赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.24 修正


最終話 ミカエル、悟る

 僕達の面談の為に天界から礼司さんの教会に来訪してきたミカエルさんから、龍殺しの聖剣アスカロンを授ける事を伝えられた。しかし、僕には既に真聖剣と天龍剣があったので、使用する機会が早々ない事が容易に想像できた。そこで、今まではもはや次元の違う技量故に使用に耐えられる剣が得られなかった「剣帝(ソード・マスター)」レオンハルトに僕の分身としてアスカロンを授かる形を取ったのだ。そして、レオンハルトの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)にアスカロンを一体化させた事で、レオンハルトはアスカロンを宿代とする実体を持った精霊とも言うべき存在となった。クォ・ヴァディスの守護精霊となったアウラという前例があっただけにこうなる事は予想できていたのだが、驚いたのはこの後だった。

 アスカロンを得た事で初めて振るわれたレオンハルトの本気の剣は、アスカロンの力を全く用いる事無く純粋な技量だけで空間を綺麗に切り裂いてしまったのだ。しかも実体化の制限がほぼなくなった事も踏まえると、戦力が大幅に強化されたと言えるだろう。

 なお、後でレオンハルトに確認した所、彼の剣友であるリヒトもまた愛剣のカイゼルシュベルトと以前僕が製作して渡したドラッヘボーゲンを融合した切り札であるジーク・カイゼルシュベルトであれば、全く同じ事ができるらしい。……どうやら、リヒトさえいてくれたら、はやてに対して僕が心配する必要は無くなってしまった様だ。

 こうして、レオンハルトがアスカロンを愛剣とした後で、僕もまたミカエルさんに向き直して改めて感謝の言葉を伝える。

 

「ミカエルさん、本当に有難う御座いました」

 

 しかし、僕の感謝の言葉を受け取ったミカエルさんの表情は、完全に苦笑いだ。

 

「いえいえ。私の方も贈り物の選定を失敗した事をフォローして頂いて、正直助かりましたよ。それにしても、これ程の使い手がアスカロンを宿代として実体を持つ事になるとは思っていませんでした。……先程から、私は「それにしても」や「まさか」ばかりを口にしていますね」

 

 そう言われると、確かにその通りだ。それだけ、ミカエルさんにとっては想定外な事が多かったのだろう。……ミカエルさんの話は続く。

 

「それに、先程は悪魔達への贈り物と貴方個人への褒賞を兼ねてと言いましたが、実はもう一つ、貴方にアスカロンを授ける理由があるのです。と言っても、大した事ではありません。かつて二天龍の討伐の為に一度だけ三大勢力が手を取り合った時の再現を願って、今代の赤龍帝でもある貴方に願を掛けてみたかったのです。ここは日本ですからね。郷に入っては郷に従え、という訳ですよ。……あぁ。そう言えば、あの時は散々戦場を乱しに乱してくれましたね。赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)?」

 

 話を聞いている限りでは温厚な性格である筈のミカエルさんから飛び出した随分と恨みの籠った言葉に、僕はドライグにどれだけ暴れ回ったのか問い質した。

 

「ドライグ。この件については詳しい話をあえて聞かなかったけど、お前は一体どれだけ暴れ回ったんだ?」

 

 すると、ドライグはその件に関する弁明を始める。

 

『あのな、一誠。いくら天龍と呼ばれる俺でも、あの白いの相手では周りの事なぞ気にする余裕はないんだ。コイツ等の戦場に入り込んでいた事に気付いたのも、奴と鎬を削っている所に変な横槍を入れられたからだぞ。ただな、その時はかなりいい所まで奴を追い込んでいたのに、コイツ等の横槍のせいで台無しにされたんだ。ついカッとなっても、仕方がないだろう。だいたいだな、苛立ち紛れに放っただけで倍化も何もしていない唯のブレス一発で、その場にいた軍勢の半分も消し飛ぶくらいに弱っちいコイツ等の方が悪い』

 

