赤き覇を超えて   作:h995

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1018.12.24 修正


第二十一話 アザゼル、笑う

Side:アザゼル

 

 ……正に不覚だった。

 

 堕天使の総督である俺とした事が、完璧に後ろを取られた。自惚れじゃないが、俺の後ろを取るのはそう簡単な事じゃない。何故なら、俺はゲームに例えるとラスボスの後に出てくる裏ボスくらいの強さを持っているからだ。しかし、コイツはそれを実にあっさりとやってのけやがった。

 今代の赤龍帝にしてエクスカリバーの担い手、更に「聖」と「魔」、「龍」の力をその身に共存させる、正に異端の極みである逸脱者(デヴィエーター)。そして、それら全てを備え、歴代の赤龍帝を従える赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)。その名は、兵藤一誠。

 俺はコイツを完全に見縊っていた。コイツ、真っ向勝負でも俺に勝ち得るだけの力を確実に持ってやがる。現に、もしこの場でコイツが攻撃していれば、俺は死なないまでも確実に重傷を負っていた。……あのヴァーリが、アレだけはしゃぐ訳だよ。

 

 ヴァーリがコカビエルと以前あの街で部下数人が問題を起こした時にも従っていた「はぐれ」の悪魔祓い(エクソシスト)を連行してきた時、俺はヴァーリに今代の赤龍帝を見た感想を尋ねてみた。

 

「それで、お前から見て今代の赤龍帝はどうだった、ヴァーリ?」

 

 すると、ヴァーリはまるで欲しかったおもちゃを与えてもらった子供の様な無邪気な笑顔で答えてきた。

 

「アザゼル、最高だよ。今代の赤龍帝、いや赤き天龍帝は。……アイツは、兵藤一誠は、確かに赤き龍の帝王達を統べるに相応しい唯一無二の天龍の帝だった」

 

 この時のヴァーリは、強い者に対する戦いへの興味だけではない何かを宿した、とても澄んだ目をしていた。正直な話、ここまで澄んだ輝きを放つ目をしたヴァーリを見たのは、これが初めてだった。だから、ヴァーリにそうさせた今代の赤龍帝、いや赤き天龍帝に俺は興味を持った。

 

「ホウ。お前にそこまで言わせるとはな」

 

 だが、この後に出てきたヴァーリの言葉に、俺は内心驚愕した。

 

「……俺は聖書の神を倒してみたかった。だから、神がまだ健在な頃に生まれたかった。今まではずっとそう思ってきた。でも、今ならこの時代に生まれた事をむしろ心から感謝するよ。歴代赤龍帝の全てを超越した赤き天龍帝と相対する事ができる、こんな素晴らしい時代にね」

 

 この時のヴァーリの声は現代(いま)に生まれ落ち、そして生きている事への喜びに溢れていた。この時までは、「強い奴を全部倒したら、死ぬよ。そんなつまらない世界に興味ないから」なんて言っていた奴がだ。

 

「ヴァーリ、お前……!」

 

 ……もちろん、赤き天龍帝を倒した後はまた元通りになる可能性もある。だが、おそらくそうはならないだろうという見込みが、俺にはあった。

 

「だから、俺が歴代の、そして未来永劫に渡って最強を誇る白龍皇なら、俺も天龍の(おう)を、白き天龍皇(バニシング・ダイナスト)を名乗るんだ。そして、赤き天龍帝の宿敵に相応しい存在として、俺もアイツと同じ場所まで駆け上がり、真っ向勝負で勝ってみせる。仮にもし、今ここで世界最強の白龍神皇になったとしても、俺はもうアイツに勝たない限りは満足できそうにないよ」

 

 そう語ったヴァーリの表情からは、将来の破滅を感じさせる要素など欠片も見受けられなかったからだ。

 

「そうか。じゃあ、せいぜい赤き天龍帝に負けない様に頑張るんだな、ヴァーリ」

 

 ……こんな言い方しかできないのか、俺は。言葉に出してしまった後で、俺は内心情けなく思った。

 

「あぁ」

 

