天界のトップである天使長ミカエルとの面談を控えていた僕は、瑞貴の提案で久しぶりに孤児院の皆で賛美歌を合唱した。久しぶりで上手く行くか不安だったが、観客になっていたアウラやカリス、それにアリス達年少の赤龍帝がスタンディングオベーションをしてくれたので、どうやら満足のいく出来だった様だ。ただ、教会内で演奏される音楽は神に捧げる祈りであり、神ではなく人への賛辞となる拍手はマナー違反となるので僕はそれを窘めたのだが、それに対して一向に構わないという人が現れた。
白い法衣を身に纏ったその方は、頭に金色の
「初めまして。赤き天龍帝、兵藤一誠君。私はミカエル。天使の長をしております。……成る程。確かに、貴方の言った通りですね、武藤神父。この子供達の心からの笑顔を見れば、彼がどれだけの善行を重ねてこの子達の心身の救済をやり遂げてきたのか、
今日、ここを訪れた目的であるミカエル天使長本人だった。……ただ、それを認識した瞬間、敬虔な十字教の信徒であるアーシアが卒倒してしまうというハプニングが起こってしまったのは、きっとご愛敬だろう。
ミカエル天使長と礼司さんが礼拝堂を訪れた事で約束の時間になった事を悟った僕達は、申し訳なく思いながらも皆に礼拝堂から出てもらい、話が終わるまでここに近づかない事をお願いすると、皆はそれに素直に応じてくれた。その際、カリスやアウラ、アリス達には皆との交流を深めて欲しかったので、そのままついて行かせた。
しばらくして卒倒したアーシアが意識を取り戻した事で、礼拝堂の中にいるのが面談の当事者であるミカエル天使長と僕、イリナの他には面談の場を提供した礼司さんとその義息子でソーナ会長から悪魔側の立会人に指名されてここを訪れていた瑞貴、そして密かにリアス部長からそれとなく同席できる様に頼まれていた瑞貴の手配でこの場にいるアーシアとゼノヴィアだけになった。なお、服装は当初
こうして、ミカエル天使長との面談はミカエル天使長が既に自己紹介を終えていた事から、僕の自己紹介で始まった。
「リアス・グレモリー様とソーナ・シトリー様の共有眷属で他の眷属達の総括を任されている
僕の自己紹介が終わり、ミカエル天使長も改めて自己紹介をする事で話を切り出し始めた。
「では、改めまして。私が天使の長をしているミカエルです。先程武藤神父に確認を取りましたが、子供達が歌っていたHail Holy Queenは数十年前に上映された映画で実際にあの様に歌われたそうですね。恥ずかしながら、私は人間界の娯楽には少々疎い所がありまして、あの様な歌われ方があったとは知らなかったのですよ。それだけに、私にとって先程のHail Holy Queenは正に衝撃でした」
ここまで聞いた時点で、僕はあのHail Holy Queenはミカエル天使長には受け入れられていないと思い、反論しようと試みた。
「確かに、荘厳な造りになっている教会の中で歌われる賛美歌としては、先程のHail Holy Queenの歌い方は相応しくないのかもしれません。ですが……」
しかし、その前に僕の言葉を遮る形でミカエル天使長が自分の言葉の意図について説明し始める。
「どうやら私の言葉が足りずに、貴方に誤解をさせてしまった様ですね。いえ、そうではありません。賛美歌は主を称える為の物ですから、その地に住まう者達に合わせて曲調や詩を変える事は割とあります。その為、たとえ先程の貴方達の様に笑顔で明るく楽しく歌ったとしても、貴方達の笑顔が今を生きる喜びに満ちていればそれは主が生ある者全てにお与えになられた祝福への感謝となり、賛美歌としての体を十分に為しているのです。ですから、これからも明るく楽しく歌い続ける様にあの子供達に伝えて下さい。武藤神父。もし教会や天界の者から苦情が出た場合、天使長である私が認めたと言いなさい。そして、それでも認めないというのなら、貴方達の賛美歌を認めた私自らが話を聞くとも」
