アザゼルさんが駒王学園を訪れ、僕と
僕はイリナを伴って、僕が人間をやめるまで週に一度は必ず行っていた場所、礼司さんの教会へと向かっていた。
「正直な話、皆に会えるとすれば聖魔和合がある程度形になってからだと考えていたんだ。それが、流石に今日限定とはいえこんなに早く会える様になるとは思わなかったよ。「いつか必ず会いに行く」なんて薫君達に宣言したのが一昨日だから、流石に少し恥ずかしいなぁ」
照れ臭さの余りに頭を書きながらそう零した僕は、かなり複雑な思いを抱いていた。イリナの件といい、今回の件といい、どれだけ長い時間を掛けてでも必ずやり遂げると誓った事に限って数日以内という極めて短い期間で実現しているのは、一体何故なのだろうか?
「ウフフ。そう言われると、確かにその通りかも。でも、イッセーくん。それって、もしかしたらイッセーくんの今までの行いが良かったから、世界がイッセーくんの願いを全力で叶えてくれようとしているのかもしれないわね?」
隣に並んでいるイリナは笑顔でそう言って、僕をからかってくる。僕はそれに対して、今の気持ちを素直に伝える事で応えた。
「それならそれで、一向に構わないんだけどね。何だかんだ言って、皆にまた会える事に心躍らせているのも確かだし」
僕が素直な気持ちを伝えたからか、イリナは少し頷いた後である事を確認してきた。
「それに、あの子達に紹介するんでしょ? アウラちゃんの事」
……それについては娘として皆に紹介する事を既に決めているので、それに併せて皆に紹介したい子達がいる事をイリナに伝える。
「アウラはもちろんだけど、歴代赤龍帝の年少組の子達もだよ。ほんの少し前までは色々と寂しい思いをさせてしまったけど、
歴代の赤龍帝の中には、六十年の生涯において寝たきりだった最期の数ヶ月の間に初めて発現したというロシウの様なケースがある一方、はじまりの赤龍帝であるアリスの様に何らかの形で発現する前もしくは発現した直後に亡くなったケースもけしてない訳ではない。中には、一般的には十分幼いと言えるアリスよりも更に幼い年齢で亡くなっている子もいて、怨念から解放された直後こそ僕より年上だったが、僕が長じて年齢を追い抜いてからは「お兄ちゃん」と呼んで慕ってくれる様になった。薫君やカノンちゃんが兄の様に慕ってくるようになった時やはやてが我が家に引き取られて義妹となった時に僕がすぐ順応できたのも、こういった経験を積んでいた事が大きかった。
僕が自分の言葉をきっかけに昔の事を思い返していると、イリナが孤児院関係で僕が今までやってきた事について言及してきた。
「孤児院の子達の為に色々やっていたの、礼司小父さまや瑞貴さんから聞いてるわよ。結構昔の物でも「いい」と思った歌なら自分で歌って皆に聞かせてあげたり、パパが生まれる前に上映されていた映画で歌われていたっていうゴスペルソングを皆で合唱したり、外に連れ出してフィールドワークの要領で理学系の勉強を教えたり、はたまた不良の巣窟として有名な高校の生徒に中学生の男の子が暴行されたと聞いたら一人でその高校に乗り込んでいってそこの番長と話を付けたりしたって。その結果、孤児院の子達は「駒王町の少年少女聖歌隊」って言われるくらいに有名になっちゃうし、イッセーくんの影響で皆化学が大好きになっちゃって理数系に滅法強くなっちゃうし、イッセーくんが話を付けた番長がすっかり感化されちゃって今では他の高校の不良達の抑え役になっちゃったりしたんでしょ? そういう所は、まるっきり面倒見のいいお兄ちゃんなのね。イッセーくんは」
「アハハハ……」
どうやらイリナのからかいはまだ続いていた様で、僕はただ笑って誤魔化す事しかできなかった。
