赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.20 修正


第八話 差し込む光

Side:木場祐斗

 

ギャスパー君育成計画 ミッションNo.2 自分の力を理解しよう!

 

 ギャスパー君が弱点だったニンニクを克服、正確には思い込みによるプラシーボ効果を解消した後、僕達はオカ研の部室から備え付けの黒板がまだ残っている教室へ移動した。教室に到着すると、イッセー君は早速ギャスパー君に声を掛ける。

 

「それじゃあ、ギャスパー君。今から幾つか質問をするから、正直に答えて欲しいんだ」

 

 教室に着いて早々いきなり声を掛けられたギャスパー君は、驚きながらも質問に答える事を承知する。

 

「は、はいっ! わかりましたぁぁぁぁっ!」

 

 ギャスパー君の意志を確認したイッセー君が指を一つ鳴らすと、その右手の中には一輪のバラが収まっていた。そして、そのバラをギャスパー君に見せるとそのまま最初の質問をぶつける。

 

「じゃあ、まずはこのバラ。一目見て、どう思ったかな?」

 

 すると、ギャスパー君の様子が大きく変わった。まるで何かを怖がっている様な素振りを見せ始める。

 

「あの、その……」

 

 明らかに質問に答える事を躊躇っているギャスパー君に対して、イッセー君は彼を落ち着かせようと穏やかな声と表情でギャスパー君に話しかけた。

 

「ギャスパー君。「正直に答えて欲しい」って言ったのは、僕なんだ。だから、ギャスパー君の事を笑ったり、頭ごなしに否定したり、そんな酷い事はけしてしないよ」

 

 そんなイッセー君の声と表情に安心したのだろう、ギャスパー君はようやくバラに対して思った事を口にし始めた。

 

「そ、その、何というか。真っ先に感じたのは、「綺麗な花」とか「良い香り」とか、そんなのじゃなくて「美味しそうだな」って。……やっぱり、変ですよね?」

 

 なけなしの勇気を出して告白したものの、やはりイッセー君の反応が怖かったのだろう。ギャスパー君はイッセー君に、少しだけ媚びる様な視線で尋ねてきた。

 

「成る程。という事は……」

 

 だけどギャスパー君から尋ねられたイッセー君は、ギャスパー君が自分の質問に対する答えから何かを考察していて、ギャスパー君が危惧している様な事は全く感じていない様だった。そして考えがまとまったのか、イッセー君がギャスパー君に視線を戻すと、出てきたのは感謝と質問の継続を伝える言葉だった。

 

「質問に答えてくれてありがとう、ギャスパー君。お陰で凄く参考になったよ。この調子でドンドン質問していくから、よろしくね?」

 

 ……あぁ、そうだった。イッセー君は、こういう男だった。

 

 どんなことにでも可能性を見出すことのできる叡智と、その可能性を少しでも未来に繋げていこうとする確固たる強い意志。そして、他者の意志を尊重しつつも明らかに誤っている時には叱り、また諭す事で行いを改めさせる事のできる、本当の意味での優しさ。

 これらを併せ持っていたからこそ、かつては二大変態なんて呼ばれて、何度も生徒会や教師から注意されたり叱られたりしても猥褻な言動や女子生徒の覗きをやめなかった松田君と元浜君を更生できたのだ。

 

「はっ、はい!」

 

 そして、ギャスパー君もまた自分の答えを真摯に受け止めてくれたイッセー君を見て、明らかに嬉しそうな表情を浮かべながら返事をしていた。

 

 こうして、イッセー君はギャスパー君がバラに対する印象を質問したのを皮切りにして、次々と質問していった。その質問とギャスパー君の答えを一部抜粋したものを挙げてみる。

 

 Q. 今、六つの光が僕の手の中にあるんだけど、何色の光が見える?

 A. 青と緑、後は黒です。

 

 Q. じゃあ、この笛を見てどう思うかな?

 A. 仄かに光ってる様に見えますけど……

 

 Q. 魔法のオモチャを持って走り回っていたら、何故か突然壊れた事がなかった?

 A. 何でそれを知ってるんですか!

 