ミカエル天使長の言質を取った礼司さんは、頭を下げて承知の旨を伝えた。
「承知しました。その時には、遠慮なくミカエル様のお名前を使わせて頂きます」
そして、僕もまたミカエル天使長の寛大な処置に心から感謝の言葉を伝える。
「有難うございます、ミカエル天使長」
すると、ミカエル天使長から意外な言葉が飛び出してきた。
「赤き天龍帝。……いえ、兵藤君。こちらから普段の言葉使いをお願いしておきながら更に付け足す様で申し訳ありませんが、ミカエル天使長はやめて下さい。実は先程、聖剣計画の全容が発覚した四年前にはその被験者の子供三名、そして一年程前からは今この孤児院にいる子供達と私達天界の者が手を差し伸べられなかった命を幾つも救い続けてきた事も武藤神父から聞かされました。そこで、本来なら我々天界の者が成すべき救済を自らの意思で行い続けた貴方とはあらゆる立場の垣根を取り払い、ただのミカエルとして話をするべきだと私は判断しました。ですから、私の事は「ミカエルさん」で結構ですよ」
このミカエル天使長、いやミカエルさんの申し出にアーシアやゼノヴィア、そしてイリナといった十字教に縁のある三人は驚きを隠せないでいる。……どうやら、向こうはかなり本気で僕と話をするつもりの様だ。僕はミカエルさんの本気を見た様な気がした。だから、ミカエルさんの申し出を受け入れる。
「解りました、ミカエルさん。……これでいいですか?」
僕が呼び方を変えると、ミカエルさんは満足そうな表情を浮かべた。
「えぇ、それで結構です。さて。話を始める前に、まずは天界から貴方に授ける物があります」
ミカエルさんは申し訳なさそうな表情を浮かべると、一本の剣を差し出してきた。その剣からは真聖剣やクォ・ヴァディス、ゼノヴィアが所持するデュランダルや教会の所持するエクスカリバーの複製品、そして祐斗の
「この剣、ひょっとして
考えられるのは、おそらく一つ。僕がそう結論付けるのとほぼ同時に、ミカエルさんから質問の答えが返ってきた。
「えぇ。貴方の推測通り、これは龍殺しの聖剣です。銘はアスカロン。聖ジョージことゲオルギウスが所持していた聖剣と言えば、貴方なら解るでしょう。彼の死後は天界で保管していたのですが、数本ほど頂いた聖魔剣のお返しとして貴方に授けます。なお、たとえ悪魔であってもドラゴンの力さえあれば使用できる様、
ミカエルさんの答えを聞いた時、昨日サーゼクス様が言っていた「聖魔剣に釣り合う物」とは、このアスカロンの事だったのだと悟った。確かに、現在聖魔剣を創造できるのは世界でも祐斗ただ一人だが、実例がある以上は聖魔剣の再現と量産はおそらく可能だ。だからこそ、そのサンプル品としての聖魔剣を求めたのだろう。
……ただ、アスカロンという天界でも秘蔵の一品と釣り合わせるには、いくら世界に前例のない筈の聖魔剣といえどもそれなりの本数が必要となる筈であり、それを天界はあえて覆してきた。
その意図を考えていると、ミカエルさんは天界が僕にアスカロンを授けるに至った経緯を説明し始める。
「コカビエルが起こした先の騒動において、貴方は僅かな情報からコカビエルの目的を完全に読み切って常に先手を打ち、更には主犯格のコカビエルを無力化して堕天使達に引き渡しました。これは、三つ巴の戦争が再開されるのを未然に防ぐという大きな功績となります。まして、貴方が優れた剣の使い手でもある事を踏まえれば、アスカロンを貴方に授ける事で悪魔達への贈り物の一つとすると同時に貴方個人に対する感謝を表す事にもなると私達は判断しました」
確かに、ミカエルさんの言い分には筋が通っている。しかし、それはそれで困った事になってしまった。僕はそれをミカエルさんに伝える。
