Overview
……時は、一誠が中級悪魔の昇格試験を終えた直後に遡る。
適度な明るさを保つ為の魔力灯で照らされた部屋の中で、一誠は一人黙々と何かを作る作業をこなしていた。部屋の中には鍛冶屋にありそうな炉や器具、ミスリル銀を始めとする希少金属のインゴット、更には設計図らしき物が置かれた作図用の机と如何にもそれらしいものがあるかと思えば、所々にミスリル銀でルーン文字を拵えてある機織り機や様々な術式がまるで模様の様に描かれている大きな壺もあり、果ては色々な色の液体の入ったフラスコを始めとする実験器具の数々など何をどう結びつければいいのか判断に困る代物も多く存在している。
「
そして、一誠は特異的な能力や才能という面で恵まれているグレモリー眷属と比べるとどうしても見劣りしてしまうシトリー眷属の強化プランを考えており、現在はその為に必要となる物を作っている最中だった。一誠は一度手を休めると、シトリー眷属の強化プランの目標をどうするのか、実際に口に出す事でまとめ始める。
「まず剣の技量が僕以上で自ら鍛錬の指標も立てられる程に経験も豊富な瑞貴については、特に何かをする必要はない。それにシトリー家の純血悪魔で水の魔力を得手とするソーナ会長と
そこまで言及したところで、一誠は手に取っていた作成中のモノを頭上に掲げた。それは、小さな宝石を中央に拵えた菱形の鋲の様な物だった……。
Overview end
Side:草下憐耶
グレモリー眷属に早くから加わっていたにも関わらず、所持している神器の
私は何と言ったらいいのか、全然解らなかった。そしてそれは、実際に神器制御の訓練のサポートに携わった匙君以外のシトリー眷属の皆も一緒だった事だろう。ただ、直接は関係していないにも関わらず、会長と紫藤さんはそれほど驚いた様子はなかった。まるで、そうなる事が解っていた様に。
……いや、違う気がする。会長のあの目は、一君ならできるって信じ切っているんだ。そして、コカビエル事件の最中に結婚を前提として一君と付き合い始め、一君の娘であるアウラちゃんから「ママ」と呼ばれる程に慕われている紫藤さんもまた同じなのだろう。そんな会長達の姿に、まるで「一君を信じ切れていないのか」と責められている様で、私はとても悔しかった。
一君の報告と謝罪、そしてお礼を言い終えてからヴラディ君の訓練の為に旧校舎へと向かった後、私達は生徒会の業務に取りかかり、二時間ほどで本日分の業務を終える事ができた。すると、会長が本日の業務終了を宣言すると共に旧校舎裏へ向かう様に指示された。
そうして旧校舎の裏に移動してから、およそ十分。やってきたのは、今日はグレモリー眷属として活動していた一君だ。
「それで、一誠君。本日はサジと武藤君以外の強化プランを提案すると言っていましたが」
会長の問い掛けに対して、一君は頷いてから答える。
「えぇ、その通りです。ですが、その前に強化プランの中で教えるものを実際に見てもらいます。まずは巴柄さん、君には刀を使った技を教える予定だよ」
「刀を使った技?」
真っ先に指名を受けた巴柄は一君に問い返した。
「そう。百聞は一見に如かずだから、早速やってみせようか。……アイスブラスト!」
一君はそう言ってから右手を前にかざすと、5 mにも及ぶ高さの巨大な氷の塊を作り出した。次に右手を無造作に上に伸ばすとそこから空間が歪み、その歪みの中に手を入れてから引き出すと、右手には黒い鞘に収められた一本の日本刀が掴まれていた。一君は取り出した刀を鞘から抜いて正眼に構えると、気迫の籠った声で技の名前を叫ぶ。
「桜花雷爆斬!」
その瞬間、爆発的な魔力が注がれた日本刀が三度振るわれ、激しい雷光と爆発を伴った斬撃によって巨大な氷は完全に破壊されていた。そして、日本刀に注がれた力の残渣が美しい桜吹雪となって、辺り一面を舞う。その強大な破壊力とは余りにかけ離れた幻想的な光景に、私達は息を飲んでいた。……ただ、会長と紫藤さんは少しだけ哀しげな表情を浮かべていたのが少し気になる。そんな中で、一君は刀を鞘に収めながら今使用した剣術の技についての説明を始める。