そうしてイリナと連れ立って歩く事、三十分。僕達は目的地である礼司さんの教会に辿り着いていた。敷地の入口では、はやてと同い年くらいの金髪の男の子が箒を使って掃き掃除をしている。……
「……えっ?」
すると、レオは箒を持っていない方の手で目をゴシゴシ拭った。そして、もう一度こっちを見て僕達を確認すると、歓喜の声を挙げる。
「イッセー兄ちゃん? ……間違いない、イッセー兄ちゃんだ! イリナお姉ちゃんも一緒だ!」
そして今度は、教会の方へ大声を掛け始めた。
「皆! 皆、こっちに来て! イッセー兄ちゃんが、イッセー兄ちゃんが帰って来てくれたよ!」
その声が聞こえたのだろう、外でレオとは別の場所を掃除していたであろう子供達が僕達の方へと駆け寄ってくる。……その反応は、実に様々だった。
「イチ兄ちゃん。僕、僕、……うえぇぇぇぇん!」
「アンタ、男なんだからそんな大声で泣くんじゃないわよ! ……泣くんじゃ、ないわよ。アンタがそんなに泣いたら、アタシまで。……グスッ」
「イッセー兄ちゃん! もうここに来ないなんて、絶対言わないで! また一緒に遊んでよ!」
孤児院の中でも特に幼い子達は何人か泣き出してしまっている上に、泣いていない子も今にも泣き出しそうな顔で僕に懇願してきた。
「一誠さん! オレ、薫さんやカノンさんを通じて約束してくれた事、必ず守ってくれるって信じていました!」
「本当に、本当に良かったです。サヨナラすら言えないなんて、そんなの絶対に嫌だったんですよ……!」
はやてと同年代の子達は流石に多少は落ち着いて話をしてくれているが、やはり寂しい思いをさせてしまっていた様だ。感極まって涙を浮かべている子も何人かいた。
「ホラ。いつまでもこんな所で突っ立ってないで、早く孤児院の方に行きましょう! 今は室内を掃除している薫さんやカノンさん達、それに他の皆もイッセーさんを待ってますよ!」
この場にいた子供達の中では最年長である中学生の子がそう言いながら僕の背中を押して来るので、僕はあえて逆らわずにそのまま孤児院の方へと向かった。当然、レオを含めた子供達も僕と一緒について来ている。
「……イッセーくんって、本当に皆から愛されているのね」
取り残される形になったイリナの苦笑混じりな呟きが何処までも正しい事を、僕は身を以て実感していた。こうして皆に連れられて教会の中にある孤児院でも一番広い談話室に辿り着くと、そこには意外な人物達がいた。
「あっ、イッセーさん! イリナさんも!」
その一人が僕がレオに付けたポケモンの内の一匹であるシェイミを撫でている所で僕達の姿を確認すると、嬉しそうに声を掛けてくる。
「アーシア、どうしてここに?」
僕がアーシアにここにいる理由を尋ねると、アーシアは少々躊躇いつつも事情を教えてくれた。
「あのぅ。実は瑞貴さんから「ここなら昔の様に落ち着いてお祈りできるよ」と教えてもらって、それでここを知っているゼノヴィアさんに連れて来てもらったんです。流石に頭痛はしますけど、他の場所に比べるとかなり楽になりました。それに、この子からの優しい花の香りのお陰で今はすっかり落ち着いているんです」
このアーシアの言葉に対して、シェイミは小さな体を精一杯のけぞらして胸を張る一方、念話で自分に感謝する旨を伝えてくる。
「ミィ、ミィミィ!」
〈その為にわざわざアロマセラピーを使ったんでしゅから、痛みが和らぐのは当然でしゅ。解ったら、ミーに感謝するでしゅ〉
……この「かんしゃポケモン」の意味を何処か取り違えている辺り、シェイミは相変わらずだった。そこで、アーシアをここに案内したというゼノヴィアも話に加わってくる。ただし、未だに頭痛に苦しんでいるのか、頭を押さえながらであったが。