 ……因みに、今挙げた質問に対する僕の答えは以下の通り。

 

 A. 光? 何もないけど?

 

 A. 何の変哲もない、唯の笛じゃないのかい?

 

 A. ううん。別にそんな事はなかったよ。

 

 やがてイッセー君はもう十分と判断したのか、ギャスパー君への質問を切り上げた。

 

「ウン。これで大体解ったよ」

 

 そして、イッセー君はチョークを手に取ると、備え付けの黒板に文字を書き出し始める。

 

「まずは、と」

 

 最初に上部の中央に書かれたのは「ギャスパー君の可能性」という言葉だった。そして、チョークを動かして次々と文字を書き出していく。その動きには淀みがなく、戸惑いや躊躇いが一切ない事が窺えた。そうして書き終えた頃には、黒板にギッシリと書かれた数々の能力があった。

 

ヴァンパイアとしての能力

(基礎編)

・人間を遥かに上回る身体能力=優れた筋力+反射神経。

 →現在の身体能力は貧弱そのもの。ただし潜在能力はやはり高く、体の使い方を学べば白兵戦は十分可能。

・蝙蝠や狼、霧、鼠、虫等に変身可能=ヴァンパイアは本来「実体」がない為。

 →蝙蝠には変身可能。それ以外は考えたことがない為、要検証。

・人間の魔術や魔法は使用可能。

・魅了や幻惑等の暗示系の魔眼は発動不可能の模様。おそらくは神器(セイクリッド・ギア)が優先される為。

・動物(変身可能な動物なら全て)や自然現象(特に嵐や雷)の操作が可能

 →蝙蝠は確認済み。また、水・風・闇の精霊との親和性が高い為、自然現象の操作は可能。

・血を致死量以上に吸うか逆に少量でも与えた相手は吸血鬼となり、更に眷属化。

・諸説あったバラの花については「美味しそう」との事なので、血液の代替品として使用可能。確認の必要はあるが、食べるだけでなく手から生気を吸収する事もおそらく可能。

(応用編)

・霧化の際、他の生物や物質を伴う事が可能?

・自然現象操作と魔術の併用で効果アップの可能性あり。

・バラからの精気吸収ができた場合、バラ以外の植物、更には動物からも可能?

 

ダンピールの能力

(基礎編)

・通常攻撃で「不死」を抜いてヴァンパイアを殺す事が可能。

 →精神世界面(アストラル・サイド)からの魂への干渉によるものと推定、要検証。

・ヴァンパイアに対する広域かつ高精度の感知能力あり。

 →幽閉時代に同族が来るのを何となく解った為、感知能力を有していると推定。

・儀式方式による退治が可能。笛を吹く、走り回る、目に見えない敵と戦うなどして、最後に勝利を宣言する。

 →笛に宿る音楽の精霊に反応を示した為、他の楽器での確認が必要。また、走り回るだけで魔法の力を削り取っていた形跡も確認。

(応用編)

・ヴァンパイア以外の存在も感知できる可能性あり?

・体を動かす事自体が攻撃手段となる可能性あり。

 

「まぁ、ざっとこれくらいかな?」

 

 全てを書き終えた事でイッセー君は満足そうにしているけど、正直に言ってツッコミ所が満載だ。

 

「あ、あのぅ、イッセー先輩? ヴァンパイアが自然現象を操作できるなんて、僕初めて聞いたんですけど……?」

 

 ここで、当の本人であるギャスパー君がおずおずと手を挙げて、発言してきた。

 

 ……意外だ。あの人見知りの激しいギャスパー君が、自分から意見を言い出すなんて。

 

 一方、ギャスパー君の発言を聞いたイッセー君は、逆に首を傾げている。

 

「あれ? 割と有名な伝承とさっきの質問の答えと合わせて検討した上で、特に可能性の高いものだけをピックアップしたんだけど、本当に?」

 

 すると、ギャスパー君がイッセー君の質問に恐る恐る答えた。

 