 ……仮にも天龍と謳われるドラゴンとしては、何とも呆れ果てた弁明だった。僕の傍らで聞いていたレオンハルトも呆れ果てて深い溜息を吐いている。だからだろう。僕が自分の左手を通してドライグに向けている冷たい視線に気づいたドライグは、かなり切実に視線の質を変える様に頼み込んできた。

 

『……だから頼む。そんな蔑んだ眼で俺を見ないでくれ! 他の奴ならいざ知らず、お前にそれをやられるとかなり堪えるんだ!』

 

 そこで、僕は冷たい視線を一変させると共にあえて本音をぶつける。

 

「冗談だよ、ドライグ。まぁ流石にお前達はやり過ぎだし、さっさと戦う場所を変えていれば今の魂だけの状態で封印される事もなかったって、僕は思っているよ」

 

 この様な僕の本音をぶつけられたドライグは、三大勢力の戦争に乱入した自分達の末路と今の心情を語り出した。

 

『それは今だからこそ言える事だろうな。それに結果論で言えば、俺達のせいでコイツ等の戦争は天界と悪魔の指導者がそれぞれ戦死する所まで破綻している。だから、コイツ等が俺や白いのに恨みを抱いてもおかしくはないし、実際に俺達の体をバラバラに切り裂き、その魂を神器(セイクリッド・ギア)に封印している時の聖書の神の表情は、ここでは到底口にできない程に酷いものだったぞ。その意味では、俺や白いのはその報いを聖書の神が直接手を下す形で既に受けているし、これについては何かを言うつもりは俺にはない。尤も、そのお陰で俺はお前という終生の友を得たし、歴代の連中とも生前の時とは違って良好な関係を築けているのだから、運命の巡り合わせというものは本当に解らんものだがな』

 

 どうやら、ドライグは今の自分の状態を既に受け入れていて、これ以上何かを言うつもりはない様だ。そして、レオンハルトもドライグが口にした「運命の巡り合わせ」という事に関しては同意してきた。

 

「全くだな。それについては私も同意するぞ、ドライグ。そのお陰で、私は一誠様にお仕えする事ができるだけでなく、リヒトという剣友やアスカロンという愛剣といった、生前には得られなかった掛け替えのないものを幾つも得られたのだからな」

 

 ……そういう事を面と向かって言われると、流石にかなり照れ臭かった。ミカエルさんもこの二人の言葉に毒気を抜かれた様で、これ以上はドライグに恨み節をぶつける事はしなかった。

 

「赤い龍。いえ、ドライグ。貴方は封印前に比べて、かなり丸くなっている様ですね。お陰ですっかり毒気を抜かれてしまいましたよ」

 

 そして、ミカエルさんは脇道に逸れてしまった話を元に戻す。

 

「では、話を元に戻しましょうか。貴方達二天龍との戦いは熾烈を極め、我々は戦力を大きく削られてしまいました。更には先程赤い龍が言った様に、我々天使は創造主である神、悪魔達は四大魔王全員とそれぞれ掛け替えのない指導者を失う遠因にもなっています。堕天使達については総督のアザゼルやコカビエルを始めとする幹部達こそ健在ですが、上と下を繋ぐ中堅層の殆どを失っています。そういった要因から、各勢力とも組織の統率が上手く行かず、様々な形で少なからず問題が発生している様です。我々天界や教会については、信徒への加護や慈悲の不行き届きに始まり、「システム」に影響を与えかねない者達の追放、更には聖剣計画や「天の子(エデンズ・チャイルド)」計画といった非人道的な活動を行う背教者達の跋扈ですね。この様にそれぞれが内部に多くの問題を抱えている現状においては、たとえ冷戦状態で時折発生する小競り合い程度であっても武力衝突は極力避けたいというのが本当のところです」

 

 ……冥界、もっと言えば悪魔勢力の内部事情については僕も知っていたが、まさか天界や堕天使勢力も随分とお寒い内部事情である事に僕は正直驚きを隠せなかった。

 