 ヴァーリはヴァーリで、こんな励ましにすらなってねぇ言葉でもしっかりと受け止めてやがるから、尚更だ。

 

 打倒、赤き天龍帝。

 

 赤き天龍帝との邂逅で確固たる目標を得たヴァーリは、今までとは全く違う理由で鍛錬に熱を入れ始め、もはや加速度的と言っても何らおかしくない速さで強くなっていった。その結果、今や戦闘能力を奪われる前のコカビエルはおろか、堕天使総督である俺ですらも気を抜いたら即座に落とされるところにまで至っていた。また、他の奴等に聞くと、鍛錬中はもちろんそれが終わった後もアルビオンと会話する場面がよく見られる様になったらしい。それどころか、時折冗談を交えて笑顔で話している事すらあるそうだ。その影響か、ヴァーリの切り札である覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の継続時間が今まで数分程度だったのが二時間程に著しく伸びていた。

 ……確かに、ヴァーリの心の奥底には()()()()()()への復讐心が依然として残されているだろう。だが、それだけではない何かが、今のヴァーリには確かにあった。その事実に喜びを感じている俺は、どうやらヴァーリに対して相当に情が移っちまっているらしい。

 だからこそ、まだ見ぬ赤き天龍帝にヴァーリをいい方向へと変えてくれた事には感謝しながらも、俺は首脳会談の開催場所を例の駒王学園とする交換条件として赤き天龍帝との対談を悪魔側に求めた。……赤き天龍帝を、俺自身の目で見極める為に。

 

 そして今、俺が自ら見極めようとした男が不敵な笑みを浮かべながら俺の後ろを取り、なおかつしっかりと礼を執った上で名乗っている。……この時に特に吃る事無く、不敵な笑みの仮面を被ってしっかりと名乗り返せた事に対して、俺は自分を褒めてやりたくなった。

 

「あぁ、初めましてだな。俺はアザゼル。神の子を見張る者(グリゴリ)の総督をやっている。解りやすく言えば、堕天使共の頭だな。しかし、やってくれたな。赤き天龍帝。俺の後ろを完璧に取る事で自分の力を俺に誇示すると同時に、あえて礼装を纏って跪く事で敵対勢力のトップである俺に礼儀を示し、無断で俺の後ろを取った無礼を帳消しにする。……全く、抜け目のない奴だぜ」

 

 俺がそう言うと、赤き天龍帝は頭を下げた上で最大限の敬意を払った言葉使いで返事してきた。

 

「アザゼル総督閣下よりお褒めのお言葉を賜り、恐悦至極に存じ上げます」

 

 ……本当に、コイツを含めた三人は似た者同士だったらしい。

 

「あぁ面倒臭い奴だな。おい、その畏まった言葉使いを止めろ。今日は下見に来ただけで、堕天使総督としてここにいる訳じゃねぇ。プライベートだ、プライベート。だから普段の言葉使いで話せ、赤き天龍帝」

 

 だったら、まずはその慇懃無礼な仮面をひん剥いてやる。……そう思って言ったんだが。

 

「……左様で御座いますか。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

 その言葉の後、装備を全て解除してこの学園の制服に戻り、跪いていたのを解いて立ち上がると全てを一変させる。

 

「それでは、改めまして。駒王学園高等部二年、兵藤一誠です。アザゼルさん、よろしくお願いします。それと、僕の事は一誠でもイッセーでも好きなように呼んで下さい」

 

 そして穏やかな雰囲気を纏い、流石に照れ臭いのか、少しはにかんだ様な笑顔で若々しさが溢れる高校生らしい形で自己紹介をやり直してきた。

 

「誰だ、お前は!」

 

 ……そんなコイツを見て反射的にそう問い返した俺は、きっと悪くない。

 

「酷いじゃないですか、アザゼルさん。言われた通り、ちゃんと素に戻って自己紹介をやり直したのに」

 

 それに、コイツはまたとんでもない事を言い出しやがった。……コイツ、ひょっとして天然が入っているのか?

