前話で犯した大き過ぎる失敗によって、一誠が抱え込んだ心の闇。
その一部が今回の話で出てきます。
追記
2018.11.12 修正
僕が仕掛けた流言策によって、バルマムッサの虐殺がウォルスタによる狂言でなくガルガスタンによる本物となってしまった。
……そして、これを機に僕の知らないハイムの戦役が始まってしまった。
バルマムッサの虐殺から三週間が過ぎた頃、ウォルスタとガルガスタンの全面戦争に突入していく中で、ロンウェー侯爵から次の作戦が言い渡された。
「バルマムッサからアシュトンに展開する陽動作戦、ですか?」
デニムさんが作戦内容について確認すると、ロンウェー公爵は説明を開始した。
「そうだ。戦力がこちらに不利である以上、戦力を分断する事で決戦における兵力をこちらと同じ所まで引き摺りこむしかない。そこで、少数の囮をバルマムッサから敵の居城であるコリタニ城に進軍させると見せかけて、アシュトンを制圧する。これによって海の出口を押さえて経済を封鎖し、敵の兵力を我々のアルモニカと囮のバルマムッサ・アシュトンの二方面に分断するのだ。そして兵力を集中させた本隊で分断した敵軍を打ち破り、一気にコリタニ城まで侵攻する。この作戦において重要な役目である囮役を、英雄殿に任せたいのだ」
この余りに危険な陽動作戦の囮役をデニムさんはあえて承知し、船でバルマムッサに上陸した後はコリタニ城の目と鼻の先である港町アシュトンを制圧、占拠した。そして派遣されてくるであろう敵軍に備えて防備を固めようとしていたのだが、アシュトンを制圧した直後に「本隊がスウォンジーの森でガルガスタン軍と激突、両軍共に甚大な被害を出しつつも惜敗し、アルモニカへ撤退」という情報が入ってきた。
こちらがアシュトンを占拠して以降にガルガスタン軍と戦火を交えていない事から、兵力を完全に分断する前に本隊が動き出してしまった事を悟った僕は、ロンウェー公爵の戦争時の指導者としての限界を悟った。……この人は、指導者や司令官に必要な我慢ができない人なのだと。
ただ、本隊がスウォンジーでの決戦に敗北して撤退している以上、これ以上のアシュトン占拠は敵の大軍が攻めてくるのをただ待つだけの愚策以外の何物でもなかった。だから、僕はアシュトンからの即時撤退と海路を用いてのアルモニカへの帰還を進言し、元々この作戦に乗り気でなかったカチュアさんの賛同もあって受け入れられた。
そのアルモニカへの撤退の途中で立ち寄ったクァドリガ砦において、そこを根城とする海賊達と戦う事になってしまったのだが、そこで俗に言うロウルートとは異なる展開が待っていた。
……角飾りの鉄兜を被った筋骨隆々の大男だけでなく、鎧甲冑を身に纏った青年とローブを身に纏った魔法使いの老人も海賊達に襲われていたのだ。
この三人を海賊から助け出した後で素性を尋ねると、筋骨隆々の大男はザパン・イリューダスと名乗った。彼は解放軍に雇われた傭兵で、スウォンジーの決戦において何人もの大将首を取っていた為にガルガスタンから巨額の賞金を掛けられてしまい、その為に海賊に襲われてしまったのだという。また、彼の雇い主がスウォンジーで戦死している事から、報酬をロンウェー公爵からふんだくってやると息巻いていた。その後、ザパンがアルモニカに戻るまで自分を雇わないかと売り込んできたので、デニムさんは少しでも戦力が欲しい現状を踏まえてこれを承諾した。
一方、残りの二人は以前古都ライムで出逢ったシスティーナさんと同じヴァレリア解放戦線の一員であり、青年はフォルカス・リダ・レンデ、老人はバイアン・ローゼン・オーンと名乗った。ただ、ここ最近のやり方について行けなくなった事で解放戦線を脱退、現在は頭に「元」の文字が付くとの事だった。二人はシスティーナさんから僕達の事を聞かされていたらしく、僕達が名乗りを上げた際に古都ライムで僕達が彼女を助けた事に対して感謝の言葉を伝えてきたが、そこで彼女の現状を知る事となった。