「だからこそ、今回の首脳会談は正に好機なのですよ」

 

 僕が驚いていると、ミカエルさんが「好機」という言葉を口にした。その瞬間、僕の中で全てが繋がった。僕に対する監視役を兼ねてこそいるものの、イリナをメッセンジャーとして駒王町に留め置き、実質的に僕と一緒にいる事を認めてくれていた事で可能性の一つとして考えていたのだが、これで天界側の意志を確認できた。

 

「……聖魔和合という事ですか。どうやら、僕がわざわざ声高らかに謳い上げる必要はなかったみたいですね」

 

 天界には以前から和平に対する用意があったと悟った僕は、少々気恥ずかしい思いをしていた。ミカエルさんも僕の発言を否定する事はしなかった。

 

「確かに、コカビエルがあれだけの問題を起こした以上、貴方が何もせずともいずれは貴方の謳う聖魔和合へと流れが変わっていったでしょう。ですが、貴方はそれを所属勢力のトップであるサーゼクスや敵対勢力の幹部であるコカビエルの目の前で明言しました。天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄、即ち聖魔和合と。そして、今回の首脳会談はある意味、聖魔和合を掲げた貴方の言葉に乗ったとも言えます。これでもし聖魔和合の第一歩である三大勢力の和平が成れば、最大の功労者は間違いなく聖魔和合の提唱者である貴方になるでしょうね」

 

 ミカエルさんはこう言ってくれてはいるが、裏を返せば「自分の言葉にはしっかりと責任を持て」という事だろう。僕を最大の功労者にするという事は、三大勢力の和平の発端は僕という事になる。その為、僕は今後、三大勢力の和平の維持に努めなければならなくなる。当然ながら日頃の行いにも気を配り、身内である悪魔はもちろん天界や堕天使勢力に対しても配慮した言動を取らなければならない。

 ……ヴァレリア解放軍において、指導者だったデニムさんや再合流して以降はヴァレリア統一の象徴となったカチュアさん以上に自らの言動や立ち振る舞いを律する必要がある軍師を務めていた経験が、どうやらここで生きてきそうだった。

 僕は和平に関する話を一端切り上げる為、あえてアーシアとゼノヴィアについて触れる事にする。

 

「ミカエルさん。話は少し変わりますが、アーシアとゼノヴィアの件について教えてほしい事があります」

 

 僕がミカエルさんに伺いを立てると、ミカエルさんは僕が何を尋ねたいのかが察した様で早速答えを返してくれた。

 

「二人が破門の形で教会から追放された理由ですね。これには、主がお造りになられた加護と慈悲と奇跡を司る「システム」の存在が関係しています。この「システム」とは、要するに主が地上に様々な形で奇跡を齎す為の物と思って下さい。悪魔祓い(エクソシスト)の武器や十字架等の聖具に対して聖なる効果を齎すのも、「システム」の機能の一つです」

 

 ミカエルさんから「システム」の話が出たので、僕は「システム」の運用について質問する。

 

「聖書の神亡き後、貴方達が神の代わりを務めているとコカビエルは言っていたのですが、それは「システム」を貴方達が運用しているという事でしょうか?」

 

 僕のこの質問に対し、ミカエルさんは実情を含めて答えてくれた。

 

「概ね、それで正解です。より正確に言えば、私を中心とした熾天使(セラフ)全員で、と言った方が良いでしょう。しかも、それでもかろうじてといった程度にしか機能していないのが現状です。何とも情けない話なのですが、そのせいでどうしても信者への加護や慈悲が行き届かなくなってしまうのです。一応、主と同格である各神話系統の主神クラスであれば、「システム」を完全な形で運用できると思いますが……」

 

 ミカエルさんはそこで一端言葉を切った。……確かに、聖書の神と同格の存在であれば、「システム」の運用自体は可能だろう。しかし、それは即ちその存在が所属する神話系統に対して良くて従属、悪ければ隷属する事に等しい。流石にそれは認められないのだろう。ミカエルさんは一息入れると、話を再開した。

 