「これは、もし僕が神器も真聖剣も使用できないという最悪の事態に陥った時、通常の剣でも乗り越えられる様に編み出した剣術の一つだよ。因みに、この技の名は「桜花雷爆斬」。独自に編み出した剣術の中では、最大クラスの威力を持っている」
ここまで話した時点で、一君は持っていた刀を巴柄に差し出しながら確認を取る。
「今は悪魔向けに魔力を使ったけど、元々この剣術は剣に気を宿して振るうものなんだ。ただ、編み出した僕が日本人の為か、何故か日本刀との相性が一番良くてね。だから、退魔師の家の出身で刀の扱いと力の込め方に慣れた巴柄さんに最適だと思ったんだけど、どうかな? もし修得する気があるなら、この剣術専用に調整を施し、銘を紅蓮と名付けたこの刀を受け取ってほしい」
そこまで聞いた巴柄は、決意を秘めた表情を浮かべて返事を出した。
「その剣術を完全に使いこなせるようになれば、シトリー眷属のパワー不足がある程度は緩和されそうね。……よっし! 一誠君、私はやるわ!」
巴柄は返事と共に差し出された紅蓮をしっかりと受け取った。それを見届けた一君は、次は桃の方を向くと教えるものが何かを伝える。
「次は桃さん。魔力が高く、その扱いにも慣れている君には補助魔法を教えるよ」
この提案を受けた時、桃の表情が明らかに強張り、その口から不満の言葉が飛び出してきた。
「私は直接戦うのに向いていないから、味方のサポートに特化するという事なの?」
……確かにそう受け取られても、不思議じゃないと思う。でも、一君の考えはそうじゃなかった。
「はっきり言ってしまうと、教える予定の補助魔法の内、幾つかはレーティングゲームでの使用を禁止されても何らおかしくないくらいに強力なんだ。それを今から実際に使いながら、説明していくよ」
一君はそう言うと、今度は無詠唱でさっきと同じ大きさの氷の塊を作り出した後、余り威力がなさそうな小さな魔力弾を放った。魔力弾はそれなりの速さで氷の塊に向かって飛んでいく。
「緩やかな大河の流れの如き時流の渦を巻き起こせ……! スロウムーブ!」
……でも、それは一君が「スロウムーブ」という魔法を使った瞬間に大きく変わった。魔力弾のスピードが急激に遅くなってしまったのだ。そして最初に放った時と同じスピードで再び魔力弾を放った一君は、今度は別の魔法を使用した。
「天空を駆ける疾風迅雷の如き時流の渦を巻き起こせ……! クイックムーブ!」
すると、魔力弾のスピードが急激に加速して、あっという間に氷の塊に当たってしまった。この二つの例を実際に見せた一君は、使用した魔法について説明し始める。
「今使ったのは、対象の時間の流れを操作する補助魔法だよ。スロウムーブで遅くして、クイックムーブで加速する。ただ、あくまで時間の流れを操作するだけだから、攻撃の威力が変わる訳じゃない。だから、見た目加速した様に見えた魔力弾が氷の塊を壊せなかったんだ。それにスロウムーブだけで言っても、例えば敵に何度も重ね掛けする事で完封したり、逆に味方が遅効性の猛毒や呪いに侵されて動けない時に使う事で症状の進行を遅らせたりと、使い方にはかなり応用が利く。レーティングゲームでの使用が禁止されても何らおかしくないと言ったのも、使用用途によっては余りにも大き過ぎる戦力差が生まれてしまうからなんだ。だからこそ、桃さんには実戦において極めて有効だと言える補助魔法の数々を修得してもらう予定だよ」
一方、説明を聞いている桃は魔力弾が未だにゆっくりと氷の塊に向かって進んでいる光景をジッと見たまま呆気に取られていた。でも、そうなるのも無理はないと思う。
時間の流れを操作できる補助魔法。そんな物が、実際に存在するなんて。私はただ驚くしかなかった。確かに、一君は私達の中で最も魔法や魔力の扱いに長けているけど、真聖剣を扱う
そんな事を考えていた私を余所に、説明を終えた一君は桃の耳元に口を寄せると、桃だけに聞こえるように何かを囁いた。……話の内容が気になった私は、いけない事だと解っていながらも、こっそりと聴覚を強化する。
「それにある程度距離があっても使用可能な補助魔法なら、前衛の元士郎を後衛からでも効果的に援護できるから丁度いいと思ったんだけど、どうかな?」
この囁きを聞いた桃は驚きの表情を浮かべて、一君の方を向いた。一君は桃から離れると、苦笑いを浮かべて話を続ける。