「システィーナさんが海賊に囚われているんですか?」
僕がそう尋ねると、フォルカス氏はその時の事を語り始めた。
「あぁ。一度奴等に襲われた時は流石に数が多過ぎて、私達は自分の身を守るので手一杯だった。そこで、私達は一度システィーナを見捨てて逃げ出したように見せかけてから、奴等の拠点であるこのクァドリガ砦に潜入して彼女を救出するつもりだったのだが……」
ここでフォルカス氏が言い淀んだので、その続きをバイアン翁が語っていく。
「システィーナは既に別の場所にある奴等のアジトへ連れ去られた後だった。あれだけの器量良しだ、奴隷としての価値を見出したのだろう。既にその場所についても調べは付いている。儂等は今からそこへ向かうつもりだ」
二人の今後の行動予定を聞いた僕は、デニムさんに彼等二人への協力を進言する。
「デニムさん、僕は彼等への協力を進言します」
しかし、ここでヴァイスさんが彼等への協力に意味があるのかを問い質してきた。
「イッセイ。こいつ等に協力する事に、それだけの価値があるのか?」
ここで、僕は原作における人物の素性とその照合の為に集めた情報を元に、二人が救出しようとするシスティーナさんの事を説明し始める。
「僕の記憶に間違いがなければ、フィラーハ教団の大神官を務められたモルーバ・フォリナー様の四人のご息女の中にシスティーナという名前の方がおられた筈です。教団の権威であるモルーバ様の娘を僕達解放軍が救出、保護する。これだけでも、十分過ぎる程の価値があると思いますけど?」
割と忘れがちになるのだが、フィラーハ教はこのヴァレリア諸島において国教として崇められており、僕達解放軍の中にもフィラーハ教の信徒が数多く参加している。その為、フィラーハ教の権威を蔑ろにすると彼等からの反感を買い、場合によっては内乱を招いて命取りになりかねないのだ。逆に言えば、フィラーハ教を立てる事で兵士達の反感を抑える事が可能となるので、大神官を務めたモルーバ様の娘であるシスティーナさんの価値は非常に大きいものとなる。
僕がその点を説明すると、バイランさんが自身の所属していた組織のリーダーの名前を明かしてくれた。僕がシスティーナさんの素性を知っているとなると、芋蔓式に彼女の素性も知っている事になるからだ。
「この分では、君は解放戦線のリーダーの素性も解っていそうだな。それなら隠す意味はないか。解放戦線のリーダーの名はセリエ。システィーナの姉だ。つまり……」
ここで、バイランさんの言葉を引き取って、デニムさんがどういう事なのかを口にする。
「モルーバ様の娘、という訳か」
そこで僕が補足説明を入れると共に、新たに追加されたシスティーナさん救出の利点について説明する。
「確かに、モルーバ様の長女の名前もセリエなので、話の辻褄が合っています。それにそういう事であれば、先程僕が挙げた利点の他にヴァレリア解放戦線のリーダーの血縁者であるシスティーナさんを救出する事で恩を売る事ができます。また、その後の交渉次第ではこちらをテロの標的から外させる事ができるかもしれません」
僕がここまで説明した所で、デニムさんは遂に決断した。
「厄介な戦い方をする相手の脅威を減らすと共に後顧の憂いも断つ事ができる可能性がある以上、戦略的にやらない選択肢はないという事か。……解った。ここはイッセイの進言を容れ、システィーナの救出に協力する!」
僕達がシスティーナさんの救出に協力する事になった事で、フォルカス氏とバイラン翁がシスティーナさんの救出が成功すれば、その恩に報いる為に解放軍に参加する事を申し出た。あくまでウォルスタ人の解放が第一であるヴァイスさんは難色を見せていたが、デニムさんの鶴の一声でそれを受け入れた。