「私もここで思う存分、主に祈りを捧げさせてもらったよ。痛み自体は随分と小さいんだが、流石に三十分はやり過ぎだったか。この珍妙な
ゼノヴィアの何とも言えない発言を聞いたイリナは、完全に呆れ返っている。
「ゼノヴィア。それはもう祈りを捧げてるんじゃなくて、苦行に励んでるって言うのよ。一体、どれだけ主へのお祈りに飢えていたのよ。貴女は……」
「ま、まぁゼノヴィアらしいと言えば、その通りだけど……」
正直なところ、弁護の余地はないと思ったが、流石にこのままも不味いと判断しフォローを入れてみた。しかし、ここでシェイミがゼノヴィアの「
「ミィッ、ミィー! ……ミィミィ」
〈
如何にも「仕方ないな」と言わんばかりの態度で首を横に振るシェイミが最後に言い放った「脳筋」という言葉に、ゼノヴィアが一気にヒートアップした。
「なぁ、
一方、ゼノヴィアに再び「
「ミィッ!」
〈また
完全に臨戦状態に陥った二人だったが、そこで以前はここで暮らしていた瑞貴が談話室に入ってきた。そして一触即発である二人の様子が目に入った瞬間、瑞貴は
「二人とも、そこまでにしないか? ……それが嫌なら、君達二人の相手を僕がしよう。何、遠慮はいらないさ。何なら、二人掛かりでも構わないよ。場を弁えない馬鹿者二名を躾けるのに、僕は遠慮も容赦もしないからね」
この瞬間、ゼノヴィアとシェイミは完全に固まってしまった。特にシェイミはまるで凍りついて体が冷え切ってしまったかの様にスカイフォルムから通常形態のランドフォルムへと戻ってしまう。
「……い、いや。貴方の気遣いは嬉しいけど、それはもう必要ないよ。武藤瑞貴」
「ミ、ミィッ……」
〈ゴメンなさいでしゅ……〉
2人が完全に頭が冷えたと判断した瑞貴は、閻水と浄水成聖を仕舞うとゼノヴィアに声を掛けた。
「……この分だと、僕が礼拝堂に案内してから義父さん達と話をして戻ってくるまでの間、ゼノヴィアはずっと祈りを捧げていたみたいだね。確かに、シェイミがそんな君の度が過ぎた行動に呆れてしまうのも無理はないか。君は一度「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉の意味をしっかりと考えた方がいい」
……確かに、瑞貴の言う通りかもしれない。
僕が密かに瑞貴に賛同していると、言葉の意味が解らなかったのか、ゼノヴィアがどういう事なのかを瑞貴に尋ねる。
「武藤瑞貴、その言葉は一体どういう意味だろうか?」
元々聖剣計画の被験者達の中でも最年長に近い上に、僕と一緒に孤児院の子供達の兄貴分を務めていた事もあって、瑞貴は年下に対する面倒見がいい。だから、やはり年下のゼノヴィアの質問にも解りやすく答えた。
「そうだね、ここは竪琴を例に挙げようか。竪琴という楽器は弦が緩いといい音色を奏でる事ができないけど、きつく張り過ぎると弦が切れてしまって意味がない。だから、竪琴でいい音色を奏でるには弦を適度に張らないといけないんだ。この様に「何事も行き過ぎは良くない」という、仏教の中庸思想にも通じる戒めの言葉なんだよ」
この瑞貴の説明を聞いたゼノヴィアはその「行き過ぎ」がどういう結果を招いたのかを悟り、同じ過ちを犯さない様に気を付けると宣言する。
「……その「行き過ぎ」の結果が聖剣計画と「
その後、ゼノヴィアは僕の方を向くと、僕に質問の許可を求めてきた。
「ところで、イッセー。以前からずっと訊こうと思っていた事があるんだが、この際だから訊いてもいいだろうか?」
「何かな?」
僕が質問を受け入れる構えを見せると、ゼノヴィアは早速質問を始めた。