「端から見ていたら、もうバレバレだよ。尤も、当の本人だけは全く気付いていないみたいだけど。人って、案外そういうものかもしれないね。それで、桃さんはどうするのかな?」
その一君からの恋の援護射撃に、桃は何度も首を縦に振っていた。
「ありがとう、一誠君! 私、頑張って補助魔法を修得するわ!」
こうして、桃も補助魔法の修得に励む事になった。すると、今度は留流子ちゃんの方を向いて説明し始める。
「次は留流子ちゃん。
そう言ってから、留流子ちゃんに差し出された一君の右の掌には、一見、唯の魔力弾にしか見えないものが乗っていた。
「……何ですか? ただの魔力弾みたいですけど」
一君は留流子ちゃんの感想を聞いて少し苦笑いを浮かべたものの、そのまま説明を続けていく。
「螺旋丸という名前だよ。そして、その威力は……」
そう言うと、先程から二度作っている氷の塊を今度は自らの頭上に創り出した。一君の魔法によって作り出された氷の塊はそのまま自然落下を開始し、一君を押し潰さんとして落ちて来る。でも、一君は何ら慌てる事無く、螺旋丸と呼んだ魔力弾を氷の塊に押し当てた。
「この通りだ」
……その瞬間、巨大な氷の塊は粉雪へと変わった。
「あんなに大きな氷の塊を、文字通り粉砕するなんて。見かけからは、全く想像ができませんね……」
留流子ちゃんが想像を超える威力を目の当たりにして唖然とする中、一君の説明が再開される。
「尤も、通常の魔力弾みたいに発射する事はできないから、接近して直接相手にぶつけないといけないんだけどね。だから、格闘戦を得手とする留流子ちゃんには丁度いいと思ったんだ。そして、機動力の強化策としては……」
一君はそう言うと、再び氷の塊を作り出すと同時に両手首と両足の踝、肩、腰の六ヶ所に小さな魔力の羽を生やした。見ている私達が揃って首を捻っていると、一君が行動開始を宣言する。
「いくよ!」
……次の瞬間、一君は空の上にいた。大体、上空300 mくらいだろうか? そうして、ふと氷の塊に視線をやると、そこには踵落としで氷の塊を真っ二つにした一君がいた。まるで時間が止まったかの様な常軌を逸する速さに私達が絶句していると、一君が説明を再開する。
「これは強襲用高速飛翔魔法、アサルトエール。今見た通り、扱いに慣れると極超音速、解りやすく言えば目にも留らぬ速さでの戦闘行為すら可能になる。ただ、流石にいきなり超音速飛翔なんて無理だから、まずは高速飛行に必要な動体視力と反射神経、そして思考速度を向上させる所から始めるよ。後、高速戦闘時の攻撃による反動を抑える為の装備も既に作ってあるから、体が壊れる心配はいらないよ」
正に万全と言える用意をしてあると聞いて、留流子ちゃんも決断した。
「解りました、一誠先輩! 螺旋丸とアサルトエール、必ず修得します! ご指導、よろしくお願いします!」
留流子ちゃんが承知の旨を伝えると、一君は先程真っ二つにした氷の塊に防御用の魔力障壁を張った。……パッと見だけど、武藤先輩、匙君、そして会長以外のシトリー眷属が総掛かりでやっと抜けるかどうかというくらいに頑丈なものを。これで準備が終わったらしく、一君は氷の塊から10 m程距離を置いてから翼紗の方を向いて説明を開始する。
「翼紗さんには、体の一部に集束させた魔力を一瞬で圧縮した後に全解放する特殊な魔力の扱い方を教える予定だよ。名前は、魔力爆縮。これを応用すると、こういう事もできる」
一君はそう言うと、右手と右足にそれぞれ魔力を集めて構えた。その次の瞬間、一君は一瞬で間合いを詰めてから右拳で割れた氷の塊の片方を爆砕し、返す刀で再び魔力を集束した右足で回し蹴りを繰り出し、もう片方の氷の塊も爆砕した。魔力爆縮という技術の実演を終えた一君は、具体的には何をしたのかを話し始める。
「集束した魔力の全解放をインパクトの瞬間に行う事で、破壊力を爆発的に高める事ができる。また、魔力爆縮を足の裏で行う事で、直線的にしか動けない代わりに
一誠の説明を聞いた翼紗は納得した表情を浮かべて、承諾の意を示した。
「成る程。この魔力爆縮については、それ以外にも色々と応用が利きそうだ。一誠、よろしく頼むよ」