「礼司さんや異端とされる前のゼノヴィアから、報告は上がっていないんですか? 僕には真聖剣エクスカリバーがありますし、余程の事がない限り使えないエクスカリバーとは別に和剣鍛造で創造された魔剣を核にエクスカリバーとドライグ、そして僕のオーラが融合して誕生したエクスカリバーの子にして娘のアウラを守護精霊とする天龍剣クォ・ヴァディスがあるんですけど」
すると、ミカエルさんも憂悶に堪え難しといった表情で実情を話してくれた。
「……何とも情けない話ですが、私の元にはその報告が届いていませんでした。そしてつい先程、武藤神父から事の全てを聞かされましたよ。全く、頭の痛い話です」
おそらく、教会の上層部は僕に関する情報を隠蔽する事で僕の排除と真聖剣の奪還(彼等から見ればの話だが)を天界から差し止められるのを防ぎたかったのだろう。そして、皆は全く気付いていなかったのだが、実は既に何度か刺客を差し向けられている。ここ最近成長著しい祐斗や元士郎ですら気付かなかったのだから、刺客も相当の腕前だったのだろう。
ここで狙われた僕が何故相手の強さについて推測に留まっているのかと言えば、何の事はない。僕と一年間の契約を交わしたトンヌラさんが、早速仕事をしてくれたからだ。しかも、ここ最近で僕と接した者の中で刺客の存在に勘づいた節があるのはリヒトと瑞貴、そして夜中にふと遠くを見やり、しばらくすると何事もなかったかのように眠り始めるといった素振りを何度か見せた銀だけだ。後は、誰にも刺客の襲来を悟らせていなかった。正直な話、僕を除く駒王町に住まう者でトンヌラさんとまともにやり合えそうなのは、おそらく礼司さんただ一人だ。得意分野では僕を上回るはやてや瑞貴ですら、戦闘経験の差でトンヌラさんを相手取るにはかなり分が悪い。それでいて、敵味方の情勢をかなり深い所まで把握しており、その上で傭兵として僕に不利にならない様に動いてくれている。最初の刺客の時、トンヌラさんは「旦那なら当然解っているとは思うんだが」と前置きしてから、首脳会談自体がご破算にならない様、教会から刺客が差し向けられた事はトップのサーゼクス様やセラフォルー様以外には直接の主であるリアス部長やソーナ会長にも知らせずに日常と変わらない態度を取った方がいい。その為にも教会の刺客は全て自分が水際で対処すると伝えてきたのもその為だ。そして、ミカエルさんが「頭の痛い話」と言ったのも、それを察しているからだろう。
……真面目に報告したであろうゼノヴィアがとても哀れで仕方がない。現に、自分の報告書を反故にされたと察したゼノヴィアは怒りを抑え切れずに顔に出てしまっている。それに、礼司さんも敵対勢力から僕に関する事実を知らされるよりはマシという判断で誤解が一切入らない様にコカビエルの一件の全てを報告している筈だ。そして、その先見が正しかったのは、アザゼルさんが僕の情報を正確に把握していた事で証明されている。それに、サーゼクス様もイリナの件を伝えた時には差し出口になるとして僕の事を話していないのだろう。しかし、これで教会は天界からの信用を大きく損ねる事になる。損なわれた信用の挽回は困難を極めるだろう。
僕が教会に関して色々考えた所で、ミカエルさんは気を取り直してエクスカリバーとクォ・ヴァディスを一度実際に見せてもらおうと僕に頼んできた。
「ですが、念の為です。一度、私に確認させては頂けないでしょうか?」
これについては特に断る理由がないので、僕はミカエルさんに承諾の旨を伝える。
「百聞は一見に如かず、とも言いますからね。では、ご確認下さい」
そこで、僕はまずその目の前で赤龍帝の籠手を発現、その宝玉からクォ・ヴァディスを引き抜くとミカエルさんに見せた。
「これがエクスカリバーの子である天龍剣、銘をクォ・ヴァディスと申します。お望みとあれば、実際にお手に取って頂いて結構です。……ただ、クォ・ヴァディスを手に取った状態で良からぬ事をお考えになられたら、それ相応の報いを受ける事になりますので気をつけて下さい」
