赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.20 修正


第七話 始動、ギャスパー君育成計画!

 グレモリー眷属最後の一人であるギャスパー・ヴラディ君と邂逅し、サーゼクス様とグレイフィアさんが兵藤家に泊まった翌日。

 サーゼクス様達は僕達と朝食を食べた後、一緒に家を出た。この日は平日で通常通りの授業がある為、僕達の登校に合わせたのだ。この時のサーゼクス様は何かを振り切った様ないい表情を浮かべていたので、どうやら昨夜の話を通じて上手く立ち直る事ができた様だ。これでとりあえずはギャスパー君の問題に専念できそうなので、僕はまずリアス部長から聞いた話と直接会った時の印象を踏まえて、この日の授業中に並列思考(マルチ・タスク)をフル活用し、ギャスパー君が世界と向き合って堂々と生きていけるようにする為の育成計画を脳内で作成した。

 ……計画名は「ギャスパー君育成計画」。ギャスパー君の種族・志向・能力を考慮し、僕の持っている知識を総動員して組み上げた渾身の育成計画だ。

 

 時が過ぎるのもあっという間で、気が付けばこの日の授業が全て終わって放課後となった。この日は生徒会に顔を出す事になっていたのだが、生徒会の活動を始める前に計画内容をワープロで打ち出して計画書を作成し、ソーナ会長に目を通してもらった上で必要な許可を頂いた。その後、少しだけ席を外す許可を頂いてから、オカ研の方にも出向いて当事者となるリアス部長にも計画書を見てもらい、計画実行の承認を貰った。

 そして、オカ研の部室から戻った僕は生徒会の仕事を開始し、それが終わると育成計画において重大な役目を担う事になる元士郎の協力を求めた。

 

「グレモリー眷属最後の一人を対象とした訓練のサポートか。……解った、俺なら別に構わないぜ。ただ、それには会長とグレモリー先輩の許可が必要になってくるんじゃないのか?」

 

 事の次第を聞いた元士郎は快く承諾してくれた。しかし、元士郎はここで他の主に仕える眷属に対する協力である事から、自分の主と対象となる眷属の主の双方の許可が必要になるのではと懸念を示してきた。

 ……それなら大丈夫だ。僕はその旨を元士郎に伝える。

 

「その点については、ご心配なく。僕に一任するとのお言葉を、お二人からは既に頂いているよ」

 

 話の進み具合がかなり速い事に、元士郎は少し驚いた様子を見せた。

 

「何だ、速いな?」

 

 そこで、僕は何故ここまで話が速く進んでいくのかを元士郎に説明する。

 

「僕はグレモリー・シトリー両眷属の繋ぎ役であると同時に、他の眷属の統括も任されているNo.2だ。だから、ソーナ会長とリアス部長から承認を得ていれば、双方の眷属をある程度自由に動かせるんだよ。まぁ、最終的には元士郎の意志を尊重する形を取ったけどね」

 

 つまり、シトリー眷属を例に挙げると、ソーナ会長と眷属悪魔の皆の間に僕がおり、権限の範囲内であれば皆に指示を出す事ができるのだ。尤も、緊急事態にでも陥らない限り、当人の意志を無視しての強権発動などするつもりはないのだが。僕の説明を聞き終えた元士郎は、呆れ交じりの溜息を一つ吐いた。

 

「……全く。こういう手回しをそつなくこなして、それでも最終判断を個人の意思に任せる。ここまでしておいて、もし仮に俺に断られた時には、上に立つ者として自分で責任を引き受けるつもりなんだろ? そんなお前だから、会長は未だにお前を本当の意味での駒王帝に据えるのを諦めていないんだよ、一誠」

 

 本当の意味での駒王帝。

 

 元士郎の言っている意味が、僕には良く解った。……解るのだが、少々問題があるのでそれについて言及する。

 

「あの件か。でも、それを実行したら後で揉めないか?」

 