翼紗も了解すると、残すは私と会長と副会長の三人になった。そして、一君は次に副会長の方を向いた。
「椿姫さん。まずは
一君は副会長に神器を出す様に頼んだ。副会長はそれに応じて、追憶の鏡を発現する
「出しましたが、それで?」
すると、再び巨大な氷の塊を創り出していた。
「これで良し。それでは、鏡に氷を映して下さい」
一君は副会長にそう言うと、追憶の鏡の後ろに立った。そして副会長が一君の指示に従って鏡に氷を映す。
「それで何を、……一誠君!」
副会長が一君に確認を取ろうとしたけど、一君はその前に後ろから裏拳を放つ事で追憶の鏡を砕いていた。当然、その衝撃は倍増されて一君に向かう。……いや、向かう筈だった。
「一体どういう事なの? 一誠君には衝撃が行かず、それどころか氷の塊の方に衝撃が向かった……?」
……そう。副会長の言う通り、倍化された衝撃は一君ではなく氷の塊の方に向かい、そのまま氷の塊を砕いてしまった。余りに想定外な光景を前にして、一君は納得した様な表情を見せる。
「やっぱり、そうだったか。椿姫さん、追憶の鏡はカウンター系神器ではありません。正確には、鏡を割った攻撃の衝撃を倍増して鏡に映した対象に叩きつける、いわば攻撃特化の強化系神器です。カウンター系神器として活用できていたのは、あくまで
その一君の見解を聞いて黙っていられなかったのは、今まで口を出さずにいた会長だった。
「一誠君、待って下さい。それでは、この追憶の鏡の本来の使い方は……!」
その会長の考えを肯定する様に頷いてから、一君は追憶の鏡の本来の使い方を語っていく。
「そうです、ソーナ会長。敵を映し込んだ状態で破壊し、その時の威力を倍増させた衝撃を叩き込む、正にウィザードタイプの典型と言えるものです。だからこそ、
それを聞いた副会長は、自身の神器の真なる能力に基づく新たな戦略を口にしていた。
「確かに、カウンターを警戒して膠着状態に陥った所に本来の使い方で追撃すれば、相手に対する奇襲として有効打を与えられる。しかも、鏡に映った全ての対象に同じ威力の衝撃を叩き込めるのであれば、鏡を巨大化する事で大多数の敵を映し込み、一網打尽にする事も……!」
……副会長の言う通りだった。これだけ戦略的にも強力なら、グレモリー眷属の
「ただし、本来の能力を生かすには、鏡を破壊する際に強大な破壊力が求められます。しかも鏡をより強く砕くには、魔力よりも物理攻撃、更には斬撃よりも打撃の方が向いていますから」
ここまで聞けば、私でも理解できる。……副会長は今、大きな決断を迫られているのだ。
「……という事は、私単独でも本来の使い方ができる様に私の戦い方を変える必要がありますね。鋭さを重視した長刀によるテクニックタイプから、威力を重視した打撃系のパワータイプへと。一誠君。私のここ最近のトレーニングメニューが身体能力の強化の為の基礎トレーニングを重視したものだったのは、この為ですか?」
副会長は、自分だけ明らかに不向きと思われる訓練を課していた一君の意図を問い質した。一君はその質問に対して、私の想像を大きく超えた答えを返して来た。
「それもありますが、実は巴柄さんと翼紗さんに教える予定の技術の基礎を椿姫さんにも修得してもらう予定です。具体的には、長刀が敵に当たる瞬間に魔力を過剰集中する事で暴発させ、長刀の斬撃に強大な破壊力を持たせます。かなり難しいとは思いますが、シトリー眷属の中でも特に技術に秀でた椿姫さんなら十分可能でしょう。ですので、椿姫さんには長刀を使った白兵戦を見せ札、追憶の鏡によるカウンターを切り札として、更に追憶の鏡の本来の活用法を奥の手にしてもらいます。テクニックタイプの大原則である「切り札は先に見せるな。見せるなら、更に奥の手を持て」。これを、あらゆる意味で体現してほしいんです」
副会長はその答えに、自身に向けられた一君の期待を確かに感じ取っていたみたいだった。
「……成る程、そういう事ですか。単に私に奥の手を持たせるだけでなく、私自身がシトリー眷属の主力である貴方や武藤君、匙君を見せ札とする奥の手になれと?」
一君はその言葉にただ頷く事で答えとした。副会長はその意を酌んで、自らの答えを出す。