「それについては絶対にしないと、主の御名において誓わせて頂きます。では、お借りしますよ」
ミカエルさんは聖書の神に誓う形で危害を加えないと宣言してから、クォ・ヴァディスを手に取った。そして、色々な角度でクォ・ヴァディスを見ていく。
「成る程、確かにエクスカリバーの聖なるオーラを感じますね。しかも、ドライグのオーラがそれを更に強化しているのですか。まだ創造されたばかりでこれ程であれば、将来的には破壊前のオリジナルのエクスカリバーをも超えてしまうかもしれません。正に赤龍帝の聖剣ですね。それにしても、確かに聖剣とはいえ銘をあえて「クォ・ヴァディス」にするとは。正しき道を探し続けるという貴方の覚悟が、天龍剣という形で現れている様です。……では、お返しします」
ミカエルさんはクォ・ヴァディスに対してかなり高い評価を与えてくれた。そして、十分に確認できたとして、クォ・ヴァディスを僕に返してきた。僕はクォ・ヴァディスを赤龍帝の籠手に仕舞うと、次に
「これが崩壊より長き年月を経て、真聖剣として再誕を果たしたエクスカリバーです」
ミカエルさんは僕の手から真聖剣を受け取ると、静かに瞑目して真聖剣のオーラを感じ取っていた。そして、結論を口にする。
「……間違いありません。形状こそ変わっていますし感じられるオーラも段違いで上ですが、この神々しいオーラは紛れもなくエクスカリバーです。まさか、真なる担い手の手に渡るだけでエクスカリバーがここまで変化、いえ進化するとは想像すらできませんでした。正に真なる聖剣の名に相応しい、聖剣の中の聖剣と言えるでしょう。では、こちらもお返しします」
ミカエルさんは僕の真聖剣が本物のエクスカリバーであると確信を得たらしく、納得した様な表情で真聖剣を返してきた。こうして僕の所持する二本の聖剣の検分が終わり、僕は真聖剣を静謐の聖鞘に収めると異相空間へと仕舞い込んだ。
……ただ、こうなると大きな問題が出てくる。
ミカエルさんは本当に困り切った表情を浮かべながら、贈り物の選定を失敗したと口にした。
「しかし、困りましたね。真聖剣と天龍剣の存在さえ知っていれば、アスカロンではなくもっと別の物を用意したのですが……」
ミカエルさんが失敗したと判断したのも無理はない。何せ、余程の事がない限りは使えない真聖剣はともかくクォ・ヴァディスがある以上はアスカロンを頂いても使用する機会はなかなかないのだ。せいぜいドラゴンやドラゴンの力を宿す者と戦う時ぐらいだろうか。ただ、
「かと言って、そちらの申し入れをお断りするのも外交上の大きな問題となるでしょう。……そうだ!」
ならば、僕ではなく「彼」に授ければいい。それに「彼」にアスカロンを授ける際に伴う副次効果も十分期待できる。そう思い至った僕は、早速精神感応でドライグに確認を取る。
〈ドライグ、今から僕が言う事はできるか?〉
《何、フムフム。……結論から言おう、可能だ。そもそも赤龍帝の籠手と一体化する事で使用できるようにするのだろう? それなら、奴の
このドライグの回答を受けて、僕は決断した。
「ミカエルさん。アスカロン、確かにお受け致します」
「……よろしいのですか? 聞けば真聖剣は使い時を選ぶとの事ですから、それだけならまだ普段使用する得物として使用できるのですが、それでは天龍剣と被ってしまいますよ?」
ミカエルさんは少々申し訳なさそうな表情をしているが、問題はない。
「問題ありません。最終的な所持者はあくまで僕になりますが、用いる者は別の者になるのですから」
僕の言葉にミカエルさんは首を傾げていたが、それには構わずに早速行動に出た。
「それでは始めます。――――」
僕は高速神言で呪文を詠唱していく。
「――――、
そして、アスカロンの担い手として誰よりも相応しい男を呼び出した。
「一誠様。レオンハルト、参上致しました」
……そう。歴代赤龍帝の武の双璧にして至忠の騎士、「