「ハ、ハイ。そんな事ができるなんて、僕は全く思ってませんでした。……というか、僕ができそうな事ってこんなにたくさんあったんですね……」

 

 確かにこれだけ聞いたらダンピールという存在が実は凄まじい潜在能力を持っているのだと納得させられてしまう。しかも、単に伝承にあるものを書き連ねただけでなく、ギャスパー君から得た情報を元に検証した上でピックアップしたものだ。信憑性はかなり高いだろう。イッセー君が加わる前のグレモリー眷属において、殆ど鍛錬などしていない筈のギャスパー君が女王(クィーン)の朱乃さんに次ぐ実力を持っていたのも十分頷ける。

 ……尤も、言われた当人であるギャスパー君は、半ば呆けている様だったけどね。イッセー君もギャスパー君の反応を見て、ここでとりあえず話を切り上げた。

 

「まぁ、所詮は民間伝承ということか。一族の秘伝という事で極一部にしか知らされていない可能性もあるしね。それに、それを実証する様にギャスパー君は水や風の精霊との親和性が高いから、精霊達との感応にさえ慣れてしまえば、天候操作はすぐにできると思うよ。この話はここまでにしようか。後は、僕が実際にやってみせればいい訳だしね」

 

 ……少々、いやかなり聞き逃せない言葉が飛び出していたけど。

 

「「「「「「「ちょっと待った!」」」」」」」

 

 そして、やっぱり聞き逃せなかったであろう僕以外のオカ研部員が一斉に声を上げた。……まぁ、そうなるのも無理はないかな?

 

「イ、イッセー! 今の言い方だと、貴方も天候操作ができる事になるわよ! 本当にそんな事が可能なの?」

 

 部長が代表してイッセー君に確認すると、イッセー君の答えはさも当然のように頷いてからの肯定だった。

 

「リアス部長。天候操作なんて天候に関するメカニズムさえしっかりと理解していれば、水と風の精霊魔法の応用で割と簡単にできますよ。実際、コールストームという雷を伴う様な激しい嵐を呼ぶ魔法もありますし。尤も、水の魔力を得手としているソーナ会長や精霊達と感応できるギャスパー君の方が、精霊達と話せるだけの僕よりもずっと天候操作の応用が利きやすいんですけどね」

 

 ……先程のギャスパー君に事前説明なしで大蒜(おおひる)の花の匂いを嗅がせた事といい、今回のコレといい、イッセー君について解った事が一つある。イッセー君にとっての常識が、他の皆とは何処かズレているのだ。

 具体的には、イッセー君にとっての常識が僕達にとっての非常識である事がけして珍しい事じゃない、という事だ。実際、天候を操作できる神器である煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)神滅具(ロンギヌス)、しかもその中でも二番目に強いとされている程に天候操作に関する能力はかなり希少な物である筈なのだが、イッセー君の中では単に天候を変えるだけなら誰にでもできる様な割と簡単な技能であるらしかった。

 

「そう言えば、イッセー君特製だという薫君とカノンちゃんの武器だって、伝説級でも最上位に近い、それこそ神の武器だと言っても誰も疑わない程の出来なのに、作った本人は「これくらいなら、ちょっと頑張れば誰でも作れる」って考えている節があった様な……」

 

 皆がイッセー君の発言に大騒ぎしている中、イッセー君と瑞貴さんの伝手で薫君とカノンちゃんに逢わせてくれた時の事を思い出した僕は、気が付いたらその時に思い至った事をポツリと零していた。……イッセー君の意外な欠点を見つけた様な気がして、僕は少しだけ可笑しくなった。

 

 

 

「それで、僕は何故笛を持たされているんですか?」

 

 イッセー君の爆弾発言からようやく落ち着いた後、ギャスパー君はイッセー君から先程の質問にも見せた一本の小さな笛を持たされていた。

 

「ギャスパー君。さっき見せたこの笛だけど、実は僕が単に小枝から切り出して作った、何の変哲もないおもちゃの様な笛なんだ。でも、ギャスパー君の目には仄かに光っている様に見えた。という事は、ギャスパー君には水や風、闇の精霊だけでなく、音楽の精霊との親和性もある可能性が高いんだ。だから、まずはそれを吹いてくれないかな?」