 元士郎もそれは解っているので、当事者同士で話し合うしかないと発言するに留まった。

 

「まぁ、その辺りは会長とグレモリー先輩の間で調整するしかないだろうな。お前が去年に引き続きやっている様な生徒会の手伝いならともかく生徒会役員、特に生徒会長ともなると部活の両立は流石に難しいからな」

 

 そして、元士郎から新しい提案があった。

 

「それに、一誠。この際だから、俺達のトレーニングも兼ねた方が良くないか?」

 

 ……それも視野には入れているのだが、当分先だ。僕はその説明を兼ねて、ギャスパー君の現状を元士郎に伝える。

 

「それはギャスパー君の訓練がある程度進んでからかな? 今は、興奮すると無差別に神器(セイクリッド・ギア)が発動しているから」

 

 僕の言葉を聞いた元士郎は、どうやら状況を理解した様だ。一つ頷いて、納得した事を僕に伝えてきた。

 

「そうか、まずはそこからなのか。だから、俺なんだな?」

 

「どうやら分かったみたいだな。僕の頼みたい事が」

 

 僕が確認を取ると、元士郎はスラスラと答えてくる。

 

「あぁ。まずは暴走に対する安全弁、ついでに吸収速度を調節しての神器の制御訓練といったところだろ? 確かに、黒い龍脈(アブソープション・ライン)を持つ俺じゃないと、そういった事はまず無理だろうな」

 

 元士郎からの回答に間違いがなかったので、僕は元士郎に感謝した。

 

「済まないな。恩に着るよ、元士郎」

 

 すると、元士郎は気にしない様に言ってくる。

 

「何、気にすんなよ、一誠。それに、俺にとっても、コイツは吸収する力の対象をより精密に選別する為の訓練にもなるしな」

 

 この元士郎の参加によって、ギャスパー君の強化プログラムは大体形になってきたので、後は対人恐怖症に伴う引き籠りをどう解消するかだろう。……ただ、少し気になった事がある。

 

「元士郎。吸収する力の対象をより精密に選別する為の訓練という事は……」

 

 僕が元士郎に確認を取ろうとすると、元士郎も僕が何を言いたいのか解ったのだろう。現在自ら取り組もうとしている課題が何なのかを教えてくれた。

 

「やっぱり気づいたか。そうだよ。今考えているのは、ライン毎に扱うエネルギーの種類を変えて、それを選別できる様にする事だ。それによって、複数の異なる種族を同時に相手取る事ができるようになる。まずあり得ないとは思うんだが、仮に悪魔と堕天使を同時に相手取る様な状況になったとして、双方の力を考えなしに吸収したらお前が木場の為に降霊術を使った時に死にかけたっていう例の拒絶反応、アレが俺の体内で発生する事になるからな」

 

 元士郎は「あり得ない」と口にしながらも、その可能性を捨てる事無く対処方法を考慮していた。……今まで、僕は実に色々な世界に行き、様々な経験をしてきた。その経験上、戦いにおいて絶対に考えてはいけない事がある。

 

 それは、「あり得ない」だ。

 

 何故なら、知性ある者が想像できる物事の全てが起こり得る現実であり、戦いとは詰まる所、相手に「あり得ない」と思わせた方が大抵は勝つものだからだ。だから、一度脳裏に浮かんだ事は、例えどれだけ天文学的な数値の確率で発生するものだとしても、必ず思考の何処かに置いておく様にしている。

 そして、今回はもう一つの活用法について、元士郎に確認を取った。

 

「それだけじゃないだろう? 敵味方の力を自分を介さずに一本のラインに集めて融合、その時に発生する対消滅やら共鳴反応やらも利用して大威力の砲撃として放出する事も考えていないか?」

 

 僕の指摘に対して、元士郎は苦笑いしながら答えてくれた。

 

「一誠、お前は何でもお見通しだな。その通りだ。それができるようになれば、範囲縮小版だけどお前のスターライトブレイカーの再現も可能だ。まぁ、俺の切り札であるガイアフォースを考え付いたのはお前だから、解っちまうのも当然か」

