今回の訪問は、会場の下見を兼ねているんだよ」

 

 ……三大勢力の首脳会談を、この駒王学園で行う。

 

 正に仰天動地といえる事実を知った皆は、一様に驚愕の表情を浮かべている。以前、ソーナ会長から三大勢力の首脳会談をこの地で行う可能性を示唆されていたが、どうやら本決まりになった様だ。

 

「ここで、ですか?」

 

 未だに驚愕したままであるリアス部長から問われたので、サーゼクス様が何故首脳会談の会場をこの駒王学園としたのかを説明し始めた。

 

「そうだ。ここには、魔王の妹であるお前やソーナはもちろん、イッセー君に続く形で「聖」と「魔」を共存させた木場祐斗君、黒い龍脈(アブソープション・ライン)の歴代保持者の中でも最高位に近いであろう匙元士郎君、最高位の聖剣であるデュランダルの担い手とこれだけでも克目に値する要素が揃っているにも関わらず、水氷の聖剣使いと謳われ、十字教教会でも最強の一角と評された武藤瑞貴君に魔導においては最高位に近い兵藤はやて君、更には学園関係者ではないが、かのアイルランドの大英雄クー・フーリンの末裔であるセタンタ・マク・コノル君までがこの地に集っている。ここまで特異な人材が集っている以上、最早ここは一種のパワースポットと言っていいだろう。そして、私が今、名を挙げた者達の中心にいるのが……」

 

 サーゼクス様がここで視線を僕に向けてきたのに合わせて、リアス部長も僕の方へと視線の向きを変える。

 

「……イッセー」

 

 リアス部長がポツリと零す様に僕の名前を呼ぶと、サーゼクス様は説明を再開した。

 

「今回の首脳会談は、イッセー君がここにいるからここで行われる様になった。そう言ってもけして過言ではない。その力の質を「覇」から「和」に変え、更に歴代赤龍帝の意思をも蘇らせた、新生赤龍帝の開祖。ブリテンの英雄であるアーサー王の後継者として一度破壊されたエクスカリバーを真聖剣として再誕させた、二代目騎士王(セカンド・ナイト・オーナー)。「聖」と「魔」、「龍」の三種の力をその身に共存させ、更にはその力の全てを併用できるという、正に異端の極みである逸脱者(デヴィエーター)。そして、その全てを兼ね備え、歴代の赤龍帝によって推戴された全く新しい存在、赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)。これだけの要素を彼は持ち合わせている上に、コカビエルの件では誰よりも大きな功績を残した。それらの事実を踏まえれば、我々はイッセー君の存在をけして無視できないのだよ」

 

 ……こうして改めて他の人から僕の事を聞かされると、我が事ながら「なんてデタラメ!」と思わなくもない。本当に、どうしてこうなってしまったのだろうか?

 

 僕が自分の事について少々悩んでいると、リアス部長は首脳会談に関する事を承知する旨をサーゼクス様に伝える。

 

「首脳会談に関しては、承知致しました。では、もう一つの目的は何なのでしょう?」

 

 リアス部長がもう一つの目的についてサーゼクス様に尋ねると、またしても意外な答えが返ってきた。

 

「リアス。もしもの事態にも対処し得る人材がそこにいるし、お前自身もグレモリーの特性である「探知」を覚醒させる等、以前とは比べ物にならないくらいに成長している。……ならば、今こそ「解放」する時ではないのかな?」

 

 サーゼクス様から出てきた「解放」の言葉に心当たりがあったのか、リアス部長は驚きの声を上げる。

 

「……まさか!」

 

 そのリアス部長の反応を見たサーゼクス様は一つ頷くと、もう一つの目的について話し始めた。

 

「あぁ。首脳会談の開催地に関する報告を受けた会議において、議題に挙がった事があってね。今回の訪問はその会議の決定事項を直接リアスに伝えると共に、それを私が自らの手で執行する為でもあるんだ。そして、その決定とは……」

 

 ここでサーゼクス様は言葉を一端切ると、全員の意識が自分に集まっているのを確認した。それを確認し終えると、決定事項の内容をリアス部長に伝える。

 

「今まで封印されていた、リアスのもう一人の僧侶(ビショップ)の解放だよ」

 

 ……また一つ、何かが動き始めた様だった。

 

 

 

「ギャスパー・ヴラディ。駒王学園高等部1年。元はデイライト・ウォーカーと呼ばれるヴァンパイアと人間のハーフ。所持している神器(セイクリッド・ギア)は、視界に入った対象の時間を任意で停止させる停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)。ただし、神器を使い熟せず、興奮すると暴走して視界に入るものを無差別に停止させる事から身柄を封印。更に永きに渡る幽閉と放浪の際の迫害、そして十字教の吸血鬼ハンターに殺害された過去から悪魔を含めた対人恐怖症に陥っている。……これで、大体合っていますか?」