「確かにバクラムは敵だけど、全てのバクラム人を殺す訳にはいかない。それでは僕達ウォルスタ人を虐殺したガルガスタンと同じだ。だから、あえてバクラム人である彼等の参加を僕は受け入れる」
ヴァイスさんを説得する際に決め手となったデニムさんの言葉だ。やはり、デニムさんはウォルスタではなくヴァレリアの英雄だった。
こうして、海賊達のアジトでシスティーナさんが囚われているダムサ砦に踏み込んだ僕達は、おそらくは海賊達の妻であろう女性達が守っていたこの砦を短時間で制圧し、無事にシスティーナさんを救出する事ができた。
……ただ、海賊の頭の妻であり、海賊達の妻のリーダーであった女性のお腹には赤ちゃんがいた事が戦闘前の会話で判明していて、僕達は小さくて大きな悲劇を目の当たりにする事になった。
人身売買は重罪であり、生活の糧を得る為にそれを何度も行っていたであろう彼女達には情状酌量の余地などない。それに、お腹の中の子共々死んだ事も、今まで数多くの人達を地獄に突き落としてきた因果が巡ってきた結果である事は間違いないのだが、それでもやりきれなさは残ってしまった。
だが、ここで救出したシスティーナさんから「自分をヴァレリア解放戦線の拠点であるボード砦まで送ってほしい」と随分無茶な頼み事をされてしまった。リーダーである姉がそれぞれの勢力の指導者の暗殺計画を実行しようとしているのを止めたいと言うのだ。ただ、解放軍が追い詰められているという現状を考えると、真っ先に狙われるのはこちらの指導者であるロンウェー公爵だ。しかも決戦の敗北で解放軍が混乱している以上、暗殺が成功する可能性が少なからずある。流石にそれは不味いと判断した僕は、ここは指導者が暗殺される可能性を取り除く為にあえて先にボード砦へ向かうべきだと主張した。システィーナさんの救出に難色を見せたヴァイスさんも指導者が暗殺される危険性が少なからず存在する現状については理解を示してくれたお陰で、先にボード砦に向かってヴァレリア解放戦線と接触する事が決まった。
ボード砦にシスティーナさんを送り届けた事で、ヴァレリア解放戦線のリーダーであるセリエ女史との対談が実現した。しかし、暗殺計画を実行しようとする彼女の意志は固く、姉妹の話し合いは決裂に終わった。しかし、彼女のシスティーナさんに対する評価に僕は我慢ができず、感情のままに言葉を放ってしまった。
「空から下を見る鳥には、地べたを這いずり回る蟻の気持ちが解らない、だと? ……ふざけるな! だったら、暢気に地べたを這いずり回って空を見上げる蟻にだって、空を飛び続けなければ死んでしまう鳥の気持ちが解らない事になるじゃないか! 確かに、システィーナさんの言っている事はこの戦乱の世においては唯の綺麗事かもしれない! でも、だからと言って、貴女の言っている事、やろうとしている事は明らかに間違っている! 貴女はただ、効率と結果だけを重視する余りに選べる手段を模索する事を放棄して、手を
僕が感情のままに言い放った言葉に、セリエ女史は怒りを露わにして反論する。
「何だと! 子供に、子供に何が解る!」
……僕の様な子供の戯言など大人の余裕で一笑に付せば良かったのに。その態度にセリエ女史の本心が見えた僕は、そこにあえて付け入った。
「解るさ! 貴女が絶対に負けてはならない相手に負けた事ぐらいは! それに、もし貴女が今目論んでいる各勢力の指導者の暗殺計画が成功したら、その後どうなると思う? ……貴女の言う真の革命なんてものには、けしてなりはしない! ただ貴女という前例を見習う輩が続出して、ヴァレリアの大地に屍山血河が築かれるだけだ!」
……何処かの誰かが言っていた。テロでは時代の流れを逆行させる事はできないが、停滞させる事はできると。セリエ女史がやろうとしている事は、正にそれだった。