「レオンハルト。僕は常々考えていたんだ。至高と言える剣技と武人としての清廉なる誇り、そして一片の私心なき忠義。およそ騎士として求められるものを全て持ちながら、何故
「痛み入ります」
レオンハルトは僕に気を使わせてしまった事を、心から悔やんでいる様だ。ここで、僕が天界からアスカロンを授かることを教える。
「そして今日、堕天使コカビエルの野望を未然に防いだ功績と天界のご厚意によって、龍退治の聖人ゲオルギウスの愛剣たるアスカロンを賜る事になったんだ」
「承知しております。一誠様、誠に祝着至極に存じ上げます」
レオンハルトの表情からは、主君が褒賞を受けた事への歓喜の念しか感じられない。そして、僕は今回実体化した意図をレオンハルトに伝えた。
「だけど、僕には既に赤龍帝の聖剣であるクォ・ヴァディス、そして何より二代目の騎士の王の証たる真聖剣エクスカリバーがある。それに、クォ・ヴァディスは今後、僕の後に続く赤龍帝の内、僕の娘で守護精霊であるアウラに認められた者へと受け継がれていく業物だ。「剣帝」である卿が振るう事こそが最も相応しいと思うけど、おそらくそれは叶わない。だからレオンハルト、アスカロンは僕の分身の一人と呼べる卿が賜る事にする。万夫不当の剣の極み、これからは龍殺しの聖剣を以て世に示してほしい」
「……よろしいのですか?」
レオンハルトはやや困惑している。彼とて騎士であり武人だ。素晴らしい武具と出会い、存分にその武を振るいたいという欲望はある。しかし、主君の褒賞を譲られる形である事を受け入れにくいのだろう。だから、僕の意志をレオンハルトにはっきりと伝える。
「むしろ、それこそを僕は望んでいるんだよ」
そして、ミカエルさんの方に向き直り、あえて跪いた上で進言する。
「普段の言葉使いとのご要望にあえて背く事をお許し下さい。ミカエル天使長にお願いの儀が御座います。よろしければ、そのアスカロン。私の代わりに、我が剣たる至忠の騎士にお授け頂きたく存じ上げます。もしやすると初代赤龍帝としてご存じかもしれませぬが、この者の名はレオンハルト。歴代の赤龍帝においても随一の剣技を有し、極みに至った白龍皇を相手に何の変哲のない剣一本のみで神器を用いずに相討つなど、その武威は主たる私を以てしても計り知れませぬ。また、この者の忠節には私欲など一切なく、それ故に私がこの者を疑う事はありませぬ」
この進言を終えてから、暫く沈黙が続いた。
「了解しました。歴代の赤龍帝はいわば貴方の分身。アスカロンを授ける対象としても問題はないでしょう」
ミカエルさんの許可が下りたので、僕は元の言葉使いに戻して感謝の意を伝えた。
「ミカエルさん。僕の無理な申し出を受け入れて頂いて、本当に有難うございます」
そしてレオンハルトに向き直ると、早速アスカロンの取得を命じた。
「レオンハルト、アスカロンを賜ってくるんだ」
それと共に、ドライグもレオンハルトにアスカロンの取得方法を説明していく。
『レオンハルト、俺がフォローする。お前はアスカロンのオーラの波長と同調し、アスカロンを受け入れろ。そうする事で、神器がお前の意志に応えてくれる筈だ。それと、自分だけがアスカロンを用いていいのかを気に病んでいる様だが、神器同士で繋がっているからその気になれば一誠もアスカロンの龍殺しの力を使う事ができる。あくまでアスカロンそのものを扱えるのがお前一人になるだけだ。それともう一つ、極めて重要な事があるが、それについてはアスカロンを受け取った後で話す』
しかし、レオンハルトは僕を差し置いてという意識が強いのだろう。ドライグの説明を受けても、未だにアスカロンの取得を逡巡している。
「ドライグ、しかしだな……」
『何より、一誠も俺も見てみたいんだ。一般の剣はおろかそれなりの力を持つ筈の魔剣や聖剣でもその卓越した技量には耐え切れず、当時の白龍皇と相討ちとなった時ですら全力を振るえなかった、お前の本当の力をな』