 

 ……元士郎は、本当に恐ろしい男になった。油断していると、格上相手でも容易に引っ繰り返す事が可能なトリックスターのワイルドカード。正にシトリー眷属の鬼札(ジョーカー)だ。今の元士郎に勝つには、単純な強さ以上に知略で勝る必要がある。何故なら、知略で上回らないとラインを用いた数々の罠を始めとする搦め手や知略戦を仕掛けられた挙句、何もさせてもらえないまま敗れる事になるからだ。特に力押しの傾向が強いゼノヴィアとウィザードタイプの割に少々搦め手に弱い傾向がある朱乃さんにとっては、正に天敵となるだろう。

 なおリアス部長については、グレモリーの真なる力である「探知」に目覚めた事でテクニックタイプへと転向しつつある。其方の方が「探知」で得られる情報を最大限に生かせるからだ。それに、小猫ちゃんも計都(けいと)の指導によって、おそらくはテクニック寄りのオールマイティタイプに転向する事になるだろう。

 

「これは、僕もうかうかできないな」

 

 僕は自らを戒める様に言葉を口にしたが、元士郎は「何を言っているんだ、コイツ?」という表情で言ってきた。

 

「聖書級のコカビエルをあっさりと倒した奴が、何言っているんだよ? それに、俺はまだ瑞貴さんにすら勝てていないんだぜ?」

 

 元士郎の自己評価が少々過小であるのは流石に見過ごせない為、僕は元士郎が瑞貴に勝てない理由を交えて、元士郎の自己評価の修正を図る。

 

「今の元士郎なら、コカビエルを相手にしても例の()()()を使えば十分勝算はあると思うけどな。それに、瑞貴については地力以上に実戦経験の差が大きいだろう。オマケに、瑞貴もどちらかと言えば格上相手の経験の方が豊富だから、元士郎をそのまま自分に置き換えれば対処しやすいだろうしね」

 

 実際、僕が話題に挙げた「殺し技」は理論上では神すら打倒可能だ。そうでなくても、コカビエルを罠に嵌めた後にイグゾースト・フローで力を大地に流出させつつ、自らは逆に切り札であり大地から力を吸い上げて放つガイアフォースを当てられれば、勝算は十分ある。……尤も、コカビエルの生死を問わなければ、の話なのだが。元士郎もその辺りは解っていた。

 

「今の俺の実力じゃ、そこまで行くのに綱渡りならぬ紐渡りの連続だろうし、何より相手から求められた「無力化」ができないだろ? 真っ向勝負でコカビエルと戦い、尚且つ余裕を持って無力化したお前にはまだまだ及ばないさ。……にしても、瑞貴先輩は俺みたいに這い上がる側の人間だったんだな。だったら、経験の差がそのまま勝敗に繋がってもおかしくは無いか。イケメンで身のこなしも何処か優雅だから、正直ちょっと意外だったぜ。まぁ、いずれは瑞貴先輩に追い付いて、勝てる様になってみせるさ」

 

 元士郎はそう宣言すると、不敵な笑みを見せてきた。……元士郎はまだまだ強くなる。本当にうかうかしていられないと、僕は改めて思った。

 

「それじゃ、頼むよ」

 

 しかし、それを口にすると元士郎にまたツッコまれてしまうので、言葉には出さずに頼み事の念押しに留める。

 

「あぁ。出番になったら声をかけてくれ。会長に言って時間を作る」

 

 元士郎はそう言って承諾してくれた。そして、僕達はここで話を打ち切り、それぞれの自宅へと帰っていった。

 

 そして、翌日の放課後。ギャスパー君育成計画は始動した。

 

 

 

ギャスパー君育成計画 ミッションNo.1 ニンニクを克服しよう!