 

 イッセー君はそう言って、ギャスパー君に笛を吹くよう促す。

 

「わ、解りました! それなら、やってみますぅぅぅぅぅぅ!」

 

 すると、ギャスパー君はイッセー君の言葉に素直に従って、イッセー君お手製の笛を吹き始める。その音色は、初めてにしてはなかなかいい感じだった。どうやらギャスパー君は、だいぶ酷い目には遭ったけどその分あっさりとニンニクを克服させてくれた上に質問に対する自分の答えを聞いて真摯に考えてくれたイッセー君にすっかり心を開いているみたいだ。あの酷かった対人恐怖症がまるで嘘の様だ。……尤も、今はイッセー君限定だろうけど。たぶん、イッセー君には時間停止が全く効かないという安心感も手伝っているんだろう。

 だけど、ギャスパー君が笛を吹き始めてからしばらくして、僕は異変に気ついた。イッセー君と僕以外の皆が、瞬きもせずに止まっていたのだ。まさかと思いギャスパー君の方を向くと、その目は閉じていた。おそらく演奏に集中する為に目を閉じたのだろう。……だとすると。

 

「参ったな。笛の音色を媒介にして、停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の時間停止能力が発動しちゃったか」

 

 ある結論に至った所でイッセー君が僕に声をかけて来たので、僕はイッセー君に確認を取る。

 

「やっぱり、そうなのかい? でも、それにしては随分強力だよ。普段なら効かない筈の部長ですら停止しているからね。僕に効いていないのは和剣鍛造(ソード・フォージ)があるからで、イッセー君は言うまでもないか」

 

 本来なら動けていた部長が止まってしまっている事実に、僕は少なからず驚いていた。更に、この事実で一つ判明した事がある。イッセー君も僕と同じ結論に至った様で、それに関する説明を始めた。

 

「それもあるけど、祐斗が地力でもリアス部長より強くなった事が関係していると思う。この分だと、実は祐斗同様に禁手(バランス・ブレイカー)が常態化していた浄水成聖(アクア・コンセクレート)を持つ瑞貴やかなり高位のドラゴンの魂を宿していると思われる黒い龍脈(アブソープション・ライン)を持つ元士郎、それに異世界の神竜の力を宿しているイリナもギャスパー君の神器を無効化できそうだ。まぁリアス部長に関しては、発動前に「滅び」の魔力を発動して体に纏うなり防御壁を張るなりしていれば、時間停止を防げていたんだろうけどね。これと同じ理論で、()(どう)(りき)と魔力が融合したソーナ会長、炎と風の相互作用で魔力の質を一段階上げられるレイヴェル、デュランダルの担い手であるゼノヴィア、後は計都(けいと)の指導の進行次第では小猫ちゃんもいけるかな?」

 

 僕はイッセー君の説明を聞いて納得していた。情報の解析とそれに伴う考察の精度が高い彼が言うのなら、きっとそういう事なのだろう。ただ、それにしても、この事態に対処可能な人が意外に多い。しかも、イッセー君との接点が比較的少ない小猫ちゃんとゼノヴィア以外はイッセー君と何らかの形で深く関わった事で大きく成長している。

 ……このままだと、イッセー君との接点の差がそのまま実力差になってしまいそうな気がする。けして小さくはない危惧を抱きつつも、僕は現在進行中の事態についてイッセー君に尋ねてみた。

 

「でも、何故なんだろうね?」

 

 これについては既に結論を出していたのだろう、イッセー君は僕の質問に対して間髪入れずに答え始める。

 

「おそらくダンピールの能力の発現方法が主に儀式方式だから、それに沿う形でギャスパー君の魂の一部とも言える停止世界の邪眼の出力がより出せるようになったんだろう。それに目を閉じた事で音楽の精霊と深く感応して、時間停止能力を笛で奏でる音色に乗せられる様になったのかもしれないな。それらが重なって、この状況になってしまったんだと思う。さしずめ、停止世界の子守唄(フォービトゥン・バロール・ララバイ)と言ったところかな?」