「なっ!」
だが、セリエ女史は僕の言葉に対して明らかに動揺していた。まるで、今初めてその可能性に気付いたと言わんばかりに。だから、僕は何故そうなるかを説明した上で、どうあるべきなのかを語っていく。……穴だらけの子供の理論である事は、百も承知で。
「人間は、誰かが何かを成し遂げると必ずそれに続こうとする。しかもより楽な方を選ぶから、善行よりも悪行の方に続いてしまうんだ。だから、先に行って倒れた者の願いをしっかりと抱え込んで、後から続く者達からの期待の視線を意識して背筋を伸ばして胸を張り、顔を上げて前を見据えて進んでいかなくちゃいけないんだ。それが、命という名の責任だから。……こんな単純で簡単な理屈を、どうして貴女は解らないんだ!」
結局、セリエ女史との話し合いは物別れに終わってしまい、ボード砦で得られたものは何もなかった。僕は無意味な寄り道をさせてしまった事をデニムさん達に謝ったが、「事は何もウォルスタだけの問題ではない事を知る事ができたから、無意味な寄り道じゃない」と言って、特に問題なしとしてくれた。
また、僕達が約束を果たしてくれた礼としてフォルカス氏とバイラン翁、そしてシスティーナさんが解放軍に参加してくれた事も収穫の一つと言えた事も不問とされた理由だろう。
こうしてアルモニカ城に戻ってきた僕達だったが、待っていたのは敗北に混乱し切って士気が上がらず、逃亡兵が続出するという、崩壊が間近に迫っている解放軍の現実だった。そして、ロンウェー公爵は暗黒騎士団ロスローリアンに援軍を要請する事を決定し、その使者としてデニムさんが使命された。そこに向かう直前、レオナールさんに呼び出された僕は、そこで起死回生の策について明かされた。
「……レオナールさん。本当に、これしかないんですか?」
僕はこの策について、改めて確認する。これでは、レオナールさんが余りにも報われないからだ。しかし、レオナールさんの意志は固かった。
「……イッセイ君。バルマムッサ虐殺の狂言策をバルマムッサ住民に対する蜂起の説得任務を受けた時点で察知し、それを防ぐ為にあえて情報を流す事でガルガスタンの強硬派を煽り、やがて凶行へと走らせた君になら解る筈だ。スウォンジーの決戦において、君やデニム君達を信じられずに兵力が完全に分断される前に侵攻を開始してしまい、更にはロスローリアンに援軍を求めるなど、もはや眼の前の事と己の保身しか考えられないロンウェー公爵に任せていては、解放軍に未来はない事を」
……確かにその通りだった。そして、それを回避するにはもはや一つしか手がない事も僕は解っていた。
「それを回避するには、無能な指導者と化したロンウェー公爵を取り除き、ガルガスタンの穏健派やバクラムの反体制派と和解する事で、今まではウォルスタだけを対象としたウォルスタ解放軍からガルガスタンはおろかバクラムをも含めたヴァレリア全体を対象とする、いわばヴァレリア解放軍へと新生させるしかない。幸い、アルモニカに戻ってくるまでに君が行った献策によって、我々はフィラーハ教の権威であるモルーバ元大神官の娘を取り込む事ができた。そのお陰でフィラーハ教団はもちろんバクラム人の反体制派も受け入れる下地が出来上がり、後はガルガスタンの穏健派さえどうにかできれば、ヴァレリア解放軍への変革は十分為し得るだろう」
レオナールさんはここで僕の目をしっかりと見つめながら、自分の担う役目について語り始めた。
「ただその為には、誰かが無能とはいえ主を殺すという汚名を背負い、そして裏切り者として粛清される必要がある。その役目は、君のお陰で手を汚さずに済んだとはいえ、ロンウェー公爵が命じた虐殺の狂言策を受け入れてしまった私こそが相応しい」