 

「ニ、ニンニクですか?」

 

 ギャスパー君が恐る恐る僕に問い掛けてきたので、僕はそれに答える。

 

「そうだよ。僕の考えが正しければ、ニンニク程度ならすぐに克服できると思うんだ」

 

 実際の所、十字架の件といい、銀の件といい、ヴァンパイアの弱点を勘違いしている人が大多数だ。ならば、まずはそれを是正していけばいい。質問に答えた時の僕の態度を見て決断したのだろう、ギャスパー君は僕に頭を下げてきた。

 

「そ、そ、それじゃあ、お願いしますぅぅぅぅぅぅ!」

 

 ……ギャスパー君、言質は取ったよ?

 

「それじゃあ、最初はこの花の匂いを嗅いでみようか」

 

 だから、まずは実際に体験してもらうことにしよう。

 

 僕は予め用意していた一輪の花をギャスパー君に差し出した。ギャスパー君は僕から差し出された花に小首を傾げている。

 

「……何ですか、その小さな白い花?」

 

 ……この花、実は意外に知られていない。まぁアレからこんな小さな花が咲くとは、早々思わないのもあるのだろう。

 

「嗅げば分かるよ」

 

 僕はギャスパー君に花の匂いを嗅ぐ様に促した。

 

「そうですか? それじゃあ」

 

 僕に促されたギャスパー君は、僕が手に持っている小さな白い花の匂いを嗅ごうと鼻を近づける。

 

 ……呑気だね、ギャスパー君。でも、最初に待っているのは地獄だよ?

 

 僕はそれをおくびにも出さず、しかし念の為に警告する事にした。

 

「あぁ忘れていたよ。多分凄く大きな河や綺麗なお花畑が見えるだろうけど、決して向こう岸に渡ったり遠くへ行ったりしたらいけないよ」

 

「えっ? 一体どういう事……」

 

 僕の警告の意味を問い質そうとしたものの、その前に花の匂いを嗅いでしまったギャスパー君はその場でバタンと倒れ込んだ。

 

「ギャスパー!」「「ギャスパー君!」」「ギャー君!」

 

 グレモリー眷属の古参メンバーが卒倒したギャスパー君を見て、その有り様に酷く驚く。

 

「退いて下さい、直ぐに治療を!」

 

 一方、アーシアは尋常ではないギャスパー君の様子を見て、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で急いで治療し始めた。そして、アーシアが血相を変える程のギャスパー君の容体だが、白目を剥いて泡も吹いている上に軽く痙攣もしている。

 

 ……うん、完璧だ。

 

「第一段階終了だね」

 

 僕は最高の結果に終わった事に安堵した。

 

「い、一誠様?」

 

「……大丈夫なのか、このハーフヴァンパイア?」

 

 一方、僕の様子を見てレイヴェルは困惑し、ゼノヴィアも少し冷や汗を流している様だが、この程度ならまだまだ大丈夫だ。赤龍帝の皆から受けた修行の中で、何度も死に掛けた僕が保障する。

 

 

 

「な、な、な、何しているんですかぁぁぁぁぁ! さっき大きな河と綺麗なお花畑が見えちゃいましたよ! しかも、河の向こう岸にいる僕に良く似た女の人が「まだこっちに来ちゃダメ!」って、僕を叱りつけてくるし!」

 

 しばらくして意識を取り戻したギャスパー君は、僕に向かって激しく抗議してきた。だが、これは必要な事だった。だから、その事をギャスパー君に伝える。

 

「ギャスパー君に一度、軽く死ぬ思いをしてもらおうかと思って」

 

 ……そう。ギャスパー君には一度死ぬ思いをしてもらう必要があった。そうでないと次に続かないから。しかし、された側にしてみれば、堪ったものではないだろう。

 

「し、死ぬ思い? 死ぬ「様な」思いじゃなくて? ……キャァァァァァッ! ぼ、ぼ、僕、このままだと死んじゃいますぅぅぅぅぅ!」

 

 ギャスパー君は相変わらず元気に抗議している。その調子だよ、ギャスパー君。その様な事を考えていた僕は、きっと満足げな笑みを浮かべていた事だろう。

 