 

 ……イッセー君が関わると、相変わらず想像の斜め上を行ってしまう。それを改めて実感した僕は完全に呆れ返ってしまった。

 

 でも、これ以上は流石に不味い。

 

 そう思った僕は、早速イッセー君に確認作業の中止を提案した。

 

「とにかく、今はギャスパー君の演奏を止めよう。この分だと音色が聞こえる範囲で発動しそうだから、笛は当分の間封印するしかないよ。それに聞いた相手の時間を無差別に止める以上、レーティングゲームでの使用は禁止されるだろうしね」

 

 この僕の提案に対し、イッセー君は頷く事で了解の意を伝えてきた。

 

「ギャスパー君には、先に神器の制御を覚えてもらうか。このままだと、ギャスパー君の能力開発に影響が出そうだ。……これで、元士郎の出番がかなり早まったなぁ」

 

 独り言の様にそう零すと、イッセー君は静かに嘆息していた。

 

 

 

「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 僕達が演奏を止めた後、ギャスパー君は部長達に向かって必死で謝っていた。……無理もない。今までは効果が及ばなかった部長すら停止させてしまったのだから。これでは、むしろ状況が悪化したとも言える。

 

「でも、ギャスパー君、凄いですわね。まさか、停止世界の邪眼の力を笛の音色に乗せる事ができるなんて、思いもしませんでしたもの」

 

 朱乃さんはそう言って、感嘆している。この朱乃さんの言葉を聞いて何かを閃いた様で、イッセー君は早速ギャスパー君に提案をしてきた。

 

「ひょっとしたら、目を開けて笛を吹けば神器の能力制御が容易になるかもしれない。神器の能力を音色に乗せられる程に音楽の精霊との相性がいいなら、その可能性が十分にある。ギャスパー君、早速試してくれないかな?」

 

 ……成る程、そういう考え方もあるのか。イッセー君の提案内容に、僕はまたもや納得してしまった。イッセー君はこういった方面で本当に無類の力を発揮する。しかし、提案を受けたギャスパー君は先程と異なり、シュンとなって俯いてしまっている。

 

「でも、もしまた暴走したら……!」

 

 そして、さっきと同じ様な暴走を恐れる余り、行動に移すのを躊躇し始めてしまった。やはり、結果的にとはいえ神器がまた暴走した事でかなり落ち込んでいる様だ。イッセー君はそんなギャスパー君の頭を撫でてながら、優しい言葉で励まし始めた。

 

「いいんだよ、何度失敗しても。むしろどんどん挑戦して、いっぱい失敗して、そして何故そうなったのかを考えて次に繋げた方がずっと良いんだ。それに、一歳しか違わないギャスパー君に対して僕が言うのは失礼なんだけど、失敗しても許されるのは子供の特権だよ。だったら、それをしっかりと生かさなきゃ。……ねっ?」

 

 そのイッセー君の励ましの言葉を受けても、ギャスパー君は受け入れる事を躊躇している。それを見たイッセー君は何かの確信を得た様に頷くと、ギャスパー君に確認を取る。

 

「そうか。ギャスパー君が本当に怖いと思っているのは、力を扱い切れずに誰かを傷つけてしまいそうな自分自身なんだね?」

 

 このイッセー君の言葉に、ギャスパー君は驚きで目を見開いた。……あの反応では、図星だったのだろう。イッセー君もそれが解った様で、言葉を続けていく。

 

「それで、他の人と顔を合わせるのが怖くなる。自分のせいで、大切な人や見知らぬ誰かが傷つくのを見たくないから。……ギャスパー君、君は優しいね。一度相容れないと認めた相手には一切容赦しない僕なんかよりも、ずっと」

 

 ……それは、ちょっと違うんじゃないかな?