 

「素だと! それがお前の素なのか! 幾ら何でも変わり過ぎだろ、オイ!」

 

 普段は人を驚かす側の俺が、コイツに対しては完全に驚かされていた。

 

「あの、アザゼル総督?」

 

「んっ? 何だ、聖魔剣使い?」

 

「その程度で驚いていたら、総督の身が持ちませんよ? 何せ、自らの手で無力化したコカビエルからトドメを刺す様に懇願されても、負け犬として無様に生きるのが相応しいと断言した時の冷徹にして冷酷なイッセー君はさっき以上の別人でしたからね。それに、ひょっとしたら首脳会談の時には僕達でも見た事がない別の顔が見られるかもしれませんから、今の内に覚悟しておいた方がよろしいかと」

 

 ……しかも、だ。どうやら、まだ上には上があったらしい。

 

「何なんだ、その豹変ぶりは。意識の切り替えが上手いってレベルじゃねぇだろう……」

 

 俺は何故かドッと疲れが出てきると共に肩が重くなった様な気がした。……そして、確信した事がある。

 

「まぁまぁ、アザゼルさん。ここは一つ、気を落ち着けて……」

 

 それは、俺の気も知らずに宥めて来るコイツは、間違いなく天然が入った超ド級のお人好しである事。

 

「イッセー! 俺がこんなに気疲れしてんのは、全部お前のせいだろうが! いい加減にしろよ、この豹変帝王!」

 

 そして、極上の人誑しだって事だ。……コイツの事を、いつの間にか「イッセー」なんて愛称で呼んでいたのを考えるとな。全く、得な男だぜ。

 

Side end

 

 

 

 アザゼルさんから豹変帝王と呼ばれると、何故かギャスパー君を除いた皆が笑い出した。

 

「ハッ! ハハッ! ひょ、豹変帝王か! 確かに、状況に応じて別人に豹変する一誠にはピッタリだな! だ、駄目だ、笑いが止まらねぇ!」

 

「げ、元士郎君。そ、それは流石にイッセー君に、わ、悪いよ。プッ。……駄目だ、僕ももう我慢できないよ! アッハッハッハッ!」

 

「ハッ、ま、まさか、ププッ、ここまで的確に、フフッ。イッセーの豹変ぶりを、クスクス、言い表した、ハハッ、こ、言葉があろうとはな! アーッハッハッハッハッ!」

 

「いや、総督さんよ! アンタ、よく解ってるじゃねぇか! こんなにおかしいのは久しぶりだぜ! ハッハッハァッ!」

 

 僕とギャスパー君は大笑いする四人をキョトンとした感じで見ていた。僕は訳が解らなかったので、ギャスパー君に尋ねてみる。

 

「……ねぇ、ギャスパー君。アザゼルさんの言葉の何処に、そんな大笑いする要素があったのかな?」

 

「さぁ……?」

 

 しかし、ギャスパー君も心当たりがないらしく首を傾げるばかりだ。そうした僕達の様子を見て、アザゼルさんも笑い出した。

 

「ブッ! アッハッハッハッ! お前等、それをマジで言ってんのか! ドライグやエクスカリバーといった強過ぎる力に自惚れて戦争の火種にならねぇか、真面目に心配した俺がバカみてぇじゃねぇか! いやすまねぇな、イッセー! 何をどう考えても、お前はそんなモノにはなりようがねぇ!」

 

 ……何故か僕と肩を組んできて、大笑いしながらその肩をバンバン叩いてくる上機嫌なアザゼルさんにお願いする。

 

「あの、アザゼルさん?」

 

「んっ? 何だ、イッセー?」

 

「お願いですから、もう少し力を抑えてくれませんか? 叩かれている肩、物凄く痛いんですけど」

 

 僕のお願いを聞いたアザゼルさんはさっきより笑い声を大きくしてしまい、しかも肩を叩く回数を増やしてしまった。ついでに、それを見た四人も更に笑い声を大きくしている。笑いの渦に完全に取り残されてしまった僕とギャスパー君は、お互いに顔を合わせてながら首を傾げていた。

 

 ……一体、何がそんなに可笑しかったのだろうか?