もはやレオナールさんの意志を覆すのは無理だと判断してその策を受け入れた僕は、レオナールさんの悲壮な決意を一人胸に秘めて古都ライムに向かい、そこでデニムさん達と別れて別行動を取り始める。
……そして。
Interlude
アルモニカ城では、ロンウェー公爵を暗殺したレオナールがそれに加担したデニム達を殺害し、その罪を被せようとしてきた。デニム達とレオナール直属だったアロセールの四人はそれに抵抗、レオナールを返り討ちにした。そして、命の炎が消えようとしているレオナールは、最後の力を振り絞ってデニム達に最後の仕事をさせようとしていた。
「よくやった。さぁトドメを刺すと良い。そしてこう言うんだ。今回の公爵暗殺は全て私の謀り事だったと」
それを聞いたデニムは、レオナールが公爵暗殺に始まる一連の行動を取った本当の目的を悟った。
「レオナールさん。貴方は、最初からそのつもりで……」
すると、レオナールは観念した様に自分の考えを話し始めた。
「……そうだな。もしイッセイ君がいなかったら、或いは君達を本気で殺そうと思ったかもしれない。私が死んでも、君達が死んでも、解放軍が纏まる事に変わりはなかったのだから。だが彼がいる以上、私が死んで君達が生き残るべきだと判断した。彼はあくまで君達に協力していたのだからな」
そして、レオナールは以前から密かに考えていた事をデニム達に伝える。
「デニム君、ヴァイス君。そしてカチュア君。これからの戦いは、戦略と政略が勝敗を左右する事になる。だから、イッセイ君を解放軍の軍師に据えて、その言葉に耳を傾けるんだ」
レオナールの余りに意外な言葉に、デニムは困惑した。
「イッセイを僕達の軍師に?」
一方、古都ライムにおいてバルマムッサの虐殺の件で一誠が行った事を知らされたヴァイスは怒りを露わに反対する。
「だけど、アイツは! アイツが余計な事をしたせいで、バルマムッサは!」
ヴァイスの反対意見を聞いたレオナールは、バルマムッサの件で密かに進行していた謀略について告白し始めた。そして、一誠が古都ライムでデニム達と離れて別行動を取り始めた本当の狙いも。
「……彼だけだったのだ。君達の中で、彼だけはロンウェー公爵による虐殺の狂言策を事前に察知し、そして最善の形で止めようと誰にも知られない様に一人戦っていた。それに、彼は本当ならバルマムッサに自発的に向かうウォルスタ人に紛れ込ませる形で少しずつ兵をバルマムッサに潜伏させ、その数が千に至ってから事を起こしたかったと言っていた。確かにそれならばあのバルマムッサの虐殺を未然に防ぎ、更に住民に現実を教えると共に我々に協力させる事ができていただろう。それがあの様になってしまったのは、彼がその叡智を存分に発揮できる立場でなかったからだ。だが、ロンウェー公爵の様な貴族も、私の様な犬もいない今なら、彼に課せられてしまった重い枷を全て外すことができる。彼の全てを見通す神の頭脳が、君達を勝利へと導いてくれる筈だ。……暗黒騎士団の一部が暴走したライム襲撃を完全に読み切り、その一人を伏兵の投網で、更に暴走を止めに来た別の暗黒騎士を一騎討ちでそれぞれ生け捕りにした彼ならば」
レオナールから発せられた余りに予想外の言葉に、デニムはつい強い口調で問い質してしまった。
「どういうことですか、それは!」
デニムの問い掛けに対し、レオナールは一誠から言われた事をそのままデニムに伝え始める。
「彼は言っていたよ。暗黒騎士団のコマンド級の中に、血に飢えた野獣の様な気性を持つ者とそれに乗じる様な狡猾な者がいる。特に前者にとって、ライムに駐留している聖騎士殿は正に格好の標的。ならば、勢力拡大を目論むバクラムからの要請に応じる形で必ずフィダック城から出てライムに攻めて来るだろうと」
その余りに的確な一誠の予見を聞いたカチュアは、一誠に対して恐れを抱き始めてしまった。