「君とイリナが結ばれた時の事なんだが、アウラの口から「だから、パパの「魔」を司ってるあたしは、ドライグ小父ちゃんが間にいなくても、パパの「聖」を司るカリスお兄ちゃんと一緒にいられるんだよ」という言葉が出てきたのを、私は覚えている。それなのに、イッセーはアウラが兄と呼び、イッセーの「聖」を司るカリスの事を私達に紹介していないのがどうにも気になって仕方がないんだ」
……そう言えば、そうだった。
僕は冷や汗が滝の様に流れ出すのを、ひたすら気合で抑え込んでいた。こうなってくると、ゼノヴィアの次の言葉も大体想像がついてしまう。
「だから、イッセー。この際だから、私達にもアウラの兄を紹介してはもらえないかな?」
……余りにも予想通りの言葉に、僕は顔こそ平静を保ちながらも急いでカリスと緊急会議を行う。カリスはまず前提として自分の存在は秘匿されるべきである事を明言した。
〈本当の意味で頭が冴えていたり勘が鋭かったりする連中には一発でバレる可能性が高いから、極限られた者以外にはなるだけオイラの存在を隠しておかないといけないんだけど……〉
〈……カリス。ここまで来ると、もはやゼノヴィアの認識に沿う形でカリスを皆に紹介するしかないよ〉
僕が僕の「聖」を司る存在として紹介する事を提案するが、カリスは皆の前に出る事に難色を示している。どうも、ゼノヴィアと会うのを相当に嫌がっている様だ。
〈あのゼノヴィアって子、頭は割と冴えているのに向こう見ずに行動する所があるみたいだから、できれば会いたくないんだよなぁ〉
つまり、ゼノヴィアがカリスと会って勘づいた事をその場で口に出してしまい、最も秘匿されなければならない事が白日の元に晒されてしまう事をカリスは恐れていたのだ。……なまじカリスの考え過ぎでない所が、ゼノヴィアの恐ろしい所であるのだが。
〈その辺りは他の子供達にアウラや歴代赤龍帝の年少組も一緒に紹介する形にして、後は僕が何とかしよう。だから、アウラも僕と話を合わせてね〉
〈ウン!〉
結局の所、アウラも協力しての出たとこ勝負で行くしかなかった。
〈オイラも腹を括ったよ。やるだけやったら、後は成り行きに任せる! ……もう、これしかない!〉
カリスも腹を括った所で、僕はまずゼノヴィアにアウラの紹介も兼ねる旨を伝える。
「ゼノヴィア。この際だから、孤児院の皆にアウラと歴代赤龍帝の年少組も一緒に紹介したいんだ。少々騒がしいかもしれないけど、構わないよね?」
僕が許可を求めると、ゼノヴィアは即答で承諾してきた。
「それは別に構わないよ」
ゼノヴィアの許可を得た僕は、まずはカリスとアウラに精神世界から出て来てもらう。
「……体の小さな男の子と女の子?」
「女の子の方、イチ兄ちゃんに凄く似てるけど……」
「男の子の方は何だか騎士の鎧を纏ってる様にも見えるけど、どういう事なんだろう?」
孤児院の皆は、突然現れたカリスとアウラに驚きつつも興味津々といった所だった。そして、まずはカリスから自己紹介を始める。
「それじゃあ、まずはオイラから自己紹介するよ。オイラの名前はカリス。今ゼノヴィアから話のあった通り、オイラはイッセーの持っている「聖」の力を司っている存在さ。ただイッセーとの付き合いはドライグと殆ど変わらないくらいに長いから、最近生まれたばかりのアウラと違って、オイラは息子って言うよりは相棒ってところかな? さて、オイラはこれぐらいにして次はアウラの番だ」
簡潔な自己紹介を終えたカリスに促される形で、アウラも皆に自己紹介を始めた。
「ウン! カリスお兄ちゃん! 初めまして! あたし、パパの娘で「魔」を司っているアウラって言います! えっと、これからはあたしと一緒に遊んで下さい!」
自己紹介の後で自分と遊んでくれるよう頭を下げてお願いするアウラの「パパの娘」宣言を聞いて、孤児院の皆は大騒ぎだ。