 

「まさか、アザゼルがここまでイッセー君を気に入るとは思わなかったな」

 

 そう言って旧校舎から出てきたのは、打ち合わせが終わってから兄妹で話をしていたサーゼクス様だ。側にはリアス部長と他のグレモリー眷属の皆もいる。なお、打ち合わせに出席していたセラフォルー様とソーナ会長、椿姫さんは既にそれぞれ冥界と生徒会室へと戻っているので、この場にはいない。ただ、気になるのは朱乃さんだ。アザゼル総督を睨みつける一方、何処か戸惑っている様にも見える。やはり、この二人には何らかの形で個人的な繋がりがある様だ。

 一方、アザゼルさんも複雑な状態の朱乃さんを視界に入れると一瞬だけ目を伏せたが、その後すぐに視線をサーゼクス様に向け直して気安く声を掛ける。……これでも、敵対勢力のトップ同士が相対しているという一触即発の危険な状況の筈なのだが。

 

「オウ、サーゼクスか。以前に申し入れしていた通り、イッセーと話をさせてもらってるぜ。……まぁ、俺が考えていた人物像とは完全に明後日の方向だったんだが、それがかえってツボに入っちまってな」

 

 まるで悪戯が成功した子供の様に無邪気な笑みを浮かべるアザゼルさんを見たサーゼクス様は、ここである提案をしてきた。

 

「成る程。だったら、この際だ。ここでイッセー君と神器(セイクリッド・ギア)について意見交換をしてみてはどうだろう? 彼は今までの神器の解釈を根底から覆す様な新解釈を幾つも展開し、それが正しい事を証明しているからね。だから、世界で最も神器に造詣が深いアザゼルとは特に話が合う筈だ」

 

 このサーゼクス様の提案に対し、アザゼルさんは興味をそそられた様だ。サーゼクス様に話を続ける様に促してきた。

 

「ホウ? それは中々面白そうだな。それで、例えば?」

 

 すると、サーゼクス様はここで追憶の鏡(ミラー・アリス)魔剣創造(ソード・バース)の件を挙げる。

 

「そうだな……。例えば、カウンター系神器と認識されていた追憶の鏡が、実は攻撃特化の強化系神器だった、というのはどうかな? 後は、魔剣を創造する能力である魔剣創造の本体が、実は魔剣を収める魔鞘である事も既に確認しているな」

 

 追憶の鏡の本質と魔剣創造の本体について聞かされたアザゼルさんは、その表情を真剣な物へと一変させた。

 

「オイオイ、マジか? 流石にそれは俺も初耳だぞ?」

 

 一方、流石に話し過ぎではないかと思った僕はサーゼクス様に確認を取る。

 

「よろしいのですか?」

 

 すると、サーゼクス様は何でもない事の様に答えてきた。

 

「あぁ、構わないよ。実は、天界とは既に木場君の聖魔剣とそれに釣り合う物をお互いに贈り合っていてね。釣り合いを取る意味で、堕天使達とも何らかの形で贈答を行う必要があるのだよ。それに、こうする事で神器の研究が何も堕天使達の専売特許という訳ではない事を世界に示す事もできる」

 

 サーゼクス様の発言を聞いた僕は、成る程と心から納得した。天界には聖魔剣、堕天使には神器に関する研究成果と、それぞれが望むものを外交の一環として贈る事で自勢力に対する両勢力の悪感情を軽減し、更には本命である首脳会談において優位に話を進める為の布石とする。これは同時に、自勢力の持つ実力を両勢力に誇示するという、いわば国威発揚の一面もあるのだろう。

 これ等の事を現場で即時即決できるサーゼクス様は、やはり魔王としての政治力が高いのだろう。そして、サーゼクス様の話を聞いてその意図を察し、その上でニヤリと笑って受け答えるアザゼルさんもまた同じだった。

 

「成る程な。確かにソイツは面白い。サーゼクス、その話に乗ってやるぞ。じゃあ、イッセー。早速だが何故追憶の鏡が攻撃特化の強化系神器だと考えたのか、その根拠を説明してみろ。その内容で、お前が何処まで俺について来れるかを見極めてやる」

 

 アザゼルさんはそう言って僕の側から離れると、表情を真剣なものに変える。

 