「……流石、イッセー先輩。誰もやらなかったことを平然とするなんて。そこに痺れますし、憧れます」

 

 この時の僕の様子を見ていた小猫ちゃんは、何やらネタ台詞を口にしていた。……本気じゃないでしょ? 口元が少し笑っているよ。

 

「「「「小猫((ちゃん))(さん)!?」」」」

 

 だが、小猫ちゃんの反応を見たリアス部長と朱乃さん、祐斗、そしてアーシアの四人は驚愕の表情を浮かべている。

 

「……意外な所に強敵がいましたわ」

 

「あぁ、その様だ」

 

 一方、レイヴェルとゼノヴィアは別の意味で真に受け取っていた。だが、流石にそれはないと思う。……というよりは思いたい、といった方が正しいだろうか。

 

 では、第二段階にして最終段階といこうかな?

 

 少々混沌とした雰囲気の中でそう判断した僕は、次に懐から小瓶を一つ取り出してギャスパー君に差し出し、中身について説明する。

 

「それじゃあ、この経験を踏まえて次はこの濃縮ニンニクエキスの匂いを嗅いでみようか。普通のニンニクのざっと二十倍の匂いだけど大丈夫、ギャスパー君ならきっといけるよ」

 

 しかし、ギャスパー君は必死の抵抗を見せてきた。

 

「ギャァァァァァァァ! やめてくださぁぁぁぁぁぁい! ニンニクは、ガーリックはらめぇぇぇぇぇ!」

 

 ……どうやらさっきの臨死体験で、ギャスパー君はより一層ニンニクが苦手になった様だ。だが、ここは断固たる決意を以て行動に出る。

 

「でも、断るよ」

 

「……鬼だわ。本物の鬼がここにいるわ」

 

 リアス部長は僕の断固たる決意に基づく行動を見て、顔を酷く青褪めさせていた。一方、朱乃さんは凄く嬉しそうな笑顔を浮かべながら、僕の方をじっと見つめている。……まるで、自分の同類を見つけて喜んでいるかの様に。だが、僕にその様な趣味はないので、その様な誤解はさっさと解いておくべきだ。

 

「ギャスパー君。レッツ、トライ!」

 

 僕は濃厚ニンニクエキスの入った小瓶の蓋を一気に開け、ギャスパー君の鼻に突き付けた。ギャスパー君は苦痛の叫び声を上げる。

 

「ギャァァァァァァ………………って、あれ?」

 

 ……筈が、小首を傾げていた。

 

「どうしたの、ギャスパー?」

 

 リアス部長がギャスパー君に何が起こったのか、確認を取る。すると、ギャスパー君は僕以外にとってはおそらく想像の斜め上の答えを返してきた。

 

「……ない。全然臭くない! いや凄く臭いけど、全然嫌じゃない!」

 

「「「「「「「えぇっ!」」」」」」」

 

 しかし、仕掛人の僕にしてみれば、正に計画通りだった。

 

「まぁ本当に駄目な匂いを知ってしまったら、こうなるのは当然だね」

 

「……どういうことですか?」

 

 僕の発言を聞いた小猫ちゃんがすぐに僕に尋ねて来た。……やはり知らなかった様だ。オカルト研究部でしかも悪魔なのに意外だったが、隠れ蓑の意味合いが強いので、ある意味では仕方がないのかもしれない。僕は皆への説明を兼ねて、小猫ちゃんの質問に答える。

 

「簡単だよ。そもそもヴァンパイアが本当に苦手なのは、大蒜(おおひる)の花の匂い。茎や根、つまり普段食べているニンニクの匂いじゃないんだ」

 

「えっ? じゃあ、僕が今までニンニクの匂いが駄目だったのは……?」

 