「ねぇ、イッセー兄ちゃん。カリスという子はともかく、アウラという子が言っている「パパ」って、やっぱり……」
ここで所持している神器の関係上、突然何かが現れるという事態に慣れているレオが確認を取ってきたので、僕は即座に頷いてみせる。
「僕だよ。確かに生まれ方は
僕の返事を聞いたレオは納得の表情を浮かべた後、アウラに向かって声を掛ける。
「……そっか。解ったよ、イッセー兄ちゃん。カリス君、アウラちゃん、僕の名前はレオナルド。それで、今さっきゼノヴィアというお姉さんと喧嘩しかけたのが、イッセー兄ちゃんが作ってくれた、友達のシェイミ。二人とも、よろしくね」
レオの自己紹介を受けて、先にカリスが言葉を返し始めた。
「こうして面と向かってあったのはこれが初めてだけど、三年前にはオイラもイッセーの中から見ていたから、レオナルドの事はよく知ってるよ。だからさ、これからはイッセーを通さずに直接色々話をしようよ!」
「そうなんだ。ウン、解った。歳も結構近いみたいだし、これから僕達は友達だよ!」
「もちろんさ!」
こうしたやり取りを経て、まずはレオとカリスが友達になった。こうなると、アウラも黙ってはいられない。早速レオと友達としての挨拶を交わしていく
「もう! カリスお兄ちゃんったら、ズルい! だったら、あたしもレオお兄ちゃんとお友達になっちゃうもん! だから、あたしの事もよろしくね。レオお兄ちゃん!」
「ウン! よろしくね、アウラちゃん!」
そして、レオがアウラの友達として言葉を返したの皮切りに、孤児院の子供達が次々とカリスやアウラと挨拶を交わしていく。ただ、ゼノヴィアはカリスの発言から何かを察した様で本人に確認をとろうとしているが、皆が我先に挨拶をしようとカリスとアウラの前に集まって来ているので、中々カリスに近づけないでいる。……出足は順調だ。
「さて次は、――――」
今のところは上手く行っているのを確認した僕は、続けて呪文を高速神言で詠唱した後、赤龍帝再臨を発動する。
「――――、赤龍帝再臨!」
そして、今回の赤龍帝再臨で実体化させたのは十五歳以下の年少組の中から最年少の子を含めて選んだ、この三人。
「わぁ、本当にお外に出られたんだぁ。イッセー兄ちゃんとロシウお爺ちゃん、それに
歴代最年少である八歳の男の子であり、母親譲りという褐色の肌と父親譲りという金髪をしたクローズは外に出られた事に目を輝かせている。
「クローズ。外に出られて嬉しいのは解りますけど、少し落ち着きなさい。皆、驚いていますよ? それに、一誠兄様にご迷惑をおかけする訳には参りません。解かりましたか?」
クローズの三歳年上で中国系の少女であり、長い黒髪をポニーテールでまとめた
「クローズ、芙蓉。二人とも、そこまでよ。折角イッセーが外に出してくれたんだから、まずは皆にご挨拶しなきゃ」
そして、原初にして究極の赤龍帝であり、十歳程で際立った容姿を持つ「
「はーい」
「アリス様、承知しました」
クローズと芙蓉の二人は素直にアリスの言葉に応じて、まずはクローズから自己紹介を始めた。
「初めまして! ボク、クローズ! 赤龍帝の中では一番小さいけど、今はイッセー兄ちゃんに倣って他の赤龍帝のお兄ちゃんやお姉ちゃん達、それに小父さん達やお爺ちゃんから色々教えてもらってるんだ。……それで、イッセー兄ちゃんの中から見ていて、ずっと皆と一緒に遊びたかったんだけど、これからはボクも皆と一緒に遊んでもいいかな?」
クローズは自己紹介の後に恐る恐るといった感じで孤児院の皆に一緒に遊んでもいいかを尋ねてみると、クローズと同年代の子供達からは「いいよ!」の大合唱が返ってきた。それを聞いたクローズは満面の笑みを浮かべて喜び、早速外に出て遊ぼうとする。しかし、それを芙蓉が一先ず抑えた。