 ……これはある意味、僕とアザゼルさんの一騎討ちだ。

 

 だから、僕も真っ向から受けて立つ構えを示し、追憶の鏡についての説明を開始した。

 

「承知しました。それでは説明させて頂きます。……僕が不思議に思ったのが、何故能力の発動条件が「鏡が割れる」事なのか、という事です。単に攻撃の衝撃を倍化して跳ね返すだけなら、別に鏡が割れる必要はないと思うんです。鏡はそれ自体に「反射」の概念がありますし、凹面鏡なら外からの光を焦点に集束させる性質もありますから、それらの概念を強化してやるだけでカウンター系神器としては十分成り立つ筈なんです。それに、これはサーゼクス様から許可を頂いて追憶の鏡に関する使用記録を閲覧して解ったんですが、実は追憶の鏡は相手を視認できない程の遠距離からの狙撃には対応できていないんですよ。もちろん大部分は発動する間もなく仕留められていますが、何件か追憶の鏡を盾代わりにして防いだ事例がありました。当然、鏡は狙撃によって割れています。しかし、どの事例も肝心のカウンターが全くと言っていい程機能しなかった様です。この当時、報告書を提出した当事者と報告書を受理した担当者は「有効射程距離を超えていたから、能力が発動しなかった」と結論付けていた様ですが、それだと逆におかしいんです。鏡を割った攻撃の衝撃を倍化して跳ね返す以上、少なくとも鏡を割った攻撃と同程度の有効射程距離が確保されていなければいけない筈なんです。カウンターとは、攻撃を仕掛けた相手に届いてこそなのですから。ですが、実際にはそうならなかった。そこで、こう思ったんです。追憶の鏡は単純にカウンターを仕掛けている訳ではないと」

 

 僕はまず、追憶の鏡の発動条件である「鏡が割れる」事への疑問点とそこから生じた能力に対する疑問点の説明から入った。流石に神器の能力とその発動条件から疑ってかかるとは思っていなかったのだろう、アザゼルさんは呆れと苦笑いが半々といった表情を浮かべている。

 

「まさか、神器の能力とその発動条件から疑ってかかる奴がいるとは思わなかったな。これが俺だったら、そんな事よりもどうすればより上手く神器を活用できるかを考えていくぞ。……それで?」

 

 アザゼルさんが続きを促してきたので、僕は「鏡が割れる」事に含まれる意味合いについて触れていく。

 

「そこで、鏡が割れるとはどういう意味なのかを考えてみました。その時に鍵となったのが、姿見と同じ程度という追憶の鏡の大きさです。当然の事ながら、姿見は目の前に立った者の全身を映し出します。これは見方を変えれば、鏡の中にもう一人の自分を作り出しているとも言えます。そして、追憶の鏡によるカウンターが成功した状況は、その殆どが使用者が攻撃を仕掛ける敵の目の前に追憶の鏡を展開できた時であり、見方によっては「鏡の中に敵を映し込んでいた」時とも見なせる訳です」

 

 僕がここまで説明した時点で、アザゼルさんは僕の至った結論に辿り着いた様だ。自らその結論を語り始めた。

 

「……あぁ、そういう事か。イッセー、お前が何を見出したのか、俺も解ったぜ。つまり、お前はこう言いたいんだな。追憶の鏡には鏡を割る事で敵の鏡像を攻撃し、それを倍返しの形で現実に反映させるいわば呪術的な一面があり、カウンター系神器として活用できていたのも実は自分自身の映し身を攻撃させていたからだと。確かに、そう考えると色々と辻褄が合ってくるな」

 

 僕はアザゼルさんが語った結論を補足を加えた上で肯定し、更に別の可能性についても指摘していく。

 

「その通りです。また、狙撃に対してカウンターが発動しなかったのも、狙撃手が余りに離れ過ぎていて鏡に映し切れていなかったから、という事で説明が付きます。それと同時に、実は攻撃対象が鏡に映ってさえいれば、わざわざ敵に鏡を割ってもらう必要がない事も見えてきます」

 