「この様にギリギリの所で動かせている「システム」にもし何らかの影響が出てしまえば、もはや取り返しのつかない事になってしまいます。その可能性を秘めているのが、兵藤君の持つ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)等の一部の神滅具(ロンギヌス)であり、ヴァチカンを始めとする教会の本部への接近を避けなければならない禁止神器と認定しています。また、我々や「システム」は信者の信仰を力の源としている事から、その信仰を揺るがす事象を起こしてしまう神器もまた禁止神器に認定しています。なお、武藤神父が引き取ったレオナルド少年が所有する上級神滅具の魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)については、先程の「システム」に影響を与える可能性だけでなく魔獣を生み出す能力が主の御業である生命の創造という禁忌に触れますので、こちらにも分類されています」

 

 信仰を揺るがす事象を起こす神器。その一つに心当たりのあった僕は、ミカエルさんに確認を取る。

 

「アーシアの持つ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)も、その一つですね?」

 

「えぇ。アレは本来、私達天使や人間といった神の創造物にして(しもべ)となっている存在のみを癒す様に制限されていました。しかし、主がお亡くなりになられた後、敵対者である堕天使や悪魔も癒してしまう事象が確認されたのです。当時は魔女裁判が頻繁に行われていた事もあって信仰を揺るがすまでには至りませんでしたが、それを切っ掛けに全ての神器について能力の再確認と「システム」への影響の有無の確認を実施し、その上で禁止神器の選定を行いました。その意味では、聖母の微笑は特別な神器と言えるでしょう。そして、「システム」に影響を及ぼす事例は何も神器だけではありません」

 

 僕の問い掛けに対するミカエルさんの返答の中で言及された、神器以外の事例。それについては、当事者であるゼノヴィアがミカエルさんに確認を取ってきた。

 

「主の不在を知る者、ですか?」

 

「貴女の言う通りですよ。ゼノヴィア。デュランダルに選ばれた貴女を手放すのは確かに大きな痛手ではありますが、我々熾天使や一部の上級天使以外で主の不在を知っている者が「システム」へと繋がる十字教教会の本部やそこに直結した場所に近づくと、機能に不具合が発生する事が確認されています。……申し訳ありません。それを防ぐ為には、貴女とアーシア・アルジェントを異端として破門しなければなりませんでした」

 

 ミカエルさんはゼノヴィアからの質問に答えた後、ゼノヴィアとアーシアに対して深く頭を下げて謝罪した。二人とも、雲の上の人といえるミカエルさんに頭を下げられて、酷く驚いている。そして、まずはアーシアから話を切り出した。

 

「そんな、頭をお上げ下さい。ミカエル様。……確かに、悪魔の方を癒してしまった事で破門された時は、何をどうしていいのかが全く解らなくて、正直とても辛かったです。でも、破門されてから一年間、主への信仰を胸に旅をしてきました。その中で、教会の中にいたままでは知る事のできなかった事をたくさん知る事ができました。そして、イッセーさんに出逢ってからは「聖女」ではなく私自身を見てくれる友達がたくさん出来て、とても楽しい日々を過ごしています。だから、もう私の事はお気になさらないで下さい」

 

 更に、アーシアに続く形でゼノヴィアも自分の想いを語り始める。

 

「私もアーシアと同じです、ミカエル様。それに、私はコカビエルから主が亡くなられた事を知らされ、それが真実だと理解しても絶望せずに済みました。それは「この世界に生命ある限り、そして受け継いだ意志や願いを忘れない限り、主の愛は永遠に世界と共に在り続ける」という新たなる真理をイッセーから齎されたからです。だからこそ、私は異端として破門される危険があるのを承知の上であえてコカビエルから主の死を知らされた事を報告しました。主は居られなくとも、主の愛はいつも私達と共にある事を知ってもらいたかったから。……結局、理解はされずに異端となってしまいましたが、それについての後悔はありません。イッセーという異端の極みに心惹かれてしまった私は、その時点で既に異端へと堕ちていたのですから」