 

 サーゼクス様が言及したもう一人の僧侶についてリアス部長から説明を受けた僕は、情報が正しいかどうかをリアス部長と朱乃さんに確認を取る。

 

「そうね、間違いないわ」

 

 リアス部長は、僕が覚えた内容に間違いがないことを保証してくれた。

 

「しかし、十字教教会も随分と馬鹿な事をしていますね。ハーフヴァンパイア、というよりもダンピールは味方として迎え入れるのが定石なのに」

 

 僕の呆れ交じりの言葉に、リアス部長達はおろか元は十字教教会の関係者であるアーシアやゼノヴィア、更には魔王であるサーゼクス様やその側近で妻のグレイフィアさんですら目を丸くしていた。僕はその様な皆の反応に少々首を傾げつつ、ギャスパー君の話を聞いていて密かに感じていた事を伝える。

 

「あれ? ダンピールの事、ご存じなかったんですか? 人間とヴァンパイアのハーフの事で、ヴァンパイアを対象とした気配感知とヴァンパイアの不死性を無効化して滅ぼせるという二つの特性を持っているんですよ。しかも、その方法は儀式方式で笛を吹くとかとにかく走り回るとかで結構特殊な物が多いですから、通常の力の使い方だとかえって合わないかもしれませんね」

 

 すると、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が発現する左手が光を発し、ニコラスが話に便乗する形で自分の時代におけるダンピールとはどういった存在だったのかを語り始めた。

 

『それについては、私も一誠の意見に賛同させて頂きますよ。……全く。聖剣計画といい、「天の子(エデンズ・チャイルド)」計画といい、私の後輩達は一体何を考えているのでしょうか? 生死と種族を超えた愛の結晶であるダンピールは、私の時代では命を食らい魂を貶める存在への断罪の刃として尊重されたというのに』

 

 そのニコラスの言葉を受けて、リアス部長は思わず問い返す。

 

「ニコラス神父。流石にそれは初耳なのだけど?」

 

 このリアス部長の質問に対し、ニコラスは納得した様な声色で話を再開した。

 

『それはそうでしょうね。何せ、悪魔祓い(エクソシスト)の中でも秘中の秘ですから。話を続けましょう。ダンピールは人間より遥かに高い身体能力と魔力を持つヴァンパイアの能力を受け継ぎ、更にヴァンパイアの天敵となり得る二つの特性を持っています。それらに加えて、半分は人間である事から洗礼を受ける事すら可能ですから、ダンピールは主や天使様のお力を扱う事のできる敬虔な悪魔祓いにもなり得るのです。しかも、ヴァンパイアとしての不老長寿をも継承しているので、通常の悪魔祓いより遥かに長い期間で活躍できます。それ故に、私の時代であれば間違いなく手厚く保護し、共に戦う同士として温かく迎え入れていた事でしょう』

 

 ここで、ゼノヴィアはニコラスの話に待ったを掛ける。

 

「ま、待ってくれ! そんな話、私は初めて聞いたぞ!」

 

 何せ、ゼノヴィアはコカビエル事件で破門されるまで、最前線で戦っていた現役の悪魔祓いだったのだ。実際にヴァンパイアと対峙して戦った事もあるのは、ほぼ間違いないだろう。その彼女が知らないという事は……。どうやらニコラスも同じ結論に至った様で、それを口に出した。

 

『現代に生きる悪魔祓いのゼノヴィアさんが知らない以上、いつの間にか伝承が途絶えていた様ですね。その結果、ダンピールを味方と見なさなくなってしまったのでしょう。……その意味では、ギャスパー・ヴラディ君は生まれてくるのが余りにも遅かった、と言うべきでしょうか』

 

 ニコラスの言葉を聞き終えた皆は、暫く何も言えなくなってしまった。そして気持ちの整理が付いたのか、リアス部長が溜息を吐きながら口を開いた。

 

「……あの子には絶対に言えないわね。最大の不幸は生まれて来るのが余りにも遅過ぎた事だ、なんて。でも、これでギャスパーの潜在能力の高さにある程度説明が付いたわね。それにダンピールの能力にも興味が出て来たから、ちょっと試してみようかしら?」

 

 そのリアス部長の意見に朱乃さんも同意する。

 

「そうですわね。まさかハーフヴァンパイア故の力の使い方があるとは、正直思いもしませんでしたわ」

 

 どうやら、二人は早速色々試す事にしたらしい。なので、僕も神器の訓練に関して提案する事にした。

 