 そこで、アザゼルさんは完全に呆れた様な表情で僕に確認を取ってきた。

 

「……その分だと、実際に試して確認したんだろう? 鏡の裏側からの攻撃で鏡を割って、倍返しの衝撃が自分でなく鏡に映った対象に飛んでいくのをな」

 

 アザゼルさんが呆れていたのは、僕の考えが間違っていれば、攻撃を仕掛けた僕が重傷を負う危険があるにも関わらずそれを実行して確かめたからだろう。それについてはあえてスルーし、僕は最終的な結論をアザゼルさんに伝える。

 

「えぇ。それで確信したんです。追憶の鏡は攻撃特化の強化系神器であり、カウンターはあくまで能力の応用例に過ぎないと」

 

 すると、アザゼルさんは僕の結論に納得した上で、応用例を一つ出してきた。

 

「成る程なぁ。となると、コイツは戦術的な応用がかなり利きそうだ。やり方によっては、複数の敵に対して一度の攻撃を倍化かつ分散した形でまとめて放てるってのも大きい。仮に一度に出せる鏡の枚数を増やせるとすれば、鏡から鏡に衝撃をぶつけ続ける事で威力を増幅、なんて事もできそうだな」

 

 それに対し、僕もまた鏡面の形状変化や鏡の映し出す角度による応用例を挙げていく。

 

「それに鏡面を凸面にできれば大型化しなくても多くの敵を鏡に映す事ができますし、それが無理でも攻撃を受ける鏡の角度次第では一方の敵の攻撃を防御した上でより厄介な敵に不意打ちを仕掛けるという事も理論上は可能でしょう」

 

 こうして、話を追憶の鏡の新解釈の根拠の説明から応用例の列挙にまで話が膨らんだ所でアザゼルさんが一端話を打ち切り、先程宣言した通りに僕の評価を下してきた。

 

「成る程。鏡というカテゴリーの中であれば、神器の形状をある程度変化させられる可能性もあるし、それが無理なら角度を付ける事で用途を更に広げようって訳か。……しかし、まさかここまで上手く話が広がって完全に咬み合うとはな。まぁ、これではっきりしたぜ。イッセー、お前は神器に関しては俺について来るどころか、対等に話ができるって事がな。特に、俺とは違う視点で神器を見れるってのがいい。そんなお前とは、今みたいに実りの多い議論ができそうだ」

 

 それは、かつて科学者を志した者としては最大級の賛辞だった。僕が内心喜んでいると、アザゼルさんは自分の持っている神器の情報について話し始める。

 

「折角だから、俺の方もドラゴン系神器に関する最新の情報を提供するか。……ドラゴン系神器の中に、幾つか特殊な物があるのはお前も知っているな? 代表的なのはお前の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)にヴァーリの白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)なんだが、他にも黒い龍脈(アブソープション・ライン)邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)漆黒の領域(デリート・フィールド)龍の牢獄(シャドウ・プリズン)といったものがドラゴン系でも特殊な部類に入る。実は、さっき挙げた四つの神器には、五大龍王の一頭である黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの魂が分割された状態で封印されているんだ」

 

 元士郎の神器に封じられているドラゴンは、五大龍王の一頭に数えられる邪龍ヴリトラ。その事実には、流石に僕も驚いた。

 

「仲間の一人が所持している黒い龍脈から発せられるオーラに禍々しさを感じていたから、封印されているのはひょっとしたら邪龍に近いドラゴンではないかとは思っていたんですが、まさか五大龍王のヴリトラ、しかも分割された魂の一部だったとは思いませんでしたよ。……ただ、聖書の神はよく邪龍の魂を神器に利用しようと考えましたね。それだけ、自分の封印術に絶対の自信があったという事でしょうか?」

 

 如何に魂を分割しているとはいえ、邪龍の魂を神器に利用するとは。それに対する聖書の神の考えが何処にあったのかを僕が考えていると、アザゼルさんが自分の思う所を語ってくれた。

 

「まぁ、ヴリトラは三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)クロウ・クルワッハや魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)アジ・ダハーカ、原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)アポプスといった連中に比べると可愛らしいものだからな。魂をきっちり分割して封印すれば、特に問題はないと踏んだんだろう」