 

 ゼノヴィアの「異端となった事に後悔はない」という言葉を聞いたミカエルさんははっきりと驚愕の表情を浮かべ、やがて納得の表情へと変わっていった。

 

「今までのケースであればおそらくデュランダルの方から貴女の元を離れていたであろう事を考えると、主の死を知ってもなお絶望する事無く主の愛を胸に生き続けている貴女だからこそデュランダルは貴女の元を離れようとしないのですね。これではたとえ貴女からデュランダルを取り上げたとしても、デュランダルは貴女以外の呼び掛けには応えてくれないでしょう。ゼノヴィア。十七年前に前任者から貴女へと受け継がれた時と同様、新たな担い手がこの世に生を受けるその時までデュランダルは貴女に預けます。サーゼクスの妹君なら無闇にデュランダルを使わせる事もないでしょうし、いざとなれば己の信念に従って止めてくれる者も貴女の側にいますから」

 

 ミカエルさんはゼノヴィアにデュランダルの使用継続を認めた後、僕の方を向いた。その表情からは、僕に対する未練の想いが零れている。

 

「……「聖」と「魔」という相反する力を共存させた事であらゆる理から逸脱した逸脱者(デヴィエーター)。それ故に、全ての生命に共通する理念である「世代間の意志の継承」が主と我々にも当て嵌まると断言できたという事ですか。再誕したエクスカリバーの件といい、この件といい、貴方が赤龍帝でさえなければ、きっと主に依存しない確固たる自立心を持った真なる聖人(セイント)が誕生していた事でしょう。あるいは、貴方なら天寿を全うした後でここ千年絶えて久しかった天使への転生を果たしていたのかもしれませんね。本当に残念です」

 

 ミカエルさんはそう言うと、今度はイリナの方に視線を向けた。

 

「さて。兵藤君に関しては、我々が憂慮した事態にはならないという確信を得ました。次は貴方です。紫藤イリナ。ドラゴンの因子を持つ天使である龍天使(カンヘル)へと転生したという事ですが、その証を見せて頂けますか?」

 

 ミカエルさんはイリナに龍天使の証を見せる様に促すと、イリナはそれを承知した。

 

「解りました」

 

 そして、イリナは白金の光を放つ天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)と羽毛を持った一対二枚のドラゴンの翼を発現した。ミカエルさんはイリナの事をしばらく見ていると、納得のいかない様な表情を浮かべ始めた。

 

「白金の光を放つ天使の輪と、羽毛を持った一対二枚のドラゴンの翼ですか。……ただ、貴女から発せられているドラゴンのオーラからは今まで私が感じた事のあるどのドラゴンにも当て嵌まらないとても神々しいものが感じられます。どういう事か、説明してくれますね?」

 

 ミカエルさんから事情の説明を求められたイリナは、僕の方に視線を向けてきた。僕がただ頷く事でイリナに応えると、イリナは意を決してディバインドラゴンの事を話し始めた。

 

「ミカエル様がご存じでないのも無理はありません。何故なら、私が宿す事になったドラゴンの因子は三年前にイッセーくんが訪れたゼテギネアという異世界における伝説のドラゴン、神竜ディバインドラゴンの物ですから」

 

 その身に宿したのは、異世界のドラゴンの因子。

 

 イリナからそう聞かされたミカエルさんは驚きの余りに絶句してしまっている。ただ、それは初めて聞かされたであろうアーシアとゼノヴィアも一緒であった。一方、瑞貴については僕が説明していたので驚きはなく、礼司さんもイリナが兵藤家にホームステイするまでの滞在期間の間にイリナから説明されていたのか、特に驚いた様子がなかった。そうして事情を初めて聞かされた者達が未だに心を落ち着けていない中、イリナはより詳しい説明を始める。

 

「正確には、煌龍剣レイヴェルトをイッセーくんが私の為に作ってくれた時にレイヴェルトに宿った()(どう)(りき)という生命の根源に連なる「想い」の力で生み出された太陽龍ゾーラドラゴンがその因子を取り込んでいて、そのゾーラドラゴンと群体としての「個」を持たない天使として転生していた私の魂が融合した結果、私は異世界のドラゴンの因子を身に宿す事になりました」

 

 イリナの説明内容に間違いはない。……ないのだが、おそらく全てを知っている僕達三人以外は誰もついて来れていないのではなかろうか?