「それと神器の制御訓練なんですが、元士郎の力を借りましょう。元士郎の黒い龍脈なら神器のエネルギーを吸収することで暴走を抑えられますし、それによって神器の出力を抑制した状態で訓練ができる筈です」

 

 今の元士郎の実力なら、この程度は鼻歌交じりにやってのけるだろう。そう判断しての事だが、リアス部長も元士郎の実力を知っている一人なので僕の提案に賛同してくれた。

 

「確かに、匙君なら造作もなくやってのけるでしょうね。あの子の実力は私もこの目でしっかりと見ているから信用できるわ」

 

 そうして、僕等のやり取りを見て確信を得た様な表情を見せるサーゼクス様は、リアス部長に声を掛ける。

 

「……これなら、特に大きな問題は起こらないだろう。では行こうか、リアス」

 

 サーゼクス様に促されたリアス部長は一度頷いた。

 

「はい、お兄様」

 

 そして、僕達はオカ研の部室を出ると旧校舎の中を移動し始めた。

 

 

 

 ……それから数分後、僕達は旧校舎の一階にある「開かずの間」の前に辿り着く。この部屋は「KEEP OUT!」と黒字で書かれた黄色いテープで幾重にも封印されており、かなり強力な封印の術式が組まれていて、深夜でなければ外出する事ができない様に設定してある、との事だった。

 それなら何故今まで見かけなかったのかと言えば、単純に部屋の主であるギャスパー・ヴラディ君が対人恐怖症の為に部屋に引き籠ってしまい、一切外へ出ようとしなかったからだ。しかし、自ら出向いての契約が取れない代わりにインターネットを駆使する事で多数の契約を取っており、眷属内では一番の稼ぎ頭であるという。

 

 ……もし彼の対人恐怖症が他者の拒絶に由来するものであれば、そもそもインターネットを介して他者と接触する事すら避けようとする為、契約数はそれほど伸びない筈だ。だとすると、彼は心の奥底で人と触れ合う事を求めているのかもしれない。

 

 僕がギャスパー・ヴラディ君について色々考えていると、サーゼクス様が直々に術式の解除を行い、部屋の封印は間もなく解かれた。まずはリアス部長と朱乃さんが部屋の中へと入っていき、中にいる彼に外へ出る様に促している。しかし、やはり人と会うのが嫌なのか、彼は外に出ていこうとしない。仕方無いので声を掛けてから部屋に入ると、そこには女の子と見紛うばかりの可愛らしい女装少年がいた。

 

「初めまして」

 

 僕はギャスパー・ヴラディ君と思われる少年に声を掛けた。少年は僕の声を聞いて、突然悲鳴を上げるとそのままリアス部長の後ろに隠れてしまった。きっと、初めて出会った僕に恐怖を抱いてしまったのだろう。だから、僕はパーソナルスペースを侵さない距離まで近付くと視線の高さを合わせる。すると、少年は僕が近付いて来た事に対して明らかに驚いていた。

 

「えっ、止まらない? どうして?」

 

 少年の有り得ないものを見た様な困惑の声を受け止めながら、僕は少年に確認を取る。

 

「君が、ギャスパー・ヴラディ君だね?」

 

 ……これが、これ以降に発生する事件の大部分において僕と行動を共にし、後にセタンタと共に年少組の中心人物となっていくギャスパー・ヴラディ君とのファースト・コンタクトだった。

 

 

 

第五話 刻を停めるヴァンパイア

 

 

 

 僕は思うんだ。この出会いは、きっと運命だったんだって。

 

 僕のこの手が天の頂きにまで届いたのは、天を背負うあの人が他の誰よりも僕を信じてくれたから。

 

 「君を信じる僕を信じろ」と言ってくれたから。

 

 だから、僕は更に高い天に向かってこれからもただひたすら突き進む。天と共に在り続けるあの人に、いつか必ず追いついて向き合う為に。

 

 誰かが信じる僕じゃない、僕を信じる誰かでもない。僕が信じる僕を信じて。

 

「えっ、止まらない? どうして?」

 

「君が、ギャスパー・ヴラディ君だね?」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ! そ、その通りですぅぅぅぅぅぅ!」

 

「僕の名前は兵藤一誠。グレモリー眷属及びシトリー眷属の兵士(ポーン)だよ。ギャスパー君、これからよろしくね?」

 

「よ、よ、よろしくお願いしますぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「うん。元気があって、いい返事だね」

 

 ……きっと、この瞬間から僕の全てが始まったんだ。

 

ギャスパー回顧録「破天荒(ブレイクスルー)天翔記」序文より抜粋

 




いかがだったでしょうか?

ダンピールの件については少々独自の解釈をしていますので、ご了承ください。

では、また次の話でお会いしましょう。
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