 

 僕はアザゼルさんが挙げた邪龍の名前を聞いて、少し呆れてしまった。

 

「今挙げた三頭って、確か邪龍の筆頭格ですよね? その三頭と比べたら、ヴリトラは邪龍とは呼べなくなってしまいますよ。……あぁ、それで怨念やら邪念やらで神器が汚染または浸食される心配がないと、聖書の神は判断した訳ですか」

 

 そして、アザゼルさんは僕が聖書の神の考えを見出した所でヴリトラの話題を打ち切る。そして次の、そしておそらくは本命であろう話に入っていった。

 

「まぁそういう事だな。ヴリトラの話はここまでにしておくか。それで話は変わるが、実は封印されているヴリトラの意識をどうにかして復活できないか、現在研究を進めている所なんだよ。そこでだ、イッセー。何か、いいアイデアないか?」

 

 アザゼルさんはヴリトラの意識の復活という現在の研究課題に関する意見を僕に求めてきた。そこで、僕は先程聞かされた事を踏まえた上での意見を返す。

 

「……それでしたら、いわばヴリトラ系神器というべき神器に封印された魂の断片に何らかの糧を与えるか、ヴリトラ系神器を全部とまではいかずとも全ての種類を集めて一つに統合するかして、自我が蘇って意識を保てるレベルにまで魂を復元するしかありませんね。最善なのは、糧によってある程度魂を復元させた神器を核とする他の神器との統合。おそらく、これがヴリトラと保有者の双方の負担を一番小さくできる方法でしょうし、そうする事でヴリトラの能力を複数扱える事になりますから神滅具(ロンギヌス)に近いレベルのドラゴン系神器が誕生しそうです」

 

 すると、アザゼルさんは一気に上機嫌になった。

 

「いいぞ、イッセー。まるで打てば響く様に答えが返ってくるし、その答えは理に適っている。お陰で、他の神器に対しても幾つか新しい方向性が見えて来たぜ。……実はな、ヴリトラ系神器は一通り確保してあるんだ。そのお陰で、さっき言った事が判明したんだけどな。だから、今お前が言った方法はいつでも実現可能なんだが、どうする?」

 

 このアザゼルさんの誘いだが、三大勢力が冷戦状態である現状がある以上、これに応じる事はまず無理だ。そう判断した僕は、後ろ髪を引かれる思いで丁重に断る。

 

「……正直な話、僕にとっても非常に興味深い話ですし、できれば協力したいとは思うんですけど、流石に今は無理ですね。どうせやるのなら、万難を排した上で万全を期さないと」

 

 僕がそう言って丁重に断ると、アザゼルさんは納得しつつも少々物騒な事を口にした。

 

「確かにな。だからと言って、まさかお前をこっちに引っこ抜く訳にもいかんし、まして強引に掻っ攫っていくなんて事はお前の実力を考えるとまず無理だからな。……こりゃ、いよいよ真面目に例の件を考えないといけねぇな」

 

 アザゼルさんがそう口にした時、僕はアザゼルさんもまた和平を望んでいるのだと判断した。……尤も、この時にアザゼルさんが口にした「例の件」とは、その先を見据えての事だったのだが。

 

「さて。俺の用事もこれで済んだし、今日はこれで帰らせてもらうぜ。研究者肌の部下共にいい土産話ができたしな」

 

 僕との話を終えたアザゼルさんは不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、そのまま上機嫌で帰っていった。

 

「じゃあな、イッセー! 次は、首脳会談の場で逢おうぜ!」

 

 別れ際に、この様な気さくな言葉を残しながら。……どうやら、僕は堕天使の総督に相当気に入られた様だった。

 

 なお、アザゼルさんと神器について議論を交わしている間、完全に置いてけぼりにしてしまったサーゼクス様やリアス部長、それに他の皆に対して平謝りする事になったのは、完全に余談である。

 




いかがだったでしょうか?

アザゼルは新たな同士を得た様です。
……それを羨ましそうに見つめる影が一つ。

では、また次の話でお会いしましょう。
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