 

 僕はその様に懸念したのだが、どうやら当たってしまったらしい。ミカエルさんはイリナに説明のやり直しを求めてきた。

 

「イリナ。申し訳ありませんが、まずは「群体としての「個」を持たない天使に転生」という所から説明して下さい。私はサーゼクスから「事故で龍天使に転生した」としか聞かされていませんし、武藤神父からも本人から直接事情を聞いた方が良いという事で貴方に関してはまだ詳しい話を聞いていないのですよ」

 

 ……確かにそれだけしか聞かされていないのなら、イリナの説明を理解する事などできる訳がない。イリナもそれを理解した様で、羞恥の余りに顔を真っ赤にしながらミカエルさんに謝り倒していた。

 

 その後、イリナが人間をやめる事になった経緯の一部始終を説明すると、ミカエルさんはようやく納得してくれた。……ただし、流石に僕が訪れた異世界に関しては、時と場所を改めて話を聞くという事になった。

 

「……異世界云々は一先ず置いておきましょう。これについては明日の首脳会談でサーゼクスやアザゼルと共に兵藤君から改めて話を聞いた方が良さそうです。ですがイリナ、貴女の転生の経緯がそういう事であれば、確かに教会はおろか天界にも到底教えられませんし、教会本部に帰還させる事もできませんね。特に貴女が群体としての心なき天使に転生した経緯を知ってしまえば、正に禁忌そのものであった「天の子」計画がその手法を変えて再び行われかねません。しかも前回とは異なり、理論上は誰でも天使に転生できる上にたとえ失敗して死んだとしても天使に転生する為の試練を乗り越えられなかった結果という事で禁忌とは見なさないでしょう。こうなると悪魔祓い達の中から志願者が続出するのが目に見えていますし、強硬派はおろか穏健派の天使でさえも積極的に協力する恐れすらあります」

 

 ミカエルさんはイリナに関する話をここで切り上げると、今度はトンヌラさんについて触れ始めた。

 

「それにしても、まさか「天の子」計画で生み出されてしまったネフィリムの子供に生き残りがいて、現在はシモン・トンヌラという名前で貴方やイリナに光力の扱い方を指導し、また貴方達の護衛を任されている傭兵になっているとは思いもしませんでした。私達がその事実に気付いた時には既に証拠隠滅の為に子供達が全員処分されてしまっていて神ならぬ我が身の至らなさに相当悔やみましたが、そうでしたか……」

 

 ミカエルさんは何処か安堵した様な表情を浮かべた後、僕に向かって頭を下げてくる。

 

「兵藤君。首脳会談が終わった後で結構です。そのネフィリムの最後の生き残りと一度話をさせてはもらえないでしょうか。今更何を、と思われるかもしれませんが、やはり天使の長として過酷な運命を強いた事に対する謝罪をしなければならないと思うのです」

 

 聖剣計画や「天の子」計画といった教会に所属する一部の狂信者達の凶行に加えて、「システム」の運営を最優先しなければならない為、切り捨てるべきではない者まで切り捨てなければならないという現実。……想定外の出来事に翻弄され続けるミカエルさんは、ひょっとすると心がかなり疲れているのかもしれない。

 僕はミカエルさんの願いを承諾する一方で、首脳会談のSPとしてトンヌラさんを推挙する事にした。

 

「契約内容にある僕達の護衛の一環として、僕がミカエルさんと話をする際に同行するという形でならトンヌラさんも承知してくれると思います。ただ、実力に関しては昨日駒王学園を訪れたアザゼルさんが「自分とまともに戦える」と認める程ですから、トンヌラさんにはいっそ首脳会談のSPを担当してもらった方がいいかもしれません。……正直な所、()()()で大事に至っていないのはトンヌラさんのお陰ですから」