 僕の回答に対して、ギャスパー君が小首を傾げている。……さっきもそうだったが、その可愛らしい仕草といい、女装趣味の服装といい、女顔の顔貌といい、本当に女の子そのものだ。ギャスパー君、ひょっとして生まれて来る性別を間違えたのではないだろうか? それはさておき、弟分であるギャスパー君の疑問にも答えてあげる事にする。

 

「人間より遥かに鋭い嗅覚から来る、ただの思い込みだよ。プラシーボ効果って知っているかな?」

 

「実際には何も効果がないのに、思い込みで効果があった様に体が反応するアレかい?」

 

 すると、今度は祐斗が確認してきた。……そう。思い込みとは、意外に生き物を縛りつけるものだったりする。実は十字架も同じだ。あれはむしろ十字架を持つ人間の篤い信仰心こそが一度死んでいるとされるヴァンパイアの弱点であり、十字架だけでは殆ど意味がない。まして、ギャスパー君はダンピール。洗礼すら可能である以上、本来なら弱点にはなり得ない。尤も、ギャスパー君は転生して悪魔になっているので、悪魔の弱点でもある十字架の克服は不可能なのだが。

 だからこそ、まずは「ニンニクが苦手」という誤った認識を改める必要がある。そういった点を交えて、祐斗に回答する形で説明を続ける。

 

「その通りだ、祐斗。だから大蒜の花を使って、ギャスパー君のプラシーボ効果を打ち消す必要があったんだ。実際、一度本当に苦手な大蒜の花の匂いを嗅いだ事で、ギャスパー君は本当の拒絶反応を起こして死ぬ思いをした。それで、体が理解したんだよ。今までのニンニクの匂いに対する拒絶反応はただの思い込みだったってね」

 

 そこまで僕の説明を聞いたギャスパー君は、表情を明るい物に一変させた。

 

「えっ? ……それじゃあ!」

 

 そして、その気持ちを確固たるものにする為に、僕は「ニンニク」を克服した事を保証する。

 

「うん。幾ら臭いが平気だからと言って、ニンニクを食べるのは内臓を損傷しかねないから流石に不味いと思うけど、臭いについては本来の弱点である花以外ならもう大丈夫だよ」

 

 そして、それを聞いたギャスパー君は喜びを爆発させた。

 

「す、凄いですぅぅぅぅぅぅ! ホントに、ホントにニンニクを簡単に克服できましたぁぁぁぁぁ!」

 

「まぁこんな感じで、少しずつ自信と経験をつけさせてあげればいいでしょう。ギャスパー君はやればできる子みたいですし、これからは褒めて育てていきましょう」

 

 僕は今回の成功を踏まえて、ギャスパー君のこれからの育成方針を語った所、リアス部長を始めとするグレモリー眷属の古参メンバーは揃って僕に頭を下げてこう言ってきた。

 

「「「「お見逸れしました(わ)」」」」

 

 一方、僕が眷属入りしてからのオカ研メンバーは、素直に感嘆していた。

 

「……イッセーさん、凄いです」

 

「流石。ライザーお兄様をわずか数日で生まれ変わらせたのは、伊達ではございませんわね」

 

「やはりイッセーに直接教えを請う方が良い様だ。やりたい事とやるべき事が見事に一致しているのもいいね」

 

 皆の余りに大きな反応に、僕は少々困ってしまった。僕からしてみれば、別に大したことはしていなかったからだ。……ただ、ゼノヴィア。君はまず、レオンハルトの指導をしっかりと受けないと駄目だ。力押ししかしない君は徹底的に基礎をやり直さないと、いつかデュランダルが本当に泣くよ?

 

ギャスパー君育成計画 ミッションNo.1 ニンニクを克服しよう! 達成!

 




いかがだったでしょうか?

因みに、ニンニクの花の匂いが本当の弱点というのは、ニンニクの花を魔よけとして飾るというルーマニアのトランシルヴァニア地方の習慣を元にしています。
実はこの風習、吸血鬼の弱点がニンニクであるルーツの一つとされている様です。

では、また次の話でお会いしましょう。
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