「何なの、それ? あの子は一体、何処まで見えているというの?」
その様なカチュアの変化に構う事無く、レオナールは更に言葉を発し続ける。
「そして、暗黒騎士を生け捕りにする事で捕虜解放の取引を行い、少しでも有利な条件を引き出す。これが、イッセイ君から聞かされていた対暗黒騎士団の計画だった。だが、聖騎士殿が衆寡敵せずに暗黒騎士団の捕虜となった事でコマンド級の捕虜を追加する形に計画を変更した様だ。そして、私が最後に受け取った彼からの手紙には「現在は捕虜交換の交渉の為にフィダック城へ向かっている最中。流石にコマンド級が二名、しかもその内の一人がNo.3である以上、暗黒騎士団はこちらの提案をまず断れない。これで奮戦及ばず囚われの身になってしまったランスロットさんを取り戻せる」と書かれてあった。ただ、もし向こうが強硬手段を取れば、タルタロスを含めた八人のコマンド級の内、少なくとも三人は確実に道連れにするとも書かれていた。……私はイッセイ君にそこまで無理をして欲しくはなかったのだが」
正に命懸けである一誠の策略の全貌を聞かされたデニムは、ただ一誠の名を呼ぶ事しかできなかった。
「……イッセイ」
一方、一誠の行動に対して、ヴァイスはただ感情を爆発させるだけであった。
「どうしてだ、どうして俺達に何も言ってくれない! ……俺達が、お前を信じていなかったからか? だから、まずは自分から動く事で俺達に信用してもらう為の証を立てようって事か?」
そして、余りのやり切れなさから、己の拳を城の石床に叩きつける。
「バカ野郎が! お前はまだ十四、成人すらしていないんだぞ! それなのに、そんな無茶ばかりしやがって! ……だがな、俺達よりも年下のお前にそんな無茶させちまう程に追い詰めてしまった俺達の方が、どうしようもないくらいに大バカ野郎だ!」
更に、弟であるデニムを慕う一誠に対し、もう一人の弟の様に思い始めていたカチュアもまた涙を流し始めていた。
「どうして? どうして、あの子はここまで頑張れるの? あの子は元々この島の人間じゃない。それどころか、私達の争いに巻き込まれてしまっただけなのに……」
一誠の行動の全てを知った三人の反応と一誠に対するそれぞれの想いを確認したレオナールは、間もなく死に絶えるであろう己の体に鞭を打ちつつ、一誠への伝言をデニム達に託す。
「……イッセイ君には、不甲斐ない私達大人のツケを背負わせてしまった。だから、彼に伝えて欲しい。君が背負ってしまったものは、私が全て持っていく。だから、もうその肩の荷を降ろして欲しいと」
ここまで言い終えた所で、レオナールは己の体から急速に力が抜けていくのを感じて己の最期を悟った。
「……あぁ。どうやら最期の時が来たようだ。目が見えなくなった。体の感覚もなくなって来ている。ウォルスタを、いやヴァレリアを頼む。手を……取り合った……君……達になら、新……しい……ヴァレリ……ア……を……」
こうして、己の死と引き換えにウォルスタ解放軍をヴァレリア解放軍へと大きく生まれ変わらせる礎を築いた憂国の烈士レオナール・レシ・リモンは、ウォルスタを含めたヴァレリアの未来をデニム達に託して、その生涯を終えた。
Interlude end
ランスロットさんを取り返す為の交渉に向かい、どうにか捕虜交換を成し遂げた帰り、僕はある人物と偶々コンタクトを取る事ができた。
「ニルダム王家の末子である貴方が何故仇敵の配下に甘んじているのか、等と言うつもりはありません。ただ、もう少しヴァレリアの外にも耳を傾けておいて下さい。……時が来れば、貴方は全てから解放される筈ですから」
「……中々面白い事を言う。だが、そうならなかった時にはどうする?」
「その時はヴァレリアから離反し、ローディスに臣従する事を約束しましょう」