 

「……それ程なのですか?」

 

 僕がトンヌラさんを推挙したのを受けて、ミカエルさんはトンヌラさんの実力を改めて確認してきた。そこで、僕は自分の見立てをミカエルさんに伝える。

 

「現在、駒王町在住の者でトンヌラさんとまともに戦えるのは、おそらく僕と礼司さんだけです。得意分野については僕以上である瑞貴や義妹(いもうと)のはやてでも少々厳しいでしょう。後はアリスやレオンハルトを含めた歴代でも最高位の赤龍帝とはやての守護騎士でレオンハルトの剣友でもあるリヒト・ツァイトローゼ・フォン・ナハトヴァールくらいでしょうね」

 

 僕の見立てを聞いたミカエルさんはとても深い溜息を吐いた。

 

「解りました。シモン・トンヌラ氏については、出自の関係で貴方から詳しい話を聞いて興味を持ったという事で私から会談におけるSPとする様にサーゼクスとアザゼルに持ちかけてみましょう。……どうやら、兵藤君が持つドラゴンの宿命を含めた何かが、この駒王町に強い力を引き寄せている様です。もしかすると、明日に予定されている首脳会談もまた兵藤君によって引き寄せられた事象の一つかもしれませんね。でき得るなら、首脳会談の成功とそれに伴う和平の成立も併せて引き寄せて頂きたいものです」

 

 ミカエルさんのこの言葉で、三大勢力のトップ全員が和平を望んでいる事を確信できた。……ただ、それ故に懸念材料が当然ある。

 

「そういうお考えをお持ちであれば、一つお尋ねします。未だ燻ぶり続ける大火の残り火に、あえて油を注ぎ込もうとする者はいませんか? もしくは、その残り火を集める事で全てを焼き払う燎原の炎に仕立て上げようとする者は?」

 

 僕が三大勢力の和平における懸念事項についてやや比喩的な表現で尋ねた時、ミカエルさんの表情が何かに気付いた様なものへと変わった。そして、まるで呟く様に何かを確信した様な言葉を口にし始める。

 

「そういう事だったのですか、アザゼル。だからこそ、戦争の再開などけして望まないと公言しているにも関わらず、数十年前から神器研究の趣味が高じたにしては過剰なまでに神器保有者(セイクリッド・ギア・ホルダー)の蒐集と育成、そして神器の研究に力を入れていたのですね……」

 

 どうやら僕の質問が切っ掛けとなって、ミカエルさんはアザゼルさんがここ数十年の間取っていた行動の目的を読み取れた様だ。やがてミカエルさんは一つ頷くと、とんでもない事を言い出して来た。

 

「兵藤君。貴方のお陰で、ここ数十年に渡るアザゼルの行動の真意を読み取ることができました。それに加えて、主の子である我々による主の愛の継承を謳い、更に天界と冥界の和平と共存共栄を謳う聖魔和合を提唱する等、これ程の叡智を持つ貴方の発言に制限を付けるなど到底あり得ません。そこでですが、若く聡明な貴方だけが出せる意見もあるでしょうから、貴方をセラフォルーの侍従ではなく今回の首脳会談におけるオブザーバーとし、完全な形での発言権を与える様にサーゼクスとアザゼルに要請します。ですから、どうか会談の場においては我々に遠慮せず、積極的に意見を出して下さい。頼みましたよ?」

 

 …………どうしてこうなった?

 

 この場にいる皆が揃って唖然とする中、僕は余りに急変した事態に対してただ困惑する事しかできなかった。

 




いかがだったでしょうか?

問題が山積みな天界と教会を抱えて、天使長はこれからも苦労する事でしょう。

では、また次の話でお会いしましょう。

追記
デュランダルの継承や魔獣創造の位置づけについてはこの物語独自の設定であり、原作とは異なる可能性がある事をご了承ください。
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