そのレオンハルトの言葉を遮る形で、僕達の想いをドライグが代弁してくれた。それを受けて、レオンハルトは決心した様だ。
「……承知した。主君のご期待に応えてこその騎士、これ以上の迷いは却って不忠になる」
そう言うと、レオンハルトは左手に赤龍帝の籠手を発現して、そのまま左手でアスカロンを握る。そして瞳を閉じて精神を集中させると、アスカロンは赤龍帝の籠手の中に収まった。それと同時に、レオンハルトを実体化させる媒体である筈の
『これで、アスカロンは
「承知した。我が手に参れ、アスカロン!」
ドライグに促されたレオンハルトは早速アスカロンに呼びかけた。すると、手の甲の部分にある宝玉からアスカロンの柄が出てきた。どうやら取り出し方はクォ・ヴァディスと同じ様だ。レオンハルトは柄を掴んで一気に引き抜くと、右手にはさっきまでミカエルさんの手の内にあったアスカロンが収まっていた。
「……素晴らしい。まるで手に吸い付く様だ。ならば早速」
レオンハルトはアスカロンの握り具合が自分に完全に合っているのを確認すると、今まで見た事もない鋭さと速さでアスカロンを振るい始めた。この剣捌きを見たゼノヴィアは、もはや開いた口が塞がらないといった面持ちでいる。……だが、それ以上に信じられないのが、剣を振る事で発生する風や音が一切出ていない事だ。おそらく、純粋な剣の技量だけで空間を断ち切っているのだろう。一体、何をどうすればこの様な絶技を造作もなくできる様になるのか、僕には全く想像できなかった。
「流石は名高きアスカロン。私の本気に何処までも応えてくれる。……しかし、このアスカロンとの一体感はどうした事だ? まるで、アスカロンが私の一部となった様にも思えてくるが……」
レオンハルトはアスカロンの使い心地を堪能すると、次第に余りにも相性が良過ぎる事に疑問を抱いた様で首を傾げてしまった。そこで、ドライグがレオンハルトの疑問に答える。
『レオンハルト。もう一つ、お前に伝える事がある。お前の赤龍帝の籠手にアスカロンを一体化させた事で、お前はクォ・ヴァディスの守護精霊となったアウラと同じ存在へと変わった。つまり、お前は二代目赤龍帝の「剣帝」であると同時にアスカロンを宿代とする実体を持った精霊というべき存在になったのだ。これで、お前に関しては制限時間や媒体、更には己以外の術師が使用する必要がある赤龍帝再臨に伴う実体化の枷がほぼなくなった。残る制限はあくまでアスカロンと赤龍帝の籠手に縛られているという事だが、一誠に忠誠を誓うお前にとっては制限とは到底言えないな』
ドライグの説明を聞いたレオンハルトは驚きを隠せないでいた。
「では、私はいざとなれば一切の制限なく一誠様の御前に立ち、直接お守りする事が叶うという事か。今までは一誠様がその身を危険に晒す度に「体さえあれば」と
……どうやら、僕がレオンハルトに対して考えていた「アスカロンの守護精霊化」は想像以上の効果を得た様だ。新しい肉体を得た形となったレオンハルトは歓喜に打ち震えると、僕に向かって跪きアスカロンを両手で捧げ持って感謝の言葉を伝えてきた。
「一誠様。アスカロンという素晴らしい剣はおろか、我が忠節を全うできる新たな肉体さえもお授け頂き、心より感謝致します。この御恩は今後アスカロンと共に戦場に立ち、一誠様に勝利の栄光を捧げる事でお応え致しましょう」
レオンハルトの騎士としての感謝の言葉に対して、僕も主としての期待の言葉を掛ける。
「今後の活躍に期待しているよ、レオンハルト」
「はっ!」
僕の言葉に応えるレオンハルトの声に、迷いなどは一片たりとも存在していなかった。
いかがだったでしょうか?
……書いていて思ったんですが、今話のタイトルである「剣帝と龍殺しの聖剣」。
物語が進めば進むほど、戦慄の意味合いを深めていく事になっていきそうです。
では、また次の話でお会いしましょう。