「……余程、自らの見識に自信がある様だな。ならば、あり得ない事だがもしお前の言う様に私が全てから解放されるという事になった暁には、その代価として……」
この時に撒いた小さな種が、後に予想以上に大きな実を結ぶことになる。
その後、軍勢を整えたガルガスタンが侵攻を開始したのを受けて、僕は以前とは逆にヴァイスさんとラヴィニスさんが率いる大軍を囮とし、デニムさん率いる少数精鋭による後方からの奇襲策を提案し、それが功を奏してガルガスタン強硬派の指導者であるバルバドス枢機卿を捕虜とする事に成功した。
また、その過程でブリガンテス城に幽閉されていた穏健派との和解が成立、反体制派に加わっていた
そして、バルバドス枢機卿の右腕で最後の強硬派であるザエボスをヴァイスさん達の囮部隊を破られた事で占拠されたアルモニカ城で討ち果たし、ガルガスタン王国はその姿を消した。
その途中、暗黒騎士団が密かにヴァレリア解放戦線の本拠地であるボード砦に進軍している情報を掴んだ僕はデニムさんの許可を得て転移魔法で単身ボード砦に向かい、重傷を負ったセリエさんを彼等に見つからない内に保護してから即座に帰還した。その後、傷をある程度癒したセリエさんからデニムさんの父親であるプランシー神父がまだ生存しており、暗黒騎士団が彼を連れ去っていった事を伝えられた。セリエさんはデニムさんに父親を奪い返されてしまった事を謝罪した後、デニムさんからの勧誘を受け入れて解放軍に参入する事になった。
解放軍の首脳陣の出身民族を見れば、トップのデニムさんを始めとする最古参の面々こそウォルスタ人だ。だが、実績を重ねていった事でデニムさん直属の精鋭部隊の幹部に昇進したシスティーナさん達はバクラム人であり、更に最近加わったばかりだが竜騎兵としての高い実力から既に歩兵部隊の部隊長を任されているジュヌーンさんに至っては穏健派であるとはいえつい最近まで直接敵対していたガルガスタン人だ。
……気が付けば、解放軍においてはもはや民族間の対立が無くなりつつあり、敵となる対象もまたガルガスタンやバクラムといった民族から民族間の対立を利用する指導者達へと変えていたのだ。
だからこそ、かつて覇王ドルガルアが掲げた民族融和の達成を目指していたセリエさんは、それを実現しつつある解放軍への参加を決めたのだろう。
一方、奇襲策を発動する少し前に弟であるデニムさんとのすれ違いからカチュアさんが離脱した。流石にこれ以上押し留めるとカチュアさんが暴走しかねなかったのと今後の事を踏まえて、僕はあえてカチュアさんの離脱を見逃した。
一大転機となる古都ライムとフィダック城の攻略作戦を前に、捕虜収容所から脱出してきたギルダスさんとミルディンさん、ザエボスに囚われていたヴァイスさんとラヴィニスさんが合流し、更に捕虜交換で暗黒騎士団から取り戻したランスロットさんも怪我から回復した事で解放軍の戦力が大幅に増した。
そして火山の火口ギリギリを通り抜けるという常識ではあり得ない進軍ルートで奇襲に成功した古都ライムの戦いでは、暗黒騎士団に囲まれた盲目の剣聖であるハボリム先生(先生と呼ぶのは、気配察知による戦い方を教わった為)を救出し、新たに仲間として迎えた事で万全の態勢となった。
あり得ない筈の古都ライムへの奇襲でバクラム軍が混乱した隙を突いて、難攻不落の要塞であるフィダック城の攻略に着手した僕達は、最終的には当時城を預かっていた暗黒騎士団副長のバールゼフォンこそ逃したものの、コマンド級の暗黒騎士オズを討ち果たした事で無事攻略に成功した。
そして、時代は更に加速していく。
かつてヴァレリアを統一した覇王ドルガルアの遺児ベルサリアとして、カチュアさんが表舞台に立った事で。
いかがだったでしょうか?
戦争は、子供を子供のままでいさせてはくれません。
だからこそ、戦争は極力避けるべきなのでしょう。