 

 イッセー君のこの言葉を聞いた時、僕はそう思った。そして、ギャスパー君も同じ事を思った様だ。すぐさま激しい剣幕で反論してきた。……僕が今までギャスパー君と接してきた中で、こんなギャスパー君は一度も見た事がなかった。

 

「そんな事、そんな事ありません! 僕のは、唯の怖がりです! 本当に優しいのは、イッセー先輩の方です!」

 

 反論を言い終えた後、ギャスパー君は顔を俯かせると体を少し震わせながら話し始める。……時折しゃくりあげる様子から、おそらくは涙を流しながら。

 

「外に出てからは、初めてなんです。ここまで僕の事を見てくれて、色々な事を教えてくれて、そして励ましてくれた人は。確かに、リアスお姉様や朱乃お姉様みたいに僕を心配してくれる人はいましたけど、正直に言うとイッセー先輩程に色々してくれた訳じゃないんです」

 

 そして、ギャスパー君は自分の過去をゆっくりと告白していった。

 

「僕はこの神器の力と人間とのハーフということで、一族から幽閉されていました。一緒に幽閉されていた幼馴染のお陰で幽閉先から脱出する事ができましたけど、当てもなく放浪している間は、正体が分かると誰一人僕を助けてはくれませんでした。そして吸血鬼ハンターに襲われて殺された僕を、リアスお姉様は下僕悪魔に転生させて助けてくれたんです。だけど結局、僕は自分の力を抑え切れず、旧校舎で封印されていました」

 

 過去を告白し終えた後、ギャスパー君は少しずつ本当の気持ちを言葉にしていく。

 

「……本当は、今でも凄く怖いんです。外に出るのが怖い。外に出てまた人に裏切られるのが怖い。でもそれ以上に、僕を見たまま瞬き一つせずに止まってしまう。そんな皆の表情を見るのが、凄く怖い! 僕は、僕のせいでリアスお姉様や他の皆に迷惑をかける事が一番怖いんです! 僕は臆病で、情けなくて、役立たずで! そんな僕自身を、僕は一番信じられないんです!」

 

 ……それは、今まで溜めに溜め込んだ、ギャスパー君の魂の叫びだった。

 

 そして、僕は知っている。この魂の叫びに、誰よりも応えられる男がそこにいることを。何より、僕自身がそれを以前に実感しているのだから。

 

「ギャスパー君。だったら、今は無理をして自分を信じなくてもいいよ。その代わり、と言っては何だけど……」

 

 イッセー君はそう言ってギャスパー君の目を見つめると、自分自身を親指で指しながら力強く叫ぶ。

 

「僕を信じろ!」

 

 その声は、ギャスパー君の心に必ず届く。

 

「君を信じる僕を信じろ! ギャスパー・ヴラディ!」

 

 そして、その心に大きな力を与えてくれる。

 

 実際にギャスパー君の方を見れば、ギャスパー君の目には相変わらず涙が流れていたけど、今まではけして見られなかった強い輝きが宿っていた。やがて、ギャスパー君ははっきりとした力強い声で返事をした。

 

「……はい、お父さん!」

 

 そこにはもう、部屋に引き籠っていた気弱な男の娘はいなかった。迷い続けたその果てに進むべき道を見出し、力強く歩み始めようとする少年だけがそこにはいた。

 

 ……あれ? 今、とても聞き捨てならない爆弾発言が飛び出したような……?

 

 イッセー君もそれに気づいていて、苦笑いを浮かべながらそれをギャスパー君に指摘する。

 

「ねぇ、ギャスパー君。幾らなんでも「お父さん」はないんじゃないかな?」

 

 イッセー君から指摘を受けたギャスパー君は、何を言われたのかが解らずにキョトンとしていた。

 

「……あっ」

 

 だけど、その内に自分が何を口走ったのかに気づくと、次第に顔が真っ赤になっていった。

 

「あああああああ、あのですね……」

 

 羞恥の余りに呂律がロクに回らなくなっているギャスパー君が、それでも何とか弁解しようとする。

 

「ダメェェェェェッ!」

 

 すると、突然アウラちゃんがイッセー君の精神世界から飛び出してきた。

 