「解りました。シトリー眷属の女王として、やってみせましょう」
副会長もまた、自身の新たな奥の手を修得する事を選択した。残るは、私と会長。次に呼ばれたのは、会長だった。……でも。
「次はソーナ会長ですが……」
「そうですね。私の強化プランは、イリナの件で覚醒した水の
会長だけは、既に強化プランを実行し始めていた。
―― 魔動力。
紫藤さんと会長がコカビエル事件の最終決戦の時にそれぞれ目覚めたという力。そして、それの元となったのは、一君が紫藤さんの為に作った煌龍剣レイヴェルトという名の聖剣だった。
その話を聞いた時、私は一君の背中がいよいよ見えなくなっていくのを実感してしまった。……ううん、それは違う。一君は最初からずっと遠くにいた。ただ、私がそれに気付かなかっただけ。そして、やがてこのまま一君に置いて行かれてしまうのだろう。
……嫌。そんなのは、嫌。
生まれて初めてだった。イケメンの木場君に感じた、熱に浮かされた様なものとは全く違う、とても温かで、とても切ない感情。でも、一君の事を見ているだけで、あるいは考えるだけで、私は凄く幸せになれた。私はこれではっきりと自覚した。これが本当の恋なんだって。
でも、私には告白する勇気なんて全く出なかった。それに、一君が密かに苦しんでいた時、私じゃ助けにならないと思って結局何もする事ができず、ただ見ているだけだった。それが凄く悔しくて、情けなくて、でもどうしてもあと一歩が踏み出せなくて、私はそんな自分が嫌いになりそうだった。
それが変わったのは、一君が幼馴染である紫藤さんと本格的に付き合う事になったという話を聞いた時。……私は猛烈に後悔した。たとえフラれたっていい、一君にちゃんと想いを伝えれば良かったって。
……だから、決心した。もし一君が独立した時には、
一君のマネージャーを務めるフェニックス家の令嬢で、会長やリアス様に匹敵し得る実力も持つレイヴェル様を押し退けるのはまず不可能。だったら、私はアルジェントさんを超えなければならない。そう思って、私は歴代赤龍帝でも最高位というロシウ老師が出すトレーニングメニューを黙々とこなしていた。
……強くなっていく実感は、確かにあった。今までの全力の魔力が四割程度で出せるようになったのだから、けして自惚れではないと思う。でも、サポートに特化している為に私個人の戦闘力はシトリー眷属中でも最下位に近く、真っ向勝負では最年少で兵士の留流子ちゃんにすら負けてしまうだろう。実際、今まで行ってきた「はぐれ」悪魔の討伐でも、私は主に前衛組の援護を担当してきた。
これじゃ、私は一君の眷属になんてなれない。ううん、それよりも一君の力になれない事の方が耐えられない。
……そう思ったら、私はその場から逃げ出していた。全力で走って、駒王学園を飛び出して、気が付いたら町外れの高台にまで来てしまっていた私は、そこで足を止めた。そしてその場で座り込み、そのまま蹲る。涙が、溢れて来た。拭っても、拭っても、涙は一向に止まってくれなかった。今までは、背中しか見えてなかった。でも今は、背中すら見えなくなろうとしている。好きな人の姿が見えなくなる程に遠くなっていく恐怖に、私は打ちのめされていた。
お願い、一君。お願いだから、私を。……私を、見て。
「……後を追おうとしたイッセーくんを止めたの、やっぱり正解だったみたいね。こんな媚を売る様な姿、イッセーくんにはとても見せられないもの」
そんな辛辣な言葉をぶつけられた私は、声のした方向へと顔を向ける。
「ねぇ、草下さん。貴女、イッセーくんの何になりたいの?」
そこには、怒りの感情を露わにした紫藤さんがいた。
「ソーナには悪いけど、貴女の答え次第ではここで貴女の心を折らせてもらうわ」
……その言葉が何処までも本気である事は、誰が聞いても明らかだった。
Side out
いかがだったでしょうか?
追憶の鏡に関する独自の解釈については、こういう見方もあるという事でご了承ください。
……まさか、原作の禁手が血筋に由来する召喚系の亜種になるとは思いませんでしたが。
こうなると、本来の禁手はどういうものなのかが気になりますが、きっと原作の中では出てこないでしょうね。
では、また次の話でお会いしましょう。