「クローズ。ここの皆さんと一緒に遊ぶのもいいですけど、まずは私達の自己紹介が先ですよ」
クローズはそこで一先ず立ち止まりはしたものの、今にも外に飛び出そうとウズウズしている。それを見た芙蓉は溜息を吐いた。
「……と言っても、あまり抑えが利かなそうですから、私も自己紹介を早く済ませた方がよさそうですね。皆さん、初めまして。私の名は芙蓉と申します。私は大陸の武門の家に生まれましたが幼い頃から体が弱く、生前には外で遊ぶ機会などありませんでした。ですが、こうして外で体をいっぱい動かして元気に遊ぶという、生前では叶わなかった願いを叶えて下さった一誠兄様には本当に感謝しています。ですから、皆さん。どうかクローズ共々よろしくお願いします」
芙蓉は宣言通りに自己紹介をなるだけ早く終わらせた後、深々とお辞儀をする。武門の家の出ということだけあって、この年齢としては非常に礼儀正しい芙蓉の自己紹介に同年代の男の子達の一部は完全に見惚れていた。芙蓉は割と顔立ちの整った者の多い駒王町においても早々お目にかかれない程の美少女なので、そろそろ初恋を経験する頃合いである男の子達などは正に格好の餌食だろう。現に、見惚れていた子の何人かは「痛っ!」という声を上げている事から、一部の女の子から何処か抓られた様だ。そして、いよいよアリスの番になった。
「最後はわたしね。わたしはアリス。世界で最初の赤龍帝よ。身内からは「始祖」なんて呼ばれているわ。それと、わたしは歴代の赤龍帝の中で一番イッセーとの付き合いが長いし、イッセーが小さい頃はわたしがお姉ちゃんをしていたの。だから、もしイッセーがわたしの事を「アリスお姉ちゃん」って呼んでいた頃の事を知りたかったら、わたしに訊くのが一番ね」
このアリスの「お姉ちゃん」発言を聞いた瞬間、アーシアとゼノヴィアの目の色がはっきりと変わる。
「あ、あのぅ、アリスさん。できれば、小さい頃のイッセーさんの事をできるだけ詳しく教えて頂けると嬉しいんですけど……」
アーシアはどう見ても年下であるアリスに対して、明らかに下手に出ていた。すっかり逞しくなったアーシアを見た僕は、恋が人を変えるものである事を改めて思い知らされた。
「……ウン、そうだな。私は唯でさえ新参者の上、イッセーの幼馴染であるイリナには圧倒的な差をつけられている。だから、ここは少しでもイリナとの差を埋めていこう。アリス、でいいのかな? できればその話、アーシアと一緒に私にも聞かせてもらえないだろうか」
一方、ゼノヴィアも僕に好意を寄せてくれている女の子の中では一番の新参者である事から積極的に僕の事を知ろうとして、アーシアと一緒にアリスに僕の昔話をしてほしいと頼み込んでいる。……どうやら、カリスに対する疑問など完全に吹き飛んでしまった様だった。
そのゼノヴィアの変化を確認した後で一回だけ微笑みと一緒にこちらへウィンクしてきたアリスに、僕はほんの少しだけ頭を下げる事で感謝の意を伝えた。
……アリスお姉ちゃんには、本当に頭が上がらないな。僕は「姉」の偉大さを改めて思い知らされた。
その後、天使長ミカエルとの対談が始まるまで、僕はイリナやアウラ、カリス、瑞貴、アーシア、ゼノヴィア、そして孤児院の皆と一緒に穏やかな時間を過ごしていった。永遠に失ってしまったと思っていたものは、まだ僕の手元に残っていた。それが、たまらなく嬉しかった。
いかがだったでしょうか?
今話のMVPはお姉ちゃんパワーを全開にしたアリスでした。
彼女は色々な属性を持っているので、本当に使い勝手がいいキャラです。
では、また次の話でお会いしましょう。