「パパは、お兄ちゃんのパパじゃないの! あたしのパパなの! だから、あたしからパパを取らないで!」

 

 アウラちゃんはそう言うと、イッセー君の右腕をしっかりと抱き締めて「ウゥゥ」っとギャスパー君に唸り始める。……でも、可愛らしさの方が先に出てしまって全然怖くないし、むしろ微笑ましい限りだった。

 

「……ゴメンなさい」

 

 ただ、当事者であるギャスパー君はそういう訳にもいかず、ただ頭を下げるばかりだ。……色々な意味で小さな女の子に、ただ頭を下げるだけの男の娘。これはちょっと情けないと思っていたら、小猫ちゃんも同じ事を感じていたらしく、ギャスパー君に対して容赦のない一言を言い放つ。

 

「……へたれヴァンパイア」

 

 それを聞いたギャスパー君は即座に反論した。

 

「小猫ちゃん、流石にそれは酷いよ! だったら、小猫ちゃんはアレに勝てるって言うの!」

 

 そう言ってギャスパー君が指差した先には、未だにギャスパー君への警戒を露わにしているアウラちゃんの姿があった。……ゴメン、ギャスパー君。アレには流石に僕も勝てる気がしないよ。

 

「ギャー君、ゴメン。私もちょっと無理かも」

 

 どうやら小猫ちゃんも僕と同様だったらしく、ギャスパー君にさっきの言葉について謝っていた。……でも、今までは言われっぱなしだったギャスパー君がすぐさま反論するとは、僕は正直思いもよらなかった。しかも、結果的に小猫ちゃんを言い負かしている。これは、今までのギャスパー君から考えると物凄い進歩だった。

 

 これで、ギャスパー君も前向きになっていくのかな?

 

 僕はこれから変化していくだろうギャスパー君に、少なからず期待していた。

 

ギャスパー君育成計画 ミッションNo.2 自分の力を理解しよう! 

……神器の制御を優先する為、一時中断!

 

Side end

 

 

 

「君を信じる僕を信じろ」

 

 この言葉を聞いた時、僕の中で何かが弾け飛んだ様な気がした。

 

 僕がこの時まで女装を好んでいたのは、実は女の子の姿の方がまだ僕への扱いが良かったから。

 僕がこの時まで部屋から出られなかったのは、実は外には味方が誰もいなかったから。

 そして僕がこの時まで対人恐怖症だったのは、実は他の誰よりも自分を信じられなかったから。

 

 でも、そんな僕の全てを受け入れて、そして認めてくれた人がいた。

 

 僕は君を信じる。たとえ君が君自身を信じられなくても、僕は君を信じ続ける。だから君は、君を信じる僕を通して自分の事も信じて欲しい。

 

 あの言葉には、そんな僕への温かな励ましと篤い信頼が込められていた。そして、僕はそれを「言葉」でなく「心」で、そして「魂」で理解した。今まで何かが欠けていた心と魂が満たされた様な気がした。

 

 ……この手が天に届いた今だからこそ、はっきりと分かる。あの瞬間から、僕は天に向かって歩み始めたのだと。

 

 でもだからと言って、流石にあの場面で「お父さん」はないな、と自分でも思う。尤も、あの時の一誠さんに感じたのは、尊敬する「師」でも頼れる「兄」でもなく、優しい「父」だったのは確かだけどね。

 この様に肝心な所でビシッと決めれらない辺り、当時の僕はやっぱり「へたれヴァンパイア」だったと思う。今となっては笑って話せる様な、若気の至りという意味でもいい思い出だ。

 

ギャスパー回顧録「破天荒(ブレイクスルー)天翔記」第一章「僕はへたれヴァンパイア」より抜粋

 




いかがだったでしょうか?

こうして改めて能力を書き並べていくと、ギャスパーは神器やらバロールの断片云々以前に、ハーフヴァンパイアという時点で既にチートキャラだった事が改めて思い知らされます。

……何せ、かの怒りの王子の真似事も一応は可能だったりする訳ですから。

では、また次の話でお会いしましょう。
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